バベルの観測塔 作:馬鹿凡怒
…どうやら、俺はお腹にあのメタリックな感じの硬そうな靴で良い角度からの蹴りを入れられたらしい。なるほど、道理でさっきからすごく痛い訳だ。
「いやいや、えへへじゃないだろ、えへへじゃ。…というか、そもそもお前は誰なんだ?そして、ここは一体どこなんだ?」
広々とした砂浜、静かに波打つ大海原。いきなり痛みという感覚的刺激で現実に引き戻され、見たこともない景色が自分の目の前に広がっていた。
先程まで俺の中ではこれは夢だと思っていたのに、今しがた体験したこの二つが相まってこの状況の意味不明さに理解が及ばずに頭の中が混乱する。
「まぁまぁ、ちょっと落ち着きなよ。ちょっと散歩に出かけていたら偶然倒れていたのを見つけたから、きつめに刺激を与えて起こしてあげただけだよ、変な恰好のおじさん」
「おいおい、初対面の筈なのにいきなり酷いことを言うなぁ。まぁ確かに顔は濃いかもしれないが、俺はまだおじさんと呼ばれるほど老けてはいないぞ。あと、誰が変な……ん?」
身体を少し動かした辺りで、感覚に何か違和感が生じた。不意に今の自分の姿をちらりと垣間見てしまい、話している途中にも関わらず言葉が途切れる。ここで初めて、俺は自分の服装がいつも着ている私服ではなくなっていることに気付く。
全身をくまなく見回して確認する。頭には海賊風の巻き方がされた青いバンダナ。身体の上下はお芝居で着るようなみすぼらしい服装。今の俺はまるで、一昔前に存在していた船乗りのような見た目であった。
(…ど、どうなっているんだ、これは!?)
着ていた服装の変化にかなり驚く俺。確かにこれでは、変な格好と言われても仕方がないだろう。全身を見返してみて、すっかり自分が思いっ切り変な恰好であることを自覚する。
それによって、ヒートアップしていた頭が徐々に冷めていく。さらに、目の前にいる自分より年下らしき少女に対してみっともない振る舞いを行ったことを認識すると、先ほどまで心の中で荒ぶっていた感情は完全に静まってしまった。
「………………………あー………いや、申し訳ない。思わず取り乱してしまった」
「あっははははははは!何?急に謝ってどうしちゃったの?」
「いや、うん。何だか、気分が一周回って冷静になった。…本当に申し訳ない」
「ううん、それほど気にしてないから大丈夫!…それよりも、ちょっと聞きたいことがあるんだけとさ。お兄さんは何で、普段は人が通らないこんな場所に倒れ込んでたの?」
「…それは分からない。そもそも、今の自分の恰好が元々着ていたものじゃなくなっているし、それに俺はここに来た覚えが一切無い」
「えー何それ!!じゃあ、今のお兄さんは記憶喪失みたいな感じなの!?」
「…まぁ、現状そういうことになる」
如何にも興味ありげに目を輝かせて食いついてくる少女。対して冷静さを取り戻した俺は、この不可解な状況は夢や幻などではなく、現実の出来事であるという紛れもない事実に気が滅入っていた。