神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

31 / 35
あけましておめでとうございます(遅延)

今年はガンガン投稿するぞ。


21.伴侶(セフィラ)

【ソロモン……あなたの名前。】

 

僕の身体に両手の指を絡め、うつ伏せになって顔を近づけるサリーが感慨深そうに呟く。彼女が名を持たない僕をどう呼んだものかと悩んでいたのは知っていた。例えそれが人間に与えられた名でも、サリーは僕を名前で呼べることが嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

 

しかし、得てしてアラガミは本来人間共によって名を授かるものである。そこに一切の例外はなく、それは僕同様にその脅威を知らしめた彼女達も例外ではない。幸せそうに笑うサリーに笑みを返す傍ら、僕は先程ディーヴァから得た情報の続きを改めて造書庫(ライブラ)で反芻する。

 

 

曰く、僕ことソロモンの細胞によって変じたアラガミ────フェンリルが【神骸種】と呼ぶアラガミは、現状は僕の尖兵程度の認識しかされていない。それでも支部の居住区に大惨事を齎した結果、優れた知能や進化の速度などの性能は交戦する傍から事細かに分析されていた。当然ターミナルにもその情報は錯綜しているものの、戦時中に得たものが遺言の如く殴り書きされている。

 

その中でも特に警戒されたのが、僕と共に行動した期間の長い彼女達だ。何しろ神骸種は、その体色が変わった事と捕喰能力を起点とする共通の新能力(擬似バーストと装甲化)を得た以外は基本的に既存の種類と変わらない。ゾルダートやフリューゲルなど、姿形や能力に至るまで一新した神骸種も居るには居る。しかしそうした存在はいずれも小型アラガミだ。大型アラガミには、姿や能力まで既存のものと異なる神骸種は存在しないんだよ。

 

 

────サリーと、ディーヴァの二人以外には。

 

 

この二人は、過去に数度の極東第一部隊との交戦記録もある。そのいずれもが僕の傍で連携し共闘していたこと。そして既存のアラガミを遥かに上回る新規の能力と絶大な危険度を持つこと、加えてトドメに今回の戦いだ。ロシア支部侵攻時に神骸種の指揮を行うところを目撃されたらしく、僕に匹敵する脅威としてフェンリルに睨まれたらしい。新種の【神骸種】の中でも、この二人だけは【伴侶】と呼ばれる新たな接触禁忌種に部類されていた。

 

 

まず第一接触禁忌種【ティターニア】。通常のサリエル神属以上の美貌を持つこの個体は、額と掌。さらにドレス状の巨大な翼に備えた無数の邪眼とウロヴォロスに匹敵する巨体を有する。にも関わらずロシア支部のアラガミ防壁を乗り越え襲撃するほどの飛行能力と制空能力を持ち、高い機動性と大火力を両立した害悪アラガミ。挙句に他のアラガミを回復する能力まで確認されていて、猛毒の霧を用いた状態異常まで撒き散らす始末。

 

極めつけは防壁を越えて飛来するなり、飛び回りながら無数の誘導レーザーを居住区に降り注がせる重爆撃機っぷり。着弾と同時に毒ガスを撒くこれは神機使い、民間人を問わずに夥しい数の犠牲者を出したらしい。この空襲を経験したせいで、フリューゲルの件も合わせてフェンリルはアラガミ防壁に対空防御を視野に入れるよう戦術マニュアルを書き直すようになったのだとか。

 

 

次に第一接触禁忌種【ユミル】。こちらは通常のプリティヴィ・マータとは色しか変わらないが、神骸種特有の高度な学習能力。その更に先の、最早『知能』と呼べるまでに発達した思考を認識され警戒されたらしい。何しろ氷塊や氷晶の冷気としての性質よりも、硬度を有効に用いた質量攻撃を操るのだから。しかもソーマのチャージクラッシュを氷壁で止めたり、その氷壁で他のアラガミまで守る知能持ち。将来的に神骸種はここまで賢くなるのかと、僕以外でフェンリルを震撼させたのは彼女の情報が大きい。

 

加えて前回のロシア侵攻時には、開戦と同時に氷塊を空から降り注がせる大規模攻撃を行使。結果としてフェンリルのアラガミ防壁を粉砕し、僕らが侵攻するための道を切り開いた。それでしばらく行動不能になる事まではバレてないようだが、おかげでフェンリルには『既存のアラガミ防壁を破るほどの攻撃力を持つアラガミ』と認知されてしまった。

 

 

………まぁ、人類視点だと確かにこの二人が脅威に映るのは分かる。すげーよく分かる。実際指揮官が僕なら二人は戦略兵器みたいなものだしな?優先的に殺そうってなるのはすげーよく分かる。

 

 

「だがこの勝手な『改名』はどういうことだァ〜!??誰に断って勝手な名前で追記してんだよクソがッッッ!!!」

 

【………っ!?……………!??】

 

「ご主人様!?急にどうなさいましたか!?………って、さては私達のページを見ましたね!??」

 

 

急にキレた僕をサリーがびっくりして解放してしまったため、慌てて怖がってるサリーの頬を撫でる。ついでにディーヴァにも宥めるように後ろからギュッて抱きしめられる始末だが……いや、流石にキレずには居られないだろうよこれは。二人には既に僕が名前を授けていると言うのに。勝手な名前で登録された以上、これから二人は人類────フェンリルの神機使い共にこの名前で呼ばれる。僕らアラガミの名前とはそういうものだ。

 

しかもこの名前……サリーが【ティターニア】と名付けられてるのは分かる。服とか王冠状の角とかウロヴォロスが元だから植物っぽいし、色合い邪悪でクソでかいけど妖精みたいな見た目してるから。でもディーヴァの【ユミル】……これって確か、霜の巨人の生みの親の名前だよな?北欧神話だったか。霜の巨人……プリティヴィ・マータの生みの親(オリジナル)

 

知恵を持ち、知恵を与え王として君臨する僕に【ソロモン】の名が与えられたように、アラガミの名はそれ自体が『象徴』としての意味を持つ。容姿や能力、性質などからかつて人が空想した神々、或いは実在した偉人を連想し、警戒を促す目的で与えられるのがアラガミの名前だ。

 

故にディーヴァにこの名前が与えられたということは、恐らく彼女の素性をフェンリルが理解しての蛮行だと言うことだ。野に捨てられアラガミ化した彼女と個体反応が一致したか、それとも唯の偶然か……格上の脅威として、偶然この名前が与えられただけかもしれない。

 

しかしもし前者なら、ディーヴァは『元神機使いの神骸種』としてフェンリルに警戒された可能性が高い。……いや、正確には元々アラガミ化した神機使いが改めて僕の支配下に入ったってのが正解だけど。ずっと前にディーヴァがアラガミ化したのはフェンリルも知ってるはずだから。そこが関連付けられる可能性は低い。

 

ただそれでも、前述するディーヴァの知性が元人間という出自に由来するものだとフェンリルが勘づいたのなら。それは神骸種が人間時代の記憶や知性を有する証明となってしまう。そうなれば、神機使いも条件を満たせば神骸種────いや、堕し児に変じるとバレるのは時間の問題だ。可能性に気付いて検証すれば、奴らは直ぐに気付くはず。

 

幸いまだ僕の細胞が人間すら変じさせるという情報はターミナルに記されてない。それは現状バレてないって証拠だが……単純に勝手に二人を改名されてムカつくってこと以上に、僕が思っていた以上に事態は不味いのかもしれない。僕らが人間すら汚染でき、さらには人間に擬態できるとバレては今後の侵攻作戦が根本から瓦解する。

 

 

「ディーヴァ……ありがとうね。君が僕に慌ててこの情報を持ってきたのはこのせいか。」

 

「?いえ……ご主人様の名前が決まってたのと、第零接触禁忌種とか指名手配されてたから知らせておこうと………あとあと!!私達、ご主人様の()()ですよ()()!!やっぱフェンリルから見てもそう見えるんですね!!!」(これもうご主人様と結婚してるようなものでは。幸せ幸せ幸せ。フェンリル本当にナイス。)

【伴侶……って、なに?ソロモン怒ってたけど、嫌なものじゃないの………??】

 

 

そうディーヴァを見下ろし質問するサリーに、ディーヴァは伴侶の意味を嬉々として説明していた。うん、そこまで深く考えては無かったみたいだね。情報を持ってきてくれたことには感謝してるから、ディーヴァをぎゅって抱きしめてあげたけど。そしたらディーヴァがめちゃくちゃ♡マークを飛ばし、サリーが静かにディーヴァにキレた。ごめんって。

 

でも状況にそう猶予が無いと知れた以上、行動はさっさと起こすに限る。最低でもロシア支部の陥落そのものを隠蔽し、僕の支配を悟らせないようにフェンリルの支配下に戻す所まではやっておきたいから僕はサリーに邪眼から極太レーザーを照射され、それを床から形成した氷壁で防いでいるディーヴァの腰を叩いて呼ぶ。二人ともヘリポートで暴れるんじゃないよ。崩壊するでしょ。ヘリポートが。

 

 

「ディーヴァ。ディーヴァ、ちょっといい?」

 

「は……はい!!なんでしょう!!サリー、ちょっと攻撃やめてください!!ご主人様が真面目な話あるって!!」(今の腰トントンってして呼ばれるの超かわいかった!!)

「この情報さ。追記されたのいつか分かる?」

 

 

そう尋ねると、ディーヴァはうーん……と唸り始めた。というのも、今見たロシア支部の壊滅報告や僕らの情報。これらは間違いなくここの連中が逃げ延びた極東支部から追記された情報だ。何しろディーヴァの面倒を見に行く前、僕が造書庫を介してターミナルを見た際には記録されてなかった。その時あったのは、せいぜい僕の能力についての報告やロシア支部の被害報告だった。

 

後者の情報はあくまで戦時中にロシア支部のターミナルから発信されたものだろう。

 

 

「えっと……確か、ご主人様が屋上行ったばっかの時は無かったです!!ご主人様にターミナル見ろってさっき言われた時に────」(あぁもう小さい上目遣い可愛い……ベロ入れてキスしたい。)

「んじゃ真夜中?……極東の方では朝方ってところか。ありがと。」

 

「もし正確な時間が知りたければターミナルに更新履歴残ってるはずですし、どこの支部から情報が追加されたか確認してきますけど……それがどうかしましたか?」(お腹とかにもお顔ギュッてして欲しい。私のお腹は筋肉すごくて触って気持ちいいものでもないけど……)

いや。つまり直近に更新されたってわけだね?大いに結構。もう支部長とか技術者とか、要人を避難させてるからか壊滅って判定が着くのが早いね。あの戦いの中ヘリで両支部の支部長を極東に運ぶのに半日として……交戦した第一部隊から得た情報を精査して、推敲した上で追記するまでに凡そ一日。その間こっちに生存者の確認を行うメールは来てなかったし、一支部が壊滅したって緊急連絡が含まれるから急いで更新したのだろうが………

 

おかげでこっちから連中に通信を繋ぐ大義名分が出来た。ロシア支部の壊滅が公表された以上、『まだ生存者がいる』『勝手に殺すな』『早く助けてくれ』と救援要請を出すべきは今だ。

 

そして同時。これまたディーヴァのお陰で、僕は下の階に住まう堕し児達を動員する理由も思い付いた。正確にはディーヴァって言うよりサリーとディーヴァに勝手な呼び名を付けた人間共のお陰だけど。

 

そこまで準備が整えば善は急げだ。まだ夜明けは迎えていないが、僕は仕事に取り掛かるとしよう。

 

 

「あっ……ご主人様!?どこ行くんですか!?」

 

「支部内でやらなきゃ行けない仕事が出来た。悪いけどサリー、また夜に会いに来るから。もう少しだけいい子にしててね。」

 

【……………えっ。また、中行っちゃうの……??】

 

 

ただ僕が支部の入口へと足を進めると、サリーは寂しげにそう呟いた。ほんと仕事しにくくなるなこの子は。これから暫く、他支部との外交とか堕し児の管理とかで会えなくなること増えるから慣らした方がいいのに。あまりにサリーが悲しそうにするから、僕の足取りも自然と重くなる。

 

とはいえ今回は本当に急ぎの用事だから。僕はサリーを甘やかしたいのを我慢し、サリーではなくディーヴァの方に向き直った。

 

 

「ディーヴァ。君は僕が戻るまでの間、サリーをどうにか人の姿に封じる方法を考えといて。さっき与えた仕事は一先(ひとま)ずいいから。」

 

「なっ……!??ご主人様……人の姿に封じるって、サリーをですか!?それまたどうして────」(サリー中に来たらご主人様抱けないから嫌ですが!?)

「この先他支部から人間共が訪れると言うのに、支部の敷地内に堂々とアラガミを放せないだろう?支部内の一室に匿える大きさなら、その出来は問わないから。」

 

 

そう説明するとディーヴァは、苦々しげに表情を歪めた。当然だ。今まではサリーが超大型アラガミなせいで支部の中に入って来れない。そういう前提があるせいで、支部内でディーヴァは僕を独占できていたんだ。

 

それがサリーまで人間に擬態し、支部内にやって来たらディーヴァの思い描く愛の巣はいとも容易く崩壊する。幾ら人間がいつ訪れてもいいようにと建前を述べたところで、僕の本音が『サリーに寂しい思いをさせたくない』なんて事はディーヴァも分かりきってる事だから。

 

しかもその世話をよりにもよってディーヴァにさせようなどと……幾ら僕のことが愛しくて愛しくて仕方ないディーヴァでも、苦言を呈したくもなるというもの。それが僕と寝て、僕に溺れ、僕以外の全てを打ち捨てて身も心も捧げた直後ともなれば尚のことだ。本命の恋敵なんて一番二人きりの支部内に入れたくないだろう。多分今のディーヴァにとって一番やりたくない事だと言っても過言では無い。それこそ僕の頼みでも聞けないほどに。

 

だからこそ。この僕の我儘にも近い願いを聞いてもらうには、相応の対価を払うのが礼儀というものだ。僕は踵を返してディーヴァの方に振り返ると、物申したげな彼女の腰に腕を回す。そして強靭な腹筋に覆われたお腹に顔を押し付けると、サリーには聞こえるか否かという声でそっとディーヴァに囁く。

 

 

「〜〜〜ッ!??あのっ……ご主人様!?急に甘えてどうしちゃったんですか!?いや、私は幸せだし寧ろずっとこうしてて欲しいから全然いいんだけど────」(ヤバいヤバいヤバい。不意打ちでこれは理性飛ぶ。サリーいるのに。)

「ディーヴァ。……もしサリーを擬態できるようにしてくれたらさ。僕、一つだけ君のお願いを()()()()聞いてあげる。……そう言ったら、サリーの事を頼まれてくれない?」

 

「!?!??……ご主人様、それって……サリーを人の姿にできたら、ご主人様が私のお願いをなんでも聞いてくれるってことですか!??」

 

 

ほら食い付いた。尻尾ブンブン振る幻覚が見えるレベルで。大型犬みたいに素直でほんといい子だね。やる気を出させるには十分だとは思ってたけど、ディーヴァは僕の目の前にお座りするとキラキラした目で僕のことを見つめてくる。すっかり飼い慣らされたディーヴァの様子には流石のサリーもドン引き。僕に『こいつに何したの』とでも言いたげな視線を向けてくる。ナニしたんだよ。本当にごめんね。

 

「ご主人様、なんでもって事は……その……昨日みたいなことも………」(ご主人様と赤ちゃん出来るまで交尾したい、とか言ったら引かれない?)

「もちろん。()()()()()()()()()何を望もうと構わないよ?」

 

「本当ですね!?後でやっぱダメって言ったら泣きますよ!?本当にお願いを聞くだけ、とかもダメですからね!??」

 

「そんな生殺しみたいな惨いことしないよ。心配しないで。」

 

息を荒げて詰め寄ってくるディーヴァを宥める傍ら、サリーにもちょいちょいと手招きをする。するとサリーは僕の傍にふわりと舞い降り、僕に♡マークを飛ばしまくってるディーヴァを片手で払い除ける。いや払い除けるっていうか平手打ちで壁に叩きつけた。そのまま両手で僕のこと包んでくるしで相変わらず独占欲が凄い。「ディーヴァと仲良くしてね」って言おうとしただけなのに。

 

……僕がディーヴァと話してただけでこんな妬くんだからね。貞操の大安売り(バーゲンセール)でディーヴァにサリーを任せたのは失敗だったかもしれない。けど────

 

「サリー。君の身体のことはあの子に任せるけど、あまり喧嘩しないようにね。」

 

【………嫌。私、ソロモンと一緒がいい……】

 

「僕も中での用事を片付けたら直ぐ戻るから。……それまでに上手く人の姿に収まっていたら、支部の中に連れてってあげる。」

 

 

そうすればディーヴァもいるし二人きりとは行かないが、ずっと一緒に居ることが出来る。そう説得したらサリーは逡巡したものの、僕を逃がすまいと包む両手を離してくれた。それで僕の言う通りにディーヴァの方へと向かってくれたのだが、その直後に赤い氷塊がサリーを撃ち落とした。

 

氷塊の飛んできた方向を見たらいつの間にかアラガミの姿となったディーヴァの姿があった。頭部とマントが聖女(シスター)のフードを被ったようなものになってて、四肢を覆う装甲が甲冑じみてるなど原種のバルファ・マータの姿から微妙にアップデートされている。人間態の衣装に合わせてデザイン変えたのだろうか。

 

けど相も変わらず無機質な女神像の眉間には皺が寄っており、それに呼応するかのようにサリーの邪眼にも活性化の光が灯る。さあ戦いの時間だ。ほんっっっと仲良くできねえなこの二人は!!!当たり前なんだけど!!!

 

 

 

 

 

 

「………じゃあ僕、支部ん中行って堕し児達に言うこと聞かせてくるから。ディーヴァはサリーが嫌がることをしないように、サリーはディーヴァになるべく優しくするように。いいね??」

 

【はい……ごめんなさい………】

 

「私もご主人様が嫌がることはしませんよ。ちゃんとサリーは可愛く繕っておきますから、楽しみにしておいてください。」(ぜっっったいにご主人様は私のものにするから。どんなに可愛くてエロい姿になっても、こっちはご主人様からのご褒美がある。目の前でするとこ見せてやるから覚悟しておけよ本当にこの女。)

ただでさえ左手をサリーに捕喰されてて弱ってると言うのに、特記戦力(【賢王の伴侶】)二体の正妻戦争を仲裁したから既に死にかけてます。これから僕への敵意百パーの堕し児達んとこ行こうってのに。ロシア支部落としに神機使い共と戦った時より疲れたんだが?その甲斐あってどうにか二人を表面だけでも和解にまで持ってはいったが、夜の闇は薄れて既に日が昇りかけている。ちょっと休みたいが僕も急ぎで仕事に取り掛からなければ。

 

そういう訳だから僕は不安しか残らないものの、サリーとディーヴァを屋上に残してまずは支部長室へと向かった。その上で改めてターミナルを確認するが、未だに当支部への生存確認やそれに類するメールは届いていない。

 

思えばアラガミが人間に情報戦を仕掛けようなどと、随分と来るところまで進化を遂げたものだ。本編でもその域にまで辿り着いたアラガミは居ないだろうに。造書庫(ライブラ)を起動してターミナルの使い方を調べ、同時進行でコンソールを片手で叩く。……やはりというか、支部間の連絡なんかは通信室の専用の設備を経由しないとダメらしい。が、それでいい。僕がするべきことはここでも十分こなせる。

 

幸い造書庫で捕喰済の神機使いの記憶を漁ったところ、ターミナルの操作は恙無く行えた。あとはここからだ。僕は支部長室を出て廊下を歩くと、階層を跨ぐエレベーターの呼び出しスイッチを押す。

 

神機使いの居住区より上の四階以上への侵入は、ここに招き入れる際に堕し児達に禁じてある。だからこそここにいる間は僕もディーヴァも堕し児の姿を気にする必要はなかった。だがこれより下は、僕に殺意と憎悪を抱く堕し児達の領域。実質戦場だ。これより僕は、そうした領域に踏み込んで彼らに協力を取り付けなくてはならない。

 

……正直ディーヴァ程ではないにしろ、気が重い気がしなくも無い。僕によって友人を、家族を、住む場所を奪われ、その惨禍に晒されるだけでなく否応なく加担させられた者達。親しきものを口にする事で人間性を獲得した神骸種。堕し児ってのはようはそういう存在だ。彼らの憎悪は正当性しか無い必然のものだし、並大抵の神経した子は彼らの前に出ようなんて思わない。自身がその元凶ともなれば尚更ね。

 

けど僕は幸い面の皮が厚いし、どんな手段を使おうが人類を絶滅させなきゃいけないから。僕を見た堕し児達が何をするかなんて分かりきってるが、堂々とエレベーターの扉を開けた。十中八九ベネットだろうね。いやあ楽しみだ。




実質新章開幕。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。