その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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ベルがアイズとの特訓に励む中、アルクはと黒髪のエルフ、フィルヴィスと出会う。
彼女はパーティを組んだ冒険者が悉く命を落とす事から死妖精(バンシー)と呼ばれていた。


ちなみに彼女の所属はデュオニュ「ディオニュソス・ファミリアだ」…あ、はい。


Recipe.24 - 強襲 + とある受難

食人花に関する話を一通り聞いたアルク。

その話に思うところはあるが、現時点では何も出来ない。その一件で犠牲となった冒険者達の事を思い出したのかレフィーヤの表情に陰りが見えたため、話題を変える事にした。

 

「それで、今日は2人揃って何を?」

 

「え、…あ、実はフィルヴィスさんから"並行詠唱"について教えてもらおうと思いまして。」

 

「並行詠唱、ねぇ。」

 

本来魔術師はその場で詠唱を行い魔法を行使するが、その詠唱を戦闘中に敵の攻撃を掻い潜り、避けながら行うのが並行詠唱である。それを会得すれば多くの魔術師にとってネックとなる詠唱中の敵の攻撃への対処が可能になる。しかし詠唱しながらの行動は簡単ではない。短文詠唱であれば難易度は高くないが、レフィーヤは魔力特化の魔術師。魔法の威力に伴いその詠唱もかなり長い。

 

「俺はあまり関係ないなぁ。 前提魔法は必要だが、そもそも戦闘中には向かねえし。」

 

アルクの魔法『錬金混成(アルケミクサ)』はその行使のために『結合(コネクト)』という前提魔法を必要とする。戦闘中に使うのであれば、手にした魔石や血晶に意識を集中させるなどの行程があるため攻撃を受ける危険性はあるだろう。

 

しかしそもそもアルクの魔法は薬の錬成である。つまり、行使するのは戦闘中というよりもその前準備の段階となるのだ。18階層での戦いではイチかバチかで戦闘中に使ったが、基本的には事前に錬成した薬を戦闘中に使うのがアルクのスタイルなのである。

 

「そういえば、ベルの魔法も詠唱してなかったなぁ。」

 

「―――っ。」

 

何の気なしのアルクの呟きに、レフィーヤの長い耳がピクリと動く。

 

「私は必ず"並行詠唱"を出来るようになってみせます! 行きましょう、フィルヴィスさん!」

 

「ん、あぁ。 それは良いが、…どうしたんだウィリディス?」

 

何故か急にやる気を見せるレフィーヤに首をかしげるフィルヴィス。アルクにとってもそれは同じだった。

 

「アルクさん、あのヒューマンに伝えてください。 "私はあなたには絶対負けない"と!」

 

「え? ヒューマンって…ベルの事か? まぁそれは構わないが。」

 

アルクに伝言を頼んだレフィーヤは「それでは」とダンジョンへ向かう。流れに着いて行けず呆けていたフィルヴィスも「ではな」と先を行く彼女を追って行った。

 

「……ま、いいか。 伝言も出来た事だしさっさと向かおう。」

 

アルクは気を取り直し、市壁へと向かった。

 

 

 

 

 

「結構様になってきたな。 この調子なら終わるまでに一撃入れられるんじゃないか?」

 

「いや、流石にそれは。 今日だってほとんど気絶しちゃってたし。」

 

「私も、ベルの戦い方は良くなってると思うよ。」

 

「え! あの、その、…ありがとうございます。」

 

「なーに顔を赤くしてるんだい、ベル君!」

 

日が沈む頃、特訓を終えたベルは本拠へ帰るところだった。そこにはアイズはもちろんアルクと、何故かヘスティアまでいる。どうやらアイズとの特訓はヘスティアにバレてしまったらしく、ロキ・ファミリアの遠征までならと許可をもらったらしい。

 

ちなみにだが、ベルが気絶をしている間、折角なのでとアルクもアイズに手合わせをしてもらっている。ベルの特訓を見ていたので覚悟はしていたが、やはりというか、アルクも一撃でノックアウトとなった。なんとか気絶こそ免れたものの、そこから反撃に移る事は出来なかった。

 

ほんの数回それを繰り返しただけでは得られるものはなく、ただ自分に被虐趣味がない事を理解したアルクだった。何度も気絶しながらも諦めず立ち向かうベルには素直に賞賛だ。

 

少し賑やかなその一団が路地を進んでいる時だった。目の前に、スッと1人の男が現れる。急に眩しくなりアルクが目を細めると、男が顔に着けた黒いバイザーに日が反射しているのが分かった。

 

――キンッ 「え―――」

 

それは、一瞬だった。

金属音の後にベルの目に映ったのは、剣を構えたアイズだった。ベルも、そしてヘスティアやアルクも何が起こったのか理解出来ない。

 

「チッ。」

 

しかし何が起こったのかを物語るようにバイザーの男はその手に槍を構えている。ベルを狙った彼の一撃をアイズが弾いた。それが分かるのに時間はかからなかった。突然の襲撃に戸惑うアルクだったが、ふと足元に影が差している事に気付く。

 

「上だ!」

 

言うが早いか両腕にベルとヘスティアを抱え地を蹴るアルク。次の瞬間、3人のいた場所に4つの人影が落下した。

 

「子供…いや、小人族(パルゥム)か!」

 

現れた4人の小人族(パルゥム)はそれぞれ剣、斧、槍、槌を手にしていた。一糸乱れぬ動きで地面を抉った彼等は更なる追撃を狙う。

 

炎金の四戦士(ブリンガル)…。 じゃあ、あなたはまさか…女神の戦車(ヴァナ・フレイア)!」

 

「……。」

 

バイザーの男は答えない。無言で突き出された槍を、アイズは剣で受け止めた。

 

「これ以上余計な真似はするな。 さもなければ、――殺す。」

 

「余計な…真似?」

 

敵意ではなく明確な殺意をぶつける男。彼の言っている意味が一体何であるのかアイズには理解する事が出来ない。

 

「大人しくダンジョンに潜ってろって事だ。 "人形姫"。」

 

 

 

(こいつ等は間違いなく俺より格上。 しかも4人ってのはズルくないか!?)

 

一方アルク達は4人の襲撃者を前に打つ手を失っていた。ただでさえ自分よりも強いと思われる冒険者が、数までも勝っている状況。完全に詰みだ。

 

(それにしても、女神の戦車(ヴァナ・フレイア)…。 何処かで聞いた気がするんだが…。)

 

アイズの言葉に何か引っかかりを覚えたアルク。すると、4人の小人族(パルゥム)の向こう。アイズと対峙するバイザーの男が猫人(キャットピープル)である事に気付く。

 

猫人(キャットピープル)、バイザー……あ。)

 

その時、アルクの中で何かがつながった。何故か小人族(パルゥム)達にすぐに仕掛けて来る様子はない。アルクは意を決してバイザーの男へ言葉を投げ掛ける。

 

「知ってるぜあんた。 そのバイザー、間違いねぇ!」

 

「一体何だ?」

 

意に介していなかったアルクの呼び掛けに反応したバイザーの男だったが、興味はないとばかりにすぐにアイズに向き直る。ただし、次の瞬間彼の予想外の()()が放たれる。

 

「あんたのバイザー、実は主神の顔をまともに見れな――「やめろーーー!!」」

 

寡黙と思われたバイザーの男は急に慌ててアルクの言葉を遮る。その行動に、対峙するアイズはもちろん、ベル、ヘスティア、さらには仲間と思われる小人族(パルゥム)達までポカンとしている。

 

「お前、それを一体何処で!」

 

「まだあるぜ? 駆け出しの頃に速さを自慢しようとしたら段差に躓いてあろうことか主神の胸に突っ込んだとか。」

 

「な、――な―――。」

 

「あと実は××歳まで妹と一緒にお風呂に入っ―――」

 

「アァーーニャァーーーー!!」

 

情報の出所を悟ったバイザーの男、アレン・フローメルの絶叫が木霊した。

 

 

 

 

「にゃっくしゅ!」

 

「うわっ、料理が!?」

 

「にゃ!? ご、ごめんにゃさいにゃ!?」

 

「何やってんだいアーニャ! 風邪ならとっとと上がって暖かくして寝な!!」

 

ちょうどその頃、『豊穣の女主人』ではいつものようにアーニャ・()()()()()が怒られていた。

 

 

 

 

「コイツ!」

 

予想外にアレンの動揺を誘ったアルク。その行動に彼が任務の障害になると判断した小人族(パルゥム)達が襲い掛かる。しかしその攻撃は、アルクに届かない。

 

―――キンッ ―キンッ ―キキンッ

 

4つの攻撃を全て弾き返したアイズ。アレンが隙を見せた事で彼女はアルク達の元へ駆け付ける事が出来た。

 

「この野郎……予定外だがてめぇはここで「【ファイア・ボルト】!」 ――くっ!」

 

動揺を抑え今度はアルクに牙を剥くアレンにベルの魔法が放たれる。しかし、その一撃は多少の不意こそついたものの、難なく槍に弾かれる。

 

「人が集まって来たか…。 少し騒ぎを大きくし過ぎたらしいな。」

 

一番騒いでいたのはお前だろう、とは誰も言わない。思っていても、言わない。

 

「今日は引いておく。 だが、忠告は忘れるなよ。」

 

その言葉を最後に襲撃者達は姿を消した。残されたアルク達は戦闘の痕から犯人扱いされる事を危惧し、すぐにその場から離れて行った。

 

 

 

「無詠唱の魔法か…。 フレイヤ様にお伝えせねばな。」

 

任務を終え、本拠へと戻るアレン達。アイズへの忠告とベルの成長の確認という目的は果たしているため、敬愛する主神にもきっと満足してもらえるだろう。

 

「フレイヤ様の胸に突っ込んだという話、後でじっくり聞かせてもらうぞ。」

 

「……。」

 

彼の受難は終わらない。

 

 

 

 

「何だったんだろうな、さっきの奴等。」

 

「襲われたのは多分、私のせい。 彼等はロキ・ファミリア(私達)と敵対関係にあるから…。」

 

「にしたって物騒過ぎやしないかい? 街の中で襲って来るなんてさ。 もしベル君が巻き込まれてケガでもしてたらどうするつもりなんだ!」

 

「ま、まぁ皆無事だったんですし、良かったじゃないですか、神様。」

 

路地から抜け出したアルク達は、先程の襲撃について話していた。

敵対派閥であるアイズに対する襲撃という結論になり、ベル達を巻き込んだ事を申し訳なく思うアイズと、ベルが危険に晒された事に憤慨するヘスティア、そしてそれを(なだ)めるベルと、多種多様である。そしてアルクはというと、

 

(んー、………今日の飯は何かね?)

 

特訓に参加した事でいつにも増して空腹を感じたのか、夕食について考えていた。

 

 

 

 

「そう、彼がそんな魔法を、ね。」

 

さらに場所は変わりフレイヤ・ファミリアの本拠。アレンから報告を受けたフレイヤは、満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「その魔法を彼が試練の中でどう使うのか、見物ね。 試練については任せたわよ、オッタル。」

 

「はっ。」

 

「ところでアレン。 あなた、どうしてそんなにボロボロなのかしら?」

 

主神の指摘にアレンの肩がビクリと跳ねる。彼の傷は嫉妬に駆られた4人の小人族(パルゥム)達によるものなのだが、その情けない事実を敬愛する神に話す訳にもいかない。「なんでもありません」という苦しい言い逃れに、フレイヤは「そう」と呟いた。

 

「今日はもう休む事にするわ。 ふふっ、試練の日が楽しみね。」

 

そう言うとフレイヤは寝室へと消えて行った。その場に残されたのは、オッタルとアレンのみ。

 

―――ポンッ

 

すると、アレンの肩に手が置かれた。誰の手かは考えるまでもない。アレンの横にはガッシリとした体格のオラリオ最強の冒険者が佇んでいる。

 

「な、何か……用か?」

 

「ガリバー兄弟から聞いた。 フレイヤ様に、不埒な行いをしたそうだな。」

 

「……。」

 

まだ冒険者としては未熟な若かりし頃に背負ったその罪に、時効は存在しないらしい。彼の受難は、まだ終わってはいなかった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

約1週間のアイズによるベルの特訓が終わった次の日。アルク達はダンジョン探索へと来ていた。特訓の甲斐もあってか以前よりもスムーズに進んでいる。とはいえまだそこは上層。特訓の成果が本当に発揮されるのはやはり10階層以降となるだろう。

 

「今日は何だが静かだね。」

 

「そうですね。 他の冒険者も全然見当たりませんし。」

 

いつもならば他の冒険者と擦れ違ったり戦闘音が聞こえてきたりもするのだが、その日は何故か何も聞こえない。地上で怪物祭のような催しがあるとは聞いていないため、その奇妙な状況に3人は首をかしげる。

 

―――ガリリッ ガリリッ

 

「――っ!」

 

そんな静寂の中で聞こえて来たのは、何かを引き摺るような音。地面、あるいは壁面に金属のような硬いものを擦り付けるような、そんな音。

 

「……そ、そんな。」

 

「なんで…。」

 

音はアルク達の元へと迷った様子もなく近づいて来た。まるで、彼等を探していたのだと言わんばかりに。そして、獲物を見つけたそれは、引き摺って来た大剣を振り上げ咆哮を上げる。

 

〈ブォーーー!〉

 

「なんでこんなところに、ミノタウロスが!?」

 

それは、一方の角を失いその体は血に濡れたように赤く染まる、アルクも見た事の無い姿となったミノタウロスであった。

 

「なんで大剣なんて担いでんだよ。 あの色といい、もしかして他の冒険者から魔石や武器を奪ったってのか? 異常事態(イレギュラー)が過ぎるだろ!」

 

以前アルクが上層で戦ったミノタウロスも魔石により強化されていた。しかし、そのミノタウロスは今目の前にいる赤い猛牛とは違い通常種と変わらぬ茶色い毛並みであった。アルクの戦った猛牛が強化種に至っていなかったため毛色も変わらなかったとするならば、今にもこちらへ襲い掛かって来そうなその猛牛は…。

 

「固まったままだとマズい! 二手に分かれるぞ。 ベルとリリは右に!」

 

「分かった!」「はいっ!」

 

相手が1体であるのならば、挟み込みは有効な一手だ。しかし相手が相手だ。ベルとリリの方が標的となるのは避けるべきだろう。アルクは自分へと注目を向けさせるために赤い猛牛へと駆ける。

 

しかし、その時アルクの体が弾けるように猛牛から離れていく。

 

アルクはそのまま宙を舞い、地を転がる。ベル達のいる部屋から退場させられるまで転がって行った彼が起き上がると、驚くべき光景が広がっていた。

 

「な、…天井が…。」

 

天井が崩れ、アルクが転がって来た道を塞いでいく。岩はあっと言う間に部屋への侵入を拒む壁へと変わってしまった。何故そうなったのかは分からない。しかし、それが最悪の状況を意味しているのだけはすぐに分かった。

 

「おい…ベル達はまだあのミノタウロスと同じ部屋ん中だぞ!? 何だってんだよ!」

 

すぐに壁の破壊を試みるアルクだったが、ホルスターに爆薬の在庫がない事に気付く。別の道からのアプローチの方が早いと判断し、道を進もうするが、そこには1人の男がいた。

 

「よぉ、また会ったな。」

 

口元に微かに笑みを浮かべる男の黒いバイザーが、怪しく光る。




戦車達の襲撃は書く予定はなかったのですが、その後の展開に使えると思い入れ込みました。…いろいろといじって。


予定外の出張が入り来週の投稿が出来そうにありません。
週1で、と言った矢先にすみませんが、年末年始もあり2週程間が空くかと思います。

章末まで行けず半端なところではありますが、ご了承ください。
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