兵藤家の使者がいなくなってしばらくして、天界に行ってしまった皆を待っていた。
俺と和樹、リーラとグレイフィアに、シンシア、オーフィスが家にいる。
ガイアは次元の狭間に行っている。
キッチンの方に視線を向ければ、リーラがアインスにメイドとしての務めを教え込んでいた。
融合騎とかいう存在らしいが、誰でもユニゾンすることはできるんだろうか?
「・・・・・」
和樹がリーラとアインスを見つめている。
「どうした?」
「いや・・・・・一誠のメイドって銀髪の女性しかいないなぁーって思ってさ」
「それってお前のシンシアだってそうじゃないか?」
「まあ、そうだけど、一誠って銀髪フェチだったっけ?」
いや、そういうわけじゃないんだけど・・・・・。何故か皆の髪が銀なだけだと思う。
「ヴァーリも銀髪だったよね」
「いや、あいつって元は黒だったぞ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、いつかだったかな。急に銀になったんだよ。
まあ、俺とイリナは気にもしなかったからヴァーリと遊んでいたけどな」
今思えば懐かしい記憶だ。
「そういえば、学校のほうはどうだ?」
「変わらないさ。まあ・・・・・サーゼクス理事長が学校の護衛として依頼した人たちには
驚いたけどね」
「ああ、九十九屋の皆か」
「・・・・・知っていたの?」
「サーゼクスから聞かされた」と教えた。龍牙の奴は絶対に関わり合おうとはしないだろうな。
完全に絶縁したって言ったし。
「一誠、もしも九十九屋と出会ったらどうするの?」
「父さんと母さんを殺した総大将と―――って間違いじゃないか?」
「・・・・・」
和樹は肯定と沈黙する。和樹の質問にはどうでもいいって感じで答えた。
「別に何も感じない。もう昔のことだ。最初はヴァンたちを殺し復讐をしようと思ったのは
事実だけど、龍牙の兄貴をどうこうしようとしても、何の変わりもないさ。
責任を感じているのなら勝手に感じていろ。いつか報いを受けるためにな」
それだけ言ってソファに寝転がる。と、インターホンが鳴った。今日で二度目の訪問だな。
身体を起こすとアインスが訪問者を出迎えに行った。
しばらくして、アインスが中年の男性を引き連れて現れる。
「あ」
俺は牧師の服を着た栗毛の男性を見て漏らした。
男性も俺を見て、目を丸くするけど直ぐに笑顔になった。
「おお、一誠くん。久し振りだね!」
「お久しぶりです」
ソファから立ち上がって中年男性と握手を交わす。
背後から「知り合い?」と和樹が訊いてくる。
その尋ねに男性に視線を向けながら答えた。
「イリナの父親だ。紫藤トウジさんだ。
確か、教会の関係の仕事をしていたような・・・・・?」
「うん、合っているよ。私はプロテスタントの牧師兼エージェントをやっているんだ」
すると、イリナのお父さんが俺の両肩に手を置いた。そしたら―――号泣し出した!
「・・・・・イッセーくん、孫を、よろしくお願いします」
「え・・・・・は、はい・・・・・?」
いきなり、孫と言われても・・・・・俺もどう反応したらいいか・・・・・。
しかし、困惑する俺の想いなど通じず、イリナのお父さんは一人頷く。
「うんうん!男の子でも女の子でもどちらでもいいのだよ!
いや、むしろ、たくさん子作りに励んでどっちの孫の顔も見たいかなって!
ああ、女の子はイリナちゃんに似てとても愛らしいだろうなぁ・・・・・・。
男の子はイッセーくんに似てとても勇ましい子になるんだろうか・・・・・」
・・・・・ああ、一人妄想の世界に入り込んでしまった。
この癖、イリナにそっくりだ。やっぱり、親子だな。この人の悪いところが
イリナにも遺伝しちゃっているよ。最近のイリナは妄想なんてしなくなっているけどさ。
「最初、イッセーくんが生きているとイリナちゃんから手紙を見てあまりにも
嬉しくて部屋で踊り回ってしまったよ。これで孫の顔が見れる!ってね。
でも、イッセーくんが死んだと知った時は物凄くショックだったよ。
でもでも、イッセーくんが甦ったって話を聞いた時は部屋で光力を空に放って打ち上げ花火を
してしまったね!―――まあ、それでおママにこっぴどく叱られてしまったけど、
イッセーくんが甦って良かった!そういえば、ドラゴンの身体になったんだって?
だとすればイリナちゃんとの子作りには何も問題ないだろう!ドラゴンはせい―――」
ガンッ!
イリナのお父さんが思いっきり殴られた。
「トウジさま。そのへんで話を打ち切ってください」
調理道具の一つ。フライパンを片手に持っているリーラによって。
イリナのお父さんは頭に両手で押さえてリーラに視線を向けた。涙目で。
「リ、リーラさん・・・・・久し振りだねと言いたいけど、痛いよ?」
「一誠さまが困惑しております。
それにそのことについては当人たちの意思で・・・・・子作りを励むものです」
あ・・・・・可愛い。最後辺りでリーラが頬を淡く朱に染めて小さく発した。
「・・・・・それと、あなたの娘が帰ってきておりますが」
「・・・・・へ?」
あ、本当だ。―――青白い六対十二枚を展開して顔全体が赤く染まって
全身をプルプルと震わすイリナが筆頭に、天界に行っていた皆が戻っていた。
「パ・・・・・パパ・・・・・イッセーくんになに言っちゃっているのよ・・・・・」
「や、やぁ、マイエンジェル・・・・・?綺麗な翼だね・・・・・ところで、
どこまで聞いていたのかな?」
「イ、イッセーくんとこ、子作りの話のところからよ・・・・・・」
それ、一部始終じゃないか?あ・・・・・バチバチと青白い放電が・・・・・。
「パパのバカァーッ!」
ビッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!
「娘からの愛の攻撃ぃぃぃぃぃっ!」
全身に駆け回る放電にイリナの父さんは痺れまくり、黒コゲとなった。
「なんだろう、イリナちゃん・・・・・私たちと同じ感じがするっす」
「そうね、特に父親が『ああ』だから」
「同じ苦労をなされておるのですね・・・・・」
「今度、イリナちゃんを含めて自分たちのお父さんのことについて語り合ってみる?」
神王、魔王の娘である四人がひそひそと話しあっていた。
その日の夜。どこから嗅ぎつけたのか、ユーストマとフォーベシイが家に上がり込んで
イリナの父さんを交えての夕食となってしまった。三人の娘たちは頭を抱え、
何事も起きませんようにと呟いていた。
しばらくして、酒でアルコールが回った証拠、
顔を赤らめながら改めてイリナの父さんはこう言う。
「では、改めまして。元
イギリス―――プロテスタント側の牧師をしております」
そういや、カトリックでは男性聖職者を神父と呼び、プロテスタントでは牧師と呼ぶんだっけ。
あれ?牧師は聖職者じゃなくて、教職者だっけ?
まあ、宗教によって呼び名や戒律も変わるそうだからな。
ただ、プロテスタントの牧師はカトリックの神父とは違い、結婚できるんだよな。
もう少し、その辺の知識を調べるか。
「そのようなわけで、今回の立案理由と、細かな確認だけして、当日に備えるようにしましょう」
そこから、イリナの倒産による発案に至った経緯、今回の企画の注意点などが語られる。
発案に至った理由は、陽はこの地に住む者たちへの感謝の気持ち、
もっと雑に言ってしまえば迷惑料である。今回の説明で一番の驚いたのは、
イリナの父さんがプロテスタント側の局長であるということ。
何でもとある支部の役所に就いているそうだ。一通り、クリスマスの概要説明も終えた
イリナの父さんは、俺に「そうそう、お土産があります」と鞄から中を探りだした。
取り出したのは―――ドアノブだった。・・・・・ドアノブ。何故にドアノブ?
皆が首を傾げて視線を注ぐ中で、イリナの父さんはそれを俺に手渡してきた。
「これはねイッセーくん。どこでもいいから扉のドアノブと交換して取り付けてみたまえ」
「・・・・・それで、なにがなる?」
「ふっふっふっ、それは俺から説明するぜ!」
ドンッ!とユーストマが自慢げに胸を張ってドアノブの説明をした。
「そのドアノブを取り付けた部屋は天使がどんな種族と子作りしても何ら問題がないよう
作った特別な専用の異空間に繋がるんだぜ!
つまり、天使であるシアがイッセー殿と子作りをしてもシアが堕天使になることは一切ない!」
『―――ッ!?』
ユーストマの発言に皆が一様に驚く。そ、そんなものを、天界が作ったのかぁっ!?
シアの肩を置いて、ユーストマは力強く言い放った。
「シア!遠慮なくイッセー殿と愛を育み孫の顔を見せてくれ!」
「え・・・・・ええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
予想もしていなかったであろう父からの言葉を聞いて、シアは心底仰天した様子で叫んだ。
というかおいこら、シアのためだったら何でイリナの父さんが俺に手渡す。フツー逆だろ、逆。
「・・・・・まあ、私は神王の娘だけど悪魔だし、
・・・・・・その、イッセーとシても問題、ないわ」
キキョウが顔を赤らめてブツブツと言う。
「・・・・・ヤハウェ、お前は一体なにを考えているのか、
さっぱり俺には分からないよ・・・・・・」
手の中にあるドアノブを見下ろして、深く溜息を吐く。
―――兵藤家―――
「―――以上が、兵藤一誠の身に起きた事の始終の報告でございます」
兵藤源治の使者が鏡を合わせる形で座る兵藤家の重臣たちと現当主、兵藤源治に報告を終えた。
面々の反応は様々だった。
「兵藤家と式森家の血が、我ら兵藤家が・・・・・魔人と言う種族から
生まれたものだとは・・・・・」
「信じられん!我らは由緒正しき人類の頂点に立つ一族であるぞ!
何故、魔の種族の血がこの体に流れていると言うのだ!?」
「式森家の者との間に生まれた子が死ぬ理由はそう言う事だったのか」
「おのれ、あの者どもが余計なことをしなければ・・・・・!」
怒り、驚き、困惑、納得と反応、感情を露わにする。
「お静まりください。皆さまのお気持ちは式森家の者たちと同じ。
それに、この場に現当主がおられるのですぞ」
『・・・・・』
使者の一言に場は静まり返った。周りから視線を一身に浴びる源氏は、
腕を組んで瞑目している。
「当主さま。彼の者は『兵藤一誠は死んだ』と仰りました。
なので、彼は兵藤家の者ではないという事実を自分でお認めになりました。
ですが、・・・・・式森家と我ら兵藤家の血と力を身体に宿す者は、
この兵藤家の歴史の紐を解いても存在は確認できておりません」
「・・・・・」
「しかし、魔人と言う種族のことに関しては兵藤家の歴史の中では書かれていないことも事実。
現当主である源氏さまもご存じないのは重々承知です。
だからこそ、我らが魔人から生まれた一族と言う事実をこの場にいる者たちの間だけの
秘密にしたほうがよろしいかと」
使者の言い分に沈黙を貫く面々。それについては同感だと反応なのだろう。
そこで、一人の男性が口を開く。
「だったら、魔人の力を覚醒した者を野放しにしてはおけないと言うことでもあるな。
彼の者が兵藤家ではないと言っても、出世が割れている。―――元兵藤家当主の兵藤誠、
元式森家当主の式森一香。両名禁忌を犯し、子を生んだ。
その子供の名は兵藤一誠・・・・・禁忌を犯し者たちの子。忌まわしい子」
不穏な空気が漂い始める。
「(・・・・・彼の者の存在がし続ける限り、我らの存在意義がなんなのか・・・・・)」
「(・・・・・彼の者が存在し続ける限り、
我らは魔の血と力を宿していると立証し続ける・・・・・)」
「(・・・・・彼の者が存在が、兵藤家の名誉と栄光を穢す・・・・・)」
では、それらを正当に戻すにはどうすればいい?兵藤家の重臣たちの思考と理想が一致する。
王侯貴族、高貴な一族ならば、自分の家の闇を世間に知らせたくがないため、
自分の悪行を周りに知らせたくないため、
秘密をバレないように、漏らさないように、誰もがするある方法を脳裏に思い浮かべた。
それは―――。
―――――兵藤一誠をこの世から抹消する―――――