その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
オラリオの街でそれぞれの戦いが始まる。
果たしてアルクに出番はあるのか…!
「この辺にモンスターはいないみたいね。」
ロキにモンスター脱走の話を聞き、その討伐へと向かったティオナ、レフィーヤ、そしてティオナの双子の姉であるティオネ。彼女達は今とある広場へとやって来ていた。見える範囲でモンスターの姿はなく、悲鳴なども聞こえない。次の場所へ向かおうとした時、異変は起きた。
「なんか、地面が揺れてない?」
「―っ!? 何この地響き!」
急に起こった地震に驚く3人。しかし、それはまだ驚くには早かった。広場の地面にヒビが入ったと思った瞬間、そこから何かが飛び出して来たのだ。裂けた地面から絶えず伸び続ける細長い緑色のそれは、まるで蛇の様だ。
「こ、こんなモンスター見た事ありません!」
「ガネーシャ・ファミリアの奴等、こんなのまで
そのモンスターは、話す隙を与えないとばかりにその長い体をしならせティオナ達に襲い掛かる。レベル5であるヒリュテ姉妹はそれを上手く躱しつつ、モンスターに拳をお見舞いした。
「―っ、かったーい!」
「打撃が通じないの!?」
しかしそのモンスターの表面はまるで鱗のようなものに覆われており、彼女達の攻撃を防いでしまった。斬撃であればどうにか出来る可能性はあるが、前回の探索で武器を失ったティオナはもちろん、祭りの見物には不要だとティオネも武器をファミリアに置いて来ている。
「レフィーヤ! 私達がこいつの気を逸らすから、デカいの頼むわよ!」
「はいっ!」
打撃が通じず武器も無い今、頼みの綱はエルフが故に魔力に長けた、レフィーヤの魔法。ヒリュテ姉妹には劣るレベル3の彼女ではあるが、彼女も最強と言われるロキ・ファミリアの団員だ。ティオネの指示に答える瞬間には、既に詠唱に入ろうとしていた。
「こっちこっち! そんなんじゃ当たらないよ!」
モンスターの攻撃を回避しつつ打撃を与え、モンスターの気を引くティオナとティオネ。モンスターを彼女達に任せ、詠唱を始めたレフィーヤだったが、そこでモンスターに変化が起こった。長い体の先端、頭と言えるのかも分からない楕円状に膨らんでいたそれが、開いたのだ。
「何あれ!? 花!?」
開いた部分は正に花弁。鮮やかな色が花を思わせるが、その中央にあるのは食虫植物のような口。さらにその中には、人の歯のようなものが見える。モンスターを思わせる牙ではなく、綺麗に横に並ぶ人の歯は逆に不気味さを漂わせている。
「うっ、気持ち悪い…。」
今まで見て来たどのモンスターとも違うその姿に、一級冒険者である彼女達もゾクリと寒気を感じざるを得なった。だがその間にも、花を模したそれはその動きを止めてはいなかった。
「また地鳴り?…――やばいっ、レフィーヤ!」
その振動から敵の狙いを逸早く察したティオネが叫ぶが、それはもう、詠唱を続けるエルフの間近へと迫っていた。
「かはっ――」
花型モンスターの別個体が地面から突き出し、そのままレフィーヤの体へと突き刺さった。肺の中の空気が全て吐き出され、悲鳴を上げる事も叶わずレフィーヤは屋台へと突き飛ばされる。
「レフィーヤ!」
「この野郎!」
レフィーヤの身を案じるティオナ、モンスターへの怒りを露にするティオネ。魔法による後援を失った彼女達の状況はさらに悪化する。レフィーヤを攻撃した個体に続くように、1体、また1体と花型モンスターが現れたのだ。それを倒す決定打を持たない彼女達は次第に体力を削られ、少しずつ圧され始める。
「何なのこのモンスター…。」
「はぁ、はぁ。 …ウルガがあればこんな奴!」
最早全ての攻撃は避けられず、その耐久を以て攻撃を防ぐ2人。モンスターの攻撃が激しさを増す中、壊れた屋台の上で気を失っていたレフィーヤが目を覚ました。だが詠唱中の無防備な体に受けた一撃のダメージは大きく、すぐに起き上がる事が出来ない。そんな彼女に最初に気が付いたのはヒリュテ姉妹ではなく、モンスターだった。先端の口を大きく開けた花形モンスターが、レフィーヤを食い殺さんと彼女の元へと向かっていく。
(体が、動かないっ。)
抵抗する術はなかった。彼女は迫り来るモンスターをただ眺めるしかない。。
(こんなところで、死ぬ訳には――!)
―――――――――――――――
一方アルクも街の被害状況の確認とその対処のために街の中を駆け回っていた。既にアイズが倒してしまったのか、脱走したモンスターの姿は見当たらない。破壊音や悲鳴を聞きつけた場合はすぐに駆け付けようと耳に意識を集中していると、ある方向から何かが壊れるような大きな音がした。
「あっちは…『ダイダロス通り』か!」
ダイダロス通りは貧民層の住まう場所であり、区画整理を何度も行ったために複雑化してしまったその道は、住民すら時折迷わせる。そのためダイダロス通りは"迷宮街"とも呼ばれている。
「また厄介な場所に行きやがったな。 しゃあない!」
音を頼りに向かえばモンスターの元へと辿り着くだろう。そう考えてダイダロス通りへ向かうアルクだったが、目の前に突然モンスターが飛び出して来た。
「ライガーファングが2匹、か。 まさかそっちから出て来てくれるとはな。」
虎型モンスター、ライガーファング。大虎と呼ばれるにふさわしい巨体が2つ、アルクの行く手を拒まんと構えている。その強さはミノタウロスには劣るだろうが、4本の脚で駆ける素早さはミノタウロスより上だろう。しかも2匹となれば、高い敏捷性はさらに面倒になる。
「狙いが完全に俺っぽいのが救いか…。」
2匹の大虎は、現れたその時からずっとアルクに敵意を表している。逃げ惑う住民には目もくれずアルクだけを睨み続ける姿は妙ではあるが、下手に暴れられる心配がないと思えば差し当たり問題はないだろう。問題があるとするならば、それは今のアルクの装備だ。勢いで飛び出してしまったため、いつもダンジョンへ背負って行く大剣もなければ手甲も、防具もない。冷静に考えると思いの外ピンチなのかもしれない。あるとすれば、いつもの癖で腰に巻いて来た専用ホルスターのポーションくらいだが、その数も決して多くはない。
「自前ポーションに、素早さ上昇の小と、…爆薬だったか? 街中で暢気に爆薬ぶら下げてたのか俺は。 まぁ今回は結果オーライなんだが。」
ちなみにこの爆薬には力上昇(大)効果とポーションと同レベルの回復効果がある。ただし空気に触れると間もなく爆発するためそもそも飲む以前の問題だ。初めにこの爆発効果の付いた薬を錬成した時は蓋をしていないガラス瓶を使っていたため、完成したその場で爆発し大惨事となった。
アルクは衣服類を置いている無人の屋台から革のベルトを2本取り、代わりにそこに記された代金を置いた。ベルトを両手に巻けば、ちょっとしたグローブの完成だ。
<グルルルァー!!>
アルクの出方を窺っているように見えた大虎だったが、隙だらけのアルクに業を煮やしたのか2匹同時に飛び掛かった。
「うぉっと。」
その直線的な攻撃に怯む事無くアルクは地に身を転がらせ大虎の後方へとそれを避ける。互いに場所が入れ替わった形となり、反転した両者は再び睨み合う。次に動いたのは大虎だった。1匹が地を駆けアルクに迫る。今度は大虎を飛び越えそれを避けるアルクだったが、そんな彼に2匹目の大虎が飛び掛かろうとしていた。
「ちっ、早速数の優位を使ってきやがったか。」
同時攻撃よりも連撃の方が有効と考えたのだろう。大虎のその知能に舌打ちをし、アルクは今まさにすれ違わんとしていた先発の大虎の背を掴む。
<ガルルルルッ!>
背中の毛を掴まれた事で驚いた大虎は暴れ出した。その反動を利用して後続の大虎の攻撃を躱したアルクは大虎から手を放し、地面へ着地する。隙を見せぬようすぐさま立て直すが、2匹の大虎はアルクの前後にそれぞれ構えていた。
「前門が虎なら後門も虎か? ったく、本当に頭が回る奴等だ。」
どちらかを狙えば必然的にもう1匹に背を向ける事になる。となればまずは横へと逃げ相手の出方を窺うか。次の策を考えるアルクだったが、ホルスターに目をやった瞬間、ある事を思い付いた。
「せっかくこいつがあるんだ。 使わない手はないな。」
そう言うと、ホルスターから薬を1本取り出し、上空へと放り投げた。そしてそのままアルクは前方の大虎へと歩みを進める。そうなれば当然、後方にいた大虎はガラ空き状態のアルクの背中を目掛けて駆け出す。大虎がアルクの背中を捕らえようとしたしたその瞬間、大虎の目の前を何かが下へ向けて過っていった。
――パリンッ
ガラスの割れる音。それを聞いたアルクは一気に前方へ加速した。直後、その音源と思われる場所で爆発が発生する。爆発はアルクに迫っていた大虎を巻き込み、その光景にもう1匹の大虎も思わず怯む。――急接近する彼に気づかず。
「食らえーーーっ!」
爆風を利用し、その勢いに乗った状態で大虎の額を殴りつけるアルク。脳を揺さぶられたのか立ち上がりつつも足元の覚束ない大虎へ、アルクは追撃を放った。
「沈めーーーっ!!」
重力に逆らう事の無い真上からの一撃に大虎の頭は地に沈み、次の瞬間には塵へと変わった。まず1勝と油断する事なくアルクはもう1匹へと視線を移すが、既にそちらもふらふらの状態となっていた。どうやら怯ませるために使った爆発が思ったより綺麗に直撃したらしい。それだけ見れば幸運だが、もしもう少し爆発のタイミングが遅ければ大虎がアルクを捕らえていたかもしれない。その可能性に冷や汗を垂らしつつ、アルクは2匹目の大虎を1匹目と同様、地へと沈ませた。
「いってて…。 やっぱ即席じゃダメだな。」
手に巻いたベルトを外し、先程大きな音がしたダイダロス通りの方に意識を向けるが、特に破壊音や悲鳴は聞こえない。既に移動したか、他の冒険者がモンスターを倒したのだろう。
「手掛かり無しでダイダロス通りに入るのはマズいな。気にはなるが、俺は別の所に向かうか。」
音を辿れない以上ダイダロス通りでの探索は厳しいと考え別の道へとアルクは駆け出した。その場に残された住民達は、爆発の衝撃とアルクの豪快な戦いっぷりに歓声を上げるタイミングを失ってしまったのだった。
「それでいいのよ、アルク・サルマン。」
その様子を高い位置から眺める影。彼女はアルクがダイダロス通りから離れていくのを満足そうに見送っていた。
「くれぐれも、あの子の邪魔をしないでちょうだいね。」
アルクの姿が見えなくなると、彼女は今度はダイダロス通りへと目を向ける。モンスターを使ってまでアルクに関わらせたくなかった何か。彼女はその行く先を見届けるため、ダイダロス通りへと消えて行った。
―――――――――――――――
そしてその頃、ダイダロス通りでもまた、1つの戦いが行われていた。
「ごめんなさい、神様。 僕が時間を稼ぎます。 神様はこのまま逃げて下さい。」
彼の目の前には大猿モンスター、シルバーバックがいた。
「何を言ってるんだい?」
彼の後ろには、鉄柵を挟んだ状態で、彼の主神がいた。
何でこうなったのかは分からない。闘技場から脱走したシルバーバックに遭遇した彼らだったが、その大猿は何故か自分の主神に襲い掛かった。冒険者としては駆け出しである彼が中層のモンスターであるシルバーバックに敵うはずもなく、彼は主神と共に必死で逃げ続け、このダイダロス通りまでやって来た。しかしその鬼ごっこも限界だった。逃げられないと悟った彼は、鉄柵で仕切られた道の向こうに主神を行かせ、鍵を閉めた。
「神様、僕はもう、家族を失いたくないです。」
彼は、自分を育ててくれた祖父を失っていた。その時を同じような思いをするのはもう嫌だった。
たとえ少しでも、自分が時間を稼いでみせる。
「ベル君! ベル君!!」
彼――ベルはナイフを片手に大猿へと向かって行く。ヘスティアの呼び止める声も虚しく、その巨大な敵との無謀な戦いは開始された。
――「しなくちゃいけない無茶をする時ってのはきっと、格好良いんだ。」
(これは、"しなくちゃいけない無茶"ですよね、アルクさん――)
原作の内容が多過ぎる、という方には申し訳ないです。
ただ、これからも原作に沿う関係で原作要素は満載だと思います。
連休って何で予定詰まっちゃうんですかねぇ…;
もうちょっとストックしておきたいんですが…。