その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
命を投げ出そうとするヒューマンの少年。
2人が迎える結末とは…。
ほぼ原作通りです。 山場はどうにも…;
レフィーヤに止めを刺すために迫って来た新種の花型モンスターだったが、その攻撃が彼女に届く事はなかった。
――ザシュッ
モンスターを一閃で切り伏せたのは、『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。レフィーヤには不思議と彼女が助けに来る予感があった。自分に危険が迫った時はいつも助けてくれる。そう、いつもそうだった。
アイズは魔法で風を纏い、花型モンスターへと切り掛かる。しかし彼女が今現在使っているのは『
「っ! 怒られる…。」
壊したレイピアによる叱責と弁償という現実に絶望するアイズだったが、武器を失った彼女に3匹のモンスターが襲い掛かる。武器は失ったがティオナ、ティオネと共に戦えば何とかなる。頭を切り替え再び攻勢に出ようとしたアイズだったが、その時見つけてしまった。屋台の裏に身を小さくして隠れる、小さな
「っ――!」
アイズは風で強引に身を反転させ、その場からの離脱を図る。しかし、流れに逆らうその動きは決定的な隙となった。花型モンスターはアイズを逃がすまいと、その食虫植物を思わせる口で彼女を捕らえてしまった。
「「アイズ!」」
ヒリュテ姉妹が駆け付けようとするが、他の個体がそれを邪魔する。強靭な顎でアイズを咥えたモンスターは、そのまま壁へと彼女を叩きつけた。壁が大きく窪むほどの衝撃に、意識こそ保っているがすぐに立ち上がることが出来ない。
その場にやって来たエイナとミィシャに抱き起されたレフィーヤはその光景を信じられなかった。いつも自分を助けてくれる憧れの人が危機に陥っている。
じゃあ、その憧れの人を助けるのは――?
その時、戦いの場に新たな参戦者が現れる。彼は戦況を見るやレフィーヤの元へと近づき、彼女に何かを差し出した。
「悪いが今はこれしかないんだ。 知ってるだろうが味は保証しない。 …いるか?」
差し出す彼の名はアルク・サルマン。であれば当然、差し出されるのは間違いなく
(守られているばかりじゃダメなんだ。 私も、あの人を守れるくらいに強くなりたい。)
「もらいます。 私に下さい!」
レフィーヤはポーションを受け取ると、躊躇う事無くそれを飲み干した。直後に襲って来る苦みや渋味などが複雑に混ざり合った言葉に出来ぬ味。不味い。そうとしか言えない。しかしその効果は確かにあった。立ち上がれない程の激痛はもう、
「あ、あの…大丈夫、ですか?」
明らかに顔が青ざめている彼女をエイナが心配するが、レフィーヤはエイナの支えをゆっくりと解き、自力で立ち上がった。
「大丈夫です。 ……目が覚めました!」
薬の味に受けた衝撃で強引にその身を鼓舞し、エルフの少女は、再び戦場へと舞い戻った。
―――――――――――――――
一方ダイダロス通りでは、今も尚鬼ごっこが続いていた。ベルとヘスティアはダイダロス通りの複雑な道を利用し、大猿シルバーバックに見つからないよう息を潜め隠れている。
そもそも逃がしたはずのヘスティアが何故またベルと共にいるのか。答えは簡単、彼女は戻って来てしまったのだ。ベルが彼女を死なせたくないように、彼女もベルを見捨てられるはずがない。ベルもそれを分かっているが、状況を打開する方法が思いつかない。しかし、ヘスティアは名案とばかりに1つの打開策を提案した。
「考え方を変えよう。 ベル君がアイツを倒しちゃえばいいんだよ!」
自分の主神はいったい何を言っているのだろう。困惑するベルだったが、ヘスティアも決して無策ではなかった。策の1つはこの場でのステータス更新。ヘスティアはここ数日とある事情で外出していたため、ベルのステータスはその間更新されていなかった。ベルには彼自身も未だ知らない
そして、もう1つ。ヘスティアが切り札として出したのは1本の黒いナイフだった。それは、ヘスティアがベルのために鍛冶の神ヘファイストスに頼み込み作ってもらった一級品。ヘスティアがその力を宿し完成した、その名も『ヘスティア・ナイフ』。
「ボクが君を勝たせてやる! 勝たせてみせる!」
自分があの大猿に勝てる自信は無い。どんなに凄い武器であっても、それを使うのが駆け出しの自分では使いこなせないかもしれない。
「ボクは君を信じてる。」
それでももし神様が信じてくれるのなら。誰もが無理だと言おうとも神様が出来ると言うのなら。
「だから君も信じてくれ。 そのナイフを。ボクを。 そして何より、君自身を!」
信じよう、神様を。 信じてみよう、自分の力を。
ヒューマンの少年は、再びその巨大な敵と対峙した。
(追いかける事しか出来ないなら、追いかけ続けるしかない! いつか追いつく、その時まで。)
「私はレフィーヤ・ウィリディス。 ウィーシェの森のエルフにして、このオラリオで最も偉大で誇り高いファミリアの一員!」
少女はその名乗りを以て、自らを奮起する。
(神様が与えてくれたステータスで、神様が与えてくれたこのナイフで、そして自分の力で僕は、
「こんな僕でも、神様が信じてくれるなら。 僕の力で、神様を守れるなら、」
少年もまた、自らの主神の信頼に応えんと、手にする新たな武器を強く握り締める。
「だから、この戦い――――」
「僕は、この戦いから――――」
「「逃げる訳にはいかない!!」」
2人の冒険者が今、躍進する。
「ウィーシェの名のもとに願う 森の先人よ 誇り高き同胞よ――」
レフィーヤが紡ぐのは、彼女の二つ名の由来ともなった魔法、その詠唱。
「我が声に応じ草原へと来れ 繋ぐ絆 楽宴の契り 円環を廻し舞い踊れ 至れ 妖精の輪――」
同胞であるエルフの魔法を、詠唱と魔法の効果を完全に把握する事を条件に、2つの魔法の詠唱時間と
「どうか 力を貸し与えてほしい 【エルフ・リング】!」
あらゆる魔法を紡ぎ出す彼女に与えられた二つ名は、『
「終末の前触れよ 白き雪よ 黄昏を前に風を巻け――」
「あの詠唱は…。」
何とか態勢を立て直し、その刃のほとんどを失ったレイピアで再び戦線へと復帰したアイズは、レフィーヤの紡ぐ彼女の良く知る詠唱に気が付いた。それは、ロキ・ファミリア副団長であるハイエルフ、リヴェリア・リヨス・アールヴの攻撃魔法。
「まさかあの魔法を!? …って、危ない!」
ティオネも驚きレフィーヤのいる後方を振り向く。するとそこには、詠唱するレフィーヤへと向かっていく花型モンスターの姿。まるで先程の光景を繰り返すように、モンスターは迷いなくレフィーヤへと牙をむく。しかし、そこには先程はいなかった
「させねぇよっ!」
開いたモンスターの口を両手で受け止めるアルク。それによりレフィーヤに攻撃が届く事はなかったが、レベル5の冒険者が苦戦する相手にアルクの力が通用するはずもない。確認するまでもなくモンスターの勢いに押されるアルクだったが、急にモンスターが横へと弾かれた。
「はぁ…。 助かったわ。 ありがとな、剣姫。」
「いえ、こちらこそ。 レフィーヤを守ってくれて、ありがとうございます。」
アルクを助けたのはアイズだった。気づけばティオナとティオネもレフィーヤを守るべく駆け付けていた。そして、その間にも詠唱は続く。
「閉ざされる光 凍てつく大地 吹雪け 三度の厳冬 我が名はアールヴ――」
彼女の周囲に冷気が集まる。淀みない詠唱が終わり、凍てつく魔法が炸裂した。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
その威力は、間違いなく戦いに終止符を打つものであった。その場の全ての花型モンスターが、いや、広場そのものが凍り付いた。モンスターはそのまま塵となり消えていく。その光景に、その魔法を見た事のないアルクは只々呆気にとられてしまった。
「助かったよ、レフィーヤ!」
気が抜けてしまい座り込むレフィーヤにティオナが抱き着く。アイズとティオネもそれに続くようにレフィーヤの元へと駆け寄った。
「リヴェリアみたいだった。 ありがとう、レフィーヤ。」
「そ、そんなっ!」
アイズの言葉に赤面するレフィーヤ。憧れであるアイズを助ける事が出来た。それだけでレフィーヤは嬉しかった。そんな中、彼女達の元に見知った顔が現れた。
「皆、ご苦労さん。 疲れとるとこ悪いけど、まだ仕事は残っとるでー。」
それはロキだった。彼女は屋台の裏に隠れていた
「アイズは逃げ出した残りのモンスターを頼むわ。 ティオネとティオナは地下水路や。 さっきの奴がまだおるかもしれんからな。 レフィーヤは治療な。 これ以上無理したらあかん。」
「…わ、分かりました。」
ロキの指示に頷く3人。レフィーヤも多少不満気ではあったが、自分の状況は理解しているのだろう。同じくその指示に頷いた。
「ウチはこの娘の親探さんとな。 で、アンタは…。」
「俺は街の被害状況でも見て来ますよ。 もし何かあったらギルドの方に連絡します。」
「そやな。 よろしく頼むわ。」
残ったモンスターはアイズがいれば問題ないだろう。もし街で見つけたのであれば
「あ、あの、ありがとうございました!」
アルクがその場から立ち去ろうとしたその時、後ろから声がかけられた。声の主はもちろんレフィーヤだった。
「どういたしまして。 …って程たいした事してないけどな。 どうだった、噂のマズポの味は。」
「え、えっと…あの…。」
「ははっ、自他共に認めるマズポなんだ。 気にすんな。 じゃ、またな。」
「はいっ!」
たいした事はしていないというその言葉に謙遜はない。アルクはほとんど役に立ってなどいなかった。たった一撃すらまともに受けられず、アイズに助けられたのだから。それに比べてアルクがほんの少し、そう、少しだけ背を押した彼女は、その凄まじい魔法をアルクに見せつけた。
「強く、なりてぇな。」
事態に気づき始めたのか、騒めき出す街の中で、アルクの呟きはその喧騒に掻き消された。
―――――――――――――――
そしてダイダロス通りの戦いも、終息へと向かっていた。大猿シルバーバックに立ち向かうベルはその手にヘスティアからもらったヘスティア・ナイフを握り、狭い路地裏を駆ける。
(このナイフ、凄い! これならあいつにダメージを与えられる!)
ベルが元々使っていたナイフは、ヘスティアを逃がす時間稼ぎとして大猿と戦った時にその硬い皮膚を貫く事が出来ずに折れてしまった。しかしヘスティア・ナイフは大猿を切りつけても刃こぼれする様子などない。むしろベルの気持ちに応えるようにその刃に
「そのナイフは生きている! 君のステータスに応じて、
自分が狙われている事を忘れているのか、ヘスティアは隠れていた建物の影から身を乗り出しベルへと自らの名を冠するナイフの力を伝える。当然それに気づいた大猿はターゲットをヘスティアに変え、向かい始める。
「そうはさせないっ!」
ベルは一気に加速し大猿に詰め寄ると、地面を蹴り飛び掛かる。だがそれに気づいた大猿は腕を振り上げ、ベルの体を上空へと突き上げた。
「ぐあぁっ――!」
ナイフで防いだため直撃こそ免れたが、その衝撃はレベル1のベルにはあまりに重い。上空のベルが地上へと視線を向けると、落ちて来るベルに止めを刺そうと大猿が待ち受けている。
(やっぱり僕じゃ、敵わないのか…?)
尚も空へ上昇を続けるベルはその最中に何かを掴んだ。それは、建物同士をつなぐように張られた物干し用の紐だった。ゴム紐と思われるそれは、ベルの体に続くように上空へと大きく引っ張られていく。そして、ベルの体はようやく上昇を終えた。
(いや、信じろ、神様を。 信じろ、僕自身を!)
直後、ベルは掴んだ紐の弾性を利用し、大猿の元へと急接近する。待っていたとばかりにベルへと拳を振り上げる大猿だったが、弾性により加速したベルはそれより早く大猿の元へと辿り着いた。
<ウゴォァ―――!>
速度を生かしたナイフによる一閃が、大猿に大きなダメージを与える。痛みに叫び声を上げ、その怒りをぶつけるためにベルの姿を探す大猿だったが、既に彼はもう、目前に迫っていた。
「トドメだっ!!」
ヘスティア・ナイフが、大猿の胸元に深く突き刺さった。再び痛みに叫びを上げる大猿は、力尽きたように膝をつき、倒れる事なく塵となって消えた。
ベルが自身の勝利に気が付いたのは、大猿の脅威を前に隠れていたダイダロス通りの住民達の歓声が聞こえてからだった。
「クロスさせたので」
「やってみたかった」
「「だけ!」」
事情により次の投稿は遅めかもしれません。
次で2章は終了になりそうです。……刻みすぎ?