そんな訳でどうぞ!
その日の夜、僕は永琳さんに呼ばれて彼女の部屋に訪れていた。
「……どうしたんですか?急に呼び出して。」
「あら、薬の追加の為よ。……そこに座って。」
「は、はい。」
言われたとうりに椅子に座る。
…何だか機嫌が悪いように見えるな……僕何かしたっけ?
そんなことを思っている間にも、永琳さんは注射器の準備をしていた。
「いつもみたいな飲み薬ではないんですか?」
「そうね……飲み薬だと効果が少し薄いから。」
「そうなんですか……」
等と話して沈黙する。
……恐らく今日の弾幕勝負の時にまた開いた翼を開かなくするには飲み薬では足りないのだなと自己完結して、僕は永琳さんの作業をボーっと眺めていた。
「ねえ、創真……?」
「なんですか?」
「この屋敷にはもう1人住人がいるの……知ってる?」
「あぁ、確か鈴仙が言ってた【お姫様】がいるんですよね。……なんでも月から来たとかなんとかって。」
「……そうね。その通りよ。その方こそ、この永遠亭の真の主よ。」
「へぇ……そう言えば会ったことないですね……なんでだろう…結構ここに来て長いんですけどね…」
そう。僕がこの永遠亭に運ばれてなんやかんやで数週間から数ヶ月は経過している。
その間で、自分が永遠亭に来てからの幻想郷のことは一切しらない。
「……まぁ、あの方は滅多に部屋から出てこないから…」
「あ、そうなんですか。」
「そうなの…でも最近になって私達は危惧してる事があってね。」
「危惧してること?」
なんのことだろうか、そう思いそう聞き返す。
「そう、それは月からの使者が姫様を迎えに来るんじゃないかということ。」
「お姫様を?どうして月に?」
「元々は月に帰ってるはずだったのだけれど…その使者を私が追い払っちゃったから……」
「……え?!永琳さんが……?」
「何を驚いているのよ。これでも鈴仙よりは数倍強いのよ?」
「そ、そうだったんですね……」
かなり以外……というかあまり考えてなかった……まさか永琳さんが……月の人を追い払う位強いなんて……
「……話を戻すわよ。それで私達は戦力を増やすことにしたの。
まずこの竹林に住む地上の玉兎達。……まぁ、主にてゐね…それと……月から地上に堕ちてきた鈴仙。」
「鈴仙も……月の兎なんですか?」
「そうね。まぁ、何となく分かるでしょ?あの子と戦ったあなたなら。」
「まぁ……そうですね。」
確かに……鈴仙はてゐとは全く違う能力だった。あの消える弾幕……あれを扱えるのは鈴仙だけだ。
「そして2ヶ月前。ここに一人の半妖怪が結界を超えて現れた。」
「……!!……僕の事ですか?」
すると永琳さんは黙って頷く。
「初めてだったわ。あんなにボロボロになりながらもヒトとして活動するあなたに、だから助けた。」
「なるほど……それで僕は戦力になりそうな強さを持っていましたか?」
そう言うと永琳さんはフフっと笑い、僕にこう言う。
「持っていましたか?って、今日の弾幕勝負でハッキリとしているじゃない。薬を調整したとはいえ、あなたは私の薬の効果を打ち破って能力を発動させたのよ?そんなあなたが戦力にならない訳がないわ!」
「それは嬉しいですね……。でも、戦力と言っても何をするんです?」
「簡単よ。月を隠すの。」
「……は?」
直後、僕の腕にブスリと注射器が突き刺さる。
「……ッ?!」
「何、異変に加担する性格ではないのは分かってるから、私の言うことを聞くように、素直になる薬を打ち込んだのよ。」
「な、何で……?!」
「まぁ、安心して。異変時だけだから。それにあなたは命令された事は逆らえないけど、それ以外は別に今まで通りよ。」
最も……と永琳さんは付け足して
「あの子の狂気に、心が耐えられたらーーの話だけどね。」
パチンッと指を鳴らす永琳さん、すると突然襖を突破って外から鈴仙が中に勢いよく入ってくる。
「創真!!私の目を見なさい!」
ガッシリと顔を掴まれ、そのまま彼女の紅い目を直視する。
そしてーーー僕の中で何かが弾ける感じがした。
はい、ここからついに異変へと始まっていきます。
次回もお楽しみに!