その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
そしてひたすら蟻掃除をするアルクであった。
今回は珍しくアルクが出張ります。※主人公です
キラーアントの群れを一掃したアルク達は、そのままダンジョン内にいる訳にもいかず、地上へと出て来た。ベルが許すとは言ったものの、リリの表情はずっと暗いままだ。こればかりは彼女自身の問題なので、口を出す事も出来ない。
「いったいリリは、どう償えば…。」
「償いなんて、僕はリリが無事ならそれで―――」
「でも! リリはベル様の大切な、神様から頂いたというナイフを盗んだ上に、それを奪われてしまったんですよ!? せめてナイフだけでもリリが返してもらいに―――」
「それはダメだよ。 リリが危ない目に遭うのは、絶対に。」
リリを危険にさらすのを嫌うベルに「でも」と反論しようとしたリリだったが、そのベルの真剣なまなざしに仄かに顔を赤くし、黙り込んでしまう。
「ナイフに関しては明日考えようぜ。 既に日も暮れて来てるんだ。 奪った奴も今日中にどうこうするとは思えないしな。」
「そう、ですね。」
アルクの意見に同意するベル。しかしナイフの事がやはり気がかりなのだろう、その言葉には僅かに躊躇いが込められていた。
「それじゃ、俺は早く薬草も持って帰りたいからこの辺で。」
「はい、今日はありがとうございました!」
「あのっ!」
「ん?」
アルクがベルの礼に軽く手を上げ応え、去ろうとすると、リリがアルクを呼び止めた。
「リリも、その、…ありがとう、ございました。」
「お礼を言われてもな。 俺はむしろリリを見殺しにしようとしてたんだぞ? 感謝される筋合いはないと思うが?」
自分が到着するまでの経緯をあまり知らないベルは「そうだったんですか!?」と驚いているが、リリはアルクの言葉に首を横に振った。
「いいえ、あれはリリにとって、当然の報いでした。 それに、もしベル様が来なかったとしても、アルク様はリリを助けたのではないですか?」
「なんでそう思う?」
「分かりません。 ただ、アルク様とベル様は、なんとなく似てる気がしたんです。」
ベルとの探索の中で、リリは何度かアルクとの探索を思い出していた。サポーターを自らと対等に扱う変な冒険者。そういう意味で、2人は似ていたのだ。
「俺はベル程お人好しじゃないぞ?」
「そうかもしれませんね。」
そう言ってリリはほんの少しだけ微笑んだ。それに満足したアルクは、今度こそ自分のファミリアの本拠へと帰っていくのだった。
―――――――――――――――
「へへっ、今日は儲かったなー。」
「ほんとだぜ! 久々にいい酒飲ませてもらったわ。」
街灯が光を灯す夜のオラリオ。そこには3人の男が歩いていた。どうやら酒を飲んだらしく男達の顔は赤らみ上機嫌の様子。するとその中の恰幅の良い獣人の男が、懐から何かを取り出した。
「金に魔剣まで手に入ったってのに、こんな上物の武器まで手に入るとはなぁ。」
男が取り出したナイフの刀身に街灯の光を当てればそこに見えるのは"Hφαιστοs"の文字。つまりそのナイフはオラリオ最高級ブランドのヘファイストス・ファミリア製の武器なのだ。小振りなナイフである事を考えたとしても数百万ヴァリスは下らないだろうと男は考えていた。
「アーデの奴、どうなったでしょうねー?」
「バカ、あれだけのキラーアントに襲われたんだ。 死んでるに決まってんだろ!」
「アーデにしても、あの冒険者にしても、馬鹿は使い易くて助かるぜ。」
「じゃあアーデに騙された冒険者はもっと馬鹿ってか!?」
その言葉に「ちげぇねぇ」と大笑いする男達。酒による酔いも相まって、彼等のテンションはどんどん上がっていく。
『いったい何がそんなに楽しいんだ?』
「そりゃあおめぇ、……え?」
急に聞こえて来た問いかけ。獣人の男がそれに答えようとしたが、声のした方向には誰もいない。右を見ても左を見ても、そこにいるのは男達3人だけだ。
「おい、どうしたんだー?」
「今、声がしなかったか?」
「なんだ、酒の飲み過ぎで幻聴でも聞こえたんじゃねぇのか!?」
獣人の男以外の2人にはその声は聞こえていなかったらしい。獣人の男もきっと気のせいだったのだろうと忘れようとした。しかし、それは出来なかった。
『無視は良くないぜ? そんなに楽しそうなんだ。 理由を教えてくれても良いだろ?』
「「「――!?」」」
今度は確かに3人全員がその声を聞いた。慌てて周囲を見回すが、やはり3人以外の人影は見当たらない。酒気に火照った赤ら顔は、次第に青ざめ始める。
「誰だ! ふざけてねぇで出てきやがれ!」
『出て来てるぜ? 俺からはお前等がよーく見えてる。』
恐怖をごまかす様に強気に叫ぶが、近くから返って来た言葉に再び背筋を凍らせる。薄暗いと言ってもそこは道の真ん中。近くに来たのであればその姿が街灯に照らされるはずである。しかし3対の目は、どれも未だに声の主を捉えてはいない。
「な、何だってんだ!? 俺達に何の用だ!」
語気を強めてはいるが、既に恐怖を隠しきれてはいない。3人の男は互いに背中合わせとなって周りを警戒する。
『あぁ、お前の持ってるナイフに見覚えがあってなぁ。 それはお前のか?』
「あ、あぁ、俺のナイフだ。 いったいそれがどうした!」
『いやぁ違ったか。 それは悪いな。 実はそれに似たナイフを何者かに盗まれたって聞いてな。 お前達は何か知らないか?』
「知っ…てる。 知ってるぞ! ちっこいサポーターのガキが同じようなナイフを持ってやがった! アイツだ、アイツが盗んだにちげぇねぇ!」
露骨に思い付いたという顔で証言する男。人というのは追い詰められた時、無関係を装うよりも他の誰かに罪を擦り付ける事を優先してしまうのだろうか。他の2人も良く言ったという様子でその言葉に同意するが、それは完全な
『それはもしかして、
男達は、心臓をガシリと掴まれたように錯覚した。血の気は完全に失せ、蒼白となっていく。
「な……なんで…―――」
『どうして知っているのかって? ―――隠し通せるとでも、思っていたのか?』
軽い調子で話していた声が、急に低く重いものに変わる。恐怖に耐えられなくなったのか、男の1人が逃げようとする。しかし、
―――トスッ 「ひっ!?」
男が進もうとした方向に、1本の矢が刺さった。
『話の途中だ。 逃げんじゃねぇよ。』
それは紛れもない警告だった。自分はお前達がやった事を知っている。白状するまでは決して逃がさない。声の主は男達にそう言っているのだ。
「こ、これだ! これだよ、すまねぇ! これがそのナイフだ! 悪かった、すまねぇ! 返す、返すから勘弁してくれ。 勘弁してくれよぉ!?」
恐怖に振り切れてしまったのか、獣人の男はナイフを両手で差し出し許しを請う。他の2人も助けてくれ、許してくれと体を震わせる。声の主はあまりに呆気ない男達の懺悔にため息を吐きつつ獣人の男の手からナイフを取った。
「き、消えた!?」
声の主同様に不可視となったナイフに驚く男達に、声の主は告げた。
『もう用は済んだ。 じゃあな。』
「か、金はいいのか!? い、いいんだよな!?」
恐怖から解放された反動だろう、獣人の男は再び自らの醜い欲を曝け出す。しかし声の主はもう男達に興味はない。初めから"友人の大切なナイフ"以外はどうでも良いのだ。
『好きにすれば良いさ。 俺の目的はこいつだけだ。』
「じゃ、じゃあ―――」
『でもまぁ、あまり目に余るような事はしないで欲しいね。俺がいつどこでお前達を見ているか、…分からないからな。 』
すると、声のした方からスッと現れる黒衣。その姿に、男達は再度恐怖のどん底に叩き落される。何故なら、その黒衣から覗くのは顔ではなく、真っ白な髑髏だったのだから。
「「「ギャーーー!!」」」
男達は叫びながら一目散に逃げて行く。彼等が去った後も、その叫びは夜の街にずっと響き渡っていたのだった。
「…で? 何やってんだよ、フェルズ。」
「いや、面白そうだったんでついね。 まさかこの姿が役に立つ時が来るとは思わなかったよ。」
声の主、ではなくアルクがその姿を現す。そして、突如アドリブで参加してきた黒衣の男にある物を渡した。
「この兜は役に立ったかい?」
「あぁ、おかげであっさり事が進んだよ。 ありがとな。」
いやいやと白骨の手を振るフェルズと呼ばれた男。彼はアルクがオラリオに来て間もなく出来た友人である。その白骨の体は決して作り物ではない。どうにも彼はかつて"賢者"と呼ばれていたらしく、不死の力を得たのだとか。しかし不死の力は魂を留める事しか出来ず、その身は朽ちて骨だけとなってしまったらしい。自分を"
「にしても、凄いアイテムだな。 ハデスヘルム、だっけか?」
「ハデスヘッドだよ。 姿が見えなくなるというのはこの姿の私にとってはとても嬉しい効果だ。 私の作ったマントと違い、これなら嵩張らないしね。製作者の"稀代のアイテムメイカー"には本当に感謝しているよ。」
アルクがフェルズに渡したのは小型の兜だった。もちろんただの兜という訳ではない。それは、被ると姿が透明になるという
「どうやらここまでみたいだね。 じゃあまた。 困った事があったらまた言ってくれ。」
「あぁ、こっちも俺なんかで手伝える事があったら遠慮なく言ってくれ。」
そう言ってフェルズはハデスヘッドを被り姿を消した。
「アルク、ナイフは無事取り返せた?」
「この通りだよ。 悪いな姉さん、こんな事を手伝わせて。」
「構わない。 弟のお願いに応えるのも、姉の務めだから。」
フェルズと入れ替わりでやって来たのはナァーザだった。彼女には男達が逃げ出さないように屋根の家から矢での牽制をお願いしていたのだ。
「アルクの姿が見えないから、アルクを射ってしまわないか心配だった。 確か、知り合いから透明になれるアイテムを一時的に借りてるって話だったけど、そのアイテムは?」
「あー、それなら姉さんが来てる間にその知り合いがやって来てな。 もう返しちまった。」
「そうなの? 挨拶くらいしたかった。」
「まぁ、その内機会もあるかもな。」
ナァーザが来る前にフェルズが去った事からも分かるように、2人に面識はない。フェルズは立場上秘密裏に動く事が多いため、必要以上に人脈を増やそうとはしない。それに加えてアルクがフェルズとの関係を語るにあたり決して口外出来ない秘密が関わってくるため、アルクとフェルズの関係も極一部の者しか知らないのだ。
「じゃ、帰りますか。」
「うん、ミアハ様も待ってる。」
彼女に秘密を語れない事を後ろめたく感じながら、アルクはナァーザと共に本拠へと帰って行くのだった。
―――――――――――――――
次の日、アルクはヘスティア・ナイフを手にベルの元を訪れていた。
「こ、これ、どこで見つけたんですか!? リリは奪われたって!」
「もしかしたらと思ってギルドに行ってみたら、落とし物として届けられててな。 どうやら奪った奴等が途中で落としていったらしい。」
愛刀との思わぬ再会に興奮するベルに、息をするように嘘をつくアルク。本当の事を言うといろいろと面倒なのでそれっぽい理由でごまかしたが、ベルはそれを何の疑いもなく受け入れた。彼の純粋さは美徳ではあるのだが、今回の件もあって少々不安要素でもある。多少なりとも世間の黒い部分を知ってもらうべきかもしれない。その時はある意味その道のプロとも言えるリリにも助力を願おうかとアルクは考えていた。
「ベル。 いろいろあったが、昨日はついに10階層に足を踏み入れたんだよな?」
「…はい。 まだまだ僕の力じゃ厳しい事を実感しました。 でも、辿り着きました。 アルクさんの言っていた、10階層に。」
それは、アルクの予想より遥かに早く訪れた。かつて自らの弱さに涙し強さを求めた冒険者が今、大きく成長し、アルクの目の前に立っている。
「改めて聞きたい。 俺と、パーティを組んでくれないか?」
「はい! 僕で良ければ、よろしくお願いします!」
力一杯お辞儀をするベルにやれやれと苦笑するアルク。パーティを組んでもこれではむず痒くて仕方がない。
「アルクでいい。 敬語もいらねぇよ。 仲間なんだから、もっと気楽にいこうぜ?」
「はいっ、じゃなかった。 …分かった。 これからよろしく、"アルク"。」
どうにもすぐには敬語が抜けきらないベルだが、今はそれでも十分だろう。それより今は、まだやるべき事が残っているのだ。
「それじゃあまずは、"もう1人のメンバー"を誘いに行きますかね。」
「…ぁ。 そうだね、行こう!」
彼等の誘いに、彼女は一体どのような顔をするだろうか。
そんな事を考えながら、アルクは待ちきれないといった様子で駆けて行くベルを追うのだった。
そしてその日オラリオで、人知れず小さな3人のパーティが結成された。
これにて4章終了です。
フェルズに関してですが、公式ではおそらく性別不明だったと思いますが、今作では男性としております。
来週よりまた週1投稿になるかと思いますが、よろしければ引き続きお付き合いください。