その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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ベルはアイズとの鍛錬を重ねる。
そしてアルクは嘘を重ねる。


ついでに作者は仕事で疲労が重なる……。


Recipe.23 - 焦り + 白巫女

「この辺で白髪のヒューマンを見ませんでしたか!? アルクさん!」

 

「……。」

 

いったいどうしてこうなったのか、アルクは考えていた。元々ベルの特訓の様子を一度見てみようと思って朝早くから街の中を歩いていたのだが、そこで街中を駆け回るレフィーヤに出会った。彼女は何故かとある少年を探しているのだと言う。朝早くに本拠から姿を消したアイズの事を知っているらしい白髪の少年、その人物にアルクは心当たりがある。むしろ心当たりしかない。

 

(下手に誤魔化してもこのままだと行き着くだろうしなぁ…。)

 

ここで知らないと言えばレフィーヤはアイズと白髪の少年――というかベルを再び探し始めるだろう。今日見つからなくとも明日にでもどちらかの後をこっそりと尾行すれば結局見つかってしまう。それならいっそ、とアルクは特訓について話す事にした。最近嘘で誤魔化す事も多かったせいでアルクも少々辟易していたのだ。

 

「見ちゃいないが、今いる場所には見当がついてる。」

 

「本当ですか!? どこですか、どこなんですか!?」

 

アルクの知る彼女はこんなキャラだっただろうか。前のめりに聞いてくるレフィーヤを落ち着かせ、アルクは彼女を伴い特訓の場である市壁へと向かった。

 

 

 

 

 

「あ、…あのヒューマン、なん、なんて羨ま、う、…羨ましい事を!?」

 

動揺し過ぎて本心を上手く言い繕えていないレフィーヤ。そしてアルクは、市壁の影から見えるその光景に既視感を覚えた。いったい何故特訓をしているはずのベルは、アイズに膝枕をされているのだろうか。特訓というのは嘘で、実は早朝デートしてましたとでも言うのだろうか。様子見のために今にも飛び出しそうなレフィーヤをアルクが抑えていると、ベルが目を覚ました。

 

「うわぁーーー! ご、ごめんなさい!」

 

そして状況を把握するや否や飛び起きアイズに平謝り。予想を裏切るその行動にアルクもレフィーヤも、ついでにアイズもポカンとしている。

 

その後の特訓の様子を見て分かったのだが、どうやらベルは単にアイズの膝を借りて寝ていた訳ではなく、特訓中に気絶したためにアイズが膝枕をしてあげていたらしい。彼女のその行動はおそらくベルが精神疲弊(マインドダウン)によりダンジョンで倒れていたのを見つけた際にリヴェリアが吹き込んだ方法を真に受けたためだろう。しかし、

 

―――バキッ

 

「ぐはっ!」

 

―――メキッ

 

「ぶほっ!」

 

あれは特訓として成り立っているのだろうか。実戦形式とは聞いていたが、やはりと言うべきかベルはアイズに手も足も出ず一撃の下気絶させられている。ベルを吹っ飛ばした後のアイズの「あ」という顔から彼女も意図して気絶させている訳ではなさそうだ。しかしベルは、何度も立ち向かい、何度も気絶し、何度も膝まk…何度も起き上がる。

 

「……私だって。」

 

しばらくその様子を見ていたアルクとレフィーヤだったが、レフィーヤは特訓中の2人に背を向け市壁を後にする。出会った時の勢いからてっきり特訓に割り込むのではないかと思っていたアルクだったが、彼女は彼女で思うところがあったようだ。

 

「頑張れ、ベル。」

 

2人の邪魔をしてはいけないとアルクもその場から立ち去る。最後にふと振り返り、決して聞こえない声援を送ると、そこにはアイズの膝枕に気絶しながらもニヤけ顔のベルがいた。

 

「―――殴りたい、あの笑顔。」

 

ちょっとイラっとした。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「レベル……6…。」

 

ギルドに張り出された紙面により告げられたのは『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインのランクアップだった。多くの冒険者達がその情報に沸く中、ベル・クラネルはただ茫然としていた。

 

(大丈夫だ、焦るな、お前ならきっと…。 ダメだな、どの言葉も安っぽいわ。)

 

その姿を隣で窺うアルクはベルにかける言葉を探していた。しかし、彼の内心を理解出来るからこそそれがどうしても言葉にならない。それだけではない。ベルにかけた言葉が、そのまま自分に返って来そうな気がして仕方がないのだ。

 

「そろそろ行こう、アルク、リリ。」

 

アルクが迷う中、ベルはただ黙ってダンジョンへと向かう。リリがそれを慌てて追い、アルクものんびりと、その後を着いて行くのだった。

 

 

 

探索は順調に進んでいた。レベル2のアルクもいるため11階層までやって来た3人は、天然の武器庫(ランドフォーム)によりダンジョンのあらゆるものを武器とするモンスター達にも後れを取ることなく戦闘を繰り広げている。

 

「うし、今日はこんなもんか? ベルもかなりこの地形に慣れて来たみたいだな。」

 

「流石ベル様です! 先程インプの群れを相手にした時の立ち回りは素晴らしかったです!」

 

アルクとリリの言葉にベルは無反応。どうしたのかとアルクが尋ねようとした時、ベルはその口を開いた。

 

「そろそろ、中層に行っても良いんじゃないかな?」

 

「え、ち、中層ですか!?」

 

ベルの唐突な提案にリリは驚き慌てる。しかしアルクはそれに動じる事なく黙ったままだ。

 

「うん。 今パーティにはレベル2のアルクがいるから中層への進出は許可してもらえるはずだよ。 だから「ダメだ。」――っ!?」

 

ベルの言葉を遮るようにアルクはそれを却下した。

 

「どうして? アルクは何度も中層に潜った事があるんだよね? だったら…。」

 

「残念ながら俺もそこまで中層には行った事はない。 薬草採取も上層でやってたからな。 それに上層と中層じゃ難度はまるで違うんだ。 そのための知識や準備も必要になる。」

 

アルクの言い分に反論も出来ず項垂(うなだ)れるベル。当然ながらアルクもベルのやる気を邪魔したい訳ではない。一般論としての理由以外にも、彼には無視出来ない理由があるのだ。

 

「それに、焦って先に進んだって、何も良い事はないんだぜ?」

 

「―――っ!」

 

アルクの言葉にベルの肩がビクンと跳ねる。そう、ベルは焦っているのだ。自らが追い付きたいと願うアイズが次のステージへと進んでしまった。彼女よりもずっと早く強くならなければいけないのに、その距離はどんどん離れてしまう。

 

(強くなりたいなら、いや、強くなりたいからこそ焦っちゃダメなんだ。 ベルやリリに、俺のような目に遭わせる訳にはいかない…。)

 

しかし、かつて中層の脅威に直面した冒険者がそこにいた。

 

「間違いなくお前は強くなってる。 俺よりも、そしてあの『剣姫』よりも早く。 だから、一歩一歩しっかり進めば良い。 無茶して格好悪いところは見られたくないだろ?」

 

「あ…。」

 

――「やらなくて良い無茶をする時は大抵格好悪いんだよ。」

 

それは、ベルがアルクと初めて会った時に聞いた言葉。その時彼は言っていた。

 

――「避けられない冒険ってのは絶対にあるんだ。 その時にはきっとベルも、強く、そして格好良くなれるさ。」

 

「今はいずれ来る冒険に備えときな。 特訓だってその一環さ。」

 

「…うんっ!」

 

アルクの言いたい事はベルに伝わったらしい。ベルの表情は焦りの色が薄れ、以前ヘスティアの前で決意を告げた時と同じような顔になっていた。

 

「特訓…?」

 

「え!? あぁ、たまーにベルとな。 組手やってんだよ、組手!」

 

アイズとの特訓を知らないリリがいた事に気付き慌てて誤魔化すアルク。彼は今日も嘘を重ねてしまうのだった。

 

 

 

 

 

「そうね。 それで良いのよベル。 あなたには中層に進む前に試練を受けてもらわなくてはならないのだから。」

 

ダンジョンに蓋をするようにそびえる白亜の塔バベルの遥か上空。オラリオの誰より高い位置に鎮座する美の神フレイヤは、ダンジョン探索から帰還するあるパーティを、いや正確には、その内の1人の少年を見ていた。

 

「オッタル。 準備の方は進んでいるかしら?」

 

「はっ。 (つつが)無く進んでおります。」

 

彼女の傍らに控えるのはオラリオにおいて唯一のレベル7である猪人(ボアズ)、オッタル。頂点と言われる彼に与えられた二つ名は、『猛者(おうじゃ)』だ。

 

「それにしても、彼女にも少し忠告が必要かもしれないわね。 ベルの心を掻き乱すあの娘。 …アレン、いるかしら?」

 

「はっ! ここに。」

 

「ガリバー兄弟を呼んで来てくれるかしら。 あなたと彼等に少し頼みたい事があるの。」

 

「分かりました。」

 

そう言うと次の瞬間にはアレンと呼ばれた男は既にそこにはいなかった。そんなやり取りの間にもフレイヤはずっと、1人の少年を微笑み見つめているのだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「…なんでこうなった?」

 

「…私に聞くな。」

 

翌日アルクはその日も特訓らしいベルの成長を見に市壁へと向かおうとしていた。しかし、その途中で彼は再びレフィーヤに呼び止められてしまった。今度はいったい何だろうと彼女の元に向かえば、そこにはレフィーヤの他に白い服に身を包んだ黒髪のエルフがいた。彼女は何故かアルクと目を合わせようとはしない。

 

「あ、あの、この方はアルクさんでですね、錬金術を使える冒険者さんなんです。 ポーションが作れて私もお世話になったんですけど、あ、アルクさんは"マズポのアルク"と呼ばれていて―――」

 

アルクの残念なプロフィールを矢継ぎ早に語るレフィーヤ。彼女の目的は分からないが、アルクとしてはやめていただきたい限りである。

 

「本当になんでこうなったんだ…。」

 

「だから私に聞くなと言っている。」

 

とは言えレフィーヤは依然としてアルクの紹介に忙しい様子。アルクが説明を求められるのはそこにいる黒髪のエルフだけなのだ。

 

「まぁ…、おそらくは私のためなのだろうな…。」

 

「え?」

 

「……死妖精(バンシー)と呼ばれる存在を、知っているか?」

 

「いや、知らない。」

 

「パーティを組んだ者が(ことごと)く全滅する冒険者。 それが不幸を呼ぶ死妖精(バンシー)と呼ばれる存在であり、私なのだ。」

 

「違います!」

 

黒髪のエルフの発言を、それまでアルクについてあれやこれやと語っていたレフィーヤが力強く否定した。

 

「フィルヴィスさんはそんな人じゃありません! 死妖精(バンシー)なんて、勝手に周りがそう呼んでいるだけじゃないですか! それに、フィルヴィスさんには白巫女(マイナデス)っていう素晴らしい二つ名がちゃんとあります!」

 

「分かった。 分かったから落ち着け、ウィリディス。 別に誰がどう呼ぼうと私は構わない。 お前がそう言ってくれるだけで私は嬉しい。」

 

「…フィルヴィスさん…。」

 

(え、何? もう行って良いのか?)

 

妙な雰囲気になりつつあるその場から早く逃げ出したくなって来たアルク。しかし、それを知る由もないレフィーヤは次に黒髪のエルフの紹介を始めた。

 

「彼女はフィルヴィス・シャリアさん。 ディオニュソス・ファミリア所属の冒険者です。」

 

「デュオニュショス……ファミリア?」

 

()()()()()()()・ファミリアだ。」

 

言い難いのだから仕方がない。アルクの言い間違いは即座にフィルヴィスが訂正した。

 

「にしても残念だな。 折角"不名誉な二つ名"仲間が出来たと思ったんだが。」

 

「不名誉な二つ名?」

 

「レフィーヤの紹介に入ってたんだけどな。 俺の二つ名は災禍の薬箱って書いて災禍の薬箱(パンドラ)だ。 どうだ、不名誉だろ?」

 

開き直ったかのように自慢気に語るアルクにフィルヴィスは微かに目を見開く。そしてほんの少しではあるが、その顔を綻ばせた。

 

「フッ…、それは確かに、不名誉だな。」

 

「っ! ですよねですよね! 私も本当にそう思います!」

 

フィルヴィスが笑った事でテンションが上がって来たレフィーヤは彼女の意見に全面的に肯定を示す。そこまで言わんでもというアルクの心情などやはり知る由もない。

 

「ロキ・ファミリアのレフィーヤとディオニソス「ディオニュソスだ」…ディオニュソス・ファミリアのフィルヴィスさんが何でまた一緒に? 同郷のエルフとか?」

 

「いえ、先日フィルヴィスさんとは任務でご一緒させてもらったんです。」

 

「ウィリディス、その話は―――」

 

「大丈夫です。 アルクさんも食人花の事件に既に2度も巻き込まれていますから。」

 

「何? …お前、レベルは?」

 

「2です。」

 

「…良く生き残る事が出来たな。」

 

「俺もそう思います。 ほんとに。」

 

そしてアルクはレフィーヤから、24階層の食糧庫(パントリー)で起こった出来事を聞いた。食人花や、それを操るその身に極彩色の魔石を埋め込んだ怪人(クリーチャー)と呼ばれる存在。やはり何かが起こり始めているのは間違いないらしい。しかし、それよりもアルクには聞き逃す事の出来ない名前がそこには含まれていた。

 

「死を恐れず自爆覚悟で向かって来た眷属から、もしかしたらこの一件にはタナトス・ファミリアが関わっているんじゃないか、って。」

 

「タナトス・ファミリア、…か。」

 

 

 

 

―――「オラリオに戻んぞ! タナトス様が新しいアジトで待ってる!」

 

 

 

 

それは、今も恩師の仇が身を置いているかもしれないファミリアの名であった。




今回は外伝との擦り合わせな感じですね。
次回は少し原作改変して遊んじゃいます。



これより年始まではかなり多忙となります。
多少ストックはありますが確認しつつ投稿出来るか微妙です。
週1ペースは保ちたいと思っていますので次もまたお付き合いください。
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