神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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危うく二万文字行きかけました。地獄は続く。



15.悪意(マステマ)

 僕とディーヴァが襲撃の動乱に乗じて再び壁内へと侵入してからしばらく。神機使いと僕の支配下にあるアラガミの戦闘は未だに続いていた。

 

 段々と対処方法が確立されているのかゾルダートとフリューゲルは難なく処理されるようになり、大型も何体か破られている辺り少しこっちが押されているみたいだ。大型組はまだ既存の個体と能力自体は変化がないとはいえ、存外ロシアの連中も頑張っているらしい。

 

 加えて民間人の避難誘導はあらかた片付いたのか、それともすでに死んだか。()()()()神機使い以外に人影らしい人影はなく、もはやこの戦場に安全地帯なんてものは存在しなかった。

 

 避難誘導という建前を失った神機使いはアラガミ殲滅のために容赦なく戦火を拡げ、それに応えるかのように空から放たれるサリーの熱線が地上を焼き払い瘴気を巻き上げる。

 

 やはり人間は戦うと元気になるなぁディーヴァ。死が急速に迫ってくる瞬間が一番生を実感できる……ってか?ほんっと人間ってやつは……そんなに戦うのが好きかい。

 

 なら見せてやろうか?もっと面白い絶望(もの)をよ。

 

「………ッ!?この力は……さっきの!?」

 

「そうだよ。僕が新たに得た能力だ。」

 

 さっき散々神機使いと一緒に平らげた神機由来の能力。【捕喰攻撃】と【装甲化】の二つを、僕は配下の大型アラガミに感応現象で伝達してやった。

 

【捕喰攻撃】は言うまでもなく神機の機構をそのままアラガミの身体に転用したもので、生物だろうが装甲だろうが捕喰により破壊。さらに豪華特典として身体に神機使いで言うバーストを引き起こす最強の矛だ。

 

 僕と違って流石にバースト時限定の能力とかはまだ持ってないだろうが、それでも攻撃力と行動速度は跳ね上がる。何より捕喰攻撃自体がガード不可能の攻撃として機能するだけでも人間には十分に脅威になるだろう。

 

 ただどうにも結合崩壊するとバーストが解除されるみたいだが、逆に言えばそれまでは無制限にバースト状態を維持できるわけだから。こういう戦場なら餌には困らないし、どんどんバーストして行こうね。

 

 加えて【装甲化】。こっちは僕の身体で試しただけだからまだ未知の部分が多いが、要約するとバースト時に特定の神機による攻撃を遮断できる。試した感じ剣戟か銃撃のどちらかを選んで無効化できるが、一方を無効化するともう一方がめちゃくちゃ通るようになるのが弱点。

 

 ソーマの神機に用いた際にサクヤさんの銃撃で僕の身体の中でも最硬度の右手が破壊されたのは多分そういうことだろう。厄介な欠陥ではあるが、攻撃の半分を無効化できるのは防御能力として見ればあまりに破格。特に今回近接と遠距離でそれぞれ部隊を固めてるロシアにはぶっ刺さる性能をしている。

 

 ただあの感じだと神機の捕喰攻撃も防げなかったし、使い方を間違えると自分の首が絞まるのは本当だからね。まだ状況判断能力に欠ける大型アラガミは、しばらく戦って一番厄介な相手に合わせて発動すればいいんじゃないかな。

 

 

………と、未来の灰域種も苦笑いな能力二種類を僕の配下の大型アラガミに()()()()()()()与えてみたわけだけども。そうするとほぼ同時に戦場のあちこちから赤い光の柱が天に昇った。一斉にバーストしたみたいだね。

 

 怖い怖い。僕が神機使いだったら泣いちゃうね。現に戦闘音に混じって明らかに神機使いの悲鳴が増えた。ついでにディーヴァがドン引きしたように僕のことを見つめていた。いいだろこの能力。

 

「ほんっと……私、初めてアラガミ化(脱・神機使い)してよかったなって思いましたよ。」

 

「ね。こいつらけしかけたら第一(あの)部隊潰せないかな。」

 

「無理じゃないですかね。」

 

 これでも無理かぁ。まぁ対策練られたらそれまでな付け焼き刃の能力だしね。新型神機使いなんて出たら大して役にも立たないし。近接と遠距離で部隊を分けてるロシアにはぶっ刺さっただけで。

 

 けどこれなら僕らが仕事を終えるまでの間にサリーもどうにかできるだろう。あんまりあの子に負担かけるのもかわいそうだからね。

 

 

 しっかし……民間人が既に全く見当たらないとはいえ、誰も僕らに救いの手を差し伸べてくれないな。美女と美少年がこんな戦場のど真ん中で逃げ遅れて困ってるのに。

 

 アラガミがえげつないパワーアップして余裕が無いのは分かるけどさ。ちょっと薄情過ぎるんじゃない??さっさとあの中央施設に僕らを誘導して欲しいんだけど。もう助けてーって叫んでみるか。

 

 

 と、僕が口を開きかけた時だった。ディーヴァが何かに気付いたらしい。僕の前でぴたりと足を止めた。足を止めるなこんな地獄のど真ん中で。

 

 

「………ご主人様。気のせいでしょうか。」

 

「なにが。」

 

「なんか……大型アラガミが増えてませんか?一次侵攻で全戦力投下してから補充してませんよね??」

 

 

 あ、そうそうそれね。僕も思った。確かに僕は魔改造コクーンメイデンしか投下してないし、既存戦力はサリーに預けた分で全部だよ。

 

 なのに言われてみれば明らかにコンゴウとかヴァジュラとかあちこちに出現している。特にヴァジュラなんてここに来るまでで十体は確認してるからね。僕最初は三匹しか用意してないのに。

 

 おまけにその個体はいずれも体色が真っ白々助でちゃんと僕の支配下カラー。仲良くサリーの言うことを聞いて神機使いに牙をむいてます。なので何も問題ありません。ノープロブレム。

 

 気にしたら負けだよ。……なんて言ってディーヴァが納得するわけないか。この子細かいことが気になると夜しか寝れないタイプだもんね。

 

「あれだよディーヴァ。ゾルダートいるじゃん?あいつらが神機使い喰いまくって進化したんだよ。コンゴウとかヴァジュラに。」

 

「つくならもう少しまともな嘘ついてくださいよ。……その感じだとなにか知ってるんですね?」

 

「まさか。僕だって正直ビビってるよ。どこから生えたんだろうねあいつら。」

 

 戦力補充の手間が省けたから気にしないようにしてるけどさ。勝手に知らないところで自己増殖するとか怖すぎでしょ。僕の細胞にはさすがにそんな便利機能ないし。

 

 もしかしたら僕カラーのアラガミがオラクル細胞に形成モデルとして記憶されて、不幸にもこの戦場のど真ん中に自然発生する形で増えたとか?そのくらいしか考えられないんじゃないかな。

 

 あるいは目を離した隙にサリーがどっかから補充してきたか。あの子の鱗粉は広域のアラガミを汚染する形で支配下に加えられるからさ。改造コクーンメイデンを投下する前に補充してくれたのかもね。

 

 だとしたら優秀すぎる。もっと好きになっちゃうよ。僕やディーヴァには出来ない芸当だからね。この作戦が片付いたらぎゅーってしてあげよう。

 

………なんて。いくつかディーヴァが納得しそうな答えを用意してあげたけど、ディーヴァはまだ怪訝そうに僕のことを見つめている。どっちかは本当なのに。こんなかわいい美少年が本当って言ってるから本当だよ。

 

「ご主人様?本当のこと言わないとお身体に触りますよ??」

 

「もう触ってるんだけど?判断が早い。……ん"っ。」

 

「ぐっへへ……胸のあたりもぷにぷにして柔らかいけどちゃんとち●ち●ありますね。男の子……でいいんでしょうか?ご主人様はかわいいですね。」

 

 なんでそこまで確認しといてまだ疑問形なんだよ。股間を鷲掴みにされたせいで変な声出たじゃねーか。さすがディーヴァ。『触る』と心の中で思ったなら!その時スデに行動は終わってるんだね。あとで覚えてろよマジで。仕返しにそのデカ乳鷲掴みにしてやるからな。西瓜みたいなの二個もぶら下げやがって。

 

「ほう……いい度胸ですね。私に抱かれたいんですか?」

 

「ガチの脅迫やめて?その身体でそんな事されたら僕死んじゃうよ。」

 

「サリーの目の前でぶち犯されたいみたいですね。よーく分かりました。」

 

 こいつサリーまで人質に取るか。やめろよサリーにそんな生々しいもの見せるの。あの子知識はあるはずなんだけど結構ピュアなんだから。トラウマになったらどうするんだよ。

 

 はー……分かった。休戦だ休戦。ていうかそろそろ中央施設つくじゃん。あそこの入口辺りにいる神機使い、多分だけど門番かなにかだろ。そろそろ怪しまれないように避難民を装わなきゃ。

 

 ここからは会話も全部感応現象でね。僕がディーヴァに拾われて一緒に来たって体で行くから。

 

 それにしても全く……ここに来るまで結局誰も僕らを助けてくれなかったな。超激戦中だったから仕方ないとはいえ、案外ここの連中ってガチで薄情なのかもしれないな。いや、そもそもただでさえ資源が枯渇してるだろうし僕の襲撃を利用して口減らしでも図ったか?ここまで来て門前払いとか嫌だよ?

 

『大丈夫ですよ。ここは私が上手いことやります。』

 

『んじゃ任せた。違和感なくやるんだよ。』

 

『………善処します。』

 

 感応現象でそうやり取りを終え、ディーヴァが門番らしい神機使いの方へ僕の手を引いて『いかにも逃げてきました』ってばかりに駆け寄る。幸いさっき戦場のど真ん中を突っ切ってきたせいで僕もディーヴァも巻き上げられた土煙や煤に塗れており、風貌で違和感は感じさせない。

 

………いや、ディーヴァの場合はお前のようなデカい女がいるかって怪しまれそうだけど。少なくとも僕は大丈夫だろう。

 

 そう思ったから僕はディーヴァが神機使いの元まで辿り着くと、まるで怯えたかのようにディーヴァの分厚い腰へと抱きついた。下手に口を開かないよう、外見年齢相応かつ大人しげな性格だと身振り手振りでそう示した。その演技が中々に様になってたのか、門番の神機使いは僕とディーヴァを見つけるとあちら側から走ってきた。

 

「……生存者がまだいたのか!?よくここまで来たな!!」

 

「た……助けてください………アラガミに襲われて………」

 

「はっ……はっ……死ぬかと思った………!!」

 

………などと被害者ヅラした演技に、その神機使いの男は僕らを一切警戒することなく中央施設の中へと入るように促した。おかげでこの瞬間にロシア支部の壊滅は決定したわけだけど、彼が敵をみすみす通した大間抜けと後世に語り継がれる事はないだろう。何しろこの先の人類に後世なんてものは存在しないのだから。

 

 お勤めご苦労様。なんて内心でほくそ笑みかけていた時だった。

 

 

「………って、フレイ・アイアンハート様!?」

 

 

 その神機使いはディーヴァを見つめてそんな驚愕の声を上げていた。フレイ・アイアンハート……ディーヴァが神機使いだった頃の名前か。何やらその名前を呼んだ神機使い顔は驚愕とともに恐怖と絶望に染まっており、ディーヴァはディーヴァで何やら気まずそうに目を逸らしている。

 

 おい待て。めっちゃ顔を覚えられてるのもそうだけど、ディーヴァ?なんでフルネームで様付けで呼ばれてるの??こっちを見ろ。何やらかした。フェンリル現役時代に何やらかしたんだおい。警戒されてんじゃねーか。

 

「……久しぶりですねエヴァン。元気そうで何よりです。」

 

「えっ……なんでアイアンハート様がここに!?死んだはずじゃ────」

 

「残念だったな。トリックだよ。」

 

 仮にも成人男性に体格で圧倒的に勝るディーヴァに詰め寄られ、エヴァンと呼ばれた神機使いがたじろぐ。……そうか。ディーヴァってここでは帰らぬ人となってるわけで、本来死ぬなりアラガミ化してるなりしてる彼女がここにこうして現れた。それだけでロシア側にしてみれば怪現象になるわけか。そりゃ亡霊でも見たような顔もするわ。

 

……いや。それ抜きに恐れられてる気がしないでもないな。本当に何したんだか。これは参ったな。ロシア支部内でもディーヴァが有名人だったなんて。そういうのは先に言っておきなさいよ。多分言いたくない内容だから黙ってたんだろうけど。

 

 どうするんだよ破壊工作。この様子じゃ入ったらクラブのストリップ並にロシア支部の人間の視線を独り占めすることになるし、こそこそバレないようになんて無謀もいいとこだよ?

 

「それよりエヴァン。地獄から舞い戻ってみればなんですかこの状況は。まるでこちらも地獄じゃないですか。」

 

「それが……先ほど奇妙なアラガミが徒党を組んで襲来してきたのです。中には極東の連中の報告にあった新種の姿も……」

 

「そういう事ならさっさと通してください。いつも通りに私が出て全部ぶっ潰してきます。……私の神機はまだありますよね?」

 

 そう僕がげんなりとしている傍ら。ディーヴァはそう口にすると、僕にこっちに来るようにと手招きをする。これから中央施設に悪さする僕視点ですら妙に頼もしいディーヴァの姿に、エヴァンは少し考えた後に大人しく扉を開けてくれた。

 

 その顔に少し安堵の色を浮かべているのを見るに、神機使い時代のディーヴァは間違いなく頼りにはなったのだろう。実際はトドメを刺しに来た側なのに。

 

 

 しかしなるほどね……ディーヴァ。今の口振りで分かったよ。君は元々、ここに来た時点で神機使いとして出撃する気だったんだね。自分の顔が知れてるのも織り込んで、その上でディーヴァは既に破壊工作の算段を付けている。

 

 神機使いとして顔が知れてる。本来こそこそするなら不都合でしかないが、神機使いって身分なら堂々と侵入できる場所もあるわけだ。例えばそう……『神機保管庫』とかね。僕みたいな民間人が入ったら違和感しかない場所も、神機使いのディーヴァが出撃のために神機を取りに入るなら何の問題もない。

 

 それに神機の整備を行うあそこを真っ先に潰せれば、現在外で僕の配下と交戦してる神機使いへの増援も断てる上に中で待機してる神機使いは全て無力化される。神機使いなんて神機を握らなきゃただの人間なんだから。残りの施設の破壊と人間の虐殺なんかそうして戦力を奪い尽くした後にいくらでも好きにできる。そういう事だね?

 

『あそこは整備士ばっかで戦える人なんていませんから。入れれば余裕ですよ。』

 

『冴えてるねディーヴァ。そういう事ならそっちは君に任すとして……僕はどうしようか。』

 

『ご主人様は電気室をお願いします。あそこは鍵がかかってるだけで見張りもいませんから。』

 

 そりゃアラガミが人間に擬態して侵入してくるなんて普通予想つかないだろうからね。この時代に人間の不審者なんてそう滅多にいないだろうし。鍵なんて蝕刃を使えば簡単に破壊できるし、侵入自体はそう難しいものでもないはず。

 

 そのくせしてここを落とせば、支部内の照明やコンピューターを始めとした通信施設などの機能の殆どを使用不可能にできる。そうすれば他支部に救援を求めることが出来なくなるだけでなく、同時に今回ロシア支部であった事件の一部始終を他支部に隠蔽できるわけだ。

 

 つまり今回の破壊工作が次の作戦でも使用可能になる。いや……上手く行けばロシア支部が陥落した事そのものを隠蔽することもできるか?アラガミの群れに襲われはしたけど無事に撃退しましたってフェンリルの他支部に伝えれば。そうしたらまた奇襲同然に侵攻を行えるのでは?

 

 

………なんて高望みし過ぎるのは良くないね。こういうのはイレギュラーが付き物なんだ。無事に事が運べば万々歳、そうでなくとも今回の戦争が僕らの勝ちで終わればそれで十分。

 

 

 なんせさっき言った襲撃の隠蔽。その大前提となるのは目撃者の殲滅だ。しかし今回のこの戦場には極東の第一部隊がいた。彼らは僕が軍勢を率いて襲撃したのを知ってるし、襲撃を隠蔽するとなると彼らをどうにか抹殺するのは絶対条件となる。

 

 が、前の戦いで僕はあの部隊に執着したせいで大失態を犯した。同じ過ちを繰り返すのはそれこそバカのすることだ。まずはロシア支部の陥落。第一部隊はそのついでで葬り去ることが出来れば上出来くらいに思っておこう。

 

 とはいえ先の出撃でソーマは満身創痍で待機中だろうしリンドウさんも神機が半壊。ツバキさんに至っては死んだ今、残ったサクヤさんが単騎で出撃してるとも思えない。彼らがこの施設のどこで休んでるかは見つからないが、神機は恐らくここの設備を借りて整備・修理されてるはずだよね。

 

『………あ。確かに。』

 

『ディーヴァ。もし余裕があったら彼らの神機だけでも念入りに破壊しておいて。』

 

『了解です!!』

 

 これは絶好のチャンスだ。もし上手く行けばあの部隊を潰すのは無理でも戦うための力はしばらく奪える。恐らく現時点での人類側の最高戦力が邪魔してこなくなれば、ひとまずはあの影を警戒する必要もなくなる。

 

 先の出撃が仇になったみたいだな。こう話が変わってくると、先のソーマとの戦闘も無駄では無かった……気がしてくる。分かってるよ気のせいだ。他に打つべき手は幾らでもあった。

 

 ただそうと決まればさっさと行動を起こそうか。僕は電気室を、ディーヴァは神機保管庫を。それぞれの活動を停止させたら感応現象で伝達し、次の目標に移ろう。中に入った後の進行はそんな感じでね。

 

『あとディーヴァには僕の視覚を共有しておくから。これで僕の道案内をお願いね。』

 

『うわっ……えっ、こんな事もできるんですか。』

 

『感応現象で過去の記憶(えいぞう)を覗くことも出来るんだ。現在(リアタイ)の景色を共有するくらいわけないさ。』

 

 二つの視界を同時に見るのは少し奇妙みたいで、ディーヴァは困惑したように瞬きをしている。多分ディーヴァ的には中の構造に詳しくない僕が何してるかが常に気がかりだと思うからさ。こうしておけば互いの状況を常に把握できるし、道案内も「そこを左に」とか言える方がやりやすいかなって。

 

 けどディーヴァは困ったように僕から目を逸らすと、何故か天井を見上げて前へと歩き始める。……別に心配しなくてもディーヴァの視覚を僕には共有してないよ。さすがにプライバシーもクソもないかなって遠慮した。僕と違ってディーヴァは道案内も必要なければヘマする事もないしね。

 

『ほ……ほんとですか?よかった………』

 

『まぁさっきから君が僕のことガン見してるのはバレバレだけどね。いいっしょ僕の人間態。』

 

『!!!………はい。すっごい性癖です……正直今までキモいなって思ってたけどめっちゃ抱きたい………』

 

 誰もそこまで聞いてないけど正直でよろしい。抱かれるの僕の方なのかそうですか。いやまぁそうだろうけど。この作戦終わった後にサリーにこの事をチクっ……いや相談してみて、それでディーヴァが生き残ってたら考えてあげるから。

 

 だから今は作戦に集中だよ。そんな僕のお身体に触りますよしようとしてもダメだからね。涎拭きなさい。

 

 

 ほら……エントランス着いたよ。ここからは別行動だ。大体ゲームでよく見るあそこに似てるんだけど、中央にクエストカウンターらしい場所が複数あるしゲートもいくつかあるしで極東のそれの三倍くらい広いな。おかげで金属の床が剥き出しになった一階には出撃から帰還して待機してる神機使いや逃げてきた民間人が大勢収容され、天井にぶら下がったモニターに映る現在のロシア支部の戦況に祈るように手を握っている。

 

 そして少し階段を昇った場所には壁沿いに無数並んだターミナルと他の階層へと繋がっているはずの複数のエレベーター。そしてその横に非常時用の階段がある。大体ゲームで見たフェンリルのロビーと同じ構造だが、人数が多いロシアなせいかな。全体的に設備の個数が多いし天井も広い。ビルの中みたいだ。

 

『ではご主人様。私はあそこのカウンターで手続きを済ませた後に神機保管庫の制圧に向かいますので。ご主人様は地下三階の電気室を目指してください。』

 

『OK。んじゃお互い上手くやろうね。』

 

「フ……フレイ・アイアンハート様!?」

 

 ディーヴァが一歩踏み出しただけで支部内がザワついたから、視線がディーヴァに集中してる隙に僕は非常階段へと走る。ほんとなにしたらあんなに存在確認されただけでザワつくんだよあの子は。

 

 ていうか超今更なんだけど、ディーヴァってなんで僕に自分の故郷を差し出したんだろうね。戦略的な目的があるのは間違いないだろうけど絶対それだけじゃないよね?わざわざ自分の故郷を滅ぼすように仕向けるなんて、間違いなく何らかの遺恨を抱いての事だよね?

 

 そしてそれはきっと僕に自分が有名人だと隠していた事と無関係じゃない。多分僕に知られたくない内容なんだと思う。だから僕も詳しく聞くのはやめておいた。下手なこと聞いてディーヴァの決心が揺らいじゃいけないから。

 

 

 でも……果たしてこれからディーヴァは自分の顔見知りを前にして正常に任務をこなせるのか。ちゃんと自分を知ってて、自分が知ってる相手を皆殺しにできるのか。一応モチベあげるためのご褒美はさっき用意したけど、それでも少し心配にはなるよね。あれをご褒美と呼んでいいのかはさておき。

 

 

 別に仕事を放棄するなんて思ってはいないよ。ただ殺しはせずに無力化しただけ……とかさ。そのくらいの手抜きならするんじゃないかなって。

 

 完全に無防備なところに侵入したわけだし、そのくらいの芸当は不可能じゃないはずだから。知った顔を前にしたらその程度の加減はしちゃうんじゃないかなって。僕は思ってるわけですよ。

 

『ご主人様。その扉を開けて前から二番目の左側の扉を奥に。その先を右に行ってください。突き当たりが目的地です。』

 

『ん。ディーヴァ、そっちの進捗はどう?』

 

『今出撃のための登録をジゼルちゃん……あ、オペレーターにやってもらってます!!これから神機保管庫行きますよ!!』

 

 

 じゃあそっちの仕事もこれからってことか。ディーヴァの案内通りに僕は足を進めるが、あっちは早速知った顔にエンカウントしたみたいだね。なんだ仲良さそうな子残ってるじゃん。良かったねディーヴァ。今から死ぬんだし最後に思い出話に花でも咲かせておいたら?

 

……と、言ってあげたいところだけど僕らの仕事は急ぎだからね。彼らが話していいのは遺言や恨み言だけだよ。後でせいぜい天国に辿りつけるよう祈ってやりな。

 

 

 ちなみに僕の方は電気室っぽい場所に辿りつきました。めっちゃくちゃ色んなボタンがある部屋。どこのボタンを押せば施設への電力供給を止められるやら。そう悩んでると再び頭の中に感応現象が発生した。

 

『まず通信室って書いてある部屋のボタンを押してください。……そうそう、真ん中辺りにあるその八個のボタン全部です。』

 

『おけおけ。なるほどブレーカーみたいなもんか。他は?』

 

『あとは管制室と四階、エレベーターですね。残りはそのままにしておいてください。全部消すと異常に気付かれますから。』

 

 

 そうだね。んじゃ照明とかはそのまま、っと。言われるままにボタンを押して電力の供給を止めていくが、ここからじゃ本当に機能不全に陥ったかどうかが分からない。どうも破壊工作っていうと核動力炉とかにあれこれ細工して爆散とか派手なイメージがあるけど、現実だとこんなもんか。

 

 しかし管制室とエレベーターは分かるけど四階……なんかあるのかな。そう思ったけどなるほどね?もしここがゲーム中で見た極東支部と同じ構造をしてるなら四階は医療設備や研究室が並ぶラボラトリ。現在負傷中の神機使いはここで治療されてる可能性が高い上、今回の攻撃目標の一つである新型神機の研究施設も恐らくこの階層。次に叩くのはここか。

 

『はい。ですが新型神機の研究所は私がやりたいので、ご主人様は五階に向かってくれますか?』

 

『五階?……五階って支部長室かなにか?』

 

『そうです。ご主人様はここの支部長を始末してきてください。私はこっちを片付けたら四階に向かいますので────』

 

 そう言いたいことだけ言ってディーヴァの感応現象が切れる。向こうも忙しそうだね。言われたまま非常階段を登って五階に登るが、すごく私怨を感じさせる物言いがあったね。まぁ僕は優しいし?ディーヴァの意思を尊重してあげるけどさ。

 

 一応今ここ地下だから階段登るのは疲れるね……浮いていいかな。いや、誰かと鉢合わせてもいけないしやめておこう。ついでにエレベーターがちゃんと止まってるのは確認できた。この分だと他の施設も機能停止したみたいだね。よかったよかった。

 

 

 そう工作の成功を安心していると、再びディーヴァから感応現象が発生する。どうやら向こうも終わったみたいだね。大変よろしい────

 

 

『ご主人様!!大変です!!』

 

『なに?もしかしてしくじった??』

 

『いえ!!整備士はみんな寝かせたんですが……神機がないんです!!あの例の部隊の神機が!!』

 

 と思っていたらトラブルらしい。えらく息の上がった声で感応現象が飛んできた。例の部隊……第一部隊のことか?それはちと妙だね。サクヤさんの神機だけじゃなくて、他のメンバーのも無いってこと?あんな壊れた神機で再出撃するとは思えないし、どこか別の場所で修理してるわけでもないんだろう?

 

 かと言ってあの部隊が神機を持って逃げたとも考えにくい。リンドウさんやソーマの性格上今から滅ぶかもしれない支部を捨ておいて逃げ出すとは思えないし、そもそもこのアラガミが蔓延る戦場のど真ん中を壊れた神機なんてお荷物を手にして逃げ切れるとも思えない。そんなもの見つけたらサリーが生かしておかないはずだし。

 

 

 いや……一応逃走経路自体は考えられるか。あの極東の連中がこのロシアにやってきた交通手段が残ってれば、別に外に出ることなく安全に離脱できてもおかしくはない。

 

『ディーヴァ。この支部の屋上にヘリポートとかある?』

 

『ありますよ!……って、まさか!!』

 

『サリー?悪いけど今すぐ真ん中のデカい建物の屋上を確認して。で、その視覚情報を僕に共有して。』

 

 慌ててサリーに感応現象を用いて屋上を確認させる。突然の感応現象にサリーは困惑してたみたいだけど、直ぐにその景色が僕の脳内へと溢れかえる形で送られてきた。

 

 ディーヴァの言う通りにフェンリルの屋上はヘリポートとなっていたが、奇妙なことにヘリは一台たりとも無かった。……どうやら最悪の予想が的中したようだ。同時、ふと頭の中を過ぎった予感に従って僕は階段を駆け上がる。

 

 そして五階に到達するや否や、最奥のやや立派な扉を蝕刃で破壊する形で中へ侵入。支部長室の中を見渡してみた。

 

 

 

 結果を言えば、支部長らしい人間は既にそこにはいなかった。まさかとは思ったが……時代外れもいいとこな高級な家具の並ぶ室内を捜索する傍ら、再びディーヴァから感応現象が飛んでくる。

 

『ご主人様!新型神機の研究施設も既にもぬけの殻です!!あのヤブ医者も適合候補者もどこにもいません!!』

 

『だろうね。どうやらしてやられたようだ。』

 

『………まさかそっちも支部長いないんですか!?あのジジイ……!!』

 

 見切りをつけるのが早いって言うか。判断が早い。思わず笑ってしまうほどに判断が早い。全く本当に、悪い奴っているもんだね。ディーヴァがロシア支部を嫌ってた理由が分かった気がするわ。

 

 ここの支部長……ロシア支部とそこに所属する人間を見捨てて逃げたな。しかもただ逃げただけじゃない。極東支部の連中と新型神機に関係した研究内容、そして今回の僕らとの交戦データ及び新型のアラガミの数々に関する情報。それらを保持したまま極東支部に亡命しやがった。

 

 いやいや薄情も薄情、さすがに残された人間にも同情するよ。でも最良かつ僕らにとっては最悪な判断だ。おかげで僕らは新型神機の開発を妨害するのに失敗しただけでなく、僕が他のアラガミを統制してフェンリルを襲撃するって情報まで持って帰られた。今回の目的の半分は阻止されたわけだ。

 

 戦いに勝って勝負に負けたというか……いや、薄情で冷酷だけど実に合理的な決断を下せるもんだね。ここの人間全てを生贄に次の戦いに備えてくるなんて。実際選択肢としてはほぼ最善だし大正解だもの。まぁ……この判断を下したのがここの支部長かどうかはさておき、ね。

 

『……どういうことですか?』

 

『この指示を出したのがロシア支部の支部長なら、なんで極東の連中も大人しく撤退してる?彼らは民間人を見殺しにできるような性格じゃないのに。』

 

『いや……ロシアの人間ならどうでも良かったんじゃないですか?』

 

 それならわざわざお通夜状態なのによその防衛戦に乱入なんてして来ないよ。復讐に燃えるソーマはともかく僕の右手を吹っ飛ばしてくれたサクヤさんまでいたのがいい証拠だ。実に反吐の出る話だけど、彼らは人が危機に晒される状況を見過ごせない。そんなヒーロー気取りのお人好しだからね。

 

 そんな第一部隊が見ず知らずのロシア支部の支部長に説得され、はいそうですかと戦闘中に撤退するか?僕なら無理だし、そもそも面倒だから見捨てて自分だけ逃げるね。多分ここの支部長ってそういう人間なんだろ?

 

 

………ここからはあくまで推測なんだけどさ。多分だけど、このロシア支部には来ていたんだよ。極東の第一部隊と一緒にあそこの支部長が。

 

 名前はヨハネス・フォン・シックザール。あのソーマの父親だ。あいつが第一部隊を諭し、ロシアの遺産を抱えて撤退することをここの支部長に提案したのだろう。さすがに自分とこの上司の命令には極東の連中も逆らえず、撤退を受け入れざるを得なかった。

 

 で、自分の命惜しさにロシアの支部長もそれを承諾。ロシア支部を放棄して極東支部へと撤退したわけだ。憶測まみれの推察だが、そう考えると色々と腑に落ちるのも確かなんだよね。

 

 

 しかし極東の連中……てっきり僕を追ってロシアまで来たものかと思ってたが、まさか支部長自らが僕を追跡していたとはね。何が目的でこんな場所まで追いかけてきたのやら。人気者は辛いね。

 

 何にしろあいつのおかげで僕らは何の成果も得られませんでした!!ってなったわけだが悪いことばかりじゃない。あいつらが撤退してくれたタイミング的に僕らが人間に擬態できるってことはバレてないし、さっさと引っ込んでくれたおかげでこれから行う『蛮行』を目にすることなく帰ってくれたのは不幸中の幸いだ。それにこうしてフェンリル支部も掌握できたわけだしね。

 

『ディーヴァ。ひとまずこの事をエントランスで右往左往してる連中に伝えてあげな。『私達は見捨てられました!!もう助かりません!!』ってね。』

 

『………ご主人様?』

 

『サリーももう撤退していいよ。ずっと外でありがとうね。もう少しでこっちも終わるから。』

 

 そう二人に感応現象を飛ばし、僕は階段を下ってエントランスの方へと駆け足で向かう。なんせここの連中は見捨てられはしたが、僕らにはまだ大事な仕事が残ってるんだ。()()()()()()()()()()()()って大事な大事なお仕事がね。破壊工作なんてそれを恙無く進めるための下準備に過ぎない。ここからが一番のお楽しみの時間だ。

 

 そうしてエントランスに辿り着くと、既にディーヴァが今の状況を正直に話したのだろう。誰も彼もが顔色を真っ青にしてて今にも死にそうな顔をしていた。

 

 心中お察しするよ。可哀想にね。そんな彼らにディーヴァは少しやるせなさそうな顔をしていたが、僕がやってくるのを見るとこちらに駆け寄ってきた。

 

「あっ……ご主人様。」

 

「やぁやぁディーヴァ。この人達にはどこまで説明してあげた?」

 

「え?いや……言われた通り、この襲撃の中で私達は見捨てられたと。そう説明はしましたが………」

 

 元々存在感のあるディーヴァの隣にやってきたことで、必然的に絶望のどん底に叩き落とされたロシア支部民の視線が一斉に僕へと向けられる。何やら楽しげな僕の姿はこのお通夜会場みたいなエントランスにおいても自分でも分かるほどに浮いているが、その様子を何故かディーヴァまでもが怪訝そうに見つめている。

 

………いや何君まで「何だ何だ?」って顔してんだよ。僕が聞いてるのはそこじゃないよ。

 

 

「そうじゃなくってさ。僕と君が今回の襲撃の首謀者なのを説明したのかって。そう聞いてるんだよ。」

 

「「「「「!?!!?!!?」」」」」

 

「ちょっ……ご主人様!??」

 

 

 僕がそう言ってディーヴァの胴体に抱きつくと、エントランスの人間達が一気に愕然とした様子でざわつき始めた。当たり前だよね。だってあのアラガミを襲わせた首謀者ってことは、僕らがアラガミですって自白してるようなもんなんだから。外ヤバい〜って絶望してたらもう中にも入ってたんだから。一番ヤバいアラガミが。

 

「フレイ・アイアンハート様!?どういう事ですか!?やはり、あなたは私達のことを憎んで………!!」

 

「ち、ちがうの!!確かに復讐したい人はいたけど、みんなには死んで欲しくなくて……だから犠牲が最小限で済むように、このご主人様を────」

 

「最小限!?外を見ろ!!これのどこが最小限だ半神のイカレ女が!!おいお前ら神機持ってこい!!戦闘だ!!こいつらブチ殺すぞ!!」

 

 おかげで悲鳴と怒号が飛び交う中、待機してた神機使いは神機保管庫のある出撃ゲートへと我先にと走り出して民間人は無謀にもアラガミが蔓延る外へと逃げ出そうと試みる。しかし僕が指を鳴らしてディーヴァの能力を用いると、その二箇所の出口は両方とも結晶の壁で覆われる形で塞がれる。

 

 しかしそうかなるほどねー……ディーヴァ。君が僕にロシア支部を差し出したのが、まさかロシア支部を無血で手に入れるためだったとはね。

 

 確かに最初の方であればあるほど中の攻略は簡単だし、そうすれば神機使いはさておきその他の被害は最小限に支部を制圧できると。後になって対策が練られれば練られるほど皆殺しもやむなしになるから、だからこそ最初に僕にここを襲わせたんだね。

 

「……ごめんなさい!!本当にごめんなさいご主人様!!」

 

「いいよいいよ大丈夫。おかげで実際楽に制圧できたしね。」

 

「お願いだから殺さないでください!!ここの人達は無害ですから!!サリーにもご主人様にも危害は加えられませんから!!」

 

 どうだか。現に神機保管庫を制圧して入口を塞がなかったら、少なくとも待機組の神機使いは神機を持ってきて僕らに斬りかかっていた。それに君がアラガミだって分かった今、仮に生き残らせてもここの人達は君を迫害するよ。

 

 そんなにここの人間を守りたいならディーヴァには僕から離れて敵対するって選択肢もあげたはずだよ?それなのに君はそれを断って僕の側につくことを選んだ。それは他ならぬ君が、人間側に行っても受け入れられないって事を悟ってたからだろう。

 

 それを今になって殺さないでとか……いくら何でも虫が良すぎるし、足掻くには遅過ぎるんじゃないかな。僕やサリーが散々殺して喰い散らかすのに加担しておきながら、自分は手を汚してないだけで人間側の味方ですとか。きっとここの人達はそうは思ってくれないよ?

 

「それは……そうですけど………」

 

「とはいえ君の言う通り、抵抗もできない人間を無意味に殺す必要もないかなって。それは一理あるよね。」

 

「!!!……ほんとですか!?じゃあ────」

 

りいや殺すけどね。確かに殺す意味はないけど、生かしておく理由はもっとないから。むしろ新たな神機使いになる可能性を鑑みたら皆殺しの一択しかないだろう。誰だってそうする。僕もそうする。

 

 上げて落とすようで悪いけどやっぱり死んでもらうよ。そのためのサリエルやザイゴートの毒ガス生成能力だ。こっちはわざわざ室内の人間を手っ取り早く殺す手段まで考えておいたんだから。僕は右掌に口を開き、そこから殺人ガスを室内に充満させる形でパニック状態の人々を絶滅させにかかろうとする。

 

 でもそうすると、ディーヴァは僕の右手をぎゅっと握って毒ガスを撒かせるのを止めた。今度はなんすか。

 

「ご主人様……奴隷として運用するのはいかがですか?」

 

「急になんてことを言い出すの君は。中世じゃないんだから。」

 

「ここの設備……ご主人様も使い方が分からないでしょう?ですが、彼らを生かしておけばその施設は殆どフルに活用できます。ご主人様の役にも立つはずです……」

 

………なるほど。それは……確かにアリだな。こうしてフェンリル支部内は設備含めてほぼ無傷で手に入ったんだし、せっかく無事に残った設備を使う上で人手はいくらあっても困ることは無い。ちゃんと管理下において使えるって前提であれば、無意味に殺すよりも生かしておく価値は十分にある。

 

 ていうかねディーヴァ。実はと言うと、僕も途中からそう思ってたんだよね。既存の神機使いは殺しておきたいけど、ここの支部長に見捨てられた人々は味方につけたら上手いこと使えないかなって。本当に皆殺しにするつもりだったらもうとっくにそうしているし。

 

「えっ……!?本当ですか………??」

 

「君にとっての顔見知りもいるんだろ。なんか途中からこうなるんじゃないかなって思ってたからさ。殺すのは結構前から見送ってたんだよ。」

 

「………よかった。じゃあ、殺さないでくれるんですね……??」

 

 うん。()()()()見送ってあげる。せっかくディーヴァが頑張って残した命なんだ。有効活用しなきゃ勿体ないだろう。

 

 

 だから僕は。もう一度指を鳴らし、この場にあるアラガミを呼び寄せた。

 

 

 それはここに来る前に生み出してサリーに預けた、僕の手で改造を施されたコクーンメイデンだ。そいつが僕の召喚に合わせて床をぶち抜き、人々のど真ん中からニョキっと生えてくる。

 

………ところで突然で申し訳ないんだけどさ。僕の細胞ってさ?僕が姿や能力を模倣できる程度に捕喰した生物に適合し、その姿を僕の配下のアラガミに変える。そんな性質があったよね?

 

 その威力はゾルダートやフリューゲル、その他の大型アラガミの配下を生み出してる辺りから説明不要だと思うんだけどさ。

 

 ただひとつ言っておきたいのはさ。今回の戦いにおいて、めでたい事に僕はようやく人間の姿を模倣できるようになったんだよ。これは僕が人間を喰いまくって体内に十分な情報を蓄積したからなんだけど………分かる?僕が言いたいこと。

 

「………待って。まさか────」

 

「本当によかったよ。尻尾まいて逃げたシックザールが()()()を見る前に退いてくれて。」

 

「ご主人様!!!やめて!!!!!」

 

 ディーヴァの悲鳴も虚しく。僕の呼び出したコクーンメイデンが胴体を縦に開くと、その袋状の腹部がぶくぶくと醜く真っ赤に膨れ上がる。そして腹の中に貯めたガスが臨界点に達すると同時、大爆発を巻き起こして辺りに赤い細胞を毒ガスのように撒き散らした。

 

【パンドール】。こいつはコクーンメイデンから射撃能力と毒針を奪い、代わりに腹部にザイゴートの卵殻を内蔵。頭部の吸入口から蓄積したオラクル細胞を身の丈以上に増幅させ、自爆することで広範囲を僕の細胞で汚染する。言わば生きた地雷みたいなアラガミだ。

 

 まぁこいつの説明は今はどうでもいいと思うから端折るけど。それよりも、今見るべきは僕の細胞を吸い込んだ人間達だ。

 

 パンドールの撒き散らしたガスを吸った人々は胸を押さえて苦しんではいるものの、その様子がおかしいことには直ぐに気付くだろう。毒で苦しんでるって感じじゃないことが分かるんじゃないかな。

 

 とはいえ僕も現場を見るのは初めてだから。ひとまず一番近くで苦しんでる少年の元へと僕は近付いてみる。

 

「ぐうぅ……!!ゔうぅ…………!!!」

 

「苦しいと思うけどがんばれ?これで君たちも僕の仲間なんだ。」

 

「ゔうぅ……ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!!」

 

 すると目の前の少年の漏らす唸り声が明らかに人間のものでは無い咆哮に変わる。同時、その身体はブチブチと嫌な音を立てて内側から衣服を引き裂く形で大きく肥大化して変形する。

 

 骨格は人の原型を留めない四足獣のものへと変わり果て、表皮が黒い体毛に覆われる。頭髪は長いマントを思わせる器官へと変質し、全身が赤い雷光を纏うと少年だった『それ』は身近な人の形を留めた人間へと襲いかかる。

 

 少年だけじゃない。同様にガスを吸った人間全員が、苦しんだ後に咆哮を上げて目の前で一斉に姿を変えた。その形は実に様々なものの共通して人間離れした化け物のそれで、影響の少ない人間達はその光景に腰を抜かす。ついでで言うと僕の横でそれを見てたディーヴァも膝から崩れ落ちた。

 

「やだ……やめて……みんなやめて………!!」

 

「なんだよこれ……おい神機はまだか!?早く持ってこい!!」

 

「保管庫に入れねえんだよ!!誰か助けてくれ!!助け────」

 

 目の前で助けを乞う神機使いが、僕の細胞によってヴァジュラと化した少年に無惨に喰い殺される。うーん……見た感じ神機使いには効きが悪いな?アラガミと人間のハイブリッドみたいな半端な存在だからか。まぁ神機保管庫が潰された今、ここの連中は無抵抗で喰われるしかないんだけどね。

 

 何度も言うようだけど極東の連中がこの性質を知る前に消えてくれて本当によかったよ。今や僕の細胞が伝染するのはアラガミだけではないのだと。例えそれが人間であっても、僕の細胞を取り込んだり僕の配下のアラガミに手傷を負わされれば僕の下僕(アラガミ)へと『転生』する。

 

 これが僕が人の姿と共に得た人類殲滅のための第一にして原初の【厄災】。無尽蔵に汚染と伝播を繰り返し、人々を神機使いの天敵たるアラガミに変える呪いだ。

 

 おかげでこれからは支部への侵攻がだいぶ楽になるよ。居住区にパンドールを放って自爆させれば民間人がまとめてアラガミ化して牙をむいてくれるんだから。目の前でアラガミ化とかしたら下手すると戦えなくなるんじゃない?人間同士の戦争だったら間違いなく条約で禁止される類の兵器だよね。

 

「!!……まって。まさかここに来る途中に増えてたアラガミって────」

 

「おっと。君のような勘のいい女は大好きだよ。その通り。」

 

「………………………ッ!!なんてことを……」

 

 泣き崩れるディーヴァの傍らで、たった今アラガミに転生した人々に感応現象で『外の神機使いの生き残りを殺せ』と命令を与えて向かわせる。そういえばディーヴァ言ってたもんね。戦力の補充とかしてないのに僕の配下のアラガミが増えてるって。民間人も全然いないって。

 

 いやー……サリーにもパンドールあげたら困ってたもん。これ使っていいの?って。いいんだよ。人間には何しても。死んだ人類だけが善良な人類だってね。聖書かなんかにも書いてあったから。

 

 それにアラガミ化したとはいえ、僕の細胞を持つアラガミになるんだから。頑張って人間を捕喰すれば人間性は取り戻せるし、そうなれば本当に人間の上位互換みたいな存在になれるよ。

 

 そう本能に刻んできたから、()()()()()()()()()()()()彼らは死に物狂いで人間や神機使いを優先して捕喰しようとする。ただのアラガミじゃない。彼らは正しく人類殲滅の尖兵と化したわけだ。

 

 そうして人間を捕喰した時。彼らは僕やディーヴァと同じ存在となる。人の姿と知性を保ったアラガミという究極の生物に。

 

 他者を口にするだけでその容姿や記憶という名の技能や才能までをも奪い、自分のものとして扱える。おまけに他者感でも言葉を介することなく感応現象で意思疎通を行い、互いの能力を共有し、アラガミという性質上この時代でも食べるものにも困らない。それどころか歳を取ることも病にかかることも無い。

 

 誰しもがなりたい自分になれるし、飢えることもないから争う必要も無い。その利便性はディーヴァも知っての通りだ。ここの連中はそういう存在に昇華するんだよ。

 

 そうなればいくら元人間とはいえ彼らは僕らの同胞だ。旧き人類を滅ぼしたあとの新たな世界の支配者に仲間入りするんだ。人類を滅亡させようとしていた僕が随分お優しい事だとは思わないかい?

 

 天敵である人類を滅ぼすどころか、生物として進化させ迎え入れてやるなんて。呪いなんて言ったが、これじゃまるで『祝福』じゃないか。

 

 

 だからねディーヴァ。そんなに泣かないで。分かるよ?ここに僕を招いたのはディーヴァだし、彼らを生き残らせようとしたのもディーヴァだ。そのせいで元人間の彼らは化け物になって人を食い、更なる上位存在に進化しようとしている。

 

 そしてそう仕向けたのは僕だし、実行したのも僕だから。君が罪悪感を感じる必要は無いし、責任を感じるならそれは全て僕がやったことだから。僕のせいでって押し付けて楽になっていいんだよ。そもそも僕は悪いことしたなんて思ってないもの。

 

「……全部、ご主人様のせい………」

 

「そうそう。だから君は悪くない。そんな後悔しなくても大丈夫だからね。」

 

 座り込んでうわ言みたいな返事を返すディーヴァを正面から抱きしめ、背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。それでも辛かったら僕のことを恨んだり憎んだりしていいし、それで足りなかったら殺してもいいから。それでディーヴァの気が楽になるなら。君に辛い思いさせちゃったのだけは本当に悪いと思ってる。

 

 でもそう言い聞かせると、ディーヴァは泣きながらその大きな身体で僕を抱きしめ返してきた。

 

「………なんで、私にはこんな優しいのに……私だって人間なんですよ………??」

 

「元、ね。彼らにもディーヴァみたいになれば優しくできるよ。」

 

「そんなに人間が嫌いですか……?ご主人様だって、元は人間でしょうに………」

 

 そうだね。でも僕はディーヴァと違って親も友人も恋人も存在しない。……いや、もしかしたらいたのかもしれないけど。もう覚えてないから。

 

 覚えてる人間は僕にこんな訳わからん細胞を植え付け化け物に変えた頭のおかしい女と僕らに武器と敵意を向ける神機使い。それだけだ。それだけが僕にとっての人間の全てだ。

 

 人間が嫌いかだって?大っ嫌いに決まってるじゃないか。君やサリーに牙をむく神機使いも、そうなりうる一般人も。もう『本能』と言っていいほどに、潜在的に知覚してしまってるんだよ。人間は滅ぶべき対象だって。それは神機使いがアラガミに抱くそれと全く変わらない。

 

「知ってますよそんな事……でも、ご主人様は前はこんなに惨くはなかった………」

 

「………そうかもね。やっぱ分かる?」

 

「分かりますよ。どれだけご主人様のこと見てたと思ってるんですか……」

 

 そう言ってディーヴァが僕の頭を撫でてくるものだから、思わず呆れてため息を吐いてしまった。……なんで分かるかな。ただ、僕がこうなったのも間違いなく僕の自業自得だしディーヴァが気に病む必要は無いよ。もし君が泣いてる原因が僕の変化ならの話だけどね。

 

 さてと。ディーヴァのメンタルケアはまた後でやり直すとして……サリーからの感応現象だ。僕個人への接続みたいだね。なになに?

 

『外の神機使い……みんな死んだよ。なんか中からたくさんアラガミが出てきたんだけど………』

 

『よしよし死んだか。頑張ってくれてありがとうねサリー。その子達は仲間だから手を出しちゃダメだよ。』

 

『………これで終わり?もう戦わなくていいの?』

 

 そうだよ終わりだよ。これでロシア支部は記念すべき人類の墓標第一号になったわけだ。初めての戦争は僕らの勝ち。完全勝利ってわけには行かなかったのが少し心残りではあるものの、人類絶滅には大きく前進した。サリーもディーヴァも本当にありがとうね。

 

『ううん……あなたもお疲れ様。怪我とかしてない……??』

 

『僕はぴんぴんしてるよ。ただ後でディーヴァの面倒を見てあげて。ちょっとご傷心だから。』

 

『え"ー………』

 

 

 感応現象越しでも分かるくらいに超嫌そうな声が返ってきた。まだ溝は深いか。ほんと彼女には悪いことしちゃったからな。僕がディーヴァに嫌われたと知ったらサリーは喜びそうだけども……

 

………それでもひとまずは素直に喜ぶことにした。今日こうして、僕らはフェンリルの支部一つを落としたこと。そして人類を滅ぼす最初の災厄を手にしたことを。

 

 

 はー……やっと終わったって考えるとめちゃくちゃ疲れたな。長かった……長い戦いだったな。いや、僕が疲れたのは絶対別の要因だと思うけども。未だに僕に泣きつくディーヴァを撫でてやりながら、僕はしばらくは休憩しようと心に決めた。

 

 戦争後の事後処理や、新たな同胞の事もあるしね。




仮にもこれが主人公のやることかよ。

クリーチャーが美少年に擬態するのは

  • 私は一向に構わんッッ
  • 粛清ッ!!遺言は簡潔にな!
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