その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
捜査を開始するアルク達だったが、そこに何故か食人花が現れる。
どうにか週2でいけました。
アルクはフィン達と合流し、食人花の討伐を続けていた。とはいえ第一級冒険者のフィン達と違い三級でしかないアルクは前線で大立ち回りという訳にはいかない。ティオナ達が倒した後にまだ息のある食人花のトドメや、街を攻撃しようとする食人花の気をポーション等で逸らす事。それがアルクの主な役割だった。
「結局は任せっきりか…。 格好つかないな、こりゃ。」
大剣さえあれば戦えると踏んでいたが、それは甘かった。食人花の茎とも体ともとれる部分に大剣を振り下ろしたが、刃こそ通れど切断には至らず。ほとんど動かなくなった状態であれば全力を以て両断出来るが、乱戦の中では不可能。やむなく支援に回る事に。
「タイミングといい場所といい、妙に統率が取れてるな。」
「どこかに
「あぁ、可能性はある。」
フィンとリヴェリアは冷静に戦況を分析しているが、アルクは体を動かす事に精一杯で頭がなかなか回らない。街の住民へと襲い掛かる食人花へ向け発火薬を投擲するアルクだったが、そこで突然街に声が響いた。
<――キィィーーー!!>
まるで叫びのようにも聞こえる声に驚き振り向けば、そこには食人花とは違った得体の知れないモンスターが存在していた。緑色の巨人のような上半身だが、その下は食人花のような長い体。食人花の先端を強引に人型に成形すれば、それと似た化け物が完成するかもしれない。
「また新種!? 勘弁してよぉ!」
「もしかしてあれ、食人花の親玉じゃないの!?」
ティオネの予想が正しければ、親玉を倒す事で戦況を一気に動かせるかもしれない。どのみち倒す必要があるのならと人型へ標的を絞るフィン達。しかしそこで、人型が現れた方から誰かが走って来るのが見えた。
「団長、リヴェリア様! ア、アイズさんが!」
それはレフィーヤだった。ルルネと共に駆けて来る彼女はとても慌てた様子でフィン達の元へと辿り着いた。息も整わない状態で途切れ途切れに彼女が語る状況に、フィンは顔をしかめる。
「アイズが苦戦する相手とはね。すぐに助けに行きたいが、こっちも手が離せなくて、…ね!」
話しながらも襲い来る食人花を薙ぎ払うフィン。敵は会話も容易にはさせてくれないらしい。アイズの危機に駆け付けるためには人型のものを含めた食人花の群れを片付けるしかない。
「それと、1つ気づいた事があって。」
「気づいた事? 何だい?」
「食人花なんですが、魔力に反応して攻撃を仕掛けて来ているみたいなんです。」
レフィーヤは怪物祭の時の状況も併せて語った。曰く、食人花は魔法の詠唱に敏感に反応し、その行使者を優先的に攻撃するらしい。ヒリュテ姉妹は初めにレフィーヤが食人花の攻撃を受けた際にその場にいたし、アルクも詠唱するレフィーヤを狙う食人花に立ち向かったためその説については納得出来た。
「魔力に反応する、か。 だがあのモンスターについては魔石はおそらく人型部分の何処かにあるはずだ。 位置が高い分魔法での攻撃が有効だと思うんだが…。」
食人花は魔石があると思われる花の部分で直接攻撃してくるため、そこを衝く事が出来る。しかし、人型については腕を使った攻撃が主のようで、体を地へ近づける事がほとんどない。周りの食人花等の妨害を掻い潜りその人型部分を直接攻撃するのは困難だ。
「それならばいい案がある。」
リヴェリアの作戦は至極単純なものだった。いわゆる囮作戦である。
まずはリヴェリアが魔法の詠唱を行う。食人花が魔力に反応するのであれば、オラリオ最強の魔術師と言われるリヴェリアの魔力に反応しないはずがない。食人花が姿を変えたという人型についても同様だろう。彼女の強い魔力にモンスターが惹きつけられている間に別の場所ではレフィーヤが詠唱を行う。たとえリヴェリアの詠唱が邪魔されたとしても、レフィーヤ側で詠唱が終われば魔法での攻撃が出来るという訳だ。
「それじゃあ、そっちは任せたよ。」
アイズの心配もあるため時間に余裕はない。作戦が決まるとアルク達は各々の配置へ移動する。リヴェリアの護衛はフィンとティオネが、レフィーヤの護衛はティオナとアルクが担当する。
「フィンさん。 少しだけ魔石、もらってもいいですか?」
「構わないが、何に使うんだい?」
「錬金の素材に少し。」
「なるほど、分かった。 遠慮なく持って行ってくれ。」
念のためにと『
「終末の前触れよ 白き雪よ 黄昏を前に風を巻け―――」
リヴェリアの詠唱が始まる。食人花達は感じた事の無い強い魔力に惹かれ、そちらへと向かって行く。
「誇り高き戦士よ 森の射手隊よ 押し寄せる略奪者を前に弓を取れ―――」
そしてレフィーヤの詠唱も別の場所で開始される。しかし、リヴェリアの魔力に引き寄せられる食人花達はレフィーヤの魔力に気が付いていない。
(何でだろう、作戦はうまくいっているのに、……少し…。)
レフィーヤのその気持ちが何かと言われれば、おそらく劣等感だろう。リヴェリアとレフィーヤの魔力の差が、敵の動きに如実に表されている。リヴェリアの強さを十分に知っている彼女だったが、ただの1匹すら彼女に見向きもしない事に、改めてリヴェリアとの差を感じていた。
そんな彼女に気が付いたのはアルクだった。彼女が顔に浮かべた感情に、アルクは覚えがある。それは、初めて会った時のベルだった。彼が自分の弱さを痛感し、強さを求めていたその時の顔が今のレフィーヤと似ているような気がした。
(彼女程の強さがあってもまだ上は遠い、か。)
上には上がいる。アルクの上にはどれだけの冒険者がいるのだろうか。きっとそこには自分の師がいる。アルクの親もいるだろう。そして、
(もしかしたら、俺も似たような顔してるのかもな。)
アルクは大剣を強く握り締めた。
強い魔力に反応し、リヴェリアへ猛攻を仕掛ける食人花。フィンとティオネはそれをなんとか捌き切り、リヴェリアの詠唱を邪魔させまいとしてきた。しかし、人型のそれが間近へとやって来ると攻撃の手はさらに勢いを増し、対処が難しくなってくる。1匹の食人花がその守りを掻い潜り、リヴェリアへと迫る。
「閉ざされる光 凍てつく大地 吹雪け――。 っ!」
詠唱しながらもそれを察知したリヴェリアは詠唱を中断し、敵の攻撃を避ける。魔法の発動には至らなかったが、問題はない。本命は
急に感じていた魔力が消え、一瞬動きが止まった食人花達。だがそこで、別の場所に魔力を感じ取った。しかし時既に遅し。レフィーヤは詠唱を終え、魔法を解き放つ。
「―――雨の如く降りそそぎ 蛮族どもを焼き払え 【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!」
直後、街を荒らす食人花の群れに無数の火矢が飛来した。次々に焼き尽くされていく食人花だったが、敵もそれで終わりではなかった。
「こっち来た!?」
炎に身を焦がしながら、人型の食人花が近付いて来る。その狙いはおそらく、その身に火矢を放った張本人。つまり、レフィーヤだ。
<――キィィーーー!!>
人型の叫びに呼応するかのように炎を纏う食人花達がレフィーヤへと襲い来る。
「させないって! オリャー!」
それを二代目となったオルガを振るい塵へと変えていくティオナ。アルクもいざという時のためにレフィーヤの近くで構える。少しずつ燃え尽きていき、敵はその数を減らしていくが、人型の人型たるその先端はまだ生きている。
「ティオネ、ティオナ! 奴を頼む!」
敵は逃げるつもりなのか、階層の中心にそびえ立つ中央樹を登ろうとしている。ヒリュテ姉妹はフィンの指示に従いそれを追う。彼女達が止めを刺せばこの場は収束する。誰もがそれを確信した時、予想外の事が起こった。
――ボゴォッ!
「なっ!?」
アルクの足元から炎により体を真っ黒に変えた食人花が飛び出したのだ。消滅する前に最後の力を振り絞り地中から攻撃を仕掛けたようだが、目測を誤りレフィーヤではなくアルクの方へと攻撃を仕掛けたらしい。
「アルクさんっ!」
「来るな! 大丈夫だ!」
敵の勢いに負け、アルクはひたすら後方へと押されていく。それは街を抜け、森の中まで続いていった。森の中をしばらく進むと、今度こそ力尽きたのだろう。食人花は塵となって消えた。
「随分押されて来ちまったな、まったく。」
街と距離が離れてしまったが、状況を見たフィンがレフィーヤの元へと駆け付けるだろうからそちらについては問題ないだろう。人型についても中央樹でティオナとティオネが追っているのが見えるため、間もなく終わるはずだ。とりあえず自分の無事を知らせようとアルクが街へ向かおうとした時、背後に気配を感じた。
「これは少し、予定外だ。」
振り返るとそこにいたのは、深い暗赤色の外套を纏った仮面の男だった。その男が誰なのかも何のためにここにいるのかも分からない。しかしアルクは、目の前の男にゾクリと悪寒を感じた。
「あんた、いったい誰だ?」
どうにか平静を取り戻し仮面の男に問うアルク。だがアルクには確信があった。この男は間違いなく味方ではないと。
「教える意味はない。」
男は外套から腕を出し、それをアルクに向けて突き出した。
「来い。
男が何を言っているのか、アルクには最初分からなかった。その場にいるのはアルクと男だけ。彼はいったい誰に向かって言っているのだろうか。その答えは、地響きとなってアルクを襲った。
「おいおい、ふざけんなよ…。」
2匹の食人花が、男に付き従う様にその両側に現れた。既に臨戦態勢となっている食人花は、今にもアルクに襲い掛かって来そうだ。予想外の事態に驚くアルクだったがそこでリヴェリアの言葉を思い出した。
――「どこかに調教師がいるかもしれない、という事か?」
「まさか、お前がこいつ等に街を襲わせた調教師か?」
「教える意味はない。」
アルクの質問に先程と同じ答えを返す男。しかし彼は、まるでアルクの予想を裏付けるように、食人花に向け命令を下した。
「
待っていたとばかりに食人花は、アルクへと飛び掛かった。しかし先程と違い不意打ちでなければ対処の余地がある。アルクは真っ直ぐに向かって来る敵の攻撃を横っ飛びで避ける。直後にその身を翻し、食人花の体を斬ろうとしたアルクだったが、そこに2匹目が現れる。
「くそっ、また連撃かよ。」
「ちっ、ダメか。」
しかしギリギリの回避を終えた直後に全力で攻撃を出来るはずもなく、大剣は体を切断する事無く途中で止まってしまった。そのまま押し切りたいアルクだったが、次の一撃が迫っていたため大剣を引き抜き離脱する。2匹であれば、この繰り返しで倒せるかもしれない。
そもそもその前提が間違っていた。
2匹の攻撃を避けなんとか一撃入れようとしたその瞬間、アルクの目の前に影が出現する。それは食人花の調教師と思われる仮面の男だった。彼はアルクを食人花に任せ、高みの見物をしている訳ではなかった。大剣を振りかぶりガラ空きになったアルクの腹に、男の蹴りが突き刺さる。
「――かはっ。」
その威力にアルクの体はメキリと音を立て吹き飛び、木々を数本薙ぎ倒した。骨どころか内臓までやられたのか、呼吸をするのも困難な状況にアルクは取り乱す。いっそ意識を手放した方が楽かもしれないという考えを振り払い、なんとか蹲りながらも敵の状況を確認するため視線を上げる。しかしそこには絶望しかなかった。2匹の食人花が既に待ち構えていたのだ。
今の体では回避は出来ない。大剣は蹴りを受けた衝撃で落としたため、せめてもの防御すら出来はしない。ないよりマシだと思っていたマズポに関してはホルスターごとなくなっている。おそらく飛ばされた際に外れたのだろう。アルクに残されたのは、錬成用に用意した数本の空瓶が入った別のホルスターと、ポケットの魔石。これに賭けるしかない。
「礎となれ 【
アルクの魔力に反応したのか、食人花が臨戦態勢に入る。最早いつ飛び掛かって来てもおかしくはない。
「【
仮面の男は手をかざし、命令を下す。
「【
「殺れ。」
猶予はない。一瞬で効果を把握し、即座にそれを飲み干し、その効果を最大限に生かした行動を取る。数分にも感じる一瞬の中で、アルクは錬成した薬の効果を確認した。
・昆虫型モンスターに触れた際にダメージ大
・昆虫モンスターの嫌う臭いを放つ
・服用時に毒効果付与
それはただの"殺虫剤"でしかなかった。もしそれが"除草剤"であったのなら、食人花へのダメージにつながったかもしれない。しかしそこに示された効果は紛れもなく"殺虫剤"。
(こんな時くらい当たってくれてもいいじゃねぇか! クソったれ!!)
2匹の食人花を前に、アルクに対抗する術はない。
アルク君、いいとこなし。
彼にソード・オラトリアは難易度高過ぎた模様。
アンケートに回答いただきありがとうございます。
票も落ち着いてきましたので次の火曜で締め切りたいと思います。
寒暖差も激しく体調の崩しやすい時期ですので、皆様もどうかお気を付けを。
アルクの過去の話を書く予定ですが、どのように書くのが良いでしょうか?
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本作に章分けし投稿(X.5章的な)
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別作品として投稿(外伝(?)的な)
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章分けもせず流れでそのまま