【仮】GGOのロリっ子配信者   作:タヌキ(福岡県産)

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【前回までのあらすじ】
 硝煙と銃弾飛び交うハードな世界観のVRMMO、ガンゲイル・オンラインで実況プレイヤーとして活動している女性プレイヤー《ベル》。
 合法ロリな彼女の正体はSAOにおいて殺人(レッド)プレイヤーを殺し続けるPKK(プレイヤーキラーキラー)、《墓守り》フレンダだった。
 ベルは殺し損ねた殺人プレイヤーを復讐も兼ねて現実で殺す為、配信の裏で掲示板にて自分の情報を詮索させたり、嫌がらせをしてきたピトフーイをオークションのブラックリストに突っ込んだり、SAO生還者である北海いくらをボコボコにしたり、特に理由もなくピトフーイをブラックリストに入れたり外したりしていた。
 ひょんな事から妹やかつてのギルメンをベルの目の前で惨殺した張本人であるPohを見つけたベルは、周囲にいるほぼ全員を曇らせながらもPohを殺すことに成功、復讐を遂げる。
 フィードバックにより現実世界でも肉塊となり死亡したPohを最後に殺人プレイヤーのギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》は事実上壊滅。ベルの復讐は終わりを告げた。
 その後、復讐を終えたベルは生きる気力を失い、配信すら行う事なく死の誘惑に魅入られようとしていた。
 とうとう視聴者たちへの未練すら無くなり自殺しようとするベルであったが、そこで何者かからインターホンが鳴らされる。
 訝しみながらインターホンに出るベル。そこにいたのは配達員であり、謎の段ボール箱を彼女に手渡した。
 両手に収まる程度の段ボール箱に入っていたのは、小型のWEBカメラと卓上スマートスピーカー。起動すると、そこから懐かしい妹の声が聞こえだす。

 そして、ここから彼女の新しい物語が始まるのであった……






 と言う訳で復讐も終わったのでここからは普通にGGOでゲテモノ拳銃を使っていくコーナーとなります。え?見たことない場面があった?HAHAHA、許してください(土下座)
 ……はい。半ばエタってた挙げ句こんな感じになってしまいましたがついて来ていただけると嬉しいです。


 それでは新章、第4回スクワッド・ジャム編をどうぞ。




第4回スクワッド・ジャム篇
SJ4、始まる。


 

『GGOに巣食う、熱烈なガンマニアなみんな!元気してた?

 僕は元気だよ!DAKARA!スクワッド・ジャム4回目、つまりはSJ4、開催しちゃうよっ!

 来週の水曜日、8月26日の12時から、レッツファイト!』

 

 との書き出しから始まった、例のSJスポンサーの作家が書いた文章はどこまでも軽薄でした。

 コイツは確か御年54のはずですが、頭の中はまるっきり子供ですね。失笑を禁じ得ません。

 

 《SJ4開催決定と参加募集のお知らせ》

 

 そうタイトルがついたこのメッセージは一度でもSJに参加したことがあるプレイヤーに、8月21日の朝10時に一斉配信されました。

 

『ルールは基本的に前回までと一緒だし、シード権や予選のことも同じ。大きく変わったことはないよ。

 SJ4のタイムスケジュールはこんな。分かると思うけど全部8月ね。

 24日(月)21時、エントリー〆切り。

 25日(火)12時から、予選開始。

 26日(水)12時から、本戦スタート。

 

 た!だ!し!

 今回も、SJ4だけの特別ルールがあるよ!イッツスペシャル!』

 

 またか!もう好きにしろよ!

 ここまで読んだプレイヤーのほとんどみんなが、そう思いました。

 スポンサーだからって、スポンサーみたいに自由に振る舞ってるんじゃねえ!

 そう憤りました。

 思っていない人もいました。

 ピトフーイの中の人たる女性、大人気シンガーソングライターの神崎エルザは、エアコンが寒いくらいに効いた自宅マンション寝室の大きなベッドの上で、全裸でシーツにくるまれていました。

 窓の外は、大都市東京のビル群。レースのカーテンから注ぐ明るい光の中、真っ白なシーツだけで佇む黒い長髪の美女は、とても絵になる光景でした。

 あまりにもセクシーかつ美しい姿に、エルザのファンが直接見たら、ショック死するかもしれません。

 寝室の壁がモニターになって、そこに映っている画面と文字を見ながら、

 

「たーのしみー!さあて今度は、どんなふざけたルールかしらね!」

 

 エルザはとても楽しそうに、悪魔的微笑みを見せました。

 

「どうぞ」

 

 寝室に入ってきた阿僧祗豪志が、熱いブラックコーヒーの入ったカップを、エルザにそっと差し出しました。

 

「ありがと」

 

 エルザがそれを受け取ると、静かに口に運びました。

 ちなみに豪志は、全裸にエプロン姿でした。お尻が見えました。

 その逞しいお尻を、

 

「うむ美味い。後ろ向け、お礼じゃ」

 

 エルザは蹴っ飛ばしてあげました。

 あまりにもバイオレントかつ美しい姿に、エルザのファンが直接見たら、ショック死するかもしれません。

 痛みに顔を歪めながらもどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出す豪志から関心を失ったエルザは、コーヒーをベッドのサイドテーブルに置くと、そのシーツに包まった姿のままリモコンを操作してメッセージを読み進めていきました。

 メッセージの続きには特別ルールに関するスポンサー作家の軽薄な文が書かれており、それを笑顔で読み進めていたエルザは、おや、と目を少し見開きました。

 彼女の関心を引いた文は、次のように書いてありました。

 

『さて、その2だよ!

 今回は、全てのプレイヤーに拳銃を持ってきてもらうよ!

 なぜって?優れたGGOプレイヤーは、ありとあらゆる銃を使いこなせないとね。

 だから、今回のフィールドには、"拳銃以外の銃器の使用禁止"エリアをいくつか設けることにしたんだよ。

 そこでは、拳銃以外の銃は自動的にロックされ、一切の発砲はできなくする。使える武器は、拳銃とナイフ、フォトンソード、手榴弾、そして打撃だけ。

 拳銃の定義だけど、アイテム設定画面で《Handgun》のカテゴリーに入っていれば、なんでもOK。

 デリンジャーみたいな超小型拳銃でも、S&WのM500シリーズみたいな超大型でも!ただ、ライフルの銃身と銃床をぶった切って短くした、ギャングの改造拳銃みたいなのは、ダメだからね。

 普段拳銃なんて使ってない人のために、ちょっとだけ救済措置を設けるよ!

 今回に限り─────、"拳銃とホルスター、マガジンと弾薬の重量に限っては、各キャラクターのストレージ許容量から除外する"ことにした。

 つまり、今までと同じ装備で、拳銃もプラスできるってこと!普段から拳銃を使っている人は、その分余計に、他の武器を持てるよ!

 もちろん……、持ち込みたくないのならそれでもOKだけどね!にやり。

 30分おきの弾薬自動補充と、拳銃携帯の義務。

 この2つは忘れないで、さあみんな、SJ4レッツトライ!

 今から24日、月曜日の21時まで、エントリー受付するよー!

 さあ、おいでませおいでませ!』

 

 拳銃。

 その単語を聞いて、エルザの脳裏に一人のGGOプレイヤーの姿が浮かび上がりました。というよりも、メッセージを受け取ったプレイヤー達の多くの脳裏に彼女の姿が浮かび上がりました。

 つい最近、日本どころか世界中を揺るがした事件に首を突っ込むこととなり、ピトフーイがあわやアカウントを喪失する所となったきっかけである、一人の少女の姿が。

 SJ4開催のお知らせを、もう一度頭から読んで、もう一度読み直して、文の意味を噛み砕いて、理解して。

 

「……いい事思いつーいた!」

 

 エルザは、いいえ、GGO屈指の凶暴プレイヤーであるピトフーイは、そう言って凄絶な笑みを浮かべました。

 それは先程の微笑みとはまた違ったバイオレントかつセクシーな表情で、ピトフーイ(エルザ)のファンが見たらショック死するかもしれません。

 

「そうと決まれば『善は急げ』っと」

 

 悪魔のような表情をしたエルザは、とても上手な鼻歌で綺麗な旋律を奏でながら、枕元で充電していた端末のチャットアプリから()()()()()に一通の短いメッセージを贈りました。

 そのメッセージには、こう書かれてありました。

 

『@Bell

 舞踏会にご招待♪

 《URL》←ここをクリック』

 

 これは、そんなやり取りから始まった、第4回スクワッドジャムの物語。

 

 

 

 

 

 スクワッド・ジャム。

 それは、運営が開催する大会であるBoBをはじめとして基本的に「個人の強さ」が重視されるGGOにおいて「チームとしての強さ」を競う異質な大会。

 今回で4回目を迎える、GGOにてそこそこの歴史を持つこの大会に、私は()()ピトフーイから招待されていた。

 いや、確かに最近パーティに(クィネラ)が増えたけど私基本的にソロプレイヤーなんだが。

 そんな事を考えながら、まあ断るかー、と軽く考えメッセージを無視しようとした時。追加で送られてきたピトフーイのメッセージによって私は態度を180度変えた。

 

『ちなみに、今回の大会は拳銃メイン☆』

「出るわ」

 

 添付されていたURLを爆速でタッチ。

 即座に開かれたブラウザの登録フォームに必要事項を入力。私が正気に戻ったのは、『エントリー』のボタンを押した後であった。

 どうやら予選を勝ち抜き、本大会へと駒を進める必要があるらしい。

 

「ふむ……」

 

 チーム、チームか。

 

 

 

「と言う訳で、急遽チームを作らなきゃいけなくなりました」

「なんでさ」

『もう一回言ってもらって良いっすか?』『【悲報】ベルたそSJ参戦決定』『SJこわれる』『たまげたなあ……』『クィネラちゃん困惑してて草』『やったぜ』『今回もピトフーイのせいですか……』『ルール見てきたけどこれベルたそ有利すぎない?』

 

 次の日、いつもの様に始まった配信でその事を報告すると、クィネラと視聴者は困惑した様子であった。

 まあ当然だろう、唐突にチーム戦の大会に出ると宣言されクィネラに至っては巻き込まれることが確定しているのだから。

 しかし、拳銃が輝く舞台がすぐそこにあるというのに私が大人しくしているというのは無理な話だ。別に私は拳銃オタクという訳ではないが、一般通過拳銃スキーの一人としてこの大会は絶対に参加したい。

 

「と、言う訳でチームメンバー募集中でーす。あ、クィネラは強制参加ね。だからあと四人かな」

「うん、知ってた。まあお姉ちゃんが生き生きしてるから良いんだけどね……」

「クィネラ……!」

『イイハナシダナー』『なんて妹思いの姉なんだ……!』『姉思いの妹だろうがオラァン!?』『逆だったかもしれねぇ……』『草』『出たな草ニキ』『はい!オレ立候補!』『生還者ニキだ!』『捕まえろ!』

「あ、飯倉さんはパスね、今貴方がやってるのGGOじゃないでしょ、フレンドリストで分かりますよ。しっしっ」

『コンバート……』『(コンバートしても)駄目です』『無慈悲』『悲しいなあ』『じゃあピトフーイとか』『ピトフーイは毎回自分のチーム組んで出場してるな』『ピトフーイのチーム四人組だからワンチャン』『ごめーんもう残りの二人埋まってるんだわー』『これだからピトフーイは!』

 

 嬉しいことを言う(クィネラ)に抱きつきつつ、寄ってきた飯倉さんをしっしと追い払う。

 アンダーワールドで助けに来てくれた事は感謝していますが、それとこれとは別なのでALOに帰ってくださいな。

 出来るなら女の子だけでチームを組みたい。

 いやまあ男嫌いという訳じゃないんだけど、あまり面倒くさい事になってもアレだしなあ……。

 と言う訳で招待主であるピトフーイとチームを組みたかったのだが、どうやら彼女は既にチームを組み終えてしまっているようだ。

 そっちから誘った癖に自分はチームを組み終えているとはなんて失礼な。お返しにオークションのブラックリストに再び入れてやろう。

 そんなことを考えながら、()は生意気にも私よりも背丈の高かった小さな妹をぎゅっと抱き締め、仮想空間上ではあるものの『妹はちゃんとここにいるのだ』という実感を確かめていると、視界の端でアイコンが点滅しているのが分かった。

 誰かからのメッセージが来たらしい。

 抱きしめ合う私達を見てワイワイと騒ぐコメント欄の対応を妹に任せつつ、メッセージを確認する。

 その送り主とメッセージの内容を確認した私は、ニヤリと笑うと視聴者たちに向かって口を開く。

 

「えっとー、チームメンバー決まりました」

「えっ、早いね」

『メッセ来た感じかな?』『誰になるんじゃろか』『レンちゃんとか?』『レンちゃんはピトフーイとほぼ毎回チーム組んでSJ出てるよ』

「大会出場までは名前を伏せるけど、チームメンバーは簡単に言うとスナイパーと人外と人外ですね。1人少ない5人組になりますけど、まあ大丈夫でしょう」

『あっ(察し』『オイオイピトフーイとレンちゃん死んだわ』『もはや荒らしレベル』『こ れ は ひ ど い』『ピトフーイよ安らかに眠れ……』『草生えない』『アイエエエエ!?草ニキ!?』『草ネキだ(無言の腹パン)』『もしかして草ニキも参加するのか』『灰は畑に撒いてあげるね……』『腹パンするの遅くね……?』

 

 私の言葉に反応してにわかに騒がしくなるコメント欄。

 妹も誰がチームメンバーになるのかを察したようで「えっなにそのドリームチーム……」と唖然とした表情で不思議な事を呟いています。

 私が開いたままにしているメッセージタブ。

 そこには、この様なメッセージが表示されていました。

 

『@Bell

 その大会、私も参加させてもらってもいい?黒いのと茶色いのもついでに私が引っ張っていくから』

 

 送り主のプレイヤーネームはシノン。

 第3回BoB優勝者であり、その独特の勝ち方やピトフーイ垂涎の超激レアなスナイパーライフル《ウルティマラティオ・へカートⅡ》の持ち主という事で話題となった、GGO屈指の名プレイヤー。

 

 そして、度々私の配信で死んではその大事な大事なへカートをデスペナで落と(ドロップ)している、ちょっと不運な人である。

 

 こうして、ピトフーイからの招待を受けた私が組んだ夢のチーム《Bell's》が結成されたのであった。

 なお、後に聞いた話なのだがこのときの配信を見ていた草ネキ達のチームはお通夜状態となっていたらしい。

 合掌。

 

 

 

 

 

 西暦2025年、8月26日。

 ガンゲイル・オンライン、通称GGOにおいて主にプレイヤーが拠点としているエリア《SBCグロッケン》。

 元宇宙船を改造して出来たという裏設定を持つこの首都の酒場の一つにはこの日、珍しく多くのプレイヤー達が詰めかけていた。

 第4回スクワッド・ジャムの会場兼観客席となるこの酒場には、これから命を賭して戦う総勢30のチームと、それを外野でワイワイと騒ぎながら見物する観客たちが集まっていたのである。

 

「ご視聴の皆さんこんにちはー!いつも元気なスコードロン《散切り頭の友》、略称ZATの実況プレイヤー《セイン》でーす!今日の朝ご飯はやっぱりメロンパンでした!クリームが入ったやつ!」

 

 その中でも一際大きく脳天気な声でそう騒いでいるのは体中に小型カメラを取り付けて色々なアングルで戦闘を撮影して、編集してネットにアップしている《セイン》というプレイヤーだった。

 同じくGGOの実況プレイをしているベルよりもメジャーさで言えば勝っている、かなりの名物プレイヤーである。

 前回のSJ3において女性プレイヤーのみのチームであるSHINCに向かってセクハラ寸前の発言をし、体を蜂の巣にされた事で更に知名度を増していた彼は、今回のSJも前回同様に実況をするつもりの様だった。

 そして今回は、酒場からそれを始めるようだ。

 

 大会開始30分前。つまりは午前11時30分。

 選手は50分には待機エリアに転送される為、実質開始20分前であるこの辺りから、先のZATを始めとした大会出場チームによる、いわゆる「選手入場」が始まる。

 チームメイト全員がマシンガンを装備しているという異色のチーム、全日本マシンガンラバーズ(ZEMAL)

 今回は謎の美女プレイヤーを連れていたのだが、その女性を乗せた神輿を全員で担いで入場するという馬鹿丸だ……とても触り辛い入場方法であったため、セインも彼らにどう触れたら良いのか分からない様子であった。

 次に入場してきたのは、第1回スクワッド・ジャムからの常連であり、かつ毎回優勝間近まで駒を進めている強豪チーム、SHINC。

 お下げのゴリラ女ことボスを筆頭に、「アマゾネス」と揶揄される厳つい外見の女性アバター達が周囲を威嚇するように睨み付けながら酒場の奥、個室へと消えていく。

 途中、セインが再びセクハラ発言をしようとした所をメンバーの一人であるアンナに睨まれ止めるという一幕があったものの、特に彼女達が何かを語ることは無かった。

 しかし、それは当然である。

 彼女たちの目的は「レンとの決着をつける事」。その為にこれまでのスクワッド・ジャム全てに参加していると言っても過言ではないのだ。

 それ以外の事は全て些事。よって、観客やレン以外の敵が自分たちの事をどう言おうが関係ないのである。……ごく一部を除いて。

 その後も、全員が光学銃装備のSFをテーマにしたチーム《レイガンボーイズ》や、レン程ではないものの中々の敏捷値を活かした俊足のコールというプレイヤーを含むチーム《TOMS》、歴史的考証がきちんと為された気合の入ったミリタリーコスプレを楽しんでいるRP(ロールプレイ)集団《ニュー・ソルジャーズ》など、様々なチームが入場してきた。

 彼らの後にどうやら3チームが結託した様子の大集団が入場してきたのだが、彼らにそこまでの注目が集まることは無かった。

 精々が後に入場してきた強豪チーム《MMTM》から「最初から結託している、警戒しておくか」という視線を向けられたくらいであった。

 何故、スクワッド・ジャムでさえ異質な彼らにそれ程の注目が集まらなかったのか。

 その理由は、待機エリア転送開始5分前となった11時45分にやって来た。

 

「……き、来たぞ……!」

「マジで来やがった……!」

 

 ざわざわとにわかに騒がしくなる観客達。そんな彼らの視線の先にいたのは、5人の()()であった。

 

「……転送開始5分前……ギリギリでしたね」

 

 そう呟くのは、GGOに似つかわしくないメルヘンチックなパステルカラーのエプロンドレスを身に纏った一際幼い外見の少女。

 あどけないながらも可愛らしく整った顔立ちの彼女は、厳つい男性アバターが多く集うこの酒場において異質な存在であった。

 彼らがその気になればボロ雑巾よりも酷い状態になるのではないかと言うほどにか弱く見える彼女は、しかしこの酒場にいる殆どのプレイヤーを下す力を持っていることをその場にいたほぼ全員が理解していた。

 GGO屈指の名物実況プレイヤー、ベル。

 拳銃のみを使うという独特のプレイスタイル、そしてそれでいながら数々の強豪プレイヤー達を下しているという圧倒的プレイヤースキル。

 そしてその外見相応の幼い態度や言動に多くのファンを持つロリっ子実況者だ。

 

「おお……ガチだ……リアルイカジャムだ……!」

 

 そのベルの隣でどこか感動したような声を漏らしているのは、ベルと同じくらいの年頃と思われる幼い少女のアバター。

 そしてその正体は、現ベルこと鐘守友莉(かねもりともり)の妹であり、かつ2度の転生を繰り返したボトムアップ型AIこと鐘守沙耶(クィネラ)である。

 そんな彼女が着ているのは、姉とペアルックのエプロンドレス。

 使う武器は主に姉と同じ拳銃なのだが、それ以外にもアサルトライフルやSMG(サブマシンガン)SG(ショットガン)など様々な種類の銃を使いこなすオールラウンダーだ。

 アンダーワールドで数百年ほど公理教会の教祖という一組織の頂点をやっていたせいか、無意識に上から目線になる事があり、視聴者からは「メスガクィネラちゃん」と呼ばれ親しまれて(?)いる。

 

「いつかを思い出すわね、黒助さん?」

「うっ……悪かったよ、ちょっとコンバートに手間取って……」

「どうせ再会するのに躊躇してたんでしょ」

「ヴッ」

「ま、まあまあ、しののん。なんとか間に合ったんだからそのくらいに……」

 

 そして、ベルとクィネラの後ろで何やら言い合いを続けているのは、青髪短髪のどことなく猫のような印象を受ける少女と、黒髪長髪の華奢な少女、そして栗色の長髪をハーフアップに纏めた少女。

 言い合いをするその姿はどことなくほのぼのとした雰囲気ではあるが、彼女達の正体はそんなほんわかとした生易しい物ではない。

 まず青髪短髪の少女。

 プレイヤーネームをシノンという彼女は、言わずと知れた第3回BoBチャンピオンにして、サーバー内に10本しか存在しないとされる超レアなスナイパーライフル《ウルティマラティオ・へカートⅡ》の所有者である。

 2km先のターゲットを撃ち抜くという超絶技巧を魅せる彼女はGGO有数のスナイパーとしても有名であり、そんな彼女の持つへカートを求めて様々なプレイヤーがリアルマネートレードを申し込んだという。

 ちなみにピトフーイもその一人であり、かつ即座に断られたという過去がある。

 次に、そのシノンからジト目で責められている黒髪長髪の少女……と、言いたいのだが、実は彼女は少女ではなく少年だったりする。

 プレイヤー名キリト。もう一人の第3回BoBチャンピオンであり、有名VRMMORPG《アルヴヘイム・オンライン(ALO)》において全プレイヤー中第2位の腕前を持つ有名プレイヤーである。

 そして、かつて空に浮かぶ鉄の城《アインクラッド》を舞台とする人類初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン(SAO)》において茅場晶彦を下し、多くの命を救った《黒の剣士》でもあった。

 GGOでは光剣(フォトンソード)と呼ばれる近接武器を使い、()()()()()()()()()()()()()()という離れ業を以て敵を斬殺するという超特殊なスタイルで戦闘を行っている。

 彼自身は少女にしか見えない男の娘アバターに複雑な男心を抱いているのだが、それはまた別の話。

 最後にキリトとシノンを仲裁しているのが、キリトの恋人であり、かつキリトと同じく銃弾斬りという人外技を使う事のできる本人曰く「普通のヒーラー」、アスナ。

 キリトとはSAO時代からの付き合いであり、かつてアインクラッド攻略最前線を征くギルド《血盟騎士団》の副団長を努めていたこともある凄腕の剣士だ。

 戦闘スタイルはキリトと同じく光剣をメインとした近接戦闘である。

 ……この二人だけやってるゲームが違うのはご愛嬌だ。

 

「それじゃあ、シノンさん、アスナさん。今日はよろしくお願いします。黒助野郎はキリキリ働け」

「元々私から言い出したことだし、うん。大丈夫」

「……うん。こちらこそ、よろしくね」

「なんか俺だけ扱いが……」

「なにか言った?」

「アッハイ」

「キリトが……あのキリトがお姉ちゃんに頭を下げている……!?」

 

 さて、そんな5人が到着した所で、残す時間はあと5分。

 観客達の興味は、ベル達もそうだが、未だに姿を見せない「ピンクのチビ」へと移っていった。

 

「……まだ来ないのか?」

「記録更新ってか?ハハッ、まさか……」

 

 第1回SJ優勝、第2回SJ準優勝、第3回SJは裏切り者(ピトレイヤーズ)チームとして優勝、という輝かしい戦績を誇るピンクのチビ助、レン。

 彼女が普段チームを組んでいるピトフーイやフカ次郎、エムなどの他のプレイヤーも、まだこの酒場に姿を現していなかった。

 他のチームと同様に酒場の奥の個室へとベル達が移動して数分後。

 転送まで残り1分となってもまだ姿を見せないレン達に、観客はざわめいていた。

 残り30秒という所で酒場に二人のプレイヤーがやって来たが、それは前回のSJ3で死闘を繰り広げていた《シャーリー》と《クラレンス》という別のプレイヤーであった。

 29秒。28、27、26、25、24、23……

 

「おいおい……、マジかよ……」

「まさか、そんなつまらない負け方なのか……?」

「レンちゃんが来ねええええ!」

「嘘だろ……」

「ああ……」

 

 刻々と迫るタイムリミット。

 しかし、ざわめきを大きくしていく観客の不安を他所にレン達は最後まで姿を見せず─────

 

「そんなあ……。オレのレンちゃんが……」

「何度も言うけど、お前のじゃないけどな」

 

─────出場プレイヤー達の転送によって、SJ4はその死闘の始まりを告げた。

 

 

 





 隔週更新、出来たらいいな。

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