リアス・グレモリーたちと出会い、別れて数年が経った。あれから俺は実力を身に付け、
新しい力を手に入れた。だけど、まだまだ俺は弱い。だから、もっともっと強くなる。
目標はグレートレッドさんを倒すことだからね。
「はあっ!」
ドゴンッ!
『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
動く土の塊のモンスターの腹部に拳を突き出した。
その衝撃でモンスターは地鳴りを立てながら背中から倒れる。
だけど、これだけじゃまだ倒れたとはいえない。
「消えろ!」
紫の宝玉に黒い籠手を装着していた手の平から赤黒いオーラを放ってモンスターの体を、
命ごと消滅した。
「はぁ・・・はぁ・・・」
最後にこの力を使わないと勝てないか。・・・・・まだまだ俺は弱い。
もっと、もっと強くならないと・・・!
父さんと母さんを殺したあいつらに復讐なんてできない・・・!
『主、復讐が全てではないです』
右の手の甲に金色の宝玉が浮かんだ。
その宝玉に呼応するかのように装着している籠手、紫の宝玉が点滅した。
『メリアの言う通りだ。復讐にこだわり過ぎる。それほど許せないのか?』
許す許せないの問題じゃない。俺がやりたいんだ。
あの三人を殺して、あの時したかった事をやり遂げたいんだ・・・!
『『・・・・・』』
こんな俺が嫌なら自由に生きても構わないよ。
元々、メリアたちは友達と一緒に暮らしていたんでしょ?探さないの?
『・・・・・我らの友を探そうにも行方が分かりません』
『その上、主には恩がある。我らは主を尽くすと、あの時誓った。
主を放っておいて好きに生きることはできない』
・・・・・変わったドラゴンだね。ドラゴンってカッコいいけど、
グレートレッドさんから聞くと悪いイメージしかないんだけど。
『良いドラゴンもいれば、悪いドラゴンもいるという事だ』
『悪いドラゴンは退治される運命ですがね』
「じゃあ、キミたちは悪いドラゴンなの?」
そう言うと沈黙で返された。でも、すぐに言葉が返ってきた。
『我らはなんというか・・・・・悪い事をした友に巻き込まれた形で退治されたのです』
「うわ・・・・・可哀想だね」
『どれだけ弁解しても、あの神は聞く耳を持たず問答無用と退治したのだ。
まったく、はた迷惑なことであの時の事を思い出すと・・・・・ムカつく』
ははは・・・・・その神は今でも生きているの?
『生きているでしょう。神は全知全能の存在であり、人を産んだ存在でもあるのですから』
凄いな・・・・・何時かその神さまに会ってみたい。
『ええ、お願いします。ゾラード共々あの神に会って言いたいことが山ほどあるので』
『そうだな。我らの友の居場所も聞きだす必要もある』
なんか、メリアとゾラードが気合が入っているね。それほどまで神に対して許せないのかな。
『では主、次は翼を展開して長時間の浮遊です』
「うん、分かった。―――
お母さんから受け継いだ
背中に12枚の金色の翼が生えた。翼を羽ばたかせて紫色の空の下で何時間も飛び続ける。
「冥界って嫌な空の世界だね」
『悪魔はそんなイメージの存在でもありますから』
「・・・俺って悪魔と勝負したらどこまでいけれるかな」
『主の現在の体力を考えれば、上級悪魔程度ならいけるだろう。しかしだ。
我らの力も未だ、完全にコントロールしていないからな。
そこを歴戦練磨の上級悪魔に突かれていまえば負けるだろう」
・・・・・結局、まだまだ俺は弱いってことか。もっと強くならないと・・・・・。
『主、復讐のために強くなっても意味がないとグレートレッドが仰っていたではないですか』
「・・・・・分かってる。復讐だけじゃない、俺の夢のためにも強くならないと」
『・・・分かればいい。だが、復讐する相手が目の前に現れても己を見失ってはダメだ。
それでは、今まで積み重ねてきた修行と鍛練の意味がない』
「(・・・・・気をつけるよ)」
とてもじゃないが、
復讐する相手が目の前に現れたら・・・邪魔する奴も殺してしまいそうだ。
―――○●○―――
「はぁ・・・・・疲れた」
森の中で川から獲った魚もどきを焚火で焼いている。
今日の修行メニューを終えた時にはすでに周りが暗くなっていた。
『お疲れ様です』
「ん、ありがとう・・・・・」
辺りは静寂に包まれている。この場にいるのは俺しかいない。
まるで孤独のようにも思える。魚もどきも焼けてきたし食べようと伸ばす。
「・・・・・獲って何だけど、これって食べれるのかな」
『すまない、分かりかねる。だが、食って体調を崩した場合は我らの力で治す』
どっちみち、食べないと分からないんだね。・・・・・意を決して魚もどきを一噛みする。
「・・・・・ん、意外といける」
『それは良かったです』
冥界の魚も美味しいんだ。これを使った料理をしてみたいな。調理器具はないけど。
そんな事を思いながら魚もどきを食べ続けていると流石に物足りない事を口にする。
「この森ってネズミとかフクロウとかいないのかな」
『人間界の世界とは違い、冥界は魔物の類しかいない』
『ですので、主が求めているような存在はいないかと』
そうなんだ。できれば、妖精とかちっちゃい生物でもいいから触れたい。
もう、グレートレッドさんとリーラと離れて1ヵ月は経っているもん。寂しく感じるぞ。
『ふふっ、グレートレッドは主の母であり姉でもありますからね。
この修業期間を終えたら甘えるといいでしょう。あのドラゴンも主の事を―――!』
メリアが微笑ましそうに喋った。でも、途端に喋らなくなった。
「どうしたの?」
『・・・・・主、こっちに近づく存在がいます』
『なんだ・・・・・このプレッシャーは・・・・・グレートレッドほどではないが、
かなりの力を持つものが放つオーラだ』
・・・・・メリアたちがかなり警戒している?俺には何も感じないんだけど・・・・・。
ザッザッザッ。
草と土を踏む音が真っ直ぐこっちに近づいてくるのは分かる。
腰を上げて臨戦態勢になって足音がする方へ視線を送ると、
火の明かりによってこっちに来た存在の姿を捉えることができた。
黒いコートに身を包んだ長身の男の人、金色と黒色が入り乱れた髪。
その双眸は右が金で、左は黒という特徴的なオッドアイだった。
「―――珍しい、冥界に人間がいるとはな。しかもまだ子供か」
「・・・・・」
開口一番に俺を見据える謎の男。さらに口を開いた。
「ほう・・・・・ドラゴンを宿しているのか。それも2匹」
「っ!?」
メリアとゾラードの事を見抜いた!?初めて出会ったばかりの人がどうして・・・!
「そう警戒するな。お前を如何こうするようなことはしない。
俺は冥界で修行をしに来たのだ」
「・・・・・修行?」
「俺は戦いと死を司る存在でね、人間界や冥界に訪れては修行や見聞をしている」
戦いと死を司る・・・・・?ゾラード、どういうこと?
『・・・・・我が幻想を司るドラゴンであれば、
メリアは創造を司るドラゴンだという事は覚えているな?』
うん、最初に出会ったときにそう言っていたね。
グレートレッドさんは夢幻を司るドラゴンだってことも。
『ドラゴンにはそれぞれ何かしらの力を司っている』
『力を司っていないドラゴンもいますがね』
それも聞いた。それで?
『つまり、主の目の前にいる存在はドラゴンと言う事です』
「・・・・・え?」
それ本当?唖然とする俺を余所にゾラードが警戒しているような声音で語りだした。
『噂でしか聞いた事がなかったが、よもやここで出会うとは・・・・・。
三日月の暗黒龍・・・・・クロウ・クルワッハ・・・・・?
「ドラゴン・・・・・?」
「ああ、その通りだ」
隠すこともなく目の前の男の人は肯定した。その証拠と言わんばかりに背中から翼が生えた。
ガイアのような真紅の翼じゃなくて、漆黒の翼だった。
「・・・・・ッ!?」
「再度言うが警戒はするな。お前を襲いに来たのではない。
感じたことがない力がある龍の波動の正体を確かめにやって来たまでだ」
「・・・・・それで、感想は?」
「興味深い、と言っておこう」
興味深い?眉を寄せて怪訝に視線をクロウ・クルワッハに向ければ、
何故か俺の前の前で腰を下ろした。
「お前の名はなんだ?」
「・・・兵藤一誠」
「・・・・・兵藤・・・・・そうか」
なるほどな、と口元を緩ましたクロウ・クルワッハ。
どうした?と、問うと首を横に振って答えてくれなかった。
「お前は一人か?」
「もう二人家族がいる。でも、俺をここに置いて帰っちゃった。
修業期間は3ヶ月と言い残して」
そう言うと、いきなり苦笑いをした。
「こんな小さな人間を置いて3ヶ月間も放置とは・・・・・良く生きていられるな」
「メリアとゾラードが一緒だから生きていけれる」
「メリアとゾラード・・・・・なるほど、それが2匹のドラゴンの名か」
口の端を吊り上げてクロウ・クルワッハは、俺が獲った魚を食べ始めた。
「俺も修行しに冥界に来たといったな」
「そう言ったね」
だからどうしたんだ?と首を傾げると真っ直ぐ俺を見据えて口を開いた。
「お前に興味がある。しばらくはお前の傍にいよう。修行も兼ねてな」
『『・・・・・ッッ!?』』
「俺、修業期間が終えたら迎えが来て帰るけど?」
「構わん。俺が好き勝手にいるだけだからな」
フッ、と小さく笑みを浮かべたクロウ・クルワッハ。
おかしな人・・・・・いや、ドラゴンだったな。
こうして俺とクロウ・クルワッハは一緒に修行することになった。
―――○●○―――
一日目
「この崖・・・・・どこまで高いんだよ・・・・・っ!」
「天国までだったりしてな」
「冥界に天国なんて存在するの?」
「ここは地獄だ。下に落ちて打ち所が悪ければ即地獄行きだぞ?」
「恐い事を言わないでよ!?」
隣で涼しい顔で崖を登るクロウ・クルワッハ。
この辺りの場所では一番高く、この聳え立つ山と思わせるほどの岩の塊に手と足だけで
登っている。上を見上げればまだ頂上が見えない。
どこまで高いんだと思っていた時、クロウ・クルワッハは促してきた。
「下を見ろ。絶景ではないか」
「絶対に見ない!上だけ見る!」
「そうか―――怪物が這い上がっているのにな」
「・・・・・はい?」
とんでもない事をクロウ・クルワッハが言った事に顔を下に向けると―――。
ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
頭が恐竜、体が四肢のモンスターが口を大きく開けて迫ってきている。って、えええええ!?
「な、なんだあれ!?」
「確か・・・・・ティガレックスとか言う邪龍の中で下位の存在であったな。
特徴的なのは、凄まじい咆哮を上げながら突進する。まあ、雑魚な存在だ」
「冷静に分析しているけどさ!早く上に登ろう!喰われちまう!」
「そうだな。―――では、先に行くぞ」
え・・・・?とクロウ・クルワッハに視線を向けていると、
あいつは物凄い速さで走って行った!
「・・・・・」
呆然としていると、下からティガレックスとか言う邪龍が迫っている事に気付いて、
急いで手と足を使って登り始める!
「うおおおお!喰われてたまるかぁああああああああ!」
二日目
とある凄まじい勢いで水が流れ落ちる滝にクロウ・クルワッハといた。
その膨大な量の水に全身を打たれながら座り、雑念を消して心を無にし座っている。
「「・・・・・」」
これをかれこれ1時間もしている。横目でクロウ・クルワッハを見れば瞑目して一瞬たりとも
身動ぎもしていない。凄いな、と思いながらも対抗心が燃えて瞑目して心を無にし続ける。
―――ザッパァアアアアアンッ!
水が弾ける音が聞こえた。でも、気にしない気にしない。心を無に―――。
『主、モンスターが現れました』
「・・・・・ん?」
メリアにそう言われて目を開けた。
―――目の前に蛇のような巨大な生物が敵意が籠った瞳で―――大きく開けた口のまま迫ってきた。
「手助けは?」
クロウ・クルワッハが瞑目したまま問うた。でも俺は否定した。
「大丈夫」
腰を上げてその場から跳躍した。そのままモンスターの口の中に飛び込めば急に暗くなった。
紫の宝玉がある黒い籠手を装着して赤黒いオーラを鋭く鋭利な包丁のように形を整えて―――。
「はぁっ!」
回転して中からモンスターの体を斬った。
一拍して、光が暗黒の世界を照らすように暗かった空間が、外からの光によって照らした。
その光に向かって行けば、紫色の空が視界に飛び込んできた。
ザッパアアアアアアアアアアアアアアンッ!
モンスターの体が滝の水に倒れた。
その身体の上に乗っかれば、クロウ・クルワッハが立ち上がっていて、
とある方へ指を差した。その差した方へ顔を向ければ―――。
倒したモンスターと同じモンスターが何10匹も俺を睨んでいた。
「手助けは?」
さっきと同じ言葉で問うてきた。流石にあんな数のモンスターと戦う体力はない!
「・・・お願いします」
冷や汗を流して今度は了承する。
「くくっ、わかった。共に倒しながら暗黒龍の力を見せてやる。―――いくぞ」
「ああ!」
それからと言うと、クロウ・クルワッハは3分の2のモンスターを倒した。
俺も頑張って倒したが、まだまだ足元にも及ばなかった。悔しいな。
こんな気持ちはガイア以外で初めてだった。
三日目
「ドラゴンを宿しているのに天使の翼か」
空を飛んでいる最中。クロウ・クルワッハに話しかけられた。
確かにドラゴンの翼も展開できるけど、こっちが好きだな。綺麗だし。
「さて、もう少しだけ飛行の速度を上げるぞ。ついて来れるかな?」
「死に物狂いでついていく」
「いい返事だ。では、行くぞ」
クロウ・クルワッハが翼を羽ばたかせば、物凄い勢いで俺から離れた。
俺も翼を羽ばたかせて後を追う。
―――数時間後
「ふむ・・・お前が作るものは美味しい」
一日の修行を終える頃には夜となり、昨日滝で倒したモンスターを炎で焼いて、
その肉を豪快に食べたクロウ・クルワッハが称賛した。そんな様子に疑問をぶつけた。
「ドラゴンって食べるんだな」
「力の塊である存在でも空腹はする。中には人間を食らうドラゴンもいるがな」
「クロウ・クルワッハもそうなのか?」
「食わん」
そうなんだ。それにしても、本当に変わったドラゴンだな。
「人の形で生きるドラゴンって珍しいね」
「まあ、気持ちは分かる。俺も元の姿と人間体で力が違うのかと思えば、そうでもなくてな。
こちらのほうが何かと小回りも聞いて良いと知ったのだよ。
迫力としては元の姿が一番なのだがな」
「どうして、冥界と人間界を行き来しているんだ?故郷には戻らないのか?」
「故郷・・・・・もはや俺には帰る場所がない。
故郷にいた頃は、キリスト教の介入が煩わしくて自分から去ったのだ」
キリスト教?初めて聞く単語だった。
首を傾げると「神を信じる人間達の集団だ」とクロウ・クルワッハが説明してくれた。
「神か・・・・・また聞いたな。神って悪い存在なの?」
「善と悪が存在するこの世は、必然的に良い神がいれば悪い神もいる。
神も様々だということだ」
「神って一人だけじゃないんだ?」
「そうだ。例を挙げれば・・・この冥界の最下層、冥府にいる死神のハーデスだろう」
「ハーデス?・・・・・あっ、骸骨のお爺ちゃん?その人なら知っているよ」
そう言うと、キョトンとクロウ・クルワッハが見詰めてきた。
「なに?」
「そっか、あのお爺ちゃんって神さまだったんだ。じゃあ、北の神さまのオー爺ちゃんと
天空の神さまもそうなの?インドラっていうおじさんやお猿さんのお爺ちゃんとか、
海の神さまのおじさんもそうかな?」
「・・・・・」
訊ねるように言ったら、クロウ・クルワッハは目を丸くしていた。
「お前・・・・・どんな神と会っているのか知っているのか?」
「お父さんとお母さんの友達ぐらいしか知らないけど」
「・・・・・メリアとゾラード。そうなのか?」
クロウ・クルワッハがメリアたちに問うた。でも、聞いても分からないよ。
『我らは主の両親と会ったことがない。神に封印されていたからな』
『主と出会った時には主の中におりましたので』
「そうか・・・聞くが、お前の両親はどこにいるのだ?」
「・・・・・」
そう訊ねられて・・・・・俺は強く手を握って言った。
「悪魔と堕天使に殺されたよ・・・・・」
今でも忘れないあの光景。あの時の事を思い出すたびに怒りと殺意が沸く。
殺したい、俺の大切な家族を殺したあいつらを殺したいっ!
「―――くくくっ」
クロウ・クルワッハが笑みを浮かべ出した。なに?何が可笑しいの?
「普通の人間が放つ凄まじい殺気と禍々しいオーラではないな。
ますますお前に興味を持った」
「・・・・・」
「兵藤一誠、俺と共に世界を周り修行と見聞をしてみないか?
もしかしたらお前が殺したい悪魔と堕天使に会えるかもしれないぞ?」
「っ!?」
それを聞いてますますあの3人に対する復讐心が昂り、殺意が沸き上がった時。
メリアとゾラードが話しかけてきた。怒声を上げて、
『主!殺意と怒りを抑えろ!』
『クロウ・クルワッハ!主を悪に染める気ですか!?』
「いや、そんな事をする気はない。
ただ、こいつを連れて世界を見て回ると面白そうだと思って誘ったまでだ」
口の端を吊り上げて笑みを浮かべるクロウ・クルワッハ。
こいつと一緒に行けば・・・・・あいつらと出会えるのか?
「どうする兵藤一誠。俺と来るか、お前の家族とやらといるか、お前が決めろ」
真っ直ぐ瞳を俺に向けて問うてくる。―――夢と復讐―――。
どっちを選ぶか、選択を突きつけられた。
「お前の人生だ。お前自身で決めなければ前に進めない」
そう言われ、俺は・・・・・決めた。
「クロウ・クルワッハ・・・・・」
「決まったか?」
「・・・・・俺は」
一つの選択を言おうと口を開いた。―――次の瞬間。
「我が愛する者を我の承諾も無しで連れて行こうなどと言語道断」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
上空から聞こえた久し振りに聞く声と共に真紅の一撃が、
俺とクロウ・クルワッハに直撃した。その余波の中、金色の六対十二枚の翼で防いでいると
誰かに抱きしめられる温もりが感じた。
「一誠。大丈夫か?」
背中から抱きしめる綺麗な真紅の髪を靡かせる女の人・・・・・。俺のお母さんであり、
姉でもあり、師匠でもある存在が、俺の顔を覗きこんで安否を確かめる言葉を口にした。
「どうして・・・まだ修業期間は終わっていないのに」
「お前の様子をずっと見守っていたのだ。そしたらどうだ、
お前を我から
ギュッと離さないばかり胸に埋められた。・・・・・久し振りに感じる温もり。
このまま感じながら寝たいと思った矢先、俺と彼女に黒い大きな球体が迫ってきた。
「―――ふん」
鼻を鳴らして背中に真紅の翼を果たしたかと思えば、翼で黒い球体を真上に弾いた。
―――その直後。上空に轟音が鳴り響いた。森は爆風でなぎ倒されるとばかりに揺らいだ。
しばらくすれば風が収まって、俺を抱きしめる彼女は視線を森の奥へ向けた。
「我に通用すると思ったか?」
「・・・・・」
森から現れたのはクロウ・クルワッハ。さっきの一撃はあいつが・・・・・?
「これは驚いたな。
まさか、あの不動の存在が兵藤一誠と繋がっているとは思いもしなかった」
「それはこちらのセリフとも言えよう。
―――邪龍の筆頭格とも言われているお前が一誠と修行とはな。我は目を疑ったぞ」
「ふふふ・・・、ますます兵藤一誠に興味を持ったぞ。
あの
そう、今も尚も俺を抱きしめる彼女は
真龍、又はD×Dと周りから称されている不動の存在の龍だ。
「一誠は我の友の忘れ形見だ。
それにこの子に鍛えて欲しいと頼まれて我はその願いを叶えているだけに過ぎない」
グレートレッドさんの話を聞いて顎に手をやってクロウ・クルワッハは納得した仕草をする。
「なるほど、そう言う事か。お前もあの2人と出会っていたとはな。
これは必然的なことか?それとも偶然か?」
・・・・・何を言っているんだ?それにあの2人って・・・・・誰の事だ。
グレートレッドさんも怪訝にどういうことだ、と問うた。
「―――兵藤誠と兵藤一香、知っているな?」
「「っ!?」」
「俺もあの2人の人間と何度か出会い、勝負をした仲だ。
あの人間の子供だと知った時は嬉しかったぞ。
俺が鍛えてやればあの2人のように強くなると思ったからな」
だから、俺を誘ったのか?復讐ができると言って
俺をグレートレッドさんから離そうと・・・・・?
「残念であったな。一誠の師匠は我だ。邪龍のお前が出る幕ではないわ」
胸を張ってグレートレッドさんは堂々と言った。
しかし、クロウ・クルワッハは下がろうとはしなかった。
「そうだろうな。だが、放任主義とは些か問題ではないか?」
「ふん、このぐらいのことでくたばるような男ではない。
我の男は強く逞しく生きる男ではないとダメなのだ」
だからって猛獣の群れに放り込まないでよ!?何度も死ぬかと思ったんだぞ!
「邪龍が鍛えることができるとは思えないがな」
「真龍も似たようなものであろう?」
「「・・・・・」」
それから2人は睨むように対峙した。それは長く続くかと思ったけどアッサリ終わった。そう、
「だったらこうしよう。我の一誠がお前の体に傷を負わしたらこのまま我が一誠を鍛える。
もしもお前の体に傷を負わすことができなければ一誠を連れていくがいい。
我の鍛え方がダメだという意味にもなるからな」
「はっ!?」
「ふむ、妥当だな。いいだろう、お前の口車に乗ってやる」
「えええっ!?」
俺がクロウ・クルワッハと戦うことを前提で睨み合いが終わった。
―――○●○―――
「グ、グレートレッドさん・・・・・どうしてあんなことを言ったの・・・・・?」
俺達がいる場所は遮蔽物がない場所。そこに移動してすぐ、涙目で問うた。
まだグレートレッドさんに勝ったことがないの上に、
メリアとゾラードが警戒するほどのドラゴンと戦うなんて信じられないよ!
「一誠、我はお前を信じてあのようなことを言ったのだ。
お前ならあいつを倒すまでとはいかないだろうが、傷程度なら負わすことができるとな」
「本当?俺、まだ弱いのに・・・・・できるのかな・・・・」
自信がないよ、と頭を垂らす。いままでクロウ・クルワッハといたから分かったことがある。
あいつは自分よりはるかに強いと。そんな相手の体に傷を負わすことができるのか?
不安と緊張で一杯の俺の頭にグレートレッドさんが撫でながら話しかけてきた。
「大丈夫だ。お前はあの2人の子供だ。あいつの体に傷を負わす可能性を秘めているはずだ」
「・・・・・」
「それにお前だけではないだろう?共に戦うのは一誠だけじゃない。
メリアとゾラードがいるではないか」
・・・・・そうだ。俺にはメリアとゾラードがいるんだ。
何時も傍にいてくれる家族がいるんだ。
「自信を持て。相手は邪龍だろうがなんだろうが、お前の強さを見せ付けてやれ。
お前の強さを我にも見せてくれ」
「グレートレッドさん・・・・・」
「我が愛しい一誠。頑張ったらご褒美を与えるぞ」
ご褒美・・・・・何だろう。凄く気になる響きだ。
「うん・・・・頑張る」
欲望に負けた俺は頷き、クロウ・クルワッハの前に移動した。
「クロウ・クルワッハ」
「なんだ?」
「さっきの問いの答え、言ってなかったね」
「そうだったな。では、聞こうか。お前の答えを」
夢か復讐か、俺が選んだのは―――。
「傲慢だけど、両方だ!どっちも俺の存在意義なんだ!どっちも死んでも捨てきれない!」
「・・・・・そうか、人間らしい答えだな。―――こい」
侮蔑する訳でも、嘲笑する訳でも、俺の選択にクロウ・クルワッハはただそれだけ言って、
かかってこいと手招いた。
「
強く叫んだ。俺の背中に六対十二枚の金色の翼が生え、髪が金髪になって、
頭上に金の輪っかが出て来て、瞳が蒼と翡翠のオッドアイになった。
「はっ!」
翼から柱のように真っ直ぐ、金色のレーザー光線がクロウ・クルワッハに向かっていった。
俺の一撃をクロウ・クルワッハは、避ける素振りもせず腕を横に薙ぎ払っただけだ。
―――俺の攻撃は横に反れて明後日の方に直撃した。
「いい攻撃だ。だが、暗黒龍と称されている俺を倒すどころか傷を付けるには、
まだまだ力不足だ」
「分かっているよ!」
翼を大きく広げて、鋭く物を斬るようにクロウ・クルワッハへ四方八方から攻撃をした。
「ほう、面白い攻撃だ。が、まだまだ攻撃速度が遅い」
ドドドドドドドドッ!
切り裂く対象が避け続けた事で、翼が地面に突き刺さる。くそ・・・!でも、まだまだだ!
「痺れろ!」
ビッシャアアアアアアアアアンッ!
地面に突き刺さった翼から雷が発生して、翼に囲まれているクロウ・クルワッハに直撃した。
どうだ!
「・・・・・」
全身に雷が駆け巡っているはずの相手が悠然と前に進んでくる。
まるで効いていないかのように。ま、マジで・・・・・?
「―――今度は俺の番だ」
ヒュンッ!と忽然とクロウ・クルワッハの姿が消えた。肉眼で探そうにも見つからない。
―――翼に雷を纏って探知をすると・・・・・。バチッ!と翼から鳴った。
「(左か!?)」
そう思ったと同時に左の翼を盾のように重ねて、右へ回避した次の瞬間。
左の翼に凄まじい衝撃が襲った。俺はその衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされた。
「俺から発する電磁波を探知して避けようとしたか?」
確かめるようにあいつは訊ねてきた。
「・・・相手の気配を探知することができないから、
この方法で相手を探すことにしているんだ」
「兵藤一香とは違う戦い方だな。あの人間は笑顔を浮かべたまま、
俺が現れるところに翼で斬り付けてくるぞ」
「・・・お母さんとお父さんって凄いと思うんだけど、時々分からない時もあるんだよな」
「うむ。それについては我も同じだ」
グレートレッドさんもウンウンと首を縦に振って同意した。
クロウ・クルワッハは苦笑いを浮かべる。
「あの人間たちは怖ろしく強い。俺を何度も負かした人間であるからな」
「ほう、そうなのか?」
興味津々とグレートレッドさんが訊ねた。俺もそんな感じで視線を向けると肯定と頷いた。
「ああ、だからあの2人の子供であるお前にも期待しているのだ。
もしかしたら、あの2人を超える存在となるかも知れぬからな」
父さんと母さんを超える・・・・・?俺が・・・・・?
「・・・・・そうなんだ。でも、俺、一つだけお母さんを超えているものがある」
元の姿に戻って紫の宝玉がある黒い籠手を装着した。
「それは興味深い。なんだ?」
「―――手作り料理だよ!」
それだけ言って飛び出す。今度は格闘だ!
「てやっ!」
短い腕を鋭く突きだす。だけど、軽々と受け止められた。
「軽いな。いや、まだまだ子供だからか」
「変に期待しないでくれよ!俺はまだまだ成長期なんだから!」
「だからこそ、お前を連れながら修行と見聞をするのも悪くはないと
思って誘ったのだからな」
俺の手を掴んだままクロウ・クルワッハは言った。
「我が育てておるのだ。横から掻っ攫うような真似をするな」
不満そうな声音と怒った表情をするグレートレッドさん。それからガイアは口を開いた。
「一誠、それでは何時まで経ってもそいつの体に傷を負わすことができん。
あの力を解放しろ」
「・・・・・いいの?」
そう言うと、グレートレッドさんは頷いた。確かにあれなら何とかなるかも知れない。
だけど、まだまだ扱いきれていないあの力を使ったら―――。
「まだ力を隠し持っているのか。兵藤一誠、その力を俺に見せろ。
全力を出し切れないまま負けるのは嫌であろう?」
クロウ・クルワッハもあの力を知りたいのか、催促してくる。
「・・・・・」
手を離してくれたので、後ろに後退する。
「いいんだな?」
「ああ、それがお前の全力とならば、グレートレッドの鍛え方の結晶といえよう」
「・・・・・分かった」
右手に装着している籠手を前方に突き出す。
「ゾラード。力を貸してくれ」
『無論だ。目の前の相手は邪龍の筆頭格である最強の邪龍。相手にとって不足はない』
点滅しながらゾラードの声がする。とても力強い声音だった。
何時も俺の傍にいてくれる家族。―――ここで負けたらグレートレッドさんに申し訳ない!
「
静かに呟いたその時。俺は黒い光に包まれた。その光の中で鎧に包まれていく。
完全に鎧を着込んだ俺はクロウ・クルワッハの姿を捉えた。
「『
ゾラードの力を鎧に具現化した切り札の一つだ」
黒と紫の龍を模した全身鎧。全身から異様なオーラが絶えず陽炎のように出ている。
これは危険極まりない力だ。最終手段と思った時しか使わないようにしている。
「・・・・・なるほど、これは俺も本気を出さずにはいられない。
お前から発するオーラは軽く魔王と神を逸脱している」
クロウ・クルワッハは目を細めて攻撃態勢に入った。・・・・・だけど、
「ごめん」
「・・・・・?」
「この鎧を纏った瞬間、もう勝ち負けとか関係なくなるんだ」
腕を軽く横に振った刹那。―――クロウ・クルワッハの首だけ残して消滅した。
「・・・・・なに?」
ドサッ、と首だけ残ったクロウ・クルワッハは信じられないとそんな表情を浮かべながら
地面に転げ落ちた。
「俺が・・・気付く間もなく、こんなあっさりと・・・俺が・・・・・負けた?」
「ごめん、こんな力を使って勝ったとは思っていないから」
鎧をすぐに解除して謝った。クロウ・クルワッハは俺を見上げて口を開いた。
「兵藤一誠、今の力はなんだ・・・・・」
「消滅の力だよ。俺の視界に入ったものに力を使えば全てを消滅するんだ」
「・・・・・怖ろしい力だな。暗黒龍と称された俺の体を一瞬で消失するとはな」
くくくっ、とクロウ・クルワッハは面白そうに笑みを浮かべた。
そんな時、グレートレッドさんが近づいてきた。
「さて、お前を完膚なきまで倒した一誠は、我が鍛える」
「ああ、まだまだ子供だと思っていたが末恐ろしい人間だ。さて、これからどうしようか。
俺の体がなくなったし、身動きが取れん」
「大丈夫、元に戻すから」
金色の翼を展開して首だけのクロウ・クルワッハを包んだ。
しばらくして翼を解くと、長身の男が立っていた。
「・・・・・」
「どう?」
「・・・・・感謝する」
クロウ・クルワッハはそれだけ言うと踵返して俺たちから去ろうとする。
「どこに行くの?」
「さあな。俺は修行を兼ねて冥界に来たまでだ。
お前の家族とやらが迎えに来たから俺はいなくなるとしよう」
手を上げて別れようとする。だけど、
「―――クロウ・クルワッハ、待ってくれ」
あいつを呼び止めた。当の本人は足を止めて、尻目で俺に視線を送ってくる。
「なあ、一人で修行するより一緒に修行した方が楽しいと思わないか?」
「・・・・・どういう意味だ?」
「俺は楽しかったよ。メリアとゾラードと一緒だけど、
この三日間はクロウ・クルワッハと修行して楽しかった」
「・・・・・」
「―――俺達と一緒に暮さないか?クロウ・クルワッハ」
そう提案した。当然、グレートレッドさんが驚愕の声を上げた。
「一誠!?な、なぜあいつを誘うのだ!?」
「だって、お父さんたちを知っているドラゴンだし、他にも色々と知っていそうだよ?」
「だからと言ってあいつは邪龍だぞ!?」
「クロウ・クルワッハは邪龍とは思えないよ。寧ろ良い龍だと俺は思っている」
なっ・・・・・!?と、グレートレッドさんが絶句した。
そんな彼女を余所に俺は、歩を進めてクロウ・クルワッハの前に移動した。
「ねぇ、そうしよう?」
「・・・・・」
体をこっちに向けて俺を見下ろす形でクロウ・クルワッハは口を開いた。
「確かにお前には興味が尽きない。特にお前が抱えている闇がな。
だが、俺は邪龍であるぞ?」
「邪龍だろうがなんだろうが構わないよ。家族が増えるのは嬉しいし、良いと思うんだ」
俺の話を聞いたクロウ・クルワッハは手を差し伸べてきた。
「・・・・・本当にお前はあの2人の人間の子供なのだな。面白い、と言葉が尽きる」
そして、笑みを浮かべた。
「良いだろう。グレートレッドと入れば強者が自ずと向こうから現れるかもしれん。
その際、俺も戦わせてもらうぞ」
「その時が来たらね」
差し伸べられた手を掴んだ。
その瞬間、クロウ・クルワッハの体が光り出して俺の中に入ってきた。
『ほう、お前らがメリアとゾラードか。これからよろしく頼む』
『ええ、よろしくお願いします』
『よもや、主の中に入ってくるとは思いもしなかったが・・・よろしくな』
おお、メリアとゾラードがいる所にいるんだ?まあ、一緒にいるんならいいや。
「(まさか、あの邪龍を加えるとは・・・・・あの2人の子供だということか。
まったく一誠のする事は何時も驚くことばかりだ)」
何かグレートレッドさんが苦笑しているけど、どうしたんだろうか?
でも、そんな事より大切なことがある。
「グレートレッドさん、家に帰ろう?」
「・・・ああ、そうだな。帰ろうか」
「うん!」
久し振りにあの家に帰れる。そう思うと俺は嬉しくてしょうがない。
だけど、これからももっともっと修行して、強くなるんだ。夢のためにも―――復讐のためにも。