初日からPKしたけどデスゲームだったキリトくん 作:〆鯖缶太郎
この人に付いていけば、自分は最高の鍛冶屋になれる。
そんな直感でアスナの手を取ったリズベットはだが、パーティーを組んで早々に何の説明もなく十万コルという大金をポンと渡されたことで、雲行きの怪しさを感じ取った。
「……アスナさん?」
「パーティーなんだし、さん付けはいらないよ~。気軽にアスナって呼んで? 私もリズって呼ぶから」
路上に並べていた
おかしい。何故これ程までに彼女の笑顔が怖いと感じるのだろう。
……いや、きっとこれは気のせいだ。
この十万コルは支度金。先行投資のようなものに違いない。
そんなリズベットの考えは、実際当たりだった。
辿り着いたのはNPCが経営する武器屋。そこでアスナが、当然のようにストレージ一杯に安値の武器を買い込むことさえなければ、特に疑問には思わなかっただろう。
「ア……アスナ?」
「ん~? あ、リズもさっき渡したコルで、買えるだけ買ってね? もし足りなかったら追加で渡すから」
ここでもし足りないといったら、彼女は追加で何コル渡してくる気なのだろう。
そんな思考をしながらリズベットも武器を買い込めば「じゃあ、行こっか♪」と、上機嫌なアスナに先導されて移動する。
これだけの武器を一体何に使うのか。
リズベットが鍛冶屋であることを考慮すれば、真っ先に思い浮かぶのは強化による熟練度上げだろう。
武器・防具にはそれぞれ《強化試行上限数》が存在するため、一つの装備を永遠に強化することはできない。
なので熟練度を上げるのであれば強化依頼を引き受けるか、こうやって身銭を切るなどして自分で装備を調達する必要があるのだ。
だが、いくら何でも武器の本数が多すぎる。
それだけの強化素材をアスナは持っているのだろうか?
もしそうなのであれば、かなり長期戦になるだろうな。
そう覚悟を決めたリズベットの考えは、あまりにも短絡的すぎたと直ぐに認識させられることとなる。
何故ならアスナは、何のためらいもなくモンスターが
「あの、アスナ。そっちって圏外だよ?」
「え? 知ってるよ?」
何を言っているの? と、首を傾げるアスナ。
いや、それはこっちのセリフだから。そうツッコミを入れるべきなのだろうか。
道中は当然モンスターが襲ってくるが、アスナの敵ではないらしい。
リズベットが武器を抜く暇もなく、危なげなく倒していく。
その立ち回りと
草原を突き進み、
ここまで来れば、他プレイヤーと会うことも早々にないだろう。
リズベットがそう思った矢先だった。
「よし。この辺りがいいかな」
突然、アスナがストレージに入れていた大量の武器をフィールドにぶちまけた。
薄々予感はしていたが、リズベットは最後の現実逃避を試みる。
「あのー、アスナ? これから
「ふふっ。儀式って。リズは面白いことを言うね」
どうやら受けたらしい。
けれど、結果が変わることはなかった。
「私がモンスターを狩るから、リズはここで熟練度上げ。取り敢えず強化素材もあるだけ置いとくから、もし全部なくなったらリズも戦闘に参加。よろしくね?」
その発言に、リズベットは乾いた笑みを浮かべる。
つまり、アスナが言いたのはこうだ。私が強化素材を現地調達するから、お前はモンスターに襲われるかもしれない圏外でスミスハンマーを振って熟練度を上げろ。モンスターを倒せばパーティーメンバーにも経験値が分配されるから、一石二鳥だろ? と。
確かにこれならば、リズベットの遅れを大幅に取り戻すことができるだろう。
けれど、命あってこそではないだろうか?
「あっ、でも《基材》だけで強化はやめてね? 必ず《添加材》は一つ混ぜること。それだけでも結構熟練度の上がり幅や貰える経験値が変わるみたいだから」
「ここってデスゲーム……デスゲームだよね? 一度死んだら全部お
「大丈夫だって。ここで湧くのは《ウインドワスプ》っていう蜂型のモンスターなんだけど、
「え? 全然大丈夫な要素を感じないけど?」
「あっ、因みに毒針で刺されると数秒間スタンするから、気を付けること。もし本気でヤバイと思ったら叫んでね?」
「それって今叫んでも良いってこと!?」
そんな二人のやり取りをだが、モンスターは待ってはくれない。
ブウゥーンと、耳に残る嫌な振動音を響かせて、ワスプが飛んでくる。
その姿は確かに、現実にいる蜂と酷似している。その全長が五十センチもなければだが。
「後ここだけの話、近くに大きい蜂の巣があるの。調べたけど
「いや、その情報全然嬉しくなーい!」
その間に近付いてきたワスプは、体をくの字に曲げて象徴的ともいえる毒針攻撃を仕掛けてくる。
それに対しアスナは流れるように細剣を抜き放ち、弱点である腹の付け根を正確無比に貫いた。
ソードスキルを使っていないとは思えないその攻撃により、たった一撃でワスプは爆散し、ポリゴンと化す。
「とまあ、こんな感じで。私の攻撃はワスプを一撃で倒せるから、安心して?」
「……あはは」
強い、なんてもんじゃない。
リズベットでも倒すことならできるだろう。しかしそれまでに、果たして何手必要とするか。一体倒すだけで、どれだけの時間をかけることになるか。
道中のモンスターとの戦闘を見て、薄々感じていた予感が確信へと変わる。
「ねぇ、アスナ。あなたって今、何レベルなの?」
「んー。いくらパーティーメンバーとはいえ、その質問には答えられないかな。キリトに怒られちゃう。ごめんね?」
その答えに、リズベットは初めて視界の左上へと眼を向けた。
そこには三つのHPゲージ。一つは自分。もう一つはアスナ。そして【Kirito】と名のあるゲージ。
「でも、これだけは言えるかなぁ」
このアスナという存在とパーティーを組んでいる。
果たしてキリトなるプレイヤーは、どれ程の実力者なのだろうか。
そして、ただ一つ言えるのは――。
「レベルだけでいったら――この世界の誰よりも高い自信があるよ」
アスナの適正レベルがリズベットにとって良い意味で、この階層には合っていないということだ。
生きてるって素晴らしい。
圏外で武器強化をするという、他のプレイヤーがその光景を見れば目を疑いたくなる任務をこなしたリズベットは、第二層主街区である《ウルバス》に帰還し
いくらアスナが護衛してくれるとはいえ、武器強化という無防備な状態の時にワスプの羽音が近付いてくると生きた心地がしなかった。
今だって街の中にいるのに、あのブウゥーンという羽音の幻聴がたまに聞こえてしまうほどだ。
しかも武器強化を全て終えたのにアスナが「まだ時間があるから」と、追加で一緒にワスプ狩りをする
その方法がリズベットを一度パーティーから脱退させ、HPを削ったアスナのワスプをただ一発殴って倒すというパワーレベリング。パーティーを組んでいないので、経験値が全てリズベットに入るというものだった。
そのお陰もあって、レベルも熟練度もかつてないほどの伸びを見せたのは言うまでもない。
「明日もこの感じなら、リズもあの鍛冶屋の人に追いつけるんじゃないかな?」
……え? もしかしてまた明日も同じことをやるの……?
そんな恐怖にリズベットは内心震えながら、NPC武器屋に強化し終えた武器を全て売り払う。
その額はハッキリ言って雀の涙だ。購入額を考えれば明らかに損しているし、もっと言えば強化素材の分も考えたら大赤字もいいところだ。
折角強化したのにプレイヤーに売らないのは、単純に価値がないから。元の武器の攻撃値が低すぎるし、強化だってろくに成功していない。そんな武器を買いたがる酔狂な人間は今この世界にはいないだろう。
本当にただ熟練度上げのためだけに消費したんだなっと思うと同時に、そもそもアスナの
「アスナ。明日もやるとして、お金はそんなに使って大丈夫なの? そもそも足りてる?」
「大丈夫だよ。私って普段からそれなりにモンスターを狩ってるし、色々あって結構な額を持ってるから。それに、使った分はその内リズが稼いでくれるでしょ?」
「それは……。はい、頑張らさせていただきます!」
そう言われてしまっては、首を縦に振ることしかできない。
実際リズベットはこの世界で貴重な鍛冶屋だ。軌道にさえ乗ってしまえば、それこそ大金を稼ぐことは容易だろう。
「じゃあ、今日は一旦帰ろっか。キリトにも紹介しないといけないしね」
ついに来たかと、リズベットは胸に手を当て呼吸を整える。
道中でアスナと軽く話した限り、キリトが男であるということぐらいしかリズベットは詳しく知らない。
ただアスナが「この世界の誰よりも頼りになるよ」と称したぐらいなので、その実力は申し分ないのだろう。
一つ気になる事があるとすれば、リズベットのパーティーの加入をアスナが独断で決定したであろうという点だ。
それでもし、キリト側から加入に関して難色を示されたらどうなってしまうのだろう。
そんな一抹の不安を覚えながら、リズベットはアスナに言われた通り、転移門を使って第一層にある《トールバーナ》に行くのであった。
拠点となっている宿に向かうと言われ、てっきり街中にある宿屋をリズベットは想像していた。しかし案内された場所は、田園風景が広がるのどかな場所にある二階建ての
プレイヤーが宿泊できるのは、この建物の二階のようだ。
そのまま一階にいたNPCの横を素通りして階段を上り、廊下の突き当たりにあったドアまで行けば、アスナはノックもなしに
「ただいまー」
「お、お邪魔しまーす……」
中の様子を確認しながら恐る恐る部屋へと入れば、ソファで
「おう、お帰り。それと初めまして。俺の名前はキリト。よろしく」
「あ、初めまして。リズベットと申します。よろしくお願いします」
リズベットから見たキリトの第一印象は、随分と若いな、というものだった。
これは想像よりも若いという意味であって、決して自分よりも若く見えるという訳ではない。むしろこの場にいる三人は、ほぼ同年代と言っても差し支えないだろう。
「そんなに
「は、はい」
何だか面接を受けている気分だと思いながら、リズベットはキリトの対面のソファに腰掛ける。
その座り心地は、今まで泊ってきた安宿にある硬い木製の椅子や、何だったらベッドにも勝るとも劣らない柔らかさだとリズベットは感じる。
アスナから差し出されたグラスに入ったミルクも口へと含めば、この世界で今まで飲んできたどの飲み物よりも美味しく、疲れた体に
「アスナからメッセージで聞いたけど、鍛冶屋なんだって?」
「は、はい。そうです。と言っても、今日アスナと出会ってなかったら、きっと辞めてましたけどね。あはは」
「さっきも言ったけど、もっと砕けた感じでいいよ。俺も君のことをリズって呼んでもいいかな?」
「はい! あっ、えっと……うん。私もキリトって呼ぶね?」
「問題ないよ」
取り敢えず、いきなり追い出されたりする雰囲気ではなさそうだ。
そのことに安堵しながら、リズベットはキリトに問いかける。
「その……いきなりこんなことを聞くのもなんだけど、私がこのパーティーに加入するのって、キリトは賛成ってことでいいの?」
「ん? 普通に歓迎だけど?」
「えっ。そ、そうなんだ」
「むしろ、リズの方こそいいのか? 鍛冶屋だからそこまで戦闘に参加させることはないだろうけど、多少の無茶はさせるかもしれないぞ?」
キリトはそう言うと、視線をアスナへと向けた。
それに対してアスナは「きょ、今日のはリズにとって必要なことだったし! 一回も敵のダメージは喰らってないから!」と、両手をわたわたと振る。
「確かに今日のはちょっと……というか、大分ビックリしたけど……。でも、私はこの
アスナがいなければ、今の自分はいない。
アスナが見つけてくれたからこそ、希望が持てている。
ぐるぐると思考を巡らせ、半ば吹っ切れたかのように宣言すると、リズベットはキリトに頭を下げた。
「うん。俺からもお願いするよ。アスナも大丈夫だよな?」
「それはもちろん。じゃなきゃ今日パーティーなんて組んでないよ~」
「と、いう訳だ。これからよろしくな」
「よろしくね、リズ」
「……うん。よろしく。キリト。アスナ」
こんなことになるなんて、アスナと出会うまで考えてもいなかった。
そんな喜びをリズベットが噛み締めている時だった。唐突にキリトが爆弾発言を投下したのは。
「あっ、リズが正式メンバーになったから一応教えとくけど……。俺ら、第一層の階層ボスを倒した張本人だから。よろしく」
「……は?」
「そうだキリト。今日のボス攻略の報告会ってどうだった? 私の名前は結局伏せたの?」
「一旦な。まぁでも、あの感じだったらその必要はなかったかもな」
「だから言ったのに。キリトは心配しすぎなんだって。それに、歯向かってきたら返り討ちにすればいいでしょ? そんな思考をする人間は、攻略の邪魔でしかないんだから」
「機会があれば、その内アスナに関しても紹介するよ。もちろん、リズもな」
「はあああぁぁああ――――!?」
リズベットが加入し唯一誤算があったとすれば、寝室にあるベッドの数だ。
最初はリズベットが遠慮してソファで寝ようとしたが、アスナが「二人で寝ても問題ないサイズだから」と言って、結局一緒に寝る運びとなった。
「そう言えばアスナ。もし私があの時、鍛冶屋になる事を諦めてたらどうしたの?」
そのまま寝てしまう手もあったが、ふと気になってリズベットはアスナに問いかける。
アスナに勧誘される前、リズベットは鍛冶屋を諦めると発言していた。
けれども彼女に説得され、まだ鍛冶屋を続ける気があるならば、という条件付きでパーティーに加入した。
その世界線がもし違っていればどうなっていたのだろうか。
「それはもちろん、誘わないに決まってるじゃん。あっ、そうなんだ。一人で頑張って。じゃあねーって。私とキリトの詳細なレベルは言えないけど、ボスを二人で倒したからもうこの階層じゃ全然レベルが上がらなくて。だから強くなる方法っていったら、まともなのが武器・防具の強化ぐらいなんだよね。だからやることがあまりない今の内に、将来有望な鍛冶屋とかを囲って育成したら良くない?って話になって。それでたまたまソロで条件にあったリズを見つけたの」
「そ、そうなんだ。あっ、もう大丈夫だから。そろそろ眠くなってきちゃった。おやすみー」
「うん。おやすみ」
本当に色々な奇跡が重なって今の自分がいるのだろうなと、リズベットは思った。
【後書き】
次こそ投稿遅れると思います。
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