初日からPKしたけどデスゲームだったキリトくん   作:〆鯖缶太郎

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相棒

 この世界がデスゲームとなってから、キリトは将来的にソロプレイをやめようと決意していた。

 何故なら今のキリトは、運営からしてみれば面白くない――邪魔な存在だろうと判断したからだ。

 

 βテスト最終日、キリトは確かに単身で階層ボスを攻略した。

 その時はそれでいいと思ったし、他のプレイヤーを出し抜いたと満足している自分もいた。同時に、正式版では何らかの修正が施されるだろうとも考えた。

 SAOの舞台は、全百層からなる巨大浮遊城《アインクラッド》。MMORPGというジャンルのゲームで、例えばその百層全てをソロで攻略されたとしたらどうだろうか。

 そんなもの、他のプレイヤーにとって……何よりも、GMにとって面白いはずがない。

 故に遅かれ早かれ、システム的にもソロプレイの限界はくるだろうと考えていた。

 そして正式版の蓋を開けてみれば、予想だにしないデスゲームの開幕。

 怖いと、恐ろしいとさえ思った。たった一度の死で、もう二度とこの最高峰のゲームで遊べなくなってしまうのだから。

 βテストの知識はある。けれどそれがいつまでも通用するとは思っていない。初見殺しであっさりと死んでしまう可能性だってある。

 そんなくだらない死で終わってしまうリスクを減らすためにも、やはり共に戦う仲間を作るべきだろう。

 だからといって、仲間になるなら誰でもいい訳ではない。足手まといは逆に死のリスクを増やす。

 数が多くとも邪魔になるだけだ。考えは人それぞれで、方針や判断でいちいち揉めては面倒くさい。

 自分と思想の近しい、背を任せられる少数の仲間。それが今この瞬間はベストだ。

 

 では、その仲間を見つけるためにはどうするべきか。

 《はじまりの街》で募集する? アルゴに依頼してβテスターを紹介してもらう?

 募集は論外だろう。有象無象から選別するのは時間がかかるし、一から育成するとなれば面倒で確実性がない。

 アルゴの紹介は最終手段だ。どうしようもなくなった時に頼ればいい。

 

 今のキリトが考える、自分に見合った仲間を見つける方法。

 それはこのデスゲームが開始してなお、攻略に乗り出し生き残った者が辿り着く最前線――第一層迷宮区。そこへ向かうことだ。

 

 

 

「ねぇ」

 

 それはまさに、一瞬の出来事だった。

 

「私とパーティーを組みましょう」

 

 眼前に突き付けられたレイピアの切っ先が嫌でも目に入る。まるで握手を求めるかのような自然な動作で行われた行為に、警戒はしていたつもりだったが反応することができなかった。

 例えキリトが身構えていたとしても、完璧に対応できていたかは怪しかった抜剣の速さ。先の戦闘を見る限り、レベルも練度も申し分ないだろう。

 はったりか否か。あるいは上下関係を学ばせるためか。少なくとも、ここで怖気付けばなめられるだけだ。

 

「もし俺が断ったら殺すのか?」

「……え?」

「パーティーの加入を断ったら、俺を殺すのかと聞いているんだ」

「そ……れは……」

 

 彼女の剣が、瞳がブレた。

 その明らかに動揺した姿を見て、殺す覚悟まではないのだろうと判断する。

 であれば、こんな脅しなどあってないようなものだ。

 

 見つめ合うこと数秒。

 場が膠着し、中々答えようとしない細剣使いにどうしようかとキリトが考え始めた時だった。

 

「私と……パーティー、組んで、くれないの?」

 

 泣き出した。それも、結構ガチなやつだ。

 SAOは限りなく現実に近いが、感情表現に関して言えば極端だ。具体的に言えば、噓泣きができない。泣いているような演技こそできるだろうが、悲しいという感情なくして涙は流れない。

 

「あーっと……」

「うぅ……」

 

 正直、これは予想外だ。先程まで漂っていた緊張感も、もうどこにもない。

 ガシガシと頭を掻きながら、キリトは大きくため息を吐いてから改めて細剣使いに向き直った。

 

「取り敢えず、パーティーは組むから安心しろ」

「……本当?」

「あぁ。というか、あんたに言われなくとも俺から頼もうとしていたんだ。嘘はない」

 

 本心を伝えるも、未だ懐疑的に見てくる彼女にパーティー参加申請を飛ばす。

 

「ほら、組むんだろ?」

 

 恐る恐る彼女がOKを押すと、視界左上に新たなゲージが追加された。

 【Asuna】。それがこれからを共にする、相棒の名前。

 

「よろしくな、アスナ」

「よろしくね、キリト!」

 

 

 

 二人は一度《トールバーナ》の町に戻り、キリトの拠点である農家 兼 宿屋に訪れていた。

 そこに至るまでの道中でアスナがダンジョン内で寝泊まりしていたことを知り、話したことが切っ掛けだ。

 どおりでやけに消耗している訳だと思うキリトに対し、アスナは久しぶりのお風呂とベッドで休めることでテンションは最高潮。ご機嫌で長風呂を楽しんだかと思えば、そのままベッドに倒れこんで今はもう夢の中だ。

 あまりにも無防備なその姿に、キリトは苦笑いを浮かべる。

 

「それにしても、βテスターじゃない……か」

 

 ソロプレイで誰よりも早く最前線まで辿り着いていることから、てっきりβテスターだと思い込んでいた。

 しかしあまりにもゲーム用語を知らず、SAOに関しても無知なアスナに違和感を持ち、色々と話すうちにその事実を知った。

 いつ死んでもおかしくなかった。そんな体験談を「それでね、それでね!」と、嬉しそうに笑顔で話す彼女を見て、どうでもよくなったが。

 

「用語とかは後で教えるとして、まずするべきは対人戦の強化だな」

 

 モンスターとの戦闘に関しては、ほぼ心配しなくてもいいだろう。

 だが、対人戦の経験値が圧倒的にアスナは足りない。特に、相手が自分を殺すつもりで襲ってきた時に、殺せるかどうか。中身が人間だからと躊躇わないか。

 その確認はしなければならない。

 

「――っと、メッセージか」

 

 響いた電子音に反応し、メニューを操作するとメッセージBOXを開く。

 差出人のアルゴの名を確認して内容を読み、一言「了解」と返信を送った。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 予め取り決めていたノックの合図に、ディアベルは席を立つと簡素な木の扉を開ける。

 そこに立っていたのは、今やこのデスゲームの生命線とも言える取引相手――情報屋(・・・)の《鼠のアルゴ》だった。

 

「入ってくれ」

「お邪魔するヨ」

 

 安宿の一室。

 現実世界であれば音漏れの心配もあるだろうが、このSAOではドア一枚あれば会話をするぶんには声が外に漏れ出ることはない。

 特に警戒することもなくアルゴは中に入ると、中央にポツンとおかれたテーブルに腰掛ける。ディアベルはその対面に座ると、早速とばかりにメニュー画面を操作した。

 

「三万だ」

「……ン。これで商談成立ダナ」

 

 三万コル。その金額は決して安くはない。

 この世界がデスゲームと発覚してから、ディアベルは生きることを……何よりも、強くなることを望んだ。

 攻略されるまでずっと引きこもるのは性に合わない。

 前線で皆を引っ張る存在になる――そう、あの人のように。

 そのためにもβテスターという優位性を活かし、過去の仲間と連絡を取り合った。

 だがそのほとんどは、戦意喪失してしまっている。

 プレイヤーの死を間近で見て、βテスターだろうと次々に死んでいっている事実を知って。中には自ら死を選んだ者さえいた。

 

 それでも立ち上がってくれた者たちと共に研鑽する日々を送り始めた最中、アルゴから商談を持ち掛けられたのだ。《リトルネペントの胚珠》を買わないかと。

 初めは耳を疑った。

 片手剣使いなら最初に必ず手に入れておきたい武器《アニールブレード》。そのクエストアイテムと交換するための素材。

 もちろんディアベルは、将来的には手に入れる予定ではあった。

 しかし胚珠をドロップするリトルネペントというモンスターの特性上、安全性を考慮して暫くは手を出せないと判断していたのだ。

 それなのにそのアイテムが、デスゲームが始まった僅かな期間で既に出回っている。

 あり得ない。仮にドロップしたとしても、自分で使うに決まっている。

 

 だが、話は本当だった。

 三万コルと引き換えに手に入れた《リトルネペントの胚珠》を見て改めて思う。

 仲間達に説明をし、頭を下げ協力してもらい、数日掛けてかき集めた三万コル。だが、それでも破格であったとディアベルは考える。

 リスクを最小限に抑えて安全を確保できた。少し足踏みしてしまったが、ここから攻略のスピードは格段に上がる。

 

「一体誰なんだい? 君に胚珠を持ち込んだのは」

「……前も言ったと思うけど、その情報は売れないヨ。いくら積まれたとしてもネ」

 

 この胚珠を持ち込んだ人物の情報を手に入れたい。そして仲間に加えたい。

 そう思ってアルゴに聞くも、相変わらず情報は売れないの一点張りだ。

 想像が付く範囲で考えられるのは、元βテスターであるということぐらいか。現段階でアルゴと交流しているのだから、それは間違いないだろう。

 

「用がないなら切り上げるケド?」

「そうだな……。あぁ、もう一つ聞きたいことがあったんだ」

 

 謎の人物は一旦置いておこう。攻略を進めていけば必ずどこかで出会うはずだ。

 そう気持ちを切り替えて、直近の攻略には関係のないことをアルゴに問いかける。

 

「結局あの後、どうなったのかな?」

「あの後?」

「ほら、βテスト最後の迷宮区のあれさ」

「…………」

 

 まだSAOがデスゲームとなる前。βテスト最終日に挑んだ迷宮区で、ディアベル含む攻略組は最後をアルゴに託した。

 その結末を聞こうにも最後まで黒鉄宮にある蘇生の間に復活しなかったことから、結局分からず終いだったのだ。

 ボス部屋に辿り着いたのか、それとも道中で終わってしまったのか。

 だがアルゴからの返答は、予想だにしないものだった。

 

「……答えられなイ」

「……えっと?」

 

 答えられない。それは一体どういうことだろうか。

 

「あれかな? 君が髭のペイントをしている理由みたいな感じで、コルを出さないと売ってくれないとか?」

「言い方が悪かったナ。正しくは売ることができないだヨ」

「それは……どうしてだい?」

 

 その問いにアルゴは逡巡し、渋々といった様子で口を開いた。

 

「不確かな情報だからネ。オレっちの情報屋としての信用問題になってくル。だから答えられないし、売ることもできなイ」

「見たことをそのまま話すだけじゃないのか? 別に俺は構わないし、アルゴを信用するといってもダメなのか?」

「返答は変わらないヨ」

 

 商談は終わりだと、アルゴは席を立って部屋を出ていった。

 その後ろ姿を見送って、ディアベルは考える。

 一体あの時、アルゴに何があったのだろうかと。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

「まったク。何でこんなにも大仕事を終えたみたいに疲れないといけないのカナー」

 

 ――不確かな情報だからネ。

 アルゴにとっては半ば確信めいたものはある。だが実際にキリトから話を聞いていない以上、本当に彼がボスを倒したのかは知り得ない。

 何ならキリト以外が倒した可能性もあるし、元々ボスが用意されていなかった可能性すらある。

 

 ――オレっちの情報屋としての信用問題になってくル。

 そして一体誰が、ボス部屋はもぬけの殻だったという事実を信じるのか。加えてこの件にアルゴの予想通り、キリト個人が関わっていれば当然話すことはできない。

 話した時点で情報屋としての信憑性を落とすし、彼に対しての信用を無くすことにも繋がりかねない。

 いずれにせよ、アルゴがこの件を話す価値は1コルも存在しないのだ。

 

 もしそれでも信用するという人物がいたら。それは最早、アルゴを信用しているのではなく崇拝しているだろう。

 

「残りも慎重に進めないとナ」

 

 フードを目深に被ると、アルゴの姿は入り組んだ路地裏へと消えていった。

 

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