「うう………」
放課後。今は一夏が机でぐったりとうなだれている。私は─────
「ち、千夏くん。……その…ほっぺた触っていい?」
『構わない』
私は読んでいる本を見ながらそう答える。
「皆~触って良いって~!」
女子に揉みくちゃにされている。先程までは質問攻めだった。そこから何故か頬を触って良いかと聞いてきたので私は別に気にしないから了承すると一人ではなく、大勢で触ってきた。これには驚いた。それより、頬を触って良いかと聞いておいて髪まで触っている。
「……千夏くんは一組のマスコットよ!」
一人の女子が何かを言いだした。
私がマスコット?……何故だ?
そんな事を思いながら触られ続けると突然、周りの人が離れていった。私は不思議に思い、読んでいる本から視線を外すとそこに千冬姉さんがいた。一夏の所には山田先生がいて、何故か一夏と離れたところで此方を見ている。
何故震えているの?最初に一夏と山田先生を見た感想だ。何か恐ろしいものがあるのだろうか?それとも春だけど寒いとか?
長考していると頭に何かが乗せられた。
「全く最近の小娘共は程度というものを知らんのか」
千冬姉さんが頭に手を乗せて撫で始めた。
『別に平気です』
「千夏、しかしだな──」
千冬姉さんの言葉遮り、今日の朝から気になっていたことを訊いてみる。
『それより、何故織斑先生は私のことを名前で呼んで、一夏は織斑なんですか?』
「むっ、それは……」
言葉を詰まらせる千冬姉さん。私は千冬姉さんの目を見る。予想していたとおり千冬姉さんの目は泳いでいた。千冬姉さんは何か後ろめたいことがあると目を泳がすのだ。例えば部屋が汚いのを私に知られたくないとか。
おそらく、この場合は
『仕事に私情は持ち込まない方がよいのではないですか?』
「し、しかしだな──」
千冬姉さんは少し慌ててる。私が書いたとおり私情で呼んでいたらしい。
千冬姉さんは何かを言い放とうとするが私はその言葉を遮り
『私を名前で呼ぶなら一夏も名前で呼んだ方がいいですよ。それに織斑で私が反応する可能性がありますよ』
「……わかった」
そう言い千冬姉さんは渋々、了承する。
全く千冬姉さんは一夏対して辛辣過ぎるんだ。それに比べ、私に対しては過保護過ぎる。ドイツから……いやもっと前から過保護なのだ。ドイツから帰ってくると前よりも過保護になっているし。
私が長考していると山田先生と一夏が此方に来ていた。どうやら、私と一夏は寮に入ることになったようだ。事前に訊いていた話では暫く自宅通学だったのだが、無理矢理寮に入れたようだ。相部屋と個室の二部屋だ。相部屋にはすでに生徒が入っており、男女同室になるそうだ。
「そこで、千夏が相部屋になる。一夏は個室だ。……何故、千夏が個室ではないのだ。しかし、同室はアイツだから大丈夫なはず……」
何故、私が相部屋なのだ。私も個室の方が良い。そう思い、一夏の方を見ると物凄く良い笑顔だ。少しイラッと来たのは悪いことではないはず。一発殴ってもいいかな?
そんなことを思っていると突然、両肩を掴まれ驚く。
「千夏!何かあったら寮長室に来い!いいな!」
目と鼻の先に千冬姉さんの顔があり、とても必死に言っていた。なるほど、千冬姉さんは寮長室に住んでいるのだな。なら、掃除にしに行かなければ。
取り敢えず千冬姉さんには頷いておく。すると、山田先生が補足で付け足す。
「ええっと、それですね。一夏くんと千夏くんは大浴場は使えませんので」
「えっ?何でですか?」
此処は女子校というのに何でですかと訊くか普通は。
「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
『変態』
「あー……って夏兄酷い!?」
『素直な感想』
「い、一夏くんっ、女の子と入りたいんですか!?だ、だめですよ!」
全くだ。それとも捕まるのを前提に大浴場に入るかのか?
そんな事を考えていると一夏がチラリと私の方を見た。そして、視線を外し
「い、いや、入りたくないです!」
「ええっ?お、女の子に興味が無いんですか!?それはそれで問題です……」
そういう考えに至る山田先生が問題のような気がする。千冬姉さんを見ると頭を抱えている。どうやら、苦労しているようだ。
……それよりもさっきから一夏がチラチラ見てくる。
『一夏何か用でもあるの?』
「えっ!?……いや、その……」
勿体ぶりながら言葉を濁す。私はジーッと見続ける。山田先生と千冬姉さんも興味があるのか見ている。そして、一夏は口を開く。
「いや~夏兄が女子と大浴場で一緒に入っても問題ないんじゃないかと……思いません。だから、その鳩尾に突きつけているペンを離してください!」
『い・や・だ☆』
そう書いた紙を一夏に見せ、ペンに力を加え、一夏の鳩尾を抉るつもりで突いた。
あまりの痛さに一夏は倒れ、声にならない悲鳴を上げ、転がり回っている。
「えっ、織斑家の最強って千夏くん?」
周りで見ていた女子の誰かがボソッと呟いた。生憎、一夏の呻き声で周りには聞こえていなかったようだが、偶然私の耳には聞こえてきた。
私より千冬姉さんの方が最強だと思うのだが。
「千夏、これが部屋の鍵だ。此方の1025が千夏。1026が一夏だ。一夏はあんな状態だから渡しておくぞ。これから、私と山田先生は仕事なんでな」
『お手数をかけました』
ぺこりと頭を下げ、上げる。顔を上げると千冬姉さんが鼻を押さえいた。それに心なしか顔が──
「あれ?織斑先生、顔が真っ赤に──って、痛いです!なんで、頭を掴むんですか!」
「……山田先生、さっさと仕事をしに行きましょうか」
そう言い千冬姉さんは山田先生の頭を掴み、引きずりながら職員室に向かっていった。
一夏はというと鳩尾を抑えながら立ち上がった。
「……夏兄のペンは千冬姉の出席簿と遜色ない威力だよ」
そんな事を口にする。私と千冬姉さんの力の差はかなり大きいと思う。なんせ、私は一夏の鳩尾を全力で抉りにいったからそれほどのダメージを与えたのだ。それに比べ、千冬姉さんは手加減して出席簿で叩いているから痛いレベルなのだ。もし、千冬姉さんが全力で叩いたとなれば、保健室送りだ。……いや、それだけではすまない。おそらく、脳震盪を起こして病院送りになるだろう
そんな事を考えていると一夏が鳩尾をさすりながら口を開く。
「夏兄、そろそろ部屋に行かない?流石に初日で疲れたし」
『異議なし』
そう言い私と一夏は寮へ向かった。
◇◇◇
部屋の前で一夏と別れ、私は1025号に入る。どうやらルームメイトは、まだいないようだ。それにしても何故一夏と同室ではないのだろう。まあ、隣が一夏の部屋だからいいんのだけど、出来れば私が個室が良かった。
そんな事を思いベットにダイブ。
今日は疲れた。初日からこうだと先が思いやられる。
そんな事を思いながら今日質問されたことを思い出した。
「ち、千夏君って本当に男の子なの?」
その言葉に私は固まった。それと同時に私はそんなに男の子っぽくないのか?と思ってしまった。そう思いながら紙に男だよと書いた時の周りの反応がすごかった。
私はベットから下りて、近くにあった鏡の前に立つ。本当に男の子っぽくないのか確認するために上を脱ぐ。鏡に映った自分を見る。白い肌それにすべすべでシミ一つ無い。力を入れてしまえばポッキリ折れてしまいそうな細い腕、それに、くびれが出来ている。これは……どう考えても男じゃない。
「夏兄居る───って夏兄なんで上を脱いでるの!?」
一夏の方を見るとどう考えても男として見ていない。顔を逸らしているのだから。それより一夏、お前ノックもせずに入るとはどういうことだ。
私は服を着る。そして、一夏の方を向く
『何か用があるの?』
そう書きながらベットに座る
一夏は私が服を着たことを確認すると私の方に近付く。
「ちょっと疑問に────うわっ!?」
一夏が何もないところで躓いて転ぶ。というより私の方にダイブしてくる。
そして、私は押し倒された。ベットがもふもふのお陰で衝撃は来なかったが、一夏が重い。
「な、夏兄悪い!今、退けるよ」
そう言い、一夏は腕に力を入れる。しかし、ベットがもふもふの過ぎたのか腕がもふもふに沈み、力がうまく入らず、再び倒れてきた。一夏は何とか踏ん張る。
「あっ……」
今の状態は一夏が腕の力を抜いたらキスをしてしまいそうな、顔と顔の距離だ。そして、一夏は頬を赤く染める
おい、一夏。何故、頬染める。
この現状で私が殴っても許されると思うのはおかしいかな。
そんな事を思っているとシャワー室から誰かが出て来た。
「誰か居るのか?こんな格好で、すまないが一年間同室となった、篠ノ之───」
この声はもしかして箒ちゃん?
「───箒」
私の思った通り、シャワー室から出て来たのは箒ちゃんだった。私はルームメイトが箒ちゃんということに驚いた。それと同時に安心した。もし、ルームメイトが見ず知らずの人だったらどうしようと考えていた。けれども、知り合い、それも幼なじみがルームメイトなのだ。少しは気が楽だろう。それよりも服を着ようよ箒ちゃん。
「…………い、一夏!な、何をやっているのだお前は!」
箒ちゃんは今の状態を見て一夏に怒鳴りつける。当の本人はというと
「へ?」
何故、怒鳴られたのかわからないといった顔をしている。
よく考えたらわかるはずだ。ベットの上で実の兄を押し倒している弟。この状態に至るまでの経緯を見ていないとなると一夏が押し倒して私を襲おうとしている風に見えるだろう。それに自分で言うのもなんだが、私は男に見えない。それに、私の制服が乱れているのも加えられ、一夏は
「この変態が!」
予想通りの変態のレッテルを貼られた。
「いや、なんでだよ!?」
一夏がそう言い、何とかして立ち上がった。しかし、箒ちゃんの行動は早かった。箒ちゃんは壁に立てかけてあった木刀を取ると、立ち上がった一夏に向かって上段から振り落とす。一夏は何とか避けるが、箒ちゃんの攻撃は続く。箒ちゃんは完全に振り落とさず、途中で木刀を止め、そのまま突く。勿論、見た感じだとそれなりの力が加えられている。
ブォンという音を立て木刀による突きは一夏の顔の真横を通る。流石の一夏もこれは命が危ないと思ったのか、私の方を向き、助けてという視線が送られてきた。
しかし、私は先程顔を近づけただけで顔を赤く染めた一夏の反応を思い出す。実の兄に対してあの反応は駄目じゃないかと思い私は──
『危うく、弟に汚されるところだった』
そう書いた。勿論二人に見えるように紙を見せている。それを見た一夏は、絶望した顔になり、箒ちゃんは更に怒りを表に出す。
そして、一夏は助けはないとわかり、全力で出口を目指す。箒ちゃんはそれを追いかける。
一夏は何とか部屋の外へ逃げ切った。私はふと考える。命かながら逃げ切った人間はどういう行動をするだろうか。その場に座り込むのか?それとも、もっと離れたところに逃げるのか。そんなことを思いつつ、箒ちゃんを見れば扉に向かい、突きをする構えをとっている。そして、箒ちゃんの突きが部屋の扉を貫通する音が聞こえてきた。
「うわぁ!?危ないっ!?」
一夏はどうやら扉を背に座っていたらしく、木刀が貫通してきたことに驚いたのだろう。箒ちゃんはそこに一夏が居るということをまるでわかっているかのように的確に突く。何故そんな事がわかるかって?それは外から一夏の声が聞こえるからだ。
流石にこれ以上はマズいと思い、箒ちゃんの下へ歩いて行こうとする。が、私はあることに気付く。
そのあることとは箒ちゃんが先程まで巻いていたバスタオルが落ちているのだ。
カァーっと顔が真っ赤になっていくのがわかる。それと同時に箒ちゃんにこの事を早くも教えないといけない。じゃないと風邪を引いてしまう。しかし、箒ちゃんの方を向けない。
そんな事を考えていると木刀で扉を貫く音がやむ。ひたひたと、箒ちゃんが此方に来る足音が聞こえる。
「千夏、大丈夫だったか?」
私の心配よりも箒ちゃん自分の格好に気付いて。
「全く、一夏のヤツめ。千夏を押し倒して……なんて羨ましい。それよりも、何故千夏は後ろを向いているのだ?」
『箒ちゃんの格好のせい』
そう私は急いで紙に書いて後ろにいる箒ちゃんに投げ渡し、布団に潜る。
「私の格好?………─────きゃああ!?」
箒ちゃんの悲鳴が聞こえてきた。私は布団に潜っているため、声が聞こえるだけだ。
するとバンと扉が勢いよく開かれる音が聞こえた。
「どうした!?ほう……き?」
一夏の声が聞こえてくる。おそらく、箒ちゃんの悲鳴が聞こえてきた為、何かあったと思い来たのだろう。
それにしても先程命かながら逃げた所に戻ってくるとは。
「ちょっ!?箒!?止めっ───危なッ!?」
布団の外からは一夏の声しか聞こえない。いや、音も聞こえてくる。尋常じゃないスピードを出している音だ。
「いっ!?避けれな………」
一夏が何かを叫ぼうとしたが声が途切れた。それと同時に音も聞こえなくなる。そして、数分後が経ち、布団が引きはがされた。
「もう、着替えたから大丈夫だ」
そう言われ、私は箒ちゃんの方を見る。箒ちゃんは剣道着に着替えていた。
剣道着とはいえ、箒ちゃんは綺麗なためにとても似合っているとしかいえない。
そんなことを考えていると箒ちゃんが口を開く。
「……気になったのだが千夏と一夏どちらが同居人だ?」
『私』
「そうか………そうか、千夏と同居……ふふふ」
箒ちゃんは私がルームメイトと訊いた途端、嬉しそうに微笑んだ。そして、濡れたまま、下ろしていた髪を結おうとする。
『ストップ』
私は制止するように促す。箒ちゃんはそれを見て動きを止める。
「どうしたのだ?」
『どうしたじゃない。髪が濡れたまま。それじゃあキューティクルが痛む』
そう書き、私は部屋に置かれていた自分の荷物からドライヤーと櫛を取り出す。
『私がやって上げる』
「ちょっ、千夏」
私は無理矢理、箒ちゃんを近くにあった椅子に座らせる。ドライヤーと櫛を使い、丁寧に髪を梳る。何せ、女の子なのだから髪には気を使わないといけない。そう言う風に千冬姉さんに教えて貰ったのだから。
……あれ?もしかしてこんな男の子っぽくなくなったのは千冬姉さんのせいなのか?
そんな疑問が渦巻いたまま箒ちゃんの髪を梳っていく。
◇◇◇
翌日
今、私の視界には剣道で箒ちゃんにボコボコにされている一夏が映っている。
箒ちゃんが一方的に攻め続け、一夏は防戦一方。箒ちゃんは圧倒的な力の差を見せつけている。
何故、こんな事になっているのかというと、どうやら私と一夏に専用機が用意されるらしい。しかし、問題が発生したのだ。どちらか一人の専用機しか、決闘の日まで間に合わないという事だ。
それを訊いた私は即答で一夏に、と千冬姉さんに伝えた。一夏は私に、と言ったが無論、拒否した。それでも引かない一夏に
『箒ちゃんに勝ったら考えてあげる』
そう書いてしまった。この時、私は他人様に迷惑をかけてしまうと思い、訂正しようとしたら、あら不思議、一夏がいない。まさかと思い、箒ちゃんがいるであろう私達の部屋に行くと
「箒、オレと勝負してくれ」
と勝負を申し込んでいた。私は遅かったと嘆いた。しかし、思ってもいない方向へ進んだのだ。
「…剣道なら構わんが」
「よし、なら今すぐにだ」
そして、今の一方的な試合になっているのだ。勿論、移動中に箒ちゃんには一夏が勝負を申し込んだ経緯を話し、それと同時に私の身勝手さを謝った。それに対して箒ちゃんは別に構わないと言ってくれた
試合を始めてもうすぐで10分経つ。流石に一夏の動きが鈍くなってきた。箒ちゃんも疲れが見えてきているけど一夏ほどではない。私の予想だとそろそろ。そう思った瞬間、箒ちゃんの竹刀が一夏の面を捉えた。
「どういうことだ」
「いや、どういうことと言われても……」
「確かに小学生の時よりも筋力は付いて一撃の重みはある。しかし、何故ここまで弱くなっている!?」
「いや、それは受験勉強のせいかな……」
「……中学校は何部に所属していた」
「帰宅部。けど、竹刀は振ってたんだぜ」
『けど、受験シーズンはサボってた』
因みに私は受験シーズンでも鎌を振り回してたよ。
「鍛え直す。最低でも私と打ち合えるぐらいまでにだ!」
「ちょっ、箒!?オレはISの訓練もやらないと──」
「それ以前の問題だ!」
そう一喝し、一夏を黙らせる。すると箒ちゃんは私の方を向いてき、私の顔をじっと見つめてくる。そして、口を開く。
「千夏は大丈夫なのだな」
『もちのろん。前にチョココロネさんにやったの見たでしょ?』
因みにあの金髪さんの名前を結局聞けずにいるのだ。故にチョココロネさんと呼んでいる。
「……チョココロネさん?ああ、そういうことか。確かにあれはチョココロネを連想できるな。それよりも私としてはどういった動きをしたのか全く分からなかったのだが……まあ、後で訊くことにしよう。それと一夏の事だが私が責任を持って鍛え直すので安心しろ」
チョココロネさんというを訊き、少し戸惑った箒ちゃんだったが、ちゃんと金髪さんを連想したようだ。それよりも、兄としてこれから弟を鍛えてくれる方に頭を下げてお願いしなければ
『弟をお願いします』
「ちょっと、オレはまだ了承してな────」
『「敗者は勝者のいうことを聞け」』
私の書いた文と箒ちゃんの言ったことがハモった。一夏はこれは諦めるしかないという顔で黙り込むのであった。