神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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20.賢王(████)

それはサリーと互いに捕喰という名の愛情表現を交わした後の事。腰を下ろしたサリーの膝の上に横たわり、僕は今日の昼からの計画について考えていた。

 

少々捕喰させた場所が場所だからぐったりしている僕をサリーは指先で慈しむように撫で、掌の邪眼で僕の姿を見つめてくる。背中から生えた肉蔓に支えられただけの爆乳のせいで、膝の上からサリーの顔は見えない。

 

しかしきっと幸せそうな顔をしているのだろう。膝枕……と言うよりは膝布団とでも言うべき状態だが、めちゃくちゃ太もも柔らかいし優しく撫でられてるしで幸せ過ぎる。こんな状態で仕事できる幸福よ。

 

しかし半ば事後に近い状況ということで、特に何か話す訳でもなく静寂が続く。僕が考え事をしているせいで言葉を発さないと言うのもあるが、サリーも僕の姿を見つめて撫でる形で愛でているようだった。

 

それだけなのにこうまで幸せで、戦争のことなんて考えずにずっとこうしていたい。薄らそう思ってしまうほどに、二人きりの時間は心地よい。それはもうこの時間がずっと続けばいいのにと思ってしまうほどに。

 

 

………分かっているさ。人類に明確な攻撃を仕掛けた今、人類は僕という存在を看過出来ない。僕は人類最後の砦であるフェンリルを壊滅させるだけの能力を持つと、その脅威を世界に知らしめたのだから。

 

そうでなくともサリーやディーヴァを守るためには人類は絶対に絶滅させなくては行けない。そのためにディーヴァを僕に狂うほどに依存させ、その想いに応える事も出来ないのに立ち上がらせたのだ。今さら後戻りなんて出来ないしするつもりも無い。そこだけは間違えない。だから大丈夫。

 

ただそれでも、こうして何も考える事なく互いを愛し合える時間がどうしようもなく愛しい。けど僕がそう微睡んでいると、僕の意識を現実に引き戻すように僕の頭の中に突然感応現象が接続された。

 

 

『ご主人様ご主人様!ちょっといいですか!!』

 

『ん……ディーヴァか。どうかした?』

 

『ご主人様に言われた通り、堕し児に協力を取り付ける方法を考えましたよ!!』

 

 

感応現象越しにも自慢げにデカい胸を張ってるディーヴァの姿が目に浮かぶ。……随分と仕事が早いな。僕が提示したご褒美が待ち遠しくて仕事をさっさと片付けたって所だろうが……そのせいで雑に仕事を片付けた、なんて事は無いだろうね???かくいう僕もサリーとイチャついてて仕事さっき始めたばっかだし、仮にそうだとしても咎められる立場では無いけど。

 

もう直に聞きに行くのも面倒だから、僕はその場で造書庫(ライブラ)を起動してディーヴァの思考を垣間見る。そしてディーヴァが発案した方法を確認すると、続けざまに感応現象を飛ばすディーヴァに応答する。

 

 

『ご主人様今どこに居ますか!?今から今日の計画についてお伝えに伺います!!』

 

『今屋上のヘリポートに居るけど……ディーヴァ。『輸送路が復旧したらこの支部にもレーションのプリンが支給される』とか『バガラリー全話見れる』みたいな子どもしか釣れそうにない誘い文句は却下だからね?先に断っておくけど。』

 

『!?!??えっと……その、ですよね。えぇ勿論そんな子どもしか釣れない嗜好品を引き合いに出そうなんて、断られて当然ですよね?分かってますよ。えぇ、そんな珍案よりもっといい作戦考えてました。考えてましたが………その、ちょっと忘れてしまって………』

 

あからさまに徐々に頭の中の声がしょんぼりしてしまい、少々可哀想にも感じてしまう。そう言えば身体付きエグ過ぎて忘れてたけど、あの子の精神年齢14歳位なんだっけ。人としての享年そのくらいだったから。

 

逆に言うとディーヴァくらいの年頃の堕し児はそうした嗜好品で釣れるのだろうか。今後の参考にはするが、何にしろボツとまでは言わずとも代案は必要だ。

 

『そうか。……忘れてしまったのなら仕方ない。まだ朝まで時間があるから、ゆっくりと思い出してね。』

 

『ゔゔぅっ……!!はやくご主人様に会いたかったのにぃ………!!』

 

『感応現象を接続中だと忘れてやしないかい?本音ダダ漏れてるけど。』

 

揶揄(からか)うように欲望剥き出しの感応現象を指摘すると、僕の脳内に響く声がブツリと切れる。恥ずかしがらなくてもいいだろうに。

 

とはいえ嗜好品で釣る方針は、居住区住みだった堕し児には年齢層を問わずに一定の効果は見込めるか。僕が協力を取り付けたい堕し児は外部への通信技術を持つ人材。つまり元オペレーターとかで支部の中での暮らしに慣れた人員だけど。そういう連中以外には、単純に物で釣るという作戦は存外悪くないかもしれない。

 

それで元居住区暮らしの若年層が釣れたら、最悪オペレーターの堕し児の記憶(ぎじゅつ)造書庫(ライブラ)で植え付けて運用してもいいしね。記憶の移植は人格の汚染が酷いからほんと最終手段だけど。

 

どっちみち、元フェンリルに属していた堕し児達を懐柔する手段も別途用意する必要がある。堕し児(じぶん)達の身を危険に晒してまで、当支部の壊滅を偽装して輸送路を復旧させてまで得られる利点は何か。或いは何を利点と思わせられるか。物欲で釣れない堕し児を動かすにはそこを詰めるのが大事だ。そこに要点を絞って考えてもらった方がいいだろう。

 

何しろ今回に限らず、長期的に見ればいずれ彼らにはその命を懸けて人類絶滅のために戦ってもらう必要があるのだから。命を懸けるに値する対価を用意し、進んで戦場へ赴くような餌は遅かれ早かれ考えなくてはいけない。

 

寧ろそちらを用意できれば、今回の偽装任務も恙無く遂行されるやもしれない。偽装任務単体のメリットより、僕に付き従うメリットを提示すれば今後の作戦に於いても堕し児は管理しやすくなる。

 

………が、それはさっきも言った通り僕を殺そうと戦闘技術を磨き終わった後だ。それまでに考えればいい。

 

むしろ今回に限って言えば、別に僕は堕し児全員に同意を得て協力を要請したい訳では無い。極端な話、元オペレーターの堕し児を一人捕まえて本部にここが無事だと救援要請を飛ばせればそれでいい。それでいざフェンリルの人間がここに来るとなったら、他の堕し児達は問答無用で状況に対応するしか無くなる。

 

そしたら間違いなく堕し児の僕への不信感は煽ることになるが、元より僕への信用など地の底も同然だ。故に今の僕は堕し児相手になんでも出来る。

 

それに堕し児が僕の命を狙い、その襲撃で僕が戦闘に慣れない彼らに最低限の戦闘技術を叩き込む。こちらも堕し児が僕に尻尾を振る前にこなしておかねばならない事案だから。

 

こう考えると本当にヘイト管理が面倒だし、戦闘を前提としないオペレーターの協力者を一人懐柔出来ればそれでいいな。よし、そうディーヴァに伝えておこう。

 

 

『ディーヴァ。一つ言い忘れてたけど、元オペレーターの堕し児を一人この作戦に参加させればそれで事足りるから。その点を踏まえて、今考えていた作戦をもっかい練り直しといて。』

 

『え?それだったら他の堕し児達の命を人質に適当なオペ子ちゃん脅せば────』

 

『そういう堕し児の自由を削ぐような方法は最終手段。……陽が昇るまでにはまだ時間あるから。慌てないでよく考えてね。じゃあね。』

 

 

そう感応現象を切断すると、僕は改めてサリーの膝の上に倒れるように横になった。下手な圧政で支配して最悪なタイミングで反乱起こされたら堪ったものじゃないから。それこそ戦争中に反乱起きましたとか、身内に優しい僕でも手が滑って粛清しかねない。

 

それにしてもあれがつい前まで『堕し児に責められるの怖い』って言ってた子の言葉かよ。僕という後ろ盾得て無敵になり過ぎじゃないか?それだけ僕のこと信頼……っていうか信仰してるんだろうけど。僕以外がどうでも良くなったようで何より。僕も寝た甲斐があったというものだ。

 

にしてもこういう戦闘絡まない作戦立案能力って、もしかしてディーヴァは素でポンコツ説あるか?ディーヴァって元神機使いであって経営者や政治家ではないから。そういう内政方面での参謀は今後のことを考えると別に必要かもしれない。拠点攻撃への手際とかは見事だったんだけどな。流石にジャンルが異なると言うか、事務仕事を全部ぶん投げるには荷が重いというか。

 

幸い外への救援要請の文面とその宛先、捕まえた通信技術持ちの堕し児に送らせる内容の要点についてはもう考え終わった。ディーヴァにも一応意見は聞いておくが、こっちが片付いた以上はディーヴァに任せた元オペレーターの堕し児に協力を取り付ける方法も僕が考えておくか。

 

要はここにフェンリルの人間が来て、堕し児がアラガミとバレる危険性を可能な限り排除すればいい訳だからな。というか姿形に関しちゃ人間そのままだし、元からそんな心配なんてあって無いようなものだからな。流石にフェンリルの連中の前でアラガミの能力とか使ったら二度見されるだろうけど。

 

それさえ控えれば危険はほぼ無いと説得した上で、他支部から得られる支援の中から堕し児が必要とするものは何か。欲しいものは何か。その辺りをターミナルに目を通し、説得の材料とするのが現実的か。

 

或いは僕の目的を全て正直に語ってしまうとかね。堕し児を人類の上位種として祀り上げて、全人類に革新を促すのが僕の目標。そのための足掛かりとしてここの無事を偽装したいってね。

 

案外自分達は堕ちたのに呑気に無事こいてる人類が妬ましいって堕し児もいるかもだし、選択肢にはなるやもしれない。それ以上に堕し児は、まず僕のこと殺したいだろうけど。

 

なんて悩んでサリーの膝の上で項垂れていると、サリーが掌の邪眼を向けて僕を見つめてくる。唸っていた僕が心配になったらしい。大丈夫だよ。もしかしたらディーヴァがなんかいい案を思いついてくれるかもしれないからね。

 

 

【さっきの感応現象……ディーヴァから?】

 

「そうそう。今日中でやる作戦の中身が決まったーって連絡来たんだけどさ。ダメそうだったからボツ出したの。」

 

【………………………そう。】

 

 

なんてさっきの感応現象について尋ねるサリーに正直に答えたところ、何故かサリーがとても寂しそうな声を出した。別にディーヴァと話していたことを妬いた訳ではないらしい。ただ僕に行って欲しくないのは確かなようで、僕の身体に重ねた手に逃がさないとばかりに力が入る。

 

身体を起こして柔らかなサリーの腹部に寄りかかり、どこか落ち着かない様子のサリーを見上げる。案の定胸のせいで顔は見えないんだけど。この子は元がアラガミのせいか、造書庫で思考を垣間見ても思考が読めない。……というか、考えて思ったことをそのまま口に出すから改めて読み取るべき情報が無いんだよね。

 

まぁ本来人の心を勝手に暴くなんて蛮行も良いところだし、サリー相手にそういう事しなくて良いってのは健全で誠実なんだけど。でもなまじ堕し児の思考が読めてしまうばかりに、僕はなんでサリーがしょんぼりしてるのかが分からなかった。そういう時は素直に聞いてみるのがいいか。

 

 

「サリー。どうしたの?元気ないみたいだけど。」

 

【……あなたがあの中に戻ったら、また私は一人ぼっち。私もあなたと一緒に行きたいけど、身体大きいから………】

 

「あぁ……そっか。そうだね。なるほどね??」

 

 

尋ねるとサリーはそうぽつりぽつりと漏らし、僕を両手で持ち上げて自身の顔の前へと持ってくる。確かにサリーは身体がウロヴォロス並にデカいし、僕を追って中央施設の屋内に侵入するのは不可能だ。しかしかと言って、今後は僕が堕し児や人類との戦争絡みの仕事をする際は中央施設の中に居ることが殆どとなるだろう。

 

そのせいで外にサリーを一人置き去りにして、寂しい思いをさせてしまうのは確かに忍びない。というか僕もサリーとずっと一緒に居たい。サリーとしても中にディーヴァが居て、自分の見えないところで僕が彼女と二人きりってのは嫌だろうしね。何とかしたい。何とかしたいが………

 

 

………いや、一応方法はある。あるけどさ。

 

 

「サリー。人間の姿か、それに近い姿を模倣出来たら中に入れるけど………」

 

【………人間の模倣って、どうやるの?】

 

「んー……やり方は教えてあげられるんだけど、君が条件を満たしているかどうか。」

 

 

人間性を物にした後の僕の身体は、さっき左腕を与えた事で摂取している。それにロシア支部に侵攻する際や、その前にもサリーは人間の記憶欲しさに結構な数の人間を捕喰している。堕し児同様に人間の姿を模倣するための準備そのものは整っている。そう思いたい。

 

が、今まで僕やディーヴァ。そして堕し児などは、人の姿を模倣するために必要な分の人間性を取り込んだ場合にその意思に関係なく人間の姿に変じた。つまり意識してその姿を変えた前例がない。ディーヴァを見るに人間性を物にした後に元のアラガミの姿に戻るのは自由らしいが、逆は果たして可能なものか。

 

それに言語を解する時点でサリーも十分な人間性を保持しているとは思いたいが、元がアラガミのサリーは人の姿を模倣する難易度も僕らとは大きく異なる。僕らは文字通り、人間性を獲得したと言うよりは捕喰を繰り返して取り戻したと言った方が正しい。要は元人間が人の姿に戻った状態なわけだから。

 

しかしサリーが人の姿を模倣するということは、違う生き物へ姿を変えることと同義。果たして上手くいくものか。前例がないし、試すのは心配である。

 

あともう一つ。僕はサリーの今のこの女神としての姿が好きなのであって、無理に僕が忌み嫌う人間の姿に彼女を押し込めたくないというのもある。これに関しては僕の我儘だから仕方ないし口にも出さないけどさ。

 

それでもサリーは人の姿に封じるまでもなく顔綺麗だしスタイルいいし、おっぱいデカいし包容力溢れるしで無理に人の姿に封じる必要を感じられない。いや、そうしないと中入って来れないし寂しい思いさせちゃうから必要あるんだけどさ。

 

けどそうやって僕が悩んでいた時だった。サリーはやや恥ずかしそうに、僕を見つめたまま呟いた。

 

 

【人間の姿……なりたい。そしたら、その姿のあなたとお口同士でじゅぷじゅぷ出来る────】

 

「よし。じゃあ人間の姿を模倣する方法教えるけどさ。口で説明すると長いから感応現象でいいかな?」

 

【うん………!!】

 

 

そうあからさまに嬉しそうに口元を弛めるサリーに、僕は顔を近付けるよう手招きすると眉間に額を押し付ける。あとはそのまま感応現象を用い、僕や他の堕し児が人間の姿を模倣した時の情報をサリーに与えるだけ。それでサリーは僕らがどうやって自身の体を人の身に封じたかを理解する。

 

まずは本来のアラガミの肉体の内側に、人間の姿形を模倣した肉体を形成するんだよ。そしてその際に容姿や性別を決定。大体の人間は生前のアラガミ化する寸前の姿を模倣するが、元がアラガミのサリーはこの容姿を決めるところから考える必要がある。

 

とはいえその容姿やスタイルについては、僕やサリーが生前口にした人間の中から部位毎に形が整ったものを継ぎ合わせて整えればいいからさ。その上でサリーの好みの姿とかをイメージすれば、その姿になれると思う。

 

あとはそのイメージした身体を本来のアラガミの自分の身体の中に生成。残ったアラガミの身体の部分をオラクル細胞として大気に霧散するよう命じれば、生成された人の肉体を残してアラガミの身体は消える。結果として人間を模倣した姿に変身できるというわけだ。

 

逆に人の姿からアラガミの姿に戻る場合は、大気中のオラクル細胞に命じてアラガミの肉体を人の肉体に纏えばいい。今の僕みたいにあまり体力を消耗していると上手くいかないけど、ディーヴァを見るにこの二つの姿は気軽に切り替えられるらしいから。一度人の姿を模倣したら二度と元の姿に戻れない、なんて事は無い。

 

以上の情報をサリーに感応現象で教えたところ、サリーは僕の身体を自身の爆乳に挟んでこちらを見つめてきた。ほんとこういうこと出来るし人間の姿なんて取る必要ないと言ってあげたいけど、確かにサリーとこの姿でキスしてみたいのもまた事実。

 

それによくよく考えたんだけどね?もしここの無事が偽装できて、フェンリルの人間をこの支部に招く場合さ。僕はサリーをどうにかして神機使いの目の届かない場所に隠さなくては行けない。

 

そのために彼女を人の姿に封じ、支部内に匿うという手は決して悪くない。それこそ僕の部屋にディーヴァと共に隠してしまえばいいのだから。例え人間性が足りない場合、何人か堕し児をサリーに喰わせてでもやってみる価値はあると言える。

 

 

「サリー。模倣する人間の姿は決まっている?」

 

【決まってない……けど、あなたの好きな人の姿でいい。一緒に考えて決めたい………】

 

「いいよ。じゃあもう一度感応現象を繋ぐね。」

 

 

互いの思考を感応現象で繋ぎ、模倣する人間の姿を考える。……なんとなくゲームのキャラクリみたいだなと思ってしまったのは、サリーが殆ど僕に姿形を任せたせいだろう。おかげで人間態のサリーは随分と僕好みの姿にしてしまった。

 

因みにサリーが譲らなかったのは胸と身長は大きくしたいという二点のみ。曰く僕のことを抱いて甘やかしたいらしい。当然了承したが、なんかサリーが妙な性癖に目覚めてる気がするのは気のせいだろうか。僕は一向に構わんが。

 

そして決まった姿をサリーの頭の中にちゃんと記憶させ、今一度サリーの肉体の中に人間を模倣した肉体を生成してもらう。その上であとはサリー本来の肉体を霧散させれば、それでサリーは人間の姿を模倣できる。

 

………そう思っていたのだが、ここで問題が発生した。

 

 

【………これで、身体を霧散させるの……??】

 

「そうそう。大丈夫?身体震えてるけど。」

 

【大丈夫……ただ、ちょっと身体を霧散させるのが怖いだけで………】

 

 

そう強がって笑みを浮かべようとするサリーだったが、直ぐに不安そうに視線を落としてしまった。ある意味当然だった。何しろアラガミにとって肉体の霧散とは一般的に命の消失。即ち『死』を意味する。

 

ましてやサリーは一度、僕が傍に居ない時に命を落としかけてその身体が消滅する一歩手前まで霧散した。その感覚を覚えているサリーにとって、意図的な肉体の霧散とは自殺に等しい意味を持つ。

 

その上で身体の殆どを霧散させろなんて。生物的な本能が強いサリーは当然恐怖を覚えるし、僕もサリーが霧散しかけたあの瞬間を見ると人類への殺意と喪失を前にしたトラウマが再燃する。経験したサリー本人は尚のことだ。

 

 

「サリー、やっぱやめておこう。」

 

【えっ……でも………】

 

「君を人の姿に封じる方法は他のものを考える。だから……そんな怖い思いをしてまで人の真似事なんてしなくても大丈夫。」

 

 

何より嫌がるサリーに無理強いなんて僕に出来る訳もなく、あえなくサリーに人間の姿を模倣させる計画は頓挫した。……仕方ない。純正のアラガミを人の姿に閉じ込めるなんて、本来もっと後に現れる特異点に匹敵する事例だもの。

 

大丈夫。ずっと一緒にいる方法や外部のフェンリルの人間からサリーを隠す方法はまた考えればいい。それまでは毎日僕も暇を作ってサリーに会いに来るし、屋上(ここ)で片付けられる仕事は屋上で片付ける。

 

………それに前例のない不安定な方法で姿を変えて、万が一サリーの身に何かある方が危険だもの。僕はサリーやディーヴァが人の影に怯えなくていいよう、人類を滅ぼそうとしているのに。そのサリーに何かあっては本末転倒だ。

 

だからそんな悲しそうな顔をしないで欲しい。ごめんね?中に一緒に行けるって期待させちゃったね。代案は必ず考えるから。だからどうか、もう少しだけ────

 

 

「────ご主人様!!大変です!!!」(うわサリーもいる。ご主人様に甘えられてるのずるい。)

「騒々しいね。どうかしたディーヴァ………ッ!??」

 

「さっきご主人様の私室のターミナルで調べ物してたら、こんな事が記されていて……どうかしましたか?」(私だってご主人様にあんな風に甘えられた事ないのに。やっぱりご主人様はまだサリーが一番大事なんだ。私とあんなに寝たのに。)

唐突に二人の時間が粉砕されたせいで、僕は声のした方向に若干不機嫌な反応を返してしまった。が、声のした方を見たせいで僕は声を失うことになった。原因はディーヴァの服装である。

 

何故かディーヴァは、その頭に修道女(シスター)を思わせる黒いフードを被っていた。それだけでも首は傾げるが問題はその胴体。原作女性陣の服装よろしく、身に付けているそれはビキニアーマーに似たそれだった。

 

下半身はスリットの入った黒いロングスカートだが、デカ乳と強靭な腹筋を惜しげも無く晒したその姿からは聖職者と言うよりどちらかと言うと女戦士をイメージしてしまう。本人的には聖職者モチーフの衣装なのだろうけど。

 

ていうか、何でそもそも聖職者モチーフで衣装を作っているのか。確かに僕らは表皮を変質させればどんな衣服でも理論上は再現して身に纏えるけどさ。実際僕の部屋にディーヴァが着れそうな服は無かったし、全裸で外に出歩かれるよりはいい。

 

けどもうちょっとこう……なんて言うか、メタいけど世界観に合った服は無かったのか。いやこの世界の女は痴女多かったけどさ?そう僕が服装に困惑してるのが視線に現れていたのか、ディーヴァは得意げにそのデカい胸を張ってみせた。

 

 

「いいでしょう私の服装!!私にとってご主人様は神様みたいなものなので!!神に仕える者として相応しい服装をこの身に再現して見せました!!」(ご主人様私の身体好きみたいだからだいぶアレンジしたけど。もっと見て。)

「はぁ……やっぱりそういう理由か。君ってやつは本当にさぁ………」

 

「………この服装、お嫌いですか?」(ご主人様だってエロい格好してるのに。裸にローブ一枚とか押し倒したらそのままぶち犯せるからね?下ちゃんと履いてるだけ私の方がマシだと思うんだけど。)

好きか嫌いかで言えばめちゃくちゃ好きだが???性職者スタイル。でも僕に愛情由来の信仰抱いたせいでここまでバK……いや、頭のネジ外れたって考えるとほんと頭痛がしてくるなって。原因が僕だから咎められないってとこが尚更タチ悪い。

 

多分これが年相応の本来のディーヴァなんだろうね。僕がなまじ全部理解するから取り繕うっていうか、隠さなくなっただけで。僕の方に自慢げに駆け寄って来たから頭撫で撫でしてあげるけどさ。よく見たらスリットも結構エグくて筋肉でバキバキのぶっとももが見えている。何が僕の服装より健全だ性職者め。水着みたいなもんじゃねーか。

 

なんて新調した服装を自慢するように僕に尻尾を振るディーヴァだったが、サリーにとっては当然忌々しいことこの上ない。僕を両手で包むように抱く手前、殺意剥き出しで排斥するような真似はしない。けど僕を自身の膝の上へと転がすと、僕の姿をディーヴァから隠すように両手を重ねてきた。

 

 

【………で。この人に何の用?今疲れてるんだから、その格好見せに来ただけならそっとして………】

 

「うわっ!?ご主人様どうしたんですか!?その左腕……誰にやられたんですか!?」(許さない許さない許さない。絶対殺す。ご主人様傷つけたやつ殺す。)

「僕がサリーにあげたんだよ。休んだら直ぐ再生するから大丈夫。それより僕に何の用?随分慌てていたみたいだけど。」

 

 

僕の負傷を見て頭に血が上りかけたディーヴァを制し、サリーの手の間から這い出る。朝になったら支部長室に戻ると言い残してあったのに、感応現象も使わずわざわざ僕の元に訪れるなんて。慌てようからしていい知らせでは無いようだけど?

 

あと僕のこと捕喰したからってサリーを睨みつけるのはやめてね。僕らの愛情表現がこういうのだってディーヴァも知ってるでしょ。あまり睨み合ってるとサリーがそのうち額の目からメンチビーム撃つから。それも猛毒性のやつ。

 

 

「はい。それが……ターミナルで調べ物してたら、誰かがこんな事をアーカイブに追記したみたいで……えっとですね……」(サリーに腕あげたってことは、ご主人様もエッチな事したの?ご主人様には私がいるのに。)

「要領を得ないね。顔貸して。」

 

「ひゃうっ!??」(あっっっ無理顔近い好き好き好き好き。ご主人様大好き。顔綺麗で女の子みたいに可愛いのに男の子だって分からせてくるの本当に好き。)

身体をふわりと浮かせてディーヴァのフードを外し、右手で顔を抱き寄せ額と額を重ねる。そうして感応現象を発動する事で彼女が見聞きした情報を僕に開示させる。すると僕の頭の中にある閲覧記録が流れてきた。

 

それは今回のロシア支部の侵攻に対しての、フェンリル側の記録だった。しかも記録されたのはかなり直近。恐らく追記を行ったのは、あの戦場から逃げ延びた極東の連中だろうが……なになに??

 

 

「えっとですね……?その、今回の戦いのこと……もうターミナルにバッチリ加筆されちゃっててですね……?それで、ご主人様の名前が………」(あああもう幸せ幸せ幸せ。顔綺麗。甘えていい子いい子されたい。)

「は?……名前?僕に名前なんかないんだけど。」

 

「フェンリルが勝手に名付けちゃったんですよ!!……しかも接触禁忌種って、人類の天敵みたいな肩書きで………」《おでこギュって押し付けてくるの幸せすぎる。でもこれきっと今は私の考えてること見てるから……余計なこと考えないようにしないと。こんな変態っぽいこと考えてるのバレたら嫌われちゃう。平常心平常心。ご主人様が見やすいようターミナル見た時のことを思い出さなきゃ。》

そう続けるディーヴァをよそに造書庫(ライブラ)を用いて彼女の記憶の中で閲覧されたターミナルの記録に目を通す。そこには今回の戦いで死んだ民間人に神機使いの数、行方不明になった神機の数。施設の損壊率など、この戦いに於いて生じた人類側の被害が確認できる範囲で詳細に記録されていた。

 

そしてこれらの被害を齎した新種のアラガミ────【神骸種】と呼ばれる、僕が生み出したアラガミに関する確認できる範囲での情報。そいつらのせいでロシア支部を事実上壊滅させたことまでが全支部向けに記されていた。

 

何よりそうした【神骸種】を生み出し、明確に人類に敵意を示した知性を持つアラガミ。かの存在を人類史を滅ぼしうる唯一の存在────【第(ゼロ)接触禁忌種】として全フェンリル支部に捜索するよう促す旨が、緊急連絡として明記されている。

 

それは各支部の支部長はおろか、フェンリルに属する全ての神機使いに対する警鐘だった。遂に人類を滅ぼし、人類になり変わるに足るアラガミが生まれ落ちたと。人類の存亡をかけた、神々(ぼくら)との戦争を告げる狼煙だった。

 

明確に人類史に刻まれた滅亡の爪痕に、国に等しい支部の一つを滅ぼしたその力に人類は畏怖を示した。この【第零接触禁忌種】の名が示すのは人類史の終わり、そして僕ら神々の時代を齎すものに与えられる称号。意思なき神々に知恵を与え、戦場に導き、人類を亡き者にせよと望む人ならざる者の王。

 

 

それが、僕が初めてこの世界で授かった名前。

 

 

「──────ソロモン。」

 

【………えっ?】

 

「ソロモン。……僕の名前。そしてこれから人類が最も恐れ、忌み嫌う名前だよ。」

 

 

寄りにもよって神機使い(にんげんども)に名を与えられたのは、神ではなく人間の名が与えられたのは元人間の僕に対する皮肉か当て付けか。全く忌々しい。名無しというのも名も無き聖書の神のようで気に入っていたのに。寄りにもよって人類が僕の名付け親になろうなどと。全くもって、本っ当に忌々しい。

 

………けど、それでも気に入った。【第零接触禁忌種ソロモン】。魔神の軍勢を率いて人類史を滅ぼす、僕にピッタリの名前じゃないか。

 

 

そうさ。僕はこれで人類の敵となった。名実共に、世界の誰もが認める人類の天敵となったのだ。待っていた。ずっと僕は待っていたんだ。人類が僕の憎しみを知る時を、僕の暴威を味わう時を。僕の名前に怯える時を。サリーを喪いかけたあの時からずっと、僕は待っていたんだ。この手に人類を滅ぼすだけの力を手にするその時を。

 

……この名はその証明だ。僕が人類を滅ぼしうる存在だと人類が認めた証明だ。喜ばずに居られるものか。この名のもとに、これより人類は絶滅する。僕らが滅ぼす。僕の神骸種と共に……否、堕し児達の手によって。人類(お前たち)の歴史は終わりを告げるのだ。

 

 

 

      ──20.賢王(ソロモン):END──




主人公なのに名前解禁遅いですね。
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