神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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お待たせした。


16.忌子(ロスト)

「ひぐっ……!!ぐすっ……!!うぅ………」

 

「やぁサリー。お疲れ様。いや本当にご苦労さまだったね。」

 

【!!……おかえりなさい。横のは………なに??】

 

 

 ロシア支部中央施設の制圧後。僕は未だに泣きじゃくるディーヴァの手を引き、中央施設の外へと戻った。

 

 それを見るなりサリーが上空から僕の方へと舞い降りてくるのだが、その有様には流石のサリーも困惑していた。仮にも勝ったのにボロ泣きしてるんだから当然だよね。そうじゃなくてもこんなに泣いてるディーヴァとか超珍しいし。

 

「ご主人様のバカ……嫌い……!!大っ嫌い………!!」

 

【は???】

 

「サリー、ステイ。ステイだよ?それ僕も消し飛ぶからね?」

 

 

 でもディーヴァの言葉を聞くなりサリーは反射的に額の邪眼に手を翳した。ウロヴォロスの能力の破壊光線の予備動作だね。ノーモーションで来なかったのは温情か。ダメだよ。彼女は今回のMVPなんだから。

 

 ディーヴァがいなかったらロシア支部は落とせなかったし、そもそも極東支部辺りに無謀な特攻をかけて全滅してたかもしれない。僕が人間性を獲得する事もなかった。

 

 だから僕は彼女に感謝してるし、何言われても気にしないよ。それに今回の事に関してはマジで僕が悪いから。

 

【えっ、ディーヴァ……どうしたの?中で何があったの?】

 

「………ご主人様に酷いことされました。あそこの人達はご主人様に何もしてなかったのに……………」

 

「殺すよりはマシかなって。……僕の口から説明するか。」

 

 そう言って僕は隣に今回のもう一体のMVP、地雷型コクーンメイデンことパンドールを一体召喚する。サリーも使役したから分かると思うけどさ。こいつを中央施設の中に呼んで、中にいた人間を全員アラガミに変えたの。

 

 そしたらディーヴァがこうなっちゃってさ。全面的に僕が悪いし弁明の余地もないから言い訳は省くけど。この状態からどうにか元気にしてあげられないかなって。

 

【待って。中の人間って、ディーヴァの知り合いじゃ………】

 

「あそこの人達……ご主人様の事を心配してたんですよ。こんな大惨事の中よくあんな小さい子が生きてたなって………」

 

【それを……アラガミに変えたの?じゃあ、今ここにいるアラガミって全員────】

 

 そうだね。人の気配の消えた元居住区を踏み鳴らすアラガミの数々。あれらは恐らくその殆どが僕の細胞で変じた人間だろう。僕が最初に調達して連れてきたのも残ってはいるだろうが、その殆どは神機使いに討たれたはずだから。

 

 そしてそのアラガミの数を見てディーヴァはさらに激しく泣き叫んだ。その様には流石のサリーも顔を背け、やや物申したげに僕の事を見つめてくる。まるで『ここまでする必要があるのか』って。

 

【……これは、流石にディーヴァが可哀想………】

 

「僕もそう思うよ。でもね、仕方なかったんだ。」

 

「仕方ないってなんですか……!!この人達は、私達に抵抗する力もないんですよ!!それをご主人様は!!!」

 

 だって落ち着いて考えてみてよ。確かにあれは人間が生きてるってだけで許し難いのもあった。けど仮にもしあの連中を残した場合。その上でこの支部を拠点として、彼らを君の望み通りに生かしたとしよう。そうしたら彼らは間違いなく他のフェンリル支部に連絡し、救援を求めるよ。

 

 それで奪還したばかりのロシアに救出目当ての増援が来るのは疲弊しきった僕らにとっても最悪だし、それに加えて【僕の細胞は人間もアラガミに変える】【僕は人間に擬態できる】という僕のトップシークレットまで流されてみなよ。次の侵攻からは破壊工作とパンドールという二つの切り札に対処され、他の支部の制圧は困難を極める事になる。数で劣る僕らがフェンリルと戦う上で、彼らにとって未知の能力というのはそれだけで決め手となるのだから。

 

 ディーヴァは僕が個人的な感情で彼らにあんな蛮行を行ったのだと思っているようだけど。僕からすれば民間人でも人間が生き残ってるのは危険だったんだ。彼らは戦えなくともあの地獄を体験している。そういう体験談はフェンリルにとっての貴重な情報源になる。

 

 情報は力なんだよ。だから僕らもフェンリル支部を落とし、フェンリルの情報を集めようってなったのが今回の侵攻計画の始まりだ。それはディーヴァも分かってるはずだよ。

 

「………ッ!!それは……確かにそうですけど………!!」

 

「それともあんな姿で生かすくらいなら殺した方がよかった?……なら今すぐ処分するけど。」

 

「!!!……やだ!!ご主人様やめて!!お願い!!!」

 

 僕がそう言って手を振り上げると、そんな聞いた事もないような悲鳴と共にディーヴァが僕の手を握ってくる。……そうだよ。彼らはまだ生きてるんだから。それも変じたと言っても、僕らと同じ身体になっただけ。サリーやディーヴァがその身体で生きることを呪わないよう、あの姿で生きることを不幸と決めつけるのは良くないよ。

 

………まぁ、正直僕は彼らのことをさっさと殺してしまいたいんだけどね。

 

「ご主人様やだ!!なんでそんなにあの人達のこと殺したいんですか!??」

 

「………さっきからうるさいんだよ。」

 

「えっ………」

 

 ………頭の中に響くんだよ。感応現象で『許さない』『殺してやる』って怨嗟の洪水みたいな思考が。『痛い痛い』『憎い憎い』って僕が喰い殺す瞬間の人間みたいな感情も渦巻き、吐き気を覚えるほどの人の負の感情が()()()()()()()()()()()()()発されている。ここに来てからずっと。中央施設を出て僕が外に出た時からだ。

 

「な……なんの事ですか?私には何も聞こえませんが………」

 

【私も聞こえない……大丈夫?顔色悪いけど………】

 

「……聞こえるのは僕だけか。良かった。君達は聞いちゃダメだよ。今の僕に感応現象を使うのも禁止。いいね?」

 

 僕は人を口にする際に毎回聞いてるから平気だけど、ただでさえ感応現象は相手の感情を自分のものと錯覚しがちなんだ。こんな呪詛じみた憎悪を受け取ったら気が狂い正気を失いかねない。慣れてる僕ですら少し気持ち悪いもの。

 

 でもそうか。これは……あのアラガミ達は思考を感応現象で垂れ流しているわけじゃない。これは彼らの思考。口にした者の今際の思念を自分の感情のように錯覚し、同時にこんな事をさせた僕を憎んでいるんだ。

 

 そしてそれがどういうわけか、感応現象を使われてる訳でもないのに僕は理解してしまっている。まるで彼らの心が読めるかのように。どうにも神機使いを口にしまくったせいで、僕の持つ感応現象の能力がさらに進化したらしい。

 

 おかげで発してもいない頭の中の思考まで把握できてしまう。サリーやディーヴァの思考は分からない辺り、対象は僕が人間性を完全に獲得してから生み出したアラガミ。つまりここの支部の人間が変じた奴だけと見た。

 

 ………いや、そんな事は今はどうでもいい。それよりなんで、あのアラガミ達から声がする?なんでアラガミが思考してるんだ?僕の細胞でアラガミ化すると共に、彼らからは人間性と共に理性や思考は剥がれ落ちたはずなのに。

 

 現に彼らはさっきまで僕の指示に従って人間を虐殺して喰い尽くしていた。それは間違いない。

 

 

────人間を、喰い尽くした?

 

 

「まさか………」

 

【大丈夫?……ッ、何が起きてるの!?】

 

「そうか。……いや、これは誤算だったな。」

 

 

 僕がそう呟くと同時。目の前の異色のヴァジュラが苦しみだし、それに呼応するかのように殆どのアラガミが咆哮を上げた。

 

 そして耳を塞ぎたくなるほどの数多の絶叫はやがて獣の声から人の声へ。慟哭みたいに響くそれを皮切りに、さらに変化は続く。

 

 まず目の前でヴァジュラの背が縦に裂けた。その様子に警戒したサリーが臨戦態勢に入ったものの、僕は左手でこれを制する。何しろあの現象には僕にも身に覚えがある。

 

 

 だとしても………いくら何でも早すぎるだろ。僕がそうなるのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ。

 

 

 ………僕がこの姿になるのに、どれだけ掛かったと。

 

 

「………ッ、ア"………あ"ぁっ!?」

 

【!??!?】

 

「サリー、落ち着いて。大丈夫。」

 

 

 やがて裂けたヴァジュラの背から獣声混じりの声がして、中からガバッと顔を上げる形で『人間』が現れた。その様にサリーが更に警戒心を強める。

 

 無理もない。それほどまでにヴァジュラの背から現れた青年は人間と遜色ない姿をしており、記憶がそうさせたのか衣服に至るまでもが再現されていた。

 

 そして見渡して気付く。先程声を上げたアラガミの全てが、今のヴァジュラと全く同じ変体を遂げていたと。

 

 強いて言えば異なるのは中から出てきた人の姿。それだけは容姿から服装。性別に至るまで千差万別で、いずれもがアラガミの身体から自身の身を引き剥がすと信じられないものでも見るかのように自分の手や身体を確認している。

 

 ………誰が予想できるかこんなの。アラガミ化してまだ一時間と経ってないんだぞ?僕が一体何年かけて……どれだけ人間を口にして、()()()()()()()()()と思ってるんだ。彼らが喰ったのなんてせいぜい数人だろうに。

 

 

「ど……どうなってるんだ?俺達………」

 

「あの赤い霧で化け物にされたのに……それで、人を喰って………ッ!!」

 

「なんで……なんで戻ったの!?それになに……なんか痛くて苦しい……私、こんな思いしてないのに………!!」

 

 当人達にとってもそれは現実離れした体験だったのだろう。明らかに困惑するもの、人を喰い殺した記憶と感触に絶望するもの。そして自身の中にある捕喰対象の残留思念に苦しむもの。その反応は三者三様で、しかし誰一人として人間の姿に戻れた事を喜ぶ者はいなかった。

 

 ……一応彼らがこうも早く戻った理由自体は考えられる。僕が彼らを汚染した際、既に僕の細胞には人間に関する情報が刻まれていた。そのせいでアラガミ化した時点でも体内に一定量の人間の情報が残ってて、僅かな人間を捕食するだけで人間を模倣するに足る情報量を彼らが満たしたか。

 

 或いは単純にアラガミ化してすぐに人間を口にしたから元に戻れたか。どうもアラガミ化しても意識が残ってた辺り、人間性が剥がれ落ちるのにはそれなりの時間がかかるらしいし。人間の細胞とオラクル細胞じゃ構造から異なるし、完全に変質させるのには要する時間が多かったのか。どのみち確証はないからそこら辺は今後どこかで検証してみないと分からないんだけどさ。

 

 それにそもそも生物の進化なんて、後から生まれるものの方が優れて出来上がるんだ。こうも簡単に元に戻れるのはずるいとも思うが、この場ではぐっと飲み込む事にするよ。

 

 

【ど……どうするの?これ、殺した方がいいの??】

 

「まさか。彼らはもう僕らの同胞だよ。殺すなんてとんでもない。」

 

【でも……あの人達があなたの事を恨んでたって。そんなの生かしておいて大丈夫なの……?】

 

 

 そりゃ大丈夫じゃないだろう。彼らは人の姿を取り戻した。しかしそれはつまり、少人数とはいえ誰かを喰い殺したって事なんだ。

 

 アラガミになって長い僕ならまだしも、アラガミとなって直ぐ。意識が残っているにも関わらず僕の命令に突き動かされ、望みもしない食人を強制された。そして口にしたって証拠なんだよ。あの人間の姿ってのは。

 

 今の僕は感応現象で常に彼らの意識を把握できるから分かる。誰一人として人間の姿に戻ったことを喜んでる奴はいないよ。

 

 ある人は口の中に残った人間の食感に嘔吐し、ある人は妻子を口にした罪悪感から自殺に使えそうな道具を辺りを見渡し探している。中にはもう全てを忘れたいと。せっかく得た人間性を捨てたいと獣の姿に戻ることを望む者すらいる始末。

 

 そうでなくとも辺りを見渡してみろ。その土は赤く変じ、アラガミが踏み鳴らした無数の足跡には血の水溜まりが出来ている。崩れた家屋の数々には火が上がって黒煙を上げており、そうした残骸や血溜まりの中には食べ残しと思われる人の部位が未だ散乱して蝿が集っている。

 

 崩れた壁の内側には既に守るべき街は存在せず、今や彼らの住処は硝煙と血の異臭だけが漂う地獄と化した。その実行犯に、望みもしないのに彼らは堕とされたんだ。他ならぬ僕の手によって。

 

 家族も、友人も、故郷も。そして人としての尊厳すら彼らは奪われた。僕というアラガミによって。そんな中で実行犯の僕の姿なんて確認してみろ。どうなるかなんて幼子でも分かる。

 

「!!………おい!!みんな!!あいつ!!!」

 

 ある青年が指を差すと同時。彼らの視線は一斉に僕の方へと向く。その様に僕は小さく笑みを浮かべて手をひらひらと振る。

 

 しかしそうして友好的に振舞ってるにも関わらず返ってきたのは地鳴りみたいな怒声。そして殺意という名の熱狂。血で湿った土を踏みしめながら彼らは僕という元凶を捉えると、各々に言葉にならない叫びと共に拳を振り上げる。

 

 その怒り狂う人の波という光景にサリーは怯え、さっきから茫然自失としてたディーヴァでさえ縋るように僕を見つめてくる。

 

 ……大丈夫だよ。いくらアラガミ化したとはいえ、元はただの民間人なんだ。理性と人の姿を取り戻した今、いくら身体能力が上がったところで神機使いみたいに僕らの脅威にはならない。ましてや数多の戦場を潜り抜け、戦闘経験と能力を蓄積した僕には届かない。

 

「このクソガキィ!!ぶっ殺してやるあぁぁ!!!」

 

「よォくも私達の家族をォォォ!!!」

 

『はいはい。言いたい事は分かるけどちょっと落ち着こうか。』

 

 そう言って僕は左手を人の波に向けて振り上げ、同時にディーヴァの持つ能力を発動。地面から無数の結晶の槍を生やし、居住区の残骸ごと巻き込む形で彼らを串刺しにして突き上げる。その規模は赤い針の山とでも言えるほどで、無数の結晶の刃に巻き込まれる形で千切れた彼らの手足が流血と共に雨みたいに降り注ぐ。

 

 同時に貫かれた人々は実感する。手足が千切れてるのに痛みが殆どない事。そして腹部を貫かれてるにも関わらず生きていること。既に自分の身体が人間ではないと悟り、同時に僕という存在が有する力も身をもって思い知る。賢明な者はこの時点で理解していた。『あの人の形をした化け物に歯向かうのは無謀』なのだと。

 

 ………でも。

 

「────ご主人様ッ!!!」

 

「っと。大丈夫だよディーヴァ。コアは外してある。」

 

「………嘘でしょう!?皆殺しの間違いですよね!??」

 

 咆哮みたいな声と共にディーヴァが掴みかかってきたから、これを受け止めて落ち着ける。相手の数が多いから大規模攻撃みたいになってるが、実際は相手の足元から結晶の槍を生み出す能力だから。直進する無数の個人に狙いを定めて形成した結果こんな剣山みたいになっただけで、無力化を前提にした技だから大丈夫だよ。そうじゃなきゃ彼らはとっくに霧散してる。

 

 だからそんな思いっきり胸ぐら掴まなくても平気だよ。今回の一件で僕への信用が地に落ちたのは分かるけどさ。僕だって好き好んで君の嫌がることをするような外道じゃないよ。君の事はそれなり以上に大事に思ってるからね。

 

 

「………ッ、ならいいんです。ごめんなさい……痛いことして………」

 

「いいよ。()()彼らのこと大事だもんね。守りたかったんだものね。」

 

「はい。……過程がどうであれ、人の姿に戻れたのも良かったなって思ってます。ご主人様は嫌かもしれませんけど、どうか………」

 

 分かってるよ。僕からしても人間性を完全にものにしたアラガミってのは有用だ。多少厄介だからって殺すような性急な真似はしないよ。彼らは僕の同胞として招き入れるし、その力は残存人類の滅亡のために振るってもらう。

 

 ただ一先ずはそうだね……人間性を取り戻したついでだ。彼らには制圧したロシア支部の施設を動かす労働力にでもなってもらうとするか。

 

 

「ふざけた事ぬかしてんじゃねぇ!!アタシ達がお前に従うと思ってんのか!!」

 

「ぶっ殺してやるからとっとと降ろしやがれこの化け物が!!」

 

『まぁ話は最後まで聞いてよ。何もパシろうって訳じゃない。』

 

 

 僕はね。君達のような新たな同胞に、僕が手にしたこのロシア支部。その中の中央施設に住んでみてはどうだって提案しているんだ。神機使いとフェンリルの関係者だけが住めるあそこは設備は整っているし、ターミナルやテレビ等の娯楽もある。それはあの中に避難してた君達もよく知ってるね。

 

 こんなボロボロで汚い、雨風も禄に凌げないような小屋でアラガミの影に怯えて生きてた君達だ。憧れた事くらいはあるはずだよ。あの建物の中で生きたいと。安全な暮らしがしたいと。

 

 まぁ君達に至っては最早アラガミの影に怯える必要すらないわけだけどさ。それでも寝心地のいい布団はそれなりに魅力的なはずだよ。現に僕がこうして感応現象で伝えてやると少しだけ静かになったもの。

 

『ただそのためにはあそこの設備を運用する誰かが必要だ。それをみんなの中で決めて、暮らしてみてはどうかって。僕はただそう提案してるんだ。』

 

「………お前バカか?そのための技術を持つ連中もお前が絶滅させたんだろうが。」

 

『その点に関してはご心配なく。従業員を口にした子の中にはその記憶と技術が残ってるから。……何なら共有してあげるよ。』

 

 そう感応現象で伝えて僕は結晶に縫い止めた人々に接続し、個々の記憶を同時に把握。中から過去にあの中央施設で働いてた人物の記憶を発見し、それを感応現象を通して全員に共有する。こうしてやれば全員があの施設の器具の全てを動かせるし、後は分担でもシフトでも決めて運用していけば問題は無いはず。

 

 僕はサリーといいディーヴァといい同胞には優しいからね。君達にもその身体に慣れ、その能力で何が出来るかが分かるまではいい場所に住んで欲しいと思ってるんだ。幸い中の神機使いや関係者は全員死ぬかここの誰かになったから部屋は有り余ってる。死に急ぐのもいいけど少しは贅沢な暮らしをしてもいいんじゃないかな。

 

「ッ……なんだ今の。頭に直接……誰かの記憶か?これは………」

 

「どうなってんのよこの身体は……それに、今さらだけどなんで腹ぶち抜かれて死んでないのよ。」

 

「それに千切れた手足も治って……なんなんですか?私達、人間に戻れたんじゃ………」

 

 

 まさか。君達は君達が化け物と呼ぶ存在に成り果て、その上で人間の真似事ができるようになっただけ。だから歳を取ったり病に苦しむ事もないし、コアを破壊・摘出されない限りは死ぬこともない。ある種の不老不死に近い性質を有するわけだ。

 

 おまけにアラガミが有する数多の能力すら人の姿のまま振るえ、本来この時代なら悩みの種となる食事だって文字通りに何でも口にできる。生贄こそ伴うものの人間一人喰い殺すだけでなれると考えれば、その身体は余りに破格の力を持つんだよ。それこそ普通の人間が虫けらみたいに見えるほどに。

 

 君達は確かに誰かを喰い殺したが、そうして手に入れた身体は決して捨てたものではない。そして同質の肉体を持つ僕もまた、討ち滅ぼすのは容易な事じゃない。それは今こうして串刺しにされてなお生きてる彼らの方が分かってるはず。

 

 だからまずは今の自分の身体について正しく知ることを僕はお勧めするよ。僕を殺すにしろ自害するにしろ、無知なままではその土俵にすら立てない。幸い慌てなくても君達には幾らでも時間がある。そして快適な住処もだ。しばらくはゆっくり過ごし、新しい身体を満喫した方がどちらにしろいい結果が得られるはずだから。

 

 

 そしてアラガミとなった自分の身体を正しく理解した時。果たして彼らはまだ僕を呪うのか、それとも僕の祝福を受け入れ人を滅ぼすのか。その結果はこう言っては何だがもう見えている。だからこそ僕は彼らの自由を尊重し、大切にする事にしたんだ。

 

 ………それに、そっちの方がディーヴァも喜びそうだしね。

 

 

「ご主人様……それは………」

 

『さて。このように僕は同胞たる君達に相応の生活は望んでいる訳だけど。君達はどうしたいのかな。』

 

「ひとまずこれ解きやがれ化け物!!話はそれからだ!!」

 

 ……まぁ確かに言いたい事は言ったし。それに彼らの考えてる事はいちいち口に出してもらわなくても分かる。となれば話を聞いてもらった今、彼らをここに繋ぎ止めとく理由はない。それにいつまでも串刺しにしたままでは『もう敵意はない』って言っても説得力ないしね。

 

 けどその前に一つ。僕から彼らに一つ贈り物を授ける事にした。それは現在僕が有するアラガミの身体情報。つまり堕天種を除いたこの時代のアラガミ全種の能力だ。それを寄りにもよって僕に殺意を抱く彼ら全員に、感応現象を用いる形で情報(ちから)を与える。

 

「えっ……なにこれ!?これ……あの化け物達の────」

 

『君達への誕生日プレゼントだよ。つまらない物で悪いけどね。』

 

「さっきから何なのよこの頭を侵す感覚……気持ち悪くなってきたわ────ッ!?」

 

 その上で僕は手を鳴らして発動していた結晶能力を解除。自由の身として解放する。彼らは咄嗟に体勢を取る事も出来ずに血で変じた泥へと無様に叩きつけられるが、それ以上に突如として脳裏に溢れかえる情報の洪水に彼らは困惑していた。

 

 当然と言えば当然か。情報をこうして与えられるというのも驚くだろうが、それ以上に自分を殺そうとする相手に武器を渡すなんて正気の沙汰ではない。現に特に僕に強い憎しみを抱いていた連中は狂気じみた笑みを浮かべて早速能力を試しているし。荒んだ心に武器は危険って本当だね。

 

「ハハッ……マジかよ。この能力、全部俺達が使えるのか……?これなら……これなら………!!」

 

「『これなら僕を殺せる』。……まぁそう考えるよね。」

 

「これならてめぇをぶっ殺せるぜ!!死ね化け物共が!!!」

 

 

 そう叫び、殊更僕に強い憎しみを抱く青年は早くも腕に能力を発動。その形状を巨大な有機的な砲身へと作り替えると、僕らに向けて巨大な水弾を放ってきた。

 

 ……グボロの能力とはまたシブい能力を選んだね。しかも初めての変異なのに随分と再現度が高い。将来有望なようで何よりだよ。

 

 

 けど当然、そんなただのアラガミの能力では僕を殺すには程遠い。僕は右手に形成した蝕刃にコンゴウとプリティヴィ・マータの能力を()()()発動。そのまま振り抜く事で放たれた水弾を凍てつかせ、ほぼ同時に衝撃を伴う暴風で粉砕する形で無効化する。

 

 

「はっ………!?」

 

「驚いた……知識を与えたばかりだと言うのに、もうアラガミの能力を使えるんだね。」

 

「待て待てなんだ今の……!!何をしやがった!?」

 

 

 さらに僕は薄っぺらい賞賛と共に右手の蝕刃を瞬時に消してオウガテイルとザイゴート、コクーンメイデンの能力を並行して発動する。そうして背中に天使のような翼を形成すると、羽ばたきと共に複数の羽根……に見せかけた棘を射出してみせる。

 

 そうして放たれた無数の棘は僕に歯向かおうと息巻いてた過激派の人々の全身を無情に穿ち、着弾と同時に炸裂。全方位に爆ぜるようにして針が伸び、身体を内側からバラバラに吹き飛ばす形で無力化する。

 

 その凄惨極まりない粛清方法に隣のディーヴァからヒュッという呼吸音が聞こえたが、これだけの事をしてもコアが無事なら死ぬことはない。それに見た目ほど痛みもないはず。アラガミの痛覚ってのは人のそれよりずっと鈍いんだから。心配しなくても大丈夫だよ。

 

【いや……あんな身体をバラバラにしたらコアも壊れてると思う。やっぱりこいつら殺した方がいいよね……分かる。】

 

「サリー、気持ちは分かるけど物騒な事を言わないの。姿形こそ違えど彼らは君達と同じなんだから。」

 

【あなたを傷つけようとする奴は許せない……幾ら弱くても生きてていい理由にはならない。こんな奴らと私を一緒にしないで。】

 

 サリーはそう身体が霧散し生首だけになった人々を見下ろして口元を歪めるが、残念な事に彼らが死ぬことは無い。首だけになってなお僕のことを忌々しげに見つめ、いつまでも禄に聞き取れないような騒音同然の罵詈雑言を僕へと投げつけてくる。

 

 だから僕は一番近くに転がってる、さっきから最も血の気の多い子の首を髪を掴む形で持ち上げる。そうするとやっと彼が僕に何を言っているのかを聞き取れた。

 

「ふざけんなよお前!!なんだその能力は!?俺達はそんな能力渡されてねぇぞ!!」

 

「そんな事ないよ。君達も今の能力は持っている。使い方を思い付かないだけでね。」

 

「あぁ!?」

 

 なんせさっき僕が使ったのは小型アラガミの能力だ。オウガテイルの棘の内側にコクーンメイデンの腹部……あの針の密集した器官だね。あれを縮小した状態で内蔵させ、仕上げにザイゴートの毒を付与。同じくザイゴートの翼に羽として仕込み、着弾後に棘の内側から全方位に針が飛び出す撒菱(まきびし)状の弾丸に仕上げただけだ。殺傷力は見ての通りだが消耗は少ないし、だからこそ人の姿でも行使できる。

 

 こんな風に僕らみたいなアラガミは、知性の元に既存の能力を洗練・或いは合成する事で幾らでも攻撃手段を拡張できる。口にしたものを再現するしか能の無かった既存のアラガミとは違ってね。僕らは想像力がそのまま力に変わるんだ。

 

 例としてサリーはレーザーに様々な性質を付与して強烈な弾幕として用いるし、ディーヴァは氷晶の硬度を利用した防御壁や斬撃・質量攻撃を主な武器とする。もし僕を本気で殺したいと願うなら、まずはそのための『武器』を考えるんだ。君達にさっき与えた数々の能力は、云わばそのための『材料』なのだから。

 

「僕は君達が作る傑作に期待しているよ。……頑張って僕を殺してみせる事だ。このロシアを僕から取り戻したいのならね。」

 

「どこまでも舐めた真似しやがって……!!絶対殺してやるから首洗って待ってろよ………!!」

 

「首だけでよく言うよ。……もし僕に用がある場合は頭の中で呼んでね。いつでも相手してあげるからさ。」

 

 そう小さく笑みを浮かべ、僕は憎々しげにこちらを睨む生首を他と同じように泥の上へと投げ捨てる。そうして踵を返すと僕は真っ直ぐにロシア支部へと足を進めた。

 

 それを見てサリーとディーヴァも慌てて後を追ってくるが、その最中にディーヴァが僕の肩を掴んで引き止めてきた。あんな事になったせいで既に僕への敵愾心とかは消えてるみたいで、それは心配そうに僕のことを見下ろしてくる。

 

「あの……ご主人様。なんで彼らにあんな事を………」

 

「ん?あんな事って?」

 

「あの人達はご主人様の事を憎んでるんですよ?それなのに武器になる能力を与えて、焚き付けるような真似をして………」

 

 そんな事をすれば僕が自分の身を危険に晒す事になるのに。そう言いたいんだろう。現にサリーも物申したげに僕を見つめている。心配してくれるのは嬉しいけど、ああしたのにはちゃんと幾つか理由がある。

 

 彼らは確かに僕を殺そうとし、そのための能力を考え始めるだろう。けどそれで仮に僕を殺せるような能力……或いはアラガミができた場合、それは同時に残存人類に対しても僕以上の脅威となる。

 

 人類滅亡を望む僕にとって戦力は幾らあっても足りないし、その新戦力を彼らは自発的に生み出してくれるんだ。それも僕を殺すって目的があるからそれは精力的にね。

 

 そして同時、あそこの人々は恐らくその大半は元一般人だ。僕への殺意は抱けても戦闘経験に関しては赤子も同然だろう。能力の扱いが覚束無いのもそうだが、経験値の差と言うのは侮れないものでね。

 

 僕がリンドウさんの第一部隊に毎回負けてるのを見れば分かると思うけど、彼らを実戦で運用するに当たってはある程度は戦いに慣れておいてもらう必要がある。それも人の形をしたものとの戦いにね。

 

 彼らにはいずれ人類滅亡のためのこの戦いに参列してもらうんだ。戦士として戦えるようになってもらえないと困るんだよ。そのために僕は彼らの憎しみを煽り、僕を殺すようにと仕向けた。

 

 本当なら懐柔したり圧政で服従させるのも良かったんだけどね。どの道軋轢は生まれそうだから、それならいっそ軋轢を利用する形で彼らを戦士に育てる事にしたんだよ。それが彼らを焚き付けた理由の一つ。

 

「そんな……!!じゃあ、あの人達を神機使いにぶつけて殺す気なんですか!?せっかく人の姿に戻れたのに………!!」

 

「死なせないために鍛えるんだよ。……あの程度じゃここの神機使い相手でも余裕で攻略されるからね。」

 

「!!……で、でも。第一あの人達がご主人様の言う事を聞くとは思えません。彼らは人間だったんです。他の人間を襲う理由なんて────」

 

 大丈夫だよ。彼らはいずれ自分から人間を滅ぼすようになる。それは僕という存在がいい見本だ。彼らは分かっちゃいないが、神機使いは……フェンリルは彼らという存在を許しはしない。遅かれ早かれその存在が公となれば、彼らは嫌でも神機使いに狩られる身に落ちる。それは間違いない。

 

 それでも僕に従い人を滅ぼすなら神機使いに殺された方がマシって人は少なからずいるだろう。だからもう少し彼らが戦力として使えるようになったら、僕は彼らに戦うための『理由』を与えるつもりだよ。そのためにはまだ少し僕自身の能力を検証する必要があるけど……恐らく問題は無いはずだ。

 

 極論してしまうと、別に彼ら自身が戦いに出てくれる必要はあまり無いんだ。現地で戦力を調達する手間が省けるのと普通のアラガミよりは高度な作戦の実行が出来るってだけで、正直忠実な分今は野良のアラガミを汚染して使った方が早いまである。

 

 だからディーヴァが嫌がるようなら彼らを戦地に送り出すのはやめるよ。絶対に彼らの方から行きたがるようになるとは思うけどね。

 

「あ……ありがとうございます。ご主人様………」

 

「いいんだよ。君にはこれから辛い思いをたくさん()()()()()()からね。」

 

「……………えっ……?」

 

 だってそうだろう。彼らを扇動してどうにか僕の方へと憎しみの矛先は向けさせたけどさ。そもそもこうなった原因、彼らから見たら僕をここに連れてきたディーヴァも同罪なんだから。

 

 ディーヴァには絶対に言えないけど『あの女がこいつを連れてきたせいで』って心の中で憎んでる人は相当数いた。だから尚のこと、まずはどうにか彼らの怒りや憎悪を僕に向けさせディーヴァの事を忘れさせる必要があった。きっとディーヴァは僕と違って責められると罪悪感で抵抗できなくなるから。これが僕が彼らを焚き付けた二つ目の理由だ。

 

 現に僕の言ってる言葉の意味を理解し、自分も彼らから恨まれ責められてもおかしくないと気付いた瞬間にディーヴァの顔はみるみると青ざめていく。いや、本当にディーヴァにはなんて謝ったらいいのやら。彼らが人間性を取り戻した際の唯一にして最大のデメリット。それは君が間違いなく地獄を見る事なんだからね。ディーヴァはさっき彼らが人間の姿に戻れて良かったって言ってたけど。

 

「あっ……!!あ"ぁっ……………!!」

 

「………大丈夫、君は悪くない。諸悪の根源が僕というのは間違いないからさ。」

 

「違う……!!私のせいで……私のせいであの人達は………!!」

 

 膝から崩れ落ちたディーヴァはその場で涙を流して苦しみ、縋るように僕の身体を抱きしめてくる。……まだ別に何かされた訳でもないのにこれだもんな。さてどう彼女を保護したものか。

 

 あの支部の中で彼らの目につかない場所に匿うか。万一にも彼らの前に差し出すような真似をすれば殺されかねないし、そうでなくても下手に責められれば精神的に追い詰められて自殺とかに踏み切ってもおかしくない。

 

 そうならないようにディーヴァはしばらく僕の傍に置いておくとして……彼らが僕に従属するまでの間はどうするか。僕が汚れ役して収まるならそれでいいんだけどね。

 

 念のため、彼女の話題が上がった際には『僕に騙されてわざわざ案内してくれたバカな女』と触れて回るか。そう思わせれば当たりは強いだろうけど、少なくとも虐げられる事はなくなるだろうし。

 

 ………いや。それは希望的観測が過ぎるか。顔も知らない凶悪犯と顔を知った裏切り者じゃ、どうしても恨みは後者に向きやすい。その上で彼女を彼らにとって味方と刷り込むには、ディーヴァ自身が行動を起こさなくてはいけない。

 

 或いはディーヴァがここの人々の事を忘れ、完全に僕に身を委ねてくれれば支配する側として君臨することも出来るのだが………口にするだけ無理な相談なのは百も承知だね。どのみちディーヴァには、近いうちに残酷な選択を強いることになるだろう。

 

【ディーヴァ、大丈夫………??】

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!私が憎かったのはここの人達じゃなかったのに………!!」

 

「………一先ず中央施設の中に行こうか。僕らの今後の事はそれから考えよう。」

 

 安心させるようにディーヴァにそう微笑みかけ、どうにか立ち上がらせる。……僕らは確かに勝利し、新たな拠点を得て、これからフェンリルの情報を手に入れる。さらに予期せぬボーナスとして未来の有望な戦力まで手に入ったわけだが……どうしてこうも厄介事と言うのは絶え間なく積もるのか。

 

 

人から神に堕ちた人類の贋作。後に僕が『堕し児』と名付ける第二の厄災は、長い長い遺恨と呪いの始まりだった。それは人類にとっても僕らにとっても、そして彼ら自身にとっても。

 

そうとも知らずに僕はディーヴァを引き連れ、サリーと共に新たな拠点へと足を進めた。未だに鳴り止まない堕し児達の罵声を背後に、戦争というものの忌々しさを噛み締めながら。……勝っても負けても地獄とはよく言ったものだな。本当に忌々しい。




ディーヴァがなに悪いことしたって言うんですか。
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