はあー、立香いねぇ、マスターもいねぇ、サーヴァントもそれほど揃ってねぇ   作:日高昆布

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ネクストの反響があって良かった。やっぱりウルトラマンはいいよね。
後1、2話で終わりですが、最後までお付き合い頂けたらと思います。

感想・批評お待ちしてます。


その十七

 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)の光が空の彼方に消えると、そこには邪竜も巨人もいなくなっていた。まさか巻き込まれたのか、全員が血相を変えた。

「乱蔵!乱蔵ーー!」

「ここに」

 気付いたのはアマデウスのみだった。

「待て、蚊の鳴くような、死に掛けの声が聞こえたぞ!」

 凄まじく歩き難くなった道を、モッタモッタと歩くアマデウスを先頭に乱蔵の元へと向かう。逸る気持ちを抑えず、何度もアマデウスを急かす。

 アスレチック染みた道を何とか踏破すると、側臥の状態で地面に倒れている乱蔵がいた。

「乱蔵!」

 寝返る。遠目からでも分かる程に疲弊しているが、無事ではあった。

 オルガマリーが走る。足元を碌に確認しないものだから、すぐさま転んだ。慌てて駆け寄ったマシュが助け起す。割と強かに膝を打ったのか、泣き目になっていた。

「乱蔵、大丈夫?」

 痛みにより幾分か冷静になったのか、全身を検分するようにしながら尋ねた。

「ご覧の通りですが、怪我はありません」

 遅れてやって来たゲオルギウスとアマデウスの手を借りて立ち上がる。アマデウスが率先して手を貸してくれている事から、推察はできたが、それでもと、敢えて尋ねた、

「ジークフリート殿は」

「無理して宝具を使ったからね。余韻も残さず帰ったよ」

「そうですか」

「彼からの伝言だ。『後は任せた共に戦う事ができて光栄だった』ってさ。流石にカッコいい事言うね」

「生涯を通して自慢にできますな」

 それが彼の本心からの言葉だと分かる。直に聞く事ができなかった事が、酷く残念な事であった。

「あともう1つ。守ってくれてありがとうってさ」

「……お気になさらず」

「僕が言った訳じゃないぞ」

「おっと、失礼」

 

 

 

「このまま行くって、正気?」

 ガードチェイサーの所まで戻り、ここで休もうと提案したオルガマリーに対し、一番必要である乱蔵がそれを拒否した。

「ファブニールは殺せましたが、竜の魔女はまだ生きてます。ここで時間を与えて、またファブニールのようなモノを召喚されたら今度こそ負けます」

 ネクストには制約があった。それは制限時間とクールタイムだ。

 ジークフリートが消えた今、戦う事はできても決め手に欠けている状態では時間内に倒せる可能性は低い。また、クールタイムの具体的な数値は分からないが、それを悠長に待っている訳にはいかない。

「逆にその最大戦力がいない今だけが、奴を討ち取る最大かつ最後の機会です」

尤も、と言うより反論のしようがない意見。悩んでいられる時間はない。

「……分かったわ。ただし、オルレアンに着くまでは休んで。乱蔵が万全でなきゃ、勝てる戦いも勝てなくなるから」

「しかし運伝は」

「それならば私の馬を出しましょう。あのばいく(・・・)とやらの速度には敵いませんが、それでも普通の馬よりは速いですよ」

「なら頼むわ。それと後ろに1人乗せられるかしら」

「構いませんよ」

「じゃあマシュ。悪いけど、乗ってもらえるかしら。ジャンヌは御者席で、道案内をしてちょうだい。アマデウス外で、耳を光らせておいて」

「分かりました。もし道中に攻撃されても、死守しますので、大船に乗ったつもりでいて下さい」

「分かりました」

「光るような奇特な耳は持ち合わせちゃいないけど、見張りはきちっとやらせてもらうよ」

 口を挟む隙もない速度で展開していく話し合いに、疎外感染みたものを感じる乱蔵。とは言え、流石の彼も馬がある状況で運転を申し出るつもりはなかったのだが、ゲオルギウスにでさえ無茶をすると認識されているが故の対応なのだからただの自業自得である。

「ほら乱蔵早く乗って。少しでも長く休息を取って」

「分かっておりますので、押さないで下さい」

 因みに非力故何の補助にもなっていない。

「全員乗り込んだわ」

「では出発します」

 ガードチェイサーに牽引された思い出から、清姫とエリザベートは身を固くするが杞憂に終わる。道の凹凸による振動は変わらずあるが、体どころか馬車そのものが浮くような事はなかった。これが馬車の正しい姿、と言わんばかりに頷く2人。

「所長殿。これから休息に入ります。ガチ寝するので、何かあったら引っ叩いて起こして下さい」

「もう一度確認するけど、怪我してないのよね」

「痣塗れですが、内臓、骨、筋肉に異常はありません。体力が回復すれば戦闘に支障はありません」

 清姫に視線をやる。

「……驚きましたが、本当のようです。あれだけの怪物と戦ってそれだけで済むなんて。鉄か何かでできてるんですかね」

「体もだけど、どんなメンタルしてんのよこいつ」

 何やら謂れなき事を色々言われているが、時間も惜しいため反応せず体を横にす——、マリーの顔を見上げていた。

「?……?!」

——恐れていた事態が実現してしまっただと?!

 予てより何かしらの手段で労ろうとしている節が見えていたのだが、この逃れられないタイミングでやってくるとは思っていなかった。休息モードに入ってしまった体は、起居動作の信号を発してはくれなかった。最早挽回は不可能と悟り、早々に意識を飛ばした。

「お休み、わたしの騎士さん」

 そんな声が聞こえた。

 

 

 

「ジル!ジルはどこ?!」

「ああ……ジャンヌ。何と痛ましき姿……」

 ファブニールの体を盾にする事でどうにかワイバーンでの離脱を成功させたが、無傷ではなかった。余波を食らった右半身の鎧は欠損があり、肉体にも大小の火傷を負っていた。

「私の事はいいの!あいつが来る!今すぐ、もう一度ファブニールを召喚しなさい!」

「申し訳ありませぬ。聖杯とて一度に使える魔力量は決まっていて……」

「召喚できないって言うの?!」

 言い訳を連ねるジル・ド・レェに食って掛かる。必死な形相に胸を痛め、同時にこうまで痛め付けた相手に怒りが湧く。

「ならワイバーンをありったけ向かわせなさい。絶対に、必ず、あの人間を殺しなさい!」

その相手が人間であると言う事に驚く。

「あの人間であれば、さもありん、と言う所か」

 嘲笑と共に茶番染みた遣り取りを見守っていたワラキアが言う。

——あの人間は時代が違えば英霊にもなれたであろう傑物。嬰児のあの女では逆立ちをしても勝てぬだろう。それを是正しないのではこの戦争、負けるであろうな

 しかし自身は吸血鬼の伝説を擬える気はない。気の乗らぬ聖杯戦争であったとしても、負ける事を許容できるような素直な性格はしていない。

——迎撃(・・)は慣れたものであるからな

 

 

 

 ふぅ、と耳に吐息を吹き掛けられた。蠱惑的な寒気が背筋を走る。一気に覚醒した乱蔵は、すわ何事!と転げ落ち、反対側までそのまま転がる。

 耳に残る違和感と、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべたマリー。

「え……」

「ふふ、ごめんなさい。呼んでも揺すっても起きなくて。叩いて起こすのは可哀想だったから」

 起こしたと彼女は言っているが嘘である。自分に非があると分かれば深くは追求しない、と分かった上で嘘を付いたのだ。

「そ、それは大変に、申し訳ございました」

 こう言った揶揄いに全く耐性のない乱蔵は、オルガマリーでさえ見た事ない程に動揺していた。因みにここに彼女はいない。

「あ、えっとオルレアンに着いたのですか」

 何故か疚しい気持ちを抱きながら尋ねる。

「いいえまだよ。ただ外を見てもらえれば分かるけど、あまり状況は良くないわ」

 促され、御者席から顔を出す。

「ワイバーンの大群……!」

 距離があるためまだこちらには気付いていないが、その距離でも大軍だと分かる程の数。この中を強行突破するのは、只の自殺と変わらない。ネクストはまだ使えない。仮に使えたとしても、嬲り殺しに遭うだけだ。

 手持ちの礼装を確認し、突破口を考える。

「何か思い付きそう?」

 と、顔のすぐ横から声が聞こえた。それこそ頬同士が接触しかねない程の近さ。

 より近くで見る事で際立つ造形の美しさに、息を呑む。辛うじて惚けずには済んだ。

「無茶をすれば、ですが」

「また無茶をするの?」

 肩と背中に感じる荷重。背中に寄り掛かり、肩に顎を乗せているのだ。女性的な肉体の柔らかさに、心臓が飛び跳ねる。体が四角く強張っている。

「い、いえ。無茶をするのは、寧ろ自分以外の方々です」

 自分の事を棚上げにし、嘘は許さぬと言わんばかりに凝視する。顔を向きが変わった事で、吐息が頬を擽ぐる。ただの気体だと胸中で叫んでも、仄かな香りがどうしようもなく鼻腔を刺激する。

 乱蔵は混乱の極致にあった。

——近い、あまりに近過ぎる……。忍耐力を試されているのだろうか。

 黒目が隠れるぐらいの勢いで反対側を見る。

「その、スカイフェニックスを使えば突破口は開けます。ただそこを皆が踏破するには馬車を使う以外に方法はありません。誘導で数は減らせますが、取り零しは絶対に出るので、城に入るまでかなり危険な状態になると思います。…………あの、説明は、以上です。あと、その、ちょっと近過ぎる、のではなないかと」

「あら、そうだったかしら。ごめんなさい」

 素直に離れてくれる。ようやく人心地付けた。とは言え、ここに2人きりは精神衛生上とてもよろしくないため、降車しオルガマリー達の所に向かった。

「方針は決まってますか?」

「もう起きて大丈夫なの?」

「お陰様で、しっかりと休めました。それで突破に関してですが、提案があります」

 

 

 

「そう言うわけで、ゲオルギウス殿にはガードチェイサーの操作を覚えて頂きます」

「分かりました。ご教授よろしくお願いします」

「こりゃまた酷い乗り心地になりそうだ」

 会話から漏れ聞こえて来る内容に、辟易とした思いを隠さないアマデウス。口には出さなくとも、誰もが同じ事を思っていた。

「これは完全に1人乗りなのかしら」

 既に鎮座しているスカイフェニックスを見て、オルガマリーが尋ねる。

「確かに所長殿だけでも同乗できれば良かったのですが、狭すぎまして。あのスペースできちんと座れずに戦闘機動を行えば、身の安全を保証できません」

 ガードチェイサーに跨るゲオルギウスにレクチャーしながら答える。

「飲み込みが凄まじく早いですね。良い意味で予想外です」

「あれだけの頑張りを見せられた後に、不甲斐ない所はお見せできませんからね。こちらの用意はできました。いつでも出られます」

「分かったわ。……全員乗り込んで。乱蔵、よろしくね」

「お任せを」

 スカイフェニックス、離陸。

 

 

 

 

 音に気付いたワイバーンがこちらの進路を塞ぐように殺到した。とても良い位置取りだ。

 スロットルをマックスに叩き込む。音を置き去りにしたスカイフェニックスは、高速かつ巨大な質量弾となりワイバーンを一網打尽。キャノピーに付着した血肉を風が攫う。

 すぐさまワイバーンが追跡できるよう減速させ、囮となる。目視はできないが、センサーはしっかりと追尾と攻撃を警告している。引っ切り無しの攻撃を必死に躱す。縦横無尽に襲い来る高Gに内臓を揺さぶられる。視界が赤くなったり暗くなったりと忙しい。

『気をつけてくれ!未確認のサーヴァントが窓辺に寄ってる!』

「こちらで妨害しますから止まらずに!」

 ロマ二から地上への報告を聞いた乱蔵は、すぐさま操縦桿を倒し急旋回させた。内臓が偏っていくような感覚。

 ロール状態のまま飛行させ、底面を城に掠めるように飛行。

「後どれ位ですか?!」

『もう少し!1分以内には着くわ!キャア!』

 慌てて地上を見る。直撃を受けた様子はなかったが、取り零しが集まりつつあった。引き付けようにも、下手に接近しこちらの後方にいる奴らのてヘイト先を変えてしまう可能性がある。

 すると突然、数匹のワイバーンがぐらついた。

「フランス軍か!助かった!」

 届かずとも思わず叫んでいた。

 窮地を脱し、城は既に眼前。清姫の炎が扉を吹き飛ばすのが見えた。

『乱蔵入ったわ!』

「了解!さあ囮の時間は終わりだ!」

 進路そのままで機首のみ持ち上げ、コブラマニューバでオーバーシュートさせる。反転させる隙を与えず、質量弾アタックで粉砕。

「状況は?」

『竜の魔女とジル・ド・レェとワラキア、それとアーチャーらしきサーヴァントがいるわ。場所は窓の少し横から突っ込めば、真正面に位置するわ。やれそう(・・・・)?』

 小声で答えるオルガマリー。

「分かりました。突っ込みます(・・・・・・)!」

 宣言通り最上階へとスカイフェニックスごと突っ込む。位置に若干の不安があったが、ドンピシャで緑髪のサーヴァントがいた。躊躇わずトリガーを引く。

 嘴より発せられた光線がサーヴァントを焼き尽くす。

 これ以上の不意打ちはできない。コックピットから飛び降りる。

「お前ええぇぇ!」

 魔女の憎悪に満ちた声を余所に、乱蔵はワラキアのみに視線を向けている。

「ようこそ、と言っておこうか。手荒い歓迎しかできんが許してくれ」

「その護国の槍、折らせていただく!」




俺もマリーに悪戯されてえな。
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