初日からPKしたけどデスゲームだったキリトくん   作:〆鯖缶太郎

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始動

 キリトと初めて出会った時、当然のように自分が彼をリードするものだと思っていた。

 何故なら自分の方が強いに決まっているから。

 誰よりも早く第一層迷宮区に辿り着いて、誰よりも多くモンスターを狩って、誰よりも長くこのデスゲームと向き合ってきたという自信があったから。

 だからだろうか。彼が対人戦(PvP)の強化と称してデュエルを提案した時、ハッキリ言って余裕だと思った。なめるなと思った。

 それは今までつけてきた自信に裏打ちされたものもあったし、キリトと初めて出会った時、自分の剣に彼が全く反応できていなかったのも理由だ。

 βテスターかどうかなど関係ない。情報面に関して圧倒的に劣っているのは事実なので従うが、ここらで実力の差を分からせよう。

 

 ――そう意気込んだ初戦、無様にも負けたのは自分だった。

 

 デュエルのルールは《半減決着モード》。

 どちらかのプレイヤーのHPが半分以下となった際、勝敗が決まるというものだ。

 加えてキリトは、あくまでも対人戦の練習であるからと、愛用する強化済み《アニールブレード》ではなく、初期武器の《スモールソード》を使っていたのだ。

 そんな試合で負けた。

 今思えば言い訳のしようもない、完全なる敗北だ。

 けれども、その時の自分は認めなかった。認められなかった。

 初めての対人戦だったからだとか、キリトの事を侮って油断していただとか。そんな戯言(たわごと)を吐いていた気がする。

 その姿は彼からすれば、あまりにも滑稽(こっけい)に見えただろう。

 

 ――初戦で負けたのは油断していたからだ。次は絶対に負けない。

 そう意気込んだものの、それからも負けて、負けて、負け続けて――キリトに言われた。

 

「アスナ。今日はもうやめよう」

 

 きっと自分は、酷い顔をしていたと思う。

 言われる前も、言われた後も。

 

「もう一度言うけど、冷静になれ。俺がそのつもりなら、アスナはもう死んでいるんだ。だから今から生きている時間は、どれだけ無駄にしたって構わない。急ぐ必要はない。焦る必要もないんだ」

 

 この時《アスナ》という存在は、一度死んだのだ。

 

「キリト……私って、弱いのかな?」

 

 そんな弱音が漏れてしまうほどに、ズタズタに引き裂かれて。

 

「アスナは強いよ、間違いなく。今この世界で、トップクラスに」

 

 そう、自分は強いのだ。

 でも、それでも勝てなかったのは――。

 

「ただ、自分で言うのも何だけど、俺がアスナより強かった。それだけのことだ」

 

 

 

 キリトとのデュエルを終えた後、アスナは決まって圏外で独り、モンスターを狩るようにしている。

 それはキリトとのデュエルに初めて負けたあの時から、ずっと続けている習慣のようなものだ。

 

「あの頃の私はまだ、青かったな……」

 

 キリトとパーティーを組み始めてから、一週間が経つ。

 その間でアスナの考え方は大きく変わった。

 生活リズム、戦闘スタイル、攻略への向き合い方、そして何よりも――キリトとの関係性。

 今のアスナはキリトの事を侮ってなどいない。あるのは尊敬に近しいものと、信頼だ。

 

 キリトならば、自分をリードしてくれる。

 キリトならば、自分のミスをカバーしてくれる。

 キリトならば、自分が敵わないモンスターを倒してくれる。

 キリトならば――。

 

 

 

 

 

 ……くそ。

 

 

 

 

 

「くそっ、くそっ、本当にクソ!!」

 

 その思い描く全てがキリトに助けられる自分の姿で、あまりにも情けなく。彼の前で抑えていた分、感情が爆発する。

 

 負けた負けた負けた負けた負けた。なすすべなく、たった一撃すらまともに入れることなく、完膚(かんぷ)なきまでに負けた。

 この世界がデスゲームと告げられた日。誰よりも早く《はじまりの街》を飛び出したあの日から。何度も何度も死にかけ、挑み続け、生き抜いて。

 それらの経験はアスナの糧となった。キリトとのデュエルだって乗り越えてみせる自信があった。今日こそは絶対に負けないという確信があった。

 

「なのに、それなのに!!」

 

 何度挑んだ? 何度やられた? 何度死んでいた?

 モンスターを相手取っている時とは訳が違う。

 一体キリトとの差はどこで生まれているのか。毎日そればかりを考えている。

 ステータスは恐らく同等か自分の方が上なのに、何故勝つことができないのか。何が足りないのか。何が間違っているのか。

 

「本当に、本当に――キリトといると飽きないなぁ……」

 

 その顔に笑みを浮かべ。また一体、モンスターを切り伏せた。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 第一層迷宮区のマッピングは順調に進んでいた。

 それは今、キリトとアスナの目の前にあるボス部屋へ繋がる巨大な二枚扉を見れば明らかだ。

 

「ついにここまで辿り着いたわね」

「と言っても、ボス攻略自体はまだ先になるだろうけどな」

 

 《トールバーナ》には未だ、他プレイヤーは辿り着いていない。

 けれども、もうしばらくすれば前線に追いつくプレイヤーも現れるはずだ。

 それらのプレイヤーと迷宮区のマップデータを共有し、ある程度の人数が揃えばすぐにでもボス攻略は開始できるだろう。

 

 キリトが軽く手を押し当てると、大扉は何の抵抗もなく重低音を立てて開かれる。

 ボス部屋の中を覗き込むが薄暗く、モンスターのいる気配はない。

 

「本当にいくの?」

「ああ。βテストとの違いがあるかもしれないし、軽く偵察はしておきたいからな。ボスはこの部屋から外に出ることはないから、何かあればすぐに撤退しよう。ボスと取り巻きの情報は大丈夫だな?」

「ええ。ちゃんと読んであるわよ」

 

 アルゴの攻略本に書かれていた内容をアスナは思い出す。

 第一層迷宮区のボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》。その取り巻きである《ルインコボルド・センチネル》。

 凡その姿や使用武器、特性など。βテストの情報ではあるが、頭の中に叩き込んである。

 

 そして今回はあくまでもボスの偵察。

 キリトがボスであるコボルドロードの相手をし、アスナがその間、取り巻きであるセンチネルの相手をする。

 取り巻きと言っても、その数は従来通りなら一度に三体。安全マージンこそ充分足りてはいるが、油断はしないようにする。

 

 第一層とはいえボス戦。本来であればフルレイドパーティーで挑むことが推奨されているのだ。それを偵察であったとしてもたった二人で行うのだから、警戒するに越したことはない。

 そもそも二人で偵察を行うこと自体が危険で異常なのだが、今この場に指摘するものは誰もいなかった。

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

 キリトに次いでアスナも、ボス部屋の中へと足を踏み入れる。

 ボスが現れる気配はまだない。

 一歩、また一歩と部屋の中心に向かって進むが、想像以上に広い。扉が近ければ撤退も容易だろうが、この様子だとそうはいかなさそうだ。

 

 ――丁度部屋の半分、五十メートルほど進んだところで、それは起こった。

 先ほど聞いた重低音と共に、暗いボス部屋に差していた一筋の光が消える。振り返れば、ボス部屋に入る際に通った大扉が轟音を立てて閉ざされた瞬間だった。

 まるで侵入者を、この部屋から絶対に逃がさないと言わんばかりに。

 

「ねえキリト……。これって……」

「――なるほど。そうきたか」

 

 ボッと音を立てて、左右の壁に固定された松明が燃え上がる。

 一定の速度で順繰りに。手前から奥へと向かってゆっくり照らされるその光景は、挑戦者に考える余地を与える慈悲か。はたまた、絶望を味わわせるカウントダウンか。

 

「アスナ、作戦変更だ」

 

 この迷宮区には他のプレイヤーは辿り着いていない。仮に今この瞬間到達した者が現れたとしても、ボス部屋まで一直線に進める者はいないだろう。

 故に、誰かにボス部屋の扉を開けてもらうという希望は捨てる。そもそも、外側から開く保障だってないのだから。

 

「第二層に二人で行こう」

「……りょーかいっ」

 

 最後の松明が灯り、部屋全体が不思議と明るくなる。

 それと同時に、部屋の最奥に巨大なシルエットが浮かび上がった。

 人間が座るにはあまりにも大きな玉座に深々と腰掛けるコボルドロード。そしてその隣に付き従う、全身を鎧で身にまとった三体のセンチネルの姿。

 

 コボルドロードは玉座から立ち上がると、その逞しい体格とは裏腹に軽々と跳躍。空中で一回転して着地すれば、部屋全体が地響きをたてた。

 

「グゥルゥアアアァァッ!!」

 

 そして、二人だけのボス攻略は始まる。

 

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