そのくらいバルファちゃん属性はあるねん。
思い留まりました。
鉄塔の森を抜け、夕暮れを背負った街を通り、やがて僕は彼の地へと辿り着く。
プリティヴィ・マータの走破能力は大したものだ。虎の威を借る形ではあるが他のアラガミに襲われて足止めを食うことなく贖罪の街を抜けられた。本来ならゲームで一番最初に来るマップだしゆっくり探索したいんだけどね。あいにく今の僕にそんな時間はない。
しばらく走り続け、見覚えのある荒野へと辿り着いた。こここそが僕が前に雨宮姉弟と交戦して達磨にされ、挙句にこのプリティヴィ・マータに拉致られた場所。その付近のどこかだ。
しかし当然というか未だにサリーの姿は見えない。せいぜい目に入るものといえばそこらを闊歩するオウガテイルやヴァジュラ程度。サリエルが飛んでたらすぐ分かるのに。
………まさか本当に殺されちゃったなんて言わないよね?僕やだよ??サリーには会って謝らなきゃいけないんだから。サリーの言うこと聞かないで殺されかけたこと。拉致られて心配させちゃったこと。それに加えてこれで死なれたりなんかしたら……
「………そうだ。」
『どうしましたか?』
ふとあの時拉致られたことを思い出した。あれって確か僕がその場しのぎでアラガミを呼び寄せたせいで拉致られたんだよね……あのザイゴートの能力で。サリーはあの時に僕の呼び声を聞いてるはずなんだ。だからもし、まだ生きてこの辺にいてくれるなら。もう一回呼んでみたら来てくれるかもしれない。
『でもそれ、他のアラガミも集まりませんか?』
「今は僕も手足は無事だから。それにこの子いるし。」
「!?」
プリティヴィ・マータの頭を軽く叩くと「えっ」て困惑したようにこちらを見てきた。第二接触禁忌種連れてるのに喧嘩売ってくるやつなんてそう居ないでしょ。それに運が良ければこの子がはぐれちゃった群れも見つかるかもしれないし。あのディアウス・ピターが連れてた群れはここで呼んだら来たから。案外この辺を縄張りとして居座ってるかもしれない。
「………………………………………………。」
「え。なにその嫌そうな顔。」
『群れに帰りたくないんじゃないですか。』
めっっっちゃ眉間に皺寄ってる。プリティヴィ・マータってこんな顔すんの。いや、帰りたくないなら無理に帰らなくてもいいけどさ!?でもとにかく!あの第一接触禁忌種のディアウス・ピターが来たらこの子に守ってもらうから!!
うつ伏せになって何故か拗ねてるプリティヴィ・マータを他所に身体を軽く浮かせる。そして両手を左右に広げ、本来の目と手の邪眼で全方位を視界に入れる。よし……やるよ。
「────────!!!」
声を張ってアラガミを呼び寄せる鳴き声を上げる。しかしサリエルの姿は見えない。寄ってくるのはさっきまで徘徊してたオウガテイルだけ。あと何故か足元からニョキっとコクーンメイデンも生えてきた。プリティヴィ・マータ、食べていいよ。
「ガオッ。」
「!??」
『サリエルいませんね。ほんとにここなんですか?』
分かんない。見る限りこの荒野めちゃくちゃ広いから。ウロヴォロス百体くらい同時に戦えそうなほど広いから。場所が悪いのかもしれない……あちこち移動しながら呼んでみようか。
「ガル?」
「次はあっち行ってみようか。」
コクーンメイデンを前足で挟んでバリバリしてるプリティヴィ・マータがコクーンメイデンの死骸を引っこ抜いて持ってくる。
場所を移し、再びアラガミを呼び寄せる鳴き声を上げる。
しかし来たのはグボロ・グボロ。それも金色。ある意味大当たりだけども。プリティヴィ・マータ、食べていいよ。
「グボォ!??」
次行こ次。あっちの高台とかまだ行ってないはず。あとあんま断続的に叫んでるとあちこちから聞こえてサリーが混乱しちゃうから。これからはなるべく叫び続けておこう。そうすれば移動してるって分かりやすいと思うから。
高台。何故かシユウ師匠。お前あの時リンドウさんに殺されたはずじゃ。流石に別個体だと思うけど。
「食べていいよ。」
「〜〜〜〜〜〜!?!!?」
『さっきから呼ぶだけ呼んでおいて酷いですね。』
僕が呼んでるのはサリーなんだよ。サリーだけに通じる鳴き声とかあるならとっくにそれ使ってるわ。
はー……叫び過ぎて喉痛くなってきた。回復用に僕もシユウ師匠頂いておくか。プリティヴィ・マータに押し倒されて悲鳴上げてる師匠に
次の場所。コンゴウ四体来ました。ピルグリムやめろ。
プリティヴィ・マータに殺って貰って喰ったら僕の身体がマッスル!!になった。すぐ戻ったけどあんな食ったアラガミ吐こうとしたのは最初で最後だと思う。二度とコンゴウとか喰わねえわ。能力完全に物にしたし。
「あと食べていいよ。」
(もうお腹いっぱいなんですがあの?)
次。ディアウス・ピター。僕を見るなり舌打ちしたから前に出くわした個体だと思う。やっぱこの辺縄張りなのか。群れとして他のプリティヴィ・マータも連れてたけど、結局僕の連れてるプリティヴィ・マータはついて行こうとしなかった。
次。ウロヴォロスが生えてきた。おい待てお前マジ。ゲームで見るよりめちゃくちゃでかいんだけど。これ将来ソロするリンドウさんってなんなの??プリティヴィ・マータ。食べていいよ。なに横になってんの。
(無理無理無理無理。もう食べれないから。)
ウロヴォロスはしばらくのっしのっし歩いてたけど特に何も無いと知るとどっかに行った。ビームで焼かれるんじゃないかとヒヤヒヤしてたよ……
次。サリエル堕天種。
「────────────!!?」
「…………………………………♪♪♪」
あれ!?待ってこれサリー!?嬉しそうにこっち来るけど!!わー久しぶりにぎゅーってされてる!!おっぱい柔らかい!!いつの間に堕天したの!?良かったー!!無事でいてくれたんだ!!
でも堕天したせいかもだけど、なんか色っぽくなった?いつもは僕がこうやって抱きつくと恥ずかしがってたのに。今はむしろウェルカムっていうか、僕のこと抱きしめるだけじゃなくて押し倒してくるんだけど。ぐいーって体重かけて。え?え??
サリーはそうして僕の身体に自分の上半身を重ね合わせると、僕の背に腕を回して首を舌で舐めてくる。……待って待って待って!いつの間にサリーこんなエッチになったの!?しかも僕の味を確かめると舌なめずりして、それは妖艶な笑みを浮かべる。やっばいゾクッてした……こんなSっ気たっぷりだっけ……それともやっぱちょっと怒ってるとか??
『貴方の探してたサリエルってこの個体ですか?……アラガミってこんな行動取るんですね??』
「いや。ここまで積極的じゃなかったような……そもそも通常種だし────」
そう口にしかけた時だった。サリーが僕の首に喰らいついて、首を振って喰いちぎった。ブチってえらく生々しい音を立てて血が噴き出すと同時、僕の肉を口にして顔を顰めるサリーが目に入った。
相当不味かったのか両手で口元を覆い、邪眼が忌々しげに僕を捉える。その光景を見て、プリティヴィ・マータが反射的に飛び出した。前脚で僕にのしかかるサリエル堕天種をぶっ飛ばし、僕も身体の自由を取り戻すと急いで離れる。
やっぱ別個体だよなこいつ。サリーは間違っても僕を殺そうとしないもの。寄りにも撚ってこんなエグいキスマークつけやがって。
「プリティヴィ・マータ。食べていいよ。僕も手伝うから。」
(お腹いっぱいだって。)
蝕刃を右腕に形成し、飛行能力で舞い上がってサリエル堕天種の頭に振り下ろす。喰い千切るという性質を持つ僕の蝕刃はアラガミに使えばその攻撃が当たった箇所を結合崩壊させる性質を持つ。たった一撃で額の邪眼を粉砕し、まずはメイン武器を奪う。
そこに背後からプリティヴィ・マータが巨大な氷柱をマシンガンのように降り注がせる。サリエル堕天もそれは器用に避けるが、プリティヴィ・マータは自身の目の前に氷壁を生成。それに猫パンチを放つ。
そうすると氷壁が粉々に粉砕されて発射され、さながら氷の散弾銃のようにサリエル堕天を吹っ飛ばした。結構離れてるくせに威力もあるのかスカートが一撃で結合崩壊してた。こっっっわ……至近距離で食らったらミンチになるんじゃないあれ。一個の一個の破片が大きいから………
「……………………………………………ッ!!」
(あ、逃げた。)
「え。ちょ………どこ行くの!?」
しかもサリエル堕天が逃げ出すと、それはまた凄まじいスピードでサリエルを追い回し始めた。うっわお気の毒に……もしかしたらあの子も結構怖いのでは。この世界のメスのアラガミってみんなやべーやつなのかな……
サリー:献身的。恥ずかしがり屋。
堕天ちゃん:サドい。小物。
堕天ちゃんもう死ぬから活きない設定。かなしいね。