神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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サリエルってパンツあんのかなって視姦してたら光壁に焼き殺されました。


06.獣達(ハントレス)

まず視界に入ってきたのは怖い顔したおっさんの顔だった。真っ黒な皮膚を持つ人面獣のアラガミ。その特徴的な鬣を思わせるマントを揺らし、赤い双眸で身動きできない僕を見つめる。

 

 

ディアウス・ピター。ヴァジュラ神属の接触禁忌種にして天帝の名を持つアラガミ。数いる大型アラガミの中でも最上位クラスの存在だ。

 

そしてその黒い帝王を囲む氷の女王達。プリティヴィ・マータと呼ばれるこちらも同様、第二とはいえ接触禁忌種。普通の神機使いでは出くわすだけで危険という凶悪極まりないアラガミだ。

 

 

 

まさかこんな大層なもんを呼び寄せてしまうとはねー……計七体もの接触禁忌種の目の前に四肢を三箇所もがれた状態で転がってんだ。この後僕がどうなるかなんて言うまでもない。この顔触れじゃサリーが来たところでどうにもならないし。

 

群れの長であろうディアウス・ピターが僕へと足を進め、まるでこちらの反応を楽しむかのように口を歪める。こいつってあれなのかな。アリサの両親殺したりリンドウさんの右腕持ってったりしたやつなのかな。いや、僕の場合は未来形か。こいつがリンドウさんの腕輪持ってくのはまだまだ先の話なはずだから。

 

 

………あーあ。サリーに言われた通りやめておきゃ良かったな。こんな邪悪なライオンキングに喰い殺されるなんて。それが嫌ってわけではないけど。オウガテイルとか雑魚に食い散らかされるよりはマシなんだけどさ。どうせならサリーに喰われて死にたかったな。

 

 

でもそんな願い事が届くはずもなく。帝王は跪き、僕の胴体をその巨大な口で引き千切る。腹部と右脚が食い千切られているにも関わらず痛みは少なく、そして意識は未だに明瞭にこの食事を行うピターを視界に映している。

 

 

 

 

 

だがその時。ピターが口にしてた僕の下半身を吐き出した。咀嚼はしたのか右脚は既に見るも無残な肉塊に変わってはいるものの、それを渋そうな顔をしてピターが吐き出していた。

 

しかもそのままピターは僕のことを忌々しそうに見つめると、もう一度口を近付けかける。でもある程度まで口を近付けると、やはり噛み付くことはなく顔を背け、不快そうに眉間に皺を寄せた。

 

 

 

………不味かったのかな。僕の身体。ピターの反応に興味を示したのか、他のプリティヴィ・マータも僕の身体に顔を近付けて匂いを嗅いだり舐めたりする。けどいずれも口にすることはなく、嫌そうな表情をして顔を背けた。

 

なんでだろ……サリーは普通に僕の耳とか指先とか捕喰するのに。単純にヴァジュラ神属は僕の味が好みじゃないのか。それとも僕の身体に変化が起きたのか。でもサリー以外には最近は何も口にしてない。さっきも結局リンドウさんもツバキさんも傷一つ付けられなかったし────

 

 

────いや待て。喰ってたわ。めっっっちゃ不味いものを。異物同然の『神機』っていうアラガミを。僕の身体を縫い止めるあのブラッドサージを壊すのに捕喰して壊した。まさかあれのせいか?それしか心当たりがない。

 

なんの因果だろうか。僕を死に追いやりかけたあの神機を口にしたことで、今こうしてピター達に喰い殺されることが無くなった。神機は偏食因子のせいで普通のアラガミは食えないから。その性質を学習して模倣した僕の身体もきっと同じ性質を有するのだろう。

 

 

 

………しかしもしそうだとしても妙ではある。神機を喰ったのはついさっきだというのに。もうその性質を学習して模倣するに至っているのか?ザイゴートの時とか何日も口にしてなきゃ能力使えるようにまではならなかったのに。武器壊すのに急いで喰ったから消化も早かったとか……?

 

 

考えても分からないが確かなことはひとつ。どういうわけか僕は神機に近い性質を得た。アラガミに喰われにくい異物の身体だ。酷い目に遭ったと思ったが、思わぬ収穫を得たものだ。これで僕はアラガミに喰われることは無い。

 

落ち込んだ様子で引き返すディアウス・ピター達に下顎のない口元が緩む。残念だったなピター。あとはサリーが来るまでここで大人しくしておけばいい。ほんと肝を冷やした……けど助かって良かった。あの場で口にしたリンドウさんの神機には本当に感謝しかない。

 

 

 

 

 

でもね。これではいおしまいって行かないのが僕なわけで。

 

 

 

「グルルッ。」

 

「……………??……………ッ!!」

 

 

不意に僕の胴体に大きな前脚が押し付けられる。何事かと思いきや目の前にあの不気味な女神像の顔があった。

 

プリティヴィ・マータ。女帝と呼ばれるそのアラガミは、僕のことを餌ではなく玩具と認識したらしい。喰えないと分かって引き返す他の群れを気にもとめず、僕のことを前脚で転がして遊び始めた。しかもそれだけでなくその大きな口で僕を咥えて……ちょ。涎つけんなこの人面猫!!涎凍ってるんだけど!?

 

 

こいつ正気か。達磨になった人型の生き物を玩具にするとか。しかも咥えられた場所が軽く凍り付いてる。神機に似た体質になったと言っても喰われなくなっただけで、普通に攻撃は効くし死ぬんだろう。

 

そうしてしばらく僕で遊んでたプリティヴィ・マータだったが。途中で群れに置いていかれたのに気付いたらしい。なんだか慌てた様子でどこぞへと走り始めた。

 

 

 

……………僕を口に咥えたまま。

 

 

 

ちょっと待てェェェェェ!!?お前どこ行く気!?ねぇ僕をどこに連れてく気!??なんでお気に入りの玩具見つけた感じで僕のこと持ってくの!!ヤバいヤバいヤバい凍る!!身体凍ってるから!!

 

しかも腕も足もないから僕は暴れることも出来ず、下顎もないから舌に噛み付いて離させることも出来ない。離せこのアホ猫が!!あそこにサリー来てくれるかもしれないんだから!!

 

 

でもプリティヴィ・マータはそんなこと知ったこっちゃないとばかりにどこぞへと向けて走り続ける。あとついでに咥えられてる部分から僕の身体が凍り始めている。あれ……これ死んだのでは………なんか眠くなってきたんだけど………

 

 

 

 

 

そうして僕は氷の女帝にどこぞへとお持ち帰りされた。僕の最後の記憶はここで途切れたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそその道中でなにがあったのか。そんなことは知る由もないし、僕は間違いなく死ぬか眠るかのどちらかの状態だったはずなんだよ。少なくとも何かを捕喰したりできるような身体では無かった。

 

 

にも関わらず。僕は誰のものとも分からない声を聞いた。

 

 

 

『……て……さい………』

 

「…………………………………??」

 

『起きてください。もう朝ですよ。……僕の声、聞こえてますか?』

 

 

 

少年とも少女ともつかない変わった声だった。けどその声を聞くと霞がかってた意識が妙にはっきり目覚め、そしてふと我に返った。

 

 

目を開けるとまず真っ先に飛び込んできたのは薄暗い鉛色の空だった。横たわっているのはコンクリートらしく、薄らと身体が濡れて冷やされている。雨でも降ったのだろうか。その感触がこの景色が現実のものだということを理解させる。

 

 

「………生きてたか。」

 

 

あのプリティヴィ・マータに連れ去られてそのまま凍え死んだかと思っていたが。それどころか僕の身体は五体満足にまで再生し、手足の指先にまで感覚が戻っていた。どうやら奇跡的にも一命は取り留めたらしい。

 

しかしさっき頭に響いたあの声……あれは誰の声だったのだろうか。夢や幻聴と片付けるには妙に耳に残る声だったし、僕の内側から聞こえたように感じた。三途の川でも渡ってるのかと思ったけど……何だったんだろ。

 

 

『よかった……目が覚めたんですね。』

 

「!??!?」

 

 

やっぱ幻聴じゃねーなうん!?なんだ……こいつ僕の脳内に直接!?誰だお前……人の言葉を発するものなんて僕は食ってないぞ。しかもこの声は僕の心の中まで読めるのか。少し困ったように返事までしてきた。

 

『困りましたね……もしかして『僕』のこと食べたの覚えてませんか?』

 

「は?何言って────」

 

『まぁ三日も寝てれば無理はないですね。一応ずっと呼びかけてたんですよ?』

 

 

………そんなに寝てたのか。道理で身体が動かないはずだ。身体がえらく重いせいで起き上がるのも辛い。動かしてないのに加えて再生したてって動きにくいから余計だ。

 

それでも立ち上がらずにはいられなかった。三日間も寝てたって……どこだここは。僕はどこにまで連れてこられた?あのアホの人面猫、僕をどこまで拉致しやがった。

 

 

早く帰らなきゃ。あの極東ではサリーが僕のことを探しているんだ。身体も元に戻ったなら帰らなくては。あの極東とかいう魔境にサリーを置き去りにするとか、下手するとサリーの方が危ない。

 

 

しかしそんな思いとは裏腹に。僕は自分が横たわっていた場所を知り、目の前に広がる景色に言葉を失う。

 

 

僕が寝かされていた場所。それは廃ビルの屋上だった。目下には植物の侵食が進んだ無数の廃屋が並び、灰と緑だけが果てしなく広がっている。

 

 

「……………どこですかここ。」

 

『僕にも分かりません。』

 

 

人の文明の滅亡を象徴するかのような廃墟都市。僕の内から響く声に問いかけたところでここがどこかは分かるわけなく。こうしてただ神機使いを喰うだけのつもりだった僕は、再び行く宛ての無い旅路へと放り出されてしまった。

 

 

 

「グルル……………」

 

 

 

………それもこの状況の元凶と共に。唸り声に振り向けば、そこには相も変わらず涼し気な顔をしたアホ猫が居座っていた。




プリティヴィ・マータに萌え要素なんてあったっけ(絶望)

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