今日の箒ちゃんイジメ事件から暴力沙汰まで発展するなんて。今日は本当に面倒な事が多かった。まさか、あそこで教師が来るとは。そんな事を思いながら今日の出来事を振り返った。
家に帰り、私は千冬姉さんに抱きつかれながら本を読んでいる。本のタイトルは『絶対に笑う一言』だ。私は表情を変えずにパラパラとページをめくる。
ちなみに、一夏は今、台所で調理中だ。姉よ、弟に料理させるのか。と思うが、断然と言っても良いほど私と一夏の方が料理は美味しいのだ。一夏に料理の基礎を覚えさせ、作らせた結果、小学2年生で一般家庭の主婦と良い勝負の美味しさだ。おそらく、後数年もすれば店に出しても良いレベルまで上がるだろう。
そんな事を考えていると千冬姉さんが抱き締める力を強めてきた。苦しいわけではないがとても読みづらい。いつもは表情に出さないが恥ずかしいので拒否するのだが、今日の一件で千冬姉さんの怒り、それを抑えるために『24時間、喋る事以外なら言うことを聞く』ということで、抑えて貰ったのだ。それで、今は千冬姉さんの言うことを聞いているのだ。
『千冬姉さんもう少し力を緩めて』
「ん?ああ、悪い。ついな。明日の夕食まで言うことを聞いてくれるとなると嬉しくてな。それより千夏その本なんだが……面白いのか?」
千冬姉さんは本のタイトルを見て私に質問してきた。私の星基準の評価は1から5までだ。今まで見てきたページから評価するならば
『星3つ』
「どういう評価なのだ?」
『この程度では笑わないという評価。私を笑わせたかったら後2つほど星を上げないといけない』
上げたとしても笑うつもりはこれぽっちもないのだが。
そして、読み終える。ふむ、やはり星3つだな。そう思い本を膝の上に置く。
千冬姉さんは私が読み終わった本を手に取り読んで良いかと聞いてきたのでコクンと頷く。その際、千冬姉さんから解放され、料理を手伝おうとキッチンに向かう。キッチンに行くととてもいい匂いがして来た。どうやら、料理は完成してたようだ。一夏は私が来たことに気がつく。
「あ、夏兄。そろそろご飯炊けると思うから食器出して貰える」
私は頷き、食器棚から必要な皿を出す。出した皿に一夏が盛り付けをしている間にご飯が炊けたようなので私はご飯の盛りつけをする。
流石に2人では持っていけないと思い、千冬姉さんに手伝ってとお願いしに行く。すると、千冬姉さんが必死に笑いを堪えているのを見つけた。千冬姉さんは私が居ることに気付き、すぐに何時ものクールな千冬姉さんに戻った。
「千夏どうした?」
『2人じゃ手が足りないから手伝って』
分かったと千冬姉さんは答え、立ち上がる。私と千冬姉さんはキッチンに向かう。そこからはスムーズに料理を並べていき、全員椅子に座り、いただきますと言い食べ始める。
やはり、一夏の料理の腕は上がっている。そう思い、食べ進める。すると、2人の視線に気がついた。
「夏兄、口の傷は大丈夫?ちゃんとご飯食べられる?」
「表情に出さないから分からないから、私も一夏も気になるんだ」
ああ、そう言うことか、傷なら治したからどうという事は無いけど。突然傷が治ったなんて事が分かったら、千冬姉さんに追求されるな。取りあえずは、適当に流そう。
『全然痛くないから大丈夫。寧ろ、一夏の料理が美味しくて箸が止まらなくなりそうだ』
一夏はそれを見てとても嬉しそうにしている。それは誰だって褒められれば嬉しくなるだろう。
だがしかし、千冬姉さんだけは疑っている。ジーッと私を見ている。私はその視線に耐えられなくなる。
『千冬姉さんそんなに気になるの?』
「それはそうだ。千夏は表情に出さないからどうしても疑ってしまうんだ。本当は痛いんじゃないかと─────」
私は千冬姉さんの開いている口に手掴みで唐揚げを口に入れた。流石に手掴みは行儀が悪いと思ったが口を塞ぐためだ。口に入れた際に指が口の中に入ってしまうが、気にしない。
『千冬姉さんは心配性過ぎ。私は大丈夫だからちゃんとご飯を食べて』
「う、うむ…………」
「夏兄、手掴みなんて行儀悪いよ」
『千冬姉さんが私のことを気にして食べてなかったから仕方ない』
「むっ、千夏それは私が悪いというのか?」
『勿論。私を信用しなかった罰でもある』
千冬姉さんはその言葉を聞き、顎に手を当てて、そういう罰なら幾らでも受けるのだがなどと言っている。そうか、ならもっとちゃんとした罰を考えないとな。そう思った。
◇◇◇
一夏に料理を任せたので私は後片付けをすることにした。その際、一夏はオレもと言っていっていた。しかし、私はそんな事お構いなく食器を洗い始める。勿論、一夏には一切洗わせないようにして。食器を洗い終え、一段落ついていると千冬姉さんが
「さて、千夏。一緒にお風呂に入るぞ」
と言ってきた。そして、私を抱きかかえそのまま風呂場まで連れて行こうとする。
『一夏も一緒に』
一夏も道連れにしようとする。
「一夏なら疲れて、そこに」
ソファーに寝ていた。まさか、寝てしまっているとは思わなかった。まだ子供なのだから仕方がないことか。そんな事を思っているうちに千冬姉さんが脱衣場まで私を連れてきていた。此処まで来たのなら仕方がない。いや、どちらにせよ今の千冬姉さんの言うことは絶対だ。
着ている服を脱いでいく。そして、自分でも綺麗と思う肌が露出されていく。チラリと千冬姉さんの方を見ると何故か鼻を抑えている。
「……千夏…その脱ぎ方はどうにかしてくれ」
脱ぎ方?どういう事だろう。訳が分からない。
『どういうこと?』
「その……ゆっくりと…肌を……妖艶に脱ぐのをだな……ああ、もういい!」
そう言って私を抱きかかえ風呂場に突入。そして、千冬姉さんに体を洗われる。勿論、前は自分で洗った。流石の私でも恥ずかしから無理なのだ。洗って貰ったので私も千冬姉さんの背中を洗うことにする。しかし、今は紙とペンは無いのでジェスチャーで伝えようとする。
「ん?どうした千夏。……背中を流してくれるのか?」
ジェスチャーが伝わってくれた。私は頷き、千冬姉さんを見る。千冬姉さんは私にタオルを渡す。しかし、タオルで洗うよりは手で洗った方が肌に優しいということを聞いたときがある。自慢の千冬姉さんには綺麗でいて欲しいが為に手で洗うことにする。
「千夏、タオルにしては感触が違うのだが」
それはそうだ。必死で手で洗っているのだから。それにしても、千冬姉さんの肌すべすべしてて、綺麗だな。そんな事を思いながら背中を洗い続ける。
位置を変えようと動く。その際、足が滑り、千冬姉さんの方に倒れる。倒れる際に千冬姉さんの背中を手で上から下になぞる形になり
「ひゃぁ!?」
可愛らしい声を出した。しかし、私はそれどころじゃなく千冬姉さんに思いっきりしがみついた。しがみついた際千冬姉さんと体が密着する。私は慌てて離れる。千冬姉さんは振り向き私の方を見る。私は見上げる形で千冬姉さん見る。すると、千冬姉さんの顔が真っ赤になっていた。
シャワーだけでのぼせたのかな?そんな事を思い千冬姉さんを見ている。しかし、数秒経っても千冬姉さんは動かない。目の近くで手を振るが何も反応がなく固まっている。
流石にこの格好で固まり続ければ体が冷えて、風邪を引くと思い、千冬姉さんの肩を叩く。
「……はっ!千夏、大丈夫だったか!?」
千冬姉さんは我に返り私を心配してくる。私は頷き、大丈夫ということをアピールする。千冬姉さんは安心したのか私の頭を撫でてきた。
こればっかりは私が悪いので本当に申し訳ないと心の中で思った。
そこからは何事もなく入浴は終了。脱衣場にて私は千冬姉さんから髪を乾かしてもらっている。
「千夏の髪は綺麗だな」
『髪を褒められても男として微妙』
女顔だって男なのだ。男としてはカッコ良くなりたいものだ。おそらく、その希望は雲を掴むより難易度が高いと思われる。
それにしても流石の私も疲れた。今日は色々と有りすぎたのだ。子供ボディであるが為、眠気が……睡魔が……
◇◇◇
「ん?千夏?」
千夏の髪を乾かしていると私の方に体を委ねてきた。どうやら、疲れて寝てしまったようだ。どんなに大人びていてもこういう部分は子供なのだなと思う。
千夏は不思議な弟だ。活発的な一夏と正反対の静かな千夏。あまりの落ち着いていて本当に子供なのかと時折思ってしまう。自我をしっかりしていて私に迷惑をかけないように我が儘を言わない。姉としては寂しいものだ。
「おやおや、ちーちゃんがそんな顔してるなんて─────痛い!ちーちゃんそれは痛いよ!?」
「束。何故此処にいる」
「勿論、なーくんの裸を堪能───力が増してるよ!痛い、流石の束さんもこれは─」
「無駄口が叩けるんだ。まだ力を入れても構わないだろう?それに大声を出すな。千夏が起きる」
「ちーちゃん、それは束さんに声を出さないで痛覚を我慢しろと。……それより本題はアレのことで話に来たんだけど。放してくれないかな」
仕方なく私は束の頭を掴んでいる手を放す。束の話を聞く前に千夏を私のベットに寝かせなければ。束に待っていろと言い、ソファーに寝ている一夏と千夏を抱きかかえ、一夏は部屋に寝かせ、千夏は私の部屋に寝かせる。
「なーくんの寝顔最高だね」
いつの間にか私の部屋に入ってきていた束が千夏の寝顔を見ている。
「何故お前は待っていられない」
「束さんを縛れるものは世界中どこにも───待とうかちーちゃんその私の頭を掴んでいる手を放そうか」
「お前を縛れるものは世界中どこにもないのだろ?なら抜けてみろ。私も全力でお前を握り潰す」
「ちょっ!?握り潰すなんて嘘だよね!?え!?ちょっと、本当に全力でされたら束さんの素敵な頭がグチャって───」
「五月蠅い黙って」
千夏の声が聞こえてきた。久し振りに聞いた綺麗な声、まさか、起こしてしまった焦り、千夏の所に行くがどうやら寝言だったようだ。
良かったと思っていると束が声を出さず、転がり回っている。このバカは何をやっているんだ?と思い眺める。
「……そういえば今、力を入れてそのまま落としたのだな」
束が転がっている理由がわかった。千夏の声が聞こえるほんの一瞬前に全力で束の頭を握り潰そうとしたんだ。そして、千夏の声を聞き、束を掴んでいた手を放す。それで今の状態だ。
「取りあえず、千夏の睡眠の邪魔になる。下に行くぞ」
「わかったよー。でもちょっと待ってね」
束は返事をすると千夏が寝ているベットに向かった。変なことをしたらただじゃおかない。と心の中で思っていると、束が千夏の顔に唇を近付けていた。
「束、少し話をしようか」
「ちーちゃん人間辞めてない?」
私の行動は早かった。私と束の距離を一瞬で縮め、束の頭を握り潰す一歩手前の力で掴んでいる。そして、束を引きずって下に行く。
◇◇◇
目を覚ますと体が動かない。何かに抱きつかれているようだ。おそらく、千冬姉さんだろうと思うがおかしい。左右両方から抱きつかれている感じがする。私はまず右を向く。千冬姉さんが寝ている。なら、左はと思い振り向いた瞬間、頬に何かが当たる。
「えへへへ、なーくんおはようのチューだよ」
……天災こと、束さんが抱きついていた。それよりも疑問なのは何故一緒に寝ているのかだ。
「なーくんはいつ見ても綺麗だね。寝顔なんて最高だったよ」
今、筆談出来る紙が無いので何も出来ない。ペンは常に装備している。入浴中以外は。故にコミュニケーションが取れないのだ。
「それより、なーくんには色々と質問があるんだよね。答えは別に後でで良いから。まずは、なーくんは何者なの?あまりにも大人びていて子供の一面が殆どない。更に付け加えるなら、無表情で無口。どう考えても子供では有り得ないんだよ?」
そう言われても私は私としか答えようがない。織斑千夏でありそれ以上でもそれ以下でもない。
「次になんで、口の中の傷が治っているのかな?箒ちゃんからなーくんが口の中を深く切っているようだって聞かされてたけど、寝ているとき見た感じだと傷跡すら見当たらない。かといって箒ちゃんが嘘をつくって言うのも考えにくい。だって私のせいで傷ついたって言ってたんだもん」
箒ちゃんはそんな事を思っていたのか。別に気にしていないのに。
それにしてもこの人には驚いてばかりだよ。予想であれば束さんは私が異質な存在だと気付いているのかも。だとすれば千冬姉さんも薄々気付いているのかも。
「最後の質問はね。なーくんの言った言葉はその通りになるのかな?私も最初はそんなわけないと思っていたけれど、箒ちゃんをイジメた連中に謝らせるために謝ってって言ったね。その後、その連中は素直に謝った。この時はまだ不思議に思っただけで確信してなかったけど、なーくんが寝言で五月蠅い黙ってって言ったときに私は声が出せなかったんだ。これで確信したんだ。なーくんの言った言葉はその通りになるってことを。だからなーくんは喋らないんだよね」
……まさか、此処まで気付かれてたのか。それよりも寝言で言葉の力を使っていたなんて。それより何故昨日学校での出来事をその場で見たような感じで話しているんだ。……やっぱり盗聴と盗撮などが上がるのは悪くないと思う。
しかし、此処まで気付かれているんだから別に少し喋っても構わないかな。束さんは結構口固そうだし。
「最初の質問は、私は織斑千夏であってそれ以上でもそれ以下でもない。二つ目の質問は私が治したとしか言えない。三つ目は半分正解で半分はずれ……なんで固まっているの?」
束さんは私を見ながら驚いている。有り得ないが兎が世界を征服したのを間近で見たような感じだ。……目の前の兎ならそれを可能にしそうだけど。けど、兎が世界征服したら誰だって驚くよね。
「……なーくんが喋った。何、その声、私の心が更にズッキュンしちゃったんだけど」
束さんは顔を赤くして私を見ている。少しだけ息が荒い気がする。
(やっほーアナタの神様だよ~)
電波を受信してしまったようだ。直ちに切らないと私がおかしくなる。
(もうその言い草酷いな。それはそうと言い忘れてたけどアナタには言葉の力以外に、声の魅力って言う私が作ったオリジナルの能力があるんだ。アナタの声を長く聞けば胸がズッキュンてして、次第に惹かれるっていう呪いが掛かってるからね~)
……呪いって言い放ちましたよ。それに前の説明で話しておいて欲しかったのですがあの腐れ電波。容易に喋ることが出来なくなってしまったじゃないですか。あのくらいの長さでこうなるのならやはり、喋るとしても一言と言うわけですね。
「ねぇ、なーくん。私なんだか胸が熱くなってきたんだ。それに何だかキューってする」
……もう、滅多なことでは口は開かない。絶対にだ。そんな事を思っていると束さんが乗り掛かってきた。そして、顔を近付けてくる。そして、後僅かで顔と顔が重なる。
「束。千夏に何をしようしている?」
丁度良く、千冬姉さんが起きたようだ。その言葉で束さんの顔は真っ赤だったのが真っ青になっていくのが分かる。私としては助かって良かった。
「千夏、朝食の準備を頼む。私は少し運動をするからな」
私はすぐさまベットから降りる。
『それじゃあ、美味しいのを作っておくから』
「ああ、頼んだぞ」
「ち、ちーちゃん?物凄く怖い顔になってるよ?い、いつもの表情じゃ────」
私は部屋から出て行き、キッチンに向かう。その際、先程までいた部屋からは断末魔が聞こえてきた。南無三。
千冬姉さんが下に降りてきたときには束さんはボロボロで本当に生きているのかと心配してしまった。が、私が近付くと直ぐに復活した。この人、人間辞めてないかな。
◇◇◇
キングクリムゾン!
腐れ電波………すみません言葉が汚くなりました。あの事件以来箒ちゃんとはそれなりの頻度でコミュニケーションをとっています。箒ちゃんからお礼を言われたときは驚きました。私は何もしていないのに。
まあ、現実逃避はこれぐらいにしておいて現在、日本に向けて大量のミサイルが飛んできている。聞いた話……というよりは束さんの愚痴で散々聞かされたので大体の事情は理解しています。
そのせいで、家にいる一夏と箒ちゃんは大泣きしています。私は束さん本人がやったことなのでおそらく対処出来ると考えているのであまり心配していません。それに千冬姉さんが一緒に行ったということは確実に何とかしてくれる。
だから、私が出来ることは此処に居る2人を安心させること。
「一夏、箒ちゃん大丈夫だよ。大丈夫」
大丈夫と2人に言い聞かせる。安心するまでずっと。暫くすると2人は安心したのか、泣き疲れたのかどちらかわからないが寝てしまった。2人の寝顔は可愛く思わず微笑んでしまった。
私は外に出て空を見る。まだ遠くから爆音が聞こえる。私は跳び屋根に登る。セラフィムという方の身体能力のお陰でそれなりに遠いところまで見ることが出来る。
爆音が聞こえるところを目を凝らしてみる。白い騎士が空を飛び、ミサイルを落としている。おそらく、あれが千冬姉さんだろう。圧倒的な強さ。けど、危うい。数が多いのだろう。
そんな事を思い見ていると予想していた通り一発だけ抜けてしまう。私は手元にあったいらないペンを束ねて
「ミサイルを撃ち抜いて」
自分に言葉の力を使った。放ったペンは異常なほど速く真っ直ぐミサイルに飛んでいき貫通する。そして、爆発。
私はそれを確認し、家に戻る。頭痛が酷い。おそらく、自分に言葉の力を使った代償が大きかったのだろう。いくら、身体能力が優れていたからとはいえ、あそこまで投げられない故に使ったのだから。相当負担をかけるのは目に見えていた。
意識が朦朧とするなか一夏と箒ちゃんの所に戻り、そのまま倒れるように意識を失った。