バベルの観測塔 作:馬鹿凡怒
「…あれ?遠くの方に変なものが見えるなぁ、何だろ?」
まだお日様が頂点まで昇り切っていない中、海沿いを散歩していた私は何かが砂浜に横たわっているのを発見した。
歩いていた私は少しその場に立ち止まって、遠目からそれをじっくりと観察する。
「ん~、あれは…人かな?どうしてあんなところで寝てるんだろう?」
見慣れぬ姿のそれはよくよく目を凝らして見れば人の形をしており、どうやらあそこにいるのはうつ伏せの状態で倒れている人間であることが分かった。
「まぁ、見たところ危険はなさそうだし、見て見ぬふりはせずに起こしてあげた方がいいかな?…よしっ、そうと決まれば早く起こしに行こっと!」
◆
「…お…い…き…おー…い」
…どこからか、何かが聞こえてくる。誰かを呼んでいるような声と波のさざめく音を耳元で感じて、深くまどろんでいた俺の意識がおぼろげな形で覚醒を始めた。
「おーい、見知らぬ誰かさ~ん。はやく起きて~」
先程から、少女のような声が聞こえてきている。横になった俺を必死に起こそうとしているのだろう。時々身体をゆすられては、耳元で大きな声で目を覚ますように呼びかけられる。
しかし、俺の意識は依然としてぼやけたままであった。それにこの声は、自分にとってまったくもって聞き覚えのない人物のものである。
それならば何故、記憶にない存在がこうやって眠っている自分を起こそうとしているのだろうか?
…いや、これはきっと夢の中の出来事なのだろう。おそらく疲労でくたくたになった俺の脳が、無意識にこんな変な夢を見せているに違いない。
「おーい、起きてー。こんなところで寝てたら、風邪引いちゃうよ~?」
夢の中なのに人の眠りを妨害するような喧しい状況であることに、些かながらおかしいと思い始める。
この声に従って目を覚めようかと一瞬考えたものの、今の俺はその喧しさも気にならないほどにものすごく強烈な眠気を感じていたため、すぐにその考えはふっと消える。
鉛のように重い目蓋。呼び掛ける声がだんだんと遠退いていく中、それらを開くのを億劫に思い、視界を閉ざしたまま再び眠気に沈んでいく意識に身を委ねた。
「…はぁ、仕方ないなぁ。それじゃあ~…そーれっ!!」
「ぐはぁっ!?」
しかしその時、唐突に身体の一点に強い衝撃を感じて、それまで深く沈んでいた意識が一気に外界へと急浮上する。身体の腹部に鈍い痛みが走り、思わず素っ頓狂な声を上げて俺は目を覚ました。
「ぐ…うおおぉぉ……」
じんわりと腹部に残る痛みに少しばかり悶えながらも、それを必死に堪えて辺りを見回す。
俺のすぐ近くに、腰を曲げてこちらの様子を窺っている、黒の帽子を被った白ワイシャツ姿の少女がいた。
「あ、やっと起きたね。おはよー!」
「…う…くっ……あ、あんたか。さっきから、俺を起こそうと呼びかけていたのは。深く眠っている人の身体に対して、いきなり蹴りを入れるのはどうかと思うぞ…」
「えへへ~。割と良い目覚ましキックだったでしょ?」
無邪気な子供のように、とてもナイスな笑顔を浮かべてごまかす彼女。視線を下ろして彼女の足を見てみると、赤く煌めく銅色のでかい靴が目に入る。