神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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10.再会(サリー)

 更に叫ぶこと数時間。いくら呼んだところでサリーは来なかった。場所を変えて呼び続けてもどこにも姿は見えず、それどころかあの堕天種を最後にサリエル種すら見かけなくなった。

 

 僕に愛想を尽かせたのか。それとも僕が死んだと思ってどこか行っちゃったのか。それならそれでいい。もう会えなくなるのは確かに寂しいけど、サリーが無事でいてくれるなら。

 

 

 でももし殺されちゃったりしてたら、それは僕が殺したも同然だ。僕がサリーの言うこと聞かないで神機使い(リンドウさん達)に襲いかかったばかりに置き去りにしてしまったんだから。

 

 

 

 手応えが無さすぎて嫌な想像ばかりが膨らむ。叫び過ぎて喉が焼けるように痛い。声も上手く出なくなってきた。でも動かずにはいられない。もしまだここに残って生きてるなら見つけてあげなきゃ。

 

 

 

………案外移動しながら鳴き続けてる僕を追いかけてたりするのかもしれない。ここで一回鳴いたら少し待ってみるか。

 

 

 

「────────……っ、ゲホッ!?」

 

 

 

 腰を下ろして声を上げるが、掠れたような弱々しい声しか出ない。おまけにさっきの堕天種に噛まれたのもある。休めば再生するから大丈夫なんだけどさ……

 

 

 さすがにこんな弱い声じゃアラガミの一匹も集まらないわけで。やっぱ一回休んだ方がいいかもしれない。でもサリーを探すのはやめず、両手の邪眼を辺りに向けて周囲の景色を視界に入れる。もしサリエルが飛んでればすぐ分かるから。身体青いし浮いてるしで、この拓けた荒野の中ではこの上なく見つけやすい。

 

 

 

 そうして見回してた時だった。僕の右手の邪眼が遠目にこちらへと飛来する影を映した。この位置からでも視認できる青い蝶のようなシルエット。間違いなくサリエルだろう。それも原種。……もしかしてサリーか?いや、まだ分からない。サリエルって言っても色々いるしな。

 

 

 でも僕は疲れた身体のことも忘れてこちらへ向かってくるサリエルの元へと飛び立っていた。近付いてみれば多分わかるし、違ったらまた逃げよう。今はプリティヴィ・マータが堕天種追ってどっか行っちゃってるから慎重にね。

 

 

 

 そうしてこちらを目指すサリエルの元へと段々と近付いていく。

 

 

 

 

 目の前を飛んでたサリエルが地面に落ちた。

 

 

 

 

 待て。なんで落ちる?聴覚は荒野に吹く風の音しか捉えていない。神機が使われたような音はしなかった。それなのに………

 

 

 力なく横たわるサリエルに急いで近寄る。嘘だ。サリーなわけない。サリーは僕に飛び方を教えてくれた。飛べない僕を抱き抱えて浮かせてくれた。そのサリーが地面に倒れるわけない。飛べないわけないんだ。

 

 

 なのになんでこんな走馬灯みたいに彼女との記憶が蘇る?うつ伏せになってピクリとも動かないサリエルの傍に降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして真っ先に目に入ってきたのは風穴だった。背中の部分に腕を通せるほどの大きな風穴が開けられ、羽を思わせるスカートはズタズタに引き裂かれている。

 

 

 おまけに邪眼は叩き潰され、身体の至る場所から黒い霞が溢れ出していた。結合力の弱まったオラクル細胞だ。コアの統制能力が弱まって制御を離れた細胞が霧散してる。

 

 

 

 そのあまりに痛ましく凄惨な姿に言葉を失う。傷ついた身体で無理をしたのだろう。右腕は既に千切れ、浮くことも出来ずにそのサリエルはなにかを探すかのように這いずる。

 

 

 

 間違いない。間違えようがない。

 

 

 

 

 信じたくないが受け入れるしかない。

 

 

 

 

 

 

「サリー!!サリー!!しっかりして!!」

 

「…………………………………!!」

 

「今治してあげるから!!ほら!!」

 

 

 蝕刃を右腕に形成し、自分の左足を切断してサリーに差し出す。アラガミは食事さえ摂れればどんな酷い状態からも再生できる。ごめんね……僕が勝手にいなくなったばかりに。僕のことこんなボロボロになってまで探してたんだね……本当にごめん。もう絶対で一人でどこか行ったりしないから。サリーの言うこと聞くから。

 

 

 

 だからお願いサリー。僕の身体を食べて? そうすればきっと元に戻れるから。

 

 

………なんで顔を背けるの?これ食べればまだ生きれるんだから。やだってしないで。いつも僕のこと食べたいって見てたじゃん。

 

 

「………お願いだから言うこと聞いてサリー!このままだと死んじゃうよ!?」

 

『無理ですよ。貴方の身体は神機と同じ性質なんですから。アラガミの彼女には食べれません。それに………』

 

 

 

 

 

 

 剣を握った異形の右腕に目がいく。……そうだ。神機ってすごい不味いんだ。味を思い出して吐きそうになるくらいには。その性質に今まで何度も助けられてきたというのに。

 

 

 神機と同じ僕の肉体をサリーはもう口にできない。それを聞いて身体の力が抜けるのが分かった。完全に失念していた。この身体になった最大の代価。それは一番好きな相手に口にして貰えないこの身体そのもの。

 

 申し訳なさそうに笑うサリーの身体を抱きしめる。温もりの失われた崩れるだけの身体。生命の消失。全部僕のせいだというのに、僕には何もできない……また僕の過ちのせいでサリーが助けられない。神機なんか口にしたせいで………

 

 

 

「…………………………………………。」

 

 

 

 僕のせいじゃない。そう言ってサリーが僕の背に左腕を回して撫でてくれた。かつてそうしてくれた時のような温かさはもうない。まるで死体に抱きしめられているような虚しさばかり覚える。

 

 

 

 

 荒野の風に吹かれて彼女の身体が崩壊していく。風穴が大きく広がり、千切れた下半身が一瞬で霧散する。………あぁ。そうか。そういうことか。この冷たさと崩壊速度。これは………

 

 

「サリー……コアを取られたんだね。」

 

「……………………………………………。」

 

 

 

 コアはアラガミの心臓のようなもの。奪われればもう再生はできない。そして……コアだけ持ってかれたということは、サリーは神機使いにやられたんだ。あの風穴や裂傷も神機によるものだ。あいつらにはサリーや僕みたいなアラガミを生かしておく理由なんかないから。

 

 

 

 それなのにこんな死ぬ寸前の身体で飛び回って……はやく消えてしまいたかっただろうに。それを我慢して僕を探してたのは、それだけ僕のことを心配してたんだね。死ぬのさえ堪えて、あんな小型アラガミすら寄り付かない鳴き声を聞いてくれて……

 

 

 ほんとサリーは優し過ぎるよ……ありがとうね。ずっと僕のこと待っててくれて。こんな愚かで弱い僕を愛してくれて。

 

 

 

 

 

 

 なら僕も応えてあげなきゃ。サリーの気持ちに。僕が後悔したり悲しんだりするのはその後でいい。例え上手くいかなかったとしてもサリーは許してくれると思うから。

 

 

 もしかしたらこれをやればサリーは本当に死んでしまうかもしれない。でも僕には前例と確証があるから。どうせこのまま死なせてしまうというのなら、やってみるしかない。

 

 

 

 僕を抱きしめるサリーの左腕が砕けて霧散する。そうして崩れそうになったサリーの身体をしっかりと抱きしめた。こんな姿になっても嬉しそうに笑うサリーの頭を撫で、後頭部に手を回す。するとサリーは不思議そうに首を傾げる。

 

 

 

 

……………痛かったらごめんね。サリー。

 

 

 

 

 

「僕の中で生きて。必ず君を元に戻してあげるから。」

 

 

 

 

 

 

 

 口を側頭部まで裂き、残ったサリーの身体を一口で噛み砕く。何とも懐かしい味が口いっぱいに広がるが、咀嚼はしなかった。少しでも痛くないように一気に口の中身を飲み込み、その上で混濁する意識をどうにかして保たせる。

 

 

 アラガミを丸ごと一匹口にしたのは初めてか……自分の記憶ではない記憶が頭に流れ込んでくる。これはサリーの記憶か……?ザイゴートだった時の記憶とサリエルになってからの記憶。そして………

 

 

 

「……………………………………………ッ!!」

 

 

 

 

 僕と別れた後の記憶。帰らない僕を待ちわびていたところ、サリーは神機使いを見つけた。僕のこと待ってたのと空腹でもないせいもあってサリーはその神機使い二人を見逃した。

 

 

 でも、神機使いの会話を耳に入れてしまったんだ。

 

 

 

「あの人型のアラガミ……死んだと思うか?姉上。」

 

「どうだかな。なんせ強くはないが(さか)しい個体だ。また見ることになるかもな。」

 

 

 

 怒り狂ってた。僕が殺されたって勘違いして、激昂のままに活性化し、普段からは考えられないほど荒々しく神機使いを襲撃していた。そこから先は言うまでもない。奇襲にも関わらず返り討ちにされ、動けなくなるまで撃たれて切り刻まれた。そしてコアを摘出されて死ぬはずだった。

 

 

 けどそこから三日間。サリーは必死に身体の形を保ち、僕を探して舞っていた。神機使いや大型アラガミから隠れながらずっと。死ぬほどという表現すら生ぬるい激痛に耐えながら。今に至るまでずっと、僕の姿を探してさまよってたんだ。

 

 

 

 あと一回。僕の顔を見たいって願いながら。ただそれだけの想いで生き長らえてたサリーの気持ちが痛いほど分かる。さっきまでの笑顔が僕を悲しませないための強がりだったことも。本当はもっと一緒に居たかったって願望も。僕はサリーとひとつになったんだから。全部分かった。

 

 

 

 

………約束するよサリー。もう絶対に君のそばを離れない。誰にも君を傷つけさせない。守れるようにちゃんと強くなる。必ず元の綺麗な姿に……いや、前より綺麗な姿にしてあげるから。ずっと一緒に居てあげる。

 

 

 意識の逆流が終わり、僕の左腕が激痛と共に変質を始める。左手の甲には邪眼が浮き上がり、裂けた皮膚の間から千切れたような青い蝶の羽が生える。歪に変質する醜悪な左腕だが、不思議と嫌悪感はなかった。

 

 

 でも手の甲の邪眼は心配そうに僕の顔を見つめてくる。大丈夫……また一緒に抱きしめ合ったり空を飛んだりできるようになる。僕がどんな犠牲を払ってでも君の願いを叶えてあげる。それが君への償いになるなら全然苦しくないから。

 

 

 

 幾らでも殺してあげるからね。君をこんな姿にした人間の全てを。この世から一人残らず。

 

 

 そして二度とサリーが傷つかない世界を作り出してあげる。この内側の本能のままにね。

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