その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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ダンジョンでベルに出会ったアルクは、そこでリリと再会する。
ベルと契約した彼女には、ある目論見があった。


サルマン少年補導員、再び?


Recipe.18 - 九魔姫 + 執着

ある日の夜、アルクは店仕舞いという事で看板を下ろしに外へ出ていた。時間はもう夜更け。こんな時間まで店を開けていたのかというとそうではない。単なる看板の下ろし忘れである。

 

「これでよしっと。 さて、そろそろ寝るかな……ん?」

 

アルクが作業を終え本拠の中へと入ろうとした時、視界の端を何かが通り過ぎたように見えた。無意識にそれを目で追っていると、暗闇ではっきりとはしないがそれは人影だった。

 

「あれは…。 いや、まさかなぁ…。」

 

以前にも同じようなものを見た気がする。気のせいかもしれないが、その時に見た彼と妙にシルエットが一致してしまう。

 

「ま、何もなければ戻ればいいか。」

 

少し迷ったアルクだったが、結局その人影を追ってみる事にした。中で作業をしていたナァーザに簡単に説明し、念のためにと大剣やポーションのホルスターを装備して本拠を出る。人影を見てから多少時間は経過してしまったが、アルクは既に人影の行き先に当てがある。そこで影の主に会えなければ本拠に戻り、後日アルクが影の主と予想する彼に聞いてみれば良いだけだ。

 

(さて、今日はいったいどうしたんだ? …ベル。)

 

以前と似たような状況だったからという根拠となり得ない理由ではあるが、それでもアルクにはその人影がベルだろうという確信があった。いつかと同じように、アルクは夜のダンジョンへと向かうのだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「マジでいたな…。」

 

ダンジョンに潜ってしまってからでは見つけるのは困難かと思われたが、そんな事はなかった。探していた相手がダンジョン内で声を上げながら進んでいたため、その場所は簡単に特定出来たのだ。では、何故彼はずっと声を上げていたのか。もちろん悲鳴ではない。いつかの繰り返しの様に彼がミノタウロスに襲われているという事はない。では、何故?

 

「【ファイア・ボルト】!」

 

直後、彼の手から放たれる光弾。そう、魔法だ。彼―――ベルはダンジョンの中を魔法を撃ちながら進んでいたのだ。

 

「ベルのやつ、魔法なんて使えたのか? それに…。」

 

「【ファイア・ボルト】! 【ファイア・ボルト】!!」

 

「あれって、詠唱してないよな。 そんなレアな魔法があるのに使ってなかったってのか? 」

 

もし魔法が発現していたのだとすれば、アルクと初めに会った時にダンジョンで使わなかったのは何故なのか。今の彼の状況を見るに出し惜しみをしていたとは思えない。そもそもアルクにも気づかず一心不乱に魔法を撃ちまくっているベルの様子がその理由と一致しない。

 

「まさか、ランクアップしたのか?」

 

とすれば考えられるのはランクアップにより発現した可能性だ。ベルの成長はアルクはもちろん彼の主神ミアハも認める程に早い。大猿(シルバーバック)を倒した彼なら既にレベル2になっているというのもあり得るかもしれない。ベルの魔法についていろいろと考えていたアルクだったが、そこでいつの間にかベルがいない事に気か付いた。

 

「声がしない? ……って、ヤバい!」

 

先程と同じようにベルの声を探すが、どこからも聞こえて来ない。その原因について考えたアルクは、最悪の状況を思い浮かべてしまった。それは、"精神疲弊(マインド・ダウン)"だ。魔法を使い過ぎる事で行使に必要な精神力(マインド)が尽きてしまう状態で、そうなると冒険者は意識を保つ事が出来ない。

 

「ベル! どこだ、ベル!」

 

ベルはアルクが見つける前からずっと、魔法を使い続けていた。あの調子で精神力(マインド)を消費していたのであれば、早々に精神疲弊(マインド・ダウン)となっていても不思議ではない。ベルは1人。つまり、気絶してしまえばモンスターの為すが儘なのである。

 

「おいっ、どこだベル! どこに――…おっ?」

 

「あっ――」

 

ベルを探してダンジョンを進むアルクだったが、そこで見知った顔を見つけた。

 

「アルク。 こんばん…は?」

 

「あ、あぁ、こんばんは。 …アイズ。」

 

それは、アイズだった。滅多に出会う事がないとはいえ、ダンジョンで彼女と出会って驚くアルクではない。彼が気を取られたのは、今のアイズの状態にあった。彼女は何故そうなったのか、ベルに膝枕をしているのである。本来ならばベルの無事を喜ぶべきなのだろうが、思い人の膝枕で眠るベルを見ていると、心配していたのが馬鹿らしくなってくる。

 

「なんで、ベルに膝枕を?」

 

「えっと、リヴェリアが、こうすると良いだろうって。」

 

「………。」

 

アルクは無言でその場にいたもう1人の人物であるリヴェリアに視線を移す。彼女はそれを避けるように視線を横に逸らした。ハイエルフという事もあり高貴なイメージのリヴェリアであったが、悪戯神(ロキ)の眷属という事もあり案外遊び心もあるのかもしれない。

 

「そうだな、ベルもきっと喜ぶだろ。 任せていいか?」

 

「喜ぶ…? うん、分かった。」

 

とりあえず乗っかっておくアルク。アイズも嫌々やっている訳ではないようなので、特に問題はないだろう。

 

「アルクは、この子と知り合いなの?」

 

「ん? あぁ、神同士の付き合いもあってな。 一応いずれパーティを組もうかって話もしてたりする。」

 

「? 今は、パーティじゃないの?」

 

「まだ違うな。 今は夜にダンジョンに向かうベルが気になって追いかけて来たってとこだ。 先に運良くアイズ達に見つけてもらったらしいが、追って来たのは正解だったな。」

 

ベルを探していたと思われるアルクの様子からアイズは2人がパーティを組んでいるのだと思ったようだが、まだアルク達はパーティではない。しかしそれも遠くない未来に実現するだろうとアルクは思っていた。

 

「ならば、彼には重々注意するように言っておいた方が良い。 もしアイズが彼に気が付かなければ、間違いなくモンスターの餌食となっていただろう。」

 

「えぇ、ちゃんと言っておきます。」

 

先程とは異なり真剣な顔で告げるリヴェリアにアルクは頷いた。もし仮に彼女の言葉がなかったとしてもアルクはベルに精神疲弊の危険について話すつもりだった。

 

「では、私は先に帰っているぞ、アイズ。」

 

「うん。」

 

たとえ膝枕をした状態であろうとここは上層。レベル5の彼女がモンスターに後れを取る等あり得ない。そのためリヴェリアは空気を読んでか否か、その場を立ち去った。とすればアルクが取るべき行動も自ずと決まってくるものだ。

 

「じゃあ、ベルが大丈夫だって分かったし、俺も帰るわ。 今日の事について注意するのはまた明日って事で。」

 

「うん。 じゃあ、また。」

 

「あぁ、またな、アイズ。」

 

アルクもまた空気を読みその場を立ち去る。目覚めた時にベルがどんな顔をするだろうかと考えるが、アイズについて話すベルを思い出し、アルクは少し刺激が強すぎるかもしれないなと苦笑してしまうのだった。

 

 

 

 

そんなダンジョンの帰り道。必然的にアルクはリヴェリアと共に地上へと向かう形になる。以前アルクがロキ・ファミリアの探索に同行させてもらった際もそうであったが、この2人の間にこれといった会話はない。ティオナやレフィーヤがいればそのきっかけ程度は見つけられたのかもしれないが、残念ながら今はいないのだ。しかも、何故だか分からないが、リヴェリアはアルクを時折ジッと見ている事がある。そのためアルクはどうにも落ち着かない。

 

「今日は2人で探索に行ってたんですか?」

 

沈黙に耐えられず、アルクが当たり障りのない話題を振る。ただし、回答がイエスかノーとなる質問は話題を広げる初手としては少し良くなかったかもしれない。元より第一級冒険者の探索についてアルクが話題を広げられる余地はあまりないのではあるが。

 

「いや、私達は君も同行していた探索の続きから帰って来たところだ。」

 

「マジですか…。 結構長い事潜ってたんですね。」

 

アルクが別れてから、既に1週間以上は経っているだろう。深層への探索ともなれば片道でも数日かかると言われているが、思ったよりも本格的に探索していたらしい。しかし、それならそれで気になる事がある。

 

「フィンさん達はどうしたんですか?」

 

「あぁ、フィン達なら深層で別れ先に戻ってもらったよ。 食料もあまり余裕はなかったからな。 ()()()()()()に付き合う事になったのは私だけだ。」

 

「…我儘?」

 

「―っと。少し話し過ぎてしまったか。」

 

少し考えた様子のリヴェリアであったが、序盤とは言え探索に同行していた事もあってかその後の探索について簡単にではあるがアルクに話した。

 

発端はやはり18階層での事件。食人花を操る謎の女との一騎打ちに敗れ、フィンとリヴェリアに助けられたアイズは落ち込んでいた。強さを求めてレベル5まで辿り着いた。しかし彼女はまだまだ弱かった。フィン達との鍛錬とは違う本気の殺し合いにおいて、アイズは敗北したのだ。

 

探索を終え帰還しようと準備を始めたフィン達に、自分は残ると告げるアイズ。リヴェリアは彼女の気持ちを察して彼女と共に残る事にした。ティオナ達も残りたいと願い出るが、食料等の物資の問題もあり残るのはアイズとリヴェリアの2人となった。

 

そしてリヴェリア曰く"我儘"でダンジョンに残ったアイズが向かったのは37階層。そこには階層主と呼ばれる存在、ウダイオスがいた。ギルドが定めたその強さはレベル6。そんな化け物を相手に、アイズは1人で戦いを挑んだ。その一騎打ちに水を差さない程度のリヴェリアの援護はあったものの、赤髪の女に勝ちたいという思いを胸に満身創痍となりながらアイズは階層主に勝利した。

 

「もしかしたら、アイズは今回の偉業によりランクアップするかもしれないな。」

 

「偉業…。」

 

深層の階層主を1人で撃破する。それはまさしく偉業と言えるだろう。ランクアップに必要となるのはそれに見合うステータスだけではない。冒険者が"冒険"を経て成し遂げた偉業。それをも満たす事で冒険者は次のステージへと進む事が出来るのだ。

 

「階層主のソロ討伐なんて、まだ三級の俺には想像もつかない話ですね。」

 

「……。」

 

アルクの言葉に、リヴェリアの切れ長の目はほんの少しだが険しさを増した。それまでの視線とは明らかに異なる凝視とも言える視線にアルクもその視線を合わせる。

 

「あまり、他人の詮索は好きではないのだがな。 もし答えたくなければそれで構わない。 …アルク・サルマン、君の"魔力"はいったいどのくらいだ?」

 

「―――っ」

 

リヴェリアの質問にアルクは明確な動揺を見せた。リヴェリアの彼を見透かすような視線は、まさにその言葉の通り、アルクの何かを見透かしていたらしい。一度気持ちを落ち着かせ、アルクは問いに対する答えを探す。答えたくないと言えば彼女はおそらくそれ以上は何も聞かないだろう。しかし、リヴェリアは間違いなく確信を持ってアルクに質問してる。

 

(流石、オラリオ屈指の魔術師、ってとこか…。)

 

何気ない質問や当てずっぽうであったのなら、アルクはきっとそれっぽい適当な答えで煙に巻いたであろう。だがそれが"質問"ではなく"確認"でしかないのなら、隠しても仕方がない。そもそも後ろめたい事ではないのである。

 

「魔力なら、少し前に"S"になりましたね。」

 

「やはりそうか。」

 

アルクの答えに、リヴェリアは納得という様子だった。魔力に長けた彼女はアルクの魔力が高い事に気付いていたのだ。

 

「いつ気付いたか、は聞くまでもないですね。 最初からでしょ?」

 

「あぁ、ダンジョンの入り口で君を見た時に大きな魔力を感じた。 二級以上であれば気にすることはなかっただろうが、三級とあっては少し気になってしまってな。」

 

さらっと言っているが、そのような事に気付くのはリヴェリアくらいのものである。単に魔力が大きいか小さいかではなく"レベル2にしては大きい"とまで言われてしまえばアルクとしてはお見事としか言い様がない。

 

「気になってた事は、解消しましたか?」

 

「……。」

 

次はアルクがリヴェリアへと質問を投げかける。しかし、彼女は肯定しない。

 

「ここからは只のお節介だ。 先程も言ったが答えたくなければそれで構わない。 …君は、何故ランクアップしないんだ?」

 

アルクは驚かなかった。魔力が"S"に到達している事からアルクが既にランクアップ可能であると思い至るのは決して不思議ではない。

 

「どうしてそんな事を気にするんですか?」

 

答えのないまま質問で繋ぐ妙なやり取り。それはまるで、互いの腹を探るかのよう。とはいえ探られているのはアルクのみであり、彼には拒否権も存在する。これはただ、アルクが明かすか明かさないかでしかないのだ。そのためアルクは、明かすに足るかどうかを判断すべく答えを待つ。

 

「リヴィラで食人花と戦う君を見て、少し似ていると思ってな。 強さを求めて1人でただひたすらにモンスターを狩り続けていた、あの頃のアイズに。」

 

「アイズに…。」

 

今も強さを求めている事は変わらない。それは今回の階層主討伐の件で明らかである。しかし、以前のアイズは今にも増して強くなる事に執着していた。リヴェリアは食人花と対峙するアルクの様子に、その時のアイズに似た力への執着を見たのだ。

 

「しかし君は違った。 力を求めてはいるが、先へと進もうという意志があまり感じられなかった。 つい最近、以前の様に強さを求めるアイズを見たからだろうな。 アイズとは似て非なる君の様子が妙に気になってしまったんだ。 もし踏み込み過ぎたのであれば謝ろう。」

 

強くなりたいのに、強くなろうとしない。そんなアルクの歪さがリヴェリアは気になっていた。

 

「別にそこまで踏み入った話じゃないですよ。 ただ、魔力だけじゃなくて"力"も上げておきたいってだけなんです。 しっかり蓄えてランクアップしないと、後々悔いが残りそうなんで。」

 

条件を満たす事でランクアップは可能だが、それですぐにランクアップをするかどうかは冒険者による。それは、ランクアップ前のステータスがランクアップ後に()()()()()()()()()として引き継がれるからである。ステータスの平均が500の冒険者と800の冒険者では、同じレベルに上がったとしても後者の方が強くなる。ちなみにステータスは100ごとにIからAのアビリティとして分かれており、例外として990から999についてはアビリティSとなっている。

 

「それで"力"推しでの戦いをしていたという訳か。 確かに多くはないが、ステータスを可能な限り上げたうえでランクアップをする冒険者もいる。」

 

強さに差が出ると言ってもランクアップによる上昇に比べると些細なもの。そのため多くの冒険者は強さを求めるのであればランクアップをすぐに行う。

 

「急がば回れ、じゃないですけど、強くなりたいからこそ手は抜きたくないんですよ。」

 

「そうか。 ならば()()()納得しておく事にしよう。」

 

リヴェリアの言葉に、アルクはなんとか動揺を抑えた。これ以上は語る気はない。彼女が"上っ面の理由"で納得してくれると言うなら、それで終わりにすべきだろう。アルクはやはり話すべきではなかったかと少し後悔した。

 

(ま、そもそもまだランクアップ出来ないんだけどな。)

 

ステータス上はランクアップが可能なアルク。では、彼に足りないものは……?




ベル君のその後はお察しの通り。
そしてアルク君の現状が少し明らかに…。


ポケモンの新作とか出たんですね。
Switchとか持ってないですけど;

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