その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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ベル達とパーティを組む事になったアルク。
彼の新たな冒険者ライフが始まろうとしていた。


その日の夜はボッチ卒に歓喜し小躍りしたとかしてないとか。


5章:『錬金術師、小さき英雄を見る』
Recipe.22 - 落とし物 + 変身魔法


「パーティを組んだんだね。 うん、私もそれが良いと思う。」

 

ここはミアハ・ファミリアの本拠『青の薬舗』。ベル達とパーティを組む事になったアルクは、主神のミアハやナァーザにそれを話していた。ベルについては良く知る仲であるため納得といった様子。リリに関しては以前サポーターとして雇った際に話をしていたため、少し驚いたようであった。

 

「なるほど。 ヘスティアの言っていたベルと一緒にいた女性というのはそのサポーターの子だったという訳か。」

 

「みたいですね。 今日はベルと一緒に本拠でヘスティア様に会って、自己紹介やらパーティを組むまでの経緯の説明やらするらしいですよ。」

 

「確かにファミリアの異なる冒険者同士でパーティを組むなら、主神には話を通しておくべきかもしれない。 アルクとベルだったら必要ないと思うけど。」

 

リリがヘスティアに会うという話だが、アルクの言う"経緯"にはもちろん先日のヘスティア・ナイフ強奪事件についても含まれている。全てを話したうえでヘスティアにベルとパーティを組む事を許可してもらうのが目的なのだ。

 

(ナイフについては手元に戻ってきた訳だし、ベルも許してるみたいだったから問題ないと思うんだが、あの女神様がベルの傍に女性がいるのを許すかどうか……。)

 

もしかするとヘスティアからお目付け役を頼まれる事になるかもしれない。そう考えると少しばかり気が滅入ってしまうアルクなのだった。

 

「それじゃ、配達行ってきます。 まぁ、量的に昼前には終わるだろうけど。」

 

「いってらっしゃい、アルク。 というか、パーティを組んだのなら店の仕事はもっと減らした方が良いんじゃない?」

 

「その辺はちゃんと話してるから問題ない。 今まで通り仕事も採取もやるさ。」

 

「そう。 分かった。 じゃあ改めて、いってらっしゃい。」

 

「おう!」

 

アルクにとっては薬屋の仕事も大切な日常の一つ。それを(おろそ)かにする気はない。しかしパーティを組んだ以上探索はより先へと進む事になるだろう。そうなれば当然日帰りとはいかない場面も増えるはず。どうやって探索と仕事を両立させようか考えつつ、アルクは配達の仕事に(いそ)しむのであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「ん? ベルじゃねぇか。 1人か?」

 

「あ、アルク。 うん、ちょっとギルドに用事があって。」

 

配達の帰り、アルクが何か食べる物でも買って帰ろうかと思っていると、ベルと出会った。てっきりまだ本拠で話をしていると思っていたが、そうではなかったらしい。

 

「リリはどうしたんだ? 一度別れたのか?」

 

「あ、いや。 それが…。 」

 

ベルの話ではリリは無事ヘスティアに許しを得られたとの事。その後何故かリリとヘスティアでベルを奪い合う事態に発展したようで、2人に挟まれた状況に耐えられなくなったベルは本拠から逃げ出して来たらしい。今日も今日とて脱兎なベル・クラネルであった。

 

「んで? ギルドに用事ってのは?」

 

「実は、あの日の一件で10階層に腕に着けてたプロテクターを落としたらしいんだ。 もしかしたらナイフと同じようにギルドに届いてるんじゃないか、って。」

 

ベルが腕に着けていたナイフを格納できるプロテクター。それは、通常の冒険者以上のスピードで探索範囲を広げるベルにアドバイザーのエイナが個人的にプレゼントした物だった。リリに置き去りにされた10階層での乱戦の中、それを落としてしまったらしい。

 

「あー、…そうだな。 あるかもしれないな。」

 

アルクの歯切れが悪いのはナイフ奪還についてベルに話していないためである。面倒を避けるためにギルドに届けられていた事にしたナイフだったが、それを純粋に信じたベルはプロテクターについても同様の可能性があると考えたのだ。そんな律儀な冒険者が本当にいるだろうかと自らの嘘に罪悪感を覚えたアルクは、ベルに付いて行く事にした。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「残念ながらそのような落し物は届いていないみたいです。」

 

「そうですか…。 分かりました、ありがとうございます。」

 

ギルドにやって来たベルは受付で落とし物について尋ねたが、やはりと言うべきか、ベルのプロテクターは届いていなかった。目に見えて落ち込むベルに罪悪感の膨らむアルク。午後にこっそりと探しに行こうかと考えていると、ギルドの一角で知っている顔が目に入った。彼女もこちらに気付いたらしく、手を振り呼び掛ける。

 

「あ、ベル君。 それにアルク君も。 ちょうど良かった、実はヴァレンシュタイン氏が―――」

 

こちらに気付いて話し掛けるエイナ。それについては問題ない。しかし、彼女と話をしていた女性、アイズ・ヴァレンシュタインについてはそうではなかった。彼女を確認するや否やベルは踵を返しその場から逃げ出そうとする。しかし、

 

「流石にそれはどうかと思うぞ、ベル?」

 

見兼ねたアルクがベルを掴み逃がさない。膝枕についてはアルクとしてもドッキリの意味もあったので強くは言わないが、今回は単に出会っただけだ。それで逃げてしまうのはアイズに対して失礼というものである。

 

「いや、あの、だって!」

 

「だってじゃない。 折角だからこの前の事も説明してきたらどうだ?」

 

"この前の事"と言われて膝枕の時を思い出したのだろう。ベルは赤面しさらにパニックに陥る。そんな事をしていると、2人の上空を何かが通過した。いったい何だとそれを目で追えば、そこにはベルの行く手を阻むようにスタッと着地したアイズがいた。

 

「これで逃げ場はないぞ? ベル。」

 

「う……。」

 

こうしてようやくベルとアイズは言葉を交わす機会を得たのであった。

 

 

 

「で、アイズの用事って何だったんですか?」

 

ギルドの受付近くでアルクはエイナに尋ねた。どうせなのでベルとアイズの2人きりで話をさせようと、2人は少し離れた場所からそれを見守っていた。

 

「ヴァレンシュタイン氏がベル君の落とし物を拾ったらしくてね。 それを自分の手で返したいんだけど、って相談を受けていたの。」

 

「落とし物ってもしかして、エイナさんがベルに送ったっていう?」

 

「うん、私がベル君に…、って何でそれを知ってるの!?」

 

「まさか本当に届いているとは…。」

 

嘘から出た誠、とは少し違うがベルの落とし物は無事アイズという律儀な冒険者によってギルドに届けられたようである。しかもアイズと話せる特典付きで、だ。

 

ただ彼女がそれを拾ったのは完全なる偶然という訳でもないらしい。実はベルが10階層に置き去りとなったその日、ソーマ・ファミリアの持つ性質に危険を感じたエイナはソーマ・ファミリアの団員であるリリとパーティを組んだベルの事を心配し、アイズに彼の事を頼んでいた。エイナの予想通り10階層で危機に陥っていたベルは、アイズの参戦により窮地を救われたのだ。

 

しかし立ち込める霧にアイズの姿を確認出来ず、突然モンスターの姿が消えた事に疑問を感じながらもリリを追い上の階へと進むベル。取り残されてしまったアイズはベルと話す機会を得られず落ち込むが、そこでベルが身に着けていたと思われるプロテクターが落ちている事に気が付いた、という訳だ。

 

そうこうしている内にベルとアイズの話も終わったらしく、アイズと別れたベルがこちらへとやって来た。その顔には満面の笑み。

 

「―――守りたい、この笑顔。」

 

「え、何?」

 

「いや、何でもない。 で、結構話し込んでたみたいだが、何を話してたんだ?」

 

2人きりにしたものの、話の内容についてはやはり気になるアルク。最初の内はベルがヘコへコしていたためお礼や謝罪をしているのだろうと分かったが、途中から別の話をしていたように思える。もしかしたらデートの約束くらいはして来たのかもしれないと少し期待するアルク。憤怒のヘスティアが脳裏に浮かぶが今日はベルを応援したい気分なので仕方がない。

 

「これまで助けてもらったお礼と、それから実は今度アイズさんに戦い方を教えてもらえる事になったんだ!」

 

(色気がないなぁ…。 しかし、…アイズさん、ね。)

 

名前で呼べるようになった事にも驚きだが、『剣姫』直々に戦闘の指南をしてもらえるというのは最早破格と言えるだろう。そもそも他のファミリアの団員から教えを受ける事自体が珍しいのだ。そう考えればベルがアイズの指南を受ける事が如何に規格外なのかが分かる。

 

「いつどこでやるんだ?」

 

「お互いファミリアの事もあるから早朝に、場所は市壁(しへき)の上で、って事になったよ。」

 

「なるほどな。 それなら人目にもつかないな。 あ、でもリリには特訓の事は黙っておいた方がいいかもな。 もちろん、ヘスティア様にも。」

 

「え? なんで?」

 

自分の主神と、共に探索に出る事になるリリには説明が必要だろうと考えていたベルだったが、それにアルクが待ったをかけた。

 

「もし2人が特訓の場に来たらわざわざ人目を忍んだ意味がないだろ? それに、こういう時は裏でこっそり力をつけていざって時にそれを2人に見せつけた方が格好良いってもんだ。」

 

「んー、確かに、…そうかも。」

 

単に2人にバレたらいろいろと厄介だろうというだけなのだが、それは言わない。そんなアルクの本心には気付かず、ベルはその意見に同意したのだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「遅いですね、ベル様。」

 

「そーだなー…。」

 

ベルがアイズとデート、ではなく特訓の約束をしてから数日後、アルクとリリはダンジョン前でベルの到着を待っていた。しかし予定の時間になってもベルの姿はない。彼が遅刻する事は珍しいためリリは心配な様子。

 

(まぁ、理由は何となく分かるんだけどな。)

 

アルクにはベルの遅刻の理由はおそらくアイズとの特訓だろうと予想出来ているため暢気なものである。特訓自体を見に行った訳ではないが、ベルからかなりハードな特訓である事は聞いている。何でも実戦形式でその身に叩き込むタイプなのだとか。第一級冒険者と駆け出し冒険者の間で実戦形式が成り立つのかは定かではないが、ベルはやる気なので問題ないだろう。

 

「どこかで質の悪い冒険者に絡まれていなければ良いのですが…。」

 

「お前がそれを言うのか?」

 

アルクの言葉に「うっ…」と冷や汗を垂らすリリ。その心情を表す様に頭に付いた耳がダラリと垂れている。

 

「にしても、便利な魔法だよな。 変身魔法って。」

 

「はい、この魔法のおかげで窮地を何度も切り抜けましたから。」

 

今現在犬人(シアンスロープ)の姿であるリリだが、実はそれは彼女が身を隠すために魔法を使った仮の姿。本当の彼女は小人族(パルゥム)だ。つまりアルクがリリに初めて会った時の姿は覚え違いではなく確かに小人族(パルゥム)であり、それが彼女の本当の姿だったのである。

 

「ただ、この魔法も万能ではありません。 変身出来ると言っても体格が似通っている必要があります。 つまり、アルク様に変身する事は出来ない、という訳ですね。」

 

小人族であるリリにとっては多少厳しい使用条件ではあるが、それでもその身を偽れるその魔法は十分に稀少魔法(レアマジック)だろう。窃盗等でなんとか生計を立てて来たリリにとって変身魔法は命綱とも言えた。

 

「まぁ何にしてもパーティとしては心強い魔法だって事だ。 いざとなったらアルミラージにでも変身してモンスターを攪乱(かくらん)してくれよ。」

 

「アルミラージでしたら、ベル様の方が適任かもしれませんね。」

 

そうかもなと笑うアルクにつられ、リリも微笑む。変身魔法について考えるうえで過去の事を思い出したのかリリの表情が曇りかけているように感じたアルクだったが、なんとか方向転換は上手くいったらしい。

 

「おーい、リリ! アルク! 遅れてごめん!」

 

そしてようやく最後の1人が到着する。探索前だというのに彼は何故か生い茂る森林でも抜けて来たのかというように擦り傷だらけで息も絶え絶えだった。

 

「どうして最近ベル様はダンジョンに向かう前からあんなに傷だらけなんでしょうか?」

 

「いよいよ本拠が崩れ始めたんじゃないか? 結構ボロかったし。」

 

アイズとの特訓はリリには秘密であるため知らない(てい)で嘘をつくアルク。なんだか最近嘘をつくのが板に付いて来ている気がするが、気にしたら負けだろう。

 

「よっ、ベル。 別にそこまで遅れてないから気にすんなよ。」

 

「うん、ありがとう。 リリも、ごめんね。」

 

「いえ、リリはベル様とご一緒出来るのなら何時までもお待ちします!」

 

「あ、あはは…。」

 

ベルに救われた日から心を入れ替えた、というよりベル一筋なリリは今日も絶好調だ。その勢いに若干引き気味のベルだが、決して拒む様子はない。

 

「ところでベル様? 何でそんなに傷だらけなんですか?」

 

先程アルクに聞いた質問をベル本人に尋ねるリリ。

 

「え、あ、えーっと、…い、犬に追いかけられちゃって。」

 

「……。」

 

アルクは自分がベルに嘘つきの指南をするべきなのだろうかと本気で思うのだった。




この章は週1で、次章は過去偏につき週2での予定です。
過去偏と言っても本編からの導入だと思いますけどね。

5.5じゃなく普通に6章にしても良いのかも?
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