様々なザイゴートに囲まれて歩くこと更に二週間。致命的と呼べるまでの餌不足に僕はやむを得ずに僕にひっついて来るザイゴート達(堕天種含む)を口にした。
その結果精神汚染が結構深刻なレベルになり、頭の中に変な声が聞こえるようにまでなってしまった。具体的には『終末捕喰』って言葉がゲシュタルト崩壊しそうになってる。
で、それ抜きにザイゴートのみを食い続けた結果。僕の身体は当時想定していたチートスペックに徐々に近付きつつある。雑魚アラガミの中では、って意味だけどね。ヴァジュラ辺りに出くわしたら死ぬのは変わりないけど。
具体的には掌の口から放つ空気弾が通常弾に加えて炎、氷、雷と撃ち分けられるようになったのとザイゴートの扱う各種毒ガスの生成。及びそれらに対する抗体が出来た。
これが地味に便利で、ヴェノムだのリークだのと言った面倒な状態異常が軒並み無効化。加えて守備力低下のガスはアラガミの結合を弱めるという性質上、今まで歯の立たなかった硬いアラガミの捕喰も可能となった。これにより最近は餌リストにコクーンメイデンが入ったりしている。アラガミから離れられねぇ。
そして何より。掌に目玉を形成する程度で済んでいた僕の肉体操作能力が、この人型アラガミの姿から完全にザイゴートのそれに変えられるほどにまで進化した。これにより一時的にではあるが飛行能力を会得。移動が随分と楽になった。
こう並べてみるとめちゃくちゃ強そうに見えるかもしれないが、それでも攻撃力や耐久力は所詮ザイゴートの域を出ない。一回クアドリガに遭遇して地獄を見たのは記憶に新しいか。あの戦車道に連れてるザイゴート何体か焼かれたしね。
閑話休題。
そんなアラガミに囲まれての奇妙な生活に慣れつつある僕だが。一番最初についてきた通常種のザイゴート……こいつが最近妙にべったりしてくる。身体を丸めて腕の中に収まってきたり、寝ていると胴体に乗っかってたり。
それだけじゃない。僕が他の堕天種のザイゴートとか食ってると割り込んできたり、他のザイゴートを毒ガスで威嚇したりと奇妙な行動が目立ってきている。
………嫉妬、なのだろうか。ザイゴートなのに??ザイゴートがそんな複雑な思考回路を持っているものなのか。どこぞの糸目の博士じゃないけどちょっとアラガミの生態に興味が出てきちゃったりしてる。
アラガミとはつまり、オラクル細胞の群体。早い話スイミーのあれたいなもんだ。その全てが捕喰という本能で動いているから個体として存在しているだけで、元はと言えば無数の生き物の集合体なのだ。詳しく覚えてないから合ってるか分からないけど、現実だとカツオノエボシとかがこれに該当したはず。
つまりこいつらアラガミは交尾とかで繁殖するわけではない。むしろ分裂、増殖したオラクル細胞が新しく個のアラガミを形成するって形になるはずなんだけど。それなのにこのザイゴート達はまるで我先に僕に身を捧げようと熾烈な戦いを繰り広げている。これはなんでなんだろうか。
することが無さすぎて、本当にくだらない疑問を抱いていた。でも元人間とはいえ僕もアラガミながら自我は持ってるわけだしね。やっぱゲーム中で描写がないだけで雑魚アラガミでも感情や思考は持ってたりするのかもしれない。うーむ哲学じみた話になりそうだな………
とにかく。そんな感じに一番最初のザイゴートが僕が堕天種ばっか構ってるのに怒ってるぽいんだよね。通常種は一番口にしてて、もう全能力を取り込めてるからさ。どうせ精神汚染されるなら、少しでも僕の得になる方を食いたいわけで。そうしてここ最近は堕天種ばっか食ってたから。それが気に入らないらしい。
今も氷の堕天種を口にしてる側で勢い弱めとはいえタックルして邪魔してきている。お前らって食われるのが愛情表現みたいな風潮あるけどアラガミってみんなそうなのか。人類にはまだちょっと早すぎる愛ですね……
そういう感じでここしばらく、僕の周りを飛び回るザイゴートの間で内ゲバが続いている。誰が今日の僕の餌になろうかというトチ狂った戦い。押し付け合うならまだ分かるけど率先して食われたがってるんだからほんとアラガミって頭おかしいと思う。
内ゲバは段々エスカレートし、最近じゃ僕の周りは常時属性弾が飛び交い、様々な毒ガスが充満するある種の地獄状態。こいつら食って得た耐性が無ければとっくに死んでると思う。遠目にヴァジュラがドン引きして離れてった時は流石に乾いた笑いが漏れた。
でもね。そんな凄惨な修羅場もある日突然終わった。
それはある日の朝のこと。なんか妙な気配がして、まだ日が昇りかけている時間にも関わらず目が覚めた。明け掛けの朝の中、辺りを見渡す。そうするとまず、僕の視界に地獄絵図としか形容できないような風景が飛び込んできた。
それは無残に引きちぎられて散乱した多数のザイゴートの羽だった。あちこち血と毒液の混ざったものが撒き散らされてるからすごいグロテスクで、まず何かのアラガミに襲撃されたのかとびびった。
結論をいうと居たんだよ。大型のアラガミが。
その姿は蝶を思わせる人型で、青白い肌を持つ女神だった。スカートを思わせる青い翅の内側には金色に輝く無数の目を持ち、同じく妖艶で無機質な顔の額にも輝く邪眼を備える。
名はサリエル。その制空能力と毒の鱗粉でゴッドイーターを翻弄し、光壁やレーザーで空中での射撃戦闘を得意とする大型のアラガミだ。そいつが寝ぼけてた僕のことを静かに見つめていた。
心臓がヤバかった。いくらザイゴート種の能力を手にした僕でも大型のアラガミは手に負えない。だから普段は小型以外のアラガミが見えたらそれがコンゴウでも隠れるようにしてたし、寝ている時は周りのザイゴートに付近を警戒させていた。
戦おうなんて気は起きなかった。むしろこの遠距離までばっちり対応出来る女神様からどうやって逃げ切ろうかと必死に考えていた。あのザイゴートの群れを寝てる僕に気付かれる事無く片付けるほどの相手だ。勝ち目なんかないしまず間違いなく食い殺される。
しかし。僕が後ずさりすると、そのサリエルは笑った。額の邪眼が目を細めるだけでなく、人の顔の部分もそれは優しく。そこに敵意や殺意などはなく、ただ穏やかに微笑んでいた。
それだけじゃない。サリエルは宙に浮かべたその身体を静かに下ろすと、僕のことを青い
このサリエル。僕に最初についてきたあのザイゴートなのではと。
だって僕がふざけて女体部分の胸を触ったのを覚えているのか、こいつ僕を抱きしめて顔におっぱい押し付けてくるもの。……すっげぇ柔らかいんだけど。体格差あるから顔を大きいおっぱいに挟まれてぎゅーってされてんの………
それでもやっぱ恥ずかしいのか、僕がサリエルの顔を見つめてたら困ったように顔を逸らした。ヤバい性癖歪みそう。歪むっていうかなんか目覚めそう。涼しげな顔に反して仕草がめちゃくちゃ可愛い。
でも反面。食い散らかされたように散乱した他の堕天種を見るとゾッとするものがある。多分だけどこのサリエル……いやザイゴート、共食いしてサリエルになったんだよね?僕が他の堕天種ばっか食ってるのが気に食わなくて、それで皆殺しにしたんだよね??
………人間もそうだけどさ。女って怖いね。僕のことを独占するように抱きしめるサリエルを見て少しだけ鳥肌が立った。邪眼ニッコリしてるけど………
「………ヤンデレかぁ。」
「♪♪♪」
前から献身的だしその気質はあったとはいえ。他の女の子とかアラガミに浮気(食事的な意味含む)したら後ろからレーザー飛んできそうで怖いな。僕を守ってくれるって意味では頼りになるけども。ほんとアラガミっていうのはよく分からない。
サリエルって結構揺れますよね。何がとは言いませんが。