初日からPKしたけどデスゲームだったキリトくん   作:〆鯖缶太郎

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 謎のモチベで奇跡の二日連続投稿。
 前話の続きです。


リズベット&シリカ&クライン

(2/2)

 

 

 シリカと約束した13時より少し前に、六人組のパーティーがリズベットの鍛冶屋を訪れていた。

 その内の一人、リーダーである赤い髪のバンダナ男――クラインにリズベットは話しかける。

 

「急な呼び出しだったのに、来てくれてありがとね」

「いいってことよ。ダンジョン攻略の後の休暇には丁度いいさ」

 

 メンテナンスが終わり、返却された曲刀をクラインは太陽にかざすように掲げる。

 渡す前はどこか濁っていた剣の刀身が、今では新品同様の輝きを放っていた。

 その事実にさすがの職人技だと思いながら、クラインは問いかける。

 

「ところでよぉ……。誰か、刀を持ってきたりはしたか?」

 

 それは、リズベットの鍛冶屋を訪れる度に聞いている、最早恒例(こうれい)となったやり取りだ。

 クラインは現状の武器に不満を持っていた。曲刀……。確かに名前に刀と入ってこそいるが、その見た目はクラインのイメージするあの日本が生んだ英知の結晶である刀とはほど遠い。

 情報を得るなら鼠のアルゴを頼るのが通例ではあるが、こと装備関連の話になると、あらゆる武器や防具が集まるリズベットに聞く方が早くて正確だ。

 そんな期待のこもったクラインの問いに、リズベットはいつも通り返答する。

 

「まだ誰も持ってきてないわよ」

「……ちぇっ」

 

 第一層の階層ボスが刀を使用していたという話や、βテストの第十層で敵が使用していたという情報は手に入れている。

 しかし一向にプレイヤーが使用しているという話が出てこない辺り、実装はまだ先の話なのかもしれない。そもそも、刀スキルはどうやったら発現するのか。

 その事に軽く舌打ちをしながら、クラインは本題に入ることにした。

 

「で、指南(レクチャー)をしてほしい、だったか? またいつも通り、ちびっ子に教える感じか?」

 

 指南をしてほしいと依頼されるのは、実は今回が初めてではない。

 数日前から何度か同様の依頼は受けていた。初めて受けた時は、こんな子供がSAO内にいるのかと驚いたものだ。

 

「いや、今日はちょっと違うかな。まぁ、やる内容としては一緒でいいけど……。あっ、来た来た」

 

 そうこうしている間に、どうやら目的の人物が来たらしい。

 リズベットの視線の先をクラインも追うと、一人のプレイヤーが走ってきているところだった。

 短く結んだツインテールを揺らしながら、こちらに手を振る少女。まだ幼くはあるが、その外見は将来美人になると言われても納得がいくぐらいには可愛らしさを内包している。

 

「ほう……」

「……クライン。あんた、変なこと考えてないでしょうね?」

「と、当然じゃないですか、リズベットさーん」

 

 声が上擦(うわず)り明らかに図星を付かれた様子のクラインを、リズベットはジト目で睨む。

 現実と違って、SAOのハラスメント行為の判定と罰則は厳しい。

 具体的には異性のプレイヤーと不適切な接触があったと判定された瞬間、《ハラスメント防止コード》が発動。

 そしてハラスメントされた側には、相手を牢獄エリアに送るかどうかのシステムメッセージが表示され、イエスボタンが押された瞬間には強制的にテレポートされるのだ。

 

「すいません、待たせちゃって。……どうかしましたか?」

 

 状況が理解できていない無垢(むく)なシリカに、リズベットは「何でもないよ」と優しく言って、気持ちを切り替えクライン達を紹介することにした。

 

「じゃあ、紹介するわね。この人たちが今日、指南してくれるギルド《風林火山》のメンバー。それで、彼女がシリカ。まだ戦闘経験がないみたいだから、優しくしてあげてね」

「よ、よろしくお願いします」

「おう。俺が風林火山のリーダーをしているクラインだ。よろしくな!」

 

 緊張した様子のシリカを落ち着かせようと、リズベットは声を掛ける。

 

「心配しなくても大丈夫だからね。この人たち、こう見えても結構面倒見がいいから」

「任せときな。おじさん達が手取り足取り教えて――いったぁッ!」

 

 言葉だけなら普通であったが、両手をワキワキとさせる姿に、リズベットは躊躇(ためら)いなく後頭部を()(ぱた)いた。

 突然の衝撃に、クラインは思わず地面に膝を付く。

 

「「「「「リーダー!!」」」」」

 

 それを見て、今まで静観していた風林火山のメンバーが叫ぶ。

 リズベットとクラインの間に割って入り、リーダーを(まも)るように立ち塞がったのだ。

 

「お前ら……」

 

 リーダーのピンチに即座に駆け付ける。

 やはり、持つべきものは信頼できる仲間――。

 

「何? 何か文句あんの?」

「「「「「すいませんでしたー!!」」」」」

「おい! お前ら、男としての威厳はどうした!?」

 

 だがリズベットが一睨みした瞬間、五人揃って綺麗に土下座をかました。

 

「あはは……」

 

 そんなやり取りを見て、確かに悪い人たちではなさそうだと、シリカは苦笑いを浮かべながら思った。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

「やあっ!」

 

 可愛らしい掛け声と共に、振りぬかれた短剣が敵を切り裂く。

 攻撃を受けた、《はじまりの街》を出てすぐの草原に出現する青イノシシである《フレンジーボア》は、残っていたHPを全損させ爆散した。

 

「やった、やりました!」

 

 ぴょんぴょんとジャンプし、体全体で喜びを表現するシリカに《風林火山》の面々は顔をほころばせる。

 指南を始めてから二時間以上が経った。

 ボアの強さは序盤の草原に出るだけあって、ハッキリ言って弱い。

 特に二層での活動をメインに行っているクライン達からしてみれば、尚更そう感じる。

 それでもデスゲームとなったこのSAOにおいて、自分一人の力で敵を倒せたというのは大きな成長だ。

 

「中々センスがあるな! 最初とは大違いだ!」

「そ、そのことは忘れてください!」

 

 シリカの初戦闘はもう……それは酷かった。

 最序盤の敵はどんなに当たり所が悪くとも、そう簡単に体力が全て削り切られることはない。

 いざとなったらクライン達がいつでも援護に入れる。

 だからシリカがどの程度戦闘ができるのか、確認の意味も込めて一人でボアと対面させたのだ。

 結果としては、初心者特有のとんでもない逃げ腰。突進されたら横に避けず、馬鹿正直に直進して逃げて追い回される。敵との距離感を測れず、目を(つぶ)って何もない空間を切り裂く。その間に攻撃されていないと勘違いしたボアがターゲットが外し、本当に何もない空間を切り裂き続けている光景を見た時は、クラインは腹を抱えて笑った。

 そんな戦闘のせの字も知らないようなシリカが、ボアの攻撃を一度も喰らうことなくソロで倒し切ったのだから、確かに大きく成長しているだろう。

 

「まっ、今のを見て安心したぜ。戦闘において何よりも重要なのは、敵の攻撃パターンを把握することだ。最初は無理せず街の周辺のモンスターを狩ればいいさ」

「はい!」

「それじゃあ、時間もいい頃合いだしそろそろ街に戻るか」

 

 はじまりの街の周辺にどんなモンスターが生息しているのか。それを確認するために、一行(いっこう)は少なからず遠出をしていた。

 

「取り敢えず、オオカミには気を付けるこったな。動きが速いし群れてることも珍しくない。この辺りじゃ一番危険なモンスターだ」

「分かりました」

「後は、無理して夜に戦闘しないことだ。視界も悪くなるし、出現するモンスターも変化したりする。休めるときはしっかりと休むのが基本だな」

 

 はじまりの街に帰る道中で、クラインは自身の経験などを元にしてSAOで生きるためのイロハを教えていく。

 話が一区切りついたところで、シリカはふと思い至った疑問を投げかけることにした。

 

「そう言えば、リズさんってどんな人なんですか? 色々と強そうな装備も持ってますし、何となく凄そうだなっていうのは分かるんですけど……」

 

 モンスターと戦闘して分かったが、想像よりも稼げないというのがシリカの感想だ。

 敵を倒しても一桁コルなのは当たり前。かと言ってドロップ品に喜んでいたら「それは店売りで三コルだな」と言われてしまう始末。

 シリカはいきなり十万コルを手にしたが、それがとんでもない大金だったと改めて感じる。

 もちろん先に進めば進むほど手に入る量も変わるのだろうが、当然危険は増すはずだ。そんな世界で数万するのが当たり前の装備をいくつも商品として売っているリズベットは、果たして何者なのか。

 シリカの純粋な疑問に、風林火山の面々は逆に知らないのかとでも言いたげな反応を示した。

 

「おまっ、知らないのか?」

「えっと……はい。最近まで、ほとんど宿に引きこもっていたので……」

 

 ばつが悪そうに答えたシリカに、クラインは申し訳なさそうにする。

 

「あー、すまん。てっきり知ってるもんだと思ってたからさ。それで、リズが何者かって話だったな」

 

 腕を組んでしばし考えた後「本人の前では絶対に言うなよ」と、前置きしてからクラインは言った。

 

「――救世主(メシア)

「め……めしあ?」

「救世主って意味だ。はじまりの街に留まってる連中からは、影でそう呼ばれてるよ」

 

 曰く――第二層を解放したプレイヤー。

 SAOがデスゲームと化し、世界が絶望に沈んだあの日。彼女は立ち上がり、そして第一層のボスを倒し、人々に希望の光を与えたというのはあまりにも有名な話だ。

 

「まっ、本人曰く自分は倒してないって話らしいがな。仮にそうだとしても攻略に貢献してるのは間違いないし、はじまりの街に戻ってきて支援してるその姿から、人気が高いのは事実さ」

 

 クラインの発言に、他の風林火山のメンバーも同意するように大きく頷く。

 

「しかもリズのやつ、普通に強いからな。俺らが六人がかりで二層をヒーヒー言いながら探索してるのに、素材集めのためにソロで三層を平気な顔して散歩するようなやつだぞ?」

「えぇ……」

「下手に喧嘩だけは売らないこった。オレンジプレイヤーでもないのに、周囲から恨まれて街の中を歩けなくなっちまう」

「わ、分かりました」

 

 頷いたシリカに、クラインは「もっかい言っとくが、本人の前ではこんな話をしたって絶対に言うなよ!」と念を押したのだった。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 はじまりの街に戻れば、時刻的に丁度リズベットが鍛冶屋の開店準備をしているところだった。

 

「皆おかえり。シリカ、モンスターは狩れそう?」

「はい! おかげさまで、一人でボアを倒せるぐらいにはなりました!」

「おー、凄いじゃん!」

 

 褒められたことに喜びながら、でもリズさんはもっと凄いんだよなっとシリカが心の中で思っていると、リズベットがメニューを操作し始めた。

 

「クライン達も、今日はありがとね。はいこれ」

「おう。いつもサンキューな!」

 

 何やらトレードしたらしき二人のやり取りを見て、シリカが首を傾げる。

 

「あの、何を渡したんですか?」

「ん? あぁ、今日の指南代よ。ただ働きさせるのも悪いしね」

「えっ!?」

 

 考えてみれば、確かにそうだ。

 この世界で生きるための術を、相手の時間を奪ってまで指南してもらったのだ。

 当然相応の金額(コル)を支払っても何らおかしくはない。

 

「そんな、悪いです! 私が自分で払います!」

「大丈夫だって。これは私がしたくてやってることなんだからさ」

「でも……」

 

 納得しかねるといった様子のシリカに、ならばとリズベットは代替案(だいたいあん)を提示することにした。

 

「じゃあさ、いつでもいいからまた元気な姿を見せにきてよ。それで、ここの鍛冶屋を利用してくれたらいいからさ」

 

 訪れた客の顔を全員覚えている訳ではない。

 それでも毎日のように顔を出してくれたのに、突然来なくなったプレイヤーも一定数存在する。フレンド欄からログアウトした者だっている。

 だからシリカにはそうなってほしくないという気持ちも込め、提案した。

 

「……分かりました。私、また絶対にリズさんの鍛冶屋に来て、今度こそ装備を買えるぐらいに強くなってみせます!」

「いいね。その意気だ」

「あの……それでリズさん。もしよかったら、私とフレンドになってくれませんか?」

 

 おずおずと見つめてきたシリカに、リズベットは微笑んだ。

 

「おっけー。なろっか」

「やった! ありがとうございます!」

 

 二人のやり取りに、クラインも名乗り出るように手を挙げた。

 

「なぁ、シリカ。よかったら俺ともフレンド交換しないか?」

「そうですね。ついでにクラインさんもしましょう」

「おい! 俺はついでかよ!」

 

 そんなリーダーに続けと言わんばかりに、他の風林火山のメンバーも俺も俺もと手を挙げる。

 

 今まで空っぽだったフレンド欄が、今日だけで七人も増えた。

 その事実にシリカは、何だか胸が温かくなった気がした。

 

 

(2/2)




【後書き】

 今回のお話はこれで一区切りです。サブストーリーはこんな感じで、あまり本編では触れられないような物語を書きますので、よろしくお願いします。
 次回は恐らく別キャラになるかな。思いついたらのんびり書いて投稿。

 お気に入り、評価、感想など、お気軽に。

サブストーリーを読みたいキャラを気軽に押してください。票数が多くとも必ず採用する訳ではないです。誰でもいい、アンケの結果だけみたい人は無投票にお願いします。

  • クライン
  • シリカ
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  • リズベット
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