神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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更新遅くなってしまい申し訳ない。


19.呪縛(チャーム)

 

「……………ご主人様。」(どうしよう。ご主人様絶対怒ってる。絶対嫌われた。幻滅された。)

「なに。」

 

「ご主人様って……人間だった頃って、どんな人だったんですか。」(何聞いてるの!?そんな事よりご主人様にちゃんと謝らないといけないのに!!ああでもご主人様かわいい。好き。好き。ほんと大好き。これもう天使の接触禁忌種でしょ。)

ここはディーヴァの膝の上。ベッドに腰掛けたディーヴァに向かい合う形で抱かれ、僕は不意にディーヴァにそう質問を投げ付けられた。がっしりしながらも女性らしい身体付きをした彼女に身を預け、僕はディーヴァの顔を見上げる。するとディーヴァは気まずそうに僕から目を逸らした。

 

 

「………さぁね。僕は人間だった頃の記憶が殆ど無いから。神機の適合に失敗して処分されかけた位しか覚えてないよ。」

 

「そっ、そうなんですか。……私と一緒ですね。」(フェンリルってどこもそんなクソなの?滅ぼさなきゃ。)

「正直自分の年齢や容姿すら覚えてないし、その辺覚えてる君とは少し違う気もするけど。……まぁ、ある意味似た者同士とも言えるか。」

 

 

目を逸らしつつもチラチラとこちらに目を向けるディーヴァを気にかけないようにしつつ、言葉を返す。別にこういう答えを彼女が求めている訳では無いし、何ならその質問自体も大した意味は無い。それは分かっている。むしろこれは気まずい沈黙の中、彼女がどうにか絞り出した会話だ。そのくせ僕はじっとディーヴァの顔を見つめているのに、彼女は一向に目を合わせようとしない。

 

それが少々ムカついたため、僕は彼女の西瓜みたいにバカでかい胸にぐいっと顔を押し付けた。ついでにガチガチの筋肉に覆われた腹回りにもぎゅっと腕を回して抱きしめてみせる。するとディーヴァは顔を真っ赤にしつつ、僕の腰に回した腕に力を入れた。まるで自分の身体を僕に押し付けるように。それが反射か彼女の意思かは、本来暴かれるべきではないのだろう。

 

 

「ひゃうっ!?ご………ご主人様!??」(うわっ、すっごい甘えてくれてる。好き好き好き好き。可愛すぎ。)

「なにさっきからシカトこいてんの。……僕の顔好きなんでしょ?こっち見なよ。」

 

「はっ……はい。そりゃ、ご主人様の綺麗なお目目も雪みたいな肌も、ふわふわでいい匂いする髪の毛も大好きです。太ももだってムチムチしててスベスベですし、女の子みたいなご尊顔とか脳みそ溶かす声とか全部愛しくて愛しくて堪りませんけど────あっ、睫毛なっが……天使みたい………」(こんな美少年犯し倒したとか地獄の最下層に叩き落とされても文句言えないし、童貞奪ったとか神様憤死物だよ。本当にごめんなさい。ご主人様の初々しい反応思い出すと、それだけで子宮疼いて理性トびそうになるの。卑しい獣みたいな女でごめんなさい。ご主人様見てこれ以上発情しないよう我慢しなきゃ。我慢我慢我慢。)

誰もそこまで聞いてないんだが。ディーヴァは声に出さなくてもいい事を高速詠唱すると、僕の顔を食い入るように見つめてくる。目が血走っていて少々身の危険を感じるが、しばらくすると首をブンブンと振って我に返った。そのついでとばかりに僕を改めて抱き直すが、再び沈黙してしまう。

 

………ほんと、何を罪悪感なんて抱いてるんだか。もっと幸せそうにしてくれた方が僕も嬉しいのに。まぁ、真面目で背負いがちなこの子の事だからね。仕方ないってのも分かるけど。それでもこれまた難儀な物になってしまったものだ。溜息を吐きたいのを我慢しながら、僕はディーヴァのデカ乳に顎を乗せて彼女の顔をじっと見つめる。

 

 

「あの……ご主人様。」(あぁもう……ご主人様お顔綺麗。唇柔らかそう。舌入れてキスしたい。)

「なに。言いたいことがあるなら言っていいよ?別に怒らないから。」

 

「私……本当に、ご主人様と寝たんですよね?天使みたいなご主人様の身体を、穢してめちゃくちゃにしたんですよね……??」(夢オチでも全然許せるくらい幸せだったんだけど。むしろ現実だったら明日辺りに私天罰かなにかで死にそう。何なら死んでもいい。私の人生であんな幸せな思いしたの初めて。生まれて初めて生きててよかったって思わせてくれたもの。ご主人様も私とするなんて嫌だったはずなのに。)

当たり前のことを確認するように、或いは噛み締めるように恐る恐るとディーヴァは尋ねてくる。言い方よ。僕は別にそう大層な物でもないのに。ディーヴァの中での僕はそうではないらしく、確認するディーヴァの声は酷く震えていた。まるでしてはいけない禁忌を犯したかのように、縋るように僕を抱きしめる力が強くなる。

 

 

「うん。それはもう何十回と、僕の腰が壊れて立てなくなるまでブチ犯されたけど。それがどうかした?」

 

「あああああごめんなさい……本ッッッ当にごめんなさい……!!私ったら、ご主人様になんてことを………!!」(やっぱ怒ってた。当然だ。嫌に決まってる。あんな力尽くで乱暴に、強姦魔みたいに犯して。)

「気にしなくていいよ。今回のは僕に尽くしてくれた君へのご褒美なんだから。噛み締めて堪能してよ。」

 

 

特に含みもなくそう答えたが、ディーヴァが琥珀色の瞳に涙を浮かべた。……実際、腰がイカれたせいで僕は今こうしてディーヴァに抱っこされてるわけなんだけどね。僕に外傷与えたって事実と崇拝に近いレベルの愛情を抱く僕の純潔を穢したという強迫観念から、ディーヴァは僕に対して計り知れない罪悪感を抱いたらしい。堕し児とかこの支部の今後とか、僕以外の余計なこと考えられないようにって身体を差し出した訳だけど。効果は抜群だったようだ。

 

 

「ご主人様ほんとごめんなさい……自害するので、どうか私の命で私の罪をお許しください………!!」(ご主人様に嫌われたまま生きるなんて私は辛い。耐えられない。こんな状態で生きるくらいなら死んだ方がマシ。本当にごめんなさいご主人様。)

……それはもう効果抜群すぎて加減しろ莫迦って言いたくなるほどに。せめて死ぬなら極東支部に特攻して殲滅してから死んできて────って、口に出したらマジで極東にコマンドーして帰ってこなくなるから。僕はディーヴァの腹部に腕を回したまま、宥めるように背中を軽く叩いて落ち着ける。

 

結果として、見ての通りにディーヴァは僕以外の事を考えなくなった。というか僕以外の事を考える余裕が無くなった。良くも悪くも。傷心中とはいえ一晩を共にしただけで女の子はこんなヤバい事になるのか。なんて考えるのは世の女性方に失礼か。いずれ全員堕し児にするか殺す訳だから礼なんて不要だろうけど。女性だけと言わず人類は一人残らずね。

 

本当に何がどうしてこうなったのやら。いや、心当たりしかないけどさ。これに関しちゃ本当にディーヴァは悪くないんだよ。思い詰めて一緒に寝る前よりも大変な状態になっているけども。

 

 

「だって……ご主人様、純潔だったのでしょう……!?私てっきり、ご主人様はサリーと何度も交尾してるものだと………」(本当は分かってたのに。ご主人様がそういう事したことないって。)

「交尾って言うなし。………男の童貞なんて女の初夜と違ってそう価値ある物でもないし、別に気にしなくていいよ?」

 

「ご主人様はもっとご自身の貞操を大切になさって下さい!!!美少年の初めてなんて人類絶滅させたご褒美クラスの価値があるんですよ!??」(なのに私はご主人様の何も知らないフリして、ご主人様の言葉に甘えて好き放題にご主人様を犯し尽くした。どうしてもご主人様の初めてが欲しかったから。それなのに自分の身体を無価値みたいに言わないで。誰がなんと言おうがご主人様は私には神様みたいなものなの。)

めちゃくちゃ怒るじゃん。ここの連中を堕し児に変えた時以上にガチギレするからビビって萎縮してしまったが、僕の様子を見るとディーヴァは慌ててぎゅうって僕を抱きしめてくる。……ほんと男の貞操なんてそう価値ある物でもないだろうに。異性の貞操は誰であっても尊く見えるものなのか、ディーヴァは僕を抱きしめたままボロボロと涙を流し続けている。

 

「それなのに……!!支部の男共に散々回され穢れ切った私で卒業させてしまうなんて、私はなんてことを………どうか許してください。ご主人様のためなら、私は何でもします。何でも役に立ちますから。だからどうか────」(改めて思い返すとほんと最低で死にたくなる。ほんとごめんなさい。)

「いや(暫定)中学生で初めて済ますのもだいぶヤバいと思うからほんっと気にしなくていいよ。役には立ってもらうけどさ。」

 

「だからどうか、私を見捨てないで下さい……忌み嫌わないで下さい………!!ご主人様が居なくなったら、私………」(私のこと嫌いだったら八つ裂きにして喰い散らかしてくれてもいいから。だから私のした事を許して。私にご主人様を愛することを許して。ご主人様の与える罰ならどんなものでも私は受け入れるから。)

うーん。人の話聞かない子だこと。先入観……と言うべきなのか。ディーヴァの中で僕はどれだけ神聖な存在なのか、僕としてはこの子みたいな綺麗な子と褥(しとね)を共に出来たのは十分な程に光栄なんだけど。ディーヴァ自身も自己肯定感低いのと僕を神格化してるせいで酷い罪悪感を植え付けてしまった結果がこれとは。ほんと難儀っていうか、業の深い子だよね。こんな綺麗な顔しててスタイルもいいのに。

 

しかもそのくせ精神的にはズブズブに僕に依存してるから。僕に嫌われるのが死にも勝る苦痛になると心の底から本気で考えてるし、嫌われるくらいなら身を捧げて僕の糧になる気満々。色々な意味で愛が重い子だね。愛っていうかこれはもう信仰とか崇拝に近いって言うか……なんか最初期に僕に身を捧げようとしたザイゴート達を思い出した。あれが引き合いに出される時点で相当だからね?

 

……まぁ幸い従順って意味では別に困らないし、下手にディーヴァの抱く感情を否定する方が怒りそうだからさ。それに実際ディーヴァに頼みたい仕事は色々あるから。役に立ってくれると言うのならそれは遠慮なく頼らせてもらう。僕にこのまま仕えてくれると言うのなら、それこそ僕もディーヴァの面倒を見に来た甲斐があるというものだからね。

 

むしろ変な罪悪感を抱いている今、慰めるよりは僕に仕えさせた方が気晴らしにもなるか。そう考えた僕はひとつ、ディーヴァに仕事を与えることにした。

 

 

「じゃあ………そこまで言うなら、ひとつ君に頼み事をしようかな。」

 

「!!………はい!!何でも命じてください!!私に出来ることであれば、何であれ貢献致します!!支部のひとつでも落としてみせます!!」(良かった。まだ挽回させてくれる。極東に特攻でも何でもするから。)

「そう構えなくても大丈夫だよ。……口で説明すると長くなるから感応現象で送るか。顔近付けて。」

 

 

そう呼びかけ、ディーヴァに僕に向けて頭を下げさせる。そして彼女の額に自分の額を重ねると、僕の頭の中の情報を直にディーヴァの脳内へと感応現象で共有する。情報量が多くて頭痛がしたのか、一瞬だけディーヴァは顔を顰めた。が、情報の内容を一瞬で理解するとディーヴァは驚いて目を見開く。

 

 

「ご主人様……これは………」(ご主人様におでこ押し付けられた。ご褒美?なんで??)

「今後の人類……いや、フェンリルに対する攻撃の計画だよ。ターミナルの情報と僕の能力を鑑みた上で、僕なりに考えたものなんだけど。」

 

「これ……ご主人様が考えたんですか?いつの間にここまでの事を────」(ターミナルの使い方も分からないはずなのに頑張って調べたんだ。私が塞ぎ込んで役に立てなかったばかりにごめんなさい。そんな心配そうにしなくても大丈夫。すごい良く考えてる。でもご主人様頭いいのはちょっと嫌。私の存在意義なくなる。ご主人様に私なんて実は必要ないって気付かれる。そういう仕事は全部私にさせて。ご主人様はのんびりしてて。)

そりゃ君が塞ぎ込んでる間にだよ。大雑把に言うとロシア支部の襲撃による壊滅を隠蔽し、まずは本支部の健在を偽装。その上でフェンリル間でのここを含めた輸送ルートを復興し、その経路を用いて輸送員に擬態した堕し児を世界各地のフェンリル支部に配備。同時に情報ではない正確な位置を把握した後、パンドールを用いた世界各地への同時攻撃で人類を殲滅するという計画だ。

 

……とはいえ自分で考案しといて何だけど、計画の穴が多いのも事実。そもそも人間を堕し児に変えられるという人類にとって特大の厄種を、認識され対抗策を確立される前に最大限の被害を齎す方法で叩き付けるための計画だ。そのせいで堕し児を戦闘員としてまともに運用する方法や各フェンリル支部に対する具体的な侵攻方法などまでは考えてない。ディーヴァは僕が考えた計画と言うことで、僕の頭を撫でてくれてるけど。そこで優秀なディーヴァの出番というわけだ。

 

 

「ディーヴァ。君にはこの机上の空論を実行可能な物にまで練り直し、懸念材料などを今一度洗い直して欲しい。」

 

「そ……そんな事でよろしいのですか?いえ、勿論ご主人様のために全力で取り組ませて頂きますけど────」(私に頼る気満々だった。頼りにされるの嬉しい。ほんと好き。)

「因みに作戦の第一段階(偽装する下り)は明日。……いや、今日行う。日が明けたら僕は堕し児に協力を取り付けに行くから。その前までによろしくね。」

 

 

そう告げたところディーヴァが真顔になった。分かってる。とんでもない無茶振りを投げ付けてる事くらい。けどディーヴァなら同時に理解したはずだ。この計画、やるなら一刻も早く実行に移さないとヤバいという事に。何しろここの無事を偽装する場合、フェンリルに報告するのは早ければ早いほど疑いが向きにくくなる。むしろ今の時点ですら、既に遅いくらいなんだ。

 

本当だったらディーヴァの面倒を見たあと、今日の夜にでも堕し児に協力を取り付ける予定だったんだけど。それがこんな日にちを跨ぐ夜中にまで長引いてしまったから。……って、口に出したらディーヴァがまた罪悪感で曇るからね。黙っておくけど。

 

 

「でもご主人様。これつまり、この支部の堕し児に協力を取り付ける方法を考えろって事ですよね?」(そもそも話を聞くかどうか。問答無用で殺しに来ない?)

「あとフェンリルへの生存報告の文面とね。こっちは僕が考えるから、君は彼らをこの作戦に協力させるための餌を考えて欲しい。」

 

「……………餌、ですか。」(ご主人様が私の胸に顔乗せて見上げてる。かわいい。こんな無防備に甘えてくれるなんて、実は私のこと嫌ってなかったりする?そんなわけないか。でも警戒心無さすぎて本当に股間に悪い。話の内容がどっか行ったんだけど。)

知っての通り、本支部の無事を偽装する場合はフェンリルの関係者。あと神機使いの増援がここに訪れる。そうした連中なんて、人の姿を模倣しているとはいえアラガミの堕し児からすれば死神に等しい存在だ。彼らは僕らに敵意を抱いてはいるが、フェンリル関係者を恐れているという点は同じだ。何しろ自分達の正体がフェンリルに漏れようものなら殲滅されてしまうのだから。僕がわざわざフェンリルの関係者を招き入れようとすれば、当然反対するし協力なんて絶対しない。

 

だからこそ。ディーヴァにはそんな彼らを言いくるめる言葉を考えて欲しい。言い換えればここの生存を告げ、支部間の輸送ルートが復帰した場合。元人間の堕し児達は何を欲しがるか。僕が輸送ルートを復興させた場合、彼らの生活にどんなメリットがあるか。この世界での人間の営みを僕は知らないから。知る前にこの身体になったから、彼らの求めるものが分からない。故に人の営みを知るディーヴァにしか頼めない。

 

フェンリル本部に向けた生存報告は、この施設の人命の無事と外部居住区を除く施設の無事を伝えればいい。何しろここは神機の研究と開発に於ける重要拠点だ。研究員はさっさと極東に脱出させたようだが、施設の調達ともなれば費用は嵩むし研究のデータやサンプルの持ち出しまでは出来てない。ここが無事と知れば、恐らく救援や復興の援助は惜しまない。この支部の無事自体を怪しんでいなければ、という前提条件は着くが………

 

 

「その……ご主人様?彼らを扇動する言葉を私が考える、という事でしたが……その………」(まだあそこ行くの怖い。ご主人様に嫌われたくないから行くけど。)

「もちろん堕し児の元へは僕が行く。カンペ考えるようなものだと思ってよ。……協力者の堕し児は何人か支部長室にも招くことになると思うけどさ。君は僕の私室に隠れていていいから。」

 

「いえ。ご主人様が傍に居てくれるのなら大丈夫ですけど……お気遣いありがとうございます。ご主人様って優しいんですね………」(優しくされるの好き。私のこと気遣ってくれるの大好き。頭撫で撫でされるのも幸せ。こんなに大事にしてくれるなんて。ご主人様好き。好き。大好き。愛してる。一生ご主人様にこうやって飼われたい。ご主人様に甘えていい子いい子されたい。役に立っていっぱい褒められたい。)

強がってはいたが、僕が表立って動く旨を伝えるとディーヴァは目に見えた様子で安堵した。頭を撫でてやれば気持ちよさそうに琥珀色の瞳を細め、僕に感謝するよう優しく抱きしめてくる。僕が傍に居ればというのも本心だろうが、流石にまだ堕し児と顔を合わせるのは怖いか。まぁ仕方あるまい。僕でさえ堕し児の元に赴くのは少し気が重いって言うか、不安が募るのだから。

 

そもそも僕と会話や交渉の類が成立するのかどうか。今回の作戦に於いてはそこからが心配なのだから。本来急ぎでするような事ではないんだよ。本当なら時間をかけて堕し児をどうにか懐柔して、その上で色々と協力を取り付けるところをさ。亡国の捕虜を翌日に自国の兵士として駆り出すなんて、仮に人類史でも無謀な試みだろうに。僕がやろうとしているのはそれと同じなのだから。しかも陣営に無条件に利益を齎す作戦ならともかく、間違いなく首が絞まる作戦に協力させようって言うんだからね。間違いなくこれでもかとブーイングを叩きつけられる。

 

とはいえ愚痴っても事態は改善しないし、どうにかするしか無いんだけどさ。それには僕はこの世界の人間の文化……というか文明を知らな過ぎる。それにこれは僕が彼らに敵意や悪意を抱いていないとアピールするいい機会でもあるから。ディーヴァの事は頼りにさせてもらうよ。

 

 

………さて。死んでいた腰もそろそろ癒えたようだし、僕は僕のすべきことを成すかな。

 

 

「じゃあディーヴァ。他に何か分からないことがあったら感応現象で僕に聞いてね。僕はきっと四六時中起きているから。」

 

「えっ……ご主人様、どっか行くんですか?」(ご主人様を抱っこしたままお仕事したかったのに。)

「僕は他にもやらなきゃいけない事があるんだよ。日が昇る頃には支部長室に戻る。それまでによろしくね。」

 

 

そうとだけ告げ、僕は身に纏った全身を覆うローブにザイゴートの卵殻の性質を付与。海上の浮き袋のように身体を宙に浮かせ、ディーヴァの膝の上から離れる。でもそうすると、ディーヴァはあからさまに寂しそうな顔……というか泣きそうな顔をした。すっかり子犬みたいになってしまって。僕のこと飼い主か何かだとでも思ってやしないか。割と真面目に。

 

………仕方ないな。モチベーションは大事だし、こうまで依存させたのは他ならぬ僕の責任だから。僕はディーヴァの頭をぎゅっと抱きしめて髪を撫でると、そっと囁くことにした。

 

 

「ディーヴァ。……ちゃんとお仕事こなしてくれたら、また僕の身体を好きにさせてあげる。だからがんばって?」

 

「!?!??………えっ!?ご主人様……それって────」(エッチな意味!?エッチな意味で受け取っていいの!?)

「もちろん抱くも犯すも君の好きにしていいよ。……君のして欲しい事もなんでもしてあげる。そう受け取ってくれて構わないよ。」

 

 

ディーヴァの頭を撫でてやり、顔を真っ赤にした彼女になるべく優しく微笑みかける。何を生娘のような反応をしているのやら。分かっているんだよ?君が僕に何を望んで、僕に対して何を考えているのか。

 

何しろ方法はかなり最低な部類とはいえ、ディーヴァは人間性を物にした後の僕のオラクル細胞を体内に取り込んでいる。故に彼女の身体は既に人間性を物にした僕が人を穢し生み出した堕し児と同じ身体になっているし、その思考は他の堕し児同様僕の造書庫(ライブラ)の管轄に置かれている。

 

僕の細胞を分けた堕し児の全てを識る権能は、望めば彼らの深層心理までをも僕の脳内に開示する。故にこうして向かい合っていればそれだけでディーヴァが何を考えているのか分かってしまうし、彼女が悦ぶ行動や言葉なんかも全て把握出来てしまう。この子が僕に信仰に近しい愛情を抱いている事も、僕を強姦同然に犯し穢した事を悔いるのも。

 

────そして。そのくせなお僕に劣情を抱き、僕に内に秘めた愛情を吐き出したいと願っていることも。そんな自分を恥じて僕に罪悪感を抱いているところまで、僕は全てを知っている。当のディーヴァ本人からすれば心の一番深いところに秘めた願望を見透かされてびっくりしたみたいだけどね。悪いことしたのがバレた子どもみたいに目を泳がせてる。そんな怒りも軽蔑もしないってのに。

 

 

「えっと……ご主人様?別に、そこまで身体張らなくても……ご主人様の命令なら、ご褒美とか無くても頑張れますし………」(ご主人様私とするの嫌でしょ?無理しないで。)

「一応ハッキリ言っとくけど、嫌いな相手に身体を差し出すほど僕は阿婆擦(あばず)れではないよ。……ご褒美いらないならそれもまぁいいけど。」

 

「ごめんなさい嘘です。ご主人様が良いなら凄く抱きたいです。押し倒したいです。気持ち良いって可愛い声出させたいしご主人様に頭撫でられながらキスしたいとかご主人様の男の子おっぱい吸いながらいい子いい子されて聖母(ママ)みを感じたいって思ってました。ご主人様を見てこんな卑しい欲を抱いていた私をどうか罰してください。なんかもう全部バレてそうですのでほんと一思いにやってください。」(そんなに私いやらしい目でご主人様のこと見てた?我慢してたのに?だとしたらほんと嫌われそうだし不敬罪で塵にされても文句言えないんだけど。私の考え如きご主人様はお見通しってこと?本当に神様か何かなのでは?そして急にデレたせいで濡れたんだけど。責任取って?)

考えるだけで口に出さなきゃ罪にならないことって結構あると思うんだけど。業の煮凝りみたいな性癖を詠唱するのはやめなさい。文字に起こすと怪文書の類だから。涙目で顔真っ赤にしてるけど、頑張ってくれたらそういう事していいんだよって僕は言ってるんだ。ディーヴァは真面目で気負いやすいから。僕に尽くせば尽くした分、褒美として僕を好きに愛でられる。そういう付き合い方の方が変な罪悪感抱かなくていいんじゃないかってね。モチベ上げるためのご褒美に罪悪感抱いてたら世話ないもの。

 

とはいえ一通り自身の拗れ切った願望を吐き出した上で、特に僕が引く様子を見せないと僕が自らの全てを許容するとディーヴァも漸く信用したらしい。別に僕はディーヴァが僕を冒涜するような真似をしても、咎めもしなければ責めもしないって。最初からそう言ってたのに。僕はディーヴァのそういう部分も含めて全部受け止められるんだから。

 

 

「いいよ?任せたお仕事ちゃんと片付けたら、好きなだけ甘えさせてあげる。けどこれからは忙しくなるからお互い活動に支障出ない程度にね。」

 

「ご主人様……私、本当にご主人様のこと崇めそうなんですけど………」(こんだけ寛大だって示したら堕し児の皆さんも問答無用でご主人様崇拝するのでは?)

「普通に好きじゃダメなのかい。……崇めるも祀るも好きにして構わないけどさ。くれぐれも僕を過大評価して計画を組まないでよ?僕そこまで万能じゃないからね??」

 

 

そう釘を刺し、僕はポロポロと涙を流すディーヴァの身体をぎゅって抱きしめる。……いくら僕を神格化したって僕は全能からは程遠いのが現実だし、造書庫を用いた能力はまだ未知の領分が多い。くれぐれも現実的な計画を考えてくれると有難いんだが……愛情が信仰通り越して狂気の域に踏み込んだか、僕が絡むとIQ下がるな。ちゃんと与えた仕事をこなせるといいんだけど。

 

………まぁいいや。とにかくこれでディーヴァも僕がいなくても仕事はしてくれるし、僕も僕のするべき仕事に漸く取り掛かれる。作戦考案の進捗は最悪感応現象で確認すればいいしね。そうとなれば、そろそろ僕も行くとしよう。

 

 

「じゃあねディーヴァ。結構な無理難題吹っ掛けちゃったけど、明日の朝までによろしくね。」

 

「はい……上手いこと堕し児の皆さんをご主人様に従属させられるよう、手っ取り早く済む方法を考えておきます。どうか私にお任せ下さい。」(逆らうの何人か見せしめにすれば協力するかな。殆ど元一般人だし。)

「頼りにしているよ。何かあったら僕に感応現象寄越してね。僕きっと起きてると思うから。」

 

 

僕の期待に応えようと目を輝かせるディーヴァの頭を最後に撫で、僕はふわりとディーヴァの元から離れる。与えたご褒美が良かったのか、無茶振りと知ってなおディーヴァはやる気に満ち溢れている。僕が傍を離れたところで不安定な状態に陥るような様子も無く、僕も安心して支部長の私室を後にすることが出来た。

 

……しかしなんて言うか、僕のせいでディーヴァがああなったって考えると色々辛いな。僕に心を開いて手を貸してくれるようにしたかっただけで、あそこまであの子の心を壊したかった訳じゃないのに。あんな愛情がオーバーフローして信仰に変じるほどに慕われるなんて。ディーヴァには本当に、本当に可哀想なことをしてしまった。

 

だって僕をどんなに崇め祀って愛を注いだところで、僕の心が真にあの子に向くことは絶対に無いのだ。それは僕も彼女も分かっていた事なのに。

 

 

ディーヴァと別れた後、僕は身体を浮かせたまま屋上のヘリポートに向かった。屋上に吹く夜風は冷たくも心地よく、心做しか身体に蓄積された疲労が癒える気さえする。無機質な鋼鉄の足場は蒼い月明かりに彩られ、空を見上げればそこには満月と夜空に散りばめられた星の海がある。

 

そうした自然の何の変哲もない景色の方が、今となっては絢爛豪華な屋内より余程心を落ち着かせてくれるのだ。身体や暮らしで幾ら人間の真似事をした所で、心だけはアラガミから元に戻る事は無いらしい。それがディーヴァや堕し児達のような、他の元人間のアラガミと僕の決定的な違いだろう。僕だって元は人間だったはずなのにね。

 

とはいえ僕がこの屋上に訪れたのは、感傷に耽けるためでも夜風に当たるためでも、ましてや星を見るためでもない。ふわりと僕は爪先でヘリポートに降り立つと、夜の静寂の中で額に手を翳す。そうすることで感応現象を発動すると、頭の中で静かに呼びかけた。

 

 

『………サリー。起きてる?』

 

 

直後。ヘリポートの真下から巨大な影が舞い上がり、星の海に浮かべた蒼月を覆った。その額の邪眼は闇の中でも煌々と赤く輝きを帯びており、女神の顔に備えた本来の瞳もそれに合わせてゆっくりと開く。三つの赤い瞳で僕を見据えると、彼女はゆっくりとウロヴォロスに並ぶ巨体をヘリポートに降ろす形で僕に(まみ)える。

 

慈愛に満ちた柔らかい笑みを浮かべる彼女は蒼い月明かりと相まっていつにも増して美しく、しかし僕が支部内に居る間は一人で寂しかったのだろう。彼女は両手の長い指で僕を包み込んで持ち上げると、顔を近づけて僕に甘えてきた。

 

 

【待ってた。ずっと建物の中から出てこないから、寂しかった……】

 

「ごめんね。戦後の事後処理って思ったよりする事多くてさ。」

 

【………でも、会いに来てくれて嬉しい。ずっと会いたかった……】

 

 

神々しさすら感じさせる美貌からは想像もつかないたどたどしく幼げな口調と共に、サリーは僕の身体を自分の胸元へと押し付けて抱きしめてくる。僕がこうされるの好きだと知っての事だろうが、ウロヴォロス並の体躯を持つ彼女と人間の中でも小柄な部類の僕との体格差だ。そのふかふかしたおっぱいは僕の全身を包んで余りある程に大きいし、サリーの胸元を覆うのは背中から生えた爪状のウロヴォロスの肉(づる)だけ。それ以外は裸で、原種のサリエルに比べてもひどく扇情的な格好をしているのである。

 

そんな彼女にこうして全身を胸元に挟まれ、甘やかされてしまえば僕は情けないほどに無抵抗になるわけで。そうやって僕のことを抱きしめると、サリーは長い舌を口元に這わせてきゅうぅっとお腹を鳴らす。

 

 

【好き……大好きっ……!!ずっとこうしたかった……私にこうやって甘えて欲しかった………!!】

 

「うん。僕もこうしたかった……()の姿のままでごめんね?思いっきり抱きしめられなくて歯痒いよね??」

 

【ううん……平気。平気だけど、あなた見てるとお腹が鳴っちゃって……我慢はできるけど………】

 

 

胸元からサリーの顔を見上げると、サリーは三つの瞳を真っ赤に輝かせながら長い舌を伸ばし、胸元にボタボタと強い毒性の涎を垂らしていた。それもそのはず。元が純粋なアラガミの彼女は、その根幹にある食欲という本能に後天的に得た性欲が強く結びついている。つまり発情すれば強い捕喰衝動に身体が支配され、本来の姿の僕は互いに身体を与え合い捕喰させることで愛情表現を行っていた。

 

それが僕にずっと会えず、寂しい思いをさせたせいでこんな本能が強くなって発情してしまっているんだ。僕に自分の身体の一部を与えて捕喰して欲しいとも思ってるだろうし、僕のことをどう捕喰したものかと迷ってもいるだろう。

 

………でもそんなサリーの様子が、僕には少し意外だった。

 

 

「サリー……大丈夫?僕をこうして抱きしめるの嫌じゃない?」

 

【???………うん。どうしてそんなこと聞くの……??】

 

「だって、僕きっと臭うでしょ。ディーヴァに抱かれてきたから。」

 

 

ポツリとそう漏らすと、僕を抱きしめるサリーが一瞬その身を強ばらせた。僕の言葉に少しだけ目を伏せた辺り、サリーはきっと僕を見た瞬間に分かっていたはず。僕が中でディーヴァの相手をして、何回も彼女にこの身を抱かれたことを。だからこそ僕は彼女が怒り狂って僕にその矛先を向けると思っていたし、最悪それで僕がサリーに喰い殺されても仕方ないとまで思っていた。

 

そう覚悟した上で、僕はサリーにディーヴァと寝たことを謝りに来たのだ。……ディーヴァを僕に協力するよう立ち直らせるためとはいえ、僕はサリーを裏切ったのだから。その上でサリーが満足する形の罰を受けようと、夜中にも関わらずここに来た。

 

でもサリーは僕を見つめて優しく笑うと、指先で僕の頬をそれは愛しそうに撫でながら三つの目を細める。

 

 

【……大丈夫。怒ってない。私達(アラガミ)の愛情表現と人間同士の愛情表現は全然違うから。ディーヴァの事を口にしてたら(あいつに)何してたか分からないけど……】

 

「あぁ……そっか。確かにそうだね。うん……」

 

【それに……あなたはディーヴァを立ち直らせるためにこんな遅くまで頑張ってた。あいつの相手なんか苦痛でしかないのに我慢して……痛い事とかされなかった?】

 

 

まるで『よく頑張った』とでも言わんばかりに、労わるかのようにサリーは僕を慈しむ。どうにもサリーは僕がディーヴァにしたくもないのに強引に犯され、嫌なのに彼女を元気付けるために甘んじてそれを耐えたのだと。中で僕がしていたことをそう解釈しているらしい。実際は僕に愛してもらう代わりにディーヴァが僕以外の全てを投げ出し、その対価として僕の事を抱いたと言うのに。

 

あくまでディーヴァに身体を差し出した僕の身を案じ、労わるその言動と行動。それはつまり、僕が自分サリー以外の相手に嘘でも愛情を向けるのは僕にとって耐え難い苦痛なのだと。そう信じて止まない、ある種の狂気に包まれた慈愛であった。『他の女に手を出して許せない』でも『他の女に取られたくない』でもない、『他の女の相手をさせられて可哀想』だなんて。僕がサリーを第一に愛するって信じ切っていなきゃ出ない発想だもの。実際その通りなんだけどさ。

 

 

【ほら……私にいっぱい甘えて。仕事のことも嫌なことも全部忘れて、ちゃんと休んで。】

 

「ありがとうサリー。……ほんとごめんね。君がいるのにディーヴァの相手しちゃって………」

 

【うん。……あなたは一人で頑張り過ぎ。あんな大勢の神機使いと戦って、堕し児なんか生まれてそっちも大変なのに……ちゃんと休んでくれないと、私も心配になる………】

 

 

ただあくまで僕の身を案じて心配してるのは本心で、サリーは僕の身体をむちむちした胸元に挟んだまま甘やかしてくる。……その重労働に『ディーヴァの相手』が間違いなく含まれてるのは実にサリーらしいけど。でも僕は、僕のことを僕以上に心配して過保護なほどの愛情を向けてくれるサリーが大好きだから。これ以上ディーヴァのことを掘り返すような真似はせず、素直に彼女の好意に甘えた。

 

………思えば、サリーとこうして二人きりになれたのは随分と久しぶりな気がする。こうやって抱っこされて甘やかされて、いい子いい子って頭撫でられて……僕はもう昔に比べたら随分と変わってしまったけど、サリーだけはあの頃のままだ。死にかけたり僕の身体に住み着いたりして、今の姿にまで進化したけど。相も変わらず僕には女神みたいに優しいし、僕に甘えられるのが大好きみたい。

 

そうしてサリーに身体を預けて、特に何かする訳でもなく何か話す訳でもなく優しい時間がゆっくりと過ぎていく。けどそれは決して嫌な沈黙とかじゃなくて、愛しそうに僕の頭に指を当てたままサリーは笑うんだよ。それはそれは幸せそうに。

 

この時間がずっと続けばいいのに。思わずそう願ってしまうほどに、それは戦い続きだった僕には幸せ過ぎる時間だった。けど僕がそうやってサリーに甘えていると、ふとサリーが僕を抱きしめる力を緩めた。そして代わりとばかりに僕の足元に両手を拡げると、指を伸ばして腰を降ろすようにと促してくる。

 

 

「サリー?……どうかした??」

 

【あなた……あちこち身体を怪我してる。動きがぎこちなかったから……私の能力で治す………】

 

「あぁー……そういうことか。それじゃあお願いしていい?」

 

 

そんな抱いていただけなのに分かるものなのか。サリーは僕の背中が掌に重なるよう手を広げると、指を僕の身体に搦めて掌の邪眼を開く。そしてそこから神機使いの回復弾を模倣した光弾を放つと、それを全身に照射する形で僕の傷を癒した。

 

それは服で見えないように隠していた、ディーヴァに付けられた爪痕や噛み跡も完全に癒す。してる時に一回興奮しすぎて大変なことになっちゃったからね。大した傷じゃなかったから腰の方に再生能力回して放置してたんだけど……サリーには分かってしまうらしい。ついでにサリーは僕の服の中に指を入れると、身体に傷がまだ無いか触って確かめてくる。……ただ身体を触られているだけなのに、ディーヴァに愛撫されてた時以上にムズムズする。今までと違って人間を模した身体だからだろうか。サリーも感触が新鮮なのか、僕の身体をずっと指先でさわさわしてる。

 

 

「サリー。ありがとうね。おかげで完治したよ。」

 

【……………………………………………。】

 

「………あの、サリー?どうかした?」

 

 

しかしここで僕はふとサリーの様子がおかしい事に気付く。サリーは何やら僕の身体をふにふにと撫でながら、僕に熱の篭った視線を向けていた。何なら両手で掴んだ僕の身体を自身の口の方へと近付け、舌なめずりしている。

 

………いや。そう言えば、この娘さっき僕のこと見てお腹鳴らしてたっけ。一応サリー自身は我慢できるって言ってたけど……アラガミって基本的に理性より本能の方が強いし、何なら野生のアラガミは本来理性なんてものは持ち合わせていない。僕の細胞によって人間性という理性を後付けしたとはいえ、サリーは元人間の僕やディーヴァと異なる生まれついてのアラガミだ。本能に比べて理性の比率は元々低いし、ずっと放置して寂しい思いをさせてしまったんだ。我慢なんか出来るわけない。

 

つまり。いくらサリー自身は我慢するとは言っていたものの、体格差的に小柄な僕を丸呑みとかするのは全然可能なわけで。正直そうされたい気はするけど。そう思っていたら、サリーが僕の身体に柔らかな唇を押し付けてきた。

 

 

「サ……サリー?どうしたの?僕のこと、捕喰したくなっちゃった?」

 

【………ううん。あなたの事は凄く食べたい。けど、ちゃんと我慢する。我慢する……けど………】

 

「別に僕はいいよ?あまり噛み砕かれると再生が大変だから、丸呑みにしてくれると助かるけど────」

 

 

などとお願いした矢先。サリーがにゅるりと暗紫色の舌を僕の身体に這わせてきた。強毒性の唾液を多量に纏ったそれは毒に耐性を持つ僕で無ければグズグズに溶かされてしまうが、粘り気の強いそれは僕にとってローションみたいで。しかもサリーは摘むようにして僕の服を捲ると、服の中にまで長い舌を触手のように這わせてくる。敏感な部分とか舌で撫でられると凄いゾクゾクする……ヤバい、サリーにこうやって舐められるの好きかもしれない。

 

でもサリー、なんでこんな僕の身体舐めるんだろう。空腹を紛らわすためって言うには全身くまなく念入りに舐めてるし、どうしてもお腹が空いたなら僕に何かしらおねだりしてくるのに。いっぱい舐められるの好きだからいいけどさ。そのせいで全身からものすごくサリーの匂いがする。

 

 

………………サリーの、匂い?

 

 

「ねぇサリー?これ、もしかしなくてもマーキング……」

 

【……………………………………………。】

 

「ごめんね??やっぱディーヴァと寝たの妬いてるよね???」

 

 

自分の匂いでディーヴァの匂い上書きしようとしてたり、ディーヴァに付けられた傷をひとつ残さず癒そうとしたり。僕がディーヴァに付けられたものをひとつ残らず消し去り、自分のものだと言わんばかりにマーキングしてるもの。やっぱ僕がディーヴァと寝たのめちゃくちゃ気にしてるよね??

 

現にそう尋ねると同時、念入りに僕にマーキングする傍らサリーが三つの瞳に大粒の涙を浮かべた。ごめんね?本当にごめんね??やっぱり傷ついてたんだよね??僕が疲れてそうだからって口にするの我慢してただけで。

 

サリーは僕の問いに対して何も答えはしなかったものの、代わりとばかりにお腹をきゅうぅっと鳴らした。それが僕には愛情表現してってめっちゃおねだりしてるように見えた。やっぱり寂しい思いしてたんだよ。ほんと可哀想なことしちゃったね???

 

 

「サリー。……腕一本くらいなら捕喰していいよ?」

 

【………いいの?戦うのに支障出ない……??】

 

「平気平気。……これで許してなんて言わないけどさ。僕も君には()()()()()したいと思ってたから。おいで。」

 

 

僕はサリーの両掌の上に横たわったまま、サリーに向けて左腕をそっと伸ばす。そうするとサリーは僕にゆっくりとその顔を近付け、やや恐る恐るといった様子で口を開いた。

 

けれど次の瞬間。ブツリという音と共に僕の左腕の肘から先がサリーに喰い千切られ、血液を模した赤いオラクル細胞が勢いよく噴き出す。流石に欠損が大きいせいか、痛覚が鈍いこの肉体であっても明確に痛みを感じる負傷。加えてディーヴァの一件で再生能力が仕事しないのもあって、流血が止まらない。黒いローブが瞬く間に僕の血で真っ赤に染まり、その様にサリーが慌てて顔を近付ける。

 

 

【だ……大丈夫!?ごめんなさい……!!私、甘噛み程度で止めるべきだったのに………!!】

 

「いいんだよ……ただ、ちょっと傷口を吸ってくれると嬉しいな。流出させちゃうのは勿体無いから。」

 

【!!………分かった。吸っていいなら、そうする……】

 

 

だからサリーにお願いして、僕の左腕の断面を口で咥えて貰った。するとサリーは僕の傷口に舌を這わせ、味わうように流れ出る血を吸い出してくる。どうせ普段ほど仕事しないとはいえ、アラガミの再生能力により傷口はすぐ塞がるんだ。だからそれまでの間だけ。決して長い時間ではないが、これがサリーとの埋め合わせになればいいなって。僕は密着した彼女の頬を右手で撫で、夢中で僕の血を味わう彼女を愛でる。本当……こうするのも随分と久しぶりだ。

 

欲を言うと首とかも甘噛みして欲しいけど、人間を模倣した状態の僕がサリーにお願いするとマミるから。僕の傷の断面を舐め、幸せそうに目を細めるサリーを見て満足する。体格差あるとどうしても出来ることが限られてしまうが、今の僕は体力消耗し過ぎて本来の姿に戻れないから。サリーにはもどかしい思いをさせてしまっているが、慎重に慈しむように僕を捕喰してくれるのも中々悪くない。サリーには申し訳ないけど内心そう満喫してた。

 

そしてしばらくして僕の傷の断面が再生する形で塞がると、サリーはゆっくりと僕の血の混じった唾液を赤く糸引きながら唇を離す。その上で片腕が無くなった僕を見つめると、心配そうに顔を近付けてくる。

 

 

【………大丈夫?その腕、痛くない?】

 

「全然平気だよ。君こそ大丈夫?多分物足りなかったよね?右腕もいる??」

 

【平気。平気だから自分の身体を大事にして……別に、ディーヴァの相手したの怒ってないから………】

 

 

サリーは身体大きいし物足りないだろうと、右手を伸ばしたら珍しくきっぱり断られた。別にディーヴァの相手した贖罪って訳でも無いんだけど、サリーからはそう見えてしまったらしい。本当は僕のこと大事に捕喰するサリーをもっかい見たかっただけなんだけど。サリーがダメって言うなら仕方ないか。

 

ただ代わりとばかりにサリーは僕の身体を両手で捕まえると、再び僕の身体を胸元に挟む形で甘やかしてくる。なんでこう献身的って言うか包容力高いのか……このまま甘やかされてるとマジでダメになりそうな気がするが、ダメにされたい気もする。ほんと神機使いとの戦いとか無かったらここに住むのにな。柔らかいしいい匂いするしで最高すぎる。……変態ぽいから口に出さないけどね?めっちゃふかふかする………

 

 

【………じゃあ、次は私の番。】

 

「ん?」

 

【あなたのこと食べさせてもらったから……私の身体も、あなたにあげる。】

 

 

などとサリーに甘えていた時であった。サリーは自分の人差し指の第一関節を咥えると、なんとその場で噛み切った。そのせいで傷口からは赤紫色の強毒性の血液が溢れる。きっと僕との体格差を考慮して、僕が食べやすい……というか摂取しやすい血液を選択してくれたのだろう。うん、そこまではいい。

 

ただサリーはその血が滴る指先を胸元に運ぶと、衣服代わりに乳房の外側に絡むウロヴォロスの肉蔓を胸を寄せるように締め付ける。そしてなんと指から溢れる血を自身の谷間に零すと、胸元に血溜まりを作ってみせた。………待ってねサリー?まさかとは思うけど、そこから舐めてねって事?そこ舐めるって事は思いっきりサリーのおっぱい舐めることになるんだけど。どこで覚えたこんな事。

 

いや……確かに人間の姿でサリーの身体を噛み切るのは無理だけどさ。血液だって身体の一部だし、サリー的にも愛情表現として成立はするだろう。けど今までのサリーだったら傷口舐めてって僕の前に傷口を晒してきたはずなのに。明確におっぱい舐めてっておねだりしてるこの様子……それに恥ずかしそうに笑みを浮かべている辺り、何となく意味は理解してるはず。これは………

 

 

「サリー……色を知る年齢(トシ)か。」

 

【あなた胸に甘えるの好きなのに、口にしてもらったこと無かったから……嫌だった?】

 

「むしろいいの?サリー嫌じゃない??」

 

 

一応尋ねてみると、サリーは恥ずかしそうに俯きながらも小さく頷いた。……これも僕がディーヴァと寝たのを妬いた影響なんだろうか。ディーヴァに対抗するために、恥ずかしいのに背伸びして……そう考えるとほんと愛しくて仕方ないんだけど。まさか人の営みに興味を持って参考にするなんて。明らかにアラガミが行う創意工夫の域を外れた試行錯誤は、それだけ僕に喜んで欲しいという彼女の気持ちの現れだろう。

 

そういう事なら血が固まってしまう前に頂こうと、僕はサリーの谷間に顔を押し付けて舌を伸ばした。胸元に溜まった血を舐めようとすれば自然と彼女の乳房にも舌が当たってしまい、その度にサリーはくすぐったいのか身体を小さく震わす。他の生き物が口にすれば長時間の苦痛の後に死に至る彼女の血は蜜のように甘く、自然と僕は続きを求めるように念入りに彼女のおっぱいを舐めてしまう。するとサリーの顔を見ていないにも関わらず、彼女の目線に一層熱が篭もるのが分かった。

 

 

【一生懸命ぺろぺろしてる……かわいい……好き……好きっ………】

 

「ヤバいなーこれ……マジでダメになりそう。めっちゃ柔らかい………」

 

【あなたに舐められると、胸の先っぽうずうずしてくる……もっといっぱい甘えてほしい………】

 

 

そして矢継ぎ早に繰り出されるとんでもない爆弾発言。舐めて啜ってたサリーの血で思いっきり噎せてしまった。いや……まさかね。まさかとは思うけど、なんでサリー自分のおっぱい両手で支えてるの。しかも服代わりに片方三本ずつおっぱいに絡めてたウロヴォロスの蔓を背中に引っ込めて………そうする事で、何故かサリーは自身のおっぱいを完全に顕にしてしまう。

 

サリエルは元々かなり人型に近いアラガミではあるが、サリーは特に人体の部分はかなり精巧に人間のそれに寄せて作っている。だから衣装を背中に引っ込めればちゃんと乳首とかある訳なんだけど……おっぱいをモロに露出させると、サリーの額の邪眼が夜の闇の中でライトみたいに赤く輝きを放ち始める。明らかに興奮して活性化してるんだけどサリー、これってまさか────

 

 

【お願い……胸の先っぽの方も、舐めて………??】

 

「ねぇサリー意味分かって言ってる???」

 

【多分舐めてくれたら収まるから……このうずうずするの、鎮めて………】

 

 

仮にも原作年齢制限:C(十五歳以下向け)のゲームなんだけどこれ!?……いや、もうディーヴァの一件あるから今更ではあるけどさ。なんて方向に進化してるんだこの子は。両手でずっしりしたおっぱいをぐいって持ち上げて……どこでそういう事覚えてきたのか。侵攻中に捕喰した人間の中に経産婦でもいたか。流石に僕でも恥ずかしいんだけど……サリーは期待したようにこちらを見つめ、僕が甘えてくるのを待っている。

 

なんか……人間の記憶を介してサリーがエッチな方向に進化してる気がする。僕だけだろうか。確かに僕らは捕喰した情報を取捨選択して自在な進化を己に齎すことが出来るけど……こういう方向で進化を図るなんて誰が予想できたか。元が人間じゃない分、僕やディーヴァが思い付かないような事を平然とやってのけるんだよね。

 

ていうか、僕のためにわざわざ身体を進化させてくれたって考えるとめちゃくちゃ嬉しい。嬉しいんだけど、そのついでとばかりにサリーが少々拗れた性癖に目覚めかけてる気がするのは考え過ぎかな???いや、元々素質はあったけどさ。このままだと本当にサリーにダメにされそう。そう考えてしまうほど、今のサリーは包容力に溢れていて………

 

 

【大丈夫……今は誰もいないから。私とあなた、二人きりだから………】

 

「………いい?本当に甘えていい??」

 

【うん……あなたが甘えてくれると、すごく幸せな気持ちになるの。遠慮しないできて………】

 

 

その挙句にこうぐいぐい積極的に迫られてしまっては、もう僕に断る選択肢なんて無い訳で。結局僕はサリーに迫られるがまま、明らかに捧げた片腕と不釣り合いな程に彼女からの寵愛をこれでもかと受けた。しかもサリーはこの方法で自身の身体を与える感触を気に入ってしまったようで、僕が遠慮してなおしばらく僕に自身の身体を与えようと迫ってきた。

 

基本的に人類や人の営みを忌み嫌う傾向のある僕ではあるが、今回ばかりはサリーに人類が与えた悪影響に本気で感謝した。どこまでサリーに知識があるのかは分からないが、そのうち本気で本番してしまう日も近いかもしれない。そう思わずには居られないほどに、サリーは僕を甘やかし愛でる事に特化した進化を遂げていた。こんな性癖ぶち壊す方面で進化するなんて、某博士が知ったら卒倒するのではないだろうか。




因みに余談ではありますが、今回より先は本文をドラッグ。或いは全選択して見てください。造書庫(ライブラ)の読心能力を用いた主人公視点に本文が切り変わるからくりを幾つか仕掛けさせて頂きました。

今更ながらハーメルンの機能ってすごいですね。

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