フラれた女勇者、オネェに出合う 作:とある掲示板の民
「すっすまないが、君にはもうついていけない……」
そう言って離れていく男を何人見ただろうか、思い出したくはないが軽く十人は超えていた気がする。
それは、勇者と呼ばれるようになった後さらに加速した。
端的に言ってしまえば、僕は強くなりすぎたのだ。
もちろん、僕だって毒を盛られればあっけなく死ぬし、大勢の人たちに囲まれれば同じことだろう。
それでも、一個人としての能力は自分でいうのもなんだが強大で、僕より弱い人たちから見れば怪物としてしか映らないんだろう。
ドラゴン級、魔王級と呼ばれる存在を倒すことはできるようになっても、好きな男一人手に入れることができないということはなかなかに精神に来るものがある。
「あれ、まだ男作ってないの?」
と、少し前までパーティを組んでいた仲間が、男と腕を組みながらやってきてそう言った日なんていつもより多くの酒を飲んでいた。
まあ、実際どれだけ飲んだかはちゃんと覚えてはいないけど、酒場から私が放り出してたことを考えると、相当飲んでいたみたいだけど。
「僕の恋人はお酒だけ~」
なんてフラれるたびに言い続けていた……だけど、
これから僕は新たな愛を目指す……決してちょっと前にほかの仲間に煽られたからだとかそう言う理由では決してない。
私並の強さを持つであろう彼ならば、僕と共に人生を歩んでくれると思ったからだ。
だから、今日も今日とてこの酒場へとやってきたのだ。
Bar リリスと書かれた看板は、月夜の光と駆けられたランプの光でぼんやりと照らされている。
一度、深呼吸。
夜の冷たい空気が口の中に入ってくるが、少し熱くなってしまっていた体を冷ますにはちょうどいい。
「頑張れ、僕」
両頬を手で軽く叩いてから、もう直っていた扉に手を当てる。
そしてゆっくりと力を込めて奥へと押し込む、そして中へ入り店内へ視線を向けると……
――昨日の大男が店内の掃除をしていた。
手には振り回していた棍棒ではなく、箒が握られて、かわいらしいエプロンをかけていた。
大男は入ってきたこちらに気づくと、慣れていらしい笑顔を浮かべてこちらに向けようとした瞬間。
「い、いらっしゃま……」
聞き気終える前に、素早くバックステップで外へと出てすぐに店の扉を閉めた。
……なんだあれは、そう思いながら店に掛かっている看板に目を向ける。
そこには入る前に見たものと同じもの掛かっていて、ここが間違いなく目的地だということをはっきりと僕に伝えてきた。
「……今日は、まだ一滴も飲んでないんだけど……」
幻覚を見せるきのこの胞子も、幻覚の魔法を食らった覚えもない。
ならあれは何だったのか、少なくともここで立ち止まっていては答えは出てこないだろう。
「……行くしかないか」
決意を決めて、再び扉を開ける。
そこには、先ほどと同じように放棄を持った大男が立っていた。
「い、いらっしゃいまって、あ」
先ほどと同じように不器用な笑顔と共に。
「……なんでいるの」
この衝撃的な光景に、僕は思わず口から疑問をこぼしながら固まってしまっていた。
「ふふふ、そういうことだったんですか」
そう店主さんは口元を手で押さえながら笑って、僕の前にグラスを置くとお酒を注いた。
あの後、僕たちがしばらく固まっている所に、昨日と同じように奥から出てきた店主さんが仲裁してくれた。
話を聞くと、店主さんの強さにほれ込んだとかで勝手に舎弟になったらしい。
「昨日は悪かったな嬢ちゃん!」
といって、豪快に笑うこ大男の姿を見ていると、根は悪い奴ではないのかも? と、思えてくるのはなんだか不思議だ。
だけど、よく店主さんも店を襲った強盗を店で働かせる気になるのだろうか、僕は店主さんにそう聞くと
「舎弟というか、まあ私の下に就くというならこれぐらいはできてほしいと言ったら、自分から”働かせてほしい”と」
「ま、そう言うことだ」
とのこと。
店主さんの器が広いのか、はたまたまた暴れられても即座に止めることができる余裕なのかはわからないけれど、彼が問題ないというのなら僕が気にすることではないだろう。
ぶっちゃけどうでもいいし。
だってそうだろう、叩きのめした後のもと強盗のことよりも、僕自身の恋の方が大事に決まっている。
まずは世間話でもして僕に興味を少しでも持ってもらう話は其れからだ。
「店主さん少しお話を……」
私がそう言おうとした瞬間、昨日ほどではないが店の扉が勢いよく開かれ言葉が遮られた。
「大変です店主さん!」
と、店の中に弓を持った長い金髪がきれいな女性が入って来ると、店主さんが立つカウンターの間に立って慌てながらこう言った。
「森が……森が大変なんです!」
そう言う女性の顔をは焦りに満ちていた。
だけど、僕はこの時別のことを考えていた。
(なんでええええええ!?)
僕が店主さんとの中を深めることができるのは、まだまだ先らしいようだった。