神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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設定は捏造するもの。


18.決別(フレイ)

 

「ディーヴァ。起きてる?」

 

支部長室に隣接した扉へと足を進め、軽く扉を叩く。ここはかつての支部長の私室。堕し児達の怨念が渦巻くこの支部で、僕はここをディーヴァに与えることで彼女を堕し児から隠匿した。

 

扉は支部長室の中にしか存在せず、そもそも五階より上に堕し児が訪れる事はない。故にここは彼女にとって唯一の聖域であり、ディーヴァはこの部屋の中でしか生きれない。それ程までに彼女は心を閉ざし切っていた。

 

……その顕なのか、僕が扉を叩いたところで返事は無かった。一応コンゴウの聴覚で部屋の中のディーヴァの様子は分かる。彼女は扉を叩く音だけでびくりと身体を跳ね上がらせ、枕か何かで荒ぶる呼吸を必死に押し殺そうとしている。

 

返事が返ってこないのも納得って言うか……ここに来れるのは僕だけだって分かっているだろうに。何をそんなに怯えてるのか。造書庫(ライブラ)の管理下にない彼女の心情は僕には分からない。

 

 

しかし僕が彼女に急ぎの用があるのも事実。ディーヴァには悪いが、僕はもう一度扉を叩くと彼女の返事を待つことなく扉を開ける。そして無駄に高級な家具に彩られた私室へと足を踏み入れると、僕はベッドに横たわるディーヴァへと足を進める。

 

 

「あっ……!?ご、ご主人様………!!」

 

「悪いけど君に急ぎの用があってね。……用って言うか質問か。そんな怯えなくても大丈夫だよ。」

 

「あぅ……ゔぅっ………!!」

 

 

そう諭すように優しく声をかけるも、彼女はそんな声にならない悲鳴と共に首を激しく横に振るだけ。とても話が出来るような状態では無かった。

 

その普段の力強くて聡明な彼女からは想像も出来ないような姿は、恐らく僕が会う以前の彼女本来の姿なのだろう。取り繕う余裕すら無くなった彼女の瞳には今にも零れそうなほどに涙が溜まっており、しかもその視線は真っ直ぐに僕に向けられてる。

 

……僕の何がそんなに怖いんだか。こんなか細く儚い少年の姿すら恐れるなんて。今回彼女が心に負った傷は僕が思う以上に遥かに深いんだろうね。可哀想に。誰がこんな酷いことしたんだか。とはいえディーヴァが僕を恨む理由はあっても僕を恐れる理由はちょっと心当たりがないんだけど。僕なんかしたっけ?

 

 

「ディーヴァ……どうしたの?何がそんなに怖いの?」

 

「だって……だって、ご主人様………!!」

 

「怖がらなくても僕は何もしないよ。……ていうか、そう怖がられると僕も傷つくんだけどな。」

 

 

怯えるディーヴァの頭に手を伸ばすと彼女は目をぎゅっと瞑って頭を手で覆うようにして身をかがめる。……殴られるとでも思ったのか。僕がそんな酷いことするわけないのに。

 

現に僕はディーヴァの頭にそっと手を置き、安心させようと優しく撫でてみせる。それでもディーヴァにとってはそうされる事がよほど意外だったのか。しばらく撫でてやると、漸く目に涙を浮かべて恐る恐る顔を上げた。ほんとに何があったんだこの子。

 

「………ご主人様……?」

 

「ほら、大丈夫。僕は君を虐げたりはしないから。ね?どうか落ち着いて??」

 

「なんで……ご主人様、私のこと怒ってないんですか………?」

 

 

………いやいや。なんでそういう考えに至ったんだ?べつに僕は怒ってなんかいないし、むしろディーヴァの事ずっと心配してたんだけど。精神状態ヤバそうだしどうやってケアしようかなって。流石にここまでとは思ってなかったけどさ。

 

でもなんでディーヴァは僕が怒ってるって思ったんだ。……僕、ディーヴァになんかされたっけ?僕が彼女になんかした覚えしかないんだけど。冗談抜きに。

 

 

「だって……私、ご主人様にわがままばっか言って………ご主人様のこと困らせてばっかで………今だって………」

 

「あぁ………なんだそんな事か。」

 

「ご主人様は私の願いを聞き届けて、彼らを(おと)したのに……殺さないでくれたのに、あんな酷いこと言って………」

 

 

そこまで言いかけて、ディーヴァの目から大粒の涙がボロボロと零れ始める。驚くほどディーヴァに言われたことを覚えてない僕は密かに造書庫を起動して過去の僕の記憶を遡るが、確かに『大嫌い』とか言われてたか。

 

別にそんなこと気にしないのに……いや、気にしないのはそれはそれで問題か。わざわざディーヴァは気に病んでたのにそれではあんまりだものね。

 

………さて。なんて返したものか。こういう時の気の利いた返しは造書庫で調べても何も分からないからな。

 

 

とはいえ小賢しいことに、僕にも造書庫で手にした彼女の情報はある。彼女の秘密を暴くようで下品な気はしたが、造書庫を介してターミナルの情報を得るうちに意図せず知ってしまってね。そうなったら知ってるのに知らない振りをするほど不誠実な事も無いだろう。

 

ならばと。僕は彼女に嫌われるのも覚悟の上で、ポツリと漏らした。

 

 

「………神兵プロトタイプ。」

 

「ッッッ!??ご主人様……どこでそれを────」

 

「ターミナルに書かれていたよ。……わざわざロシア支部外秘でね。」

 

 

フレイ・アイアンハート。身長207cm。享年()()()。彼女は元々フェンリルの管轄下にある孤児院に飼われた一般人……そこらの人間と何ら変わらない普通の少女であった。身も心も人と同じ、どこにでも居る少女。親をアラガミに殺され天涯孤独となった、この時代なら珍しくも何ともない孤児だった。

 

強いて上げるなら普通でなかったのは彼女が保護されたその孤児院。もっと言えばこのロシア支部そのものだ。ロシア支部は元々神機の開発に最も注力していた支部の一つであるのは知っての通り、あのペイラー・榊やヨハネス・フォン・シックザールを有する極東を差し置いて人類全体に影響を与えるほどにフェンリルの神機開発に貢献できた理由。そこにはちゃんと理由がある。

 

神機ってのは早い話、アラガミを改造した生物兵器だ。触れるだけで捕喰してくる性質から人間が用いるには危険の大きな代物だし、ましてや安定して運用できるものを組み立てるまでには多くの失敗作が生まれる。そしてその失敗作を失敗作と見定めるには、これまた多くの人命が必要となる。

 

 

早い話、ディーヴァの所属する孤児院はそうした神機の研究における適合候補者の育成機関……言うなればロシア支部が有する被験者(モルモット)の牧場であった。特に生産体制の整った神機でなく、新たに開発される神機への適合実験のための生贄要員。そう言った表沙汰に募集しにくい人材を供給する、そのために作られた施設だったらしい。

 

 

………まぁロシア支部は実際にそれで強力で安定した神機を開発し、フェンリルの他支部に配ってたらしいし。多少の非人道的実験はフェンリル本部も目を瞑ったのだろう。実際行き場を失った戦災孤児が神機使いになるのはそう珍しいことでもない。その適合率が少々低いだけ。その程度の問題なんだ。

 

ましてや資源が枯渇したこのご時世、働けない子どもなんて生きてるだけで資源を食い潰す害虫に等しいし。死んでた方が都合がいいまであるんだ。口八丁で丸め込み、フェンリルで使い潰されるのは言い方は悪いが比較的賢い運用方法ではあるんだよ。だからこうした行為自体は容易く黙認される。

 

 

ただこの時期、既存の神機……後に旧型と呼ばれる神機の性能は突き詰めるところまで突き詰められていた訳だから。ロシアは新たな神機の開発に注力し、専用の開発チームまで設立していた。

 

それが僕にとってはむしろ馴染み深い『新型神機』。近接型と遠距離型の二つの神機の形態を入れ替え、各種の弱点を補うと共に運用の幅を大幅に(ひろ)げる人類がアラガミに抗うための新兵器だ。

 

それでもこの新型神機、性質的には二種類の神機を一人で使えるようにするわけだからね。当時の技術では開発は当然難航した。適合する人間はそもそもそう存在しないし、そのせいで安定性を高めるための技術を確立しようにも適合実験すら行えない。

 

おかげでロシアの連中はそれは様々な方法で新型神機を人間に適合できるものにしようと、色々な実験を行ったらしい。そのうちの一つが神兵計画。

 

 

 

記録によると適合率だけで言えばディーヴァはダントツで高かったらしいが、それでも成功率はせいぜい30%。一般の神機使いであれば絶対に適合試験なんて行われない確率だ。

 

それでも実行されたのはロシアのこうした神機開発の内情に加え、当時の研究スタッフの中に新型の完成を焦る研究員が強行したとの噂もあったらしいが……何にしろ実験は失敗。ディーヴァは新型神機に適合なんて出来るはずもなく、アラガミ化して処分される。

 

 

……………そのはずだった。

 

 

 

しかしこの実験で失敗した結果。アラガミ化を引き起こしてなお、ディーヴァは人間性を失う事が無かった。

 

新型専用の偏食因子の影響か、ディーヴァが元々持っていた特異体質か。その最低最悪の奇跡の影響で、彼女は人でも神でもない半端な混種へと変貌した。

 

当時は殺処分するかどうかは意見が分かれたものの、前例のない希少極まりない個体って事もあったからね。人材不足が常の世の中でもあったし、ロシアはアラガミと人間性を両立した彼女を特殊な神機使いとして運用した。

 

アラガミ化による破格の身体能力に通常の神機使いを大きく上回る再生力。そして既に神機の適合に失敗した上で正気を保っているという性質上、神機から侵蝕こそ受けるものの全ての神機の行使すら可能とする特異体質。

 

それらを併せ持つディーヴァは、実戦投入から僅か数週間でロシア支部における最高戦力となった。しかし当時の光景を堕し児の記憶を介して覗いた結果、混ざり物たる彼女の扱いは凄絶なものだった。

 

何しろ全ての神機を扱えるとはいえ、適合自体が出来るわけではないんだ。侵蝕されるそばから再生するだけで神機の運用には常に苦痛が伴うし、高すぎる戦闘能力を過大評価されて身の丈に合わない任務に駆り出されるのはまだ序の口。

 

その力と特異な身体を他の神機使いは恐れ、陰でその戦果は妬まれた。それも年端も行かない新米の少女がベテランの自分達より戦果を上げている。そうした現実を認めたがらない上官は少なからず存在したし、陰湿な嫌がらせも後を絶たなかった。

 

そんな扱いを受ければやがて心の拠り所を求めるのは必然。幸いディーヴァは器量は良かったから、神機使いの男にはモテた。……とは言ってもまぁ、前述する嫉妬とかあるからね?あくまで目当ては身体だけだったろうし、扱いは恋人と言うよりは性欲の捌け口だった訳だけど。

 

それこそ十代前半なんて事の善し悪しも分からない。何をされても為されるがままだしそれで喜ばれてしまえば『必要とされたい』ってなっちゃうから。案の定というか、愛されてないって分かってても彼女は男達の間を回されたわけで。

 

そうやって身も心も疲弊していくうち、歪なその身は遂に変調を来す。ストレスや強い興奮状態に陥った際、彼女はアラガミ化を再発して暴走する体質と化してしまった。

 

暴走と共に繰り返される凶暴化と肉体の強靭化。鎮静剤で強引に鎮めれば人には戻れるものの、それでも変貌は澱のように彼女の身体に積もり行く。

 

そのせいで平時でも身体は肉食獣のような筋肉質な恵体に変化したし、暴走の条件もバーストや負傷などと微細なものに変わっていった。最早誰の目に見ても、それは人としてすら受け入れられなかった。

 

こうなってしまえば行き着く道などもはや火を見るより明らかだった。というか適合に失敗して生き残った時点でこうなる事は分かっていたのだろう。分かっていたからこそディーヴァは他の神機使いの手に負えない任務を押し付けられ、壊れる限界まで色々な意味で使い潰された。

 

なぜならディーヴァは元よりロシアの最高戦力以上に、最初からいつ完全にアラガミ化するか分からない爆弾だったんだ。彼女の殺処分だって、任務中に事故死させるか処刑するかの選択肢でしか無い。その過程で厄介なな任務を押し付け、少しでも達成されればそれで儲けものと前者が選ばれたに過ぎない。

 

 

結局の話。彼女が神兵として生き残ってしまったその瞬間から、彼女が命を望まれたことなんて一度として無かったんだ。

 

 

そこから先の結末は彼女の感応現象で見た通り。アラガミ化が限界まで進行した彼女は通常任務に偽装された緊急任務に派遣され、そこで任務中の戦死として処分された。そこから回り回って僕の元に彼女はやって来たわけなんだけど………

 

 

「要するにさディーヴァ。君が滅ぼしたかったのはそういう連中なんだろう?」

 

「……………………………ッ!!!」

 

「君をそんな化け物に変えた研究者に、使い潰す前提で無茶振りしか寄越さない忌むべき支部長。そして心無い同僚。そいつらに復讐したくて君は僕に君の故郷を売り渡した。……因果応報じゃないか。」

 

 

事実を淡々と並べた結果、抉らなくていい傷まで抉ったのだろう。ディーヴァは僕の胸へと顔を押し付けて声を押し殺すように泣き崩れ、身体をへし折りかねないほどに凄まじい力で僕のことを抱きしめてきた。

 

だから僕も彼女の頭を優しく抱きしめ、ふわふわの髪を撫でて彼女のことを愛で返す。………僕にはサリーがいるし良くないことだって分かっているんだけどね。

 

 

「大丈夫だよディーヴァ。……君は何も悪くない。」

 

「ご主人様……ちがう!!私は────」

 

「ここの人間には死ぬに足る理由があった。それだけなんだ。……ありがとうね。君がいなかったらきっと僕は勝てなかった。」

 

 

もはやディーヴァに僕に対する警戒心は存在せず、同時に僕の前で今まで取り繕っていた彼女の化けの皮までもが剥がれていく。比較的理性的で聡明だった彼女は既にそこには存在せず、ディーヴァは半ば力尽くで僕の身体を抱き寄せてきた。

 

そのせいで僕の身体はディーヴァの大きくて強靭な身体に受け止められるわけなんだけど。するとディーヴァは彼女の頭と同じかやや大きいくらいの爆乳に僕の頭を押し付けてきた。

 

少しびっくりして僕も顔を上げるものの、ディーヴァは未だにポロポロと涙を零しながら僕の顔をじっと見つめてる。ただ僕の身体に回された手は僕のことを愛しそうに撫でていて……その感触が恥ずかしくて、僕も思わず彼女の胸へと顔を押し付けてしまう。身体は筋肉質で威圧感すごいのに、弾力が凄い……サリーのは柔らかいのに。

 

 

けどそうしてされるがままに甘えていると、彼女は辛そうに僕の身体を抱きしめ直してくる。僕が彼女に愛情を向けるその仕草が辛くて辛くて仕方ない。もはや感応現象を用いるまでもなく、心を覗く必要もなくそう分かってしまうほどに。

 

「………ちがう。ちがうんです、ご主人様。」

 

「違う?何が違う?……あそこまでされて人間が憎くなかったとでも?」

 

「いいえ……いいえ。でも、ご主人様をここに連れてきたのは……私の復讐に利用したかったわけじゃないんです………」

 

 

ボロボロに泣き崩れてるのに、ディーヴァは必死に笑顔を作ろうと口角を上げて見上げる僕へと視線を向けてくる。……銀色の髪に琥珀色の瞳。そして白くて柔らかい肌。年不相応に発達したこの恵体も、神秘的な美貌も。こうして今まで触れないようにしてたのは、きっと僕も無意識に避けていたのだろう。彼女に本気で迫られたら僕は抗えない。それが頭のどこかで分かっていたから。

 

 

「私……ご主人様に喜んで欲しかった。ご主人様に褒めて欲しかったんです。この土地を差し出して、サリーより私の方がご主人様に役に立てるって………!!そうしたら、私もご主人様に………」

 

「………ディーヴァはいけない子だね。僕のことが好きなんだ?僕にはサリーがいるって分かってるだろうに。」

 

「はい……好きです。大好きでした。好きで好きで愛しくて、ご主人様にこうしたくて仕方ありませんでした……!!ご主人様の役に立ちたいって、サリーより愛されたいって………!!」

 

 

………僕も分かってはいた。けど、あまりに愛しそうにディーヴァがそう言うものだから。呆れたような笑みと共に意地の悪い言葉を返してしまったが、そうすると彼女はさらに重たい愛情を僕へと向けてくる。

 

それほどまでに彼女にとって、出会いの形はどうであれ僕と共に過ごした時間は大切なものだったのだろう。僕がどんなに醜くとも、自身の姿がどんなに忌々しい獣であっても。仲間として傍で大切にしてくれる。それだけで僕のことを好きと錯覚してしまうほどに。

 

なのに僕は彼女に僕も意図しない形で人の姿を与え、彼女の知性と言葉を取り戻した。人の身勝手でアラガミに変えられた彼女がアラガミの僕の手によって人の姿へと戻されたんだ。

 

僕を『ご主人様』なんて呼ぶ時点で気付いていたよ。君が僕のお願いなら何でも聞いてしまうくらい、自分の全てを捧げてしまうほどに僕が大好きだってこと。サリーがいるからその想いから目を逸らしていただけで。きっと、ディーヴァも僕が知った上で無視してるのは分かってたはず。その理由も含めてね。

 

でもその拮抗状態を彼女は今こうして想いを口にすることで自ら破壊した。お陰で僕はもう彼女の想いを知らなかったなんて言い訳は出来ない。そして寄りにもよってこのタイミングで自分の想いを告白してきた理由。それは────

 

 

「けど……気付いてしまったんです。このロシア支部を攻めているうちに、ここに住む人達は……少なくとも民間人の皆さんは何も悪くないって。」

 

「強いて言えば人間として生まれた時点で悪だけどね。……まぁ君には何もしてないか。」

 

「なのに私は、ご主人様に愛されたい一心で……何かされたわけでも無いのに、神機使いじゃない人まで巻き込んじゃった……!!ここには私に優しくしてくれた人だっていたのに………!!」

 

 

声が震え始めると共にディーヴァが僕を抱きしめる力が強くなる。……そりゃ普通、あんな無抵抗で喰い散らかされる一般人を見たらそうなるよね。純粋なアラガミのサリーですら戸惑い躊躇いを覚えるほどだ。元人間の君はさぞ自分のした事を後悔したし、中央施設の中に僕が訪れた時点で一人でも多く生かそうとしただろう。

 

ただ僕はそんなディーヴァの思惑すらも逆用し、逃げ場を奪った上でロシアの人間を皆殺しにした。生き残ったものすら堕し児という人外と化し、皆殺しよりも酷い結果だけが残った。

 

何一つ償う事も出来ず、守る事も出来ず、『殺さないで』という願いすら最悪の形で呪いに変じる地獄絵図。それら全てを齎したのが、愛しくて愛しくてしょうがない僕だと言うのだ。

 

別にディーヴァは僕みたいに人類を滅ぼしたいなんて願っちゃいなかった。ただ僕に愛されたかったってだけなのに。そんな囁かな願いがこんな地獄を生み出したなんて、その優しい良心がどうして耐えられようか。

 

 

「ほんっと……僕のこと好きにならなきゃ、君はこんな思いしないで済んだのにね。」

 

「……っ!!ご主人様……私っ………!!」

 

「こんな事になった上で聞くけどさ。……ディーヴァ。ディーヴァはまだ、僕のことが好き?」

 

 

なんでこんなにも悪辣な言葉を吐けるのか。こうして密着しているせいで彼女の気持ちが分かるせいかな。どんな顔をしてそう尋ねたのかが分からない。きっと底意地の悪い笑みに決まっている。

 

そう思ってたのに涙でぐちゃぐちゃになった彼女の瞳に映る僕はそれは優しくもどこか心配そうに、小さく儚く笑っていた。そんな顔でこんな質問を投げかけていたのかと、自分で自分が分からなくなる。

 

残酷極まりない僕の問いのせいでディーヴァはまた泣き崩れ、僕の背に回された腕に入る力が強くなった。自分の泣き顔を隠そうとでもするかのように僕の顔を彼女の胸に押さえつけ、泣き声をどうにか抑えようと頑張っている。それでも嗚咽混じりに言葉を紡ごうとするものだから、僕も彼女の背を慰めるように手で軽く叩いてしまう。

 

 

「嫌いに、なれない……なれないんですよ……!!ご主人様は、私が思ってたよりずっと酷くて残酷だったのに………!!」

 

「………そっか。」

 

「なんで嫌いになれないんですか……!!ご主人様のこと好きでいるのが、こんなに苦しくて苦しくて仕方ないのに………!!」

 

 

………きっと僕のことをちゃんと嫌いになれれば、ディーヴァは彼らと同じ被害者として。僕に嵌められた堕し児の仲間として、僕に牙を剥く事も出来ただろう。そうすればどんなに幸せだったか。

 

だけどディーヴァにそんな選択は出来ない。仮に僕がそう推めてしまえば、それこそディーヴァは「僕に捨てられた」と取り返しのつかない壊れ方をしてしまう。

 

そんな哀れな彼女に僕が出来ること。それは彼女が僕を選んで良かったと思わせてあげることだけだ。例えそれが欺瞞であっても「大勢を死なせて尽くした甲斐があった」と。他ならぬ僕がそう示してやる他に、ディーヴァを慰めてやる手段は無い。

 

だから………

 

 

「………ディーヴァ。ありがとうね。」

 

「えっ………………………」

 

 

そう一度だけ。僕はディーヴァに心からそう告げると、自分から彼女の唇を奪った。

 

「………………!?………………………!!?」

 

舌を入れた訳でも抱きしめた訳でもない。だと言うのに随分と長い間、彼女と唇を重ねた気がする。何しろディーヴァは目の前のことを現実と受け止められないように固まり、僕の顔を呆然と見つめてた。

 

だから勝手にではあるが、僕はディーヴァの頬へと掌を当てる。そして未だ惚けたままの彼女に、優しく微笑みながら言葉を続ける。

 

「ディーヴァ。……君が居なければ、僕はこうしてロシアを手中に収める事は出来なかった。君が僕を選んでくれたから、僕はこの身体(人の姿)を得ることが出来た。」

 

「ご……ご主人様?これは………」

 

「分からない?今僕が君とこうする事が出来るのは、君のおかげだって言ってるんだよ。」

 

数多の人の屍の上に出来た人の身体で、心からの感謝を込めてそう告げる。こうしてベッドの上で、互いに人の姿で抱き締め合って唇を重ねられる。この状況に至る全ては、ディーヴァが選んだ結果として得られたものだと。

 

そう彼女の後悔の伴う行いを身を以て肯定してやれば、涙の溜まったディーヴァの瞳に強い熱が籠った。そして恐る恐ると言った様子ではあるが、ディーヴァの指が僕の腰────否。ローブの下の、一糸まとわぬ肌へと伸びる。

 

内ももをさわさわと撫でるその手付きがこそばゆい。でも僕が抵抗しないでニコニコしながら見つめていると、ディーヴァの指は直にローブの内側まで入ってきた。

 

「………ディーヴァの手、大きいね。」

 

「ご主人様………ダメです。ちゃんと嫌がって、拒絶してください………」

 

「よく言うよ。こんな目え血走らせてるくせに。」

 

ディーヴァの頬に当てた指を這わせ、重ねた目をわざと細める。けど僕を見つめるディーヴァの瞳孔は既に開いていて、ディーヴァは大きく開いた口から荒い息を吐いていた。

 

その口からは既に長くて太い舌の先が伸びていて、粘度の高い唾液が滴っている。言葉に反して本当に辛抱効かない状態なんだろうね。無理もないか。さっきまであんな強硬状態だったんだから。

 

そんな状態で好きな相手に優しくされて、その上でこうも無防備を装われちゃあね。僕の太ももに当たる手も既にガッシリもも肉を掴んでいて、一切僕を逃がす気がないもの。

 

 

 

そしてそんな下半身を掴んで抱き寄せた状態で、ディーヴァは今度は自分から僕の唇を奪ってくる。しかも触手みたいな舌を強引に僕の口内に捩じ込んで、ガッツリ舌同士を絡めて舐ってくる。

 

互いの歯と歯が当たるほどの犯すような口付けに、思わず僕の脳も警鐘が鳴る。このままだと互いに取り返しのつかない事になると。けど、そうと分かった上で僕は抵抗しない。

 

 

だってディーヴァは僕に愛されたいがために、こんなに苦しみながらも僕に尽くしてくれたんだ。好きに愛情を表現して吐き出すくらいはさせてあげなきゃ、流石に可哀想では無いか。

 

だからこの際、彼女がしたいことは何でもさせてあげる。ディーヴァは散々口内を貪ったあと、僕をベッドに押し倒して強靭な身体で押さえつけてきたけど。何度も荒い息と共に「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」と漏らすけど、僕はディーヴァの頑強な腹筋に覆われた脇腹に腕を回して抱きしめる。

 

「大丈夫だよディーヴァ。君はこの支部のあまねく人間全てより、僕一人を選んでくれた。僕の為にとこんなに良く頑張ってくれた。」

 

「はー……!!はー……!!ご主人様……ご主人様ぁ………!!」

 

「だから僕も、ディーヴァに後悔させないよう頑張るよ。君を取り巻く艱難辛苦(かんなんしんく)は、必ず僕が忘れさせてあげるから。」

 

 

それこそ僕以外の人間なんて、心の底からどうでも良いと思えるように。それでディーヴァの心が楽になり、労いになるのなら安いものだ。

 

半ば理性の飛んでしまったディーヴァの腕に血管が浮き、籠る怪力を示すように彼女の筋肉が膨れ上がる。きっと僕に対する愛情以外にも、願いを踏み躙られた怒りや鬱憤もあるのだろう。

 

或いは単純な性癖か、それとも単純な体格差による必然か。熱の籠る恵体で僕をベッドに押し付け、蹂躙するようにディーヴァは煮詰まった感情を僕に吐き出す。「ご主人様」と何度も何度も、僕のことを呼びながら。

 

 

その様は人の姿でありながら、本来の荒れ狂う肉食獣の姿が重なるほどでね。この日の夜はディーヴァはもちろん、僕にとっても忘れられないものとなった。

 

 

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