「うおっ!?おま………いつの間に!!」
「ガオ。」
思わず目の前に座って吠えるプリティヴィ・マータに掌の邪眼を向ける。こいつ……まだ着いてきていたのか。この廃ビルの屋上といい、完全に僕という玩具を他のアラガミに取られないように隠してたよな??それに僕が臨戦体勢に入っても全く気にかける様子もなく欠伸してる。舐めやがって……
『まぁまぁ。彼女に敵意は無いみたいですし。やめておいた方がいいと思いますよ?』
「…………………………だな。」
仮にも第二接触禁忌種。僕が万全の身体でもまず敵う相手じゃないし、色々思うところはあるが今は大人しくしておこう。向こうも特に何かしてくる様子もないからね。てゆーかほんと無表情で怖いなこいつ……何考えてるかが全く分からん。
今もなにを思ってか、こいつは僕の側へと歩み寄ると身体を丸めるようにして横になる。とりあえず害意はないようだが、僕への興味は無くしてないのか未だにこちらをチラチラと見ている。
………そうなるとこいつよりはまず僕の中からするこの声の正体だな。誰なんだお前は。何故僕の中から語りかけることが出来る。こんな知性を持った存在を僕は口にした覚えはないぞ。
『………それよりまずは食事でも摂りません?流石に三日食べないと空腹で…………』
「あー……そうだね。そうするか………」
身体が重い原因これだったか。普通だったら三日も喰ってなかったら身体のアラガミの部分に自我が完全に侵蝕されてもおかしくないんだ。今すぐ適当でいいからアラガミ喰ってこよう。
幸いにもこの廃墟都市。屋上から見下ろせばそれなりに小型アラガミはいるし、逆に大型アラガミや神機使いらしい影はない。小型アラガミなら口にするリスクも少ないだろうし適当に何体か狩るとするか。
『でしたら試しに僕を使ってみませんか?せっかく貴方に取り込まれたついでなので。』
「使う?使うってなにを………ッ!??」
『ちょっと痛いかもしれませんが我慢してくださいね。』
丸まってるプリティヴィ・マータの中から脱出した時だった。急に僕の右腕に激痛が走った。見れば右掌の邪眼の真ん中から骨が変質したような刃が飛び出し、ついでに腕の形が無理やり変形させられていく。
掌から伸びた刃は巨大な生物じみた剣の形となり、右腕の肘辺りまでが赤黒く刺々しい有機的な篭手のようなものに覆われる。それだけでなく指は巨大な剣の持ち手に融合するかのように皮膚が引っ張られ、自在に動かせないほどに硬質化する。
そしてその痛みと変質が終わると、僕の右腕は生々しい大剣を握った異形のものへと変わっていた。不思議な話だが刃の先にまで感覚が通じており、刀身にも血管のようなものが浮き出て脈打っている。これシオやリンドウさんがアラガミ化した時に使ってた神機擬きに似て────
────────神機??
『どうですか?貴方の細胞を使って構築したからリンドウのものみたいには出来ませんでしたが……』
「………………なるほどな。やっと君の正体が分かった。」
『あ。思い出してくれましたか?』
神機の残存意識とでも言うのか。僕が喰って壊したあの神機はリンドウさんのブラッドサージだったからね。つまりそういうことなのだろう。リンドウさんの神機を取り込んだ時に一緒に入ってきたらしい。そうかこの頃から意識はあったのか……
「……でも分からないな。なんで僕の中で自我を保っていながら僕に手を貸す?この右手の変質を全身に行えば殺せるだろうに。」
『今の僕の身体は貴方の身体なので。それに僕はあくまで貴方達アラガミを殺せるだけで、貴方達に敵意があるわけではありません。』
なるほどね……つまり殺すのはあくまで使う人間だと。それを聞いて安心したよ。危うく食あたりで死ぬかと思ったわ。
そうか……神機の性質を僕の身体が学習したのは分かってたが、こうやって神機を模倣した武器まで出せるようになってたとはね。見た感じロングブレードっぽい。試しに振り回してみるが、腕に一体化してるせいか重さとかはほとんどない。見た目が醜悪なまでに生々しいのだけが欠点か。
んじゃせっかくだしこいつを使ってアラガミを数体狩ってみようかね。そうして廃ビルの屋上から飛び降りようとすると、後ろで横になってたプリティヴィ・マータが急に起き上がった。
「グルル………」
「なんだ?お前も来るのかい。」
『一人で行かせるのは心配って言ってますよ。』
………メスのアラガミってみんなこうなのだろうか。過保護っていうか……あのとき僕を連れ去ったのもあの場に放置してくの危ないとか思ったのかな。その割には僕のこと転がしたりして遊んでたけど……
まぁいいや……着いてくるなら勝手に着いてくればいい。流石にヴァジュラテイルに不覚を取ることはないと思うけど。
ビルから飛び降りると同時、サリエル種の飛行能力で目下のヴァジュラテイルへと向けて身体を加速させる。そして落下の勢いそのままに手の剣を振り下ろし、ヴァジュラテイルの身体を縦に両断する。
「グギャアァ!??」
「……ん。いい斬れ味。」
しかもヴァジュラテイルを一匹叩き切ると同時、赤黒い刃が脈打つ。そしてこの身体に伝わるこの感覚は……この神機擬き、斬った箇所をそのまま捕喰しているのか。攻撃と食事を同時に行えるとは随分と便利な武器だな。
おかげでヴァジュラテイルの比較的固めの外皮が無残に引き裂かれている。捕喰という性質上硬さもある程度無視できるらしい。これさえあれば硬いアラガミでも食えるな。シユウとかカムランとか。あの辺を食う機会なんてそうないとはいえ、攻撃面だけならゴッドイーターの神機より強いんじゃないか?
『いや……流石に一般の神機には劣りますよ?攻撃力は確かに上ですが………』
「そんなことないって。………あ?」
後ろに気配を感じて振り向くと、更に別個体のヴァジュラテイルがこちらに突進しつつ尻尾を振りかぶっていた。あの特徴的な尻尾が雷光を帯び、ヴァジュラテイルが身体を捻る。
……リンドウさんとやり合った後だと隙だらけだな。見てから余裕で防げる。僕は神機擬きの刀身に左手を重ね、迫ってくる尾を刃で受け止めてみせる。
何故か刃が吹っ飛び、掠めた僕の頬を切り裂いた。
………………………あれ??
「おっ!……折れたぁ!?ねぇ折れたんだけどレン!!」
『だから言ったでしょう。貴方はブレードの部分しか食べてないからそれはガードできないんです。いたた……』
「初めて聞いたんだけど!?でもそっか!!ごめんね!!」
やべぇヴァジュラテイルと思って舐めプしてた!!どうしよ!?ヴァジュラテイルって結構攻撃力あるから喰らったらやばいよね!!なんか最近いつもピンチになってんな!!あと折れた刀身の根元からめっちゃ血が噴き出してる……これやっぱ身体の一部って判定なのか。
武器を失ったと見たのかヴァジュラテイルがゆっくりこちらへと詰め寄ってくる。ちっ……やっぱいつも通りサリーの能力を使った方がやりやすいか。
右腕の変質を解き、両掌の邪眼を開く。でもそれを向けるとほぼ同時。僕の背後から甲高い声が響くと、目の前のヴァジュラテイルが地面から生えた氷柱に貫かれる形で絶命した。
まるで百舌鳥の早贄のようになった死体が氷柱の消失と共に地に落ち、声の主────プリティヴィ・マータが僕の身体をまじまじと見てくる。相変わらず無表情だけどこれは心配してくれてるのか……しかも僕が無事と分かると、一瞬で仕留めたヴァジュラテイルの死体を咥えて僕の前へと持ってくる。
「あ………ありがと。」
「ガオ。……………♪♪」
頬っぺを撫で撫でしたらプリティヴィ・マータは腰を下ろして顔を寄せてきた。もっとやってくれってことか……再生しかけの剣をヴァジュラテイルの死体に突き刺す傍ら、まるでフリスビーを取ってきた犬のように撫で撫でを要求するこの子をしばらく撫でておいた。
犬なのか猫なのかはっきりしろ。
プリティヴィ・マータの萌え要素を纏めると
猫娘(正確には虎ちゃん)。
モフモフ。
普通に顔は美人(要審議)。
氷だし多分クーデレ。
実はおっぱいある。
なのにレンくんのがまだヒロイン出来そうなのほんとお前。