「はははは!これが私のライバルだと言うのか!弱い、あまりにも弱過ぎて涙が出そうだよ!
一誠の方がずっとずっと強いよ?」
「うるせぇっ!俺だって必死に頑張っているんだっ!」
赤と白の光線が宙に走る。まあ、ヴァーリが圧倒的に有利なんだけどな。
「ここで赤と白の対決が見られるなんてね」
「見ての通り、白の方が優勢だな」
「まだまだ時間はある。今後の楽しみと思えばいいだろう」
トレーニングルームでサイラオーグ・バアルと曹操と一緒に
成神一成とヴァーリの戦いを見守っている。トレーニングメニューはさっき終わってのんびりと
休憩しているところだ。
「しかし、お前が人王の一族の者とは驚いたな」
「自分でも驚いているさ。三大勢力戦争を終戦に導いたとある人間の一族がまさか、
俺の家と和樹の家の人たちだなんてびっくりした」
「なら、兵藤家に帰らないのか?」
「実家がどこにあるのか俺には分からない。
それに・・・・・帰るなら俺が人王になってから帰郷するさ」
「ふっ、そうか」
笑うサイラオーグ・バアルに静かにお茶を飲む曹操。
「良い茶だな」
「それはどうも。この間メイドが仕入れたものだ」
「そうか、これはいい味を出す。気に入った」
そう言ってくれて何よりだ。俺もお茶を飲んで一息する。
「やはり、ドラゴンとともにいると面白いことが起きる」
「いきなりなんだよ?」
「力の象徴ともいえるドラゴンを宿す者同士や、
者同士が引き寄せられている。今の俺たちのようにな」
・・・・・否定できもしない。いや、否定する理由なんてあるか?
「そう言うことなら曹操、自分が知る限りで一番強いって思う人間はいるか?」
「強い人間か・・・・・川神百代かな?武神と異名を持つ彼女だ」
「戦ったことは?」
俺の問いに「ないさ」と首を横に振って告げる曹操。だが、
「戦闘の様子を見てそう思っている。彼女は自己再生のように負った傷を治す能力があるんだ」
「自己再生ねぇ・・・・・勝てる見込みはあるか?見ただけで」
「勝てなくはない。しかし、それでも苦戦するだろう」
曹操がそこまで言うほどの実力者か・・・・・。
「サイラオーグの女版っぽそうだな」
「ふっ、手合わせを願いたいものだな」
興味があるとばかりの発言だった。うーん、そうだな。
「じゃあ、川神市に行って川神百代に会いに行くか?」
そう提案を二人に出してみれば・・・・・「「行こうか」」と口を揃えて言ったのだった。
―――神奈川県 川神市
はい、やってまいりました神奈川県川神市!初めて訪れる県域にちょっとワクワク気分で、
大きな川が流れているところに建設された橋に歩いている俺たちであった。
「うーん、闘気が充満している町だな」
「そうだな。歩いているだけでヒシヒシと感じる」
「武を重んじる町でもあるからな。
例え、ケンカ騒ぎが起こっても不思議じゃないんだよこの町は」
おー、なるほどな。
「じゃあ、あそこで戦っているのも不思議じゃないんだな」
橋の下にある河原で、女が胴着を着た男をあっさりと勝った光景に指して問うた。
「ああ、そうだ。にしても早いな・・・・・もう出会ったか」
「誰と?」
「川神百代だ」
・・・・・あれま、本当にもう出会ったのか俺たち。
「・・・・・なるほど、見ているだけで相当の実力者だと伺える」
「サイラオーグがそう言うんならそうなんだろう」
俺もそう感じているしな、と付け加える。
だが・・・・・どこかつまらなさそうな雰囲気を出している。
「さて、帰るか?会ったことだし」
二人に問うと頷いた。翼を展開して二人を包もうとした―――。
ガシッ!
「おいおい、私を見てすぐに帰ろうなんてそれはないだろう?」
・・・・・・武神・・・・・か。
「そっちの男が一番強そうだな。体から感じる闘気が凄いぞ♪」
俺の肩を掴む女がサイラオーグに興味津々のようだ。
「こんなこと言うのは初めてだが、お前に決闘を申し込む。いいか?」
「・・・・・だってよ?」
どうするんだ?と風に訊けば、サイラオーグ・バアルは徐に上着を脱ぎだした。
「その決闘を受けよう。戦ってみたいと思っていたからな」
「よし!じゃあ、あそこで私と勝負だ!わくわく♪」
女が、武神が肩を放してくれた。振り返って彼女の姿を視界に入れる。
艶がある黒い長髪に赤い瞳、
黒を基調とした服を着ていた。
「あっ、そうだ。名前を名乗っていなかったな」
そう言って彼女は告げた。
「私は川神百代。好きな言葉は誠!」
―――川沿い
「では、審判は俺が」
曹操が買って出た。対峙する川神百代とサイラオーグ・バアルの間に立った。
「勝敗は相手を戦闘不能、または降参と吐かせる。制限時間は15分。異論はないな?」
「「ああ」」
「では―――、始め」
あいつが開始宣言を告げた次の瞬間。両者が激しく激突した。
「おお・・・・・驚いた」
「なるほど、武神の名は伊達ではないようだ」
ガッチリと互いの拳を掴んで拮抗している姿を見させてくれる。
一方は驚愕の色を浮かばせるが嬉しそうに言い、一方は相手を侮らず、称賛する。
「ははっ、こいつは面白くなってきたぞっ!」
川神百代は笑みを浮かべた。サイラオーグ・バアルから離れ、また飛びだす。
「川神流―――無双正拳突き!」
ストレートパンチをサイラオーグ・バアルに放った。その拳をあいつは見切り、片手で横に弾き、
「ふっ!」
深く川神百代の腹部に拳をねじり込むように突き刺した。
「・・・っ!?」
彼女の目に驚愕の色が浮かんだ。だが、それは一瞬のことで口の端を吊り上げた。
「川神流―――人間爆弾」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
「・・・・・おいおい、自爆かよ?」
「自殺行為に等しい技だな。だが・・・・・川神百代にはあれがある」
曹操の意味深な発言に俺は確かめようと煙の中にいるであろう川神百代を視界に映す。
「(彼女の気が減った・・・・・?)」
それと同じくして、全身から血を流す彼女の体が見る見るうちに傷が治っていく。
「私に一撃を入れられたのはいつ以来だったかな。お前、本当に面白いよ」
川神百代が真っ直ぐサイラオーグ・バアルに向かって言った。対してあいつは―――。
「・・・・・」
至近距離から爆発の影響を受けているはずのあいつは、シャツがボロボロになっていて
血を流していた。だが・・・・・頭がアフロになっているのってどういうことだ?
「ふっ・・・・・あんな技を持っていたとは驚いた」
「いや、相手を称賛する前にお前、頭がアフロになってんぞ」
「む?ああ、気付かなかったな」
そう言ってサイラオーグ・バアルはアフロになった髪を―――外した。えっ、外れるものなのか!?
外れたアフロのサイラオーグ・バアルの頭は、元の黒髪の状態だ!
「だが、その技は俺には効かん」
「ほぉ、そうか。なら・・・本気で行くぞ!」
挑発ともいえる発言に川神百代はさっきより速度を上げてサイラオーグ・バアルに飛び掛かった。
それからというものの、二人は激しい肉弾戦を繰り広げた。それは―――。
「制限時間が十五分過ぎた。両者そこまでだ」
決闘の時間が過ぎるまで続いたのだった。
「えー!?もう終わりかよー!もっと戦いたいぞー!不完全燃焼だー!」
子供のように駄々をこねる川神百代。こいつ、戦闘狂かよ・・・・・。
「では、兵藤一誠と戦ってみればどうだ?」
「俺かよ?」
サイラオーグ・バアルの提案に今度は俺が戦わなければならないことになった。いや、俺は―――。
「・・・・・闘気があんまりないから弱そうだからなぁ・・・弱い者いじめなんて私はしないぞ」
「・・・・・」
いま、ちょーっと腹が立ったなぁ・・・・・。川神百代に近づく。
「ん?なんだ、本当に―――」
瞬時で口を開く彼女の額に指をぶつけた次の瞬間。川神百代は川に向かって吹っ飛んだ。
バッシャアアアアアアアアアァンッ!
「一言言わせてもらうぞ。―――人を外見で判断するんじゃねぇよ」
しばらくして、川神百代は川から現れてゆっくりとこっちに戻ってくる。
「私が不意打ちを食らうなんてな・・・・・」
前髪で彼女の表情は伺えない。
「しかもデコピンなんて・・・・・」
だが、全身から闘気が滲み出てきた。
「いいだろう・・・・・お前と手合わせしよう」
彼女は拳を構え出し、濡れ鼠のまま俺との戦いを望んだ。
―――サイラオーグside
奴は強い。それが俺があいつの第一印象だ。
今でも・・・・・。
「「はぁあああああああああああああああっ!」」
己の体一つで川神百代と戦っている。相手と同等の立場で敢えてしているのか分からないが、
兵藤一誠の戦いぶりは、俺と同じ我流の格闘術と体術。そう、
「はっ!」
ドンッ!
「くっ・・・!」
奴の拳が淡く光っていて、川神百代の体に直撃すれば、気に乱れが生じていくのが分かる。
あれは仙人しか扱えないと言う仙術だろう。兵藤一誠の家に猫の妖怪がいた。
その妖怪から仙術を学んでいたのだろう。
「ふむ・・・妙だな」
「どうした」
「川神百代の動きにキレが無くなっている。先ほどの戦いの影響とは思えないんだが・・・・・」
・・・・・曹操、奴の言葉に俺は川神百代の動きを確かめるように目を向ける。
「っ、瞬間―――!」
「させるかっ!」
一瞬の隙、兵藤一誠は見逃さず川神百代の懐に飛び込んで拳を打ち込んだ。
しかも、あの拳の出し方は―――。
「川神流・・・無双正拳突き・・・・・だと・・・・・!」
「ただのストレートパンチが必殺技に昇華した正拳突き。
それだけのことなら俺みたいな奴らなら誰でもすぐにできる」
「―――だったら、これはできるか!」
川神百代は兵藤一誠に飛び掛かった。
「
ドゴンッ!
「っ―――!?」
殴った部分から波紋のように兵藤一誠の体に広がる。
「ぐはっ!」
―――兵藤一誠の口から吐血が吐き出て倒れた。・・・・・なんだと・・・・・?
あの男が・・・倒れるとは。信じられないものを見る目で俺は思わず目を見開いた。
「この技は相手の全身の骨を粉々にする。お前はもう立ち上がれ―――」
バサッ!
勝利を確信した、と川神百代は倒れる兵藤一誠を見下ろして口を開いていたが、
兵藤一誠の背中から現れた青白い翼に目を見開いた。その翼は兵藤一誠を包み光を放つ。
「・・・・・やっぱり世界は広いな。まだ見ぬ強者がいるんだからさ」
翼が消失し、兵藤一誠がゆっくりと立ち上がる。
「今の技はマジで訊いたぞ。俺じゃなきゃ負けている」
「お前・・・・・」
「さて、続けようか。川神百代。今度はお互い全力でな」
拳を構え、戦意の炎を瞳に宿し始めた兵藤一誠。ようやく、あいつの戦いは始まろうとした。
「(さて、この決闘はどう転ぶか、楽しませながら見させてもらうぞ。兵藤一誠)」
川神百代と兵藤一誠が互いに向かって飛び出す光景に、
小さく口の端を吊り上げて静観する姿勢で見守る。
―――○●○―――
―――兵藤家
「当主」
「なんだ」
「世界各地から祭りに参加する者たちの書類が100に超えました」
とある某所に兵藤家現当主、兵藤源氏が従者の話に「そうか」と短く返す。
当然だろうとばかりに。
「その中で・・・・・我々の一族の者らしき人物が一人参加しております・・・・・」
「そうか」
兵藤源氏は目の前に咲く桜を見上げたまま従者の言葉に短く返すだけだった。
「まさか、本当に我らの一族の者なのですか?
我々兵藤家の者は下界に暮らしてはいけない掟が存在しています」
「追放された兵藤家の者の子孫かなにかではないか?兵藤家から追放された者は兵藤家の、
兵藤一族とは無縁の関係になる。それを忘れたわけではあるまい」
「ええ、忘れたわけではありませぬ。ですが、万が一にも追放した我が一族の者が
人王になってしまっては周りに示しが尽きませぬぞ。当主よ、如何なさるおつもりなのですか」
従者の言葉に兵藤源氏は桜を見上げるだけ。
「それが
「・・・・・」
「それに俺たち兵藤家は一枚岩ではない。―――ここのところ、不穏な動きをする者がいるそうだな」
確かめるように従者に尋ねれば、従者は肯定と意志を示して首を縦に振った。
「・・・・・はっ、なにやら探っているようです。目的は以前に分かりませぬ・・・・・」
「ふん・・・実に千年振りのことであるからな。次期人王の儀式をするのは。
今度は俺が王になろうと、ろくでもない野心を抱く者がでおったようだな」
ここで初めて従者に横目で見る。
「お前は参加するのか?」
「いえ、私は当主の従者です。あなたに出会ってこの命が尽きるまであなたに
尽くそうと心から決めておりますので」
「無欲な男よ」
「自覚しております」
二人は小さく笑む。
「兵藤家から出てくる者どもはどうしておる?」
「以前に変わりません。鍛練をこなしております」
「・・・・・娘たちは?」
「以前に変わりません。・・・・・室内で引き籠もっております」
従者の言葉に兵藤源氏が苦渋の顔つきになる。そんな兵藤家現当主に従者は言った。
「ここしばらく当主と顔を合わせるどころか、話すらしていませんね」
「・・・・・何が言いたい」
「娘に口を聞いてくれない寂しさ、分かりますよ」
意味深に言う従者。兵藤源氏は唐突に哀愁を漂わせて桜の気に抱きついた。
「悠璃、楼羅・・・・・頼むから俺に一言でもいいから『パパ』と呼んでおくれ・・・・・」
「(・・・・・事が事ですししょうがないとはいえ・・・・・まだ親バカですかこの人は)」
メソメソと泣きだす当主に従者は呆れ顔で静かに溜息を吐いたのだった。
そして―――祭りの日は刻々と迫った。それぞれの胸に何かを秘めいた者たちは、
ここ人王の儀式を行う京都に目指してやってくる。
―――○●○―――
―――一誠side
ロンギヌスが結集して十日ほど過ぎた。俺たちロンギヌスメンバーは来る日も来る日も修行やら
特訓、鍛練に明け暮れた。一番成長に目ぼしかったのは、成神一成だった。
「おりゃあっ!」
今日も元気に赤白対決をしていた。前は
今では五日間維持できるようになっている。まあ、それでもヴァーリに勝てないが、
まずまずの成長だろう。
「ぐへっ!」
ん、今日で成神の戦績は五十五戦五十五敗っと。全身鎧姿のヴァーリが宙から降りてくる。
「しぶとくなったな赤龍帝。これも一誠のおかげかな」
「いいんじゃないか?リアスが喜ぶだろう。自分の眷属悪魔が強化しているのだからな」
「攻撃パターンが単純のままだがな」
「真龍と龍神、天龍と邪龍と五大龍王と共にいるから、
劇的な変化が起こる可能性はかなり高いと思うけどね」
うん、そうなんだよな。ソーナ・シトリーの『
「・・・・・」
周囲に大小の鏡が出現している。彼女のあれが『
「大体、体力の向上はいい線をいっている。新たな力に目覚めた奴もいればそうでもない奴が
いるだろうが、それでも何かを掴み取っているはずだ」
「おかげで俺の未完成の
トントンと曹操は槍の柄を肩に叩く。
「倒すべき相手を強化してしまうなんてこんな皮肉なことがあるんだな」
「大丈夫、お前は俺が倒すからよ」
「簡単にはやられんさ」
曹操と不敵の笑みを浮かべる。こいつだけじゃない、ジークやゲオルグ、
レオナルドも成長している。あー、後が大変だなこりゃ。
グレモリー眷属とシトリー眷属も鍛えてやらないとダメかも知んない。
「さて、俺は最後の宿題でもしてくるかな。サイラオーグ、お前は終わったか?」
「一つか二つは残っているが問題ない」
「ん、成神のやつは・・・・・訊かないでおこう」
皆と別れ、特別な空間を後にした。それから俺は自室へ赴こうと階段に上った。
「あ、一誠くん」
「清楚」
「特訓はもういいの?」
「ああ、最後の課題の勉強をしようと思ってな」
「そっか」と清楚は柔和に笑む。彼女の腕に抱えている本に気付き俺は問うた。
「その本は?」
「え?あ、うん。三国志だよ。それと三国志に関する本」
覇王・項羽。西楚の王と称された武将。その武将の魂を受け継いでいるのが目の前の彼女。
葉桜清楚。
「俺もいいか?」
「うん、勿論だよ」
階段を降りつ清楚に続き俺も降りてリビングキッチンに赴く。
彼女が持っている三国志に関する本をテーブルに置いて清楚は小説、
俺は項羽と劉邦のことについて記された本を読み始める。
「「・・・・・」」
読んでいて壮大で凄まじい戦争。その中で生まれた裏切りや愛が渦巻いた話。
「一誠くん・・・・・項羽って凄い人なんだね」
「 そうだな」
「暴力的で残虐、酷い人だけど・・・・・虞美人っていう女の人に向ける愛情は本物だった」
清楚に振りかえると、彼女も顔をこっちに向けていた。
「もしも、古代中国の時代に争いがなかったら項羽と虞美人は
きっと幸せになれていたかもしれない」
「だが、争いの時代でも二人は愛し合って幸せだったのかもしれない」
「うん・・・・・そうだよね」
声を殺すように言い、彼女は俺の肩に頭を乗せた。
「私が虞美人の魂を受け継ぐ人で、一誠くんが項羽の魂を受け継ぐ人だったらよかったなぁー」
「ははは、歴史通りの暴れん坊になるぞ?」
「ううん、違う。歴史通り虞美人を愛してくれる人になるよ」
弾んだ声音で清楚は俺がそうなると言う。
「・・・・・一誠くん、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「一誠くんが人間の王さまになりたい理由はなに?」
・・・・・それか。だが、俺は―――。
「人王にはなろうとは思っていない」
「え・・・・・?」
「俺は幼馴染を助けたいだけだ」
「それって・・・・・」と、清楚の呟きが俺の耳に届く。肯定と口を開く。
「兵藤悠璃と兵藤楼羅。俺の幼馴染だ」
「・・・・・」
「彼女たちと約束したんだ。『守る』。ただこの約束をしたんだ」
だから―――俺は何がなんでも優勝しないといけない。
「あの二人を救いたい。あの二人を助けたい。そして・・・・・謝りたい」
「一誠くん・・・・・」
「そのためにも俺はテロリストの力だって借りる。相手は強大な力を有する奴らだろう」
拳を強く握りしめる。本来的であるあいつらの力を借りるなんて他の勢力からしてみれば、
烏滸がましいはずだ。だが、それで俺は世界に敵を回したとしてもあの二人を―――。
「・・・・・」
俺の拳に清楚が優しく触れてきた。
「大切な幼馴染なんだね?」
「・・・小さい頃、俺の傍にいてくれた唯一の友達でもあるんだ。弱いからと周りに
イジメられていて俺のことを心配してくれた幼馴染なんだ」
「イリナちゃんやヴァーリは?」
「あの二人はセカンド幼馴染だな。でも、俺にとっては皆、大切な幼馴染だ」
そう言って俺は清楚の顔を見た。
「清楚、お前も俺の中じゃ大切な存在だ」
「一誠くん・・・・・」
―――気付けば俺と清楚は顔が近かった。それに気付いた時には彼女の顔が朱に染まっていた。
「「・・・・・」」
この場に誰もいない。俺たちだけの空間。お互いの吐息が掛かるぐらいの近さ。
「・・・・・こんなこと言って迷惑なのかもしれない」
前提とばかりに何か言おうと、口を開く清楚は顔を俯かせて「でも・・・」と付け加えた。
「私・・・・・一誠くんのことが・・・・・好き」
「・・・・・」
「でも、一誠くんを想っている女の子たちが一杯。
私もその一人だけど皆が凄くて勝ち目なんてない」
自嘲気味に話す清楚。そんな彼女の言葉を最後まで聞こうと耳を傾ける。
「だから、私は身を引こうと思うの。一誠くんとの関係が今のまま続けれるだけで私は満足。
私より一誠くんは他の女の子と―――」
「―――断わる」
「・・・・・一誠くん?」
はぁ・・・・・話を聞いて呆れるぞ清楚。
「俺の答えを聞かずに決めないでくれよ」
「・・・でも」
「清楚、お前は告白を断われることを怖がって逃げているように感じるぞ」
「・・・・・」
沈黙する。それは是也と受け取って言い続ける。
「今の清楚は項羽と同じ四面楚歌の状態かもしれない。だけどな―――」
彼女の肩を掴んだ。ビクリと一瞬だけ体を跳ね上がらすが清楚は俺の顔を真っ直ぐ見詰めてくる。
「俺は、俺を好きだと言ってくれる異性を愛する。絶対にだ。
それは俺を必要とし、俺のことを支えてくれる人だからだ」
「一誠・・・くん」
「俺しか知らない清楚を知らない男になんかに知られてほしくはない。・・・というかだな」
「はい?」
これから言おうとすることを気恥ずかしくなり、顔が熱くなるのが分かる。
「その・・・・・俺は寂しがり屋なんだよ・・・・・」
「・・・・・」
えっ?とキョトンと唖然となった清楚に俺しか知らない事実を言う。
「何時も誰かと一緒にいたから、誰かがいないと心細くて怖がってしまうように
なっちゃったんだよ」
これはリーラにでも言ったことがない事実だ。
何時も彼女が傍にいてくれたから言わなかったが・・・。
「・・・・・ぷっ」
「・・・・・ん?」
清楚が笑みを零した。
「―――あはははははは!」
面白可笑しそうに彼女は笑いだした。目尻に涙を溜めて笑う。
「い、一誠くんって子供なんだね。可愛い♪」
「う、うるさいな・・・・・」
「そっかぁー寂しがり屋くんなんだねぇー?」
「ぐっ・・・・・言わなきゃよかった」
言って後悔しても後の祭り。清楚はニコニコと嬉しそうに笑みを絶やさないで喋り出した。
「うん、分かりました。私はずっと寂しがり屋の一誠くんの傍にいるよ。
一誠くん、不束者ですがよろしくお願いします」
「・・・・・ああ・・・・・よろしくな」
何やら大切なものを失ったような感じがする。でも、これで良かったのかもしれない。
「よし、私も皆に負けないように頑張る。最初は・・・・・私の魅力を知って欲しいかな」
「魅力?」
「う、うん・・・・・だから、楽しみにしててね。絶対に一誠くんを振り向かせるから」
何故か顔を赤らめる清楚だった。俺は何をするんだ?とわけわからず首を傾げる。
「四面楚歌・・・・・項羽が虞美人に送った最期の・・・・・・」
手に持っていた本のページに記された文字を視界に入れる清楚が、俺に提案した。
「一誠くん。私が虞美人の魂を受け継ぐ人で、一誠くんが項羽の魂を受け継ぐ人だったら
よかったって言ったよね?」
「ああ、言ったな」
「この四面楚歌・・・・・一緒に読んでくれる?」
四面楚歌を・・・・・?疑問を浮かべながら清楚を見ると彼女は頷いた。
「二度と会えないだろう愛した女の人に向けたこの悲しい詩をできれば、
私たちが読んで二人が幸せになれるように願いを、想いを籠めて・・・・・。
詩が詩だけど、私は項羽の魂を受け継いだ人として読みたい。
愛する人と一緒にいる私はいま幸せだと想いを籠めて・・・・・」
真摯に項羽と虞美人に対して言い願う彼女。
『私が虞美人の魂を受け継ぐ人で、一誠くんが項羽の魂を受け継ぐ人だったらよかった』
・・・・・ようやく気付いたよ。清楚の気持ちを、想いを。俺はバカだな・・・。
自嘲の笑みを浮かべ、清楚の手を握った。
「読もう、清楚」
「一誠くん・・・・・うん」
四面楚歌を記された本を魔方陣で浮かばせて、
指と指の間を差しこんで離れないように手を握り・・・。
―――読み上げ、復唱した。
「「力は山を抜き、気は世を蓋う。時、利あらず、騅、逝かず。騅の逝かざるを奈何にす可き。
虞や、虞や、若を奈何んせん―――」」
『私の力は(動かないものの代表である)山をも動かす程強大で、
気迫は(広いものの代表である)この世の中をおおい尽くしてしまう程なのに』
『時利あらずして 騅逝かず時勢は私に不利であり、(愛馬の)騅も進もうとしない』
『騅の逝かざる 奈何すべき騅が進もうとしないのを、もはやどうする事もできない』
『(それよりも)虞よ、虞美人よ。そなたの事を一体どうすれば良いのか―――』
「「・・・・・」」
・・・・・項羽と虞美人に清楚の想いが籠った声が届いたのかは分からない。
だけど・・・これでいいんだ。きっと・・・・・。
「・・・・・」
「清楚・・・・・?」
さっきから黙っている彼女。どうしたんだ?と思い、肩に手を触れようとした―――次の瞬間。
「っ!?」
彼女からいきなり暴威的な威圧感が感じた。なんだ、彼女の身に何が起きている!?
「・・・・・長いこと・・・・・心の片隅に封じられていたが」
瞑目している彼女の口から本来の口調とは違う喋り方・・・・・。
「ようやく、心が一つに混じり合った」
ゆっくりと目を開いた。瞳を覗けば琥珀色の瞳ではなく、血のように赤い瞳だった・・・・・。
「清楚・・・・・?」
信じられないものを見る目で名を呼んだ。
しかし、彼女は赤い瞳を俺に向けて「違う」と否定した。
「俺は覇王・項羽だ。あの男、曹操も言っていただろう。西楚の覇王、項羽の魂を宿す人間だと」
「なっ・・・・・!?」
バンッ!
「一誠さま!」
リビングキッチンにリーラが入って来て俺を守るように銃を清楚に突き付けた。
「大した忠誠心だな。俺の覇王の気を感じて、そいつを守ろうとするとは感嘆の一言だ」
銃を突きつけられて尚、気にしていないとリーラの行動に感心する清楚・・・・・いや、項羽。
「安心しろ。俺はそいつに何もする気はない。なにより、清楚が悲しむからな」
「・・・・・どういうことですか」
「俺は清楚であると同時に清楚ではない。二重人格でもない。
簡単に言えば、俺は俺、清楚は清楚だ」
「つまり・・・・・一つの体に二つの心があると?」
そう言うと項羽は頷いた。さっきの歌で覇王・項羽が覚醒したと言うことなのか。
「お前・・・・・いや、一誠と呼ばせてもらおう。
俺はお前が憂うようなことはしない。安心しろ」
「清楚は・・・・・どうしたんだ?」
「俺の中にいる。意識もハッキリとあるから今の会話のやりとりを観て訊いているはずだ」
・・・・・嘘は・・・・・言ってなさそうだな。リーラに銃を下ろすように促して項羽に近づく。
「項羽、清楚と入れ代わることはできるのか?」
「可能だ。まあ、清楚が興奮したら俺が出てしまうけどな」
「そうか、なら良かった」
スッと項羽の瞳を見据える。
「項羽、お前も俺の傍にいてくれるんだろう?」
「当然だ。何より、清楚はお前と一緒に俺たちのことを想ってあの歌を読んでくれた」
徐に俺の胸倉を掴まれては引き寄せられて、項羽の胸に顔を埋められた。
「感謝するぞ、お前たち」
こいつ、俺と清楚を一緒に抱きしめたつもりで感謝を言っているのか・・・・・。
「一誠、お前は人王となれ。俺が生を受けたからには、全てトップではないと気が済まない。
俺は覇王だからな。覇王の妻となる夫がそうではなくては見栄えがない」
「「・・・・・」」
「ふふふっ、一誠。俺を満足させろよ?俺もお前を満足させる。俺の全てを使ってな」
・・・・・虎と言うか、龍を目覚めさせてしまった感じがするのはどうしてなんだろうか。
「では、一誠よ。お前は俺の夫となるのだ。共に体を清めて初夜に備えようじゃないか」
「いきなりの急展開!?いや待て!清楚の体なんだぞ!?」
「俺の体でもある。大丈夫だ。処女を突き破られる時の痛みは俺が請け負う。
体が快楽を覚えた頃は清楚も喜んでお前を受け入れるだろう」
ダメだ!こいつ、自己満足と言うかエゴと言うか、我がままと言うか、自己中心的と言うか、
自分と清楚のことしか考えていない!全ては俺のために!嬉しいけど、
それは周囲に敵を作ることだから―――!
「行くぞ、目指すは女風呂だ」
「そっち!?」
「俺たちは夫婦となるのだ。当然一緒に入るに決まっているだろう?」
何を言っているんだ?って風に訊かないでくれ!
「―――貴様が夫婦だと?」
第三者の声が聞こえた。それも、今この場に居合わせて欲しくない人物の。
ゆっくりと後ろに振り向けば・・・・・。
「貴様、我のいない間に何をしようとしていた?」
「契りを結ぼうとしているが?」
「・・・・・ほう?」
ガイアは綺麗な赤い眉を吊り上げて、こっちに近寄った。
「一誠は我の愛しい男だ。勝手に横から取ろうとは面白いことをしようとしているな?」
「覇王の俺が優秀な子供も産むのは当然の摂理だとは思わないか?」
「それなら我が一誠の子を生む予定だ。残念だったな。お前の出番はない」
「一誠を満足させているのか?その手の知識を蓄えているからな。
―――すぐに天国へイカせれるぞ?」
えっ、ちょ、項羽・・・・・?その手の知識って・・・・・清楚、お前は密かに
何を読んでいるんだ?
「知識だけで経験がゼロなお前にできるのかな?」
「女は度胸だ。それに経験がなければこれから経験を積めればいい話」
ギュッと項羽は俺を抱きしめる。できればこのままでいたい。
後ろに振り返ったら怖いドラゴンの顔を見てしまうから。
「―――ならば、今決着をつけるか?」
「ふっ、いいだろう。我が勝つのは当然だがな」
「いや、俺だ。決着をつける場所は風呂でいいだろう」
「どこでも構わん」
そう言ってガイアは、俺の襟を掴んで引き摺る。
項羽も放さないとばかり俺の襟を掴んでガイアと一緒に引き摺る。
「リーラァ・・・・・」
「・・・・・一誠さま、非力なメイドで申し訳ございませぬ・・・・・」
申し訳なさそうに深く頭を垂らした。暗に助けられないと、ごめんなさいとリーラに謝られた。
俺・・・・・明日の朝日を拝めれるかな。