神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。 作:Am.
そして翌日。僕は支部長室にて、サリーの膝の上に座らされていた。何てことは無い、僕が暇してたら「甘えて」っておねだりしてきたのである。それで今僕はサリーの柔らかな胸に後頭部を預けながらお腹に腕を回されてる。
が、今の僕はそれだけではなかった。
「ご主人様〜、撫で撫でしてください……」
「はいはい。遠慮しなくなったなほんと。」
「むう……」
そう、僕の腹部に顔を押し付け甘えるディーヴァが素直に要求する。前ならサリーいる前ではそんなことしなかったし、サリーいなくてもそんな無条件にお願いなんてしなかったのに。どちらかと言うと何か成し遂げた時に、僕に「ご褒美」として要求するくらいだったのに。
それがサリーの様子も気にせず、欲求の赴くままに甘えるようになったのは間違いなくジゼルのお陰だ。「最悪僕に嫌われてもジゼルの所に逃げれる」という保険と、サリーと一緒に僕を愛でるという選択肢が出来たせいだ。
とはいえ頭撫でるくらい、僕も抵抗なく了承するからさ。膝枕してるディーヴァのふわふわの長い髪を、指で梳くように撫でる。そうすればディーヴァは幸せそうに喉を鳴らし、僕の下腹部にぎゅって顔を押し付けた。はいアウト。
「ちょっとディーヴァ?お腹舐めるのまでは許可してないんだけど??」
「だってまだジゼルちゃんの匂いするんですもの!!何ならいつもと違うシャンプーの匂いもします!!許せません!!」
「それは消さなきゃダメ……ソロモンからあの女の匂いするの、凄くいや………」
んで触発されるように、サリーもヤバいスイッチ入ったみたいでさ。キスをせがむように舌をべっと伸ばすと、僕を上向きに仰け反らせて唇を奪おうとした。ディーヴァ?もう僕の服を思いっきり捲ってるよ。この下は裸だっていつも言ってんのにね。
そんな風紀世紀末と化したヤリ部屋こと支部長室で、まだ朝っぱらにも関わらず僕は貪られかけるのだが。割と僕も諦めてされるがままにしてた時、ふと支部長室のドアがノックもなしに勢い良く開いた。
「────ソロモン!!大変だよ!!ちょっといい……」
「………いぃ良くないですね。どしたのジゼル。」
「………………みたい、だね。あはは……出直してくるね?」
んで僕の惨状を見るなり、直ぐにジゼルは扉を閉めた。なあ見捨てないでくれないか?めっちゃ血相変えて入ってきたじゃん。僕の様子を見なかった事にしないでくれないか?七割くらいはお前のせいでこうなったんだぞ。
でも結局支部長室から嬌声が止むまでジゼルは入ってこなかったし、何なら「暇だから」って途中から混ざってきた。特別講師として。良かったよ4Pとか言い出さなくて。いや何も良くないけどな?
おかげでジゼルが本題に入る頃には、僕はサリーに抱っこされないと動けない身体になってた。んでなんだ用事って。なんか大変だって言ってたけど。堕し児がクーデターでも起こしたか?
「いや、そういう訳じゃないんだけど!!ソロモン、この前フェンリルの他支部に救援求めたの覚えてる!?」
「ああ。覚えているとも。なんだ?その件で返事でもあったか?」
「「………………………??????」」
「なんの話してるんだろう」と言わんばかりに、サリーとディーヴァは首を傾げてるが。僕が尋ねれば、ジゼルは小さく頷いた。なんだ顔色が優れないが。もしや要求を蹴られたか?
「いやね?それが………『ロシア支部の健在を確認したため、直ぐに派遣可能な人員を遣わす』って。さっき連絡が来たんだよ。」
「そうか。それは結構な事じゃないか?これで本格的にロシア支部の復興が進むな。」
「それで
ならいいじゃないか。これでフェンリルの人間として上手いこと神機使いの施設として偽装出来れば、このロシア支部は堕し児────ひいては神骸種の隠れ蓑となる。人類絶滅のためにあれこれやるにしろ、神機使いの目を盗んで暮らすにしろ、これで上手いことやればフェンリルの目を気にしなくて良くなる。
待てお前「この後来る」って言った?フェンリルの人間が?このロシア支部に???
「……具体的にはどのくらい後に来るの。」
「多分あと四時間くらいかな?……うそ、あと二時間か。」
「もっと早く止めてよ!!!」
二時間ぶっ通しでサリーとディーヴァにギャンギャン鳴かされてる場合じゃなかっただろうが!!!これからフェンリルの人間が来るってんなら、出迎える準備とか色々しないといけないだろうに!!
そもそも誰が出迎える!?堕し児みんな気性荒いし、やっぱジゼルか!?ジゼルが支部長代理として、他支部から派遣された神機使いを迎え入れるのか!?そういう打ち合わせとか一切しないで何ヤってたんだマジで!!
そう我ながらも僕が稀に見るレベルで取り乱し、サリーとディーヴァによしよしと慰められてる傍ら。ジゼルは僕に対して首を傾げると、またしても意味の理解に時間を要する爆弾を投げつけた。
「?支部長代理って、ソロモンがやるんじゃないの。」
「正気かお前。」
「だってこの支部の立て直しの脚本とか根回しとか、全部ソロモンがやってくれたじゃん。そこら辺の事情を話すなら、キミ自身がやった方が良くない?」
いやそれはそうだがお前。仮にも僕の容姿は人間換算なら十代前半のちんちくりんで、つい先日まで民間人だったんだぞ。
それが一瞬で支部長の役割に収まって、他の民間人に指揮して第零接触禁忌種を撃退して、運用体制まで整えたとか。それは最早神童とかそういう域超えてない?異世界の人生二周目の転生者かよ。挙動が人生経験武器に無双するタイプのガキなんよ。
しかもかの第零接触禁忌種がフェンリルの神機使いと話すとか。一体どの口とどの面で話せばいいのか。ポーカーフェイスって僕苦手なんだけど。本当にそれ、僕がやるしかないのか?サリーのことフェンリルにディスられたら殺す自信しか無いんだが。
「大丈夫大丈夫。いざとなったらロシア支部の古株神機使いとして、ジゼルちゃんが補佐するから。ね?」
「………秘書付きか。それならまあいいか。」
業務系の手の回らないところはジゼルにやらせたと、そういう事にしておけば怪しまれ……るだろうな。どう足掻いても。
だがよくよく考えれば、極東の第一部隊が逃げ帰るような地獄をほぼ民間人オンリーの状態で撃退したんだ。それ自体が盛り過ぎの英雄譚みたいなものなんだ。子どもが支部長代理やるくらい、今さら気にする必要もないか。
それにあくまで僕は支部長代理だ。それこそ何かの拍子に、極東の連中と一緒に逃げた前支部長が帰ってくるまでの繋ぎだ。もし本物の支部長が帰ってきたら、そいつを堕し児にして傀儡にすればいい。
実際ジゼルの言う通り、現状の支部長役をやるのは僕が適任なのはそうなんだ。不安しかないが、やるしかあるまい。ていうか逡巡してる時間がマジでない。あと二時間だぞオメエ。
「で。ソロモンに支部長やってもらうなら、まずその格好からどうにかしなきゃなんだけど。ソロモン、他に服ある?」
「あー………流石に裸ローブは不味いもんな。適当な服を食わせてくれれば、体表のオラクル細胞でなんか作るけど。」
「ジゼルちゃんの部屋きて。
そう言って、ジゼルは有無も言わさず僕を自身の部屋に連れて行こうとする。が、その時である。ふとそれまで話についていけずに困惑してたディーヴァが、僕に慌てて声を掛けた。
「………あの、ご主人様!!私とサリーはどうすれば!?」
「二人で僕の私室に隠れてて。多分支部長室で他の人間と話とかするから、絶対に出てこないように。」
「うー………またどっか行くの………」
サリーが不服そうに唸ってるが。ディーヴァにそう釘を刺すと、僕はジゼルに来賓用の────というか神機使いとして、人間として活動する用の服を見繕ってもらう事になった。
のだが。
「────ねえ見てゼロ!?この服、絶ッッッ対にキミに似合うよ!!キミ色白だし、こういう黒系のフリフリしたのとか────」
「急いでいるんだが?????」
何をどうトチ狂ったのか。ジゼルは僕を部屋に連れ込むなり、恐らく弟に着せていたのであろう女物の衣服を着せてきやがった。僕に女の格好で賓客を迎え入れろとでも言うのか。訂正の機会失いそうだからやめろお前。時間ねえって言ってんだろうが。
「だってゼロ、本当に顔は可愛いんだもん!!最低でも太ももは出して欲しい!!ね!?いいでしょ!?」
「今度ジゼルの好きな格好で相手してやるから勘弁してくれ。今は僕が選ぶ。」
「ほんと!??約束だからね!??!?」
なんか盛大に墓穴掘った気がしたが、僕は小さく頷いて了承した。この際もうなんかスイーパーノワール*1とか無難な衣装でいいんだよ。ちょっと大人っぽく見えるし。こういうのでいいんだよ。こういうので。
けどそうやって僕が服を身につけ、身支度を整えた後のことである。
「そしたらゼロ。あとはその頭の
「………………………???」
「なに不思議そうな顔してるの。それあると一発でアラガミだってバレちゃうでしょ。」
これまたジゼルが、僕に対して何やら妙なことを言った。天使の輪っか……?そんなもの、僕は身体に生成した覚えは無い。もしかして堕し児にはなんか見えてるのか?
そう思って、僕は掌にザイゴートの邪眼を形成して自分の顔を写す。が、そうすればジゼルの言う通りだった。いつの間にか僕の頭頂部には、奇妙なデザインの光輪が回っていた。
まるで本と本の背表紙を合わせ、無数のページを連ねて円環にしたような薄紅色の光輪。それは一定周期でページを捲るように回転しては、虚空への消失と生成を繰り返している。当然僕はこんなもの生成した覚えは無い。
「………なんだこれは。」
『
そしてジゼルに聞こえないよう呟けば、代わりに頭の中にレンの声が響いた。………これが造書庫?確かにあれは、僕が堕し児の管理用に生み出した能力だったが。あれはあくまで感応現象の超応用で、外見的な変化は設定してなかったはず。
だがどうやら、僕の要求した能力に対して身体が勝手に進化した結果だったのか。試しに意識して光輪を消してみれば、目の前にいるジゼルの思考が一切読めなくなった。何ならサリーやディーヴァ、或いは他の堕し児達が今何してるのかすら分からない。
………待て。これから支部の人間を迎え入れて、応対してる間に堕し児達の同行を把握できないのは不味くないか?というかそれ以上に、サリーやディーヴァが何考えてるのか把握できないのはヤバいんじゃないか?
「………ゼロ?大丈夫?」
「っ。……あぁ、大丈夫。」
こんな土壇場で造書庫の僕も知らないクソ仕様が明らかになり、明らかに狼狽の色が顔に出てたのだろう。不意に意識の外からジゼルが声を掛けてきて、思わず僕の身体が跳ね上がった。ヤバいな。相手の心を把握できない会話なんて随分と久しぶりな気がする。こんな心細いもんか。
まあそもそも僕がこの造書庫で思考や記憶を読めるのは支配下にある堕し児だけ。元より人類や神機使いには使うだけ意味ないんだ。大した問題では無い、落ち着け。
因みに人間態での僕のアラガミの能力の管理は、増え過ぎて把握出来ないから全部この造書庫を介して行っている。つまり
………めちゃくちゃ不安が募るな。今まで堕し児達の管理に依存してた能力が、これからしばらく使えなくなるのか。
いや、使えないものは仕方あるまい。そう自身をどうにか納得させ、僕は偽装用の赤い腕輪を自身の右手首へと取り付ける。そうすれば僕の身支度は完了。するべき準備は案外あっさりと片付き、ジゼルも直に身支度を整える。
が、そうして準備が終わって余裕が出来た結果。僕はふと、ある事に気付いた。
「そういえばジゼル。フェンリルの人員って『どこの支部から配属されるか』ってのは書いてなかったのか?」
「うん。ただ『人員に余裕のある場所から派遣する』としか書いてなかったよ。」
「なるほどな?」
つまり場繋ぎ的な役立たずが配備される可能性も十分にあり得ると言うことか。しかも来てみてのお楽しみとは。存外杜撰というか何というか……まあそれだけ人員不足が著しいという事だろう。
けど元人類で、フェンリル勤めの長いジゼルは流石に本部の対応に思うところがあったらしい。明らかに僕が尋ねれば、分かり易く眉間に皺が寄っていた。いっつもニコニコしてるのに感情が顔に出るなんて本当に珍しい。
「ほんっっっと……うちの神機使いより役に立たない子が来たら、どうしようね?」
「それはハードル高いだろう。今や彼らはそこらの神機使いよりよほど性能が高いんだぞ?」
「ふふっ、それは確かに。」
それにうちの
………ただ一点、ある部隊を除けばだが。
「じゃあゼロ。そろそろヘリポートに行って、お客さんの到着を待とうか。」
「………ああ。そうだな。」
「ていうかゼロ、口の利き方とか分かる?今回来るのはあくまで助けに来てくれた人で、目上の人だからね?腰を低くして話さなきゃダメだよ?」
ヘリポートへと向かう道中。互いに自身の神機を片手に歩く中、不意にジゼルが僕の顔を覗き込んできた。ジゼルは僕を何だと思っているのか。人類社会から離れて暮らした期間が長過ぎたとはいえ、流石にそこら辺は上手くやる。
寧ろ気遣うべきは、どの程度外見年齢相応に振舞ったものかという問題だ。あまり歳離れし過ぎた振舞いしても怖いだろ。それはそれで人外じみてて。
「いいんじゃない?そもそも人類視点だとこなした偉業が人外レベルだし。人間の振り上手くやろうって躍起になると、逆に違和感あると思うよ。」
「それもそうか。」
「多分、これから来る人達も楽しみにしてるよ。「落ち掛けのロシアを守った英雄はどんなヤツなんだ」って。」
「まさかこんな幼くて可愛い男の娘なんて思いもしないよね。」なんて、ジゼルは僕を茶化すけども。ヘリポートに着いてからそんなどうでもいい話をしていると、直に東の空の彼方に飛来する影が見えた。フェンリルのヘリコプターだ。
「………お出ましか。」
人類の敵たる僕が、人の真似事をした上で人の前に立つ。その瞬間の訪れに、自然と背筋が真っ直ぐに伸びる。バレるわけないとは分かっていても、やはり緊張するものだ。
が、そんな僕を見かねたのか。ジゼルが僕の背に片腕を回し、緊張をほぐす。
「大丈夫だよ。なんかあっても私が隣でフォローするから。」
「………頼りにさせてもらおう。」
それに応えてジゼルに軽く身体を預ける中、目の前にヘリコプターが着陸する。ローターの風がヘリポートの砂利を巻き上げる中、やがてその扉が開く。
そうして先ず降りてきたのは、白いコートに身を包む若々しい金髪の男性だった。そしてその後に続くように降りてきたのは、服装も神機の種類もバラバラな四人の旧型神機使い。だがその顔は妙に覚悟に満ちていて、不思議とその場の空気が引き締まる。
仮にもロシアの復興支援を求めて呼び出したというのに。まるでこのロシア支部に何かを成し遂げに来たようじゃないか。一体この支部に何を求めて来たのやら。僕は緊張感漂う神機使いに、肩の力を抜くよう柔らかな笑みで応対する。
何しろ彼らにとっての
「遠出はるばるお越し頂きありがとうございます。ようこそロシア支部へ。」
「………ほう。君が支部長の代理か?随分と若い……否、幼いな。それにその神機は………」
「このような応対の場に得物を持ち出した非礼、お許しください。何分ここは屋外であれば、そこが何処であれ十分アラガミに襲われかねない状況ですので。」
なんて先の戦いでのサリーとフリューゲルによる空爆を引き合いに、僕は視線を集める新型神機を面前に出す。そしてその上で、改めて先に自己紹介を始める。
「僕の名前はゼロ。一
「「「………………………ッ!!!」」」
そうすれば何かの覚悟と共に訪れた神機使い達は、僕の姿に呆気に取られることになった。その表情がどこか曇ってる辺り、初めて見る新型神機使いってよりアレか。僕みたいな子どもが新型神機に適合し、あの地獄に赴いたことにショックを受けてるっぽいな。
しかしただ一人、僕に手を差し出すこの男は違った。初めて実戦に投入された、僕という新型神機使いを年齢に囚われずしっかり値踏みしてる。というか何なら少し訝しんでいると思う。確か元技術者だもんなこの人。
「極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールだ。先の失態に報いるために此度の要請に応じさせて頂いた。此方こそよろしく。」
「まさかフェンリル創設者の一人にお越し頂けるとは恐縮です。それにお連れの部隊も、よく腕が立つと見える。」
「我が極東支部の最高戦力だ。何なりと役立ててくれ。」
そうあたかも見識が無いよう腹芸を行うが、僕はこの部隊をよく知っている。何しろ今日に至るまで、最も僕らに煮え湯を飲ませまくった部隊だ。
極東支部第一部隊。かつては雨宮ツバキが率いたその部隊は、魔窟の極東支部の中でも最強の主戦力部隊であった。
しかしツバキさんが死んだあと、その隊長の座は弟のリンドウさんに引き継がれたらしい。らしくない背筋を伸ばした敬礼と共に、リンドウさんは行儀よく僕に挨拶を述べた。
「極東支部第一部隊隊長、雨宮リンドウであります。宜しくお願い致します。支部長代理殿。」
「そう畏まらないで下さい、雨宮隊長殿。貴方方とはこれから
「………そう、は言いますけどねえ………」
僕の方から腕輪の着いた手を差し伸べれば、リンドウさんは随分と大きな手で僕の手を握り返す。緊張するような性格には見えないが、部隊長を継いだばかりで肩に力が入っているのだろう。
そのせいで僕がそう促せば、リンドウさんは困ったようにサクヤさんや支部長の方を見つめていた。「こういう隊長として頼りない時期もあったんだな」と、何となく僕もほっこりしてしまう。現にピリついた空気も幾分か和んでいた。
そして暫く悩んだ後。リンドウさんはバツが悪そうに頭を搔くと、恐る恐ると言った様子で僕に提案した。
「………あー、分かった。じゃあ普通にゼロって呼ぶけどよ。お前さんも俺の事は気楽にリンドウって呼んでくれ。支部長だが歳下だしで、同僚がせいぜい良い落とし所だろ。」
「ではそのように。……他の方々も宜しいでしょうか?」
「構わないわよ。私は橘サクヤ。暫くよろしくね?」
「………………ソーマだ。」
もうとっくに知った面々ではあるが、リンドウに続く形で第一部隊が幾分か気安く僕に自己紹介する。ソーマに至ってはめっちゃ距離取られてる感じがするが。
とはいえ彼らと接するうちに、僕は否応なく思い知る。人として接すれば、こうも気安く言葉を交わすことが出来たものなのかと。戦場で見え、互いに傷つけ合う以外の関係を持たなかった第一部隊が。こうも普通に接することが出来るものかと。
………僕が、
そう、胸に嫌な痛みを覚えかけたその時である。一番最後にヘリを降りた赤髪の少年が、他の面々より無遠慮に僕の前へと歩み寄った。
そしてその少年は大袈裟に僕の前に跪くと、両手で僕の手を握ってくる。なんだこいつ。こいつだけは初めて見る顔だな。誰だ?いや……
「初めまして、小さく可憐な英雄よ。僕の名前はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデだ。どうぞ宜しく。」
「………………これはどうもご丁寧に。」
「………おいエリック。引かれてるぞ。離れろバカが。」
自己紹介が終わるか否かと言うところで、ソーマが首根っこを掴んで引き剥がした。なるほど上田か。ソーマ同様まだ若いし、グラサンしてなかったから一瞬分からなかった。
なるほどな?ツバキさん死んだしその埋め合わせか。にしても馴れ馴れしいというか、ソーマとは真逆に距離の詰め方おかしいというか……イメージ通りではあるけど。ちょっとびっくりした。
「すまない。彼はこの部隊の新入りでね。まだリンドウくんの教育が行き届いていないんだ。彼の非礼を代わりに詫びさせてくれ。」
「いえお構いなく。良い部隊ですね、シックザール支部長。」
「先の戦いでは何の役にも立てなかった我々に、そう言って頂けるのなら有難い。」
エリックが後ろでソーマとリンドウさんに一発ずつ拳骨で制裁を加えられる傍ら、シックザールが頭を下げる。お陰で僕の素性などが怪しまれるような様子もなく、随分と円滑に話が進んでいた。
「………………本当だよ。この役立たず共が。」
────さっきまで静観を貫いていた、ジゼルが口を開くまでは。
マジでびっくりしてジゼルの方を見れば、ジゼルは彼らを……否。シックザールに敵意を剥き出しにし、その顔を睨み付けていた。
しかも僕が止めるよりも前に、ジゼルは極東よりの賓客に対して淡々と呪詛を並べる。それはもう、隣に立ってる僕が気が気じゃないくらいに。
「このロシアが焼かれる中、うちのクソジジイとさっさと逃げ帰った腰抜け共が。今さら何しに戻ってきたわけ?まさか罪滅ぼしのつもり?」
「こらジゼル。やめなさい。」
「そもそもあんた達がソロモンにちょっかい掛けて、死に体でロシアに戻らなければここが滅ぶことも無かった。私の大切な弟だって、お前らが────」
流石にエリックの無礼に釣り合わないレベルで食ってかかるため、彼女に神機を向けて制する。そうすればジゼルは我に返ったように、一歩引いて僕に頭を下げるけど。
おいどうしてくれるんだ。第一部隊の面々、エリック以外めっちゃ俯いちまったやんけ。シックザールは全く気に掛けた様子無いけど。どうすればいいんだこの空気は。
「うちの秘書が失礼致しました。」
「構わないよ。それに彼女の謗りは最もだ。現に我々は奴の力を見誤り、この支部を壊滅の危機に陥れた。彼女の言う通り、我々がここの助力に志願したのは罪滅ぼしのためだ。」
深々とシックザールが頭を下げ、そう告げる。同時に再び、僕に向く第一部隊の視線に僅かに罪悪感の色が滲み出る。
そしてジゼルの方にチラリと視線を向ければ……ああなるほどね?この娘、僕がナメられるといけないと思って牽制しに掛かったわけだ。僕が下手に「気楽に接して」とか言ったから。「身の程弁えろ」って釘刺したわけね。
そういう事であれば、僕も彼女の会話に便乗させてもらう。聞き出すまでもなく想像がつくが、造書庫も使えず心も読めない相手だ。一応本人の言葉で聞いておきたい事もある。
「罪滅ぼしだなどと。先の大災は誰のせいでもありません。……強いて言うなら、その元凶はかの第零接触禁忌種でしょう。」
「その通り。そしてただここを建て直しただけでは繰り返すだけだ。故に我々は、この地獄を終わらせるべく再びここを訪れた。」
「なるほど。それが貴方が我々に望む、ここの復興支援の対価ですか。」
尋ねればシックザールは「話が早くて助かる」と、ジゼルを尻目に僕に笑みを向ける。要するにこういう話だろ?こいつらは────
「支部長代理────いや、ゼロ支部長。我々はかの第零接触禁忌種を……ソロモンを討つためにここに戻ってきた。どうか我々に、再び奴に挑む許しを貰えないだろうか。」
────この支部を元通りにしてやるから、代わりにソロモンの捜索と討伐をこの支部でやらせろと。そう要求するために、わざわざ来やがったわけだ。
しかもそうシックザールが頭を下げると同時、リンドウ率いる第一部隊も揃って頭を下げた。一見すれば「支部の復興も手伝ってくれる上、その元凶のソロモンも倒してくれる」って言ってるんだ。人間視点では断る理由は無い。僕としては当然今すぐ帰って欲しいが。
けどシックザールがそう申し出れば、僕が何か言う前にジゼルがその提案を蹴った。
「………ふざけんのもいい加減にしなよ。あんた達はつまり、このロシアを再びソロモンの狩場にしたいだけでしょ?それでロシアが再び攻め入られて、ここの人が何人死のうが知ったこっちゃ無いものね。」
「ジゼル。控えなさい。」
「騙されちゃダメだよゼロ。この男はそうやって、前にも何人もうちの支部の神機使いを使い潰した。きっと今回だって────」
無言でジゼルの罵倒を受け入れるだけのシックザールに視線を向ければ、実際その視界の中にジゼルは無かった。分かってる。ジゼルの言う通り、シックザールはここが再び危機に晒されるのを承知で提案を持ちかけている。「ここを戦場として提供してくれるなら、極東支部支部長自らここを建て直してやる」と。
そして第一部隊の面々も支部長と同じく、罪悪感はあれど再びソロモンに挑むことを望んでいる。無論失敗するつもりも無いし、好き好んでここを地獄に変えるつもりも無いのだろうが。
そこまで僕に固執する理由は何だろうか。『ツバキさんの仇討ち』なんて感情的な理由で動くのは、せいぜい第一部隊だけだろうに。僕の討伐にここまで積極的に支部長自らが動くのは、何か理由があるのだろうか。
何にせよ簡単に答えの出る────否。簡単に答えを出していい取引では無かった。仮に僕の中で答えは決まっていようとも、素振りだけでも熟考が必要な取引だった。
故に僕は、一度話の場を変えることにした。
「………一先ず外で立ち話も何ですし、話の続きは中でしませんか?大したもてなしの準備もありませんが……」
「いや、お言葉に甘えるとしよう。何分支部の状況や現状の復興具合など確認事項は多い。この件に関してはその合間にゆっくり擦り合わせをしようじゃないか。」
「ではどうぞこちらへ。」
僕が少し考えたいという思惑は透けてたらしい。が、提案すればシックザールは二つ返事で頷いた。そしてそれを確認するなり、僕は屋外のヘリポートからロシア支部の中へと賓客を先導する。
幸いここに至るまでは僕の異常さこそ目を向けられたものの、僕がソロモンだとバレる素振りは無い。やはり僕の思った通り、人を模倣した【堕し児】というアラガミは発想すら至らない。あの露骨に頭がキレて元技術者のシックザールが気付かない辺り、そこは信用していい。
が、さっきの会話でハッキリした。仮に僕が人類絶滅を見送るとして、この連中だけは殺さないとダメだ。
こいつら……特にシックザールは、どういう訳か僕が生きている限り僕を付け狙う。一体僕を殺すとどんな良い事があるかは知らないが。それでも僕を狙い嗅ぎ回れば、いずれ僕の正体に辿り着く事になる。
そうなればサリーやディーヴァも身を危険に晒されるのは時間の問題だ。そうなる前に、この人類最強の神機使い達は始末する。今、このロシア支部でだ。
そう奇しくもここで僕との因縁に終止符を望む彼らと、僕が抱く思惑はある意味似通っていた。互いが守るべきもののために互いを滅ぼす、この世界の人類が忘れて久しい文化。それを旧世界の人々は【戦争】と呼んだ。
思えばこの日から始まった奇妙な共同生活は、そのほんの前哨戦だったのだろう。後に【人類史上最大最悪の大災害】と呼ばれるあの戦争の、終わりの始まりだったのだと思う。
斯くして僕らは地獄に足を進める。人もアラガミもないその地獄へと、あまりに静かに歩み始めた。
だがメスショタのソロモンが着ると若干背伸びしてるように見える……かも?
この時点で本編開始の二年前くらいです。
次回から新章開幕。