ハイスクールD×D×SHUFFLE!   作:ダーク・シリウス

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Life×Life
Life1


ミッドチルダから帰還して家でのんびりしていた俺だった。

この家の前に新たな家が建てられた。

その家はウーノたち、ナンバーズの家だ。外に出なくても家の中からこの家に行き来できるよう

転移用魔方陣の術式を施していて、何時でも玄関から入ってこられるようになっている。

管理局はウーノたちの家の隣の家だ。彼女たちの家も同様に転移式魔方陣の術式を施している。

毎日のようにウーノたちは異世界の町中を自由に闊歩している。俺の分身と一緒にな。

目を瞑って分身に意識を飛ばせば―――。

 

『イッセー!』

 

『弟よ、姉はクレープを所望するぞ』

 

『いやー、楽しいっスねー』

 

『あ、この服・・・・・可愛いかも』

 

まあ、皆と楽しく動いているなー。麦茶でも飲もうかなって思い、目を開けた次の瞬間。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

目の前に、黒歌がいた。こいつ、気を隠していたな。珍しく美猴までもがいた。

 

「にゃん♪」

 

「にゃん」

 

猫言葉には猫言葉、言っても分からないけどな。さて、なにしに来たんだ?

 

「ねーねー、イッセー。ちょーっとあなたの九尾を借りたいんだけど」

 

「羽衣狐を?それはまた珍しい。んで、その理由は?」

 

「ここにいない銀華も誘うんだけど、今夜ねお墓に行くんにゃん」

 

墓・・・・・?しかも夜にって・・・・・何を仕出かすんだ?

美猴にそう視線を送れば、あいつは俺の視線の意味に気付いたようで、朗らかに言った。

 

「運動会だ」

 

「・・・・・運動会」

 

「そ、妖怪、妖魔だけの運動会にゃん。まあ、私は悪魔に転生したから白音同様、

妖怪じゃないけど運動会をしに行くのにゃん」

 

よるーのはかばでうんどうかい・・・・・って歌がどこからともなく・・・・・。

 

「だから羽衣狐と銀華も誘うって?」

 

「そうそう。相手が相手だし、戦力が必要なのよねー。

もう、ここんとこ負け越しが多くてそろそろ勝ちたいのよ」

 

なんだか黒歌がやる気だ。と、こいつはそう言うけどお前はどうなんだ?

 

『妖怪だけの運動会のぉ・・・・・。まあ、妾の力が欲しいと言うなら、

参加してやらんこともないがな』

 

「参加するって」

 

「ほんと?ありがとうにゃん♪」

 

俺に抱きつき、すりすりと頬を俺の顔に擦る。

 

「美猴、相手ってどんな奴なんだ?」

 

「日本に妖怪がいるように、他んとこにも妖怪がいるってことだぜぇい」

 

・・・・・まさか、

 

「中国妖怪?」

 

美猴と黒歌は正解だと首を縦に振った。うわー、あの国の妖怪かよ。

 

「四凶、四神、四霊の奴らも来るのか?」

 

「「・・・・・」」

 

問いかけたら二人は頬を引き攣らせた。

 

「お前・・・・・各神話体系の他にそんな奴らと会っていたんかよ」

 

「もう、イッセーは驚かすビックリ箱そのものにゃん」

 

だから、それは父さんと母さんに付いて行ったからそうなったんだよ!

 

「んまあ、何人か運動会の審判として、運営係としてくるぜぃ」

 

「・・・・・マジか」

 

「マジよ。あ、なんならイッセーも出るにゃん?イッセーはドラゴンだし、

特別に参加できるかもしれないかもよ?」

 

ドラゴンって妖魔扱いされるもんなのかな・・・・・。

だとすれば、邪龍たちも妖魔扱いになるんだが。

 

「・・・・・妖魔か」

 

「どうしたにゃん?」

 

「妖怪、妖魔なら誰でも誘っていいのか?」

 

「ええ、いいわよ?」

 

なるほど・・・・・じゃあ、あの先輩を呼ぼう。そう思い携帯を手にして通信を入れた―――。

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ、黒歌と美猴に付いて行く形でとある某墓場へ。

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

そんな俺の腕に離れようとしないでしがみ付く先輩、―――安倍清芽に背後から

物凄い怒気のオーラを放ってくるのが俺の家族である(ヴァーリチームも同行)。

 

「あー、先輩。そろっと離れては・・・・・」

 

「嫌です・・・・・この私を悲しませた代償は高いですのよ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

そんな事を言われ、結局俺は彼女の好きにさせることしかできないでいる。

というか、俺の生存は一部の者しか知らない。

 

「どうして、甦ったのであれば、報告をしてくださらなかったのですか?」

 

「・・・・・色々と忙しくて」

 

苦しい言い訳だ。だけど、そう言うしかないんだ。

 

「兵藤くん・・・・・色々と変わっているのですね」

 

「まあ・・・・・な」

 

「でも・・・・・あなたはあなたですよね?」

 

潤った瞳を俺に向けてくる先輩。そんな先輩を安心させるために栗毛の頭を撫でる。

 

「ああ、俺は俺だ。先輩が知っている俺は変わらず傍にいるよ」

 

「・・・・・っ」

 

先輩は一度は目を見開いて、俺を見つめる。でも、俺の腕を絡める腕に力を籠め、

そのまま無言で歩を進める。

 

「イッセーの魅力に、落ちたわね」

 

「あらあらうふふ。リアスが嫉妬していますわ」

 

「・・・・・否定しないわ」

 

「というか、イッセーって人気あるんだな」

 

「そうっスよ。もう、ここにいる皆はイッセーくんにメロメロっス!」

 

「そうっスかぁー。シアもそうなんっスか?」

 

ウェンディの問いに、シアは「そうっス!」と元気よく答えた。

何だかこの二人は直ぐに意気投合したから仲良しになった。

さて、黒歌と美猴に付いて行くことしばらくして、ようやく目的地へとたどり着いた。

途中、体に違和感を感じたが目の前の光景を目の当たりしてそれどころではなかった。

 

『うわ・・・・・』

 

そこはまさしく奇人変人怪奇に満ち溢れていた。

二手に分かれるように今か今かと様々な妖怪たちが待ち構えていて、その時を待っていた。

強大な力のオーラすら当たり前のように周囲へ放っている。

 

「ここは・・・・・天国ですわ・・・・・!」

 

魔物使いの先輩にとって、魔物だらけの場に居合わせて聖地とも過言ではないだろう。

目がキラキラと輝いているしな。新たな魔物を契約できたらいいな。魔物使いの先輩だから

こうして運動会に招いたわけだ。

 

「こんなに妖怪が集っているなんて・・・・・生まれて初めて見たわ」

 

「凄いですね・・・・・妖気が密集していますよ・・・・・」

 

「あ、悪魔の俺たちがここにいていいのかって思っちゃうぜ・・・・・」

 

「は、はい・・・・・私もそう思います」

 

悪魔側のリアス・グレモリーたちが緊張の面持ちでいる。

実際に俺もこんな光景を見るのは―――何度かある。

 

「んじゃ、俺はこっちだから」

 

「じゃーねー」

 

美猴は俺たちと別れて、密集している妖怪たちの方へ行った。

 

「どうしてあいつはあっちだ?」

 

「孫悟空の力を受け継いでいるから、必然的に中国の妖怪としてあのお猿さんは

そっち(中国)の方へ行っちゃうのよん。この手の祭りみたいなこと、

美猴にとっては欠かせない楽しみの一つだしね。毎回この運動会に顔を出しているわよ?」

 

「それは知らなかったな・・・・・」

 

ヴァーリが呟いた。いや、それはここにいるメンバーもそうだろう。

 

「白音、白音はこの運動会を参加するのは初めてだろうけど、

元妖怪としてこのイベントには出ないといけないの。強制じゃないけど、

中国妖怪に舐められてばっかだと日本の妖怪の存在意義が薄れてしまうにゃん」

 

「・・・・・そうなのですか」

 

「現に中国妖怪の方が何度も勝っているからね。日本妖怪も負けちゃいないけど、

向こうは化け物揃い。主に武闘派が多い」

 

「あー、確かにそう言う奴らは多いわね。戦いに対する容赦ないのが特に」

 

銀華までもが首肯した。黒歌に続いて行けば、何やら狐耳を生やし、

狐の尻尾を腰から垂らしているヒトの方へと進み、

巫女服を着た九本の狐尾を生やしている女性へと案内された。

 

「にゃー、お久しぶり」

 

「ん?おお、猫魈の。此度も来てくれたか」

 

「今回は助っ人と観客たちも連れてきたにゃ」

 

黒歌が横に動いて、俺たちの姿を女性に覗かせた。―――あっ、この人は。

 

「九尾のお姉さん」

 

「・・・・・もしや、坊やか?」

 

「ああ、兵藤一誠だよ。今はこんな姿だけど、久し振り」

 

久しく会う九尾のお姉さん。九尾のお姉さんは俺を見て目を丸くし、

それから微笑んで俺に抱きついてきた。

 

「次期人王決定戦でのお前の戦いを見ておった。

色々と忙しくお前に会いに行けなくて残念だった上に、坊やが死んだと聞いてショックも

受けたのだが・・・・・こうして私の前に元気な姿で現れてくれて・・・・・」

 

「ごめんね。心配掛けて」

 

「いや、気にしていない。寧ろ、お前の両親のことが気になっておる。坊やよ・・・・・」

 

心配そうに俺の頬を両手で挟むように添えてきた。

 

「親が子の敵になるとは、その心情を私は計りしれぬ。坊や、辛いだろうに・・・・・」

 

「辛くないといえば、嘘になるけど。もう、クヨクヨなんてしていられない。前に進まないと」

 

「おお・・・・・そうか・・・・・坊やは強いのぉ」

 

なんか感動したのか、九尾のお姉さんは俺の後頭部に腕を回してきてあろうことか、

巫女服から飛び出んばかりの豊満な胸の谷間へと押し付けては頭を撫で始める。

 

「むぐっ・・・・・!」

 

「よしよし・・・・・」

 

本人は慰め、褒めているつもりだろうが・・・・・俺は生き地獄を味わわされている。

 

『デ、デカ・・・・・ッ!』

 

後ろから絶句、驚愕の声音が聞こえてきた。というか、そろそろ意識が・・・・・。

 

「―――九尾の御大将、八坂さま。一誠さまが苦しがっておられます」

 

と、そこへ後ろに引っ張られる形で九尾のお姉さんの胸から解放された。

 

「む、お主はリーラと言ったな。久しいの」

 

「八坂さまもお変わらずのご様子で」

 

「それは互い様じゃろう。が、苦労しておるな」

 

「一誠さまを支えるのがメイドの、私の本望ですので苦労など感じたことなど

一度たりとも御座いません」

 

リーラ・・・・・。

 

「九重さまは?」

 

「うむ、今日は連れてきておる。まだ早いんじゃが、娘が言う事を聞かなくての」

 

えーと・・・・・九重って・・・・・あのちっちゃい女の子だったかな?

リーラと九尾のお姉さんは徐に周囲へ顔を動かす。

 

「いないようですが?」

 

「うむ、目を離した隙にいなくなったのじゃ。いま、捜索をしているが・・・・・」

 

「や、八坂さま!一大事でございます!」

 

そこへ黒い翼を羽ばたかせ空から舞い降りた初老の男性。

九尾のお姉さんは初老の男性の言葉に反応して訊ねた。

 

「どうした?」

 

「姫が、姫が中国妖怪の虎人と言い合いを始めてしまいましたぁっ!」

 

「な、なんと!?」

 

慌てだした九尾のお姉さん。周りの妖怪を掻き分けながら、

前へ前へと走り出して―――五メートルほどの身長がある頭が虎の獣人とちっちゃい

九本の尾を生やしている巫女服の幼女を発見した。

 

『んだとぉ!?もういっぺん言いやがれ!』

 

「何度も言う!お前は妾たち妖怪に負けるのじゃ!」

 

『日本の妖怪どもはよわっちぃのしかいねぇんだろう?それがこの俺さまに勝つってのか!

笑わせてくれる!』

 

「日本の妖怪は皆、心優しくて強いのじゃ!お前みたいな力しか興味ない乱暴な獣に、

負けるわけ無いのじゃ!」

 

日本と中国の妖怪の言い合い。こんな場所で国際問題になっているじゃん。

 

『んだったら、てめぇが証明してみろよぉ』

 

ニヤリと嫌な笑みを浮かべた獣人の身体に変化が起きた。

獣人の体がどんどん膨れ上がるように大きくなり、体の大きさが倍と成った。

 

『この俺さまを倒して見やがれ、狐のガキ!』

 

あろうことか、獣人が拳を幼い子供に振り下ろした。その刹那、我が子を守ろうとした

九尾のお姉さんより動いて、獣人の前にたち、振ってくる拳を片手で受け止めた。

 

『んだとぉ・・・・・!?てめぇは誰だ!』

 

「・・・・・俺か?」

 

腰に九本の狐の尾を生やして宣言した。

 

「九尾の狐に憑かれたドラゴンだよ」

 

獣人にそう言って睨んだ。すると、獣人が思わずと言った感じで後方に一歩二歩と下がった。

 

「今日は運動会なんだろう?お互い、力の見せ合いをしたくてウズウズしている。

それを運動会の競技で見せびらかせばいいだけじゃないか」

 

『言っておくが、最初にそのガキが喧嘩を売ってきたんだぜ』

 

「宣戦布告をしたかっただけじゃないか?」

 

『それだけで済む話じゃないだろうが』

 

攻撃態勢になった獣人。

 

『さんざんこの俺をバカにしたんだ。ちったぁガキに教育をしてやるってもんが

強者の務めだと思うよなぁっ!?』

 

獣如く、得物を狙う猛禽類の目で駈け出して来た。

 

『この俺の恐ろしさを、その身に味わえっ!』

 

あっという間に獣人は至近距離まで移動してきた。流石に速い。

巨大な手の指、指の先に伸びている人の体など簡単に切り裂いてしまうだろう鋭利な爪を、

斜め上から振り下ろした瞬間。俺は息を吸って―――。

 

「ギェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

咆哮を上げた。至近距離で、獣人に向かって叫んだ。獣人は上半身を仰け反らせ、

驚愕の色を目から浮かばせ、後方に叫んだ際に生じた衝撃で吹っ飛んで行った。

 

「―――お前の恐ろしさが、何だって?」

 

不敵に言ってやった。そうしている間にも九尾のお姉さんが「九重!」と言いながら

九尾の幼女に抱きついた。

 

『て、てめぇ・・・・・っ』

 

獣人が毛を逆立てさせ、警戒の様子で俺を睨んだ。

 

「これ以上、騒ぎを起こしたくないし俺は何もしたくない。だから、手を引いてくれ」

 

『ふざけるなよ、てめぇは一体どこのどいつなんだよ!』

 

「初めてこの運動会に参加するドラゴンだ。気にするな」

 

話は終わりだと獣人に背を向けて、九尾のお姉さんと九尾の幼女に声を掛けようとした。

 

『―――それで、俺が納得するとでも思ったかぁっ!?』

 

懲りない奴だと、襲いかかる獣人に対して呆れ顔で溜息を吐き、

五指の関節を鳴らして迎撃しようとしたら、

 

「お前さん。そこの坊主が騒ぎを起こしたくないって言っているんだ。

ここは身を引くべきじゃないかぁ?」

 

真上から、獣人の頭の上に難なく乗った園児ぐらいの身長のヒトが獣人にそう言った。

すると、獣人の体がピタリと停まる。

 

『うっぐ・・・・・!』

 

「これ以上、お前さんが騒ぎを起こせば、この運動会の主催者がお前に酷い

罰を与えかねないぜぃ?それでもいいって言うんなら、儂は止めないがなぁ」

 

「―――あ」

 

そのヒトは知っている。―――お猿のお爺ちゃんだ!お猿のお爺ちゃんは咥えている

煙管を吹かしながら、俺に話しかけてきた。

 

「よぉ、久しいの。坊主、甦ったって話は本当だったようで、安心したぜぃ」

 

「久し振り、お猿のお爺ちゃん。それと心配掛けてごめんね」

 

「なぁーに、笑いながら言う天釈帝の坊主のほうがよっぽど呆れたわい。

『あのガキ、しぶといなー』っと言いながらだ」

 

俺がしぶといと言うか、原始龍に助けられたんだけどな。

 

「そろそろ開催式が始まるから、儂らはこの辺でさせてもらうぜぃ。

ほれ、さっさと並びに行くぜぃ。若いの」

 

『・・・・・』

 

獣人は俺を睨んだ後、お猿のお爺ちゃんに言われるがまま、踵返して歩を進め出した。

さてと、こっちも・・・・・。

 

「このバカ者!母上から離れて中国妖怪と言い合いするなど、

母上はそんなやんちゃな子に育てた覚えはないぞ!」

 

「ご、ごめんないなのじゃ、母上ぇっ!」

 

こっちで、叱られているなぁ・・・・・。

 

―――○●○―――

 

開会式は何事も問題なく終わり、すぐに競技が始まった。

ドラゴンも参加して良いということなので、何時ぞやの四大勢力大運動会のように

ゾラードたちも参加させることにした。

 

「突っ込みたい。こんな大勢の妖怪、妖魔が集まっても

まだスペースがある墓場なんて見聞したことがない」

 

「ここは現実世界ではないぞ?」

 

「え、そうなの?」

 

「うむ、RG(レーティングゲーム)で利用する異空間を応用したものと同じじゃよ。

以前は、運動会をするために人間たちの目から隠れてやってたが、此度は魔王に協力してもらい、

この異空間で運動会をする事に決めたのじゃ」

 

その魔王って言うのは・・・・・ニコニコと微笑んでいるフォーベシイのことだろう。

そう言えば違和感を感じたが、まさか疑似空間へ入った時の感じだったなんてな。

 

「さて、最初の種目は百メートル走じゃな」

 

普通だな。てっきり、力の見せ合いか根競べでもするのかと思った。

 

「種目って自由に参加していいの?」

 

「勿論じゃ、各種目は三回ずつする。そして各種目に一人一回の規則」

 

それもそうだろうな。

 

「ところで、妖怪の運動会が始まったのはどうしてなんだ?」

 

「ふむ、簡単に言えば、他の妖怪たちと交流を持つためじゃ。

妖怪だけの運動会を考えたのは―――お前の両親じゃよ」

 

「って、お父さんたちかよ!?」

 

愕然とした。当たり前だ。本当、あの人たちは一体何を考えて―――!

 

「みんな頑張れー!」

 

「ファイトーォッ!」

 

「おーおー、妖怪どもが張り切っちゃっているなぁー」

 

『・・・・・』

 

隣でとっっっても聞き覚えのある声が聞こえた。錆びて壊れたブリキのおもちゃ如く、

俺だけじゃなく他の皆もギギギッ・・・・・と聞き覚えのある声の方へ視線を向けると―――。

 

「ほら、一誠。お前も応援しなさい」

 

「日本妖怪のみんなが頑張っているからね」

 

朗らかに笑みを浮かべ、何時の間にかブルーシートを

敷いて応援している二人の男女―――俺の両親+悪魔がいた。

 

『な、なんでここにいるんだぁぁぁぁああああああああああっ!?』

 

異口同音で俺たちは叫んだ。本当だよ!どうしてこの二人がここにいるんだよ!

この場所、俺だって初めて来た場所なんだぞ!?全員が戦闘態勢、臨戦態勢になり、

俺の両親を囲んでいるにも拘らず、この二人はキョトンと首を傾げた。

 

「なんでここにって、今日は妖怪だけの運動会をする日だし」

 

「応援しに、観戦しに行こうかと思って行動していると、

一誠たちが集団でどこかへ行くのを見かけて追いかけたら」

 

「「妖怪だけの運動会の会場に辿り着いた」」

 

『・・・・・』

 

ダメだ・・・・・この二人、なんとかしないと!

 

「お、お主ら・・・・・」

 

「やあ、八坂さん。久し振りだねぇー」

 

「お元気そうでなによりだわ」

 

九尾のお姉さんも目を丸くして呆然としていた。

 

「敵ではないのか・・・・・?」

 

「一応敵だ」

 

あっさりと答えた父さんはさらに言い続ける。

 

「でも今はオフだから何もしないよ。今の俺たちはこの状況を楽しみたいだけだから」

 

「よくとまあぬけぬけと・・・・・お前ら、自分の立場が分かっているのか?」

 

目を細め、ユーストマが闘気を纏いだした。父さんと母さんは笑みを崩さない。

まるで、余裕を保っているかのようだ。いや、余裕なんだろう。

 

「おや、ユーストマじゃないか。かなり久し振りだね、それとフォーベシイも。

サイネリアは元気にしているかな?」

 

「ああ、元気だよ。でも、今ここでキミたちを捕えておけば―――」

 

「それは止めた方が良い。ここは守るべき者が多すぎるからね」

 

―――――っ。この場にいる妖怪たちのことか。この二人ならあっという間に妖怪たちを屠ることは

可能のはず。この場の妖怪たちが人質と成っていると気付いた瞬間だった。

 

「―――うひゃひゃっ!そういうことだよー。まっ、今日ぐらいはお互い楽しもうや」

 

・・・・・何でこの人までいるんだろうなぁ・・・・・リゼヴィムおじさん。

それとリリスにユーグリット。

 

「・・・・・こ奴らが『クリフォト』と名乗っておる者たちで間違いないのじゃな?」

 

九尾のお姉さんが警戒心を剥きだしながら呟いた。誰かが肯定の言葉を放ち、

 

「仕方がない・・・・・人質がいるこの場で事を起こすことは敵わん。

このまま運動会を続行させるが」

 

不意に、父さんたちの周りに狐の尻尾や黒い翼を生やすヒトたちが現れた。

 

「監視をさせてもらう」

 

―――○●○―――()

 

妖怪だらけの運動会が始まってそれなりに時間が経った。駆けたり、パン食い競争だったり、

無茶苦茶な騎馬戦を始めたり、中国と日本妖怪が魅せる運動会とは無関係な歌や踊りまでもが

競技の種目として進み、いよいよ後半戦となった。何やら雰囲気がガラリと変わり、

空気も重々しくなった。

 

「黒歌、これはなんなんだ?」

 

「にゃー、前半は運動会。後半は裏運動会と何時しかやるようになったんだよねー」

 

「裏運動会とは?」

 

「ガチなガチンコ勝負。前半はお遊戯って感じで、

後半は本気で決着をつけるって感じなんだにゃん」

 

マジですか・・・・・。唖然としていると、黒歌は言い始めた。

 

「トーナメント戦だったり、勝ち抜き戦だったり、バトルロワイヤルだったり、

毎年戦い方は変わるにゃん。今年はどんな戦いになるんだろうにゃー。

しかも、中国妖怪から出てくる奴って―――大人気もなく、

四凶とか四神とかそう言う奴らばっかなのにゃん」

 

「うわ・・・・・ぜってぇー並みの妖怪じゃ勝てないって」

 

「だーから、負け越しが多いのよ。主に四凶の奴らが毎回毎回出て来て・・・・・」

 

不機嫌な面持ちとなった黒歌。不意に、疑似空間上空に立体映像が浮かんだ。

 

『三回連続勝ちぬき戦』

 

と―――ガチンコ勝負の種目が決まった。中国側から途轍もないプレッシャーを感じ、

俺は思わず冷や汗を流した。

 

これ(プレッシャー)は四凶の?」

 

「ええ、そうよ」

 

黒歌が首肯すると、中国側の妖怪たちから一際大きい妖怪が出てきた。

体は牛か羊で、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔などを持つ妖怪だ。

 

「おー、饕餮(とうてつ)か。こいつは懐かしいやつが出てきたな」

 

「『魔喰らい』という別名を持つ四凶の一角ね」

 

父さんと母さんが懐かしげに言う。

日本妖怪側から―――人の何倍も大きい巨躯の妖怪が気合満々と前に出てきた。額から二本の角。

 

「お兄ちゃん!頑張って!」

 

すると、応援の声が聞こえてきた。兄妹らしい。

 

「あれって・・・・・」

 

「鬼ね。地獄の仮想の一つに生息している妖怪たちの中で一番力のある三大妖怪の一種」

 

鈍い足音を立てながら中国妖怪の前へと対峙する。

その時、二匹の妖怪の足元から地面が盛り上がり、まるでリング場みたいな舞台が

出来上がった。誰かが合図をしたわけでもなく、日本、中国の妖怪がぶつかり合った。

二つの妖気がこの場を支配し、荒々しくなる。

 

「すげ・・・・・こんな妖怪の戦いは初めて見る」

 

「ふふっ、坊やの戦いと比べれば大したことではないのだろう?」

 

「いやいや、これは凄いよ。妖怪同士の戦い方は初めて見る」

 

激烈な戦い方だった。体と体をぶつけ合い・・・・・って妖力まで放ち始めているし!

だけど、中国側の妖怪が大きく口を開けて妖力を喰らった。それだけじゃない、

そのままブラックホールのように凄まじい引力が鬼の妖気、妖力を吸い取っていく。

 

「あー・・・・・あれをやられたらもう終わりにゃん」

 

黒歌が結果は見えたとばかり嘆息した。黒歌の言う通り、

鬼が次第に力を失っていき、最後は跪いて敗北した。

 

「あんな感じで、中国の妖怪、四凶が勝ってしまうのよね。妖怪の力の源を喰われちゃ、

勝つことは難しい」

 

鬼が負けたことで次は誰が出るのか、ざわめきだし始める。

対して中国の妖怪側から阿鼻叫喚みたいな声が聞こえる。というか、ヤジだろうこれは。

 

「九尾のお姉ちゃん。次は誰が?」

 

「・・・・・」

 

九尾のお姉ちゃんは顎に手をやって、黙り込んでいた。

あの妖怪がとても厄介だと言うことは理解した。

周りの妖怪たちも誰も出ようとはしない。あの鬼のように力を吸い取られて破れてしまう

現実になるからだろうか。

 

「一誠、お前が出てみろ」

 

いきなりガイアが言う。

 

「四凶など、お前が負けるわけがない。我はお前を信じている」

 

不敵に笑みガイアは俺の背中を後押しをする。・・・・・そう言われちゃ、行くしかないだろう。

一歩、足を前に出して―――四凶の一角へと歩み進んだ。見ていてくれよ。皆。

リング場に上がり、四凶と対峙する。

 

『・・・・・なるほど、今度は貴様が相手か』

 

「よろしく、四凶の饕餮。俺はイッセー・D・スカーレット。

一応言うが、俺は兵藤誠と兵藤一香の息子だった」

 

『なに?』

 

俺の発言に眼を丸くした。この反応・・・・・覚えていたんだな。じゃあ・・・・・。

 

「成長した俺の力、その身に覚えてもらおう」

 

饕餮は口角を吊り上げた。全身から妖力を迸る。

 

『いいだろう。貴様の力をとくと我に示せ』

 

戦いは始まった。腰に九本の尻尾を生やして、尻尾から刀を抜き取った。

構え、饕餮に跳躍した。

 

『ドラゴン・・・・・にしてはその妖気は狐。狐に憑かれたようだな』

 

百戦錬磨、なのだろうか。俺の刀太刀筋をなんなく見極め、かわして蹴りを放ってきた。

尻尾の一つでガードし、逆にその足を別の尾で絡め取り、饕餮の体勢を崩した。

 

『ちっとはやるようだな』

 

ムクリと起き上がる饕餮は、

 

『だが、力を全て奪われては戦いようがないだろう』

 

と、口を大きく開いた。―――あれは!気付いた時は引力に引かれるような感覚が。

吸引力が凄まじく、俺から妖力が奪われていくのが肌で感じる。早々に決着をつける気かよ!

 

『貴様の力、喰らってやる!』

 

「くっ・・・・・!」

 

こんな感じはサマエル以来だ。さて・・・・・どうしたものか・・・・・。

・・・・・・そうだ。

俺はとあることを考えて饕餮を見据える。

 

「・・・・・」

 

俺はあろうことか―――饕餮に向かって走り出した。

 

『なに・・・・・?』

 

饕餮は怪訝な面持でいた。力を吸われる者がバカみたいに突貫してきたんだ。

それが何の意味を成すのか、

理解しがたいはず。饕餮へ跳躍して、

 

「これでも喰らっていろ!」

 

魔力で具現化した氷の塊を饕餮の口へ押し込んだ。

 

『むごぉっ!?』

 

策士、策に落ちる・・・・・ってわけじゃないが、

これで一時は俺の力を喰らうことはできないだろう。

 

「―――九妖奥義」

 

九本の尻尾に闘気と妖気を纏い刃状に具現化する。

 

「九十九一斬ッ!」

 

ザンッ!

 

全ての尾で饕餮の全身を切り刻み、最後は刀で斬撃を与え、

リング場から吹き飛ばした。一拍して、饕餮は地面に小さいクレーターを作って倒れた。

 

『くくくっ、流石であるぞ、四凶の一人を倒すとは』

 

相手がワンパターンな攻撃のおかげだったから倒せたようなもんだ。

次はそうもいかないだろう。待ったなしの勝ち抜き戦、リング場に上がってくるのは―――。

 

『次は俺だ』

 

虎に似た体に人の頭、猪のような長い牙と、長い尻尾を生やしている妖怪だ。

 

『饕餮を倒したことは素直に驚いた。だが、俺は奴のように油断はしない』

 

「御託はいい。掛かって来い。日本妖怪に勝たせたいからな」

 

構える。相手は深い笑みを浮かべ、腰を落として手を握りしめて構えた。

 

『―――四凶の一角、檮杌(とうこつ)

 

「イッセー・D・スカーレット」

 

『「いざ、勝負!」』

 

互いが飛び出し、拳を突き出した。

それから、一歩も引かずただ相手を倒すために攻撃を繰り返す。

 

「九妖炎乱舞っ!」

 

踊るように九つの炎が檮扤へと襲う。燃え上がる炎は真っ直ぐ檮扤に直撃―――。

俺はそう思って見据えたら目を見開いた。―――いや、こいつ、かわそうともしない・・・・・!?

まるで、サイラオーグみたいな相手だ!

俺の攻撃を自ら受けて尚も俺に跳び掛かってくる。恐れないその強み―――まさしくつわもの。

 

『「おおおおおおおおおおお!」』

 

避けない相手なら、真っ向勝負をする他ない。激しく拳を突き出し合い、

時には物凄い速さでリング場を駆け回り、激突して肩や肘、膝や足、頭突きをして戦い続ける。

その度に衝撃波が発生し、リング場に罅が生じ、抉れ、クレーターが増え続ける。

 

『日本にお前みたいなものがいようとは、日本も大概捨てたものではないと言うことか』

 

「お前みたいな中国の妖怪がいるなんていい勉強になった」

 

五メートルぐらい距離を取って、対峙する。

 

『まだまだ戦いたいところだが、時間は有限。これでケリをつけよう』

 

妖力の塊を作りだした。それで砲撃として放す気なのだろう。

 

「分かった。そうしよう」

 

同じように妖力の塊を発現した。

 

『「・・・・・」』

 

そして、どちらからでもなく、妖力の塊を放った。リング場の中央で俺と檮扤の一撃が拮抗し、

鍔迫り合いをする。だが、何時しか俺は檮扤の妖力を受け止める側と成ってしまった。

檮扤の力・・・・・とても凄まじいな・・・・・!

 

『どうした、このぐらいで負ける一誠ではないと妾は知っておるぞ』

 

いやいや、四凶って強いなって感嘆していただけだぞ。

 

『ならば、本気を出せばいい。妾とお前の力を』

 

―――本気か。んじゃ、羽衣狐・・・・・や、

 

『む?』

 

・・・・・今日からお前のことを玉藻と呼ぶよ。何時までも最後に狐なんて、

お前が動物みたいな言い方は嫌だし。

 

『・・・・・一誠』

 

「玉藻、俺と一緒に四凶を倒そう」

 

そう言うと、全身から妖力が漲ってきた。

 

「――無論だ。この妾とお前が力を合わせば、どんな敵だろうと全て葬れる」

 

耳元で彼女の声が直に聞こえてくる。

 

「憑依合体だ。妾の愛しき(おのこ)よ」

 

『―――お前は!』

 

玉藻はクスリと妖艶に笑んだ。

 

「四凶よ。お前はこの子に破れる。妾とこの子になぁ・・・・・?」

 

姿を消し、再び俺の中へ。

 

『いくぞ?』

 

「おう、何時でもいいぞ」

 

準備は整っていると玉藻に伝え、全身に妖力を纏いだす。

 

『「―――オーバーソウル」』

 

全身に変化が起きる。第三者から見れば俺は、体が黒と金の衣服へと変わり、

真紅の髪と金色の双眸は黒に変色。胸に狐を模した顔、腰には変わらず

金色の九本の狐の尾が生えているが、それとは別の九本の尾が俺の四肢、

胴体に巻きついている。それと、頭に狐の耳が生えているだろうな。

 

「黒装九尾の甲縛」

 

この姿の名を発して、全身に巻きついている狐の尾が解け、檮扤の妖力を受け止め、

吸収し始める。

 

『なに・・・・・!』

 

「お前の妖力、返すぞ」

 

胸の狐の顔の口が上下に開いて、吸収した妖力を放った。放った妖力が返ってきたことに檮扤は、

一度攻撃の手を止めて俺が放った妖力を受け止め始める。

 

『この程度のことで負けると―――!』

 

「ああ、思うさ」

 

全身に巻きついている尾が俺から離れ、煙と化となったら、一本の狐の尾を生やす俺が現れ、

九人の俺は一斉に檮扤へ飛びかかった。

 

「「「「「「「「「―――ノーヴェキック!」」」」」」」」」

 

「私かよ!?」

 

背後からノーヴェの声が聞こえた。空耳かなぁ?九人の俺の飛び蹴り、膝蹴りに対応できず、

檮扤はリング場から出てしまい、敗北と成った。これで二勝一敗。残り一回戦。

さて・・・・・誰が出てくる?

 

「―――四凶の内の二人が負けてしまうなど、思っていませんでしたわ」

 

どこからともなく炎翼を羽ばたかせて舞い降りた女性・・・・・。

 

「さあ、次はこの私と勝負ですわ!」

 

赤いチャイナドレスを身に包み、両手に巨大な扇子を持って

構えた燃えるような赤い髪に青い瞳の女性。

 

「・・・・・」

 

俺は悠然と歩を進め、その女性に近づく。

 

「え?」

 

戦意がないことに気付いたようで、唖然と近づく俺にキョトンとした。

俺の身体は見る見るうちに縮んで―――子供と成り、女性を見上げる形で言ってやった。

 

「―――お姉ちゃん、大好き♪」

 

そして―――!

 

「ぎゅーっと!」

 

「―――――っ!?」

 

女性は満面の笑みを浮かべ抱きついた俺を見て、顔をボンッ!と紅潮させた。

 

「あ・・・・・う・・・・・・」

 

目をキラキラと純粋無垢な子供のように輝かせ、女性を見上げることしばらくして―――。

 

「ダ、ダメ!この子を傷つけることができない!」

 

そう言って自らリング場から降りて試合放棄をしたのであった。

 

―――ふふふっ!我、勝利!

 

『なんとまあ・・・・・腹黒い勝ち方をしたものであるな』

 

玉藻もやってあげるよ?

 

『・・・・・』

 

あっ、満更ではない反応した。結果、今大会は日本妖怪の勝利として運動会は終了した。

中国妖怪は各々と、さっさと自分の国へ戻って行った。

 

『次は負けない。次の運動会も必ず顔を出せ』

 

『ふごっー!ふぐっー!』

 

『饕餮、帰ったらその氷を何とかしてやるから今は我慢しろ』

 

あっ、まだ氷を咥えたままだったんだ。四凶も帰っていき、

 

「じゃ、じゃあね・・・・・」

 

赤い髪の女性は何度も俺を見ながら帰って行った。

 

「坊や。今回は感謝するぞ。久し振りに中国を負かしたのじゃからな」

 

九尾のお姉さんが嬉しそうに笑って俺(未だ子供バージョン)の頭を撫で始めた。

 

「・・・・・」

 

その足元に、袴を握って母親の影を隠れて俺を見つめる九尾のお姉さんの娘と視界が合った。

どうしたんだ?と首を傾げていると、

 

「あ、ありがとう・・・・・なのじゃ」

 

感謝の言葉を送られた。俺は「気にしないでいい」と言って笑って返した。

 

「今度、九尾のお姉さんと一緒に俺の家に遊びにおいで。待っているから」

 

「う、うむ・・・・・分かったのじゃ」

 

「暇が取れたら是非とも遊びに行かせてもらう。ところで坊やよ・・・・・」

 

九尾のお姉さんが俺から離れて両腕を広げ出した。

 

「私にもぎゅっと抱きついてくれないか?」

 

「・・・・・」

 

彼女の意図に気付き、俺は―――もう一度あれをした。

 

「ぎゅーっと!」

 

袴に抱きつく感じで九尾のお姉さんの腰辺りに腕を回し、

顔を見上げ、九尾のお姉さんの顔を覗き込んだ。

彼女はどこまでも顔を緩ませて、抱きしめ返してきた。

 

「ああ・・・・・なんという多幸感・・・・・っ!たまらん、たまらんぞ!」

 

仕舞いには九尾の尾まで使って俺を囲んで、

 

「坊や・・・・・私の坊や・・・・・愛おしい過ぎるぞ」

 

周りの視界を遮ったことをいいことに、このヒトは―――俺の唇を重ねてきたのだった。

 

「―――ちょっと、うちの子供になに襲っちゃっているのかしら?」

 

そこへ、絶対零度の声が聞こえてきた。俺を囲む尾が強引にこじ開けられ、

俺の襟が掴まれ引き摺りだされた。

 

「まったく、この未亡人は・・・・・人の子供に手を出すなんて信じられないわね」

 

俺は母さんの胸の中に収まって(捕まって)呆然としていた。

 

「・・・・・ねえ、一誠」

 

「・・・・・なに」

 

「その・・・・・あんなこと言っちゃった後でこんなことを言うのは図々しいのは

承知の上でお願いがあるんだけど・・・・・」

 

うん、絶縁された。この二人から。で、この人は俺に何を頼もうとしているんだろうか?

 

「お母さんにもギュッとしてほしいかなーって思っちゃったりしているのよねぇ・・・・・」

 

だが、その願いは叶えられなくなった。

 

「おい貴様。身勝手に親子の縁を絶縁した女が何を言うか」

 

「坊やを返してもらおうか・・・・・」

 

「一香さま、一誠さまを返してもらいますよ」

 

年上組が怒気を孕んだ声と共に襲いかかってきたからだ!

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