「・・・・・」
『・・・・・』
リビングキッチンに何とも言えない空気が漂う。昼頃、家にいる家族たちと
ほのぼのとした時間で過ごすはずだった。だが、突然見覚えのある魔方陣が発現して光と共に
土下座をしたままの見覚えのある奴が現れた。その現れ方と人物に俺たちは信じられないものを
見る目で何度も目蓋を瞬いた。
土下座をする奴は何か必死そうにジッと額を床に付けて、
雨の中で震える子犬と幻想を見せてくれる。
―――というか、プライドが高い奴が土下座なんぞ、どんなことがあってもしたくないだろう。
だが、何かを優先のために堪えて、屈辱に耐えているのだとハッキリ伝わった。
「ねえ、イッセー。あいつ、誰なの?」
「というか、あんな現れ方をするところ初めて見たわ。―――マジ、ウケるんですけど?」
ルクシャナとナヴィが言う。なんと言えば良いんだろうか・・・・・。
一応、知り合いっちゃあ知り合いだ。
だけど、あいつがなんでそんな事をしているのか俺は困惑するばかりだ。
関わったことがあるのは一、二度ぐらい。それ以来は何の音沙汰も無しでどうなっているのか
あいつの血縁者から聞いただけだ。
「・・・・・取り敢えず、頭を上げてくれないか?」
そう言うと、土下座をしていた奴が顔を覗かせた。夜の繁華街、それもホストが働いていそうな
顔立ちに胸元をはだけたワイシャツとスーツを着こなしているワルメンホスト。
「イッセー、あいつは誰なんだ?」
「・・・・・まあ、一度戦ったことがある奴だ。
元七十二柱の―――純血悪魔のフェニックス家の三男、ライザー・フェニックスだ」
『・・・・・知らない』
だろうな。言っても知らないと思ったよ。
「んで、お前が面白可笑しく登場した理由は何なんだ?」
「・・・・・」
あいつは俺の問いに直ぐには答えず、数分経った頃でようやく口を開いた。
「―――――れ」
「・・・・・ん?」
「俺に・・・・・・れ」
「声が小さい。なに言っているのか聞き取り辛い」
怪訝に大きい声で言えと催促した。あいつは、ライザーは急に握り拳を作って叫びだした。
「俺に女を悦ばせる縄の結び方を教えてくれって言ったんだっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『・・・・・・』
最初は、言っていることが分からず、思考が停止した。
他の皆も「なに言っちゃってんの?頭おかしいんじゃね?」
って感じでライザーを見つめていた。
「・・・・・なあ、いま、縄の結び方って聞こえたんだけど」
「ああ・・・・・そうだ・・・・・」
「女を悦ばす縄の結び方って・・・・・。
何でまたお前がそれを知りたがっているんだよ・・・・・理解しがたいぞ」
そもそも、そんな結び方は俺は知らない。というか、したことすらないんだが?
そんな風に見据えていれば、ライザーは苦々しい面持ちで言葉を発した。
「・・・・・満足、してくれなくなったんだ」
「なににだ?」
なんだか、言い辛そうに口を動かす。
「夜の営みだ・・・・・」
『・・・・・』
あいつの言いたいことが今ようやく理解した。そして、どうすればいいか分からないから
俺に訊ねてきたと。
「―――昼飯時に、んな話を持ち込んでくんじゃねぇよ!」
グレイプニルでライザーを亀甲縛りで縛り上げて天井に吊り下げた。
「いだっ!?ちょ、おい!俺はただ縛り方を知りたくて
こんな汚い風の人間界に来てやったんだぞ!こんな仕打ちはあるのか!?」
「だったら来るんじゃねぇ!強化した聖水のプールにブチ込んでやろうかああ!?」
「ふん!前の俺じゃないことを今ここで証明して―――って、解けないだと!?」
炎で燃やそうとしたが燃えない鎖に絶句していた。こいつ、見ない間に馬鹿になったのか?
それ、フェンリルでも噛み千切れない鎖なんだぞ。
「神を噛み殺す牙を持つ狼を縛るための鎖だ。不死鳥の力を有しているからって
悪魔がその鎖をどうにかできるとは思えないんだが?」
「ぐ・・・・・っ」
「それで、なんでまた俺から縛り方を学ぼうとしたんだよ。
お前、眷属に愛想を尽かれているのか?」
直ぐに「違う!」と否定の言葉が返ってきた。
「ユーベルーナが、何だか物足りなさげな顔をするんだよ。・・・・・あのゲームの以来から」
「ユーベルーナ?・・・・・・ああ、爆発ばかし起こしていた悪魔か」
確かに、縛ったな。うん。
「彼女は確かに感じてくれてはいるが・・・・・どこか上の空なんだ。
俺が色々と手を尽くし、ユーベルーナとシているんだ。だが・・・・・何時も溜息を吐くんだよ」
想像・・・・・できねぇ・・・・・。というか、したくもねぇ。他人の情事のシーンなんざ。
「そこで、聞いたんだ。なんで溜息を吐くんだと。そしたら―――」
ライザーは悲痛な面影を浮かべた。
『ライザーさまとの情事は・・・・・私でも分かりません。ですが、刺激が足りないのです』
『あの・・・・・その・・・・・兵藤一誠に縛られ屈辱極まりない快感が、忘れられないのです』
―――――と、ライザーは語った。
「そう訊いて、俺はお前のように縛ってみたんだ。
だが、ユーベルーナは苦痛しか感じられないと・・・・・ここ最近、
俺では満足できなくなっているんだよぉぉぉぉぉ・・・・・」
嘆くライザー。溜息を吐いて一言。
「帰れ」
『ひどっ!?』
周りから突っ込まれた。面倒くさそうな顔で皆に言う。
「何で俺が、こんな相談を乗らないといけないんだよ?これはこいつ自身の問題だろうが」
「確かにそうだけど・・・・・イッセーの友達なんでしょ?」
ナヴィの言葉に俺はキョトンとした。それから手を横に振ってナヴィの言葉を否定した。
「はっ?俺とこいつが?全然。友達でもなければただの顔見知り程度の奴だぞ。
リアス・グレモリーと結婚騒動に巻き込まれた結果だがな」
「結婚騒動?どういうことなの?」
ルクシャナが気になると、視線を向けてきた。
大雑把にライザーとリアス・グレモリーの結婚騒動を説明すれば、
皆は急にライザーを見る目が変わった。
「女の敵ね」
「いくら親同士が決めた事だからって、好きでもない男と結婚させられる女のほうは
嫌に決まっているわ」
「私も・・・・・そう思うわ」
「私も」
と、女性メンバーが答えた。対して宙吊りのライザーは、反論した。
「純粋な悪魔の血を絶やさないための結婚だったんだ!純血の悪魔は純血同士で結婚しなければ、
純血の血が薄れてしまうんだよ!」
「自業自得じゃないの?勝手にその純血悪魔が減らすようなことをした悪魔の方がさ。
減らさなければ、かなりの純血悪魔がいたでしょうに」
ナヴィが一刀両断。それ、魔王たちに対する非難の言葉だと思うが。
カッ!
すると、この場に新たな魔方陣が。
その紋様は・・・・・・ライザーの家の紋様だ。誰が来る?光る魔方陣を見つめていると―――。
噂をすれば影か、ライザーの『
「ユーベルーナ?」
「ライザーさま。『
眷属の一人も同行させずに人間界へ行かれては困ります。
お一人でここに足を運ぶほど重要なことなのですか?
・・・・・何故、縛られ宙吊りになっているのか、いささか気になりますが・・・・・」
「・・・・・」
ライザーは沈黙した。というか、理由なんて言えないんだろうな。
―――一人の女を満足させるが為に俺を頼ってきたなんて。リアス・グレモリーが知ったら、
呆れかえるだろうよ。
「久し振りだな。ユーベルーナだったか?」
「っ!?」
すると、彼女は体をビクッと強張らした。恐る恐ると俺に振り返った彼女は目を丸くする。
「・・・・・兵藤・・・・・一誠・・・・・?」
「ん?ああ、そういえば知らなかったっけ?この姿は色々とあってな。
まあ、気にするな。―――ところでさ?」
彼女に近づいて。
「お前、ライザーとじゃあ満足にならなくなったんだって?」
「―――――っ!?」
ユーベルーナは驚愕の色を浮かべた。俺はさらに近づく。
「本当は、ライザーがどこに行ったのか知って、ライザーを窘めるために来たんじゃなくて、
心のどこかでじゃあ俺に会いたかった思いがあったんじゃないのか?」
「ち、違います!私はライザーさまを―――」
「声が震えているぞ?」
ライザーを縛っていたグレイプニルを解いて、ユーベルーナの腕を掴んだ。
「っ・・・・・!」
「違うなら、この手を放してみろよ。力、込めていないから直ぐに放せるぞ」
彼女は視線を泳がせ始め、掴むんでいる腕がゆっくりと俺の手から放れるが―――。
「っ!?」
俺はそれを許さず、腕を掴まえた。
「んじゃ、防音が整備されている部屋に行くとしようか」
ライザーの襟も掴んで、ユーベルーナを強引に連行する。
その部屋は家の深奥にある。所謂隠し部屋だ。
ヒトの気、魔力を完全に遮断、隔離している場所は俺とリーラ、ガイアしか知らない。
その部屋へライザーとユーベルーナを案内した。
生活ができ、必要な物は全て揃っているから問題はない。
「んじゃ、始めるか」
「い、一体なにを・・・・・・?」
「何って・・・・・あの時の続きだが?」
左手と腕に赤い籠手が光と共に覆う。そして、ユーベルーナの肩に触れると小型の魔方陣が。
それを確認した後に―――指を弾いた瞬間。彼女の衣服が、下着すらも弾けた。
「この技、使いたくなかったがな。色気も微塵もないし」
「って、ユーベルーナになにをしやがる!」
右拳に炎を纏って殴ってくるライザーには金色の翼で殴打し、壁に叩きつけてそのまま拘束。
「こうした方が快感を与えられるんだよ」
縄でユーベルーナの豊満な体を亀甲縛りで縛った。
「うっ・・・・・!」
「くくく・・・・・こうするのは何ヵ月振りだろうなぁ?」
彼女に手を伸ばす。
「今度はちゃんと触ってやるよ。ライザーに見られながら、快感を味わえ」
その後、ユーベルーナをライザーの前で調教を施し、
面白いぐらい嬌声を上げて、俺を楽しませてくれた。
―――○●○―――
調教を終えて、リビングキッチンでのんびりと過ごした。
オーフィスは俺の膝に座り、当然のように隣にはルクシャナが座っていて、
目の前にはティファニア、その隣にはリースが座っている。
「・・・・・」
リースは何か言いたげに俺を見つめてくる。
「リース、どうしたんだ?」
「・・・・・こんなにのんびりとしてていいのかなって」
「リゼヴィムおじさんのことか?」
彼女はコクリと頷いた。復讐の対象者を倒すだけの力が欲している彼女にとって、
今の時間は無意味なのかもしれない。
「探しようがないからな。それ以前に、リースには色々と強くなってもらわないと。
今日も修行するんだろう?」
「うん、アレインさんに鍛えてもらうの。中々手厳しいけれど、手応えを感じる」
「同じ槍使いだからな。勉強になることが多いだろう」
実を言うと俺も色んな武器の扱い方を学んでいる。刀剣類は当然だがベルゼブブが師匠だ。
槍はアレインだ。龍牙なんて、ユーストマを師匠としているんだから驚いた。
「そういえばテファ」
ティファニアの愛称を呼ぶ。ティファニアは返事をして視線をこっちに向けてきた。
「あのオルゴール、聞けたのか?」
アルビオンで出会い、アルビオン王家の秘宝。彼女自身もアルビオンの出身者だと言うから
二つの秘宝を渡してみた。それ以来、聞くのを忘れていたからどうだったのか気になった。
ティファニアは俺の問いに対して首を縦に振って首肯した。
「うん、風のルビーを嵌めて聞いたら、音が聞こえたわ」
「そっか。俺じゃあ聞こえなかったからな。やっぱり本来の持ち主にしか聞けないものかね」
「ど、どうなんだろう・・・・・私もさっぱり分からないわ」
虚無の担い手・・・・・で、間違いないだろうな。ティファニアは。
「ねーねーテファ。あなたも使い魔を召喚したらどうなの?」
「わ、私が?」
「そう。蛮人とエルフのハーフなら、私みたいに使い魔の儀式ができるんじゃないかって
思うわけよ」
ルクシャナが好奇心でティファニアに言った。困惑したティファニアは視線を俺に向けてくる。
彼女が言いたいことを理解し、答えた。
「必要と思えばすればいいさ。使い魔召喚の儀式の仕方はカリンかルクシャナが知っている。
それに無理して召喚をする必要もない」
「うん・・・・・分かったわ」
使い魔召喚する機会はいずれ訪れるだろう。その時まで、彼女はどうなっているのか
誰も分からない。まあ、この家にいる限り、何も心配する事はないだろう。
「・・・・・」
すると、オーフィスが顔を見上げてきた。
「どうした?」
「我は、イッセーの使い魔」
「なんでだ?」
唐突にそう言いだしたオーフィスに首を傾げたら、オーフィスは理由を述べた。
「我、イッセーと家族だから」
・・・・・理解しがたい。が、オーフィスの頭を撫でる。
「そうだな。オーフィスは皆と同じ俺の家族だ」
「ん♪」
嬉しそうに目を細める・・・・・。と、ジトーと目を細め、
何やら不機嫌そうなルクシャナさん。
「なんだか、使い魔の存在意義がないような気がするわね」
「あるだろう。互いが必要とし、互いが協力し合う。今の俺たちと何の変わりようもない。
だからルクシャナもこの家に、俺の傍にいてくれるんだろう?」
「そりゃそうよ。私とあなたは―――」
「「同じ存在、一心同体だから」」
言いたいことが手を取るように分かり、異口同音でルクシャナと同時に発した。
「ふふん、私の言いたいことが分かってきたじゃないの?」
「お互い様だろう。まあ、あんまり分かり過ぎられても困るが」
「あら、どうして?」
ナヴィが不思議そうに訊く。お前の場合は相手の弱みを握れるから
好都合だと思っているだろうが、
「心を読まれ過ぎて嫌だからな。嫌だろう?読まれる立場としてなるのは」
「あー・・・・・確かにそうね。読む側としては良いけど、
読まれる側は溜まったもんじゃないか」
そーいうことだ。分かってくれてなにより。
「でも、そう言う能力を持っている種族はいるわよ?そいつが敵だったらかなり厄介。
どうするの?」
「単純に無心になるしかないだろう。それか別のことを考えながら戦うかだ」
「妥当ね。それともしくは、相手が予想した動きを上回るか」
「電光石火、それ以上の音速と神速で攻撃か」
まあ、そんな心を読む奴と出くわすような状況にはそうそうならないだろう。
今はクリフォトのことで各勢力は警戒しているし。
「さて、そろそろ修行でもしようかな」
オーフィスを肩に乗せ、俺が立ちながら言えば、リースが立ち上がった。やる気満々だ。
だったら―――。
「ほら、ルクシャナも修行すんぞ」
「えー、私は学者筋なんだけどー?」
「戦えるんなら話は別だ。自分の身を守れるぐらいの器量を持ってくれよ」
問答無用と金色の翼でルクシャナを確保。強制連行だ。
「ちょ、ちょっとー!?」
「オーフィス。練習相手になってくれ」
「ん、分かった」
「イッセー。後で私の相手になってね」
「ん、分かった」
「って、私まで連れて行こうとしないで!テファ、助けて!」
「え、えーと・・・・・ごめんなさい」
「は、薄情者ー!」
これこれ、ティファニアに当たるんじゃない。
そう思いながら地下にあるトレーニングルームへと運ぶ俺たち。
そうだ。あの力、魔人の力を制御しないとな・・・・・。