プロローグ
「やーい!落ちこぼれぇ!」
「僕たちの中で一番弱い落っちこぼれ!」
「何度来ても同じなんだからお前は二度とここにはくんなよ!」
僕を囲む男の子たちに向かって叫んだ。僕は兵藤一誠。
とある事情で僕は父さんと母さんの実家に来ていた。
でも、実家に来る度に僕はこうして虐められている。―――弱い、おちこぼれだからと、
「うるさい!僕だって強くなるんだ!」
「どうやってだよ?お前、―――なのに、―――が、持っていないじゃん」
「―――がなくても、僕は他の方法で強くなる!」
「はははっ!無理無理、落ちこぼれのお前はどんな方法で強くなろうが、
僕たちに勝てないよ!」
「今はそうだろうけど、いつか絶対に強くなる!そしたら僕はお前たちに見返してやる!」
「お前・・・生意気なんだよ!」
―――○●○―――
ドサッ・・・・・
「・・・・・っ」
多勢に無勢、数の暴力に抗えず、殴られ、蹴られて僕は地面に倒れた。
「はぁ・・・はぁ・・・こ、これで分かっただろ。お前は弱いから落ちこぼれなんだ」
「あー、こいつを相手に力を使うと疲れるぜ」
「だな。んじゃ―――」
一人の男の子が僕に向かって手を伸ばしてきた。―――その時だった。
「お前たち、なにをしている!」
「げっ、逃げろ!」
ダダダダダダッ!
「・・・・・」
僕を虐めた男の子たちが逃げて行った。代わりに、メイド服を着た銀髪の女の人が来た。
僕と一緒に実家に来たメイドの人だ。心配そうに話しかけてくる。
「一誠さま、直ぐに手当てを」
「いい・・・・・僕自身が弱いから傷を負ったんだ」
「一誠さま・・・・」
「絶対に・・・・・強くなるんだ」
そうだ。僕は絶対に強くなるんだ・・・・・強く、強く・・・・・・!
―――○●○―――
『・・・またあの子が虐められたのか』
「はい・・・・・自分が弱いからだと、そう言ってろくに怪我の手当てもせず・・・・・」
『・・・・・確かにあいつは弱い。だが、それは当り前のことなんだ。あの子はまだ子供だ。
弱くて何がいけない。焦らずゆっくり強くなればいいんだ』
「私もそう思います・・・・・」
『あの子はいま・・・・・』
「何時も通り、あの子たちと一緒にいますよ。
というより、あの子たちが一誠さまの傍にいたがっております」
『そうか。まあ、傍から見ればあの子たちは息子に好意を抱いているのが
分かりきっているし、俺もあの子たちなら任せても良いと思っている』
「成長したあの子たちはきっと美しくなるでしょうね」
『結婚相手に恵まれるだろうが、あの二人は間違いなく一誠を選ぶだろう』
「そうなったら、嫉妬する者が現れそうですね」
『お前もその一人じゃないか?』
「・・・・・何のことでしょうか?」
『ははっ、なに四六時中ずっとあの子の傍にいるお前だ。何も思わない訳がないだろう?
まあ、あの子の相手は誰でもいい。ただし、俺が認めた者しか認めないがな』
「手厳しいお方です」
『俺よりあの爺の方が厳しいって。っと、そろそろ時間だ。あの子を連れて帰ってくれるかい?今日はあの子の誕生日だからな』
「分かりました」
―――○●○―――
「ぜぇ・・・・・ぜぇ・・・・・ぜぇ・・・・・」
「いっくん・・・・・お疲れさま。ジュースだよ」
「はい、タオルです」
「・・・・・ありがとう」
午後のトレーニングを終えた僕に、二人の女の子からジュースとタオルを受け取った。
この子たちは僕のいとこだ。何時も実家に来れば、この子たちが傍に寄っていてくれる。
「今日もハードなトレーニングをしましたね」
「これぐらいしないと、強くなれないから」
「・・・・・どうして、そこまで強くなろうとするの?」
「どうしてって・・・・・僕は強くなりたいんだよ」
そう、だからこうして修行しているんだ。でも、いとこがまた聞いてくる。
「だから・・・どうして?強くなる理由はあるの?」
「・・・・・皆に落ちこぼれというから」
「・・・・・そいつは誰?殺してきて良い?いっくんを落ちこぼれとか言う奴を」
つい、漏らしてしまった僕の言葉を聞いたいとこが、何時の間にか大鎌を―――って!
「だ、ダメだよ!?絶対にしちゃダメだからね!?」
「でも・・・・・ここに来る度にいっくんは怪我しているよ。
いっくんを虐めている奴に傷つけられているんでしょ?」
「僕が弱いからいけないだけなんだ。だから、殺しちゃダメ!」
何とか説得し続ける。じゃないと、本気で殺しに行きそうだからだ。
「・・・・・」
「それに、僕は他にも理由があるんだ」
「理由ですか?それは一体、どんな理由です?」
「・・・・・恥ずかしいから言わない」
思わず目を逸らしてしまった。だけど、それがいけなかったようだ。
「いっくん・・・・・教えて?」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
二人がジッと僕を見詰めてくる。無言で貫くが、二人の視線が・・・・・耐えきれない。
「・・・・・守る」
「え?」
「二人を守りたいから強くなろうと頑張っているんだよ」
ああもう。恥ずかしいな・・・!
何時も僕の傍にいてくれるこの二人だから守りたいと思ったんだ。だから僕は・・・・・。
「「――――――」」
ボッ。
あ、あれ・・・・・?二人の顔が真っ赤に染まった・・・・・。
「ふ、二人とも?顔が赤いよ・・・・・大丈夫?」
「う、うん・・・・・大丈夫」
「は、はい・・・・・大丈夫です」
「―――一誠さま。お迎えに参りました」
と、銀髪のメイドがやってきた。帰る時間だと、迎えに来たんだ。
「・・・・・分かった」
すると―――、
「・・・・・また、会えなくなる」
いとこが寂しそうに、不満そうに呟いた。
「来週になったらまたすぐに会えるよ」
「・・・・・もっとずっと一緒にいたいよ」
・・・・・できれば、僕もそうしたいよ。でも・・・・・、
「・・・ごめんね。お父さんと母さんが帰りを待っているから」
「・・・・・」
「それじゃ・・・・・」
二人のいとこと別れた。それから僕は車に乗って女の人の操縦によって帰宅する。
―――○●○―――
「稽古の方はどうでしたか?」
「うん・・・・・皆の中で一番弱かったけど、頑張ったよ」
「・・・・・一誠さまは弱くなどありませんよ」
メイドさんが僕を弱くないとそう言う。どうして・・・・・?
だって、僕は本当にあの子たちの中じゃ・・・・・。
「私は、一誠さまは弱いなどと一度も思ったことがありません。
あなたは心のお強い人なのです」
「心・・・・・?」
どういうことなんだろう・・・・・。不思議に思っていると、メイドさんが言う。
「力だけで相手に勝るのではありません。
絶対に負けないという気持ちを常に心構えて挑めば、
自分より格上の者にだって勝つこともあります。何事も何かする時、
譲れない戦いが必然と起こりますでしょう・・・・・。一誠さま、私は信じています。
あなたは心身ともに強くなると」
女の人は前を向いたままだけど、微笑んでいた。・・・僕を信じてくれる人がいるんだと、
僕は改めて気付き、感謝する。
「・・・・・リーラさん、ありがとう」
「っ・・・・・!?」
メイドさんの名を呼び、お礼を言ったら少しだけ目を大きく開いた。
でも、直ぐに嬉しそうに「勿体なきお言葉です」と言った。
―――○●○―――
夕方になる頃、僕たちは家に辿り着いた。
僕は先に車から降りて、家まで走り玄関に辿り着く。
ガチャッ!
「ただいまぁ!」
と、帰ってきた事を知らせてお父さん達が居ると思うリビングに向かう―――。
「「「ん?」」」
だけど、お父さんたちじゃなくて其処に居たのは―――背中に烏の様な翼を生やした女の人と
蝙蝠の様な翼を生やした二人の男の人たちだった。
「何だ。子供か」
「どうでも良いな、また殺す事が出来るからよ」
「違うだろうヴァン。俺達は
拉致するか、抜き取る事だぞ」
烏の翼を持った一人の女性、ヴァンは笑いながら言葉を口にした
「いいじゃねぇか、シャーリ。
持っていなかったら口封じに殺すのだからさぁ、あっはっはっはっ!」
「「はぁ、全く」」
女の人の言葉を聞いて二人の男の人は呆れているけど、
僕はこの人達が一体何の事を言っているのか解らない。
「―――これは」
僕の後ろに、驚いた顔をするリーラさんが何時の間にかいた。
それより、お父さんとお母さんは一体何処に―――っ!?そう思って僕はリビングを見渡すと
三人の傍に血濡れた状態で床に横たわっている父さんと母さんの姿を視界に入った。
「―――お父さん?お母さん?」
フラフラと近づき、二人の身体を揺らすが返事をしてくれなかった。
「・・・・・一つ教えよう、お前の両親を殺したのは―――俺たちだ」
「「っ!?」」
突然、男の人が「お父さんたちを殺したのは自分たちだ」といった。
僕はそれを聞いて驚愕、唖然、そしてショックを受けた。
こいつらが僕のお父さんたちを殺した?
「さてと、シャーリ」
「おい、シャガ。このガキも?」
「ああ、念には念をだ。」
「はいはい、全く面倒だなぁ・・・」
そう言いながらも僕に近づいてくる背中に蝙蝠の翼を生やした男の人、
でも、僕には関係なかった。お父さん達を殺したこいつらが―――憎い
オオオオオオッ・・・・・・・
「―――一誠さま・・・・・・?」
「・・・・・シャーリ」
「―――確認した。
「「な、三つ!?」」
何に驚いているのか知らないけど・・・・・。
「・・・・・許さない・・・・・お前ら・・・・・殺す・・・・・!」
「「「っ!?」」」
手を前に向けて伸ばした。何時の間にか僕の手は黒い塊があった。
『放つイメージをしてみろ。そうすれば、その黒い塊を放てるわ』
僕の頭の中に誰かが話しかけてきた。誰だか知らないけど・・・・・!
「その魔力・・・・・まさか・・・・・!?」
「―――父さんと母さんの仇だぁ!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
黒い塊が閃光のように前に進んだ。その先にいる三人にぶつかると思った。
それでいい、こいつらを殺せるなら―――!
「逃げるぞ!」
蝙蝠のような翼を背中に生やしている男の人が、
ゲームや本で知った魔方陣を足元に展開して、光と共にいなくなった。
僕の黒い閃光は三人に直撃せず、キッチンの方へ直撃してしまった。その直後、
「―――一誠さま!」
リーラさんが手を伸ばして来て、僕を庇うように抱きかかえてきた。その瞬間、
ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!
キッチンから爆発が生じた。灼熱の炎が家中に広がり、僕とリーラさんにも迫ってくる。
「(僕とリーラさんが死んじゃう・・・・・・?)」
目の前の炎を見て、僕は思った。でも、なぜだろう・・・・・周りは静かだ。
「(だめだ・・・嫌だ・・・。僕は死にたくない・・・。
リーラさんまで巻き込みたくない・・・)」
そう思ったら、胸が熱くなった。このまま何もしなければ僕たちは焼かれて死ぬ。
そうなったらあの二人と永遠に会えなくなる。
「(いやだ・・・・・また会うって約束したんだ・・・・・)」
「一誠さま・・・・・」
・・・・・リーラさん?
「大丈夫です。このリーラ、命に代えてでもあなたをお守りします」
―――っ!?
リーラさん・・・・・あなたは・・・・・・っ!
自分の命より僕のことを思ってくれるこの人に、
「(父さん、母さん・・・お願い、僕に力を貸して・・・リーラさんを守る力を貸して!)」
そう思わずにはいられなかった。だが、炎は直ぐ目の前に迫っていた。
僕はリーラさんに守られる形で抱きしめられ、このまま何もしないでいてしまうのか、
と悔しさでいっぱいだった。
「・・・・・僕は」
「・・・・・?」
「・・・・守るんだ」
「一誠さま・・・・・・?」
「あなたを、僕は、守るんだ・・・・・!」
彼女から離れ、彼女を守るように僕の小さな体でリーラさんを抱きしめた。
「一誠さま!?だ、ダメです!あなたが私を守ってはあなたが死んでしまいます!」
「僕だって同じだよ!?リーラさんが死んだら僕は嬉しくもないし悲しいよ!」
「私はメイドです!何時如何なる時でもご主人様を守るのはメイドの本懐なのです!
メイドはご主人様のために命を捨てても―――」
「家族が命を捨てようとしているところを僕は黙って見ていられないよ!」
「っ!?」
リーラが目を大きく見開いた。
何に驚いているのか分からないけど、僕は彼女を守ることしか考えられなかった。
「絶対に助けるし生きよう!―――リーラッ!」
「い・・・・・っせい・・・・・さま・・・・・・」
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
「―――ふっ、子供のくせに大したものではないか」
刹那―――。
「あの二人の子供というだけ面白い」
聞き覚えのない声と共に、何時までも全てを燃やしつくす熱量の炎がやってこない。
恐る恐ると目を開け、辺りを見渡す。炎が激しく燃え上がっている。
―――僕たちを避けるように家を燃やし続けていた。
「・・・・・え?」
そして、とある一点に僕の視線は釘付けとなった。赤い・・・赤よりもっと鮮やかな色、
真紅の色の髪。綺麗な金色の瞳だけど、猫みたいな瞳だった。垂直のスリット状の瞳。
リーラさんより大きい身長の女の人が僕とリーラさんの前に佇んでいた。
「あなたは・・・・・・?」
「・・・・・流石に覚えておらんか。いや、無理もないか。お前が赤子だった頃、
お前の両親に抱かせてもらった程度だからな」
「父さんと母さんを知ってる・・・・・?」
「まあな。一応、お前の両親とは友人である。いや、だったと言うべきか」
女の人は死んだ僕の父さんと母さんに視線を向けた。
「この二人が倒す程の奴がいたと言うことか」
「・・・・・あの烏のような翼と蝙蝠のような翼を生やしていた
人たちが殺したんだ・・・・・!」
「なに・・・・・?」
僕の言葉に女の人は目を細めた。
「悪魔と堕天使にこいつらが殺された?・・・・・とても信じられんな」
「嘘じゃない!あいつらが言ったんだ!『お前の両親を殺したのは俺たちだ』って!」
じゃなきゃ、誰が僕の家族を殺したって言うんだよ・・・・・!
「・・・・・本当か?」
「はい・・・・・確かにそう仰りました」
リーラさんも肯定した。女の人は「そうか・・・・・」と低い声音で呟いた。
「失礼ですが、どちらさまでしょうか?私たちの命を救ってくれた
あなたの名を知りたいです」
「・・・・・そうだな。知っておくべきだろう。今後、長い付き合いをするのだからな」
長い付き合い・・・・・?どういうこと・・・・・?リーラさんに視線を向けると彼女は、
分からないと首を横に振った。
「我は―――
・・・・・グレートレッド・・・・・?聞いた事がない名前だ。
「・・・・・グレートレッド・・・・・不動の存在と言われている赤い龍」
「ふむ。それもよく言われておるな」
リーラさんは知っているようだ。僕は全然分からない。
「さて・・・・・来い」
いきなり僕の手を掴んだグレートレッドさん。
僕をどこかに連れて行こうとする行動に慌てて彼女の手を掴んで抗議した。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!?どうして―――!」
「ここでは落ち着いて話しもできん。我の住処にきてもらう」
僕と彼女の足元に魔方陣が展開した。本当に待ってよ!?
「待って下さい!私も行きます!」
リーラさんも僕の傍に寄ってきた。グレートレッドさんは別に何も言わず、
僕たちは魔方陣から発する光と共に視界が真っ白になり―――家から、
どこかに連れて行かれた事だけは何となくわかった。
―――○●○―――
真っ白になった僕の視界が回復した頃、目をこすって辺りを見渡す。
グレートレッドさんの家の中だと思しき建物の中だった。
「ここは・・・・・?」
「我が住んでいる次元の狭間。我はこの狭間で泳ぐことが好きであるからな」
「あなたはこの家に住んでいるの?」
「違う。あの二人が勝手に用意したものだ。我には不要だったが、よもや、こんな形で
必要になるとは・・・あいつら、こんな事になることを予想していたのかもしれん」
スタスタとどこかへ行くグレートレッドさん。後を追い続く。その時、窓の外を見た。
まるで万華鏡の中を覗きこんだような摩訶不思議な空が見えた。
この家の外が次元の狭間なんだ。僕はそう理解した。
「おい」
「っ!」
グレートレッドさんに呼ばれ視線を彼女に向けた。
「置いて行くぞ」
と、言って彼女は開けた扉の向こうの中へ消えてしまった。僕も扉の中へと入る。
「・・・・・」
綺麗な家具や天井にぶら下がっている巨大なシャンデリア。
高級そうな物ばかりが揃ってある。でも、僕は首を傾げた。
―――あまりにもここで生活した感じがない。
「座るがいい」
長いテーブルがあるところにグレートレッドさんが座っていた。
促された僕たちは、席に座る。
「改めて名乗ろう。我は
「・・・・・兵藤一誠。彼女はリーラシャルンホルスト。僕のメイドです」
自己紹介を促され名前を教えた。グレートレッドさんは首を頷いた。
「お前のことを一誠と呼ぶ。良いな?」
「は、はい・・・・・」
そう僕は頷いた。すると、グレートレッドさんは溜息を吐きだした。
「この日が来るとは思いもしなかったが、お前に渡すものがある」
「僕に・・・・・?」
「お前の両親から無理矢理渡されたものだ。我にとって迷惑な物だったが、
ようやく渡すことができる」
指をパチンと弾いた。そしたら僕の目の前に魔方陣が現れた。光る魔方陣から、
古い箱のようなものが二つ浮かんできた。
「これはお前のために用意されたものだ。中身は知らないが、役に立つものだと我は思うぞ」
開けろとばかり、視線を向けてくる。僕は当惑しながらも、箱を開けようとして触れた。
カッ!
次の瞬間。二つの箱が光に包まれだした。光に包まれる箱は、勝手に蓋が開きだして、
箱の中身と思しきものが、飛び出して来て僕とぶつかった・・・・・いや、僕の中に入った・・・・・?
「これでいいはずだ」
女の人は頷いた。だけど・・・・・箱の中身は何なの?僕の中に入ってしまったけど、
どうなっているの?開きっぱなしの箱の中身を覗くと、空っぽだった。
「あの、どうして僕を・・・・・」
疑問に尽きなかったことを口にした。僕のことを知っているようだけど、
僕にとって初めて会う人だ。僕を助けて、父さんたちから渡されたものを僕に渡した。
父さんたちの頼みらしいけど一体どうして・・・・・。
「お前の両親に頼まれたからだ」
『もしも自分たちの身に何か遭ったら、あの子にこれを渡してくれ』
グレートレッドはそう語ってくれた。父さんたちの伝言という遺言を・・・・・。
「・・・・・父さん、母さん・・・・・」
自分たちの身に何か遭うのだと、予想してこの人に・・・・・。
「一誠、おまえはこれからどうする?」
「・・・・・え?」
「今でも我は信じられぬが・・・お前の両親、誠と一香は死んだ。
親を亡くしたお前はこれからどうする?と聞いている」
・・・・・これから・・・・・。リーラさんに顔を向ける。彼女も僕に顔を向けていた。
「リーラさん・・・・・」
「・・・・・」
彼女はジッと僕を見詰めてくるだけ。困惑する僕だけど・・・彼女は言う。
「一誠さま、あなたがご決断をせねばなりません」
「・・・・・」
「大丈夫です。私は、どんな選択でもあなたに従います。私は―――」
あなたのメイドですから、と綺麗に微笑んだ。彼女は心から僕を信頼し、
信用してくれている。だから、今度は僕がそれに応えないといけない。
「(・・・・・二人とも、ごめん。しばらく会えないかもしれない)」
約束を破るような形になる。心は罪悪感に包まれ中、悩んだ末に決断する。
「グレートレッドさん」
「決まったか?」
コクリと頷く。そして、言った。
「あなたは不動の存在と称されているんですよね?」
「そうだな。ドラゴンの中で最強と称されている
我はそのドラゴンより強い」
「―――僕を強くしてください」
「・・・・・なに?」
グレートレッドさんは怪訝になる。どうしてだ?と言った表情で僕に向けてくる。
「僕はどうしても強くなりたいんです。
父さんと母さんを殺したあの三人を倒すために、僕の大切な家族を守るためにも、
僕は強くなりたいんです」
「・・・・・あの二人からそんなことは頼まれていないことだ。
我はその頼みを断る権利があると承知で言っているのか?」
「お願いします」
断われる。それを承知で頼んでいる。真っ直ぐグレートレッドさんの瞳を見詰めて頼む。
「・・・・・」
徐に彼女は目を瞑った。次の瞬間。
カッ!と目を見開いたかと思えば―――感じたことがない『恐怖』を感じた。
「っ・・・・・!?」
全身から汗が噴き出した。父さんに怒られたことよりももっと怖い。怖くて体が震える。
だけど、グレートレッドさんに向ける視線は逸らさない。
それは、相手に恐れているからだと、父さんに教わったからだ。
「(強くなりたい・・・・・!)」
心からそう思った。だから・・・・・恐怖心を抱きながらも、グレートレッドさんを睨んだ。
「・・・・・ほう」
彼女の口から感嘆の呟きが漏れた。だけど、そんな事を気にしていられる状況じゃなく、
僕は震えながら言った。
「お願いします・・・・・僕を強くしてください・・・・・!」
それが精一杯だった。もう、限界・・・・・。
「・・・・・ふっ」
不意に、彼女が口の端を吊り上げた。更には小さく笑みを浮かべる。
「誰かに殺気を向け、我に睨み返すものなど片手で数えるぐらいしかいない」
途端に恐怖が感じなくなった。
「それを人間の子供がそうしたのはお前が初めてだ。―――いいだろう。
お前はあの二人の子供というだけあって、見どころがある」
「じゃ、じゃあ・・・・・」
「お前を鍛えてやる。ふふっ、誰かを弟子にするというのは生まれて初めてだな」
愉快そうに笑みを浮かべる。僕は渇いた笑みを浮かべるしかなかった。ドッと疲れたよ・・・・・。
「一誠、我が鍛えるのだ。お前は誰にも負けてはならないぞ?負けたら許さない。よいな?」
「は、はい・・・・・」
そうならないためにも一杯修行しなくちゃ・・・・・。
「では、我は泳ぎに行くとしよう。今日はいい気分だ」
グレートレッドさんは席から立ち上がりこの部屋から立ち去ろうとする。
「あの・・・・・僕たちは?」
そう問うと、足を停めて振りかえってくる。
「この家に住むといい。人間界では今頃、お前たちの行方を探しているだろうが、
我の許可なしで人間界へ行ってはならん」
「えっと・・・・・僕たち人間だから、何か食べないと・・・・・」
「あの二人が必要もないのに人間の食材を置いていった。
食べることに関しては問題ないだろう」
・・・・・父さんと母さん。本当にどうしてここまで用意周到なんだろう。
「風呂や部屋もある。生活するに不便はない」
「・・・・・あのお二人はどうしてそこまで準備をしていたのでしょうか」
「知らん。この次元の狭間を別荘だと勘違いしているのではないか?
我の泳ぎを邪魔をしないから今まで放っておいたが・・・・・まさか、
こんな事になるとは我も思いもしなかった」
深く溜息を吐いた。僕とリーラさんはどう反応していいのか分からないでいる。
「まあ、これからは我らが住むのだ。あの二人に感謝をして使わせてもらおう」
「・・・・・はい」
「ではな」
グレートレッドさんがまた歩を進め出して、この部屋からいなくなった。
しばらく扉の方へ見詰めたらリーラさんに尋ねた。
「あの、本当に良いの?僕に付き合わなくてもキミは自由に生きても良かったんだよ?」
「私はあなたのお傍にいたいのです。始めてあなたと出会った日から決めたのです。
―――この方と未来永劫、共に生きたいと」
「・・・・・リーラさん」
「一誠さま。今日から私のことをリーラとお呼びください」
・・・・・急にどうしたんだ・・・・・?彼女は頬を赤く染めて口を開きだした。
「私・・・・・一誠さまに呼び捨てで呼ばれた時、あの状況下で不覚にも嬉しかったのです。
ですから、また私のことをリーラと呼んで欲しいのです」
「えっと・・・・・どうしても・・・?」
「はい」
彼女は真っ直ぐ僕の顔を覗きこんでくる。本当に呼んで欲しいと気持ちが伝わってくる。
「・・・・・リーラ」
「・・・・・っ」
初めて彼女の名を呼び捨てにした。その時だった。彼女が僕に抱きついてきた。
「ああ・・・・・嬉しいです。私のご主人さま・・・・・・このリーラ。
今この瞬間が幸せです」
「そ、そうなの・・・・・?」
「ええ・・・・・」
「じゃあ、僕の事も一誠って―――」
「一誠さまは一誠さまとお呼びします」
えー・・・・・。それ、ズルイよ。僕だけ呼び捨てだなんて。
「じゃあ、リーラさんって呼び続けるよ。僕だけ呼び捨てなんて不公平だし」
「そんな、一誠さま・・・・・・あんまりです」
「一誠、そう呼んで」
ビシッと僕は言う。そうじゃないと本当に呼ばないからね!
「・・・・・わ、分かりました。い・・・・・一誠・・・・・」
「うん、リーラ」
僕は嬉しい気持ちで一杯になって彼女に抱きついた。
「(悠璃、楼羅。しばらく会えないけど、強くなって必ず二人に会いに行くよ)」
―――冥界
悪魔と堕天使、魔獣の類が住むと言われている異界。
この異界を統べる五人の魔王が君臨していた。
「他に情報はないの!?あの人たちが亡くなるなんて冥界が滅んでも有り得ないわよ!」
「未だ、調査中です!」
「魔法を使ってでも情報を集めなさい!」
「は、はい!」
「あの子の捜索は!?」
「草の根を分けて探す勢いで捜索中ですが、神隠しに遭っているかのように姿が・・・・・」
「まさか・・・・天界に連れて行かれたわけじゃないでしょうね?」
「そ、それはないかと思います。調査中に天界から天使が派遣されています。
今現在、共同で事件現場で調査もしておりますし・・・・・」
「そう・・・・・あっちも気付いているというわけね。状況は同じのようだけど」
「ですが・・・・・ここまで調べても見つからないとは、
あのお二人のご子息は一体・・・・・」
「分からない・・・・・だけど、どこかで生きていると私は思いたいわ」
「・・・・・引き続き、調査を続けます」
「ええ、お願いします」
―――天界
天使と神が住む異界。この異界にも冥界と似たような状況になっていた。
「―――報告を」
「・・・・・兵藤誠、兵藤一香の二名の死因は、刃物による刺殺です。
心臓を貫かれ、命を落としたようです」
「あの二人が何者かによって殺されたとは?」
「可能性は大です。ですが・・・・・あのお二人の子供が行方不明です。
今現在、悪魔と共同で捜索していますが、情報は一切ないです」
「・・・・・そうですか」
「まさかとは思いますが。何者かに連れ去られたのでは・・・・・?」
「・・・仮にそうだとして、何のために連れ去ったのか想像ができません。
―――色々とあり過ぎて」
「は、はぁ・・・・・」
「申し訳ございませんが、引き続き調査をお願いします」
「はっ!」
―――人間界
とある薄暗い蔵の中、何十、何百、何千本という蝋燭があり、火が燃えている蝋燭があれば
消えている蝋燭がある。その中央に二人の中年の男女が佇んでいた。
目の前の二つの蝋燭、火が消えている二つの蝋燭を。
「・・・・・あの二人の命の炎が消えている」
「まさか・・・・・」
「死んだ・・・・・と思ってよさそうだ」
「では、あの子は今どこに・・・・・?
あの子の命の炎はまだ・・・・・消えていません」
「分からぬ・・・・・だが、この事はあの子たちには告げない方がいいだろう」
「・・・・・調査隊を」
「いや、このまま野放しにする」
「はっ?」
「あの二人は我ら一族から追放されている身だ。
どんな名で名乗ろうと、我らは一切関与しない」
「ですが・・・・・あの子をどうするつもりなんですか?
今まで招き、私たち一族の者として接していたではありませんか」
「・・・・・そうだな。だが、あの子はあの二人の子供だ。
どんな生き方をしようとも、どこで死のうとも、あの子次第」
「・・・・・」
「俺たちはただ見守る。これからもずっとな」