神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。 作:Am.
旧ロシア支部の支部長室。ロシアという国を人類史から消し去った翌日、僕は良質な椅子に腰掛けたまま頭を抱えていた。
別に何か悩みがあるわけではない。堕し児ってイレギュラーは生まれたものの彼らは相応にこの支部での暮らしを満喫しているし、ディーヴァに至っても現状は彼らと接触させることなく匿えている。
強いて言うと堕し児達のせいで本来僕らがここを落とした目的。即ちフェンリル及び神機使い……人間側の情報を未だに収集できてないのは少々忌々しいけど。
でもまぁ彼らについては望まれぬ命とはいえ僕の撒いた種だし、内側に余計な爆弾を抱えたまま事を急いても爆死する未来しか見えないから。それに今や極東の連中が持ち帰った情報なんて氷山の一角に過ぎないんだ。仮にフェンリルが僕らへの対処法を確立して備えたところで、これからの侵攻に生じる障害なんてたかが知れている。
それなら抱えている問題を先に解決しつつ、戦力を整えて侵攻に備えるのが賢いやり方というもの。まずは堕し児達とどうにか手を取り、人間への侵攻に駆り立てる。
その上でフェンリル側の情報を収集し、人類殲滅における最適な侵攻方法と侵攻順を確立させる。あとここにわざわざ僕を追いかけてきた極東の行動も調べてね。
これらは頑張れば並行して出来るとして問題はディーヴァだ。あの子もどうにかしないといけない。今はここ支部長室にて匿ってはいるけど、これから侵攻に於いて堕し児とは共闘するんだから。どうにか折り合いをつけないといけないし、その上で彼女が精神的に苦しまないよう……同郷の堕し児達に受け入れられるように根回ししなきゃいけない。
加えてディーヴァ自身も今は自分のした事の罪悪感と堕し児達に恨まれてるって恐怖に思い詰めて酷い事になってるから。後であっちのメンタルケアもどうにかしないといけないね。ようは自分のした事を何とも思わなく出来ればいいんだけど……或いは堕し児達に恨まれないって根拠を与えてやるか。どちらにしろ困難を極めるのはまず間違いないだろう。
………うん。改めて考えるとやる事が多い。仮にも一国を落として凱旋したばっかなのにこの仕事の量だ。頭痛の種はこれじゃないのにまた頭が痛くなってきた。挙句の果てに今はディーヴァが使えないから一人でこの仕事の山をどうにかしなきゃ行けないとか。
全く……戦後処理だけでこれだけ忙しいんだもんな。戦争ってのは命だけでなくて時間までも際限なく奪って行くんだね。本っ当に忌々しい。おかげでサリーと仲良く触れ合う時間すらまともに取れないし。そりゃ頭のひとつも痛くなるわけだ。
………と、現状に対しての恨み言みたいになってしまったけど。話を戻すと、僕の頭痛はこうしたオーバーワークが原因ではない。
事の始まりはあの後僕が旧ロシア支部の中央施設に戻り、この支部長室にディーヴァを匿ってから。その後に生首から再生を終えた堕し児達が中央施設に来てからだ。
正確にはその前……そもそも堕し児達が思考を取り戻した瞬間からなんだけどさ。ほら、僕って今回の戦いで進化して感応現象が更に強化されたよね?そのせいで思考を持つ眷属のアラガミ……このロシア侵攻で生まれた堕し児の思考を把握できるようになったって。
この能力に関しては堕し児はもちろん、まだサリーやディーヴァにも教えてないんだけどさ。一見反乱を目論み続けてる堕し児の思考を逐一把握できるこの能力、実はとんでもない弱点が露呈してしまってね。
………なんとこの感応能力。忌々しいことにオンオフが切り替えられないらしい。おまけに思考を把握できる範囲もこの五階建ての中央施設内全域、どころかその外のロシア支部内全てみたいでさ。下手すると僕の眷属で思考を有しているなら、どこにいても把握できるまで有り得る。
そのせいで僕は今、僕が望む望まないに関わらず彼らの思考をリアルタイムで受信し続けてるんだよ。『あの化け物が憎い』『殺したい』『周りの女もろとも死ねばいいのに』『無能の神機使い共が』『よくも私に番を喰わせたな』『寿司食べたい』『あの化け物を殺すための力を』……他etcetc。四六時中、僕が何をしていてもそうやって怨嗟に塗れた思考が流れてくるんだ。
ただでさえ感応現象ってものは他者の感情を自分のものと錯覚しやすい。実際今の堕し児達が僕への殺意に塗れてるのも、口にした相手や神機使いが抱くアラガミへの敵意を自分のものと錯覚したのが一因だろう。
アラガミが憎い。アラガミは殺す。痛い。痛い。苦しい。憎い。憎い。憎い。そうやって口にした神機使いが今際の時に抱いていた感情が感応現象を通して自分の感情になるんだ。
自分の味わった責め苦にそうした怨嗟が混ざり合い、僕に対する様々な負の感情が膨れ上がる。そうして出来上がったのが今の堕し児達だ。中央施設の恵まれた生活を与えたとはいえ、その本質はそう簡単には揺らがない。
そんな彼らの怨恨と殺意と憎悪で塗り固められた叫びが数十人分、絶えず僕の頭の中に鳴り響いて反響してるんだ。感応現象という感覚に慣れた僕でも流石にキツいし、何より膨大な情報量が与えられては更新してを繰り返し続けている。
それに僕の頭の容量が耐えられなくなった結果、こうして頭痛として身体に危険信号が出始めたのだと思う。痛みに鈍感なアラガミの身体でこれなんだから実際は僕が思っている以上に不味いことになってるのだろう。
なのにオラクル細胞はその性質上情報の処理と学習を止めてくれないし、苦痛を伴いながらも与えられた情報をその内容に関係なく脳や身体に烙印のように刻んでいく。見たくもない情報の数々を身体の隅々まで、まるで毒や病のように。細胞の一つ一つが僕の意思に関係なく情報を記憶し、心と身体を腐らせていく。
もはやこの真っ黒な情報の濁流は僕を殺してあまりある凶器に等しかった。何しろアラガミは与えられた情報の取捨選択は出来ない。知性を得た堕し児でさえ、与えられた情報の中から選んだものを反映するのが精一杯なんだ。
だからこのままにしておいたら僕は発狂死しかねないし、そうでなくとも精神が別のものに変貌しかねない。行き過ぎた進化が齎す破滅とでも言うべきなのか。進化を意のままに制御できる存在と豪語してたのがこのザマだ。人間性を物にして行き着くところに至った僕は、情報の濁流に飲み込まれる形で溺死しかけていた。
………が、そこはやはり既存のアラガミを超越した存在。僕はこうした問題に対し、ある能力を作り出すことで対応した。
まず感応現象を介した堕し児からの自動での情報収集。これはつまり、累積する情報をいちいち思考を通して確認。閲覧してしまうから精神への負担が甚大になるわけで。極端な話、どこかにそうした情報を書き溜めて後で閲覧できるようにすれば情報の濁流で溺死することはなくなる。
そう思い立った僕は最初に自身の思考と記憶を切り離した。今まで累積した記憶を全て心のもっともっと深い見えない場所へとしまい、その上で任意に僕が欲する記憶だけを抽出できるように細胞の一部を変質させたのだ。
そしてその上で堕し児から送り込まれる情報の行先を思考ではなく記憶の保管庫へと変更。そうする事で僕は彼らの思考に耳を傾けることなく、その上で彼らから送られる情報を身体に保管することに成功した。
こうして出来上がった記憶の保管庫は、さながらページに制限の無い空白の辞典とでも言うべきものだった。堕し児の思考、記憶、感情が文字としてページを彩り、ページが無くなれば新たにページが足されて書き記されていく。そんな情報の累積が常に行われる記録システム。
こうして生み出した情報の保管庫……生体CPUとでも言うべき能力を、僕は【
おかげで僕の頭の中には久方ぶりにも感じられる静寂が訪れた。同時に僕は堕し児から与えられた情報の海から僕が要する最適な情報を検索し、取り出し、自身に反映する事までもが可能になった。
その対象は彼らの思考や感情、記憶。そしてその身体の構成情報に至るまでの全てだ。造書庫という能力の完成と同時、最早彼ら堕し児は僕にとってのイレギュラーでは無くなった。彼らはもう僕にとっての目であり指であり、耳であり、脳であり口でもある。端末という言葉すら生温い、全ての堕し児は僕の身体の一部となったのだ。
おかげで造書庫を手にした今、先ほど愚痴として零した堕し児に関する問題はいつでも容易に解決できる。人間風に言えば相当『非人道的なやり方』ではあるけどね。ディーヴァが知ったら間違いなく曇るし下手すると絶縁されるからやらないけども。
それにターミナルを介した調べ物もだ。なんせ造書庫はこんな使い方だって出来る。
『
そう造書庫に接続し、僕は検索をかける形で情報を引き出す。すると頭痛を伴うほどの膨大な情報が僕の頭の中に溢れ返り、目を通すまでもなく僕がかつて見たものとして頭に記憶される。
何しろ堕し児は結果としてロシア支部に住まう全ての人間を喰い尽くし、その全ての記憶を身体に刻んだんだ。つまりここの堕し児達全員の記憶に干渉できるということは、かつてこのロシアに住んでいた人間全ての記憶を掌握して僕のものに出来るということ。
………流石にもう少し検索を絞るべきだったなとは後悔したけど。おかげで過去にここに住む人々が目にしたターミナルの情報はこうして獲得できた。ついでに側近でのターミナルへの加筆と僕らに関して記した情報なども含め、まともに調べて目を通したら数日はかかる情報がものの一瞬で僕の記憶として保存される。
扱いを間違えると身を滅ぼしかねないが、半日を割いた甲斐があった。そう断言できるほどにこの造書庫は高性能であった。
しかもこの能力、本質としては記憶の保存のみに特化した僕の第二人格とでも言うべきものだから。理論上は堕し児は勿論サリーやディーヴァも感応現象を僕に用いることで造書庫に接続できる。
まぁ……見たら嫌でも記憶してしまうって性質上、今は下手に開示するわけには行かないけど。堕し児の怨念とかをサリーやディーヴァが閲覧したらどんな悪影響を及ぼすかも分からないし、堕し児に至ってはまだ感応現象すら自由に扱えないんだ。この造書庫を僕らの財産として有効活用するのはもう少し先となるだろうから。それまでに僕も造書庫をより効率的に運用できるよう手を加えておくとしよう。
………で。とりあえず今接続して見たターミナルの情報だけど。ここ最近……僕らがここを襲撃している最中にも、ロシア支部はフェンリル本部に対して僕らの情報を送っていたらしい。ここの支部長が元々この支部を捨てる前提だったから納得行く話ではあるけどさ。
主に記されてるのは変質したアラガミを統率する未確認の新種とサリエルとプリティヴィ・マータをベースに作られた統制能力を持つ新種二匹の目撃情報。そして記録時点でこちらに齎された被害の詳細と僕らが用いた能力。要は全世界に対する警鐘だ。
あの地獄のような乱戦の中でもロシアは随分と僕のことを正確に分析してたみたいで、アーカイブに目を通すと僕が他のアラガミに干渉し、独自に進化を促す能力を持つこと。そして人語を介し、会話を行えるほどに高い知能を有することも特徴として記してある。
これだけでも人類視点だと悪夢のような厄災だろう。しかしターミナルの閲覧記録を見るに、やはりフェンリルが僕について把握しているのはアラガミを変質させ軍として率いる能力と人語を解する知能を持つということだけ。堕し児の存在と、僕が変質させられるのがアラガミだけじゃないという事はまだバレていない。
同時、このロシア支部内から僕の本質を書き足すような真似をした堕し児もいないらしい。何しろそんな事をすればロシア支部の健在を全フェンリル支部に伝達することになり、救援という名目で神機使いって死神を招きかねない。そこはちゃんと理解しているようで安心した。そんな真似する子がいたら力尽くでも止めようと思ってたからね。
で、他に僕はフェンリル支部の大まかな人員と主な生産施設。そして生産資源の輸送ルートなど、僕が求めていた情報にも目を通しておいた。
何しろ今後の侵攻作戦とフェンリル支部の襲撃順を吟味する上で、こうした情報が必要となるから僕はフェンリル支部を破壊ではなく制圧したんだ。おかげで情報面に関しては既に十分すぎる成果が得られている。
まずフェンリルの各支部は極端な話、他の支部が壊滅したところで支部単体でも生存が出来るように地下に多数の工業施設を抱えている。食料に浄水、発電施設などの生産プラントと……そうしたシステムはこの旧ロシア支部すら堕し児達が運用する形で稼働している。
これだけで堕し児達の所謂『人間らしい暮らし』が再現できてる辺り、本来なら資源の輸送ルートなんてものは必要ない。にも関わらずフェンリルの支部間には何かしらの輸送ルートが敷かれ、それなり以上の頻度で物資が行き来している。この中身は一体何か。
答えは神機の製作に要するパーツ。及びその適合用の偏食因子だ。あとは嗜好品とか娯楽品。生活に必要な機能は各支部が最低限賄えるとはいえ、どうにも神機に関しては大きな支部のプラントで分割して生産し、各支部に輸送後に現地で組み立てられているらしい。
偏食因子の調整も然りだ。そういうのはある程度の技術者がいる支部でしか出来ないという事なのだろう。今の人類に神機は下手すると食料以上に必要なものだからね。
で、問題はなんだけど。この輸送ルート。ほぼ必ずといっていいほどここロシア支部を通過するんだよ。神機のパーツとか偏食因子と言った、各支部にとって必須レベルの軍需品が。
どうにもロシア支部は元々、新型神機の研究しかり全フェンリル支部の中でも神機に関した開発を一手に引き受けていたらしい。広大な土地に裏打ちされた大型の支部と多数の人員、そしてそれに反してそこまで強大なアラガミが跳梁跋扈してるわけでもない(比較的)平和な環境。
ここが神機の製造を一任されたのは当然と言えば当然なのだろう。僕らはそんなこと知らずにここを落としたわけなんだけど。僕らが落としたロシア支部は世界各地の他支部に向けて必需品である神機を輸出していたわけであって。
そこで僕はふと思ったんだよ。このロシアからの輸送品……正確には輸送車に
そうすれば世界中の各支部で一斉に大勢の堕し児が生まれ、人類に壊滅的な被害が齎される。それこそ僕の本質を暴いて対処するよりも先に支部の内側に大量のアラガミが発生するんだ。極東みたいな戦力過剰な支部はそうは行かなくてもグラスゴー支部みたいな神機使いの少ない弱小支部はこれだけで壊滅するし、大型の支部も甚大な被害を被るだろう。
加えて輸送時にはここを訪れた輸送車の操縦員を堕し児達に喰わせてその容姿を模倣。現地への運搬を行わせる。そうすれば検閲を潜ると同時に現場でパンドールを起爆後、発生した新たな堕し児達の管理と使役を運転手に擬態した面子に任せられる。
そうなれば世界中での無差別テロが一変、明確な統制を得た全世界への同時攻撃作戦に早変わりする。人間のアラガミ化への対抗策を練る間もないまま、
仮に生き残るとしてもそれは大きな支部だけ。もしそうなったら今回のロシア襲撃で発生した堕し児達と、この作戦で発生する堕し児達を率いて息を着く間も与えず叩き潰せばいい。
とはいえこの作戦、実行に移すには堕し児の協力が不可欠になる。むしろ堕し児とパンドールって存在があるから思い付いたわけだけど、その前提として堕し児を懐柔するだけでなく人類殲滅へと駆り立てるのは必須となる。それは彼らを戦わせるための理由を用意する必要があるってわけで。
同時にこの作戦はロシア支部が健在時のここを通る輸送ルートの使用を前提としている。つまりこれからどうにかしてこのロシア支部はまだ健在だという
けどそれはさっきも言ったようにフェンリルからの救援を招くこととなる。その際にやってくる神機使いや、フェンリルの人員に僕らが人に擬態したアラガミだとバレなければいいわけだが……そのための口裏合わせにも、現在の堕し児達の懐柔は必須事項となる。
加えてあの地獄のような戦乱から既に一日。極東とここの支部長が離脱した後とはいえ、あまり日数を置いてから生存報告を出してはその報告そのものが信憑性を失う。そうすれば『アラガミが人間の真似をして偽の報告をして来た』と僕らの進化を無駄に伝達するだけになりかねないし、当然攻撃の計画も破綻する。
以上を踏まえて。この作戦の実行を前提とした場合、僕が現在最も優先すべきは堕し児達の懐柔と協力者となる堕し児の徴集。この二つをなるべく早急にこなす事だ。本来なら彼らを扇動する事で僕への憎悪を煽り、殺意を利用する形で実戦形式で戦力として鍛える予定だった。しかし状況が変わった。
ロシアの健在を知らせてフェンリルの人間を招くのは、彼らとて死にたくはないだろうから。招きさえすれば彼らは口裏合わせには協力する。それは造書庫に接続して彼らの自殺願望などを調べたから断言できる。
何しろ彼らは新しい身体や環境に興味津々で、喪失による自暴自棄や自殺願望の死に急ぎ野郎はまだ存在しない。何だかんだ堕し児は中央施設での暮らしそのものは満喫してるらしいし。敵意マシマシの彼らをここに招き入れたのは正解だったわけだ。
が、肝心のフェンリル本部への報告をこなすための人員が僕には必要だ。具体的には外部への連絡手段を有する堕し児。元オペレーターなどの通信技術を持つ堕し児だ。
そうした協力者だけは他を差し置いてでも早急に飼い慣らさなければならない。彼らが未だに僕の顔を見たら問答無用で殺しにくるのは火を見るより明らかだが、それでもだ。
………そもそもそうした報告をこなせる通信技術持ちが今の堕し児達の中にいるかどうか。オペレーター辺りはそう言った事も出来るだろうが……堕し児になったか喰われたかしてれば記憶は誰かの中にあるはずだけど。口にした他人の記憶を参照して技能だけを引き出すなんて器用な真似が堕し児になりたてほやほやの彼らに出来るかというと……ねぇ?
最悪オペレーターの記憶と技能を僕に反映してもいいけど、出来ればオペレーター本人が堕し児として現存してくれてた方が連絡の文面などをより違和感なく考えられるはず。果たして生きてるかどうか……
『
そう造書庫に検索をかけると同時。殆どノータイムで僕の求める人員がリストアップされる。でかい支部だからかオペレーターも複数人いたらしい。幸いにもそのまま堕し児になったオペレーターは何人か現存してるし、引退組も含めればそこそこの数がヒットした。ならば………
『……さらに彼女達の現在から堕し児となった当時までの思考、記憶を共有してくれ。………ッ!!』
再度検索をかけ、脳内に新たな情報を獲得する。が、その大半は僕が予想していた通りの怨嗟に塗れた思考の数々。そうしたものが一気に流れてきたせいで僕は吐きそうになるも、口に手を当てて堪える。
………この中で一番現状に対して、僕に対して悪感情の少ない堕し児。それこそが僕が飼い慣らすべき協力者だ。ひとまずロシア支部の無事をフェンリル支部に伝達できればいい。その後の作戦は多少は実行まで猶予が生まれる。
しっかしこの名前……どこかで聞いたことあるような。そう思った僕は僕自身の過去の記憶を造書庫で検索して調べてみるが、なるほど理解した。ディーヴァの生前……というか人間時代の友人か。いや、実際はどういう関係だったかは僕の知るところではないけど。こりゃまたディーヴァにとっての爆弾になりそうな相手だな。
一応このオペレーターにコンタクトを取る前にディーヴァ本人に確認を取っておくか。僕が考案した次の攻撃計画然り、このオペレーターのこと然り。今後の大雑把な方針も決まったし、一度腰を据えて彼女と話すべきだろう。彼女のメンタルケアも含めてね。
さて……そうと決まれば彼女を匿ってある部屋に向かうか。幸い造書庫を生み出したことで、反乱分子である堕し児達をどうにか従属させる手筈も整った。彼女にもきっといい報告が出来るはずだ。
要は堕し児の情報管理ツール。肉体の構造・思考・記憶などのあらゆる堕し児の情報を保管し、検索をかけることでそれらの情報を任意に閲覧できる。口にした相手の記憶を継承する堕し児の性質上、現在の造書庫にはかつてロシアに住んでいたほぼ全ての人間が今まで見聞きした情報が保管されている。
これらの情報は感応現象を介して強制的に更新され続けており、造書庫という受け皿を用意しなかった場合には憶測通りに近いうちに精神が崩壊していた。それ程までに造書庫に保管された情報量は膨大で、現状でもフェンリル本部のターミナルが有する情報量のそれを上回るほどである。