はあー、立香いねぇ、マスターもいねぇ、サーヴァントもそれほど揃ってねぇ 作:日高昆布
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煙と炎と瓦礫に囲まれていた前回とは正反対の景色。
青々と生い茂り、何処までも広がる草原。
抜けるような青空に、そこに浮かぶ白い雲と光る輪っか。
マシュと共に時間軸の確認や、拠点となる霊脈の確認をしているオルガマリーを呼ぶ。
「所長殿。あれは何です?」
「何ってな、に……よ……」
無事にレイシフトできた事、通信状態の良好さ、霊脈の確認でホッとしたのも束の間。サイズの見当さえ付かないレベルの光の輪に、オルガマリーの発狂ゲージが音を立てて増えていく。
『気候現象じゃない……。衛星軌道上に展開されている何らかの魔術式だ。それにしても大きい。北米大陸を越えてるんじゃ』
「げ、現時点での脅威の度合いは分からないなら、一旦放置しておくわ。ただ何かしらの動きが確認できたらすぐに知らせなさい。いいわね! す・ぐ・に知らせなさい!」
『わ、分かりました。そんなに念を押さなくても』
不満気な呟きは幸いにも聞こえなかったようだ。
情報収集のため町を目指す一行。一分一秒でも惜しい現状、迅速な移動が必要になるため小走りしていたのだが、心身共にもやしっ子がであるオルガマリーは早々にバテていた。忍び込んでいたフォウにも心配される始末。
「おぶります」
そう言う事になった。汗やら体重やらが気になるが、それを言える状況ではない事を重々承知しているから恥を忍びおぶられた。
しばし走ると、マシュが前方の人影に気付く。
「乱蔵さん、止まって下さい。フランスの斥候部隊です。最寄りの町に案内してもらえるかもしれません。行ってきます」
張り切って走っていくマシュを見送り、オルガマリーが一言。
「あの子ってフランス語話せたかしら……」
何故間に合わないタイミングで、と、咎める視線が彼女を襲う。
「急いで! 私なら話せるから!」
脚に魔力を回し、一気に駆ける。
マシュは既に兵士に囲まれてオロオロとしていた。しかし逆にそれが兵士達に戸惑わせているのか、決定的な雰囲気にはなっていなかった。
更におぶられた状態で挨拶をするオルガマリーの姿が決定打となり、訳あり一味と言う事で落ち着いた。
「うう。すみません。あろう事か不信感を植え付けてしまう所でした」
「マシュ殿の柔和な雰囲気のおかけで敵対的な態度を取られなかったんですから。そんなに落ち込まなくとも結構ですぞ」
ややすると、大きな砦が視界に入る。
近付くにつれ、乱蔵は僅かな血の匂いを嗅ぎ取る。周囲に目を走らせると、乾き、黒くなった血が散見できた。
「失礼、兵士殿。ここ数日で戦闘があったのですかな?」
「戦闘? 今は休戦時期でしょう?」
オルガマリーが疑問を挟む。
「休戦? そんなの魔女の前では何の意味も無いさ。シャルル王も殺された」
疲れたように言う兵士。
「殺された、とは、その魔女にですか?」
「ジャンヌ・ダルクにさ。……イングランドはとうに撤退した。だが俺達はどうすればいい」
「ジャンヌ・ダルクと言えば、聖人のはずですが……」
マシュの困惑した呟きに乱蔵が答える。
「救国のために奔走した結果があれでは、そうもなりましょう。彼女とて人間なのですから」
僅かに生まれる静寂。いらぬ事を言ったか、と謝罪しようとした瞬間襲撃を知らせる声が轟いた。
「敵襲ーー! また骸骨供が来たぞー!」
聞き終わるや否や、乱蔵はギャバンの礼装を手に走り出した。
「蒸着!」
踏み込み跳躍。
何とか砦の内部への侵入を防ごうと、決死の覚悟で立ち向かう兵士達の前に降り立つ。
「ここは自分が!」
返事を待たず、骸骨兵へと一気に接近。サーヴァントさえ屠れるギャバンを、骨が止められる訳がなかった。一撃必殺。瞬く間に骸骨兵は粉々になった。
「そ、その声、あんたさっきの旅人か?」
恐る恐る声を掛ける。しかし乱蔵はそれに答えない。彼方を睨んだままだ。
「羽付きが空から接近してきます」
「何だって?! 総員、ドラゴンが来た! 迎え撃つぞ!」
「ドドドラゴン?!」
俄かに騒がしくなった状況を把握しようと外に出たオルガマリーが、SAN値を削られる。
「落ち着いて下さい。ドラゴンなんて羽の生えたトカゲです。怖くないです」
「そ、そうね。羽の生えたトカゲなんてドラゴンよね」
それで落ち着くのならば訂正すまい。因みに正確にはワイバーンである。
「……乱蔵は自由に動いて。あのトカゲ擬きは私とマシュが目を逸らさせるから」
危険過ぎる、と言う言葉を飲み込む。震えている。聖杯をその身に宿していても、一番弱いのは彼女だ。それでも、自分を戦術の内に組み込む。勝つために。グランドオーダーを果たすために。
「分かりました。マシュ殿」
「この命に代えてもお護りします!」
「そう言うのはなし! 魔力なら補充できるんだから、宝具の使用も躊躇しないで!」
これ見よがしに突き付ける、赤い宝石のような物体。それはオルガマリーの
マシュや好意的な野良サーヴァントの魔力供給の問題に対し、彼女自身やダヴィンチが中心となったチームが示した答え。
血液から生成されると言う性質上、数は限られてしまうがその効果は、一欠片で一般的な魔術師の魔力量を賄えてしまうレベルだ。
「分かりました。必ずや私と所長の命を守ります!」
すでに接敵まで1分を切っている。兵士達に下がるよう言うとした時、金髪の女性の接近に気付く。人離れした走力。サーヴァントだ。
「兵達よ、水を被りなさい! 彼らの炎を一瞬ですが防げます!」
兵士の間を抜けながら叫ぶ。
「魔女だ! ジャンヌ・ダルクが出たぞ!」
困惑から恐怖と怒りに変わった兵士が放った言葉に、サーヴァントが一瞬顔を歪める。悲しげであった。しかし足を止めずに、鼓舞を続ける。即座に味方と断ずる事はできないが、敵ではないようだ。
サーヴァントはワイバーンへと向かっている。乱蔵もそれに続く。
「?! 何故ついてきているのです、鎧の人!」
「共闘できると判断した故に」
ブレードを生成。
「貴方もサーヴァントなのですか?」
「自分は!」
ワイバーンが降下。超低空飛行のまま、真っ直ぐに突っ込んで来る。回避しようとするジャンヌに対し、乱蔵は相対のまま走る。接触寸前に跳躍。ワイバーンの頭部に着地すると同時に、ブレードが顔面を割いた。
「ただの魔術師です!」
「……ただの魔術師?」
ワイバーンを蹴りつけ、高く跳躍。他の個体へと飛び乗る。
「落としますので、トドメを!」
ボロ切れのように羽を斬り裂いては、別の個体へと飛び移る。飛び石を渡るが如くの動きに、感心と呆れを抱くジャンヌ。
「……優れた戦士の間違いでは?」
落ちたワイバーンにトドメを刺しながら呟いた。
知性を持たずとも、これだけ蹂躙されればワイバーンにも何が最大の脅威なのかは分かる。タイミングを合わされる。喉奥に炎を溜めた口が、乱蔵を迎える。
しかし焦りはない。ここには頼もしき仲間がいるのだ。ワイバーンの意識外より放たれた、最早弾丸と化したガンドが頭部を捉える。遠方より放たれて尚、頭部をズラしてしまう程の威力。無防備な首が晒される。高エネルギーに焼かれ、一滴の出血さえなく頭部が落ちる。
殲滅完了。着地した乱蔵の下にジャンヌが駆け寄る。
「助力していただき、ありがどうございます。お話をさせていただいてもよろしいですか?」
「こちらこそ感謝します。しかし今はここより離れた方がよろしいかと。助けた者からの罵倒は堪えるでしょう」
「そうですね。私の事はともかく、兵を怯えさせるのは心苦しいですから。ここをしばらく真っ直ぐに行った所でお待ちします」
「分かりました。しばし待たせてしまうかもしれませんが、必ず向かいます」
「失念していました。休息を取る必要がありますね」
「いえ、同行者の体力の問題でして」
やはり目の前の人物は戦士では、と、ジャンヌは訝しんだ。
砦の兵達に別れを告げ、ジャンヌに会うべく移動を開始する。
「所長殿。先程の援護ありがどうございました」
「役に立てたのなら良かったわ」
「マシュ殿もありがどうございます」
「感謝される事をした覚えが……」
乱蔵にのみ戦わせている事に後ろめたさを覚えているようだった。
「マシュ殿が所長殿を護っていると言う安心感があるから、自分は前線で暴れられるのです。自分は攻撃に耐える事はできても、防ぐ事はできません。エクスカリバーさえ凌ぐその鉄壁、頼りにしてますぞ」
「——はい!」
少し先の倒木に腰を掛けたジャンヌが見えた。向こうも気付いたのか、立ち上がり出向いて来た。
「私のせいでご足労をお掛けして、申し訳ありません。改めて自己紹介を。私はルーラーのサーヴァント、真名をジャンヌ・ダルクと申します」
「カルデア所長のオルガマリー・アニムスフィアと申します」
「カルデア所属のマシュ・キリエライトです」
「同じくカルデア所属の魔術師、三船乱蔵です」
乱蔵の自己紹介に、何故か一言言いたげな視線が3つ刺さる。解せぬ、と憤りながら咳払いし、会話の進行を促す。
「まず情報共有をします。よろしいでしょうか、ジャンヌさん」
「ええ、こちらこそお願いします」
「もう1人のジャンヌ・ダルクに、オルレアンの占拠……」
「人理の焼滅、カルデア……」
『どうでしょうか。是非とも貴女の力を貸していただきたいのですが』
「それはもちろんです。……しかし、今の私でお役に立てるかどうか。足を引っ張ってしまわないかが心配です」
「ここの地理の明るい方がいるだけで大助かりです。それにどうせ1人でも戦うつもりでしょう? ならば協力しあった方が双方にとってもいいのではないか、と、愚考しますが」
「……そうですね。非力なこの身では単身でできる事に限界がありますが、貴方達とならばこの局面を乗り越えられるでしょう。よろしくお願いします」
あの結末を迎えて尚、国に、人に裏切られて尚、ジャンヌはフランスを救おうとしている。その気高すぎる精神の在り方に畏敬の念を抱く。
「こちらこそ、よろしくお願いします。聖女の下で戦えるなんて光栄です。……では今後の方針を決めていくわ。最終的な目的は、聖杯を持っているであろう黒いジャンヌの討伐。そのためにはオルレアンを奪還が必須。しかし現時点では情報、戦力が共に圧倒的に不足しているわ。なのでオルレアンへ向かいつつ情報収集を行い、敵戦力の規模を確認する。その結果次第で、その後の指針を決めるわ。……この様な感じでよろしいでしょうか?」
「ええ、非常に堅実な方針です。ここからの最寄の町は、ラ・シャリテと言う町です。そう遠くないですが、向かうのは明日の朝にしましょう。人間の2人、特に乱蔵はあれだけの大立ち回りをしたのですから」
「確かに。コンスタントに休息を取れるのならば、完徹行軍をしても問題ないのですが、それは無理ですからな。お言葉に甘え、今夜は休息に使わせていただきます」
「……未来の魔術師は随分とフィジカルエリートなのですね」
「「違います!」」