神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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12.乱戦(ランブル)

【ディーヴァは頭上から。サリーは後方支援をお願いね。】

 

【『了解。』】

 

【あとここからの会話は感応現象(つうしん)でね。……じゃ、行くよ。】

 

 

 大まかに役割を決めた後。僕は腰部の翼を背面に向けて推力を一点集中。ジェット噴射の要領で身体を加速させ、ソーマに向けて蝕刃で斬りかかる。

 

 

………が、その一撃は巨大な壁に阻まれる形で防がれた。なるほどタワーシールドを用いたパリングか……反射神経がいいのか勘が鋭いのか。両方かな。僕を遠方に目視してから反応したみたいだ。

 

 大したものだよ。まるで獣だ。

 

 

「てめぇ……あの時の!!」

 

【いい反応速度だ。奇襲をかけたつもりだったんだが。】

 

「舐めるなよ化け物!!ラーナさんの仇が!!!」

 

 

 睨みつけるようなソーマの眼差しに口元を歪ませ、反撃とばかりに巨大な黒刃を振るってくる。が、僕はこれを後方に飛ぶことで回避。その隙に頭の中でサリーに合図を送る。同時に僕が横に避けると、その場所を撃ち抜くようにして赤いレーザーが放たれた。

 

 

「なっ────!!」

 

「ソーマ!!!」

 

 

 死角から放たれた砲撃。にも関わらずソーマを庇う形で現れたリンドウさんはシールドを咄嗟に展開するとサリーの砲撃を防ぎ、そのまま僕へと斬りかかろうとする。

 

………が。

 

『今だよディーヴァ。叩いて潰して。』

 

 殆ど同じタイミングで、頭上からディーヴァがリンドウさん目掛けて襲いかかる。前足の叩きつけこそ辛うじて躱したものの、続けざまに放たれる右フックにリンドウさんの身体は大きく吹き飛ばされた。

 

「ぐぅっ……!?この………!!!」

 

「おい隊長!!?」

 

「大丈夫だソーマ……まさか仲間連れとはな。しかも揃って新種かよ。」

 

 なんで一撃入ったのに無事なんだよ。と思ったが、展開したシールドを叩きつけられる壁面に向けて緩衝材にしたらしい。

 

 それでも衣類の腹部が爪痕をつけられる形で引き裂かれているが、同時に後ろにでも飛んだのだろうか。致命的な負傷にまでは至ってない。

 

 しかもそうして吹き飛ばしたにも関わらず、リンドウさんはステップひとつで僕に距離を詰めると手にした神機を横薙ぎに振るってくる。幸い距離があったおかげで余裕を持って反応できたけど。

 

 僕は上に飛んでそれを躱すと、反撃とばかりに急降下しつつ蝕刃を真っ直ぐ振り下ろした。ついでに今度は蝕刃が地面に接触すると同時に刀身を展開し、起爆型のインパルスエッジで追撃。その爆発の衝撃で僕は後ろに飛び退き、同時にディーヴァに指示を与えてリンドウさんを襲わせる。

 

「させるか化け猫が!!」

 

『生憎バスターの扱いは覚えてるんですよ。その対処法諸々含めて。』

 

「────は!??」

 

 そうすればそれを妨害するようにソーマがチャージクラッシュを放つ。が、ディーヴァは軽く左前脚を振るうと一瞬で赤い結晶の壁を形成。ソーマの渾身の一撃を軽々受け止め、リンドウさんへの攻撃を続けて放った。

 

 右前足の叩きつけと共に赤い結晶が剣山のように地面から拡がり、直線上に突き上げる形でリンドウさんを襲う。恐らく初見の攻撃にも関わらずリンドウさんはこれを横ステップで躱したが、どうしてもその動きの後には硬直から隙が出来る。

 

『サリー。同時攻撃を仕掛けるよ。』

 

『!!……うん。わかった………!!』

 

 そこで左手の甲の邪眼を向け、感応現象を用いてサリーと共に巨大なレーザーの砲撃を放つ。さすがに回避が間に合わないと思ったのかリンドウさんはシールドを展開するが、タワーでもないあのシールドでは完全には防ぎきれない。僕とサリーの砲撃にリンドウさんの身体は大きく吹き飛び、地面に転がる形で倒れた。

 

「ぐぁっ………!!?」

 

「リンドウさん!!この……てめぇどきやがれ!!顔キモいんだよ化け猫が!!」

 

『誰の顔面が何だって??ぶち殺しますよ??』

 

 静かにぶちギレながらディーヴァは既に前足で猫パンチの要領でソーマを叩き潰そうとしていた。さすがディーヴァ。ぶっ殺すって思った時は既に行動は終わってるんだね。身を捻って直撃は避けたけど鋭い爪が肩から腹にかけてソーマの身体を思いっきり引き裂いた。傷口からだけでなく口からも血を吐いたあたり結構深くいったねあれは。

 

 よし。ならソーマはあのままディーヴァに任せて僕はリンドウさんを。サリーはディーヴァを援護しつつ、僕が要請したらこっちにも後方支援をお願い。それまではソーマを殺すのに集中してもらう。

 

「………ッ!!ソーマ!!」

 

【人の心配をしている場合か?このままだと二人まとめて死ぬことになるぞ。】

 

「悪ぃが誰一人死なす気はねぇよ!!」

 

 推力を背部に向けて加速しつつ空中から斬りかかり、リンドウさんと斬り結ぶ。さらにそのまま肩のボルグ・カムランの尾先を持つ六つの触手を展開し、全方位から貫きにかかる。

 

 しかしリンドウさんは切り結んだ僕の蝕刃を弾くと、その場で身体を捻るようにして全ての触手を回転斬りで斬り落としてみせた。そのせいで早くも僕の肩の触手は結合崩壊を起こした。

 

 とはいえ負傷は軽いものだから、僕はリンドウさん目掛けて結合崩壊も意に介さず蝕刃を横に振り払う。ついでにコンゴウの能力を発動したそれは剣戟と共に赤い真空の刃を放ち、着弾と同時にリンドウさんを大きく吹き飛ばした。

 

 そうして無理やり距離を取って仕切り直すが、距離を置いたリンドウさんは片手に何かを握っていた。恐らく閃光弾(スタングレネード)だ。

 

 確かに僕にそれは効くが、来ると分かってればなんて事はない。本来の目を閉じつつ手の甲の邪眼を開き、代わりの視覚として用いる。そして閃光弾で手の甲の邪眼がダメになったら目を開けばいい。それだけで────

 

 

「ソーマ!!一度下がれ!!」

 

『ギャンッ!??』

 

【なに!?】

 

 

────そうなまじ対策法が確立されてたせいで、僕の対処が遅れた。なんとリンドウさんはスタングレネードのピンを抜くと同時にそれを神機の刀身の腹でバッティングの要領で飛ばし、ディーヴァの顔面に直撃させる形で炸裂させた。

 

 唐突なデッドボールと炸裂した閃光。加えて聴覚の機能を奪うほどの爆音によってディーヴァは崩れるようにして怯んでしまい、みすみすソーマに後退する隙を与えてしまう。

 

 しかもソーマもソーマでその隙を見逃さない。ソーマはなんと咄嗟に神機を捕喰形態(プレデターフォーム)に変形させると、ディーヴァの冠を捕喰した上で後ろに下がった。するとどういうわけか、人間のくせにバーストを引き金として腹の傷がひとりでに塞がり始める。

 

 あの人間離れした再生力……『マーナガルム計画』の産物か。忌々しいな。

 

『なんで……なんでどいつもこいつも頭ばっか食べるんですか!!』

 

『泣かないのディーヴァ。サリー、ディーヴァのフォローをお願い。』

 

『正直死んでくれた方がいいけど……まかせて。』

 

 再生を始めたソーマに向け、サリーは額の邪眼……ではなく両掌を前へと向ける。するとその掌にぎょんっと新たな邪眼が開き、瞬きと共に光弾状の赤黒いオラクル弾を放つ。

 

 追尾能力を投げ捨てて弾速に全振りしたそれは見事にソーマの腹と右肩を撃ち抜くが、それでもソーマは負傷を歯牙にもかけない。……不死身か?あいつ。

 

『大丈夫。威力は弱いけどその分猛毒を込めた。直に────』

 

『効いてないっぽいよあいつ。』

 

『………ならやり方を変える。』

 

 ムッとした様子でサリーは腰の翅を広げ、毒性の鱗粉を噴き出す。しかしその噴き出す鱗粉はしばらくすると性質を変え、やがて淡く輝く温かなものへと変質する。……待って?これまさか………

 

『そこの役立たず……いつまでも倒れてないで戦って。』

 

『誰が役立たずですか!!……っ!?』

 

 そんな言葉と共にサリーは、倒れたディーヴァに向けて掌の邪眼からレーザーを放つ。その一撃は見事にディーヴァへと直撃するが、ディーヴァにダメージは無い。どころか、結合崩壊した頭部が即座に再生した。

 

 人間視点だとあまりに絶望的なその光景に、当のディーヴァすら思わず困惑して動きが止まる。いやいやそんなのアリか。そんな事できるのか。

 

『人間が持ってた便利なものを真似した……これで戦える。』

 

「あのサリエル擬き……他のアラガミを回復できるのか!?」

 

 心做しかサリーがドヤっているが、もっと誇っていい。まさか回復弾を放てるとは。いつそんなものを口にしたのか。そう思ったが、恐らく神機使いの携行する回復錠を神機使いを口にした際に共に捕食。その性質を模倣し、神機使いの記憶を頼りに再現したのだろう。

 

 

 全くよくここまで成長したねサリー……回復能力そのものもだけど、さっきの掌の邪眼も恐らく僕のものを見よう見まねで再現したもの。つまりサリーは口にしたものの情報だけでなく、見たものや知ったものを模倣し再現するだけの知能を得たということだ。

 

 

 

………とはいえ回復役(ヒーラー)が存在するとなれば、恐らく相手はサリーを真っ先に狙うはず。結合崩壊すら治療できるとなれば尚更だ。現にリンドウさんは斬り合っていた僕や頭を抑えていたディーヴァを差し置いて、真っ直ぐにサリーの方へと走った。

 

 が、僕が伝えるより前にその行方を赤い結晶の壁が塞ぐ。そうして最低限援護を行うと同時、ディーヴァは再びソーマの方へと向き直った。君もナイスアシストだよ。足を止めたその隙をついて僕は背後から斬り掛かるが、これも辛うじてリンドウさんはシールドで防がれた。反射神経お化けが。

 

【本当に……人間の身でよくやる。が、淑女から狙うとは紳士じゃないな。】

 

「淑女と呼ぶにはちょいと厄介すぎるんでな……!!」

 

【よく言う。……それはそっちも大概だろうに。】

 

 リンドウさんに腰部の翼を向けて後ろにバックするように飛翔すると同時。さっきまで僕のいた箇所を一瞬遅れて線上の軌跡が残るほどの高速弾が掠めた。しかもその直後、連続した銃声と共に僕の移動先を塞ぐかのように弾丸が放たれる。こちらは避けられないから蝕刃の刀身を盾に防いだが……思ったより合流が早かったな。

 

 

「!!……今のを避けるの………!?」

 

「狼狽えるなサクヤ。言ったはずだ……奴は普通のアラガミとは違う。お前は支援に徹しろ。」

 

「了解です……ツバキ隊長。」

 

 

 狙撃型(スナイパー)のステルスフィールドか……引き金を引く瞬間まで気付けなかったわけだ。しかもどうやらツバキさんも密接する形で内側にいたようで、防ぎはしたものの完全に不意を付かれた。

 

 

 で、奇襲って形で女性組が合流して来たわけだけど。これで三対四……数的にはこちらが不利。ソーマが一応負傷しているとはいえ、即座にサクヤさんが回復弾を撃ち込んで応急処置を施した。ディーヴァに斬り掛かれる程度に回復した今、見たままの戦力差って認識でいいだろう。

 

 

『さて……どうしたものか。』

 

『今退いてもきっと追いかけてきますよ。彼らご主人様狙いみたいですし。』

 

『だね。僕も人気者になったものだ。』

 

 

 なんで極東の精鋭がわざわざロシアまで僕を追いかけてきたのか……正直疑問は多い。僕が単純に特異個体だからって切って捨てるのは簡単だが、あそこの支部長がそんな理由で貴重な戦力を滞在させるとは思えない。

 

 僕を殺すとなにかいい事があるのか……それとも生きてられると不都合なのか。その理由は知っておきたいところだが、今は目の前の戦いに集中だ。この部隊には生きていられるだけ不都合しかない。

 

 切り落とされた六つの触手の断面に蕾状の器官を形成し、開花させることで内側に小ぶりな邪眼を生み出す。先端に邪眼のついた触手はかなりSAN値を削られそうな見た目だが、これは言うなれば可動式の視覚だ。それぞれ神機使い四人に味方二人、一つずつ向けることで全ての戦況を同時に把握できる。

 

 

そうだな……この配置なら、ディーヴァにソーマとサクヤさんの二人を任せるべきか。比較的手負いと回復役ならディーヴァ一人でも対処できるだろうし、恐らくあの姉弟はまた連携してくる。

 

さっきの立ち回りを見るに僕一人であの二人を相手取るのはキツい。それに僕一人でリンドウさんを相手して、フリーにしたツバキさんをサリーに一対一(サシ)でぶつけるのも避けたい。

 

ちょっと過保護な気もするが、リンドウさんの上達ぶりを見るにツバキさんも大概ヤバくなってそうだからね。ここは………

 

 

『サリー。僕らは二人であの姉弟をやるよ。』

 

『!!……うん。一緒に戦う。あなたは私が守るから………』

 

『ディーヴァはあっちの二人をお願い。殺せなくていい、こっちへの介入を防いでくれるだけでいいから。くれぐれも無理はしないように。』

 

 

 配置を手短に感応現象で伝えると同時。僕はサリーの隣へと舞い降り、雨宮姉弟へと向き直る。あっちはあっちで僕が向かわせたディーヴァにサクヤさんとソーマが向かい合う形になり、互いに睨み合う形での膠着状態が続いている。

 

 

……ソーマも動き回れる程度には回復したか。もしかしたらディーヴァ一人に任すのは荷が重かったかもな。早く終わらせてあっち行こう。

 

 

「さぁ……任務再開だ。行くぞリンドウ。」

 

「了解だ姉上。」

 

 

 膠着状態を破って最初に突撃をかけてきたのはツバキさんだった。こちらに直進しながら放ってくる弾丸を蝕刃の刀身で防ぎ、その背後からサリーが掌の邪眼を用いて弾速優先の光弾を放つ。当然その程度の攻撃に当たる人じゃないが、サリーは光弾を連射しつつも額の邪眼を開くと、一瞬で膨大なオラクル細胞を収束させる。

 

 

『逃がさない……』

 

 

 そうして額から広範囲に拡散するレーザーを放つと同時。放たれた数多の光は不規則な軌道でツバキさんを追尾し、地面に着弾すると爆発と共に猛毒の霧を巻き上げる。

 

 拡散レーザーに見せかけた多数のホーミングレーザーによる爆撃……まるでミサイルだな。ウロヴォロスと同規模の砲撃も大概だけど、撃たれる方はかなり厄介だろうね。現にツバキさんも回避に精一杯で、反撃の余裕なんてなさそうだもの。

 

 

「ちっ……本当におっかない女神様だな!!」

 

 

【っと。】

 

 

 当然厄介極まりない後方支援に、リンドウさんが突っ込む形でサリーに刃を振るおうとする。そこに割り込んで蝕刃で止めると同時、サリーは掌をリンドウさんの方に向けて邪眼を展開。虚空を手で薙ぎ払うような動作と共に、横一列に無数の光球を並べる。

 

 

『私の大事な人に……近付かないで………!!』

 

「!!!」

 

 

 そのさまを見てすぐ退くのは流石というか。なんせリンドウさんが後ろに退いた直後、空中に並べた光球が展開順にレーザーとなって降り注いだ。

 

 扇状に乱射されるそれをリンドウさんはレーザーの間に身を運んで辛うじて躱すが、どうしてもステップ後は一瞬動きが硬直する。そこを目掛けて僕は蝕刃を振るい、同時にコンゴウの能力を刀身に発動。三日月状の真空の刃を飛ばすことでリンドウさんを追撃する。

 

 

「ぐっ………!!」

 

【ほう……凌ぐか。だが────】

 

「姉上!!悪いがフォロー頼む!!」

 

 

 そんな声と同時。僕の方へと銃撃が放たれるが、来ると分かっていればそう怖いものでもない。最低限身体を揺らすように浮遊して回避すると、僕も左手の甲の邪眼からツバキさん目掛けて三発の誘導レーザーを発射。牽制しつつシールドを展開したリンドウさんに刃を振り下ろす。

 

 敢えて分かりやすい縦振り。故に体勢を崩したリンドウさんは狙い通り、シールドで受け止める形で剣戟を防いだ。しかしこの瞬間。僕は蝕刃の刀身を展開し、高濃度のオラクル細胞を刀身の付け根へと収束させる。そのさまを見てリンドウさんが目を見開いたがもう遅い。

 

 僕はシールドに止められたままの蝕刃を両手で握り直し、強引に振り抜きつつインパルスエッジを発動した。剣戟と共に大爆発による追撃を行うことで、振り抜くようにシールドごとリンドウさんを大きく吹き飛ばすに至る。

 

 そして縦に展開した刀身を閉じると同時、腰の翼に備えたジェット噴射の機能を地面に向けて吹き掛ける。そうして爆風で巻き起こした土煙を払うと、そこには膝をつくリンドウさんの姿があった。別にどこかを負傷した、といった様子では無いが………

 

 

「!!!………リンドウ!?おい大丈夫か!!?くそっ……!!」

 

「俺は大丈夫だ!!……が、ちょっと不味いかもな。シールドがイカれちまった。」

 

「なにっ!?ちっ……なら下がってろ!!あいつは私がやる!!」

 

 

 さっきから何やっても避けるなり防ぐなりして捌いているからね。まずはシールドを潰させてもらった。これでサリーの範囲攻撃も僕の蝕刃も避けるしか対処方法が無くなったわけだけど……それが分かってるからか、ツバキさんはリンドウさんを下がらせる形で前へと出てきた。アサルトなのに勇ましいことだね。

 

『サリー。君はあの壊れた神機使いをお願い。この女は僕がやる。』

 

『分かった。』

 

『こっちに近付けなければそれでいい。……くれぐれも深追いして怪我しないようにね。』

 

 射撃で近付けないよう立ち回れば任せられると判断し、サリーをリンドウさんに向かわせつつ真っ直ぐにツバキさんへと身体を加速させる。銃撃の対処方法としてはこれがベスト。多少被弾したところで近接型ほど致命傷にならないし、いくら取り回しのいいアサルトでも距離を詰められると相当やりにくいはずだから。

 

 とはいえツバキさんは距離を詰めようとする僕に慌てる様子もなく、寄りにもよって顔面目掛けて正確に銃を連射してくる。流石に僕も怯んでしまったが、やはりそう簡単に寄り付かせてはくれないか。まずは回避に専念させるなどして隙を作るべきだね。ちょうどそれ用にいい能力もあるし。

 

 

 まずは肩の触手に意識を集中させ、伸ばす形でツバキさんへと向かわせる。さっきこの器官は敵と味方の位置を把握するためのものとして作ったけど、その邪眼はサリエル神属のものをベースにしている。つまり、手の甲のものと同じく射撃能力を有しているわけだ。

 

 それに伸縮自在の触手が組み合わさった結果、自由な角度から射撃をこなせるある種のオールレンジ攻撃として機能する。触手の操作と射撃ってなると流石に扱うのも大変だが、射撃型は近接戦と同じくらい対多数戦も苦手だ。全方位から襲いかかるこの攻撃にはそう簡単に対処出来ないはず。

 

「ぐっ……!!鬱陶しい!!」

 

 僕本体とは別に自在に蠢きレーザーを放つ触手にツバキさんは案の定苦戦を強いられている。それでも足を止めないよう立ち回り、触手の邪眼を撃ち抜いて潰してるのは流石という他ないが……潰れた邪眼は花弁状の装甲で覆い、即座に蕾に似た鏃へと変形。こちらは刺突という形で攻撃を仕掛ける。

 

 しかし操作が複雑だからどうしても足が止まるな……便利なのは間違いないがもう少し改良できないものか。いや、単純に扱いに慣れてないだけか?よく考えたら思いつきでつけた機能をいきなり実戦で使ってるんだもんな。実際有効だからいいものの傍から見たら舐めプもいいところだぞ。

 

 

 とはいえいい塩梅にツバキさんの意識も攻撃端末である触手に向けられた。その隙を突いて僕自身も身体を加速。同時に触手を用いた攻撃は止むものの、完全に意識の外からの攻撃にツバキさんの動きは完全に硬直する。

 

 

これは貰った────

 

 

「────とでも思ったのだろう?素人め。」

 

 

………そんな言葉と共に、僕の振るった蝕刃が何かに弾かれる。しかもそうして捌いた直後、ツバキさんは振り向きざまに銃口を僕の身体に押し付け、至近距離で引き金を引いた。

 

 その銃弾が僕の身体を撃ち抜いて身体の後ろへと貫通したのが傷の感触で分かった。突っ込むよう誘われたと気付いたのは、続けざまにもう一度。頭部を破壊しようと放たれた銃撃を、僕がギリギリ頭を傾け回避してからだった。

 

 

 ねぇ……今この人、まさか銃身で僕の剣戟を捌いた??そういう武器じゃないからなそれ??しかもそうして僕が身体をよろめかせると同時、ツバキさんは退くどころか更に前へと距離を詰め、片手で保持した神機を再度僕の身体に押し付ける形で引き金を引く。

 

 いやいや。確かに至近距離から撃たれたら避けれないけどさ!?こんな近接型の使い手すらドン引きするレベルの荒々しい戦いをする!?しかも何が酷いって、実際めちゃくちゃ有効打になってるのが本当に酷い。いくら威力の弱いアサルトと言っても、ゼロ距離で食らえばそれなりどころじゃない負傷になるってのに。

 

 不味いな……リンドウさんの方が厄介と勝手に思ってたけど、ツバキさんはツバキさんで相当手強いぞ。すぐさま距離を空けつつ肩の触手を再び伸ばそうとするが、予備動作でバレたのだろう。今度は先端の邪眼を順番で撃ち落とす形で触手を無効化された。

 

 

【……ッ、中々やる………!!】

 

『あの女……!!よくも……よくも私の大事な人を────』

 

『っとサリー。僕は大丈夫だから。』

 

 

 僕の負傷にサリーが激昂してリンドウさんから気がそれかけるが、宥めつつも逆に飛びかかるようにしてツバキさんに蝕刃を振り下ろす。しかし振り下ろした刃をツバキさんは足で踏みつけて地面にめり込ませると、僕の顔面に銃口を向けて至近距離から銃弾を見舞う。その一撃で顔面の半分が吹き飛んだ辺り、流石の僕も身の危険を覚える。

 

 

「どうした化け物!!動きが鈍っているぞ!!」

 

【ちっ……どっちが化け物だか。】

 

 

 ひとまず地面にめり込んだ蝕刃を一回消すことで身体を自由にし、フリーになった右手にボルグ・カムランの能力を発動。腕を装甲で覆い、即席のクローとして振り下ろすことで無理やりツバキさんを下がらせる。

 

 さらに追撃としてヴァジュラの電流を金属質の装甲に流し、右手を通して地面に放電する。が、それでもツバキさんが退いたのは最低限の距離。すぐさま銃撃で反撃してくるから、僕は両肩の六本の触手を交差させて至近距離からの銃撃を凌ぐ盾とした。

 

ついでに体勢そのままに銃撃で傷んだ肩の触手を付け根からパージ。空洞となった付け根の中にクアドリガの能力を発動する。

 

 そうすると装甲のように巨大な突起が生えるが、当然これらはただの装飾ではない。突起物は一つ一つが外側へと向けて射出されると、一定時間後に空中で方向転換。ツバキさんを捉えると一斉に根元から火を噴いて空中で加速する。

 

 

 クアドリガが胴から単発で放つ大型ミサイル。それを同時に六つ。誘導性能はそこまでだが、爆発範囲と威力は折り紙つきだ。地面に撃ち込むだけで大爆発を引き起こすのは自明だが、この距離で放てば当然僕も巻き込まれることとなる。

 

 苦し紛れもいい所とはいえ所詮は諸刃の剣だ。僕自身も具体的な防御手段は用意してない。

 

「ミサイル……!?あいつ自爆する気か!!くそっ────」

 

 ツバキさんが降り注ぐ複数の大型ミサイルから逃れようとするがもう遅い。この自滅覚悟の絨毯爆撃はステップ数回で逃げれるような攻撃範囲じゃないし、それこそ近接型でシールドでも使えないと逃れる術はない。

 

 現にツバキさんの声は着弾したミサイルの爆音にかき消され、通常の人間なら死に至るほどの熱風が瓦礫を巻き上げ何ヶ所からも同時に吹き荒れる。

 

 僕は自分で巻き起こした爆風に身体を任せて後退して被害を抑えるが、それでも身体は何ヶ所かが結合崩壊を起こす。モロに巻き込まれれば、それこそ命に関わっただろう。

 

 

【ぐうっ………!!】

 

 

 そうして吹き飛ばされた後に左手と両足を地面につき、どうにか勢いを殺す。僕が巻き起こした爆発で巻き上げられた砂塵によって視覚は覆われているが、アラガミの僕ですらこれほどのダメージを負ったんだ。いくら神機使いとはいえ重傷は免れられないはずだ。

 

 とはいえこの位であの人の息の根を止められるとは思っていない。砂塵に覆われたあの向こう側。コンゴウの聴力を用いて探ったところ、未だ土を踏みしめる音がする。やはりまだ生きている。

 

 ならば確実に殺す。熱でボルグ・カムランの装甲が剥がれた右手に再び蝕刃を形成し、半壊した腰の翼を広げて風力を圧縮する。蝕刃は鋒を向けるように構え、刀身を縦に展開。中央部分にオラクル細胞を漲らせ、開いた刀身の間に赤い稲妻として走らせる。

 

 

 チャンスは一度。爆風で視界が覆われている今、奇襲の形で最速かつ必殺の一撃を叩き込む。そのために僕が選択した能力。それは寄りにもよって()()使()()()()()だった。

 

 

 羽ばたきとともに翼の内側から風力を解放し、身体を弾丸のように加速させる。鋒を向けた蝕刃を構えたまま赤い雷光を(はし)らせ、爆風の中を突っ切る形で突進の速度を乗せた刺突を放つ。

 

 

 その速度はこちらを警戒していたツバキさんの反応すら凌駕し、無慈悲に蝕刃が彼女の腹部を貫いた。僕の通った後に吹き荒れる雷光混じりの暴風が砂塵を吹き飛ばし、やがて口から血の塊を吐き出すツバキさんの姿が全員の視界に顕になる。

 

 

「が………………っ………!!!」

 

【終わりだ……神機使い。】

 

 

 チャージグライド。神機チャージスピアの固有能力だ。構える際の隙は大きいものの、アラガミの能力をフル活用して再現したこいつは僕の起こした爆風を吹き飛ばすほどの爆発的な加速を生み出す。そして単純な速度を乗せた刺突は、例え相手がタワーシールドであっても貫くほどの貫通能力を生み出す。

 

 そう。ツバキさんを貫いたのはそんな必殺の一撃なんだよ。身体の一部を変質させた蝕刃だから分かる。内臓を幾つも貫いて破壊する感触があった。腹から流れる血の量は夥しく、僕が刃を持ち上げて投げ捨てるように振るうとツバキさんは地面に無抵抗に叩きつけられる。

 

 

「────────姉上!!!!!」

 

 

その様にサリーと戦ってたリンドウさんが血相を変えて駆けつけ、サクヤさんとソーマも手が止まる。

 

「姉上!!姉上!!?しっかりしてくれ!!!」

 

「………嘘、でしょ……?」

 

「あのゲテモノ野郎……また殺しやがったのか………!?ラーナさんに続き、ツバキさんまでも………!!」

 

 瞬く間に絶望に染まる第一部隊。ここが戦場ということも忘れて茫然自失となる面々に、倒れたツバキさんは何の言葉も発さない。普段だったら檄の一つでも飛ばして我に返すものなのに。代わりとばかりに血の混じった咳を吐くその様は、最早生存は絶望的だと第一部隊の面々に現実を叩き付ける。

 

 とはいえこんな戦場のど真ん中で隙を晒した連中を僕らが逃がすわけもなく。僕は再び身体を浮かせると、真っ直ぐに隙だらけのリンドウさんへと蝕刃を後ろから振り下ろす。リンドウさんも咄嗟に殺気に反応して振り向いたが、間に合うわけが無い。

 

 

 その一撃で僕はリンドウさんも続けて亡き者にする。少なくとも僕はそのはずだった。

 

 

────しかしその一撃が届くことは無かった。なぜならそうする前に僕の身体が地面に崩れ落ちた。

 

 力が抜けるようにして地面に倒れ、蝕刃を地面に突き立てて立ち上がろうとするも叶わない。そのさまを見て第一部隊に攻撃を仕掛けようとしていたサリーとディーヴァも、ツバキさんに群がる神機使い同様に僕の元に慌てて駆けつける。

 

 

『どうしたの!?大丈夫!!?』

 

『ご主人様!?なんか身体が霧散しかけてますよ!??』

 

 

………分かってはいた。ツバキさんを殺そうとしたあの一瞬。チャージグライドによる刺突のあの瞬間、ツバキさんは僕に向けて引き金を引いていた。しかもその弾丸が捉えたのはよりにもよって胴体。僕のコアの存在する箇所だ。

 

 直撃してコアが破壊された訳ではない。が、掠める形で欠損したのだろう。身体に力が入らない。おまけに今倒れて分かったが、僕自身も相当消耗していたらしい。

 

 当たり前だ。あんなに負傷して、おまけに多数の能力を連続で使用したんだ。戦闘中に肉体の進化も強引に行ったし、自爆同然の荒業まで使った。否、使わされた。そこに倒れているツバキさんに。

 

 

……ほんと、リンドウさんの姉だけあるな。死んでもタダでは死なないってか。第一部隊を潰す絶好の機会なのに………

 

 挙句に姉が姉なら弟もだ。否、弟だからこそか。リンドウさんは真っ先に我に返ると、ツバキさんの死に瀕した身体を抱えた。

 

「……ソーマ。サクヤ。撤退するぞ。」

 

【ほう……退くか。その女はもう死ぬと言うのに。】

 

「っっっ、てめぇ………!!!」

 

 僕の発する言葉にソーマが神機を握りしめる。が、リンドウさんはそれを手で制する。……僕を殺したくて仕方ないだろうに、ここで撤退を選択できるのは流石っていうか。本当に厄介だね。死にかけの仇が目の前にいるって言うのに。僕ならここで撤退なんて選べる気がしない。

 

「ソーマ……命令だ。」

 

「でも!!あいつも弱ってる!!今なら仇を討てるチャンスなんだぞ!?」

 

「分かってる。けど、頼む……」

 

しかしリンドウさんはソーマの言葉を制し、あくまで撤退を選ぶ。ほんと惜しいよ……もし感情に任せて僕を殺しに来ればサリーとディーヴァが残ったメンバーを壊滅させたのに。さすがは未来の隊長。大したものだ。

 

最も。そっちが撤退を選んだからって僕らが攻撃の手を緩める理由にはならないんだけどね。僕は地面に膝をつくも、感応現象を用いてサリーとディーヴァに指示を与える。

 

 

『サリー……ディーヴァ。僕はいいからあの神機使い達を殺せ。僕のことは後にしろ。』

 

『何言ってんですか!!放っておけるわけないでしょう!!』

 

『あんな奴らの命なんかより貴方の方が大事……今治してあげるから………!!』

 

 

………けど、彼女らは僕の言うことを聞かなかった。それどころか撤退中とはいえ敵のいる目の前で僕の傍に駆け寄り、僕を介抱しようと身を寄せる。うん……まぁ、なんとなくそんな気はしていたけどね。

 

 分かってはいたけども、僕が人間の存在しない世界を欲しがる理由。それはあくまで彼女らに脅威の存在しない世界を与えたいだけで、その世界に僕が生きて立っている必要は無いんだよ。

 

 僕の命なんかより、この先においても最大の脅威となる神機使いの殲滅。その絶好の機会を優先してほしいってのが僕の本音なんだけど………

 

 

………そんな事言ったら怒られちゃうなって思ったからそっと介抱を甘んじて受け入れた。いいさ……今日はまず一人、あの部隊の人間を消せた。そして同時、そう直ぐには復帰できないほどの傷を負わせた。今日のところはそれくらいで十分としようじゃないか。

 

 それにこれはあくまで前哨戦。僕らにはまだメインの侵攻(イベント)が残っている。こんな所で死んでも何にもならないのは、この子達の言う通りだからね。

 

 

『まっ……まさかこのままやるんですか!?ロシア支部侵攻作戦……ご主人様、そんなボロボロで死にそうなのに!!』

 

『今が絶好の機会なのは君も分かるだろ。……ディーヴァは先にあの部隊を尾けて支部の場所を割り出して。僕はサリーに治して貰ったら後で追いかけるから。』

 

『わ……わかりました。サリー?ご主人様のことは頼みましたよ。完全に治すまで、こっち来させちゃダメですからね!?』

 

 

 ディーヴァの言葉にサリーが強く首を縦に振り、回復成分を持つ鱗粉を散布しつつ両掌の邪眼を僕の身体の負傷箇所へと向ける。……この調子で僕の身体が再生出来たら、僕とサリーは道中のアラガミを汚染し統制しつつディーヴァの元へ向かう。

 

 ロシアに駐留する極東第一部隊が半壊している今、襲撃は早ければ早いほどいい。上手く行けば支部もろとも取り逃した第一部隊を殲滅できる。

 

 作戦は既に練られ、戦争の火蓋は既に切って落とされた。故に僕らの人類への攻撃は続く。その中既に遠くなったリンドウさんの背中を見ながら、僕はツバキさんが最後に胴体に残した弾痕を右手で押さえた。

 

 

【………痛いなぁ。】

 

【もうあんな無茶はしちゃだめ……すごく心配した。】

 

【ごめんね。次はもっと上手くやるから。】

 

 

 そうしている僕をサリーが後ろから抱きしめ、痛ましそうに傷ついた箇所を指先で撫でてくれる。

 

 それでも傷つけられた箇所がコアだったからか。それとも文字通りに命を懸けた一撃だからか。サリーの回復能力でも僕自身の再生力でも、そのコアの損傷だけはどうやっても癒すことが出来なかった。

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