神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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03.斥候(サクヤ)

 シックザールに抜き打ちに近い形の検査を受け乗り切った直後。僕は再びカウンターに赴き、続けざまに神機使いとしての任務(ミッション)を受けた。

 

 その様子を見たシックザールは「休めと言っただろう」と制止しに掛かったが何てことない。そもそもさっきの任務はリンドウのおかげであっさり片付き、ヴァジュラが乱入したにも関わらずほぼ消耗ゼロだったんだ。

 

 加えてシックザールが発行した任務は何故か()()()()()()()の二人用任務が出してあった。多分今後作戦を共にする上で互いに腕前や戦術相性(と人柄)を把握しとけって事なんだろうな。

 

 だが僕としてはそうした茶番はとっとと消化しておきたいのが実情だ。あとついでと言っては何だがさっき神骸種を自然発生させられたから。どっか行く前に神機使いとして戦いながらどの程度動かせるか確かめておきたい。

 

 

 そういう訳で僕は再び【怨嗟の地平】へと神機を片手に赴いているのだが。そうして現場に着けば、無線から心配げにジゼルの声が響く。

 

 

『じゃあ作戦開始するけど……ゼロ、本当に大丈夫?』

「大丈夫だって。今回も頼もしい仲間がいるから。ね?サクヤさん。」

「………ええ。最善を尽くすわ。」

 

 

 そして僕は今回の同行者────橘サクヤの方へと振り向くのだが。そうすれば優しく頼れるお姉さんのイメージがあったサクヤさんは、何かめちゃくちゃ空気が重かった。なんで?

 

 

『それならいいけど……もしうちのゼロに怪我とかさせたら、許さないから。』

「神機使いなんだから怪我くらいするだろうに。無茶言って困らせるんじゃないよ。」

「いいのよ別に。……私も、貴方みたいな子に怪我して欲しくないから。」

 

 

 とんでもない無茶振りと八つ当たりを兼ねたジゼルの冷たい声が無線越しに響く。で、そうやってジゼルに圧掛けられてサクヤさんの気が滅入ってるのかと思ったが。これ違うわ。「絶対に僕が怪我とかしないよう守ろう」と本気(マジ)モード入ってるんだわ。どいつもこいつも僕のこと子供扱いしやがって。

 

 で、おかげで大型アラガミ四体討伐でもやるのかって空気の張り詰めようだけど。今回の任務そのものはザイゴート五体とコクーンメイデン四体の討伐である。表向きはね。

 

 オウガテイル十体よりも数は少ないが、一般の神機使いからすればこっちのが面倒に見えるかもしれない。何しろ近接攻撃で相手取りにくい飛行型(ザイゴート)と、遠距離からチクチク鬱陶しい長距離型(コクーンメイデン)だ。

 

 

「幸いコクーンメイデンは分散して配置されてるわ。セオリー通りに行くならザイゴートを先に各個撃破したいけど………」

「銃撃の的にしやすいし柔らかいもんね。落としたところを僕が狩るから、分散しないで一緒に行動しようか。」

「ええ。個別に動いて囲まれるのは避けたいし、そうしましょう。」

 

 

 そんな風にリンドウの時とは打って変わって、二人一組(ツーマンセル)での作戦行動を主とする。僕がヴァリアントサイズを用いた前衛でサクヤさんはそれを後方から支援。基本(セオリー)に則るのならこういう配置を想定するが………

 

 

「ところでゼロ。貴方の新型神機の銃身って、狙撃型(スナイパー)よね?」

「そうだよ。サクヤさんと同じだね。」

「なら今回は銃撃を主体にしましょう。相手が近付く前に撃ち落とし、それで仕留め損ねた相手の迎撃をゼロに任せるわ。」

 

 

 ここでまさかのサクヤさんが銃形態を主軸としたダブル後方編成を提案。威力に優れるスナイパー二枚だからと相手に近付く事なく撃破できる布陣を提示してきた。

 

 まあ僕としても別にそれで構わないから了承するんだけどさ。あれだな。もう「僕に前衛で危ないことさせたくない」って意思が滲み出てるな。んなもん神機使いやってる時点で無理だってのに。

 

 とはいえ蝶よ花よと大切にされるのは決して悪い気はしない。だから僕はサクヤさんの思惑を悟った上で、それに便乗する形で神機を銃形態に変形させる。

 

 そして────

 

 

「────じゃ、作戦を始めようか。」

「んっ!??」

 

 

 その場で一撃。引き金を引くことで豆粒か何かにしか見えない大きさのザイゴートを遙か遠方から撃ち抜く。暫定一キロ以上先への超長距離狙撃。これは僕の人間離れした視覚と、新型神機────更に言うなら時期外れの【超長距離弾(ブラッドバレット)】の併せ技だ。これにより離れた的ほど、僕は高威力の弾丸でぶち抜く事が出来る。

 

 そして遠方の的の絶命を知らせる、オペレーターのジゼルからの通信が入る。

 

 

『ざ、ザイゴートの撃破を確認!!えっ……何したの!?その場からまだ一歩も動いてないよね!?』

「これが新型神機の力ってやつだよ。」

『適当抜かさないでください。神機のパーツそのものは旧型と性能変わりませんからね?』

 

 

 レンの言う通り。実際はあくまで人力(アラガミ)の照準(エイム)と時期外れの【血の力】の賜物だ。他の新型神機使いに同じ真似をしろと言ってもきっとこんな芸当は出来ない。これは僕にのみ許された、ある種の特許だ。

 

 とはいえ遠方からぶち抜くのを向こうも視認したのか。ザイゴートが僕らの待ち構える高台にてそれなりの速度で飛来してくる。流石に目が良いようだ。僕が視覚に適応するだけはある。

 

 

「!!………来るわゼロ。予定通りに。」

「了解。捕喰回収が少々面倒だけど仕方ない。」

 

 

 しかしザイゴートの接近により僕だけでなくサクヤさんの射程にまでその身体は入るわけだが。それとほぼ同時に引き金を引けば、迫るザイゴートの三体のうち()()()地面に落ちた。

 

 ………………あれ?

 

 

『ソロモン?今、もしかして外しました?』

 

 

 頭の中にレンのどこか呆れたような声が響く。それで僕はもう一回引き金を引き、一瞬遅れて横でサクヤさんも引き金を引く。そうすれば宙で落ちるのはまたしても一体だけ。何なら着弾時に黒い火花が走らなかった時点でどちらがザイゴートを落としたかは明白である。

 

 

「………思ったより当たらないな。」

「最初はそういうものよゼロ。動く的を撃ち抜くのはコツが要るの。こんな風に、相手が移動する少し先に撃つの。」

 

 

 そう簡単そうに言いながらもサクヤさんが最後のザイゴートを一射で落とす。……原理は分かるがそれが出来れば苦労しないっての。そうかなるほどな?止まって無警戒な的をぶち抜くのは上手いが動く的だと当てられないのか僕は。

 

 なんだか勝手に「神機使いとしても才能あるんじゃね」って舞い上がっていたが何てことは無い。神機と身体性能が通常より勝るだけで、技術的には相応に未熟らしい。ある意味当然っちゃ当然の結果か。

 

 けど僕がクソエイムが判明して凹んでると見たのか、サクヤさんが僕の肩を軽く叩いてくる。それで顔を見つめればサクヤさんは優しく微笑んだ。

 

 

「大丈夫よ。あれでも本来ならスナイパーの射程圏外だし、狙いは十分過ぎるほどに良かったわ。少し偏差撃ち出来てたら間違いなく当たってたもの。」

「サクヤさんほどの達人にそう言って貰えるのなら嬉しいけど。……ほんと、いい腕してますね。」

「えっ?」

 

 

 だってさっきからサクヤさん、僕が撃つ際に一瞬遅れて撃ってたからな。あれ別に僕の反応速度が良いとかじゃなくて、サクヤさんが僕がどのザイゴートを落とすか見てるからなんだよ。撃つ的が被らないよう僕の弾が当たるかどうか見てたんだろう。

 

 それで僕が撃ち漏らせばそいつを撃ち落とし、僕が無事に撃ち落とせば直ぐに他の的に照準を変更。次を撃ち落とし、同じ的を二人で撃たないように僕に気を遣っていた。

 

 何しろスナイパーって神機はその威力と射程と引き換えに燃費は悪い。故に無駄弾は許されず、正確な狙いと冷静な判断力が要求される。銃型神機の中でも扱いに練度を要する種類だ。だからこそ使い手の技量がモロに出る。

 

 そして今ので理解した。サクヤさんは狙いも判断力も、ついでに反射神経も格別だ。少なくともスナイパーの使い手としては僕とは比べ物にならない。

 

 

「!!………初見でそこまで分かる貴方も相当なものよ。ほんと、その年で可哀想なくらいに素質があるのね……」

「素質で経験は超えられないよ。……僕も精進しないとね。」

「そんなに慌てなくていいのよ。仲間っていうのは出来ないことを補い合うために居るんだから。……寧ろこれから一緒に行く時は、私やリンドウ達をいっぱい頼って。」

 

 

 で、分かっていたけどめちゃくちゃ優しい。優しくてしっかりしている。こうやって頭撫でられてるだけで懐いちゃいそうな辺り、本当にヤバい。横乳丸出しなエロ衣装とかデカ乳とか目じゃないくらい包容力がヤバい。

 

 本当にどいつもこいつも勘弁して欲しい。これから殺さなきゃいけないってのになんでこんな優しく接してくるんだ。いっそツバキさんみたいに死なない程度に再起不能になってくれたらどんなに良いことか。

 

 ………大丈夫。そんな弱音はもう無しだ。僕はキッチリこの人達は殺すって決めてるし、そのための準備さえも行っている。

 

 

 ────今から行うのだって、その一つだ。

 

 

「さて。反省会はこの位にして、まだコクーンメイデン四体とザイゴートが一匹残ってるわ。早く片付けて帰りましょう。」

「………ああ。そうだね。」

「コクーンメイデンは動かないし、射程で勝るゼロに任せていいかしら?私は残りのザイゴートを────」

 

 

 そう、サクヤさんが分担を口に仕掛けた途端。遠目に赤黒いオラクル細胞の爆発が発生し、空気が僅かに震える。

 

 そしてサクヤさんがそれを察して言葉を切ると同時。ふと一つの小さな影がその身に不釣り合いな程に巨大な翼を羽ばたかせて空高く舞い上がった。長大な尾の先に巨大な掌を有するその異形は、こちらを見下し真紅の邪眼を輝かせる。

 

 

「!!!………あれは────」

『ゼロ、そこから離れて!!ザイゴートのオラクル反応が変質した!!これってまさか………』

「………神骸種。それも例の新型だ。」

 

 

 神骸種【フリューゲル】。先のロシア戦で確認された、ザイゴートを素体とした小型の神骸種だ。

 

 ただ原種と異なる点として、あれはシユウの能力を継承している。故にその腕翼を転用した巨大な翼を有し、尾と一体化した爪で小型アラガミを運搬。高高度を飛行し、輸送と投下を行える。

 

 が、もう一点。あれは厄介極まりない能力を有している。

 

 

「────わざわざ目の前に出てくるなんて!!いい的だわ!!」

 

 

 ロシアが地獄に変わりゆくあの景色がチラついたのだろう。僕の目の前でサクヤさんは怒りを顕にすると、神機を構えてノータイムで引き金を引いた。

 

 そしてその狙いは頭に血が上ってなお正確で、間違いなく寸分もなくフリューゲルを捉えていた。

 

 だからこそフリューゲルは空中でその身を捻るだけで正確なその銃撃を回避する。

 

 

「………………躱した!?」

「ちっ。やっぱあの時より更に厄介になってるか。」

 

 

 などと分かりきった事をほざきながら、僕も当たるわけのない銃撃を神機で一発放つ。が、それを意に介することなくフリューゲルは何処ぞかへと飛び交っていく。

 

 そうすれば、ジゼルはさらにその動向を伝達する。

 

 

『神骸種フリューゲル、撤退……いや違う!!ゼロ、早くあいつ止めに向かって!!あいつ、コクーンメイデンの方に向かっている!!』

「了解だ。行こう、サクヤさん。」

「えっ!?」

 

 

 フリューゲルは小型でありながらシユウの能力を有するが、それ以上に原種はザイゴートである。つまり元のザイゴートが扱える能力はあのフリューゲルも扱える。

 

 ………例えばそう。高高度からの細胞散布による、他アラガミの汚染とか。 その程度はザイゴートの毒ガス能力を転用すればわざわざ身体機能を増設するまでもない。

 

 現にフリューゲルは血のような色の霧を撒きながら、残るコクーンメイデンの頭上を旋回し始める。

 

 

『ダメ、間に合わない!!ザイゴートに続き……コクーンメイデンもオラクル反応変質!!神骸種に変質した!!』

「!??………なんですって!?」

「なるほどね。ソロモンはああやって自軍のアラガミを増やしていたわけか。」

 

 

 そんな今となっては無意味な種明かしと同時。赤黒い爆発が四箇所で連鎖的に起こり、再びジゼルが神骸種の発生を告げる。それは神機使い側にとっては初見の、コクーンメイデンを素体とした新種である。

 

 そしてついでに言うのなら、僕も取り扱うのが初めての神骸種でもある。

 

 

「サクヤさん気を付けて。……来るよ。」

「えっ!?どこから来るの!?」

「下。」

 

 

 そう言って僕が神機を構えると同時。僕らを囲うように、その異形は地中よりその姿を現す。

 

 その容姿は通常のコクーンメイデンと同じく一見しただけでは色合い以外の変更点は無い。が、妙なことにその新種のコクーンメイデンは遠距離で腹部を開く。頭部からレーザーを放つのではなく、腹部の装甲を開いた。

 

 そして視覚に優れたサクヤさんは目の当たりにし、理解した。その腹部に本来仕込まれてる筈の毒針が、あるものへと置き換わっている事に。

 

 

(あれは……ミサイル!?まさかあれ、クアドリガのミサイルポッドじゃ────)

「なんだあいつ。あんな遠距離で腹部なんか開いて。」

「……ゼロ逃げて!!あいつきっと────」

 

 

 サクヤさんが僕の身体を抱きしめて飛び出すと同時。僕らを囲うように展開したそれは、各々が腹部から無数のミサイルをばら撒く。

 

 そうすれば一見無造作にばら撒かれたそれは、一つ一つが照準を僕らに向けて真っ直ぐに迫る。不意打ち同然の全方位からの誘導ミサイルとかいう初見殺しに、サクヤさんはおろか僕自身も為す術は無い。

 

 新型小型アラガミ【パンドール】。知っての通りあれは、このロシア支部を地獄に変えた最たる要因だ。

 

 本来なら頭部のレーザー発射口から空気を吸引して腹部のガス袋を膨張。自爆することで周囲を汚染し、吸引した者を神骸種に変えるガスを撒く。

 

 だが今回のパンドールは違う。言うなれば直接の戦闘能力に特化し、且つ自爆による汚染能力を隠蔽した()()()使()()()だ。本来のガス袋はクアドリガのミサイルポッドに換装され、遠方からの爆撃に特化している。

 

 大型アラガミの交戦時は勿論、複数体に囲んで爆撃されるだけでも並大抵の神機使いは死ぬ。何しろ機動力と自衛力をかなぐり捨てた代わりに、こいつは大型アラガミ並の火力を有する小型アラガミだ。こいつの絨毯爆撃をモロに食らえば死ぬのはサクヤさんとて例外ではない。

 

 本当に残念だよ。僕がちゃんとした神機使い(にんげん)であれば、きっと良い戦友になれただろうに。

 

 

「────────ッ!!!ゼロ!!」

 

 

 サクヤさんが僕の手を引き、全方位からミサイルが迫る中()()駆け出す。僕も一応手を引かれるがままに足は動かすが何をどうしようと言うのやら。

 

 などと、僕は神機を片手で構えるサクヤさんに視線を移す。走馬灯がチラつくほど目の前に迫った死に対して、サクヤさんは至って真剣かつ冷静だった。絶命のほぼ確定したこの状況にあってなお、その生きるための足掻きは止まることを知らない。

 

 だからこそ僕も確信した。「この人、まだなんかやるつもりか」と。

 

 

「ゼロ!!前に走って!!!」

「………了解。」

 

 

 叫ぶと同時。サクヤさんが構えた神機の引き金を引く。そうして放たれた銃弾は、なんと迫り来るミサイルの一つを撃ち抜くに至る。

 

 そのせいで撃ち抜かれたミサイルはこっちに届く前に爆散。何ならその爆風に巻き込まれる形で、正面のパンドールのミサイルが軒並み誘爆する。

 

 そしてその爆風の中に僕と駆け出していたサクヤさんは、熱風を突っ切る形で難を逃れる。これだけでもよくやったと褒めてやりたいところだが、サクヤさんは止まらない。全身に爆風の火傷を負ってなお、前転から流れるように神機の照準をパンドールに向ける。

 

 

「────ゼロ、あいつの開いた腹部を狙って!!きっとあそこが弱点よ!!」

「!!………なるほどね。」

 

 

 そうとまで明言されてしまえば僕も言葉に従うしかない。ミサイルを撃ち尽くして無防備を晒すパンドールに、僕は神機を向けて引き金を引く。狙いはサクヤさんの言った通り、パンドールの腹部────さらに言うならそこに内蔵したミサイルポッドだ。

 

 そうすれば僕の銃弾がパンドールを貫き、ミサイルポッドが徐に火を噴く。やがてそれは引火した火薬庫のように、為す術なく一撃で爆発四散した。

 

 さらに一発、もう一発とサクヤさんが照準をずらしつつもパンドールの腹部を順番に撃ち抜いて行く。ご察しの通り、こいつは腹部のミサイルポッドを攻撃されると一撃で爆散する。小型に大型の火力を積んだ代償だ。

 

 それでも本来なら外殻はクアドリガのそれに匹敵するレベルで固めてるのだが……その弱点を初見で見破るとは。これが修羅の国こと極東支部の神機使い────否、第一部隊の実力と言うわけか。改めて目の当たりにするとつくづく厄介なものだ。味方としちゃこの上なく頼もしいが。

 

 

「サクヤさん、助かりました。まさかここに来て新種が出現するとは思わなかったので対処が遅れました。」

「いいのよ。それよりもゼロ、あのザイゴートの新種をどうにかしましょ。」

「………………はい。」

 

 

 サクヤさんが回復錠を身体に打ち、全身を覆う火傷を治療する傍ら。僕は神機を構えて未だこちらを見下ろすフリューゲルに空砲同然の銃撃を放つ。今度は割としっかり狙ったが、やはりパンドールは僕の銃撃をひらりと躱す。そしてその上で僕はサクヤさんに確認を取る。

 

 

「………スナイパーでこれならあいつを銃撃で落とすのは無理では。ロシアの時は素直に落ちてくれたんだけど。」

「そうね。………とはいえ手がない訳じゃないから。ゼロ、神機を近接形態にしてくれる?」

「何かするつもりですか。」

 

 

 何故かサクヤさんはスタングレネードを懐から取り出すけども。それを使って一体何をするつもりなのか。なんかフリューゲルに向かって思いっきりスタングレネード投擲したけど。

 

 神機使いの身体能力で投擲したそれは、確かに上空に陣取るフリューゲルの傍まで迫る。が、弾丸より速度に劣る投擲物なぞフリューゲルは意に介さない。少し身を捻るだけで何なく回避する。

 

 だがそれはサクヤさんも予想してたのだろう。フリューゲルの機動に特に驚く様子もなく、サクヤさんは僕に命じた。

 

 

「────今よゼロ!!行って!!!」

「?………了解。」

 

 

 だから僕は半信半疑で言われた通り、形だけでもフリューゲルに突撃するけど。そうすればその瞬間、サクヤさんが神機の引き金を引いた。

 

 

 そしてほぼ同時。上空で閃光と炸裂音が爆ぜた。

 

 

 その強烈な音と閃光の爆撃に晒されたフリューゲルは、当然空中で姿勢を制御出来ずに墜落する。それもちょうど僕の目の前に。こうなっては僕も神機使いとして手を下すしか無いわけだが。

 

 あの人………まさか自分で投擲したスタングレネードを神機で撃ち抜いたのか?あんな掌サイズの自由落下する物体を、目視も困難な距離で?

 

 

『腕が良い、って言葉で片付くレベルを超えてますね。ソロモンはあれ出来そうですか?』

「五年くらい神機使いしたら……どうだろうな。無理じゃないかな。」

『ですよね。』

 

 

 正直なんかレンに言い返してやりたいが、真面目にサクヤさん喰ってその記憶継承でもしないと無理だと思う。どいつもこいつも人の身で無茶苦茶しやがって。第一部隊の面々と任務してるとどっちが化け物か分からなくなるわ。

 

 とにかくこうも見事に奇襲を捌かれた以上は任務中の事故として抹殺する作戦は失敗だ。下手に怪しまれないためにも僕も残ったフリューゲルにトドメを刺してしまおう。

 

 

「行くよレン。僕に追従しろ。」

『!!……貴方って人は、本当に無茶を………!!』

 ヴァリアントサイズを駆けながら縦に振りかぶり、その場で咬刃をこれでもかと展開する。そうして無数の刃を連ねた長大な大鎌を、僕はフリューゲル目掛けて垂直に振り下ろした。所謂パーティカルファングってやつだ。

 

 そしてその最端の刃がフリューゲルを貫くと同時。僕は神機の咬刃収納ボタンを押し、その刃を一気に引き戻す。後にクリーヴファングって呼ばれる技術だが……後の神機使い達が用いるものと異なる点が一点。

 

 

『来ますよゼロ!!まだ生きてますからね!?』

「分かってる。あいつ(フリューゲル)はそれなりに頑丈だからな。」

 

 

 内側に収縮する無数の刃に引き裂かれながら、フリューゲルが僕の目の前に引き摺られる。僕が用いるクリーヴファングはその殺傷力に加えて小型アラガミを引き摺り寄せる。

 

 そしてそこから一瞬。火花が発生するほどの速度で僕は神機を変形させると、その銃口を引き摺り寄せたフリューゲルに勢いよく突き付ける。

 

 狙撃想定のスナイパーでゼロ距離射撃とか長所を無駄にする愚行に見えるかもしれない。けど僕の神機はその【血の力】を弾丸にも反映できる。こんな塩梅にね。

 

 

「レン。貫通弾を。」

『もう準備してますよ、全く……!!』

「気が利くな。ありがと。」

 

 

 そうして引き金を引けば、フリューゲルの身体が幾重にも貫き穿たれる。その威力は明確に向こうを見渡せる風穴をシユウの装甲に空けるほどで、接射を受けたフリューゲルは爆発四散。僕が神機で捕喰する間もなく大気に霧散する形で絶命した。

 

 パーティカルファングを始動としたクリーヴファングによる引き寄せと、そこからの神機の変形攻撃。今やって理解したが、小型アラガミなら神骸種でも確殺できるな。神機への負荷は大きいが有用なコンボとして覚えておこう。

 

 なんて、お膳立てされた的相手にいい気になってた時である。すっかり全身の火傷を治療したサクヤさんが僕の元へと駆け寄ってきた。

 

 

「お疲れ様ゼロ。大丈夫?怪我してない?」

「サクヤさんこそ大丈夫?……僕を庇ったせいで、酷い火傷を負ったみたいだけど。」

「あの程度、神機使いなら大したこと無いわよ。……でも心配してくれてありがとうね。貴方は素直で良い子ね。」

 

 

 まるで素直じゃない扱いの面倒な神機使いでもいるのか。僕が心配すればサクヤさんは、僕の身体を抱きしめて頭を撫でてくれた。当然というか先程の神骸種に指示を与えていたのが僕とは気付く素振りも無い。

 

 

「それにしても大変だったわね。まさかいきなりあんな風に神骸種が発生するなんて。」

「………僕も初めて見たよ。普通のアラガミが神骸種に変わるなんて。しかもロシア支部の時には見ない新型まで居た。」

「やっぱそうよね。……正直、進化の速度が異常だわ。このままじゃ………」

 

 

「自分達の手が追いつかなくなる」とでも言いたいのか冗談だろオイ。少なくとも今日見た限り、この夫婦が同時に出撃するだけで当面の神骸種はどうにかなるぞ。少なくとも第一部隊に総出で出られたら小型アラガミの神骸種ではどう足掻いても勝てない。それが確認できただけでも儲けものな位だ。

 

 やはり最低でも大型の神骸種……それも出来るのなら中に堕し児(にんげん)の入った神骸種が欲しい。自立した自我の元に戦術と能力を駆使する大型アラガミ。この第一部隊を潰すには、そんな僕と同格以上の脅威が必要だ。

 

 

「………一先ず他の神骸種が来る前に帰投しましょう。任務の対象は討伐したし、これ以上の追撃が来たら流石に保たないわ。」

「了解。………今日はお疲れ様でした。」

「ええ、本当にお疲れ様。帰ったら支部長への報告は私がしておくから今日はもうゆっくり休みなさい。」

 

 

 そう密かに今後の作戦を練る僕に対し、サクヤさんは只々僕の身を案じてくれる。まるで肩を並べる戦友にそうするように。傷のひとつ無い僕の姿に安堵しながら、帰りの輸送車の中でまで僕を気遣っていた。

 

 僕は僕で早く慣れなくてはいけない。殺すべき相手に優しくされるのにも、それをさも当たり前のように受け取って繕うのにも。




ターミナル:アラガミ(神骸種)

・パンドール(爆撃型)

コクーンメイデンを素体とした新種の神骸種、パンドールの特殊個体。自爆による民間人の汚染を目的とした原種と異なり、神機使いへの攻撃を想定した進化をソロモンにより施されている。その結果として腹部のザイゴートの卵殻がクアドリガのミサイルポッドに換装された。

これは腹部装甲を展開することで六発の誘導ミサイルを発射することが可能で、正面広範囲への爆撃に特化してる。発射後はミサイルの再生成に時間を要するが、その破壊力は元のクアドリガのそれと遜色ない。

挙句にその装甲もクアドリガを思わせるほど堅牢で、遠近問わずに神機の通りは悪い。唯一ミサイルポッドは脆弱で、展開時の腹部装甲は最大の弱点。そこを攻撃すれば内包したミサイルに誘爆し、一撃で爆散する形で絶命する。

こうした生態は攻撃力の追求と共に、ソロモンの細胞が有する汚染の性質を隠蔽する目的が強い。

また元のパンドール同様、腹部の内蔵ミサイルを一斉に起爆する自爆技も持っている。こちらは汚染力より殺傷力に長けており、地中を潜行する性質から局所への爆撃に用いられる。
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