神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。 作:Am.
エレベーターの扉が開くと、目の前にはゲームでよく見慣れたものの三倍以上はあろうかと言うロビーが広がっていた。そこでは様々な人々が各々に談笑しており、僕が想像するよりも遥かに日常と呼べる平和な光景が広がっていた。
なんていうか……もっとこう、堕し児って元人間だしさ?人間性を取り戻す過程で絶対食人は避けられないし。感覚も残ってるし、絶対喰い殺した相手への罪悪感で吐いたり自殺しようとして首吊ってるくらいの地獄絵図は覚悟してたんだよね。だから少々肩透かしを喰らった気がしなくもない。いや、大いに結構なことなんだけどね?
あれかな。そういう怨嗟や自責の念は昨日のうちに各々断てたのかな。若しくは堕し児って殆どは元スラム同然の居住区住まいだから?フェンリルの中央施設での暮らしが快適過ぎて、そういう嫌なことは忘れられたとか。今も随所でチラホラ自販機のドリンクに感動してる子とか居るもの。
加えて各々に人間をぶっちぎりで超越した生物の能力を獲得したわけで?この身体で何ができて何ができないかなど、試行錯誤するのが楽しいって連中も結構いる。そうだよね。どう考えても相応以上の代償は払ったけど、前の餓死しないだけで幸福みたいな居住区暮らしから抜け出せたんだ。
僕が招き入れたここではボロ布じゃない綺麗な服を着れて、食べるものにも困らず、個室もあれば寝心地のいいベッドまである。その上娯楽や嗜好品にも当面は困らないと来た。元居住区住まいならまず間違いなく全員が憧れた暮らしだ。それが手に入ったとあれば、怨嗟など差し置いて僕に感謝してくれても不思議では無い。
復讐ってのは基本的に自分の運命に決着をつけるための行為だから。これから先の幸福が約束された今、そうした生活を投げ捨ててまで勤しむ奴はそう居ない。案外この調子なら僕が軽い協力をお願いしても快く引き受けてくれるんじゃないかな。そう思った僕は柔らかい笑顔を浮かべ、堕し児達へと声をかけた。
「やぁみんな、おはよう。新生活を満喫してそうで何より────」
「出やがったなこんのクソガキャアァァァ!!!」
「よォくもこんな身体にしてくれたわねェ!??」
「我が娘の仇!!ウ"ワ"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!」
声かけるなり堕し児のほぼ全員が一斉に襲いかかってきた。知ってはいたけど勢いと殺意がすごい。しかも人の形を保ったまま、器用に腕だけ各アラガミの部位を再現して攻撃に使ってくるんだ。進化の速度がすごいと片付けるのは簡単だが、僕を殺したくて頑張って練習したのだろう。懐の拳銃を抜くが如くアラガミの能力ぶっぱなして来たもの。
とは言っても流石にまだ中身は戦闘経験皆無の元民間人だから?僕はつま先にディーヴァの能力を発動すると、赤い氷晶の壁を床から真正面に展開。赤黒い泥みたいなグボロの放水とか黒く輝くヴァジュラの雷撃とか、雨霰のように放たれる弾幕を逸らさず受け止める形で無効化する。屋内のロビーでバカスカ能力撃ってきやがって。これからフェンリルの人間招こうってのに、中ボロボロになったらどうしてくれるんだ。
「全く……僕に復讐しようとするのはいいけど、施設を傷つけないようにね?ここの設備を使うのは君達なんだから────」
「飛び道具はダメだクソ!!あのカス防壁張ってやがる!!」
「だったらぶち抜きゃいいだろ!!退いてろ、先ずは俺が行く!!」
けど僕がそう注意した矢先。
【なんだこの防壁!?……唯の氷じゃねえな!!鋼鉄性のオラクル細胞を織り交ぜて硬化してやがんのか!!」
「………へぇ。マジか。」
何しろそう悪態を吐くのは、白い体毛に黒い装甲を纏ったヴァジュラだった。色合いが神骸種というだけで特別姿や能力が異なるという訳では無い。ただ、僕が展開した防壁に突進を叩き込んだ後の次の瞬間。その身体が黒く霧散したと思ったら、元の堕し児の姿に一瞬で戻ったのだ。
この能力は蝕装と共に堕し児の基本能力として備わっているし、ロシア支部に入れる際には確かに使い方は教えてある。何しろ蝕装と違って神機の振り方とか知らなくていいし、変じた後の身体の扱いに慣れれば元民間人でも戦力になるからね。けど………
「これは驚いた。もう蝕鎧を実戦で運用できるようになっていたとは。こういう事が出来るのは君だけ?それとも君達全員かな?」
「氷由来の能力ってことは使うべきは炎系のアラガミの能力だ!!……大型って何がある!?あいつの防壁を破れそうなやつはなんだ!!」
「クアドリガ辺りなんてどうかな。ほら、あの背中にミサイルポッド付いてるやつ。堕天種や接触禁忌種はまだ情報足りなくて悪いね。現状炎属性の大型アラガミってそいつくらいしか────」
僕がそう提案すると同時、再び目の前の堕し児の全身が黒く渦巻くオラクル細胞に覆われる。そうして身体に纏ったそれが霧散すると、そこには凡そ色合い以外は原種のままのクアドリガが立ち塞がっていた。……どうやら今まで僕が口にしたアラガミの姿であれば、既に全ての種類に変じられるらしい。全ての堕し児がここまで出来るかどうかは分からないが。
……いや。
ほんっと進化の縮図を見ているようだ。たった一晩ちょっとでここまで出来るようになるなんて。よっぽど僕のこと殺したくて練習したんだろうね。僕としても喜ばしいよ。
ただ惜しむらくは、いくら能力を使いこなしたところで堕し児は元一般人が大半。例え仮に元が神機使いであったとしても、知性を持つ相手との戦闘経験は圧倒的に不足している。駄目じゃあないか。敵の提案を真に受けて姿を変えちゃ。
確かにクアドリガのミサイルならディーヴァの能力は氷だし破れるかもしれないが、そもそもここはロビー。いくら極東の三倍以上の広さはあると言っても、天井の高さなんてたかが知れている。クアドリガなんてクソでかいアラガミに変身してしまえば、頭が天井につっかえて動けなくなるだろうに。
【なっ……頭が当たって身動きが取れん!!ハメやがったなあのガキィ!!!】
そうして天井と床に挟まり、居心地悪そうにずりずりしてる傍ら。僕は右手に神機の長剣(ロングブレード)を模した蝕装を展開し、赤晶の防壁の裏から飛び出す。そして跳躍と同時にクアドリガの骸骨頭をすれ違いざまに両断し、先ずは視界を奪った。
そうすると胴体の背中に当たる位置が裂け、人の形をした堕し児の素体が上半身を現す。視界が途切れたから外見ようと出てきたんだね。
「………クソッ!?あのガキ何しやがった!!頭を破壊されたのか!?」
「そうだよ。あと戦闘中に生身は晒さないようにね。危ないから。」
「なッ────」
で、出てきたのとほぼ同時に素体の首を一閃。宙に刎ね飛ばした後、刀身の側面に生首の断面を乗せる形で受け止める。モグラ叩きじみて首を
こういう知識で得がたい実戦経験はこれから神機使いと戦っていく上で必須になる。相手の行動の意図や目的、それらを想像した上での先読みや能力の選別。こればかりは戦いを数こなし、身体で覚えなきゃならない。
幸いにも彼らはまだ僕に根深い怨恨を持ってるし、好き好んで僕を殺そうとしてくるけどね。その際に僕は神機に由来する能力のみで応戦し、こうして死なない程度に彼らを痛めつける。それだけで神機使いとの擬似的な実戦経験は積ませられる。
その過程で堕し児達は蝕鎧も能力も僕を屠ろうとより強力なものを考案するだろうし、どんどん強力なアラガミに進化するはず。そうなってくれれば堕し児は対人類用の尖兵としては十分なほどに仕上がる。
行く行くは新種の接触禁忌種に匹敵するアラガミがポンポン生まれ、そうした能力が人の知能の元に振るわれるんだ。そうなれば人類は為す術なく絶滅するだろう。それこそパンドールなんざ出る幕もないほどに。
とはいえそうした戦闘訓練を行うのは今日ではない。何しろ今日の僕は彼らに火急の用がある。だから騒然とする堕し児達の前へと舞い降りると、僕は蝕装の刀身に乗せた生首を投げて足元に転がした。
当然それだけで堕し児は怖気付いて
「さて。次にこうなりたい子は?今日は別に君達を虐げに来たわけでもないし、気が済んだのなら話がしたいんだけど。」
「この澄ましたオスガキが舐めてんじゃあないぞッ!!第零接触禁忌種だか何か知らんが、そんな神機擬きでこの人数の大型アラガミを────」
そう脅迫気味に話し合いを持ちかけてはみたが、当然堕し児達は蝕鎧を纏って応戦しようとする。しかしその姿が大型アラガミに変わることは無かった。
その様に堕し児達が互いに顔を見合わせるが、実態は別になんてことは無い。ここは襲撃で入り口が崩壊しているとはいえフェンリル支部の中央施設内。パンドールを中で爆破したとはいえ、屋内に舞ってるオラクル細胞の量なんてたかが知れている。
だから複数人が大型アラガミの蝕鎧なんか纏おうとすれば全員が纏うオラクル細胞の不足で等しく不発に終わるし、そもそも屋外であっても大気中に舞ってるオラクル細胞は無制限じゃない。一箇所の戦闘区域で大型アラガミを模した蝕鎧を纏えるのは、普通のエリアであれば四体が限界だろう。
まぁ今回僕がロシアを落とした時みたいに、予め別エリアで蝕鎧を纏ってから戦闘区域に行けばその上限も無視できるわけだが。或いは既にいるアラガミを抹殺して大気中のオラクル細胞を増やすとかね。とにかくその辺の運用とかも、実戦と合わせて覚えなきゃいけないね。
「────ッ!!なんだ!?なんで化け物に変身できない!?やり方は間違ってないはずなのに!!」
「場所が悪いんだよ場所が。本気で僕を殺りたいなら、こんな狭い場所じゃなくて外出時を狙いなさい。多分これからよく出る事になるから。」
そして彼らが未だにやる気満々ってのもよーく分かったから。黙らせるついでに『堕し児はこんな事も出来るんだぞ』と、僕は蝕装の刀身を縦に展開する。そして付け根の銃口代わりの邪眼を堕し児に向けると、銃撃を模した赤黒い光弾を放った。
それは黒い弾道を残すほどの速度で堕し児の胸元を貫くと、四肢と首が宙に撒かれるほどの風穴を胴体に生成する。しかもそれは一人ではなく、射線に立つ複数の堕し児全てに同様の現象が引き起こす。
そしてそこから間を置かずにもう一発。さらにもう一発。威力に見合わない連射速度でガンガン撃ちまくり、射線に立つ堕し児の身体を重機関銃の如くなぎ倒して行く。未だ蝕鎧を纏おうと抵抗する堕し児は為す術なく首を残して霧散し、反撃を試みようと肉体を変質させればその箇所から撃ち抜かれる。
銃型神機の
こんな感じに今の僕は、神機のほとんどの能力を使用出来る上にそれらの能力を併用して新たな能力として扱える。そういう意味では極東の連中ってイレギュラーを除けば、通常の神機使いより相当強力な神機使いってわけだ。
その上で今まで口にした神機使いの戦闘経験もきっちり
さらに僕が用いる蝕装は刀身の開閉だけで剣形態と銃形態を使い分けられる銃剣型。本来なら近いうちに新型神機って似たようなものが神機使い達の間に流通するんだけど、この時代から見れば実用化はまだ先だ。そもそもそんなもんが実戦配備される前に人類は絶滅させるつもりだけど。
そんな時代を先取りした武器で全神機の機能を銃剣問わず併用でき、神機使い数十人分の戦闘経験を記憶として持つんだ。そんな僕に堕し児の一人一人が勝てる……まで行かなくても、ある程度互角に戦えるようになったのなら。それはもう大半の神機使いは敵にすらならないと言っていい。
けれどそんな僕の理想値に現時点で達している堕し児は流石にまだ存在しない。それは僕の重撃弾による蹂躙を見た結果、堕し児達も痛感したらしい。このまま僕に挑み続けるべきか降伏すべきか、代案を探るようにざわめき出した。おかげでひとまず僕に対する攻撃も止んだよ。だから今のうちに、僕はさっきの続きの言葉を紡ぐけど。
「一回降参、って事でいいなら話をするけどね。君達が僕のこと憎いのは知ってるけど、火急の用事なんだ。どうか落ち着いて聞いてくれる?」
そう諭してはみたが、一斉に堕し児達の頭上に「!?」が浮かび上がると口々に騒音じみた罵声の嵐が飛んできた。だからもう一回重撃弾をぶっぱなして黙らせると、咳払いを挟んだ後にまた口を開こうとした。
けど僕思ったの。『これもう感応現象で直に頭に情報を叩き込んだ方が早いな』って。演説垂れ流せるほど治安よくないもの。それに感応現象も通信代わりに使えるようになって欲しいし、僕が急いでるってのはマジだから。
何しろ堕し児達に強引に協力を取り付けるためとはいえ、さっき僕は盛大なやらかしをした。それこそ人類を絶滅させるどころか、このロシア支部が堕し児もろとも壊滅するかもしれないほどのやらかしを。だから僕は未だにざわめく堕し児達に感応現象を接続し、脳内に直接言葉を届けた。
『あー……まずはね。昨日の夜くらい、かな?この支部の中でターミナルを使った子がいるみたいでさ。早い話、ここの支部が無事だってフェンリルの連中にバレました。大体数時間前の話だったか。』
「はぁ!?ここの無事がバレる事の何がマズイんだよ!!そしたらフェンリルの連中が助けに来てくれるじゃねえか!!つかこいつ、脳内に直接!??」
『その通り。このままだとフェンリルの連中が近いうちに来る。
僕のやったやらかし。それはさっきここに来る前。サリーの身体をディーヴァに任せ、支部長室に寄った時のことである。僕は支部長室のターミナルから、フェンリルのデータベースにある情報を追記した。
その追記した情報。それはロシア支部にて初めて出現し、侵攻時に民間人相手に猛威を振るった新型の神骸種。小型アラガミをベースにした『
神機使い側からしても神骸種の情報は少しでも欲しいはずだからね。例え敢えて幾つかの情報を抜いて記したところで気付きやしないし、ロシア支部がとっくに僕の手に落ちてるなんて発想も消せる。
それでも壊滅寸前だったはずのロシア支部から、どういうわけかデータベースに対して追記があった。それもフェンリル側にとってもめちゃくちゃ有用な情報。傍から見ればそれはロシア支部に人間がまだ生存している決定的な証拠となる。
それが確認できた以上、フェンリルはこのロシア支部を放置することは出来ない。何しろここは神骸種との戦闘経験がある唯一の支部なのだから。色々聞きたいことは山積みだろう。
まぁ実際のところ、生存確認のメールの類が来てなかった辺りはとっくに滅んだものとして放棄されてるかもしれないんだけどね。しかしここロシアは元々神機の研究設備が豊富だし、メールが来てなかったのは僕が情報を追記する前までの話。こうして生存者が確認された以上は形だけでも救援部隊が派遣されるかもしれない。
結局のところ、どっちになるかは僕にも分からないんだ。僕としてはロシア支部の無事を偽装したい以上、後者の方が都合がいいのだが。けど僕が暗に『フェンリルの連中が来そうでヤバい』と口にすると、堕し児達は一気に静まり返った。
「………えっ。待って?それってもし、私達がアラガミになってるってバレたら────」
『まぁ皆殺しだろうね。どこの誰がやらかしたのか知らないが、バガラリーやら何やら夜遅くまで視聴してくれちゃって。生まれて初めての娯楽だし、前もって注意しなかった僕も悪かったけどさ。』
「ギクギクギクゥッ!!?」
そう小言を交えたところ、青ざめる堕し児達が多数。それもそのはず。僕は
それが原因でフェンリルの連中が来るかもと通告すれば、心当たりがない堕し児の方が少ないのだ。実際はそんなメディア再生くらいで支部の無事がバレることは無いのだが。自分達のせいでここが全滅しかけてるとなれば、堕し児達も幾分か協力的になるはず。
そう思って僕は支部長室のターミナルからデータベースに接続し、アクセスの履歴を敢えて残した。要は十割僕のマッチポンプである。さすが第零接触禁忌種。やることが汚いね?でも彼らがターミナル触りまくってたのは事実だから。むしろそのやらかしを許容するよう微笑みかけると、何食わぬ顔でようやく本題に入った。
『なに、やってしまった事は仕方ない。犯人探しは別にしないよ。……けど流石の僕もこのままフェンリルの連中が来ると困るから。君達の中から協力者を募ろうと思って来たんだよ。』
「どっ……どうにか出来るのか!?こんな身体になったけどよ、ここでの暮らしは最高なんだ!!死にたくねぇよ!!」
「俺達は何したらいい!?ていうか何できるやつが要るんだ!?何をすればフェンリルの連中を追い払える!??」
「私は元々ここの清掃員だ!!出来ることがあるってんなら言っとくれ!!」
そう一気に詰め寄ろうとする堕し児達に対し、僕は唇に人差し指を当てることで制する。……嘘も方便とはよく言ったものだ。あの僕への殺意と憎悪に満ちた堕し児が、こうも僕に協力的になるなんて。
流石に支部内での快適な暮らしに味を占めさせた以上、死なば諸共の精神で僕を殺したい堕し児は居ないらしい。せいぜいあとは諸悪の根源たる僕を排除すれば完璧ってくらいで。
おかげで下地は整った。これでこの支部の安全が確保されるまでの間、一時的とはいえ堕し児達は僕に従ってくれるだろう。
そして一時的でも協力を取り付けられたのなら十分。ディーヴァと話してる時はどうなる事かと思ったが、案外どうにかなるものだな。これで本格的に僕も行動を起こせる。
「────そうだね。じゃあまず、この中に元オペレーターとか、支部の外に連絡を繋げる子はいる?もしいたら手を挙げて欲しいんだけど。」
「いや、私達つい最近までここの外で暮らしてたし……そういうのできる人なんて………ねぇ?」
「ん。ここにいるけど。」(チャンス到来だ。こんな早くにあいつに近寄るチャンスが来るなんて。)
そうして僕がまず尋ねた結果。この騒然とした状況に似つかわしくない、何処か緩い女の声がカウンターの方から響いた。その声の方向に僕と堕し児達の視線が一斉に向くが、その声の主たる少女は意に介することもなくカウンターからこちらをじっと見つめている。どうもさっきの堕し児達と僕のスマブラにも傍観を決め込んでいたらしい。
服装はオフショルタイプのオペレーターらしいそれなのだが、胸元ガン開きだしへそ出しに改造されてるしで露出度高くて派手な感じがする。髪は肩にかかるくらいのアッシュグレーで、耳とかへそには黒いピアスが開いてる。ネイルもバチバチに決めてるし、その風貌は所謂ギャルというやつだ。しかも肌白いしまつ毛長いしで、めちゃくちゃ顔がいい。
おまけにカウンターテーブルに腰掛けて足を組む彼女は、自己主張するように両手の人差し指で自分の顔を指す。口角釣り上げて緩く笑うその振る舞いは、絶対フェンリルが無事な頃はタツミさんみたいなのを量産してただろう。現にロビーに居た他の堕し児達もその娘が挙手すると歓声を上げた。
「おぉっ……ジゼルちゃん!!そうか、ジゼルちゃんは前からフェンリルでオペレーターしてたって言ってたな!!」
「そうなんだ。説明ご苦労さま。」
なんて早速強火のオタクと化してる元民間人の堕し児を流しつつ、僕は彼女の方へと足を進めて向き合う。正直に言ってしまえば、彼女のことは僕も既に知っている。何しろ僕がここに来たのは、堕し児の誰かと言うよりは彼女に協力を結びつけるためなのだから。
彼女の名はジゼル・レイヴラント。元ロシア支部のオペレーターだ。歳は21。……なのだが、十代前半くらいからフェンリルに勤めているソーマみたいなタイプの娘でね。なんとディーヴァがまだ神機使いとしてロシア支部に所属していた頃からオペレーターをしている。
当然ディーヴァとは顔見知りだし、当時はディーヴァとも仲が良かったらしい。ここ襲撃した時にもディーヴァがチラッと話とかしていたしね。僕に『絶滅させんの待って』ってなったのもこの娘が原因みたいだし。
しかも彼女は元神機使いでもあり、昔は旧型のチャージスピア使ってたんだって。引退してからはオペレーターになったけど、そんな訳で現場の戦況なんかにもバリバリ詳しい超優秀オペ娘ちゃんだ。基本的に仕事のモチベが低くて怠け癖があるのが欠点ちゃ欠点だけど。
……なんでロシア支部に来たばっかの僕が初対面のこの娘のこと詳しいのかって?
とにかくそんな感じの超敏腕オペレーターだから、外部に通信を繋ぐ上では絶対に要ると思ってロックオンしてた。それこそここに来る前、メンタル病んでたディーヴァの相手をする前から。何なら
そしてこれからフェンリルと本格的に戦争していく上でも、堕し児の中でも特に彼女は必要になる。良い関係を築くのは難しいと思うが、ゆらゆらと赤い腕輪付きの右手を揺らすジゼルの元に僕は歩を進めた。けどそうするとジゼルは何故か、僕の顔をじぃっと見つめてきた。
「………ジゼル、だっけ。僕の顔見てどうかした?」
「んーん。……いや、キミがあの第零接触禁忌種なのかーって。随分と人間みたいに喋るんだね。元はアラガミなのに。」(こいつがアレイスターやシーグリッドを殺したアラガミか。人の皮を被った化け物め。)
「まぁね。それがどうかし────むぐっ。」
そう尋ねかけた途端。ジゼルは僕の身体をぎゅっと抱き寄せ、僕の頭を自分の胸へと押し付けてきた。マジでなに!?いや、柔らかいしめちゃくちゃいい匂いするんだけどさ!?ちゃんと身だしなみ整えた人間の女の匂いが!!しかもなんか後頭部撫で撫でされてめちゃくちゃ甘やかされてるんだけど!!腰の辺りに腕回されて、ぎゅーって身体押し付けられながら!!
人によっちゃご褒美もご褒美だろうが、初対面でこうもグイグイ来られると流石に僕でもビビるんだわ。一体なに考えてんだと思って造書庫で彼女の思考を読んだが、そうすると思考と行動が一致してなくて余計分からなくなった。マジでなんなのこの娘???
ただ幸い僕はディーヴァに夜通しぶち犯されたり、サリーのおっぱい吸ったりで女の子には耐性できてるから??こうやってがっつり色仕掛けされても平静保ってるわけだけど。でもジゼルは僕の反応が気に入らなかったのか、僕が上目遣いで見つめると頬を僅かに膨らませた。
「反応薄いなぁ。超かわいいジゼルちゃんのおっぱいなんだから、もっと照れたり甘えたりしていいんだよ?それとも人間の女の子は守備範囲外??」(ああ憎い。憎い。私の恋人を奪ったことも、私に子どもを奪わせたことも。そしてそれを知るかと愛らしく微笑む姿も。その何もかもが憎くて仕方ない。)
「別にそういう訳でもないけど。ただ初対面でギュッてされたから驚いただけ。……柔らかいし幸せなのはそうだけどさ。」
「ならもっとちゃんと甘えてよ。ジゼルちゃん、ここの王様のキミに媚び売っときたいだけだから。そんな怖がんなくても平気だよ?」(でも今は我慢しないと。今の私じゃこいつには勝てない。私はまだこいつの事を何も知らないし、こいつを殺しうる能力も持ち合わせていない。こうして他の子の殺意を煽るくらいしか、今の私はこいつに抗えない。)
なんてへにゃっと人懐っこく笑いながら僕をクエストカウンターに座らせ、僕の右手を握るとジゼルはその整った顔を近付けてくる。それこそこのまま舌入れてキスされちゃうんじゃないかってくらいに。しかもここロビーのカウンターなのに。
めっちゃ他の堕し児達に見られてるのにグイグイ迫られて、堕し児達の視線が痛いっていうか……特に男性陣が『ブチ殺すぞゴミクソ野郎』って顔に書いてあるんだけど。さっき協力的になりかけた堕し児達に一気に殺意が漲ったな。この娘いるから攻撃飛んでこないだけで、何人か肉体変質させて臨戦態勢入っているもの。
それもそのはず。何しろこの女、それが目当てで僕にハニトラ仕掛けてやがるから。僕に懐柔されかけてた堕し児達を再び殺る気にさせるために、自ら身体を張って焚き付けてるんだよね。ギャル娘ちゃんは大体頭弱いイメージが勝手にあったがとんでもない。ジゼル・レイヴラント。中々どうして面白い娘じゃないか。気に入った。これからの人類との戦争においてその狡猾さはいい武器になるよ。
おかげで僕の堕し児の懐柔は振り出しだ。色々な仇ってのと同時に大人気オペ娘ちゃんに♡飛ばされてるって罪状まで擦り付けやがって。僕悪くないのに。新手のサークルクラッシャーかなにかか??
「で、ソロモン?キミはジゼルちゃんに何をして欲しいの?」(それにこいつが一体なにを考えているのか見極めなくては。データベースに自分の手駒の情報を書くなんて。他の支部にここの無事をバラすものだと、何故分かりながら書いた?こいつの目的は??)
「とりあえず他支部に連絡繋ぎたいんだけど、君にはその連絡役をお願いしたいなって。それだけで僕には十分媚び売れるから、手を離して貰えると助かるな。」
「はいはい。そんな恥ずかしがんなくてもいいのに。」(そしてこいつの目論見を理解できれば、つけ入り殺す隙も伺える。そのためにも私はこのアラガミのことを知らなくてはいけない。知り尽くした上で、万全を期した上で抹殺する。キミの罪過は死ぬことでしか償えないと、その身を以て思い知らせてやる。)
乱暴に振り払っても波風立ちそうだから、僕はやんわりとジゼルに公開羞恥プレイやめてねってお願いした。これ以上堕し児達の憎しみの火に油を注ぎたくないから。
けどジゼルはそんな僕の意図を知ってか否か、僕の右手を離してはくれたものの僕の頬に掌を当ててゆっくり撫でてきた。おかげで他の堕し児達が『どうする?処す?処す??』ってざわめき始めた。そういうとこだぞ。
「………でもそうだね。確かにここだとみんな見てるし、二階の通信室行こっか。ジゼルちゃんもキミと二人きりが良いし。」(とはいえこいつに取り入るのはどうしたものか。色仕掛けが効かないとなると、仕事で使えると思わせるしかないか。)
「発言の悪意がすごいなおい。他の支部に無事だから大丈夫って連絡するだけだからな??」
「じゃあみんな、ジゼルちゃん帰ってくるまでいい子にしててね?ジゼルちゃんこの子と二階行ってくるから。」(幸い堕し児の中で頼れる相手が私しかいない以上、こいつは私を積極的に使おうとするはず。優秀だとアピールするチャンスはいくらでもある。)
その上で核弾頭級の起爆剤を堕し児達に投げつけた後、ジゼルは僕の手を引いてエレベーターへと向かった。ほんっと火種蒔くの手慣れてやがんなこの娘。炎属性のアラガミか何かで?
これで僕が他の堕し児達になにか協力を要請したりってことは半ば不可能になったわけなんだけど。二人きりで他の場所に連れてくとかつまり
………まぁ、僕の方もそっちのが都合いいから構わないんだけどさ。実際僕もジゼルに協力を取り付けたかっただけで、現状ほかの堕し児達には用も無いから。むしろ戦闘経験の獲得とより強力な能力を内包した
ただエレベーターの中に入ると同時。堕し児の目がもう無いにも関わらず、ジゼルは僕に後ろから抱きつくとエレベーターのボタンを押した。そしてわざとらしく僕の後頭部に柔らかな胸を押し付け、僕に身体を密着させると声量を落として囁く。
「しかしキミは悪い子だよねー。アラガミなのにあんな悪知恵、一体どこで覚えたんだか。」
「悪知恵?僕なんかしたっけ。」
「フェンリルのデータベースへの書き込み。……やったのキミでしょ?キミはあの子達に言うことを聞かせるため、わざとこの支部を危険に晒した。ちがう??」(そもそもどこでターミナルの扱いなんて知ったんだ。腐ってもアラガミのはずなのに。人間の機械をもう理解してるのか?このアラガミは。)
半ば確信を得た口調でジゼルが尋ね、僕を抱きしめる力を強める。別にバレたところで困ることでもないから肯定として笑いかけたけど。いや、ほんとギャル娘ちゃんが頭弱いってイメージは払拭しないとね。恐ろしいことにこの子、僕がやらかした事に最初の方から勘づいてたんだよね。逆に言うとそれを分かった上で、僕が堕し児達に協力を求めるのを黙って見てたわけなんだけど。
「いけないんだー。人間の間だとね、そういうの『マッチポンプ』って言うんだよ?バガラリーとか見たせいで支部の無事がバレたとか嘘ついて、ジゼルちゃん以外に神機使いだった子がいたらどうしたのさ。」(それにこいつ、なんで他の子の行動を把握してた?監視カメラ?それとも他に何か私達の行動を把握する能力でも持ってるのか。探りを入れたいけどいきなり聞くのは危険かな。)
「そしたらその時はその時だよ。……わざわざここで僕に尋ねたってことは、君は他の子にこの事を黙っといてくれる。そう考えていいのかな?」
「当たり前じゃん。ジゼルちゃんはキミと仲良くしたいんだから。キミが困るようなことはしないよ。」(いや、やっぱ今はこいつの信用を獲得するのが第一だ。下手なことは聞けないし、真意を悟られてはならない。なるべく友好的に振る舞わないと。それが最終的にこいつの抹殺に繋がる。)
堕し児達の面前で僕とイチャついておいてよく言う。なんて恩着せがましく笑う彼女に返さなかったのは、彼女の言葉そのものに嘘は無かったからだ。その胸中に抱えた目論見はさておき、ジゼルが僕に味方してくれるのは本当。少なくとも僕が彼女の心を読めると気付かれない限りは、彼女は貴重な堕し児の協力者でいてくれる。
そして同時にこの娘は面と向かって敵に回すにはあまりに厄介だから。たった一日と少しで堕し児達にあそこまで慕われた人望も、僕の企みを見抜き悟るその聡さも。僕が造書庫を用いてやっと出来ることを素の能力で出来る彼女は、野放しにすれば僕の人類絶滅計画を破綻させかねない。
何しろこの娘、僕への恨みや憎しみの強さで言えばロビーにいた子達の十倍くらいヤバいからね。正直話しててキツいもん。自分のこと憎くて憎くて仕方なくて、念入りに殺したいがために僕のことを少しでも知りたがってる。それが分かった上で、何も知らないかのように振る舞うのはすごい難しい。
けど僕が思考を読めると知ったら、それで僕の殺害が堕し児には実質不可能とバレたら。それこそジゼルは何をしでかすか分からない。そうなれば僕がされて困ることは何でもすると思うし、それこそここの暮らしや他の堕し児を犠牲にしてでもここの実状をフェンリルに告発しかねない。そういう意味でも彼女は現状、僕が抱える堕し児の中でも一番の爆弾だ。
だからこそ手元に置いて懐柔し、サリーやディーヴァのような本当の仲間に出来ればそれが一番楽だ。そうすればジゼルを経由し、必要に応じて堕し児を動かすことも出来るようになる。僕の言葉なら耳にしただけでブチ切れても、ジゼルの言葉なら喜んで従うだろうからね。そういう意味で僕も彼女と仲良くしたいってのは本当だ。
幸いというかなんというか、ジゼルはジゼルで僕に表向きだけでも従順に仕えようと振舞っている。彼女としてはさっさと僕に信頼されたいわけだから。それに便乗するように僕が心を許せば、当面は良好な関係が築けるだろう。この娘に僕を殺す算段が着くまでは、だけど。
「だからソロモンも、ジゼルちゃんのこと信用して欲しいなぁ。なにかとジゼルちゃん、キミの役には立てると思うよ??」(弱味握ってるのを黙ってあげたんだ。これで少しは信用してくれるはず。)
「そうか。じゃあお言葉に甘えていい?正直フェンリルの機械って色々分からないもの多いから、君みたいな娘を頼れるなら助かるんだけど。」
「おっ。なんだなんだ。随分と素直じゃん?もしかしてジゼルちゃん優しいって気付いちゃった??他の子はみんな怒ってて怖いもんねー。よしよし。ギューってしてあげようね。人間は仲いい子とはこうするんだよー。」(嘘でしょめっちゃ懐いてくれた。え、もしかして色仕掛け効かないってだけでチョロい??役に立つって分かったらめっちゃ頼る感じ?なんか上手く行き過ぎてる気もするけど。)
なんて言いながらジゼルは僕の反応に気を良くし、僕の前に回り込むと向かい合う形で抱きしめてくる。まるで胸中に秘めた業火のように燃え盛る憎悪を悟らせまいとするように、ニコニコと人好きする笑みを浮かべながら。柔らかな胸に僕の顔を埋め、ジゼルは僕に嬉しそうに♡をたくさん飛ばしてくる。ロビーの堕し児達にもこんな感じで接してたんだろうなって想像がつくようだ。
けどこれでいい。上っ面だけだろうが当面はこれでいい。ジゼルは僕を殺す隙を探りたくて、僕はジゼルの能力を必要としている。ならばジゼルの貢献に応じて僕は彼女に望む情報を与え、その過程で他の堕し児達より数歩分こちらに踏み入らせる。
それで心変わりして仲間になればそれで良し、殺意が抜けきらずに僕に牙を剥くならそれも良しだ。僕の手元に置いて行動をコントロールできるなら、堕し児を人類との戦争に投入するまでは良しとする。
幸い堕し児達を人類に差し向ける手筈は整っている。その時が来ればジゼルは、他の子同様にフェンリルに牙を剥かざるを得ない。僕に大切な存在を奪われたという憎悪。その深い愛情に由来する殺意が根底にある限り、それは聡明な君とて例外ではない。その時までせいぜい強かに足掻くといい。
好感度稼いでから殺しにくるタイプの復讐鬼すき。
+
距離感の詰め方バグってるギャル娘ちゃんすき。
↓
そーれガッチャンコ(属性過多)
例のごとく一部の行間ドラッグするとソロモンが
この小説なにから読んでますか。
-
PC
-
スマホ