期末試験が始まって数日、授業参観もとい公開授業はあっという間に終わった。
リシアンサスたちも安心して何も気にせずに試験に励めると安堵の息を漏らすほどだ。
「・・・・・」
でも、カリンが元気がなかった。
「どうしたんだ?」と声を掛けるのもカリンは、思い詰めた表情で机に頭を突っ伏す。
「・・・・・」
首を傾げて皆に視線で問うても、首を横に振られて分からずじまい。
「でも、どうしたんでしょうね」
「授業参観の日から元気がなくなってますよね」
「じゃあ、親と何か遭ったのかもしれない」
「それじゃあ・・・・・私たちがどうすることもできないね・・・・・」
「しばらくそっとしておいた方がいいのかもしれないわ」
「気になるがな・・・・・」
「ゼノヴィアに同意だ」
HRの時間が迫ったため、俺たちは自分の席に着いた。
―――カリンside
あの公開授業の時、父上おろか母上すら来なかった。
その理由は私の姉であるルイズ姉の方に訪れていたからのようだ。
『カリン、あなたが最低のクラスへと自ら行ったと教えたら、
父さまと母さまが呆れていたわよ?』
家に戻ってすぐ、姉から嘲笑の言葉が送られた。まあ、そうだろう。
ヴァリエール家の名を泥で塗らしては汚し、傷つけたのだ。―――仕舞には、
『カリン、この試験でいい成績でなかったら婿を取らせるため、学校を中退させる。
お前もいい年頃の女なのだ。花嫁修業をしてもらう。ヴァリエール家のためにも』
婿だなんて・・・・・まだ早過ぎると思う。それに何故私なのだ。
私よりルイズ姉が先だと思うのに・・・・。
「(知らない男に、心を許していない男に私の身と心を捧げないといけない)」
一種の恐怖。全身がプライドなんかより、誇りなんかより、
どうでもいいとばかり思わせるほど震える。本能的に、生理的に。
「(どうして私は女に生まれてしまった・・・・・?)」
初めて自分が女に生まれたことに恨み、絶望を抱く。男だったらこんな嫌な
思いをしなかっただろう。なのに、どうして成績によって私の人生が決められるんだ・・・・・。
「(・・・・・私はなんなのだ?)」
気高くて美しく、真っ直ぐに進む生き様こそが私の目指す生き方なんだ。
母上が子供の頃、そうであったように私もそれに憧れ生きてきた。魔法も、知識も、体力も、
何もかも全て頑張って母上を目指した。
でも、なんでただ一度の敗北で、ああまで言われないといけない・・・・・?
戦闘は、戦いは誰しも必ず敗北するんだ。私も、和樹も、イッセーも例外ではない。
「(嫌だ・・・・・知らない男となんて結婚したくない・・・・・!)」
「―――ン」
「(私は・・・・・)」
「―――リン」
「(私は・・・・・!)」
自分の体を抱えて頭を机に突っ伏して、嫌悪と恐怖に震える。
「カリン!」
「―――っ!?」
ハッ、と強く呼ばれた声に意識を戻した。自分を呼ぶ声がした方へ顔を向けた。
「大丈夫か・・・・・?」
「イッ・・・・・セー・・・・・」
「・・・・・青ざめているな。先生、カリンを保健室に連れてもいいですか?
どうやら体調が思わしくないようです」
「ええ・・・・・ですが、そしたら二人ともこの教科が赤点と成りますが」
そうだ、イッセー。お前が心配するほどのことじゃないんだ。これは私自身の問題だ―――。
「好きにすればいい。大切で大事な友人が辛そうな顔をしているのに、
カリンの友人として、男として放っておけるわけがないんだ」
「――――――」
真っ直ぐ教師に向かって言い返した彼。イッセー・・・・・。
信じられないものを見る目で私を心配するイッセーを見ていたら、私の体が浮遊感を覚えた。
「え・・・・・?」
「いくぞ」
促され、私はイッセーに抱えられて教室から遠ざけられた。
―――一誠side
授業中、カリンの体が震えていることに気付いた俺は、赤点上等とばかり教師に言って
カリンをお姫様だっこして保健室に向かった。
「・・・・・」
中には誰もいなかった。白い清楚なベッドにカリンを横たわらせて、看病のように見守る。
「大丈夫か?」
「・・・・・どうして・・・・・」
「言っただろう。辛そうなお前を放っておけるかよ。テストなんかよりお前の方が心配だ」
何か言いたいのか何となくわかる。申し訳なさそうにカリンがいきなり
「ごめん」と謝罪してくる。は?なんだよ。
「赤点・・・・・それに、心配を掛けてしまった・・・・・」
「・・・・・」
はぁ・・・・。
ビシッ、
「あたっ!?」
彼女の発言に呆れて、シミ一つもない綺麗な額にデコピンを喰らわした。
「赤点なんてまだ一つじゃないか。そ・れ・と」
「な、なんだ・・・・・?」
「心配を掛けて申し訳ないなら、何時もの威風堂々としたお前に戻れ。
いまのお前は恰好好くない。小動物を想わせて可愛いぞ」
「か、かわ・・・・・っ!?」
ボン、とカリンの顔が羞恥に赤く染まった。あれ、恰好好いと言われるより赤いな・・・・・。
「ああ、だから頭を撫でていい?」
「うっ・・・・・」
微笑みながら手を翳すと、上掛け布団を掴んで顔の半分まで隠した。
その反応もまた可愛いなぁ・・・。
「沈黙は是、也だ」
了承を得たと勝手に解釈して、俺は桃色の髪を撫で始める。
「・・・・・」
しばらく撫でていると、カリンは目を細めて俺に身を委ねる。
何時までもこんな時間が続くかと思っていると、
「・・・・・イッセー」
「どうした?」
俺を見上げて、カリンは口を開いた。
「もし、もしもだ。仮にお前が女で親が勝手に決めた婚約の相手、
見ず知らずの男と結婚したいか?」
「(したくないに決まっているだろう)」
心の中で即答した。だが、それだとやや早計だ。
「俺が女・・・・・ねぇ。相手を知ってから判断するな。
俺自身に拒否する権利があればの話だけど」
「・・・・・そうか」
「だが、いきなりどうしてそんなこと訊く?」
その問いにカリンは沈黙した。訳が分からないと、怪訝に彼女を見ていると。
「今回の期末で成績が悪かったら学校を中退させられて、
婿をとるために花嫁修業をさせられるんだ」
「・・・・・」
「私、嫌だ。成績によって私の人生が親の手によって変えられるなんて・・・・・」
驚いた。彼女が元気がない理由はそんな事情を抱えていたのか・・・・・。
「イッセー。私はどうすればいい・・・・・?赤点が一つ確定した私がSクラスに入ることは
叶わなくなった。それに、今の私ではとても期末試験に集中なんてできない・・・・・」
「カリン・・・・・」
「イッセー・・・・・」
彼女は上半身を起き上がらせて、俺にしがみついてきた。
「お願いだ・・・・・私を抱きしめてくれ・・・・・強く」
「・・・・・分かった」
ベッドに腰を下ろしてカリンを抱きしめた。
これで不安がなくなるのであればずっとしてやる・・・・・。
「温かい・・・・・やっぱり、イッセーに抱きつくと安心する・・・・・」
そうか・・・・・。
「・・・・・もっと、お前を感じたい」
―――――は?と、唖然した。すると、俺の体が横に倒れてカリンに覆い被された。
「ん・・・・・父上にすらしたことないことだから恥ずかしいが・・・・・お前なら・・・・・」
さらには首に両腕を回してきて、顔との距離が近くなる。
「イッセー・・・・・もっとギュッとしてくれ・・・・・」
猫のように甘えてくる彼女。その甘えん坊な彼女に俺は―――可愛いと思った。
「ふふっ、可愛い小猫だな・・・・・」
背中に腕を回して抱きしめた。そして、ゴロンと横になって
彼女の両足の間に自身の両足を差しこんだ。
そうすることでカリンは俺の腰に足を絡ませてきてコアラのように抱きついてくる。
「ん・・・・・イッセー・・・・・温かくていい・・・・・」
「これで安心できるなら・・・・・」
「ああ・・・・・Sにはなれないだろうが、Aは余裕に入れる」
だから、とカリンは告げた。
「イッセー、もしAクラスと体育の授業があったら・・・・・」
「分かってる。またお前を引き込んでやるよ」
「ふふっ、嬉しい」
コツンと俺の額に自分の額を重ねて綺麗に微笑むカリン。俺も釣られて笑みを浮かべる。
―――○●○―――
―――放課後
「旧校舎、オカルト研究部に来いねぇ・・・・・」
スタスタと旧校舎へ足を運びながら呟く。
「ふむ、イッセーを呼びだす程の重要なのかな?」
「ゼノヴィアはついてこなくてもよかったんだぞ?」
「なに、お前といると面白いことが起きそうだからね。ついていけばもしかしたらと」
さいですか・・・・・。俺の隣に歩く青髪に緑色のメッシュを入れた女子生徒、ゼノヴィア。
携帯のメールでリアス・グレモリーに呼び出された時、傍にいたゼノヴィアもついていくと
言われて拒む理由もないからこうして連れて来ているんだが・・・・・。
「で、ゼノヴィアくん。テストの方はどうかね?」
「・・・・・それは私に対する嫌味なのか?」
「純粋に訊いているだけさ。あんなに頑張って勉強したんだ。
赤点を二つになっても、何とか頑張っているんだろ?」
「・・・・・全ては神の手に委ねられると言っておくよ」
お前・・・・・目を泳がすなよ。それにヤハウェに委ねても意味が無いぞ。ついでに神王にもだ。
「補習になったら頑張れよ」
「ああ・・・・・イリナ共々頑張るよ」
「イリナも補習確定なのかよ・・・!?」
唖然とゼノヴィアの一言に驚きを隠せなかった。
いやいや、あいつは・・・・・多分・・・・・ごめん、イリナ。大丈夫だと言い切れない。
「さて、話している内に着いたよ」
オカルト研究部の物質の前に辿り着いた俺たち。ノックをして
『はい?』
「ちわー、三川屋でーす」
『・・・・・ふざけないで入りなさい』
あれ、扉の向こうから呆れられた。
「しょうがない。ここにあるリアス・グレモリーのアルバムを学校中にばら撒くと―――」
ガチャッ!
扉が勝手に開いたかと思えば、顔を真っ赤にして俺を睨むリアス・グレモリーが出現した。
「あなた・・・・・冗談にもほどほどにしなさいよ・・・・・」
「実際にお前のアルバムがあるのは本当だぞ?サーゼクス・グレモリーから貰ったから」
「―――――っ!?」
そう言ったらトマトやリンゴのように顔が最大に真っ赤になった。
「あ、あなた・・・・・私の写真を見たの・・・・・?」
「ああ、可愛かったぞ。とくに、お前が幼い頃の写真が―――」
「それ以上言ったら・・・・・分かってるわよね」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。
真っ赤なオーラを全身から迸らせるリアス・グレモリー。マジ切れ寸前のご様子だった。
「はいはい、分かった分かった。言わないからその魔力のオーラを抑えろ」
紫色の宝玉がある黒い籠手を装着して彼女の肩に触れる。と、一瞬で赤い魔力が消失した。
「・・・・・あなたのその籠手、『
「YES、その通りだ。でも、この籠手だけでも十分強いから
『
「四つの『
「俺の師匠はグレートレッドだぞ?至れない訳が無いぞ」
苦笑を浮かべて言えば、リアス・グレモリーは何故か溜息を吐く。
「そうだったわね・・・・・。まあ、入りなさい。紹介したい子がいるのよ。
―――あなたがお兄さまに進言した子をね」
「ああ、そういうこと」
納得したと俺は首を縦に振って頷いた。いよいよハーフヴァンパイアとご対面ということだな。
部屋に入る彼女の続いてはいれば、グレモリー眷属が集結している・・・。―――って、
「いないじゃん?」
「あそこよ」
リアス・グレモリーが部屋の隅に指を差した。
その指の先に辿っていくと―――成神一成の傍に一つの大きな段ボールがあった。段ボール?
「あれ自体が吸血鬼ってわけじゃないよな?」
「あんな吸血鬼がいたら皆が驚くわよ。中に入っているのよ」
中に・・・・・。どんなハーフヴァンパイアなのか興味が沸き、
段ボールに音もなく近づいてそっと、段ボールの蓋を開けた。そこにいたのは―――。
「ふぇ・・・・・」
金髪に赤い瞳、女子生徒の服を見に纏う人物がいた。
こいつがハーフヴァンパイア・・・・・。うん、
「想像していたのより普通だな」
「いや、そこか?もっと可愛いとか、女の子だなとか思わないのか?」
「いや、俺は吸血鬼を見たかっただけだし、こいつが男か女だとか興味が無い。
ついでになんとなくだけど、こいつは男だろう?」
「なっ・・・・・!?」
「どうして分かったんだ!?」と、目を大きく開き驚愕した成神一成。
だから、なんとなくだってば、
「お兄さまからその子を封印を解くように言われてね。差し金はあなたのようだし、
この子・・・ギャスパー・ヴラディを紹介しようと招いたわけ」
「差し金なんてとんだ言われ方だなおい。ただの警告を言っただけなのによ」
「警告・・・だと?おい、それはどう言うことなんだよ?」
成神一成の質問にギャスパー・ヴラディというハーフヴァンパイアを段ボールから出して告げる。
(ついでに強奪)
「至極的に簡単に言おうか。こいつの能力を悪用とする輩がいる」
「・・・・・ギャーくんの能力を?」
「ん、そうだ。面倒くさそうな奴らにな」
「面倒くさい奴らって複数いるの?」
リアス・グレモリーの問いに、ギャスパー・ヴラディを段ボールの中に置きながら言葉を漏らす。
「俺もそんなに詳しく知らない。でも厄介だというのが分かる。
なんせ―――四種族が俺たちの敵なんだからな」
「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」
案の定、この場にいる全員が目を丸くして驚いた表情を覗かせてくれる。
「・・・・・どういうこと、四種族が私たちの敵ってことは、
悪魔だけじゃなく堕天使や天使、人間も敵だって風に聞こえるわよ」
「さあ、テロリストみたいな奴らだった。組織名は知らない」
「・・・・・色々と詳しく教えてくれるかしら」
真剣な面持ちで尋ねてくるリアス・グレモリー。―――だからさ、
「言っただろう詳しくは知らないって。逃げるのに精いっぱいだったんだからさ」
「キミがそこまでになるほど相手が強敵だというのか・・・・・」
「あの時はな、今は違う。なんせ親玉を引き抜いたからな」
「親玉・・・・・?」
「ああ、こいつだ」
指を弾いたその瞬間。俺の傍に一つの魔方陣が出現した。
光と共に現れるのは腰まである黒髪の小柄で黒いワンピースを身に着け、
細い四肢を覗かせて胸にペンダントを身に付けている少女。
「・・・・・あなたはイッセーの家にいた子よね?」
「ん、また会った」
リアス・グレモリーの言葉にコクリと首を縦に振って肯定。それから俺の肩に乗っかった。
「ドライグ、久しい」
「へ・・・・・?」
やっぱり、成神一成の内にいるドラゴンに気付くか。
「こいつは『
「オーフィス・・・・・!?」
「ん、我、オーフィス」
オーフィスも認めた。すると、リアス・グレモリーが危険視するような視線を向けてくる。
「イッセー・・・・・あなたが言うテロリストみたいな奴らの親玉が、
オーフィスだったってことになるわよ。一体どうやってオーフィスを引き抜いたの」
「単純なことだ」
「単純・・・・・?」
「俺の両親が昔、オーフィスと出会って約束していたんだ。で、俺が父さんたちの子供だと
知ってオーフィスが約束を果たすために俺と一緒に暮らすって言ったんだよ」
なっ?と、オーフィスに尋ねればコクリと頷く。
「そう言うわけだ。だから、オーフィスが俺たちに牙をむくことはない。
それだけは安心してくれ」
「まあ・・・・・あなたがそう言うのならば、信用するわ」
そう言っても、まだ納得していない表情だった。しかもいまの発言は何だ?
「あれ、俺はリアス・グレモリーに信用されていなかったのか?
・・・・・それはそれで悲しいかな」
「オーフィスによ!それと何時まで私のことをフルネームで呼ぶのよ?『リアス』って呼んでよ」
えー・・・・・。と、心の中で嫌そうに感じているが・・・・・
「・・・・・」
リアス・グレモリーの寂しげで不安そうな表情を見たら、
嫌な感じが罪悪感に押しつぶされて、結局・・・・・。
「愛しのリアス」
「っ!?」
「・・・・・呼んだぞ」
言っておいて、急に恥ずかしくなってリアス・グレモリーからそっぽ向いた。
「・・・・・嬉しい」
歓喜とばかり、リアス・グレモリーの声が聞こえる。
「私もよ・・・・・愛しいイッセー」
眼だけ視界に移せば、涙を浮かべ微笑んでいるリアス・グレモリー。
呼ばれただけで嬉しかったのか。
「・・・・・兵藤先輩はツンデレ」
「ちょっと待とうか、小猫よ。俺は別にツンデレなんて属性じゃないぞ」
「・・・・・ドS」
「うーん・・・・・悪魔と堕天使限定なら俺はドSかもな」
深い笑みを浮かべて、何時の間にか持った縄をビシッ!と引っ張りながら肯定する。
「あらあらうふふ、では兵藤くん。一緒に泣き喚かせるやり方を考慮しませんか?」
「なんだ?お前もドSなのか?」
「ええ、こう雷で相手の悲鳴を聞くと・・・・・たまりませんの」
ほう・・・・・面白い悪魔もいるんだな。瞳を怪しく輝かせて亜空間を開き、
中から―――調教する際に使う道具を取り出して姫島朱乃に言う。
「じゃあ、こんなの使ったことがあるか?」
「あら・・・・・マニアックな物をお持ちなのね?」
「男でも女でも、悪魔と堕天使なら使う予定だからな。色々と通販で購入しているんだよ」
「うふふ・・・・・兵藤くんは面白い子ですね。私のことを朱乃って呼んで下さらない?
私とあなたは似た者同士、きっと面白く楽しく分かり合えると思いますわぁ」
「ははは、そうかもしれないな、じゃあ、俺のことを名前で呼んでくれ朱乃」
「うふふ♪ええ、分かりましたわイッセーくん♪」
ガッシリと朱乃と固く握手を交わした。
早速俺は、朱乃に道具を使ってどう悪魔と堕天使に鳴いてもらおうか考慮し始める。
「・・・・・会ってはいけないヒト、組んではならないヒトと夢中に話し合う光景は怖いですね」
「しかも・・・・・アッサリと朱乃の名前を呼ぶなんて・・・・・私も彼の趣味に
合わした方がいいのかしら・・・・・」
「部長は部長のままでいいと思います」
「イッセーさん・・・・・あの人、怖いです・・・・・っ」
「あいつのほうがよっぽど悪魔だぞ・・・・・マジで怖ぇ・・・・・」
「ひぃぃぃっ!こ、怖いですよぉぉぉぉっ・・・・・!」
「ふむ・・・・・悪魔を討伐する際、捕縛するために拘束の仕方を
学ぶのもいいかもしれないな。よし、私も―――」
―――○●○―――
「ほーら、ギャスパー。速く走らないと、ニンニクと十字架、聖水、
天使の俺のオンパレードをお見舞いするぞー♪」
「いやぁぁぁぁぁっ!!た、助けてくださぁぁぁぁぁぁぁいっ!
消滅させられちゃいますぅぅぅぅ!」
逃げるギャスパー・ヴラディに吸血鬼が苦手とするものを手にしたまま追いかける俺。
あいつが逃げる先には―――。
「ゼノヴィア、そっちに行ったぞ」
「任せろ」
聖なるオーラを帯びている青い長剣を持ったままギャスパーを追撃するゼノヴィア。
「ヒィィィィィッ!せ、せ、せ、聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅ!
ほ、滅ぼされるぅぅぅぅ!」
そう、ゼノヴィアの持つ聖剣はエクスカリバーと並ぶ聖剣デュランダル。
だが、デュランダルはじゃじゃ馬のようで、余計なものまで斬ってしまうため、
ゼノヴィアでも扱いには苦労しているようだ。
「ヒィィィィィ!デュランダルを振り回しながら追いかけて来ないでぇぇぇぇぇぇぇ!」
夕方に差しかかった時間帯、旧校舎でギャスパー・ヴラディと戯れる俺とゼノヴィア。
「・・・・・やっぱり、あいつは悪魔だぞ」
「あ?」
「・・・・・げ」
「よし、お前もロックオンだ」
ダッ!と遠巻きで見ていた成神一成に駆け寄った。当然、俺から逃げるのが成神一成だ。
「ちょっ、どうして俺を追い掛けてくるんだよぉぉぉぉっ!?」
「ゼノヴィア曰く『健全な精神は健全な肉体から』だそうだからな。
体力が三番目にないお前も気まぐれに鍛えたやるよ」
「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!?」
逃げる成神一成に追い掛ける俺。逃げるギャスパー・ヴラディに追い掛けるゼノヴィア。
うん、なんと摩訶不思議な状況なんだろうか。何時しか、塔城小猫も参戦した。
片手にニンニクを持ってゼノヴィアと一緒にギャスパー・ヴラディを追い掛けて。
「・・・・・ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」
―――その瞬間。
「いやぁぁぁぁぁぁん!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅぅ!」
ギャスパー・ヴラディの逃げる速度が三倍にも増した。
「好き嫌いはダメだよギャーくん、好き嫌いはダメだよギャーくん、
好き嫌いはダメだよギャーくん、好き嫌いは―――」
そんなヘタレヴァンパイアを追い掛ける塔城小猫とゼノヴィア。
ズドドドドドドドッ!
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
割と殺意を籠めて翼で成神一成を刺そうとする俺。
こいつ、最近避けるのが上手くなってきたな。
「おーおー、やってるやって・・・・・」
こんな修羅場みたいな空間にノコノコと何も知らずに足を踏み込んでくる男子生徒。
「・・・・・なんだ、この状況は・・・・・」
「さ、匙ぃぃぃぃぃっ!」
あー、ソーナ・シトリーの眷属悪魔の奴か。匙元士郎という『
顔を引き攣らせて俺たちを見て、匙元士郎は踵を返した。
「・・・・・あー、お取り込み中のようだな。じゃ、また後で―――」
「見たからには、ここに来たからにはお前も遊んでやろう」
片翼で匙元士郎を捕まえて、逃げる成神一成の隣に置いて共に走らせる。
「な、何で俺までぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「くそ、この悪魔!鬼畜!鬼!」
「―――殺すぞコラ」
ビガッ!ガガガガガガガガッ!
「「いぎゃああああああああああああああああああああああっ!?」」
青白い雷を纏いながら二人を追い掛ける。―――――しばらくして、
「「「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・!」」」
成神一成、匙元士郎、ギャスパー・ヴラディの以下三人が地面に横たわって全身で息をする。
「まだまだ体力不足だな」
「うん、そうだね」
「・・・・・ニンニクを食べれば元気になります」
お前はまだ言うか。ギャスパー・ヴラディにニンニクを見せびらかす塔城小猫。
「へぇ」
この場に第三者の声が聞こえた。その声がした方に振り向けば―――、
浴衣を着た前髪だけが金髪の黒髪の中年男性。
いかにも悪そうな事を考えていますと顔をしている。
「悪魔さん方はここで集まってお遊戯をしてるってわけか」
「アザゼル・・・・・ッ!」
―――アザゼルだと?
「やー、悪魔くん。いや、赤龍帝。元気そうじゃないか」
全員が突然現れたそいつに怪訝そうに見つめていたが、成神一成の一言で空気が一変する。
ギィン!
ゼノヴィアが剣を構える。空気を察したのか、アーシア・アルジェントが成神一成の後ろへ隠れ、
成神一成は『
匙元士郎も驚愕しながらも右手の甲にデフォルメ化したようなトカゲの頭を発現する。
あれがあいつの内にいるドラゴンの・・・・・。
「な、成神、アザゼルって」
「マジだよ、実際こいつと何回も接触している」
成神の一誠の真剣な反応で理解したのか、匙元士郎も戦闘の構えを作りだした。
俺が溜息を吐くと、堕天使の総督アザゼルも苦笑していた。
「お前ら程度の力でこいつにどうこうできるわけ無いだろう。構えを解け」
「何言っているんだよ?相手は堕天使の総督だぞ?
堕天使のトップがこんなところに来て何を企んでいるのか分かりやしねぇよ!」
「ああ、そうだぜ!」
二人の言葉に俺は心の底から呆れた。
「―――構えを解けっつってんだよ。木端悪魔どもが」
「「―――っ!?」」
『
この場に俺たちを包むようなドーム状の透明な膜が出現した。その結果―――。
シュゥゥゥゥゥゥン・・・・・。
「なっ、俺の『
「俺もだ、どうなってやがる・・・・・!?」
「私の聖剣からも聖なる波動が・・・感じなくなった」
成神一成と、匙元士郎、ゼノヴィアの武器となるものが消失し、
力が失ったことに驚きを隠せないでいた。
「へぇ・・・・・?」
だが、堕天使の総督アザゼルは興味深々と俺の籠手を見詰めているだけだった。
「なるほど、それが噂の新種の『
どうやら、その籠手の能力は『
聖剣の聖なるオーラを無効化にする能力のようだな」
「正確に言えば、『異能の力であれば全て無効化にする』だ。
堕天使の総督アザゼル。お前の堕天使としての力もだ」
「はっ、そいつはとんでもねぇ『
そう言いながら俺に近づく。
「付け加えれば、このドーム状の光の膜はこの籠手の能力と同じ効果を発揮している。
魔方陣を展開しようとしても無理な事だぞ」
「あ、そうなのかよ?じゃあ、解いてくれや。俺は何にもしねーよ」
「お前にしたわけじゃない。この木端悪魔どもにしただけだ」
籠手を消失させれば、ドーム状の光の膜が高い音を立てながら四散した。
「アザゼル」
「なんだ?」
「―――幼馴染のヴァーリが世話になっている。ありがとうな」
あいつは敵だけどな、とは心の中で苦笑を浮かべる。堕天使の総督アザゼルは俺の話しを聞き、
笑みを浮かべ出した。
「いいってことよ。つーか、お前の父親と母親とは旧友の関係だったからな。
ダチのためにできることがあれば俺はしてやるつもりだった。
ついでに、コカビエルを止めてくれてありがとうよ」
ポン、と俺の頭に手を乗せるアザゼル。
「別に、神王と魔王からの依頼だったし、コカビエルから有力な情報も得れた。
ドーナシークからも、『堕天使の女帝』ヴァンのこともな」
「あいつか・・・・・訊いたぞ、ヴァンに殺されたってな。誠と一香がよ」
「見つけ次第殺すつもりだ。邪魔、するなよ」
「悪いが、こっちも仲間を殺されているんだ。俺も見つけ次第、あいつを捕まえるつもりだ」
思いは違うが、目的は同じか・・・・・。
「なら・・・・・ここでお前を殺して憂いを消すってのも悪くないかな?」
全身からドス黒い魔力が陽炎のように滲み出てくる。
「・・・・・なるほどな、お前はそこまで憎しみを抱いているわけか」
「悪魔と堕天使という種族をな」
右拳にドス黒い魔力を纏わせ、奔流と化する。
「邪魔者は排除するに越したことじゃないだろう」
口の端を吊り上げて臨戦態勢に入る。堕天使の親玉、堕天使の総督。―――アザゼル!
「でも・・・ヴァーリの件についてお前には感謝しているからな」
右拳に纏った魔力を消失させて構えを解く。
「俺を殺さねえのか?」
「お前を殺して俺の家族が甦るのなら、喜んでお前を殺してやるよ。
全ての堕天使を敵に回してもな。だけど、俺が殺したいのはあの女だ。
―――そいつを心の底から殺したい。お前じゃない。堕天使の女、ヴァンだ」
「そうかい・・・・・」
堕天使の総督アザゼルは瞑目してそれだけしか言わなかった。・・・・・そろそろ帰るか。
「ゼノヴィア、帰ろう」
「ああ・・・・・分かった」
「小猫、銀華が何時でも待っている。だから何時でも家に来い」
「・・・・・分かりました」
銀華・・・・・?アザゼルが誰のことだ?と首を傾げるところを余所にゼノヴィアを抱え、
六対十二枚の青白い翼を展開して空へ飛翔する。
「イッセー、堕天使の総督を挑んでも勝ち目はあるのか?」
「体術だけでやったら苦戦するだろうな。だけど、最後の手段を使えば俺が確実に勝つ」
「そうか。やはり強いのか」
「堕天使の総督の名は伊達じゃないというわけだ」
それに、あいつと出会って良かった。『堕天使の女帝』ヴァンもきっとあの男と同じぐらい
強いんだと実感できた。俺の目標はすぐ届くところまでに来ているのかもしれない―――。