神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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職場(げんさく)体験開始。


01.初陣(リンドウ)

 

「さてゼロ支部長。先ずはこの支部の被害状況を共有して貰えるかな。把握が追いついている範囲で構わないから。」

 

 

 シックザールと第一部隊の面々を応接室に招き入れた直後。間怠っこしい前置きなどを挟む間もなく、単刀直入にシックザールは僕に尋ねてきた。

 

 そしてそうした言葉を耳にすると同時。エリック以外の第一部隊の面々が纏う空気が重苦しくなった。エリックは不思議そうに首を傾げているが、それを見てジゼルの額に青筋が浮いたのはここだけの話。落ち着けって。

 

 とはいえシックザールが直球に聞いてくれたから、僕も予め頭で考えておいた筋書き(じじつ)を述べる。

 

 

「まず生存者は我々以外に七十二名。中央施設はエントランス以外に被害ありませんが、外部居住区は壊滅です。なので現在生存者にはこの中央施設で暮らしてもらってます。」

「「「………………ッ!??」」」

 

 

 そう淡々と告げたところ、まずあの地獄を体験した第一部隊の顔から血の気が引いた。そう、今僕が口にしたのは死んだ人間の数じゃない。死人だとしても七十二という数字は大きいだろうが、たったの七十二人しか生き残らなかった。ロシアの具体的な分母は知らないがこれは────

 

 

「待て待て待て……確かこの支部は神機使いだけでも百人以上……民間人も入れれば一万人は下らない数の人が暮らしてただろ!?それが………七十二人、だと!?」

「そんな………ほぼ全滅じゃないか!!そのような非道な大虐殺を、あのソロモンは一日で行ったのかい!?」

「ゆえの【第零接触禁忌種(人類種の天敵)】だ。アラガミが支部を攻め落とすというのはそういう事なんだよ。……これでも寧ろ多いくらいさ。」

 

 

 改めて数字を口にすれば我ながら随分と殺したものだと思い知る。記憶にある限りも実際に殆ど一方的な虐殺だった。それこそ無血開城と言っていいほどに。

 

 そしてそれをどうやってか、僕は持ち直してたったの七十二人とはいえ生存させた。例え僕が新型神機使いであるとはいえ一人で撃退などという真似が可能なのか?そんなのまず不可能だと直ぐにシックザールは気付くだろう。

 

 だからシックザールが続く疑問を口にする前に僕は補足するように言葉を連ねる。こういう裏付けは尋ねられる前に言った方が信憑性が増すからね。

 

 

「代わりと言っては何ですが、残る七十二名には現在神機使いとして働いてもらっています。彼らのお陰で僕もまた、どうにかあの地獄を生き延びる事が出来ました。」

「!!!………なるほど。そういう事か。」

「支部長?」

 

 

 想定を超える被害に落ちてたシックザールの視線が上がり、僕を見据える。この場でシックザールだけはやはりと言うか僕が何をやらかしたのか悟ったらしい。

 

 ならついでだ。僕はジゼルに目配せをし、ある書類をシックザールへと渡してもらう。そうすればシックザールは受け取った書類をその場で捲るが、僕は構わず言葉を続ける。

 

 

「そちらはこの支部の現在の神機使いの名簿と直近に受けた任務(ミッション)の一覧です。最もその殆どは壁内居住区跡に残留した神骸種の撃滅ですが……」

「成程な。神骸種との戦闘経験のある神機使いが七十二人か。」

「はい。極東よりお越し頂いた皆様に比べれば、まだ経験も浅い新兵ですが。」

 

 

 言うなればそれが今このロシア支部に遺った資産価値である。七十二人の適合済みの神機使いという人的資源は決して軽視出来ず、寧ろ復興の見返りとしては十分が過ぎる。何しろかの最たる激戦区の極東支部すらその神機使いの総数はこの半分にも満たない。

 

 加えて施設に関しても居住区以外は無事。その居住区も住む人間が居ない今、別段復興の必要は無い。故に復興そのものに要する労力は実のところ時間さえ掛ければ他支部の力を借りる必要すらない。あくまで僕が他支部の人間を招き入れたのは、このロシア支部の健在を証明するためだ。

 

 そうしたフェンリルの支援の打ち切りを警戒し、救援要請を発したのは現状を見れば見え透いているだろう。つまり現状を確認させた以上、もう彼らを帰したところで僕は構わない。その上でシックザールがこの支部の復興を支援するか否かは然程重要では無いのだ。

 

 

「さてシックザール支部長。現状の共有はこの程度にして、そろそろ復興支援の見返りの話をしましょうか。」

「……参ったな。その年で外交というものを良く理解しているね。前任の支部長よりも余程厄介だ。」

 

 

 さっき「ここをソロモン攻略の最前線にしたい」とか何とか言っていたが。ロシア視点、そんな再び支部を戦場に変えるような提案は通らんよ。暗にそう仄めかせばシックザールは困ったような苦笑いを浮かべた。

 

 何ならその様を見てジゼルが「よく言った!!」とばかりにニッコリした。やめなさい客人の前でそう言う態度は。さてはこいつガチでシックザールのこと嫌いだな?何があった。

 

 とはいえ流石にシックザールもこのまま大人しく下がりはしない。わざわざソロモンを追って支援という建前でこのロシア支部に来たんだ。ロシア側の危惧を踏まえた上で直ぐさま代替案を提示してくる。

 

 

「とはいえゼロ支部長。君がロシアを再び血の海に沈める事を危惧するのなら、ソロモン討伐はロシア側も悲願とするものと思うが。我々が手を貸すのは決して悪い話ではあるまい?」

「はい。ですが僕はまだ時期早尚と思うのです。再びソロモンが攻め入った折に、迎え撃つ準備がこの支部はまだ整っていません。」

「それは同感だな。君達には悪いが先の襲撃で我々は多くを見直すことになった。ソロモン以外にあの【神骸種】と呼ばれる新種のアラガミ……まずあれの対処を確立しない事には、再び地獄を繰り返すだけだろう。」

 

 

 サリーや【フリューゲル】*1を用いた空爆にディーヴァの能力による防壁の突破。そして何よりアラガミ避けとして機能したアラガミ防壁を意にかけず、統率の元に作戦行動を行う【神骸種】。仕掛けた側が言うのも何だが、先の襲撃はこうした大きな初見殺しのおかげで大勝利を収めた。

 

 そしてシックザールは元々僕と同じくらいその【神骸種】を警戒していたらしい。先に大きな要求を持ち掛けて、断られるなり次に小さな要求を差し出す。よく知れた交渉の場では有効な手段だ。が、そうしてシックザールは兼ねてよりの本命を僕に突き付けてきた。

 

 

「ではゼロ支部長。我々がここの復興と防衛の強化を行う間、奴の下僕の【神骸種】についての調査を進めるならどうだ?これなら当支部にも不都合はあるまい。」

「調査………と、言いますと?」

「言葉の通りだ。ソロモンの前に奴の操るアラガミの対処法を確立し、各支部に共有する。これならソロモンが即座に勘づき再びこのロシアに攻め入る心配も無いだろう。」

 

 

 さらについでに言うならロシア周りの神骸種を排除出来ればここの安寧をより磐石なものにできる。ハッキリ言ってロシア支部としては断る理由はない。僕としては断る理由大アリなんだが。初見殺しを攻略させろって言われてるようなものだからな。

 

 とはいえこれはこちらは僕にとっても悪くない提案だ。正直僕が有する神骸種についてあれこれ調べられるのは不都合でしか無いのだが、逆に考えればこれはいい機会でもある。

 

 何しろ神骸種の調査を目的に第一部隊の面々が出撃してくれるならだ。まだ攻略方法も確立されてない神骸種をけしかけて彼らを亡き者にする事は十分に可能だ。

 

 正直第一部隊の抹殺は支部内で丸腰のところを殺るのが一番手っ取り早い。しかしそれではロシア支部がアラガミの手に落ちてるとバレて他支部からの総攻撃を受けて終わりだ。その上で僕は支部長と神機使いの真似事をしている以上、自ら任務中にアラガミの姿で手を下す訳にも行かない。

 

 つまり僕はどうにかして神骸種を操り彼らを任務中の不幸な事故として始末しなければいけない。そういう意味では積極的に神骸種に挑んでくれるこの条件は非常に都合がいい。

 

 

「………そうですね。支部周辺の神骸種には我々も対処が追いついていないのが現状です。(お前らの)威力偵察も兼ねた調査であれば、寧ろこちらからお願いしてもよろしいでしょうか。」

「では決まりだな。監督は神機使いでもある君に任せるから其方に無理のない範囲で行ってくれ。その間の事務的な仕事は私が引き受ける。手持ち無沙汰と言うのは性にあわないのでね。」

「そういう事なら此方からは秘書のジゼルを付けます。何なりとお使いください。」

 

 

 そう双方に利のある落とし所として僕は極東支部の面々に「ロシア支部周辺の神骸種の調査」を許可する。代わりに支部内の設備と運用体制の確立、物資支援の手配などを僕はシックザールに任せるに至る。

 

 

 が、そこからはあまりに迅速だった。

 

 まず神機使いの任務だが、これは本来その支部の支部長が発行するものである。そして大体は索敵に引っかかったアラガミと神機使いの腕前を見極めて任務を発行するのだが。早い話僕が与えた「神骸種の調査許可」と言うのは「シックザールに任務を発行する許可」を与えたと思っていい。

 

 当然あいつが発行する任務には僕も目を通すし、その上で僕が許可を出せば神機使いのカウンターに並ぶ。そうでないと「腕試し」とかいう名目で「大型アラガミ禁忌種の四体討伐」とかいうバカの考えた任務が乱立するからな。

 

 加えて今回の「第一部隊主導の神骸種の調査」は、神骸種との戦闘経験が豊富ってことで僕が必ず現場監督(しゅつげき)する。だから僕がやりたくない任務は全て拒否できる。職権乱用だ何だと言われそうだが、それはシックザールにも確認を取った。

 

 故にこの任務は僕も目を通して許可を出した。しかし内心では正直に言えば、即答で拒否したかった。

 

 

 何故なら────

 

 

「よう支部長さん。いや……ゼロって呼んでいいんだったか?今日はよろしくな。」

「こちらこそよろしくね()()()()。まさか隊長殿と二人(バディ)で任務とは。君の支部長は面白い任務を寄越すね。」

「来ていきなりでこんな任務に付き合わせて悪いな。けどうちの支部長が、お前さんの()()使()()()()()()腕を見ておけってうるさくてよ。」

 

 

 そう荒れた平野に二人きり。所々にビルらしい文明の残骸が乱立したこの場所は、ロシア支部では【怨嗟の地平】と呼ばれている。岩山以外に目立った遮蔽物はないが、広大ながらに高低差の多い戦場だ。

 

 そんな場所で僕は何故か第一部隊隊長にして宿敵────雨宮リンドウと二人きりで任務に出撃していた。しかもその内容と言うのがオウガテイル十体の討伐。

 

 僕からしてもリンドウからしても「舐めてんのか」って内容の任務だが、今は一応互いの腕前を知らない状態。シックザールとしては今後のために互いの実力を把握できるよう発行した任務なのだろう。

 

 だが僕としては実はアラガミ相手に神機を振るうのは初めてだから有難かったりする。唯一問題点があるとすれば、かの雨宮リンドウと二人きりだって事だ。

 

 何しろ僕はソロモンとして三回刃を交わし、そのうち最初は殺され掛けている。その上そのせいでサリーが殺され掛けた。それだけに僕の中では最も苦手意識が強く、真っ先に排除したい神機使いがこの人だ。

 

 それこそ出来るものなら今この場で神骸種で囲んで数の暴力で殺しているものを。図らずして僕が準備を整える前に任務を発行したせいで、今僕は彼を殺せる手札を持たない。その上オウガテイル十匹なんて任務、どう足掻いても死にようがない。

 

 だから僕は大人しく、あくまで初対面を装ってリンドウに接するわけなんだけどさ。でもそうするとリンドウは神機を引きずる僕を見て呟いた。

 

 

「………ほんと、お前さんだってこんな危ない仕事したくない筈なのにな。……くれぐれも無理はすんなよ?」

 

 

 そう言って目を見つめられれば、僕は返す言葉に一瞬詰まった。なんて事ない。「無理をするな」なんて人間視点で無茶が過ぎる僕の「ごっこ遊び」に対して言ったものだろうに。

 

 けど本来の宿敵にそう気遣って貰うのはなんか可笑しくてさ。僕は軽く笑ってしまったが、それでも短く返した。

 

 

「はは、無理も油断もしないよ。僕は死にたくないもの。」

「そうだ。とにかく生き残ることだけを考えろ。………そんな歳で神機使いやったせいで死んだとか本当に笑えないからな。」

「………そうだね。」

 

 

 そうすればあまりに聞き覚えのある言葉が聞こえたものだから、僕も身体が否応なく固まってしまう。ヘリポートで見た時は「若い時もあったんだな」とか思ったけど。やっぱりリンドウさんはリンドウさんなんだなって。

 

 ………ちゃんと人間のまま神機使いになっていれば、この人の下で普通に生きる未来もあったのかなって。不思議と最近はそんな憧憬ばかりがチラつく。

 

 

 どうせ殺さなきゃいけないのに、惨い話だよね。

 

 

「んじゃそろそろ行くかゼロ。新型神機使いの戦いってやつ、見せてもらうぞ。」

「極東最強の神機使いからすればそう目新しいものでも無いよ。まぁ……こいつは初めて見るかもだけど。」

 

 

 手の中で赤と黒の大鎌を逆手に翻し、共に安全圏から作戦区域に踏み込む。けどそうすれば即座に面前の影が二つこちらに振り向いた。

 

 

「………こうして見ると意外とデカいな。」

 

「ゼロ。早速来たが任せて大丈夫か?」

 

「問題ないよ。そこで僕の神機を見てて。」

 

 

 小柄な人間態で初めて相対する、最もありふれたアラガミ【オウガテイル】。それは僕とリンドウを視界に入れるなり、先を争うようにこちらへと突進してきた。

 

 しかし不思議と僕は冷静で、脆弱な人の身にも関わらず逆手持ちの大鎌を振り被る。そして腕で薙ぎ払うと共に掌の中で翻せば湾曲した刃は大きくその丈を伸ばした。

 

 

「………………おぉっ!?」

「まず二体。」

 

 

 射程を伸ばした刃と柄の合間に、無数の有機的な仕込み刃が飛び出す。その中でも最も巨大な本来の赤と黒の刃が、薙ぎ払いと共に遠方のオウガテイルを正確に捉える。

 

 結果、離れたオウガテイルは僕らの元に辿り着く前に両断された。そして僕が神機を軽く振るえば、鞭のようにしなる異形の刃はたちまち元の大鎌の姿へと戻る。そうすればリンドウは感心したように声を漏らした。

 

 

「はー……凄まじいな。それが例の試作型の刀身か?」

「【ヴァリアントサイズ】*2とか言うらしい。扱いの癖は強いけど中々どうして便利なパーツだよ。一般に正式実装されてないのが惜しいほどにね。」

 

「うおっ。」

 

 汚染された神機のコアが赤く光ると同時。僕が刃を一閃するとまたしても射出に近い速度で刃が飛び出す。それを今度は高台の一角にピッケルの要領で打ち込むと、僕は咬刃の収納ボタンを押した。

 

 そうすればどうなるか。軽い僕の身体は、咬刃の収納と共に柄ごと打ち込んだ刃に引き寄せられる。そうやって高台を即座に陣取れば、僕は神機を銃形態に変形させた。

 

 

「高所から周囲を索敵する。……前方奥に更に三体。最初の角を左に曲がって直ぐの場所にも三体。リンドウには左の方を任せていい?」

「了解だ。ほんっとよく使いこなしてんなあ……」

『いやそれ本来想定された使い方じゃないと思うんですけど!?』

 

 

 無線機越しにリンドウに提案すれば、それを遮るようにレンの声が頭に響いた。さっきの咬刃グラップリングフックの事だろうか。普通の神機でも刃の損耗に目を瞑れば出来るだろ。アラガミ専用の獣道の追走とかに使えるぞ。

 

 そんな事より遠方のオウガテイルだ。三匹ともまだ気付いてないからここから片付けるぞ。そのための狙撃銃(スナイパー)なんだ。

 

 僕の神機の編成は近距離はヴァリアントサイズ、中距離は咬刃。そしてそれ以上の長距離は銃形態のスナイパーで対応と、全距離に対応できる超攻撃特化型だ。

 

 そしてその上で僕は神機使いを更に上回る神骸種。アラガミの身体能力だけなら人の姿のままでも扱える。サリエルやザイゴートと同等の視力を持つ僕にスナイパーという神機は相性が良すぎる。

 

 

「問題は………あの距離に神機の弾が届くか、って話だが。」

『………むっ。届かないと思ってます?』

「ならやってみせろよ神機(レン)。射程外からの一方的な殺戮はスナイパーの華だぞ。」

 

 

 そんな言葉を呟くと共に、片手で構えた神機の引き金を三度引く。そうすれば()()()軌跡を残す高速弾が三発、およそ700メートル先のオウガテイルのコアを寸分違えずぶち抜き()()()()()()走らせた。

 

おいお前今【ブラッドバレット】*3使いやがったな?

 

 流石にリンドウ側から視認できない距離だからいいけどよ。この時期に血の力はルールで禁止ですよね?「なにその力」って目ェ付けられたらどうする。僕の無茶振りに応えやがって。だがよくやった。

 

 

『どうですか?もう倍くらいの射程距離でも当てられますよ。ゼロの腕が追いつけば、ですけど。』

「面白い。………なら次はもっと遠くの的を試すか。」

「ジーナみてえなとこあるなあお前さん……あとこっち終わったぞ。一度降りてきてくれ。」

 

 

 嘆きの平原がなんだって?思いもよらない名前を聞いて、危うく口から出かかったその言葉を飲み込む。まだ面識無いからな?不用意な事は口走らないよう気を付けような。

 

 ていうか待って?今あの人「終わった」って言った?いやなんかオウガテイルのキルログがさっき三つ同時に流れてきたけど。僕が狙撃してる間に目標の場所行ってぶち殺してそのまま元の場所に帰ってきたとでも?RTA勢か?

 

 とはいえ目につく範囲のオウガテイルを片付けた以上、僕はリンドウに言われた通りに降りるんだけどさ。そうするとリンドウは何故か僕の頭に手を置いてきた。なんだよ。

 

 

「にしてもゼロ?お前さん腕は良いんだが捕喰回収を忘れてねえか?一応俺たち神機使い(ゴッドイーター)の仕事は「アラガミ殺し」じゃなくて「捕喰回収」だからな?」

「………………………あー。そうか。」

「きっとあの地獄が初陣で、そんな事を気に掛けてる余裕も無かったんだろうけどな?今俺たちがやってるのは絶滅戦争なんかじゃなくてあくまで食い扶持を稼ぐための仕事だ。そう切羽詰まらずにゆっくりやってこうぜ?」

 

 僕の肩の力を抜くよう、リンドウが軽く僕の頭をポンポンと叩く。どうやら僕がアラガミを殺すのに切羽詰まって捕喰回収の事などを忘れていると思ったらしい。忘れていたのは当たってるんだけど。RTA勢が「ゆっくり」とか言っても説得力ねえのよ。

 

 でもそうやって僕が不思議そうにしてたのが顔に出てたのか。リンドウの手がふと止まった。

 

 

「………なぁゼロ。もしかしてだがお前、神機の授業や戦闘訓練とか受けてないのか………??」

「そりゃ神機適合前は居住区のスラム育ちだし。神機や設備の使い方は説明書で読んだ。」

「………………っ。そうか………」

 

 

 リンドウが僕を撫でていた手で自分の頭を痛そうに抑える。何なら人間の文明に触れたのすら僕はつい最近だぞ。実際フェンリルの人間でもないくせに支部に残ってた神機とか勝手に僕や堕し児に適合させてるからな。怒られても文句は言えんのよ。

 

 だからこれはお説教案件かな。なんて、思ってた時だった。何故かリンドウが僕の両肩に大きな手を置いてきた。なんだよ。

 

 

「………そういう事なら神機使いとしてのあれこれは改めてゆっくり覚えて行きゃいい。お前さんにゃ余計な世話かもしれないけどな。」

「いや。色々と勉強させてもらいますよ()()殿()。こうした任務で連携となると、愚連隊のままでは扱いにくいでしょうから。」

「普通にリンドウでいいって。ああは言ったがそう覚えることは多くない。教官は勘弁してくれ。」

 

 

 下手に出ればリンドウが露骨に嫌がるから普通に接するが。それでもやはり普通の任務となると勝手が異なるものだと僕も思い知った。ただ戦えりゃいいってものでも無いものな。

 

 そうした危なっかしさのせいか僕の腕を見せたにも関わらずリンドウは僕の様子をよく気遣うけども。実際に神機使いとしては無知な部分が多いのも事実なので、僕も大人しくリンドウに従うことにした。なんか共闘くらいのつもりがリンドウの部下みたいになってるが、こればかりは致し方あるまい。

 

 で、残りのオウガテイル二体なんだけど。コンゴウと同等の聴力を有する僕は、離れた場所でそのオウガテイル二匹が絶命するのを感知した。

 

 当然リンドウは僕の隣にいるし、僕もスナイパーで狙撃したわけでもない。

 

 これは………

 

 

「ところでリンドウ?早速質問いいかな。」

「ん?どうした。」

「作戦区域に予定外のアラガミが乱入した場合って、神機使いはどうするの?なんか来たみたいだけど。」

 

 

 僕がリンドウに尋ねると同時。遠目に青い雷光が走る。それを目にするなりリンドウが考え込むように天を仰いだ。何ならその雷光の主、現在進行形でこっちに走って来てるけど。

 

 

「あー……そうだな。これに関しちゃケースバイケースだ。が、撤退も当然許可されている。俺としちゃ安全第一で行きたいが……」

「心配無用。ロシアん時はあれの神骸種版が四体いた。」

「じゃあ行くか。来るぞ!!」

「オ"ォンッ!!!」

 

 

 勢いのままに爪を振り上げ飛び掛るそれを散開して躱す。虎に似たそれは【ヴァジュラ】と呼ばれる大型アラガミだ。ロシア支部では一体出るだけで大騒ぎになるらしいが、極東ではソロで討伐できるようになって一人前と言う。つくづくイカれた支部だがこっちは新型神機だ。負けやしない。

 

 何しろ躱す寸前、既に僕の神機は銃身を覆う形で捕喰形態に入っている。そして奇襲を捌くとほぼ同時、僕はその神機をヴァジュラに向けて投擲した。

 

 

『あのっ!?』

 

 

 なんか頭の中に神機(レン)の悲鳴が聞こえた気がしたが、そうすれば問題なく捕喰形態の神機はヴァジュラに噛み付く。それに対して僕は瞬時に踏み込み身体を加速させると、ヴァジュラを足蹴にしつつ食い付いた神機を肉ごと引っこ抜いた。

 

 

「グギャア"ァッ!??」

「おっ……?」

 

 

 そして神機を握り直せば腕輪経由で身体のオラクル細胞が活性化(バースト)するのだが。それでふと気付いたのだが、どうにも神機を汚染したせいかな。アラガミの姿で捕喰した時と同じように、僕の身体に捕喰したヴァジュラの情報が記憶された。

 

 これがどういう事か。新型神機でアラガミを捕喰した場合、そのアラガミの能力を弾丸として撃ち出す機構────所謂【アラガミバレット】ってやつがあるんだけどさ。早い話、僕は一度入手したアラガミバレットは好きな時に使えるっぽい。当然自分のオラクル細胞を触媒としてだが。

 

 加えてその出力もある程度操れるようで、既に僕が手にする神機の銃身はヴァジュラの雷光に覆われている。まるで神機(レン)が「使ってみろ」とでも言っているようだ。

 

 面白い。一発試してみるか。

 

 

「見てなよリンドウ。これが新型神機の力だ。」

 

 

 その場で再度空を蹴り、神機を両手で構えて振りかぶる。そうして振り抜きつつ引き金を引けば、ヴァジュラの雷光を帯びたレーザーが目下を薙ぎ払った。さながら巨大な光の刃とばかりに地を凪ぐそれは、軌跡に暴力的なまでの雷光を走らせてヴァジュラを焼き尽くす。ついでに神機の銃身もちょっと融けた。

 

 

「ア"ア"ア"ア"ァ"ッ!??!?」

「はー……すっげえ………」

『ソロモン!?貴方は神機(ぼく)を普通に使ったら死ぬ病気にでもかかってるんですか!??』

 

 頭の中に喧しいほどのレンの苦情が響く。使えって言ったのはお前だろうに。そもそも見た目は派手だが、こんなの元々雷を操るヴァジュラが自分の雷を撃ち返されただけだ。

 

 自分の扱う能力には当然耐性があるし、今の雷光一閃も致命傷には程遠い。それでも怯んでダウンしたあたりその威力の程が伺えるってもんだが。

 

 けどそれでいい。僕は神機を銃形態で構えたまま、続けざまに引き金を引く。それでいて今度照準したのはリンドウの方だ。リンドウは突然銃口向けられてぎょっとしてるけどね。

 

 

「おまっ……!?」

「そう身構えないでよ。流石に誤射なんかしない。」

 

 

 本当ならここで誤射に見せかけ殺してやりたいところではあるが。僕が放った光弾はリンドウを貫くと、その身体の細胞を活性化(バースト)させた。そしてその感触にリンドウは目を目を見開く。

 

 

「これは………」

「【リンクバースト】って機能(やつ)だ。トドメは任せたよ。隊長殿。」

「!!………………任された!!」

 

 

 そして自身の活性化を理解すると同時。リンドウが【ゼロスタンス】と呼ばれる構えを取り、姿をその場から消す。

 

 そうすればその数瞬後。ヴァジュラの胴体が両断される形で絶命した。どうにも僕が生み出した銃創に重ねる形ですれ違いざまに一閃したらしい。

 

 言われてみればこの人がバーストしてる所は初めて見た気がするが……分かっちゃいたが凄まじいな。ヴァジュラを一撃ですかそうですか。単純な身体能力に相手の傷口に傷を重ねる技巧。そのどこを取っても一級品だ。これが今の最強の神機使いか。ほんと人間の分際でよくやる。

 

 

「っし、終わった終わった。んじゃゼロ、さっき言った捕喰回収をやってみろ。普通に死体に捕喰攻撃するだけでいいからな?」

「………………了解。」

「にしてもいきなり大型アラガミが乱入とはな。それにこいつ、来た時既に負傷してたぞ。何かに追われてたか?」

 

 

 リンドウに促されるまま捕喰形態に変えた神機をヴァジュラの死体に突き立てる。……が、さっきので確信した。僕は神機を経由してアラガミを直に捕喰できる。ならその逆も出来るんじゃないかって。

 

 既に絶命した死体も同然だが、僕は神機の腕輪に軽く意識を向ける。そして喰いついた捕喰器官を介し崩れ行くヴァジュラの死体に僕の細胞を織り交ぜた。

 

 それでもヴァジュラの死体は直に霧散し、大気のオラクル細胞の一部に還元されるけどさ。その中に僕の細胞が混入した。

 

 これで次にオラクル細胞がアラガミを生成する時その中に神骸種が混じって発生する。わざわざ外に神骸種を作りに行かずとも任務中に自由に動かせる尖兵が出来るわけだ。

 

 一緒に戦って確信した。やはりリンドウ率いる第一部隊は危険すぎる。どうにかこの状況を利用し彼らを亡き者にしなくてはならない。この部隊をサリーやディーヴァと五体満足で対峙させるのはこっちが死ぬ可能性が全然有り得る。

 

 が、そんな僕の内心をリンドウが知る訳もなく。呆然と崩れ行く死骸を見つめる僕の頭にリンドウは再び手を重ねた。

 

 

「よしお疲れ様。今度こそ任務終了だ。とっとと帰ろうぜ?」

「………ああ。そうだね。」

「どうした?浮かない顔して。神機の扱いは荒いが、話に聞く以上の大活躍だったぞ?」

『本当ですよ。もう少し丁重に扱ってください。』

 

 

 リンドウに便乗する形で頭の中にレンの声が響く。捕喰形態で投げ付けたり、ヴァリアントサイズをフックショットにしたり、アラガミバレットでギガブレイクしたりと好き勝手やったのを根に持ってるらしい。悪かったって。

 

 でもリンドウと一緒に戦って分かった。僕はきっと神機使いとしての素質も十分にあって、普通に神機使いをやってればそれはそれでチヤホヤされた。それこそ人類の希望とか、そういう扱いをされたんだ。

 

 そして何より。こうやって神機使いとして誰かと一緒に戦うのはこんなにも楽しかったんだって。ずっと僕はこういうのをやりたかったんだって。

 

 

 ………あんな神機に適合できず、アラガミ(ソロモン)になんてならなければ。僕にもこんな未来があったんだと、身を以て思い知らされた。

 

 けど僕にもそう言う可能性があった。そう分かっただけで十分じゃないか。僕はやっぱりサリーやディーヴァを捨ててまで神機使いの道は歩めない。せいぜいこんな真似事が限界だ。

 

 そんな調子で終えた忌むべき宿敵との初陣が思いのほか心地よかっただけに僕は悟る。これから先に待ち受けるのは、間違いなくある種の地獄だと。そう否応なく理解(わか)らせられた。

*1
ソロモンが生み出した完全な新種の神骸種。ザイゴートをベースとしてるが、尾と一体化した掌により小型アラガミを掴んで飛行できる。これによりアラガミ防壁を乗り越え、施設への小型アラガミの投下が可能。

*2
近接型神機の一種。厨二心を刺激する大鎌型の神機。素の状態でもリーチは長いが、刃を延長し【咬刃】と呼ばれる肉の刃を形成することでより広範囲を薙ぎ払える。手数と攻撃範囲に優れた神機。

 

ちなみにゼロはこいつの咬刃展開形態を片手で振り回す。

*3
【血の力】を込めて変質した特殊な弾丸。着弾時に赤黒い雷状の火花を発生させる。当然この時代には存在しない、とんでもないオーパーツ。

 

本来なら予め弾丸を編集して持ち込むが、ゼロの場合は神機に意識を宿したレンがその場で任意の効果を付与する。

 

今回付与したのは超長距離弾。




情報開示:ゼロの神機

ゼロの扱う新型神機。実戦配備前の試作型の刀身の【ヴァリアントサイズ】に軽量な【バックラー】装甲と【スナイパー】銃身で運用される。パーツはクロガネ系統で統一されているが、神機の汚染に伴い黒と深紅の色合いになっている。

ソロモンの細胞による汚染で神機そのものが変質しており、その実態は神骸種のそれに近い。そのため文字通りにゼロの身体の一部として使用可能で、高い捕喰能力と変形速度を両立している。何なら手元を離れても遠隔操作が可能で多少の損傷なら自己再生する。故に雑に運用される。レンはキレていい。

加えて神機の意識と呼ぶべきレンの肉体としても機能し、神機の管理機能をレンに一任することも可能。これにより戦闘中のバレットエディット(アラガミバレット含む)なども可能と無法極まりない戦闘力を発揮する。

挙句の果てにゼロの【血の力】にも対応しており、ブラッドアーツやブラッドバレットも放てる。何ならソロモンや神骸種の能力も一部発動できると思われる。

こんな魔改造兵器を新型神機と言い張るんじゃない。
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