その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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序章は原作より少し前のお話となります。
……え?前書き短すぎますか?


序章:『錬金術師、サポーターを雇う』
Recipe.1 - ソロ冒険者 + 日雇いサポーター


その街には多数の『神』がいる。

神々は神界での退屈な日々から抜け出し、地上へ各々の欲望を満たしにやってきた。

 

その街には多数の『冒険者』がいる。

冒険者は神の名を冠するファミリアに入団することで神より恩恵を受け、モンスターの蔓延るダンジョンへと向かっていく。冒険者が求めるものは多種多様。金を求める者がいれば、力を求める者もいる。

…もしかしたら、『出会い』を求める冒険者もいるかもしれない。

 

そんな迷宮都市『オラリオ』には、今日もダンジョンへ向かう冒険者やそれを見送る神の姿があった。ダンジョン入口でパーティメンバーを待つ冒険者もちらほら。

 

そんななか、冒険者というにはあまりに華奢な女の子がポツンと1人、ダンジョン入口近くのベンチに腰かけていた。

 

「はぁ、これからどうしましょうか…」

 

彼女は困っていた。理由は至って単純、彼女を雇う冒険者が、その日のダンジョン探索をドタキャンしたためである。ドタキャンと言っても中止の連絡など未だにない。過去にも同様の出来事があったために、彼女がそう結論付けただけだ。それでもその予想が間違っていないという確信が、彼女にはあった。

――実際、そうなのだが。

 

"雇う"という言葉が示すように、その冒険者と彼女は雇用関係にある。

彼女は『サポーター』としてダンジョンで冒険者の戦闘、探索を助ける役割を担っている。小人族、通称『パルゥム』と呼ばれる種族である彼女は、前線で武器を振るい戦うことには向かない。

しかし彼女には神の恩恵『ファルナ』によって得た、重量補正のスキルがあった。これにより彼女はサポーター、いや、"荷物持ち"として同行することができる。ドタキャンされることもあるが、探索に向かってもパルゥムの少女である彼女を見下し、お荷物扱いし(荷物を持っている立場なのである意味では正しいかもしれない)、分け前は雀の涙。しかしそれも慣れっこであった。

 

「とりあえず、ここにいても仕方ありませんね。」

 

既に長時間待った。今更契約した冒険者が現れるとは思えないし、万が一にも来たところで、言い訳に足る時間は経ったはずだ。…言い訳をしたところでどんな罵詈雑言が返ってくるか分かったものではないが。

彼女は腰を上げ、その体にはあまりに不釣り合いな大きいバックパックを背負った。そして予定のなくなった今日をどう過ごすか考え始めたその時、

 

「あー、間違ってたら悪いんだが…、もしかしてサポーターだったりするか?」

 

彼女を呼び止める声がした。

その声がする方を振り向くと、そこには1人の青年が立っている。

一般的にも長身の部類となるであろうその体に軽装ながらもしっかりと鎧を纏っており、背中に背負う少し細身の大剣も合わせれば彼が冒険者であることが分かるだろう。

 

「たしかにリ、…私はサポーターですが、あなた様は?」

 

「あ、悪い悪い。俺はアルク・サルマン。冒険者だ。」

 

冒険者と言う自己紹介に「でしょうね」、とは言わない。ドタキャンで多少不機嫌であってもそれを態度には出さない。相手が冒険者であればとりあえず顔を売っておいて損はないだろう。それが彼女が経験から得た知恵なのだ。

 

(しかし、()()()()()()()()…。どこかで聞いたような…)

 

青年の名前に引っ掛かりを覚えたが、記憶を辿る前に彼は本題を話し始めた。

 

「で、なんだけど、もしパーティ探しとかしてるんだったらさ、俺の探索に付き合ってくれないか?」

 

渡りに船とはこういうことを言うのだろうか。元々探索に行く予定がご破算となった彼女には願ってもない依頼だ。

 

「あなた様のレベルと、パーティについて伺っても?」

 

とは言え事前に確認をとることも必要。サポーターとしての仕事を()()()こなしてきた彼女であるが、急にダンジョンの奥深くに連れていかれては困りものだ。

 

「俺はレベル2。パーティはいない。ソロでやってる。」

 

見た目にはしっかりとした装備であり体も鍛えているようだったため、レベル3の可能性も考えていたが、そこまでではなかったらしい。ソロでやっているために成長も伸び悩んでいるのかもしれない。

 

「では私も。私はリリルカ・アーデ。レベル1のサポーターです。今日は契約している冒険者様が来られなくなったということで、予定が空いたところでした。荷物運びと簡単な援護射撃程度しかできませんが、それでもよろしければ、本日限りの契約ということでぜひ同行させてください。」

 

契約済であることを伏せるか少し迷ったが、後にトラブルとなっては何かと面倒だ。彼女――リリルカは偽ることなく現在の事情を話すことにした。

 

「それは良かった。俺もちょっと今日は必要な数が多くてな。1人じゃ何往復か必要かと思ってたんだ。助かるよ。」

 

「ということは、何か探索の目的となるものがあるのですか?」

 

「ああ、中層手前あたりで薬草をな。」

 

「(薬草…。)中層手前となると、11、12階層あたりでしょうか。それでしたらリ、私でもお力になれるかもしれません。」

 

()()という言葉に再び引っ掛かりを覚えたが、どうにも思い出せそうにないためリリルカは気にしないことにした。

 

「じゃ、早速出発するか。用意とかは、今のままで大丈夫か?」

 

「はい、上層であれば個別に対策が必要なモンスターもいませんから。」

 

「だな。ま、分け前のこともあるし、モンスターはなるべく狩ってこう。」

 

(分け前…)

 

多くのモンスターを狩ることができれば、雀の涙も多少マシになるだろうか。

そんな淡い期待を胸に、リリルカはダンジョンへ向かう青年――アルクの後を着いて行くのだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「オラァーー!」 ――ドカァーン!

 

ダンジョン探索は特に問題もなく順調だった。

 

「ウォリャーー!」 ――ボカァーン!

 

中層の探索も可能なレベル2のアルクがいるのだから、上層で順調なのは当然と言えば当然なのかもしれないが。

薄暗いダンジョンの中、アルクは今も単眼の蛙型モンスター、フロッグシューターの群れを蹴散らしている。その豪快さはモンスターに同情してしまいそうになるほどである。

そのせいだろうか、いつもより気持ちに余裕があるリリルカは、アルクについてあることが気になっていた。

 

「あの、差し出がましいとは思うのですが…。」

 

「うしっ、終わりっと。…ん?何かまずかったか?」

 

「いえ、先ほどからひたすら()でモンスターを殴り飛ばしていますが、その背中の剣は、お使いにならないのですか?」

 

それは、アルクの戦闘スタイルだった。彼は襲ってくるモンスター全てをパンチのみで倒しているのだ。確かに頑丈そうな手甲をしているため、拳闘士といえばそうなのかもしれないが、そう考えた場合、背中に抱える大剣は邪魔にしかならないのではないだろうか。

 

「あぁ、これか?一応近接戦闘が面倒なモンスター相手だと使うこともあるが、基本使わないな。」

 

「では、なぜ持って来たのですか?上層であれば、レベル2のサルマン様なら刃物を持つとしても小型のもので問題ないように思えるのですが。」

 

「小さい頃から引きずりながらもずっと背負ってたからな。落ち着くんだよ。それに、いざって時のための備えにもなるしな。」

 

「サルマン様が宜しいのでしたらリ、私は何も言いません。お時間を使わせてしまいすみませんでした。先へ進みましょう。」

 

「おぅ!と、ちょっと待ってくれ。少し体力回復しときたい。」

 

「休憩ですか?そこまで疲れているようには見えませんが…。」

 

現在は9階層を進んでいる。10階層では出現するモンスターやその戦闘方法も変わってくるが、それを加味しても休憩が必要になるほど疲れているようにはとても思えない。

 

「いや、ポーションでさっさと済ませるさ。休憩をとるほどじゃない。」

 

「ポーション、ですか?」

 

リリルカは驚いた。ポーションを使えば確かに短時間で体力を回復できるが、決して安いものではない。上層よりずっと下へ向かう冒険者であれば何本も常備して当然なのかもしれないが、ここは上層で、しかもアルクはレベル2だ。もしかすると、僅かな体力回復にもポーションを使えるほど彼のファミリアは裕福なのだろうか。

 

そういえばファミリアのことはお互い話していなかった、とリリルカが考えていると、アルクはあるものを取り出した。流れからすればそれはポーションであるはずなのだが、それはリリルカが知るポーションとは少し様子が違っていた。

 

「少し、濁っているような…これ、大丈夫なんですか?」

 

通常のポーションは透き通った明るい青色をしている。しかし、アルクの取り出したそれは、明らかに透き通ってはいなかった。色も青っぽくはあるが、どちらかと言えば紺色に近い。リリルカは考えを改めた。この男は、腐ったポーションを安価で売り付けられているのかもしれない、と。

リリルカがそんなことを考えているとは知らず、アルクはポーションらしき何かを一気に呷った。

 

「あぁ、まじぃ…。ったく未だにこの不味さとはなぁ。」

 

「やはり、悪くなっているのではないですか?」

 

「ん?あーいや、これは仕方ないんだ。()()()がまだまだだってことだからな。」

 

俺の腕、という言葉がリリルカは気になった。薬草採取が目的であることと合わせて考えると、1つの答えに行き着く。

 

「もしかして、サルマン様は薬屋の方なのですか?」

 

「よく分かったな。俺は『ミアハ・ファミリア』所属なんだ。うちの医神様は顔が広いからな。聞いたことくらいはあるだろ?」

 

「ミアハ様…。あの、傷ついた人には無償でポーションを与え、数多の女性には()()()笑顔を振り撒くという…」

 

「まぁ、…間違っちゃいないな。」

 

多少悪意を感じる解釈ではあるが、概ねその通りなのでアルクは否定しなかった。

ポーションについてはファミリアの存続にも関わるため少し控えてもらいたいものではあるが、アルク自身そんなミアハの優しさに救われた身なので強くは言えない。女性の方は、あまりに誰彼構わず惹きつけてしまうため、客引きとしての効果はほとんどない。皆のミアハ様状態である。

 

アルク以外では唯一の団員となる団長様は、そんな神様に日々頭を抱えていたりするのだが―。

 

「では、そのポーションはサルマン様がご自分で調合されたんですか?」

 

神様の話もそこそこに、リリルカはアルクが飲んだポーションについて尋ねた。

 

「俺が作った、のはそうなんだが、調合ってわけじゃない。」

 

「え?調合しないでポーションを作ったんですか?」

 

リリルカは混乱した。ポーションを調合しないで作る。それはつまり、材料を調理せずに料理を作ると言っているようなものだ。"作る"と言うからには"調合する"という過程は必要なのだ。

 

「ま、方法はかなーり特殊なんだけどな。」

 

ポーションを作る上で"調合"という過程をすっ飛ばして完成させられる方法。

その答えに行き着く様子もなく首を捻るリリルカに、アルクは解答を口にした。

 

「俺は『錬金術』が使えるんだよ。最も、薬関連限定なんだけどな。」

 

仮にポーションの製法をアルク側から問題として出題したならば、この解答はあまりに理不尽だ。

オラリオで人気の食べ物である『ジャガ丸くん』の作り方を聞いて、"ジャガ丸くんを作る魔法を使った"をいう答えが返ってくるのと同じだ。それで解答になるなら何でもありだ。

 

「錬……金…。ぁ―」

 

しかしリリルカには、その答えを導くことができる記憶があった。

―レベル2、――ミアハ・ファミリア、―――ポーション、――――そして()()()

 

ようやくリリルカの中で引っ掛かっていたものが分かった。

 

「もしかして、サルマン様はあの『災禍の薬箱(パンドラ)』なのですか!?」

 

その不名誉な『二つ名』に、アルクは苦笑するしかなかった。




アルク・サルマンの由来は"歩く猿男"では決してありません。
序章はアルクについての説明が主になるかと思います。
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