バベルの観測塔 作:馬鹿凡怒
…さっきまで、夢か何かだと思っていたのに。何で、どうして、こんな理解の追いつかないことになっているのだろうか?
ふと、状況に無知な俺の頭に疑問がよぎった。これが
「…これがまだ夢だと思ってるんなら、もっかいきつめの目覚まし喰らわせてあげようか?」
茫然として考え込んでいる時に、当然声を掛けられる。ハッとなって振り向くと、少女がニマニマとした顔でこちらを見ていた。
「…いや、それは大丈夫。眠気があまりにもひどかったから、すぐに起きれなかっただけだ。もう十分頭は覚醒しているから、これ以上の目覚ましは喰らいたくない。…というか、もう本気で勘弁してください」
何とも言えない不安と虚しさを感じ始めている中、深くため息を吐きつつ彼女に力なく返答する。
「そんなに暗い顔しないでよ、冗談だってば。まぁ、こんな場所で話しを続けるのも何だし、ひとまず場所を移そうか。見た限りだと、かなり複雑な事情を持ってるみたいだし、私の住んでる所に連れていって面倒見てあげるよ」
「…え、本当か!それはありがたい!…けど、いいのか?俺は全く以て赤の他人だぞ?」
「大丈夫、心配不要だよ。…っていうかそもそもの話、そういう面倒臭そうなことを嫌ってるんだったら、わざわざ自分から関わろうとはしないよ。他に宛てがあるっていうならいいけど、どうする?」
…少しばかり考えてはみるものの、ここには自分が知っている家族や友人の類はいなさそうである。今の俺に残されている選択肢は、目の前にいる出会ったばかりの少女の言葉を信じることしかないのだろう。
「…うーむ、分かった。とりあえずは、現状で一番頼りになりそうなあんたについていくことにするよ」
「うん、決まりだね。それじゃ、私についてきて!」
これからの先行きに重い不安とわずかばかりの安心を感じながら、俺はすっくと地面から立ち上がる。服についている砂を軽くはたいてから、すでに先を行き始めている彼女の元へと駆け寄った。
「あ。そういえば、名前を聞いてなかったね。お兄さんは何て言うの?」
「俺か?俺の名前は…」
…何故か、頭の中で名前が一部しか出てこない。自身の名前に関して記憶が断片的になっていることに気付く。
「どうしたの?」
「…いや、何でもない。俺の名前は、ヒサヒロだ」
ここで俺は慌てて、咄嗟に自分が一部だけ覚えていた名前を彼女に明かした。
「ヒサヒロ?へー、何だか珍しい名前だね~」
少女は俺の名前を聞くと、少しばかり悩むように唸ってから困ったような顔で俺を見上げた。
「う~ん…何て呼べばいいの?」
「適当に省略してヒロでいい。今後はそれで呼んでくれ」
「なるほど、ヒロね。うんうん、分かったよ!これからよろしくね、ヒロ!」
「応っ、どうかよろしくな。…それで、そっちは何ていう名前なんだ?」
こちらの問いに対し、彼女はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに誇らしげに胸を張って答える。
「私の名前はフィーネ!蒸気の国に設立されたこの世界で唯一の兼任組織、パッチワークスに所属するメンバーの一人だよ!」