Episode1
とある建物に大勢の人間たちが重々しい雰囲気を発し、厳つい顔を浮かばせては
誰一人も言葉を発しないで静かに時を待っているかのように胡坐、正座をしている。
その人間たちの中で黒く燃える蝋燭が一本置かれており、
それを見た人間たちは怪訝な気持ちを抱いている。
「この蝋燭の命の炎の者は、次期人王だった兵藤一誠のものだ」
静寂を破ったのは兵藤家現当主である、兵藤源治。
源氏もまた、蝋燭の炎の色を見て目を細めている。
「あの者の身に何か起きたのかもしれぬ」
「ですが、世間はあの者の死を認知しており、次期人王ではございません。
ならば、放っておいてもよいかと」
「兵藤家しか灯さない蝋燭に火が付いている時点で、例え追放された親の子であっても、
兵藤家の血を受け継いでいるのだ。これは兵藤家の歴史の紐を解いてもなかった現象だ。
易々と放っておけるほど我ら兵藤家は甘くはない」
「ならば、この炎を燃やす者をここに招くと?
この黒い炎を燃やす原因を追及、調査をするために」
一人の男性が源氏に進言すると、場がざわめきだす。だが、源氏は首を横に振った。
「この場所に追放された兵藤家の者を招くことを禁じる掟がある。
無論、その掟に従いこの場に招くことはしない」
「では、どうなさるおつもりなのです?」
「お前の言う通り、兵藤一誠の身を調査する。
丁度、あの者の周囲には兵藤家と式森家の者たちがいる。
彼の者たちに一任しようと思っている」
「ですが、あの子たちでは荷が重すぎるのでは?我々の誰かが
赴いた方が良いかと存じ上げます」
「・・・・・」
兵藤源治は無言で顎に手をやり悩む面持ちとなる。
「もしも、もしもの話です。この色を燃やす者が人間で在らない異なるものへとなっていれば、
それはもう兵藤と名乗る資格はございません。
仮に兵藤と名乗るのであれば―――抹消をしたほうがいいですぞ。兵藤家は人、全ての人間、
人類の頂点に立つ人間でなければ兵藤家の存在意義が崩れてしまいます」
男性は源氏に真摯に発する。兵藤家に仕えて永い男性にとって兵藤家は心の拠り所であり、
家族が住んでいる家。そこへ不穏分子が王となるとすれば、
周りが陰で反発し、反旗を翻すだろう。
「分かっている。この者はすでに次期人王ではない。
また新たな次期人王を選出しなければならぬな」
「それでしたら、兵藤照か兵藤名無でいいのでは?」
そこへ、第三者が進言した。顔に白く厚化粧をした長身痩躯の者だ。
「惜しくも破れてしまいましたが、この炎を燃やす者の次に強い兵藤家の者。
次期人王を決めるための戦いをまたしても、
結果はこの二名のどちらかが勝つかとございまする」
「・・・・・仮にその二人に王候補とすれば、どちらだ?」
長身痩躯の男性は深い笑みを浮かべるために、口角を上げた。
「―――兵藤名無、と私は推挙します。本気になれば、兵藤名無は兵藤照よりも強いのですから。
膨大な気と魔力の持ち主でもありますからね。良き人王となるでしょう」
源氏と男性以外、場に大勢の人間がいなくなると、源氏は問うた。
「どう思う?」
「十中八九、かとございます」
「そうか・・・・・だが、取り押さえるのに証拠がない。しばらく泳がせよう」
「かしこまりました。ですが、兵藤一誠のほうはどうなさるおつもりで?」
「先ほど言った通りだ。兵藤一誠の身を調査する。
もしかしたら、何かしらの力を得ているのかもしれんからな」
「その力を兵藤家の力になさるので?」
「兵藤家に役立つ者であれば、だ。―――行ってくれるな?」
「御意に」
―――○●○―――
二学期の終業式が終わった和樹たちが戻ってきた。
同じく終業式後の仕事も終えたロスヴァイセ、セルベリア、呼んでもいないのにアザゼルも。
それと、見知らぬシスターが家に上がってきた。
「誰?」
「あっ、イッセーくんは知らなかったわね。このお方はグリゼルダ・クァルタさん!
この地域一帯の天界スタッフを統括しているシスターなの!因みにゼノヴィアの上司の人よ?」
と、イリナが説明してくれた。なるほど、ゼノヴィアの上司か。
頭が上がらないだろうなーと思ったら、
シスターがこっちに来た。
「あなたが兵藤―――」
「悪い、その名前の俺は死んだ。今はイッセー・D・スカーレットだ。
イッセーって呼んでくれ」
兵藤一誠と呼ぼうした彼女を遮っていま名を名乗っている偽名を呼んでくれるように頼んだ。
彼女は申し訳なさそうにお辞儀をしてから自己紹介をしてくる。
その後、グレモリー眷属の他にシアやネリネ、
キキョウやリコリス、ユーストマとフォーベシイまでもが家に上がってきた。
「これ、何の集まりだ?」
「それは私が言うわ!」
イリナが代表して高らかに言った。
「もうすぐクリスマスでしょう?だから、クリスマスを通じて、
この光陽町の皆さんにプレゼントを配るの!」
リアス・グレモリーが続く。
「この町は四大勢力の和平、交流の象徴であり、重要拠点の一つ。
けれど、それ以前にこの町に住む者たちの大事な場所。
普段からこの地を私たちが利用しているのだから、クリスマスは住民たちをお祝いしましょう」
イリナもうんうんと頷いた。
「そうそう!そこで天界と冥界、人間界が手を組んで、
この町にいる皆にプレゼントを配るのよ!そして、配るメンバーが―――」
この部屋の扉が開く音が聞こえ、振り返ると―――兵藤家のメンバーがいた。
「この場にいる皆を中心にした、私たち!」
・・・・・何時の間に、兵藤家の奴らも話をつけたんだ。
「てか、人間と天使がサンタになるのは良いとして、悪魔がサンタなんて、
キリスト教の行事を体験して良いのか?」
「そこは何の心配もいらないぜ一誠殿!―――俺が許す!」
親指を立てて、朗らかに笑んだユーストマ。あ・・・・・そうなの。
なんだか、この神王が職権乱用して下々の部下たちは大変な思いをしていそうだな。
「しかし・・・・・クリスマスか」
懐かしげに遠い目でポツリと呟いた。あの時の約束、まだ果たせていないな。
「また、サンタさんにソリを乗せてもらえるかな?」
『・・・・・』
不意に、周りが静かになった。まあ、いつものことだろうな。
「な、イリナ」
「そうね!」
『えっ、イリナも!?』
俺とイリナ以外の面々が驚愕した。ああ、皆は知らないんだったな。
「小さい頃、何度かイリナとサンタさんの仕事を手伝ったことがあるんだ」
「懐かしいわよねー。サンタさんも豪快で優しい人がいっぱいで、
手伝いが終わると私たちにたくさんのプレゼントをくれちゃったわ!」
その殆どをイリナとこっそり、ヴァーリにあげたんだよなぁー。
次の日、ヴァーリが嬉しそうに『サンタさんからプレゼントをもらった!』って、
言ってくるから俺とイリナは良い仕事をしたとばかり笑みを浮かべたんだ。
「でもでも、あのサンタさんたちのプレゼントは絶対に手に入れましょうね!」
「ああ、今の俺たちなら、あのサンタさんに勝てる!」
うん、とイリナと頷いたらアザゼルが怪訝な面持で声を掛けてきた。
「なあ、お前ら。なに言っているんだ?」
それには俺とイリナは笑みを浮かべ、言った。
「秘密です!」
「秘密だ」
それから、色々と話し合った後、グリゼルダが今回の企画の中身―――プレゼントの確認と、
ヤハウェ、ミカエルからの年を明ける前のあいさつを
いただくために天界へ案内をしてくれるというので地下室へ。
だが、その途中でリーラに呼び止められた。何やら真剣な顔で。
「どうした?」
「お客様です」
「俺にか?」
「はい。―――兵藤家の使者です」
っ・・・・・。兵藤家の使者か。・・・・・俺に何の用だろうか。分かったと頷き、
来た道に戻ろうとしたら案の定、皆が不思議そうに訊ねてくる。
「俺に客が来た。天界は皆だけで行ってくれ」
「・・・・・じゃあ、僕も残るよ」
何かを察知したのか、和樹が言う。
「何だかね、僕にも関係がありそうな感じがするんだよ」
「いいのか?」
「うん、天界は次の機会に」
和樹の気持ちは変わらないようで、俺と和樹だけ退き返して応接室に足を運んだ。
既に客はそこにいるらしく、俺たちも早足で駆けつける。
「・・・・・」
応接間に入ると、ビシッとしたスーツを身に包んだ男性がソファに腰を下ろしていた。
俺を見ると立ち上がってお辞儀をした。
「初めまして、私は兵藤家現当主、兵藤源治さまに仕えている者です。
お会いできて光栄です。―――兵藤一誠さま」
「・・・・・」
最後、俺の名を発した瞬間・・・・・鋭い眼光になった。
なんか、俺に対する何かを抱いているんだろう。
話を進める。
「それで、今回はどのようなご用件で俺に?」
「はい、甦ったあなたさまのご様子をお伺いに参りました。
・・・・・人間ではないようですね」
「ああ、甦る際に人間を辞めた。だから、次期人王の肩書は捨てているつもりだ」
ソファに座りながら語る。男性はあからさまに安堵で胸を撫で下ろす。
「そうですか、それはなによりです。人王は人間でなければならない掟なので、
甦った次期人王が人間ではない異なるものとして
人王になるおつもりでしたら―――辞退してもらおうと考えておりましたので」
「・・・・・っ」
和樹から怒気を感じた。頼むから、ここで魔力を放つなよ・・・・・?
「それを言いにわざわざ訪問を?」
「いえ、それはついでです。―――これをご覧ください」
傍に置いてあった、鞄を手にして中から蝋燭を取り出した。炎が黒い蝋燭を。
「これは?」
「兵藤家の者の命そのもの・・・・・と言いましょうか。
この蝋燭の炎は兵藤家一人一人の命が分かる兵藤家の命の灯火であります。
兵藤家の者に子が誕生すれば、その子の蝋燭が特殊な場所で出来上がり、
その子の命の炎が燃え上がります」
蝋燭の向きを変えた男性。その蝋燭には黒い字で名前が書かれていた。―――兵藤一誠と。
「・・・・・俺の命の蝋燭か」
「はい、兵藤家の命の火は様々な色を灯火ますが、兵藤家が誕生して以来、
このような禍々しい黒い炎の蝋燭は源氏さまも初めて見たと仰っておりました。
あなたが死ぬ以前の命の炎はとても綺麗でした。
―――ですが、何故このような色の炎になったのか私たち兵藤家は理解できません。
ですので、あなたと会い、話をし、できればあなたの身体を調べさせてもらいたいと
思っております」
「「・・・・・」」
和樹に視線を向ければ、和樹も俺に視線を向けていた。アイコンタクトで会話する。
「(大方、俺が魔人の力を覚醒、したからだろうな)」
「(どうするの?言っちゃう?)」
「(言わないより、言ってからどんな反応をするか、様子を見よう)」
「(フォローするよ)」
頼もしい魔法使いだ。たったの三秒で和樹と決めて視線を前に戻す。
「身体の調査はご免被りたい。だけど、その炎の色が黒くなったのか原因は分かっている」
「・・・・・教えてくれますか?」
肯定と頷き、父さんと母さん、それにあの時であった魔人の言葉を包み隠さず告げた。
「・・・・・」
男性は俺の話を聞くにつれ、険しい顔になったり驚愕の色を浮かべたりした。
兵藤家と式森家は魔人という種族から誕生したと言った時は目が飛び出んばかり
驚いたほどだ。
「そう言うわけだ」
「・・・・・なるほど、禁忌を犯した兵藤家、式森家の者たちの間に生まれた子が、
強い肉体を得たことで、相反する力は肉体に収まって・・・・・魔人となった・・・・・」
「唯一無二の存在だろうな。相反する力に耐えきって生きている兵藤家と式森家、
父さんと母さんの間に生まれた子供が俺なんて、今でも俺自身は驚いている」
「それで・・・・・あなたはその魔人の力をコントロールできているのですか?」
その質問はNOだ。
「俺も魔人の力を扱えるように努力しているところだ」
「そうですか・・・・・」
「まあ、俺みたいな禁忌を犯してまで強い子をを作ろうなんて考えをする奴はいないだろう。
魔人のことなんて、現当主だって知らないんだろう?」
「ええ、私自身もあなたから聞くまでは存在すら知りませんでしたよ」
溜息を吐き、自分の手を見下ろす男性。
身体に流れる力と血は魔人・・・・・と思っているのかな。
「次期人王のことはどうなっている?」
「一応、候補は挙がっております。今のところは―――兵藤名無です」
「・・・・・あいつが?」
「ええ、本気を出せば兵藤照より強いだとかとあるものがそう仰っておりましたので」
あいつがねぇ・・・・・。確かに強かった。
あの時は兵藤照に言われるがままで戦っていたから、あいつ自身の意思で戦っているわけでも
ないかもしれない。だけど、確かに強かったな。それは確かだ。
「また、大会を開催はしないんだな?」
「既に終わってしまい、次期人王の死は世間に認知されましたからね。
ですが、突然に別の者が人王などと、世界中の人類は納得しないでしょうし、
現当主は何かしらの対策を考えているかもしれません」
「悠璃と楼羅はどうなる?」
「・・・・・」
男性は口を閉ざし、考える仕草をし始める。
「今のところ・・・・・何とも言えませんね。
次期人王だったあなたと(仮)結婚してしまったので、
このようなケースは初めてなので、私から言えることはございません」
なるほど・・・・・取り敢えずは安心か。男性は蝋燭を鞄の中に仕舞い、立ち上がった。
「それでは、私は兵藤家に戻ります。あなたから得た情報はとても興味深く、驚きでした。
この事は当主にお伝えします」
「ん、よろしく言ってくれるとありがたい」
「かしこまりました」
「ああ、それと」
応接間からいなくなろうとする男性を呼び止め、俺は名乗った。
「兵藤一誠としての俺は死んでしまったから、今の俺はイッセー・D・スカーレットだ。
よろしくな」
「・・・・・かしこまりました」
男性はお辞儀をし、俺と和樹の視界からいなくなった。
「・・・・・これで、大変なことにならないと良いんだけど」
「その時は、振るいかかる火の粉のように払うまでさ」
「源氏さま、ただいま戻りました」
「ご苦労だった。どうだ、兵藤一誠の様子は」
「はい。元気でおられました。そして、とても信じられない情報を得れました」
「そうか・・・・・では、皆を招集させて聞かせてもらおうか」
「・・・・・」
「どうした?」
「いえ・・・・・かしこまりました」