初日からPKしたけどデスゲームだったキリトくん   作:〆鯖缶太郎

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 まさかの第二層編、始まります。
 更新ペースは過去話を見て察してください。
 タイトル変更しました。


第二層
希望


 《はじまりの街》が徐々に活気付いてきている。

 アルゴがそう感じるのは決して気のせいではない。

 

 街に《アルゴの攻略本》が行き渡った事により、今まで初心者にとって不明瞭だった対モンスターの立ち回りが確立された。

 確かに今の今まで多くのプレイヤーが街に留まっていたが、何もしていなかった訳ではない。

 日銭を稼ぐため、衣食住のため、安全なレベルアップのために、街のお使いクエストを地道にこなし続けていたのだ。

 効率は決して良いとは言えない。

 それでもデスゲームが開始して半月と少し。それだけの期間、レベル1のプレイヤーがお使いクエストをこなせば、当然レベルも上がる。自分一人の装備ぐらいであれば、買い揃えられるぐらいにコルを貯めた者だっている。

 そんなプレイヤーが圏外に足を向け始めた。

 そして気付くのだ。自分たちは今まで、こんな雑魚モンスター相手に怯えていたのかと。

 

「油断は禁物だけどナ」

 

 これで調子に乗った馬鹿が突貫して死ぬ……なんて事は無いと信じたい。

 まずは第一層だ。第一層のボスさえ攻略すれば、希望は見えてくる。このデスゲームがクリアできると分かれば、より多くのプレイヤーが前を向いて進み始めるだろう。

 

 鍵となるのはやはり、先に攻略へと向かったβテスターを中心としたパーティーだ。

 小まめにメッセージのやり取りを行い、大体どの辺りまで攻略が進んでいるか、アルゴは把握している。

 中には第一層迷宮区の最寄り町である《トールバーナ》に、今日中に辿り着きそうなパーティーもいるらしい。

 

 だが仮に辿り着いたとしても、すぐにボス攻略とはいかない。

 迷宮区のマッピングもあるし、装備の更新もしなければならないだろうし。何よりも、ボス攻略のための人数が揃わなければ話にならない。

 第一層を攻略できたとしても、甚大(じんだい)な被害を(こうむ)ってしまえば、また足が止まってしまう。

 どうせこれだけの期間停滞してしまったのだ。ならば時間を掛けてでも、確実に攻略するべきだろう。

 ボス攻略の度に死者が出るのは望ましくない。

 

「こんなものカナ」

 

 今や日課となっているレベルと熟練度上げを終え、アルゴは《はじまりの街》に戻る。

 デスゲームが開始した当初は見る影もなかったプレイヤーも、今では街の周辺に限ればモンスターのPOPが追い付かなくなるぐらいには増えていた。

 

「……ン?」

 

 安全な圏内に入った事を知らせる【INNER AREA】の文字が視界から消え、宿に帰ろうと歩いていたアルゴは違和感を覚えた。

 先程からプレイヤーの動きが妙に慌ただしい。

 そしてその全員が、街の中心へと向かっていく。

 

「――は? 冗談だろ?」

「――本当なんだって。とにかく来てみろよ!」

 

 聞き耳を立ててみれば、事情を知ってそうなプレイヤーはすぐにでも見つかった。

 

「お二人さん、ちょっといいカナ?」

「あん? どうかしたか?」

「さっきから街の様子が慌ただしいのが気になってネ。何か知ってそうだったからサ」

 

 一体この街で何が起こったのか。

 思考を巡らせてみるも、特に思い当たる節はない。

 ただ、攻略に関わるトラブルでないことをアルゴは願い、言葉を待った。

 

「――開いたんだよ」

「……開いタ?」

「街の転移門が、開いたんだよ!」

 

 

 

 

 

 第一層が攻略された。

 その知らせは転移門が突如として起動したことにより、瞬く間に広まった。

 《はじまりの街》の中央広場。

 ゲーム開始直後に誰もが降り立ち、そして目にする転移門は、その瞬間が訪れるまでは鳴りを潜めたままだった。

 まだ起動することはないだろう。

 街に留まっていた数千人が言葉に出さずとも全員が思っていただけに、衝撃は凄まじいものだった。

 最初に気付いた者達が歓喜の叫びを上げ、走り出し、大声で流布していく。

 

 ――転移門が開いた。

 ――ボスが攻略された。

 ――第二層に行ける。

 

 それを聞いた誰もが最初、悪い冗談だと思った。

 でも、それでも……。自然と足は、転移門のある中央広場へと向かっていた。

 

 近付くにつれ大きくなる歓声。そして新たなる流布する者達の声。

 徐々に高まる期待感と、一刻も早く真実を確認したいという気の高ぶりが、徒歩を小走りにさせる。

 この目で見るまでは、絶対に信じない。

 しかしその表情は既に、抑えきれない笑みで溢れていた。

 

 やっとの思いで広場に到着し、歓声に包まれながら感極まって抱き合うプレイヤーの間を通り、転移門の前に立つ。

 そこには、青いワープゲートが出現していた。

 

 絶望から一転、希望の光が差し込んだ。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 深い、眠りから目が覚めた。

 視界に映るのは、今や見慣れた天井。場所は第一層《トールバーナ》にある農家。その借り部屋である二階の寝室だった。

 ミルクが飲み放題で、ベッドが大きく眺めもいい、風呂付きの好物件。一部屋限定とはいえ、この条件で一泊八十コルなのだから驚きだ。

 ここより条件のいい宿泊施設は低階層ではそうないため、キリトはβ時代に見つけた時から一度だって宿賃を切らしたことはない。

 そのお陰もあってか他プレイヤーに見つかることもなく、デスゲームが始まった今も快適な暮らしができている。

 当分の間、ここを本拠地(ベース)として活動することになるだろう。

 

「……二人で、本当に倒したんだな」

 

 思い起こすのは、つい昨日の出来事。

 第一層のボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》との死闘だ。

 最初は軽い偵察で済ます予定だった。けれどボスが出現する直前、出入り口である大扉が閉ざされたことによって事態は一変。生きるか死ぬかのボス戦の開幕となった。

 もしも自分一人であったなら、取り巻きである三体の《ルインコボルド・センチネル》とボスに挟まれ、キリトは呆気なく死んでいただろう。

 その三体のセンチネルのヘイトを買い、捌き切ったアスナがいなければ同様に。

 さすがにキリトも、あんなボス戦は二度とご(めん)だと思う。

 

 二人だけの第一階層ボス攻略後、キリトとアスナは第二層の景色を一望し、そのまま探索開始……とはいかず、戻って一度休憩することにした。

 その主な理由は二つ。

 

 一つ目は、単純に精神的に疲弊していたから。

 そんな状態で第二層を探索し、また不測の事態が起きてしまえば死ぬリスクが高まる。

 アスナも過去に迷宮区に籠って寝泊まりしていた経験から、休むことの大切さは学んだようで反論は特になかった。

 

 二つ目は、現状レベルアップがほぼ見込めず効率が悪いから。

 ボスであるコボルドロードの経験値もそうだが、恐らく無限湧きであった取り巻きのセンチネルの経験値が特に大きかった。

 階層ボス一体と、レアモンスターに分類される取り巻きを二十体近く倒し、その経験値がたった二人のプレイヤーに集約されればどうなるか。

 答えは簡単。そこらのフィールド(雑魚)モンスターなど鼻で笑うような莫大な経験値が手に入った。

 当然一度に複数回レベルアップし、今の階層では実質的にレベルが頭打ちとなってしまった……という訳だ。

 

 以上のことから休憩することが先決であるという結論に至り、転移門の有効化(アクティベート)もせずに第一層に戻る運びとなった。

 ボス攻略から一夜が明け、二時間以上が確実に経っているため、βテスト通りであれば転移門は自動で有効化されているはずだ。

 きっと今頃、誰が攻略したのかといった憶測が飛び交っているのだろう。

 ベッドに寝転がったまま、昨日ドロップした大量のアイテムを呆然と眺めていると、複数件フレンドメッセージが届いていることにキリトは気付いた。

 今のフレンドはアスナとアルゴの二人しかいない。

 パーティーメンバーであり、共に行動しているアスナが態々メッセージを寄越す理由はないだろう。となると、自ずとアルゴから送られてきたものだと察しが付いたキリトは早速中身を確認した。

 

【キー坊。転移門が有効化されたんだけど、何か知ってるカ?】

【今どこにいるんダ? メッセージが届くってことは、ダンジョンにはいないんダロ?】

【いつもの所にいるのカ? 取り敢えず向かうからナ。】

【全然知らないプレイヤーが出てきたんだケド! どこにいるんだヨ!】

 

 要約すれば、大体そんなことが書かれていた。

 

 

 

 

 

「まさか、あのキー坊がパーティーを組んでいるとはナ」

 

 アルゴから怒涛の勢いで送られてきたメッセージに返信をして十数分後。キリトとアスナの対面のソファには、ジト目のアルゴの姿があった。

 キリトが寝ている間に一度、β時代の記憶を元にアルゴはこの場所を訪れたらしい。その時はアスナが対応したことで、アルゴはキリトがいないと勘違いしたようだ。

 そして今は初対面であったアスナとアルゴの自己紹介も済ませ、ようやく一段落付いたところだった。

 ローテーブルに置かれたミルクの入ったグラスを手に取り、キリトは問いかける。

 

「で、態々こんな場所まで出向いて、どうしたんだよ?」

「――単刀直入に聞ク。第一層を攻略したのは、キー坊とアーちゃんで間違いないカ?」

 

 動向を探るように、鋭い視線がアルゴから飛ぶ。

 それに対しキリトは落ち着いた様子でミルクを(すす)り、アスナは「ア、アーちゃん……?」と戸惑いを見せた。

 暫しの静寂の後、キリトは答える。

 

「その感じだと、転移門は無事に開いたらしいな」

「肯定……と、受け取ってもいいんダナ?」

「元からアルゴには話そうと思っていたんだ。隠す気は無いよ」

 

 その返答を聞いて安堵(あんど)したのか、アルゴは大きく息を吐いて態勢を崩す。彼女からしてみたら、それ程までに重要な案件だったのだろう。

 アルゴは改めて姿勢を正し、口を開いた。

 

「突然押しかけて、悪かったナ。メッセージじゃはぐらかされると思ったんダ」

「……逆に質問しますけど、アルゴさんは何で私達が攻略した事をはぐらかすと思ったの?」

 

 二人の様子を見守っていたアスナが小首を傾げる。

 そのあまりに純粋な姿を見て、アルゴは「アーちゃんからは情報が抜き放題ダナ」と思った。

 

「アーちゃんはまず、今回の事の重大さを知るべきかもネ」

「事の重大さ?」

「当事者だから感じにくいかもしれないケド……。今回の転移門の開通は、他のプレイヤーからしてみたらあり得ない話なんダ。特に、元βテスターからしたらネ」

 

 そもそもの前提として、階層ボスの攻略にはフルレイドパーティー(四 十 八 人)で挑むことが推奨されている。

 だから二人で階層ボスを攻略したなどという発想は、普通に考えてできるはずもない。

 

「アーちゃんは、自分が第一層迷宮区に着いたのはいつだったか覚えてル?」

「――四日目」

「…………」

「途中で一回様子を見に《はじまりの街》に戻ったりもしたけど、迷宮区に最初に着いたのはデスゲームが始まってから四日目の早朝ね」

 

 思案しながら答えるその姿は、嘘を付いているようには見えない。

 それどころか、まるで迷宮区に辿り着いて当たり前のように答えるアスナに、アルゴは内心戦慄(せんりつ)した。

 四日目。それも早朝となれば、まだキリトに《アルゴの攻略本》の作製の手伝いをしてもらっていた時だ。

 つまり彼女はたった一人で、夜通し攻略に励んでいたのだろうか? デスゲームとなった今、それは自殺行為に等しいだろう。

 アルゴの中でアスナに対する評価と警戒度を数段階引き上げながら、話を続ける。

 

「……アーちゃんは四日だったかもしれないけど、他のプレイヤーは違ウ。オレっちが知る限りでは転移門が開いたその日、最前線からようやく《トールバーナ》に着きそうだと連絡があったんダ」

「へー。そうなのね」

「βテスターを中心とした最前線が迷宮区に着く前に階層ボスが攻略されタ……。それは、あまりにも変な話ダロ?」

 

 それを聞いて、納得がいったとアスナは頷いた。

 本来の最前線はキリトとアスナであったが、他の者からしてみたら違う。そんな命知らずのソロプレイヤーやパーティーなどは考慮しておらず、《はじまりの街》に待機していたプレイヤーの中の最前線は、まだ迷宮区にすら辿り着いていなかったのだ。

 であれば、当然ボス攻略だって先の話。迷宮区のマッピングをして装備を整えフルレイドパーティーを組むとなれば、更に時間はかかるだろう。

 なのに、突如として第一層は攻略された。

 そう考えてみると攻略したプレイヤー以外、一体何が起きたのか現状を理解できるはずもない。

 

「最初は様々な憶測が飛び交ったヨ。茅場晶彦(GM)が見かねて第二層を解放したとカ、実は正式版からボス攻略をしなくてもいいとカ。本当に、色々とネ」

 

 しかしそれらは、第二層主街区である《ウルバス》に転移し、逆走する形で第一層迷宮区に調査に入った事で否定された。

 βテストの頃と変わらず顕在(けんざい)したボス部屋。そこが巨大な玉座だけを残し、もぬけの殻になっていることによって。

 

「調査の結果ボスの姿は確認されず、本来の入り口である大扉も開いていタ。それらの事から、プレイヤーによってボス攻略がされたんだろうって結論に至ったヨ」

「それで、ボスを攻略した俺とアスナの情報を買いたがっているプレイヤーが一定数いると……そういう訳だな?」

「その時はまだ誰が攻略したか不明だったから、売りようがないって断ったけどネ。アーちゃんにも分かりやすくまとめると、キー坊からしてみたら知られると面倒な情報だから、はぐらかされるかと思ったんだヨ」

「なるほど。情報も売買できるのね」

 

 ボスを攻略したプレイヤーがキリトとアスナの二人である。

 そんな情報がもしも拡散されてしまえば、何らかの面倒ごとに巻き込まれるのは確実だ。パーティー勧誘程度ならまだマシだが、もっと大きな事に巻き込まれることも否定できない。

 アスナの疑問を解消したところで、アルゴは改めて本題へと入る。

 

「一応確認のために、何かボスを倒した証明になるアイテムを見せてくれないカ?」

 

 そこからは話がトントン拍子に進んでいった。

 トレード機能を使って、ボスのLA(ラストアタック)ボーナスである《コート・オブ・ミッドナイト》を確認。

 そしてβテスターでもあったキリトが中心に、正式版との差異をすり合わせていった。

 中でもアルゴが一番驚いたのは、ボス戦の開始と同時に退路が断たれるという情報だ。

 

「実際に大扉がしまった時に開くかどうか確認はしてないから、確定ではないけど……。βテストの時は、そんな演出はなかったよな?」

「そうだネ……。もしその話が本当なら、次のボス攻略ではより準備を整えてから挑まないと、最悪全滅もありえル。外側から開くかどうかも検証しないと、不用意な偵察は命取りになるかも知れないネ」

「ただ、今回の変更はあまりにも初見殺しすぎやしないか? デスゲームになってやり直しもできない中でこれは、やりすぎだと俺は思うんだ」

「もしかしたら、クエスト報酬か何かで情報が出るのかもネ。その辺りも確認が必要カナ」

 

 大体の話がまとまり、徐々に解散の雰囲気が流れ始める。

 それを察知したキリトは軽く咳払いすると、再びアルゴに視線を合わせた。

 

「それで、今回これだけの情報を持ち帰ってボス攻略をした功績はかなり大きいと俺は思うんだが、取引といかないか?」

 

 そのややオーバーな物言いに、アルゴは軽く舌打ちする。

 

「……なんだヨ」

「今回のボス攻略の結果はもちろん、どの様にして攻略が行われたかという情報をアルゴは売らない。それで手を打とう」

 

 そんな事だろうと思ったと、アルゴはため息を吐く。

 もしキリトがボス戦の情報を話してくれなければ、第二層のボス攻略がどうなっていたか分からない。第一層のボス攻略だって結果的に被害は出なかったが、フルレイドパーティーであれば死者が出ていた可能性も充分ある。

 その事を加味すれば、今回の功績と情報の価値は計り知れないだろう。当然情報料を払えるはずもなく、アルゴはキリトの言いなりになるしかないのだ。

 むしろ、その程度で済ませてくれたキリトに感謝しなければならないのだが、アルゴとしては胃が痛くなる思いだ。

 何故なら《アルゴの攻略本》に今回の情報を書かないと攻略に支障がでるから。そのせいでそれを見た他のプレイヤーが、どこでこの情報を手に入れたのかと詰め寄ってくるから。なのにキリトとアスナが攻略した情報は売れないから。

 おかしい。何故自分がこんなにも身を削らなければいけないのか。

 

「分かっ――」

「と、言いたいところだが……」

 

 苦い顔で了承しようとしたアルゴはだが、続くキリトの言葉に遮られた。

 

「今回のボス攻略に関しては、ある程度前線のプレイヤーには共有する必要がある。だからアルゴは、ボス攻略に乗り気なプレイヤーを集めてくれないか? 場所のセッティングと日時は任せるから」

 

 その予想だにしなかったキリトの返答に、アルゴは目を見開く。

 

「……本当にいいのカ? キー坊」

「別に。遅かれ早かれ、俺やアスナの存在はバレることになる。だったら変に隠さない方が、印象だって良くなるだろ? まぁ、信じてもらえるかどうかは別問題だし、全部話すとは限らないけど」

 

 キリトはそう締めくくると、グラスのミルクを飲み干した。

 一息ついたその表情は、何か覚悟を決めたようにも見えた。

 

「なら、キー坊の気が変わらない内に早いとこ準備しないとナ」

 

 ソファから立ち上がり「情報提供感謝するヨ」と言って立ち去るアルゴ。しばらくして、その後を追うように部屋を出ようとしたアスナに、キリトは声を掛けた。

 

「何かあったか?」

「アルゴさんとフレンド登録し忘れたから、ちょっと行ってくるね」

 

 

 

 

 

「アルゴさーん!」

 

 キリトとの交渉が終わり、転移門広場を目指し歩いていると、背後からアスナの声がしてアルゴは振り向いた。

 

「アーちゃん、どうしたんダ?」

「よければなんだけど、私ともフレンドになってほしいなって思って」

「そのぐらい、お安い御用ダヨ」

 

 実際、かなりお安い。

 第一層のボスを攻略するほどの実力を持ったプレイヤーと、無条件でフレンドになれるのだ。アルゴに断る理由などない。

 フレンド登録のためにメニューを開いて操作していると、不意にアスナが話を切り出した。

 

「アルゴさんは何で、キリトがボス攻略をしたと思ったの? 攻略して戻った後、キリトはすぐ寝ちゃったから、誰とも連絡してないはずなんだけど」

「βテストの時に関係があったからネ。詳しくは言えないけど、その時の経験からキー坊が攻略したんじゃないかって、当たりを付けたんダ」

 

 その間にも、アルゴ手はよどみなく進む。そして後は、相手が承認するかどうかの選択画面になり――。

 

 

 

「キリトの情報って、買えたりするの?」

 

 

 

 脈絡のないアスナの言葉に違和感を覚えるよりも早く、アルゴは情報屋としての思考を巡らせた。

 デスゲームが始まった初日、キリトと《リトルネペントの胚珠》を取引する際、彼の個人情報は売買しないと約束している。

 だからアルゴは、キリトの情報を売れない事をやんわりと伝えようとアスナを見た。

 

「申し訳ないけど、キー坊の情報は訳があって売れないんダ」

 

 そう言い終えてから初めて、アスナの雰囲気が先ほどまでとは違うとアルゴは感じ取った。

 一歩踏み込んできたアスナの整った顔が間近に迫る。

 

 

 

「どうしても売れない? 絶対に? それは二人の間で何か取引があったってこと?」

 

 

 

「ア、アーちゃん……?」

「……そっか。アルゴさん、フレンド登録ありがとう。何かあったら連絡するわね」

 

 ニコリと微笑んで、アスナはフレンド申請を承認する。

 そうして立ち去ろうとした彼女は何かを思い出したのか「あっ、そうそう」と言って、アルゴに向き直った。

 

「私がキリトの情報を欲しがってたっていう情報は、誰にも売らないでね? 私だってボス攻略をした一人なんだから、そのぐらい――問題ないわよね?」

 

 その問いにアルゴが無言で何度も頷くと、アスナは今度こそ(きびす)を返す。

 彼女の姿が農家のドアの向こう側に消えてから、アルゴは呟く。

 

「……あまり、刺激しない方が良さそうダナ」

 

 ほんわかしていて隙だらけのように感じた。そんなアスナの雰囲気に騙されていた自分に反省し、アルゴは再び転移門に向け歩き出した。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 これからどうしようか。

 茅場晶彦(GM)によってデスゲーム(SAO)開始が告げられたその瞬間、リズベットが最初に考えたのは今後の身の振り方だった。

 モンスターと戦うことは、必然的に死と隣り合わせということ。生きたいのであれば、街に引きこもればいい。かと言って、何もせずに攻略されるまで待つというのは、彼女の(しょう)には合わなかった。

 何故ならリズベットは生粋のゲーマーだ。

 今でこそデスゲームとなってしまったこのSAOの争奪戦に勝ち、サービス開始と同時にログインし、今の今までログアウトボタンの消失に気付かない程のめり込んでいたぐらいには。

 そんな自分が死にたくないからと、何もしないで街に引きこもる? あり得ないな。

 それが彼女の答えだった。

 

 そうやって様々な自分の姿を想像している内に、やってみたいことが一つ思い浮かんだ。

 ――お店を経営したい。

 それは、子供の頃からの夢。現実(リアル)であればまだまだ先の話であると考えていたが、このSAOであればどうだろうか。

 だってここはゲームの世界。年齢は関係ないし、法律だってなにもない。システムが許す限り、何をしたっていいのだ。

 それに生産職であれば、間接的にも攻略の手助けができるのではないか。

 そう考えたリズベットの行動は早かった。

 《はじまりの街》の中央広場に強制転移する前、街の中を散策していた時に見つけたいくつかのクエスト。その中の一つに、鍛冶屋の見習いを体験できるものがあったことを思い出す。

 鍛冶屋の主な役割は装備の製造と強化。その重要性と需要の高さは、SAOがデスゲームとなったことで更に跳ね上がったことだろう。

 

「決めた! 今日から私の目標は、この世界最大手の鍛冶屋《リズベット武具店》を開くこと! 絶対に生き抜いてやるぞー!」

 

 そんなリズベットの決意表明は、未だ鳴り止まぬ怒声や悲鳴に混ざって消えていった。

 




【後書き】

 お久し振りです。
 第二層編を書き始めましたが、正直見切り発車なので後から書き直す場合もありますがご了承ください。

 ではでは、また次回お会いしましょう。
 お気に入り、評価、感想など、お気軽に。
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