神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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レンくんって神機=アラガミだから性別ないんですよね。
男装ちゃんか男の娘かは読者の判断に任せます。


08.雪虎(バルファ)

「ふぅ……ごちそうさま。」

 

『これだけ食べればしばらく大丈夫ですね。』

 

「ガオ。」

 

 

 

数にして十匹。ヴァジュラテイルを平らげたところでプリティヴィ・マータと共に近くの瓦礫の山に腰を下ろす。さーて……これからどうしたもんか。いやどうするかなんざ決まってんだけどさ。

 

 

ひとまずは極東地域。あの僕がリンドウさん達にやられてこのアホ猫に拉致られた場所にまで戻りたい。サリーが心配してるかもだしこっちも心配だからな。だが問題はどうやってあそこに行くかってことだ。連れてこられる際に意識を失ってたからここがどこであの場所からどの程度離れているのかが分からない。

 

 

 

『極東に戻るって……リンドウに出会ったら今度こそ殺されるかもしれませんよ?やめた方がいいんじゃないですか?』

 

「それ以上にあそこに置き去りにしたサリーの方が危ないんだよ。放ってはおけないだろ。」

 

 

会える保証なんてないけど戻らなきゃな。あのアラガミも神機使いも化け物揃いの極東にサリーを置き去りにしたら遅かれ早かれ死ぬんだから。あの子は僕が半年も孤独だった時に僕に寄り添い守ってくれたんだ。このまま別れるなんて出来るわけない。

 

 

でも方角も地理もわからない僕がどうやってあの極東に戻るか……一番の問題はそれだ。僕の飛行能力なら速度はそこそこ出るだろうが闇雲に飛び回っても余計に迷うだけだ。

 

 

あんまのんびりしてられないんだが、焦っても状況が悪化するだけだよな。やっぱここは地道に情報を集めながら進むしかないか……ん?レンどうした。なにかあるのか?

 

 

『あの……死んでもいいなら極東の方まで案内しましょうか?』

 

「案内?いけるのか??」

 

『僕はあくまで本体から切り離されて食われた神機の一部ですので。僕本体の位置なら大体ですが分かりますよ。』

 

 

 

……………マジで??本体って要するにリンドウさんの握ってる神機ってことだよな??確かにあの人は極東支部に居座ってて他の支部に移るようなこともないだろうし。神機のある場所を目印に進めば極東には戻れるだろうが………

 

 

それってつまり、リンドウさんのいる場所に自分から向かうってことだよな。あのめちゃくちゃ強いリンドウさんに。殺してくださいって言ってるようなもんじゃねーか。あ、死んでもいいならってそういうね?なるほど確かに死ぬわ。

 

 

『僕としては貴方がリンドウに殺されてくれれば元の身体に戻れると思うので、行ってくれれば嬉しいんですけど。』

 

「君みたいな正直な奴は嫌いじゃないよ。……んじゃ行くか。」

 

『え。』

 

 

身体の中のレンが困惑したように声を漏らす。だって現状それしか極東に戻る手がかりないんだろ?なら行くしかねーじゃあないか。それに僕が殺されればレンは元に戻れる。僕は運が良ければサリーに会える。互いにWinWinだと思うけど??

 

 

『え……いいんですか。確実に死にますよ?』

 

「元からいつ死んでもおかしくない暮らししてんだからいいよ。それにこっちも勝算がないわけじゃない。」

 

「ガルル。」

 

 

万が一サリーより先にリンドウさんに出くわしたらこのプリティヴィ・マータをぶつけてやる。今のリンドウさん確かに化け物じみて強いとはいえ、ベテランってほどではないだろうから。見た感じ本編より若いし。接触禁忌種をぶつければ互角かこっちに分があると思う。

 

元はと言えばこいつのせいでこんな場所に来ちまったんだから。いざとなったら働いて貰うからな。なに?他力本願寺?どこぞの究極生命体も言ってただろ。最終的に勝てば良かろうなのだ。あいつらもこの前僕一人にツバキさんと二人がかりで殺しに来たんだから。別にずるくはない。

 

 

「そうと決まれば行くよ。レン、案内お願い。」

 

『……分かりました。ではまず僕が次の指示出すまで南に向かってください。あの森の方に真っ直ぐです。』

 

「ガオ。」

 

 

よしよし。希望が見えてきた。一時はマジでどうしたものかと思ってたが、これなら極東に戻れる。不安要素は依然てんこ盛りだがサリーに会えるかもしれないんだ。ほんとリンドウさんの神機ことレンには感謝しかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もう無理。」

 

『体力なさすぎでは?』

 

「こんな長時間飛んだこと無いもん……ほんとにこっちで合ってんのか……?」

 

 

あの廃墟都市を出て一時間ほど経ったか。鉄塔の並ぶ貯水池のエリアに差し掛かり、僕はぐったりとコンクリートの地面の上に落ちた。しょうがないじゃんこのアホ猫が走るの速すぎんだよ……機動性はサリエルよりヴァジュラのが上だから当たり前だけどさ。それに合わせて一時間も飛んでりゃ倒れるって。

 

 

でもさすがプリティヴィ・マータ。こいつを引き連れてると他のアラガミに襲われない。接触禁忌種に喧嘩を売ろうなんてバカはいないのか、今も近くの排水貯まりからグボロ・グボロが何匹かこちらを覗いている。そんな中型アラガミでもプリティヴィ・マータがチラリと目を向けると、慌てて排水の中に隠れてしまう。僕一人だったら絶対襲われてるんだろうなー……

 

 

それで僕が床に倒れてぐったりしていると、プリティヴィ・マータがその場に腰を下ろして僕に顔を近付けてくる。慣れというのは恐ろしいもので、だんだんこの無機質な顔も怖くなくなってきた。むしろ顔だけなら結構美人な類だよなこいつ。

 

 

「ガーオ。」

 

「………背中乗っていいの?」

 

「ガルルッ。」

 

 

あー背中ひんやりしてて気持ちいい……短いとはいえ体毛もモフモフしてるし。そうしてプリティヴィ・マータは僕を背中に乗せると再び四足獣特有の脚力で鉄塔の森を駆け抜ける。

 

 

でもその時だった。軌道上に二つの影が踊り出る。あの巨大なサルみたいなのはコンゴウか。二匹がかりならとでも思ったのだろう。そいつらが僕らの行方を遮るように突っ込んでくるが、プリティヴィ・マータはすれ違いざまに二本の氷柱を生やす。

 

それは一撃で刺し貫くようにしてコンゴウを持ち上げ、その直後に体内から無数の氷の棘が生えてコンゴウを身体を内側から八つ裂きにした。プリティヴィ・マータってあんなエグい技使うっけ……?

 

 

「グルルッ♪」

 

「お前すごいよな……頼りになるっていうか。」

 

 

敵対してたらと思うとゾッとするよ。これが接触禁忌種の力か……自慢げに唸り声を上げるプリティヴィ・マータを他所に、宙で八つ裂きになったコンゴウの腕がこちらに降ってくる。キャッチしといた。よしよしいい子いい子。頭撫でて欲しいんだね。

 

プリティヴィ・マータは何やらすれ違いざまに捕まえたようで、根元から引きちぎったコクーンメイデンを咥えてバリバリやってる。……せっかくだしこいつを頂いておくか。そろそろお昼だし。

 

 

 

そうして僕がコンゴウの腕を口にした時だった。ふと僕の耳が銃声を捉える。……この先だ。爆音ならクアドリガって可能性もあるけど銃を扱うアラガミは現状いないはず。つまり神機使いがいる。足音は三つ。種類の異なる銃声二つが響いてる辺り一人は近接か。

 

けど銃声に反して交戦しているアラガミの足音がしない。浮いてるからだろうか。………まさかサリーか!?浮いてるってことはサリエル種かザイゴート種だろうし!!可能性はある!!

 

 

『!!……待ってください!!そっちは危険です!!』

 

「なに!?でもあそこに………あ。」

 

『周り道ですが右に行ってください。近くに大型のアラガミの反応はありませんから。』

 

 

レンの案内に従いプリティヴィ・マータの頭の右側を軽く叩く。するとプリティヴィ・マータは排水溜まりを冷気で凍らせ、その上を一気に駆け抜けてショートカットしてみせた。よく聞いてみたらさっきの場所、着弾音が一点に集中して動いてなかった。恐らくコクーンメイデンだろう。

 

 

でも雑魚アラガミに神機使い三人がかりってことは新人教育か何かだろうか?少し気にはなるが……今は神機使いとやり合ってる暇はない。人間も確かに捕喰したいがレンも危ないって言ってたし先に行こう。

 

 

 

………にしても急に耳がよくなったな。今喰ったこのコンゴウの影響だろうか。だとしたらやはり僕の身体も学習速度が早くなっている。一口でアラガミの能力を一部とはいえ模倣できるなんて。これも神機の性質か?あれ新型だと捕喰したアラガミの技そのまま撃てるし。それとも僕が単純にアラガミとして進化しているのか。

 

 

なんにせよこの聴覚は便利だ。サリーの邪眼の視覚と併せて危機回避に使える。ゴッドイーターで言うところの『ユーバーセンス』ってやつだ。見えない場所でも神機使いや大型アラガミがある程度なにをしてるか理解できる。

 

 

現に早速僕の耳がこちらに向かう三つの足音を捉える。さっきの神機使い達か。あっちにもユーバーセンス持ちがいるのか、真っ直ぐにこちらに向かっている気がする。今やり合うのは面倒なんだよな……よし。プリティヴィ・マータ。道の閉鎖を頼む。

 

 

「ガオッ。」

 

 

僕をちらりと見つめてプリティヴィ・マータがその場で跳躍する。そうするとさっきまで僕達がいた場所から巨大な氷壁が形成され、鉄塔の森の通路を完全に封鎖する。しかもそれだけではなくプリティヴィ・マータは地面から生える氷壁の上に乗り、その形成速度の勢いのままに高台へと跳躍した。それとほぼ同時、さっきまで形成されていた氷壁が粉々に崩れ去る。

 

 

さっきから思ってるけどさ。お前すごいな!?冷気を操るって能力がここまで応用性高いとは……自慢げに喉ゴロゴロ鳴らしてるけどほんと誇っていいよ。この子のおかげで移動がめっちゃ速い……アラガミ寄って来ないし。ゲームでこの変態機動やられたら発狂するわ。

 

 

『そういえば極東地域に着きましたけど、明確な行先はあるんですか?』

 

「え……もう着いたの。」

 

 

いや。そういや鉄塔の森って初代の頃からあるマップだっけ……そうか。もう着いたか。なら次に目指すのは荒野だ。あそこはゲーム中では無かったマップだけど、遠目に街が見えたから。多分贖罪の街。次はそこを目指そう。

 

 

「ガルルル………」

 

「ほんとありがとうね。プリティヴィ・マータがここまで頼りになるなんて思わなかったよ。」

 

 

頭撫でてって上を向いてくるプリティヴィ・マータの頭を両手でわしわしする。……でもサリーに会ったら怒られるだろうなー。勝手にいなくなったと思ったら他のメス連れてきたとか。どう弁明しよ。この子に拉致られたとか言ったらサリー殺しにかかるだろうし……

 

 

………いや。まずはサリーに会ってからだよね。もうすぐそこまで来たんだから。早く会って安心させてあげなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………私、バルファ・マータなんですけどね。)




鉄塔の森のBGM好き。

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